IPEの果樹園2018

今週のReview

6/4-9

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米朝会談のキャンセル ・・・エルドアンと金融市場 ・・・イタリア連立政権の模索 ・・・トランプ対アマゾン ・・・インド民主主義の浸食 ・・・中規模国家の同盟 ・・・国際政治におけるドルとユーロ ・・・世界を統治する ・・・マッドマン・セオリー

[長いReview

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


● 米朝会談のキャンセル

NYT May 24, 2018

How Trump Got Outplayed on North Korea

By Lindsey Ford

The Guardian, Fri 25 May 2018

The North Korea summit farce makes it clear again: Trump is dangerous

Simon Tisdall

これはトランプの尊大さ、傲慢さの表れだ。米朝会談を無期限に延期して、朝鮮半島の平和を実現する絶好の機会を失い、アジア太平洋地域に新しい不安の時代をもたらす。同盟諸国の意見を聞かず、核戦争の危機を煽る。

トランプは、ボリス・ジョンソンにおだてられ、ノーベル平和賞を楽しみにしていた。

要するに、トランプは実現できる以上の望みを抱いて、その非現実的な要求にキムが噛みつくと、怖気づいたのだ。

金正恩、ムン・ジェイン、そして中国も、安全保障・外交関係を、「ゲーム」感覚のトランプと交渉することの危険を再認識した。特に、核兵器について、このナルシストの素人と話し合うのはきわめて危険である。

イスラエルとパレスチナの和平を、数十人のパレスチナ人の命を、大統領は自分のエゴにために犠牲にした。ロシアには相変わらず融和姿勢を取り、イラン核合意を一方的に拒否し、中東では新しい戦争が迫っている。

これは指導力ではない。日替わりの、人為的な、カオスの仮面舞踏会である。「アメリカ・ファースト」ではなく、「アメリカ・フーリッシュ」である。

PS May 25, 2018

What Sank the Kim-Trump Summit?

RAMESH THAKUR

FT May 26, 2018

Putting off the US-Korea summit has its virtues

PS May 26, 2018

Trump Cancels, China Wins

BILL EMMOTT

トランプ大統領は、612日に計画されていた金正恩との首脳会談を突然キャンセルした。東アジアにおける戦略的アクターの中で、アメリカの地位は低下した。特に、中国に比べて。

この数か月における金正恩の地位の改善はめざましい。国際的な孤立から脱して、平和の推進者になった。

もちろん、東アジアのだれもキムの変身を信用していない。彼はなおも野蛮な独裁者である。しかし、近隣諸国のすべて、日本、韓国、中国、ロシアが、キムの外交戦略を、トランプよりも予測可能なもの、信頼できるものとさえ、考えている。

キムが本気で「非核化」を交渉するのか、核抑止力を得るための開発の努力と時間を考えれば、疑うのは当然だ。しかし、軍事的緊張を鎮静化し、おそらくは、平和条約や地域の枠組みを構築することが、好ましい展開であるのは当然だ。特に、韓国人と中国人にとって。

アメリカの交渉姿勢は異なる。トランプ政権は、北朝鮮の核兵器と軍事力を完全かつ検証可能な形で解体するよう求めた。それは全く現実的ではない。さらに悪いことに、トランプがイラン核合意を離脱し、ボルトンやペンス副大統領がカダフィのリビアを非核化のモデルとしたことは、アメリカの信用を破壊した。

問題は、サミットなしに、アメリカが北朝鮮の非核化、さらには体制転換をするのか、ということだが、それは地域の戦略的な同盟諸国の反応を観る必要がある。日本と韓国は、トランプの衝動的な決定に打ちのめされ、排除され、無視されたと感じている。特に日本は、北朝鮮よりアメリカの行動を恐れているだろう。日本がトランプの鉄鋼関税を免れることもない。

トランプのキャンセルを、北朝鮮は対話の継続として対応している。重要な点は中国の姿勢だ。昨年、中国はアメリカに協力して北朝鮮への経済圧力を強めた。それは地域の安定性を確保するためであった。最近、キムは2度も北京を訪問した。トランプとの首脳会談を前に、習の支援を求めて服従したのだ。

トランプは中国に好条件をプレゼントした。米中貿易紛争の材料として北朝鮮を利用できる。また、キムには北朝鮮が中国に大きく依存していることを確認できる。また、EUや日本はアメリカとの貿易紛争を抱えている。

米朝首脳会談がどうなるにせよ、軍事衝突がなければ、中国の勝利である。今や、アメリカではなく、中国こそが地域の平和と安定性を保証していることは明白なのだから。トランプの言動で、アメリカの影響力は失われ、中国の戦略的優位が高まった。

FT May 28, 2018

Donald Trump strains the art of the deal

YaleGlobal, Tuesday, May 29, 2018

Too Late for North Korea Denuclearization

Louis René Beres

FP MAY 29, 2018

Security Brief: North Korea Diplomacy Kicks Into High Gear

BY ELIAS GROLL

NYT May 30, 2018

A Worldwide Scramble to Pull Off a Trump and Kim Summit

By Motoko Rich

FP MAY 30, 2018

Kim Won’t Be Duped Like Qaddafi

BY DOUG BANDOW

注目を集めている米朝首脳会談は不透明さを増した。招待を受け入れ、キャンセルし、再び受け入れた。文書とTwitterが飛び交っている。

再び威嚇や挑発が繰り返され、軍事衝突が起きたら、その責めはトランプ政権が負うことになる。特に、ホワイトカラーの「リビア・モデル」発言が北朝鮮側を憤慨させたからだ。その言葉を、ピョンヤンは明らかな脅迫とみなした。

ボルトンは、妥協を知らない強硬派であり、2003年、リビア・モデルに言及した。トランプ大統領はこれを否定したものの、体制転換や戦争への言及を止めなかった。しかし、こうした言及は無意味である。北朝鮮の軍備はリビアよりはるかに複雑で、核武装も完了している。また、ミサイルの射程内にソウルがある、という条件をリビアは持たなかった。

ボルトンやペンスは、その破壊的な影響をわざと利用した。北朝鮮の関係者はリビアのケースを非常に心配している。むしろ、リビアはキムが核武装をしなければならない根拠となっている。

ワシントンがイラン核合意を離脱したことも、北朝鮮に対する外交的な不信感を強めた。たとえば、2015年、当時の国務副長官は、イラン核合意が北朝鮮に再考を促すだろう、と言及したのだ。米朝の2国間合意であれば、アメリカはさらに容易に離脱できるだろう。

トランプは北朝鮮を、アメリカより、外交の好ましい相手にした。容易にアメリカが軍事攻撃する対象にできなくなった。韓国人はアメリカの破壊的で、危険な性格を思い知った。北京は、生来のアメリカの提示する条件を信用しなくなるだろう。トランプの言葉が損なうのはアメリカの利益だ。

FP MAY 31, 2018

North Korean Facing Pompeo Is a Master Spy Who Helped Groom Kim, Then Survived His Purges

BY ROBBIE GRAMER


● エルドアンと金融市場

NYT May 24, 2018

Turmoil for Turkey’s Trump

By Paul Krugman

FP MAY 25, 2018

Erdogan Is Failing Economics 101

BY BORZOU DARAGAHI

トルコのエルドアン大統領は、素晴らしい昼食を提供し、ロンドンの銀行家やファンド・マネージャーに対して、安定性や返済能力に関して何も心配することはない、と保証した。トルコの中央銀行は、最近、金利を引き上げたばかりであった。

しかし、投資家たちやBloombergのインタビューに応じる中で、エルドアンは金利を非難し、中央銀行の独立性も疑った。もし624日の選挙で勝利すれば、彼は経済の統制をもっと強める、と主張した。

市場は彼に同情を示さなかった。10日以内に、トルコ・リラは最安値を付けた。エルドアンの言葉は、神経質になっている投資家たちの気持ちに大きなマイナス要因となった。

新興市場に流れ込んできた資本の熱気は失われてしまった。エルドアンとその公正発展党AKPは、2000年に入った頃の経済危機後に権力を握った。それ以来、トルコは大幅に成長してきた。そこには経済を管理する多くのテクノクラートたちがいた。

しかし、近年、エルドアンはこうしたテクノクラートを追放した。この5年間で、リラの価値は60%が失われた。今年だけで、ドルに対して20%も下落した。対外債務は4530億ドルに膨張している。昨年の経常収支赤字は、前年の326億ドルから、471億ドルに増加した。インフレが高まっている。

そんな中で、エルドアンは繰り返した。「金利はすべての邪悪さを生み出す源である。」 高金利がインフレを起こしている、と彼は信じている。それはイスラム教やキリスト教に内在する金利への敵意である。

さらに、エルドアンが中央銀行総裁に示す、あからさまな反対意見が、投資家たちを不安にする。トルコの経済問題の背後には、常に、外国人たちがいる、というエルドアンは、警察や国家の強化を唱える。金融ビジネスは腐敗している、と確信し、反西側、反ユダヤの、陰謀論に染まっている。

FT May 26, 2018

Recep Tayyip Erdogan: Turkey’s strongman grapples with the markets

Laura Pitel in Ankara


● アイルランド

FP MAY 24, 2018

Ireland’s Nasty No Campaign

BY SUSAN MCKAY


● イタリア連立政権

FP MAY 24, 2018

Italy Needed a Government. It Got a Circus.

BY AARON ROBERTSON

SPIEGEL ONLINE 05/25/2018

Will Populists Stall Europe?

Italy's New Goverment Is Bad News for the Euro

By DER SPIEGEL Staff

2つのポピュリスト政党が、たっぷり支出することにだけ合意して、連立政権を成立させるかもしれない。それはユーロ圏にとって悪いニュースだ。

この政権は、この70年間で67番目の政府であり、その中でも最も異常な、経験を持たない政府である。両党はともにEUを嫌い、ロシアに友好的であるが、政策目標において、ほとんど共通するものがなく、互いに憎しみ合っている。Matteo Salviniが率いるLegaは北部の富裕層に支持され、Luigi Di Maioが指導するM5Sthe Five Star Movement)は南部の貧困層に支持されている。

イタリアの政府債務は23000億ユーロ、GDP比で132%に達する。イタリアは今もまだ金融危機の後遺症に苦しみ、特に、若者の高失業率、同時に、地中海を越えてイタリアに来る移民たちへの対処にも苦しんでいる。

2人の指導者Salvini and Di Maioは大きく異なる政策綱領を掲げて、そこには減税、ベーシックインカム、年金改革の逆転、が含まれる。ある推計では、これらの結果、少なくとも、年間で1090億ユーロの赤字が発生する。両者の連立に向けた合意は、国家財政を破たんさせる青写真である。

EUとユーロはGrexitを生き延びることはできただろうが、イタリアが離脱するとしたら、それはむつかしい。81歳の経済学教授Paolo Savonaが経済金融大臣に指名されたが、かれは新著 "Like a Nightmare, Like a Dream" でベルリンを批判している。「ユーロはドイツが作った拘束衣だ。」 ベルリンは、「ナチスの時代から何も変わっていない。」 「ユーロ圏に加盟するのは、独裁者のいないファシズムであり、経済的には、軍国主義を除いたナチズムだ。」

このサルジニア出身の老人が、次のEUサミットでドイツの大臣と並んで座るのか?

M5SDi Maioたちは、誇大妄想的なポピュリスト運動でイタリアを動かすために全力を注ぐだろう。ポピュリストの勝利が、アメリカとの貿易戦争、Brexit交渉など、EUの困難な時代に重なっていることが問題だ。ギリシャ救済にともなった破壊的な政治紛争が、ヨーロッパ全体で再燃するかもしれない。

ドナルド・トランプの元主任戦略官であったスティーブ・バノンは、Salvini and Di Maioの勝利を大いに歓迎した。彼らがブリュッセルと闘うことは非常に重要だ、と。しかし、ECBがイタリア政府の債券を数億ユーロも購入して経済を維持しているのに、連立政権が合意した政策が、ECB2500億ユーロの債務を免除せよ、というのは現実を無視している。幻影政治"Fantapolitica"だ。

イタリアの破たんはEUが受け入れられないから、救済を前提に強硬策を採る、と懸念されている。しかし、ドイツの専門家は、2001年のアルゼンチンがそうであったように、共通通貨圏を離脱することはイタリアにとっても最悪のシナリオだ、という。

FT May 28, 2018

The eurozone needs an open dialogue with Italy

The Guardian, Mon 28 May 2018

With his choice of prime minister, Italy’s president has gifted the far right

Yanis Varoufakis

The Guardian, Mon 28 May 2018

The Guardian view on Italy’s political standoff: time for a fresh election

Editorial

FT May 28, 2018

Italian deadlock sets stage for fierce battle over the EU

TONY BARBER

少なくともこの5年間、イタリア・ポピュリズムの抑えがたい勢力は、この国の政治、官僚、金融、産業のエスタブリシュメントと衝突するコースを進んできた。次の解散、総選挙が、恐らく10月にあれば、その衝突は早まるだろう。選挙はユーロ圏をめぐる戦いになるはずだ。

ヨーロッパ中で、多くのEUを支持する政治家たち、銀行家たちが、19カ国の国民が不完全な貨幣同盟に参加することで、次の金融危機にさらされている、と不安を感じている。イタリアが政治と憲法の危機に陥っていく恐怖は、ユーロ圏を守るためにはリスクを共有する改革が必要だ、というフランスのマクロン大統領の提案を議論できなくするだろう。

イタリアの過激な経済実験が続く限り、ドイツなど、他のユーロ圏加盟諸国は、より多くの財源や意思決定を共有することに反対する。イタリアで再び選挙が行われれば、反エスタブリシュメント、反移民の、左右のポピュリスト政党が支持を伸ばすだろう。イタリア大統領Sergio Mattarellaが、政党に属さない、元INF理事のCarlo Cottarelliを暫定政権の首相に任命したことは、エスタブリシュメントの最後の抵抗を示している。

まるで包囲された中世のイタリア都市国家が、その城壁に迫る敵の大軍に対して、必死で防衛線を強化しているように見える。Cottarelliの行為は、憲法のかつて使われたことのない権限によるものであり、ユーロ圏の義務を果たすために、次の選挙でイタリア解体につながるかもしれない。

一方には、19世紀以来のイタリア統一と解放の原理、国民主権と民族の自決を掲げる勢力がある。他方には、ブリュッセル、ベルリン、フランクフルト、そして彼らに媚びるイタリアのエスタブリシュメントとして、4半世紀の政治的な無能さ、経済衰退を非難されている者たちがいる。

SPIEGEL ONLINE 05/28/2018

Italian President Mattarella

The Man Who Wouldn't Yield

By Hans-Jürgen Schlamp in Rome

NYT May 28, 2018

What Comes Next for Italy?

By Beppe Severgnini

イタリア人は幸運だ。彼らの冷静なSergio Mattarella大統領は、Giuseppe Conte首相と反ユーロのPaolo Savona財務大臣の指名を拒んだ。連立政権の指導者たちは、この決定をイタリア民主主義の否定だ、と非難している。しかし、彼らの政策は非常に異なっており、政権が維持されるとは思えない。

中道右派のForza Italiaを率いてベルルスコーニが何をするか、大きく議席を減らした民主党が復活するか、わからない。ナイーブだと思うかもしれないが、真の勝者は有権者である。この重要な問題について、彼らは同盟とファイブ・スターに投票し、EUと衝突する政権を生んだ。しかし、国民投票でBrexitに苦しみ続けるイギリス国民と違って、イタリア人は憲法に守られ、再び投票の機会を得たのだ。

FT May 29, 2018

Driving Italy out of the euro makes no sense at all

BILL EMMOTT

イタリアの政治危機は、劇的でもあり、奇妙でもある。

2つの左右の反エスタブリシュメント政党が、3月の選挙で50%以上の票を得たが、その大臣指名が拒否された。ファイブ・スターも同盟も、大臣指名で問題になる点、ユーロ圏離脱、を選挙で問題にしなかった。

イタリアがユーロ圏を離脱し、その国益や、政府が代表する一般家庭の利益を損なわないようなシナリオは考えられない。

イタリアはGDP比で3%の経常収支黒字を出しており、健全である。輸出競争力は問題にならない。同盟を支持するイタリア北部の工業部門が輸出を伸ばしている。切下げは意味がない。

しかし、政府債務額は23000億ユーロという巨額である。ユーロ圏内でECBの低金利策を利用し、債務を維持しながら、欧州委員会と財政赤字で対立する間も、この条件を維持するのが好ましい。

もしユーロ圏を離脱すれば、政府債券を保有するイタリアの銀行は破たんする。債券価格は急落し、銀行救済によって政府の債務がさらに増える。債務の組み換えやデフォルトがうまくできるのか? それはわからない。しかし、イタリアの家庭は損失を被る。

イタリアは政権合意の枠内で、こうした財政支出の余地を得る交渉を実現できる。かつて2011-2013年にMario Monti首相がしたことだ。議員でもない、ユーロ圏離脱を唱えるPaolo Savonaの指名が問題を生じた。

反ユーロで連立政権を組む選挙にファイブ・スターが挑むことはイタリアの家庭を怯えさせるだろう。同盟との連立策は愚行である。同盟の過去は、地方でも中央でも、政治汚職やクローニズムに満ちている。それはファイブ・スターの支持者が強く反対するものだ。

だれにとっても、レンツィが首相となって政府が経済改革と成長策を進める方が望ましいだろう。汚職撲滅、司法制度改革、再雇用に向けた福祉の充実、という政策には十分な意味があり、ファイブ・スターも支持している。

しかし、そのような改革も、金融市場と対立し、ユーロ圏を離脱すれば無駄である。

SPIEGEL ONLINE 05/29/2018

ECB Vice President Constâncio

'Italy Knows the Rules'

Interview Conducted by Henning Jauernig and Stefan Kaiser

Bloomberg 2018529

No, Italy Isn’t a Victim of the Euro

By Leonid Bershidsky

The Guardian, Wed 30 May 2018

Italy can't blame Brussels for its descent into the abyss

Phillip Inman

FT May 30, 2018

Italy’s president gambles on the centre holding

FT May 30, 2018

Markets remain unforgiving on populists’ debt diagnosis

JOHN PLENDER

PS May 30, 2018

What Italy’s Crisis Means for Europe

LUCREZIA REICHLIN

NYT May 30, 2018

The Danger That Italy’s Political Crisis Poses for the Global Economy

By Neil Irwin

PS May 31, 2018

Italy’s Long, Hot Summer

CARMEN M. REINHART

政治的混乱と社会不安が生み出した今回のイタリア危機は、だれもが予想したことである。わからなかったのは、いつ起きるか、だけであった。それが、今だ、とわかった。

イタリアの1人当たりGDPは、2018年でも、世界金融危機の前年である2007年より、約8%低い。IMFによる2023年の予測では、イタリアが過去10年間の生産減少から完全に回復するには至らない。

政府の一般債務は、2013年以降、安定している。しかし、この「安定化」は誤解を含む。政府の一般債務だけでなく、民間債務や銀行部門の不良債権が増大していることも問題だ。Target 2のバランスにおける中央銀行の債務額も増大している。しかも、それ以上に民間の投資逃避額の方が大きい。

ユーロ安とドル高は、いつも新興市場を苦しめるが、特にドルだけ債務を負うことで危機を生じる。イタリア債務が組み換えを避けることはできないだろう。債務免除を求める気持ちは強いだろうが、それは市場を一時的に鎮静化するだけである。

最も穏健なシナリオでは、イタリアの公的債務、すなわち、他の政府や国際機関に対する債務だけを組み替えるものだ。それが十分ではないかもしれない。ギリシャの場合は、公的債務が主要な部分を占めた。しかし、イタリアでは多くが民間の債券保有者になっているからだ。資本逃避を抑える戦略が優先されねばならない。

PS May 31, 2018

Mattarella’s Line in the Sand

JEAN PISANI-FERRY

FT June 1, 2018

Italy crisis poses dilemma for Draghi over ECB’s next step

Claire Jones in London


● Brexitのお粗末さ

FT May 25, 2018

The best way to solve a problem is to wait a while

TIM HARFORD

FT May 30, 2018

Britain’s foreign policy lacks vision for its post-Brexit future

SEBASTIAN PAYNE

PS May 30, 2018

The Appalling Failure of Brexit

CHRIS PATTEN

UKが僅差でEU離脱を決めた国民投票から2年近くが経つ。Brexitに向けた歩みは来年3月まで続く。それは将来のUKEUの関係を決める基本問題に答えるはずだったが、まだ何も決まっていない。ブリュッセルで交渉する重大な決断があると、いつも先送りにしてきた。あるいは、深い藪の中に打ち込んだのだ。

EU離脱の陰謀に加わっていた政治家や新聞編集者たちは、それが成功したら何が起きるかについて誰も考えていなかった。彼らは「ソフトBrexit」(ヨーロッパ市場にとどまる)か、「ハードBrexit」(何であれクリーンに離脱する)か、という問題にさえ一致していない。

熱狂的な離脱派は、EUを抜けるのは丸太から降りるように簡単なことだ、と主張した。ヨーロッパの諸国はわれわれ以上に強くUK市場を浴しているから、と。それはとんでもない主張だった。われわれこそ、ヨーロッパから買いより多く売っている。しかも、イギリスの輸出の半分はヨーロッパ向けである。

メイ首相は、この不可能に近い交渉期限に合わせるどころか、保守党の離脱強硬派を満足させるために実現できない約束をした。ヨーロッパからの人の移動を終わらせる、とか、EUの単一市場と関税同盟から離脱する、とか。

しかし、関税同盟を出れば、アイルランドに境界線が復活する。それは安全保障にとって、またアイルランドとの和平条約にとって、重大な意味を持つ。こうしたリスクを超えるような大きな利益が、関税同盟を抜けて実現できる、というのも幻想だ。EUが進めている貿易協定を、離脱後のイギリスは単独で交渉しなければならない。メキシコ、中国、韓国、ベトナム、シンガポール、日本などの国々だ。一般に貿易交渉では、大きな国が小さな国よりも優位にある。また、原産地規制によっても、イギリスの自動車産業には深刻な損害を生じる。

イングランド銀行によれば、UKの平均的家計が実質所得で900ポンド少なくなる。離脱派の多くの約束した利益は、どれも実現しないだろう。

現実のBrexitが暗転するにつれて、政府の閣僚や主要な離脱派は互いを責め、自分たちのほかは誰でも非難する。彼らはイギリスが墜落するに違いないと宣言する。しかし、それは「人民の意志」であった、と。

次の世代が、もっと上手にこれらの破片を集めることだろう。

FT May 31, 2018

Brexit Britain must not cede control of the City


● ヨーロッパ預金保険

PS May 25, 2018

The Perils of European Deposit Insurance

HANS-WERNER SINN


● トランプ対アマゾン

NYT May 25, 2018

America Last: Trump’s Attack on the Amazon Job Machine

By Timothy Egan

トランプ大統領は、アメリカ第2の企業、アマゾンに宣戦布告した。アマゾンは、いくつかの州の雇用を上回る人々を雇用している。すべての主要都市が、その第2本社と5万人の高賃金職を誘致するため競い合っている。

それはおそらくアメリカ最大の雇用創出マシーンであるが、トランプは大統領の権力を行使してそれを損なっている。他方、犯罪にかかわった中国の通信企業ZTEからは手を引いて、中国の雇用を邪魔するのはやめた。

アマゾンはもちろん聖人ではない。倉庫では低賃金で雇用し、多くの零細小売店をつぶした。多数のIT企業が日常生活に侵入する。しかし、トランプはこうした複雑な問題を懸念して行動しているのではない。彼にとっては好悪の問題だ。

トランプは、アマゾンの創立者で会長のベゾスJeff Bezosが大嫌いだ。郵送による書籍販売を世界最大のオンライン商店に変えて成功したことを嫌うのかもしれない。しかし、もっとありそうな理由は、ベゾスがThe Washington Postを所有しているからだ。それはトランプが好んで観るFox Newsとは全く違う。

ポストを攻撃することは憲法が阻むから、トランプはその所有者を攻撃する。しかし、ベゾスはポストの編集に関わっていない。トランプはアマゾンの郵送料を2倍にするよう求めたという。これが制約のない強権を行使できる者の考えることだ。敵を処罰し、黙らせるために、国家を利用する。トランプはこの点を明快に示した。自由な新聞は「人民の敵」である、と彼は言う。

他方、専制支配者は友人を報奨する。北朝鮮やイランと取引したことで処罰されたZTEは、中国がトランプ・ファミリーのビジネスを優遇したことで、その処分を取りやめた。アメリカの利益は最後になり、トランプ・ファーストである。

専制支配は、隠れた、深夜の密談から生まれる、と思っていた者は、その考えを改めるべきだ。トランプは明瞭な違反行為を毎週のように示す。民主主義は真昼でも死ぬのだ。

FT May 30, 2018

For Google, all roads lead back to search

Richard Waters in San Francisco


(後半へ続く)