IPEの果樹園2018

今週のReview

5/28-6/2

***************************** 

ネタニヤフの世界 ・・・王室の結婚式 ・・・マルチラテラリズム ・・・国際資本移動とアルゼンチン ・・・米朝会談と核危機 ・・・イタリア政府のユーロ改革 ・・・ユーロ危機・債務危機 ・・・暗号通貨の革命 ・・・人口減少とポピュリズム

長いReview

****************************** 

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


● ネタニヤフの世界

NYT May 18, 2018

It’s Benjamin Netanyahu’s World Now

By Anshel Pfeffer

ほとんど毎日のように、イスラエルのネタニヤフBenjamin Netanyahu首相は願いが叶う。アメリカはイラン核合意から離脱した、アメリカ大使館はテルアビブからエルサレムに移転した。ガザとの境界線でイスラエルの狙撃兵たちがパレスチナ人を射殺する数は増えたが、彼の勝利に酔った高揚感は何も損なわれない。

いつもそうであったわけではない。彼の36年に及ぶ外交官と政治家としての経歴は、レーガン大統領のホワイトハウスに招かれず、ジョージ・HW・ブッシュ大統領の国務省には拒否された。ビル・クリントンとオバマの両大統領とは対立し、2人ともネタニヤフへの軽蔑を隠さなかった。しかし、今、彼は称賛を浴びている。

トランプ政権が、ネタニヤフも常に称えてきた、2つのイデオロギーに依拠しているからだ。それは、ポンペオとボルトンが示す外交のタカ派と、ペンス副大統領の福音派キリスト教徒たち(エヴァンゲリカス)である。何より、トランプは1980年代にはじめてネタニヤフに会って以来、彼の知人であり、トランプは彼を称賛してきた。

アメリカだけではない。イラン核合意に関して、ロシアは維持を求めたが、59日、ネタニヤフはロシアの戦勝記念日にモスクワにいた。プーチン大統領のそばに立っていたのだ。プーチンはイランとの戦術的同盟関係を維持している。しかし同時に、ロシア大統領はイスラエル首相を、我が国の最も緊密な同盟国として示した。イスラエルがシリアにおけるイラン軍の基地を攻撃し、ロシアが築いた対空砲基地を破壊したことも容認した。

ネタニヤフをもてなしたのは、プーチンだけではない。インドのモディ、中国の習近平、日本の安倍晋三、他にも、多くの国の指導者が招待した。ハンガリー、ポーランド、オーストリア、エジプト、ペルシャ湾岸諸国。

ネタニヤフは、右翼の、ポピュリスト的、専制的な指導者たちの次々に登場する世界情勢を喜んでいる。彼らはネタニヤフの同族であり、心を許す友人たちであるから。彼はアメリカの大統領たちを超える長命の指導者であり、西側のリベラルな目標、人権を無視することに成功し、それに代わって、貿易と安全保障を重視した。イスラエルは経済・軍事大国として非リベラルなアプローチを広めてきたのだ。

ネタニヤフは、世界各地に現れた「強権指導者たち」 “strongmen” の新しい時代の先駆者であった。ビビ(ネタニヤフの愛称)の時代が来たのだ。

公正で公平な解決策、軍事占領の終わりは、多くのイスラエル人、イスラエル支持者の願いである。しかし、外部からの圧力は今の時点でほとんどない。ネタニヤフの勝利を止める者はいない。


● 英王室の結婚式

The Guardian, Sat 19 May 2018

It’s not Harry and Meghan. It’s the monarchy I oppose

Gary Younge

王室の結婚式というのは、1922年に始まった。メアリー王女とViscount子爵との結婚だ。それは強制された結婚ではなかった。子爵は友人たちに、もし彼女に求婚したら、承諾してくれるだろう、と請け合った。メアリーは熱望していたわけではなかったが、婚礼の公式行事の下で、不安を見せなかった。

各地で民衆の蜂起があり、王朝は崩壊していた。イギリスの王室も自分たちがその特権に見合った働きをすると示す必要があった。5年前、第1次世界大戦中に、ドイツの血縁から距離を措くため、ウィンザー王朝が設立された。

メアリーの結婚式は国民とのつながりを持つ機会であった。初めてウェストミンスター大聖堂で、行列と報道をともなって行われた。それは、彼女の兄、将来のジョージ6世が書いたように、メアリーの結婚ではなく、「ロイヤル・ウェディング」、「ナショナル・ウェディング」あるいは、「人民の結婚式」であった。

ロイヤル・ウェディングは、愛し合う2人の人間の挙式ではなく、大統領の就任式のようなものである。ハリー王子とメーガン・マークルとの結婚式はテレビ中継され、新聞各紙の1面を飾り、600人のゲスト、3200万ポンドの費用、1200人の「一般人」が指名されて「参加」した。

19世紀の立憲主義者であったウォルター・バジョットは、「見えないものは忘れられる。・・・シンボルであるとは、また、効果的なシンボルであるとは、活き活きとして、可視的でなければならない。」

これはプロパガンダである。その目的は2つだ。王室の正当性を回復し、現代における意味を回復することだ。神が彼らに他のすべての者を支配するように命じた、と主張する者たちは、常に、その信用に注意しなければならない。ボルシェビキに処刑されたロシアの皇帝は、女王の祖父のいとこだった。女王の夫は、赤ん坊の時に果物かごに隠されてギリシャを脱出した。だから彼女は、王室の正当性が失われたとき、何が起きるかを知っている。

王室の結婚に関する調査によれば、「無関心」が最も多く、46%、だった。次が、「幸せ」を感じる、で29%。庶民の結婚式は、イギリスなら、世代を超えた踊りを楽しむ。私は結婚式より、踊っている彼らを観るのが好きだ。

私は共和主義者で、人間を愛ずる。人間を愛するから共和制を支持する。

The Guardian, Mon 21 May 2018

As a feminist, why should Meghan settle for being a dutiful royal wife?

Simon Jenkins

サセックス公爵夫人は、いつか、ホワイトハウスにも立つのだろうか?

これはイギリスとアメリカ、著しく異なる経歴を持つ2つの民衆の間の結婚だ。メーガンのアメリカをシンデレラ物語にすることは女性を描く定番だ。しかし、彼女は俳優であり、フェミニストである。それはどういう意味か、と尋ねる者はいない。意志の強い、アメリカの俳優と結婚するとはどういうことか、混血であるとはどういうことか、どれほど愛されているとしても、それは厳しい緊張をともなう。

もしメーガンが混血のアメリカ人男性で、イギリスのプリンセスと結婚するとしたら、同じように歓迎されただろうか? 私はそう思わない。

彼女の友人たちは、彼女は政治的な衝動を持っている、と言う。その意味では、彼女はロナルド・レーガンの軌跡と完全に一致する。彼女が民主党を率いて、共和党のイヴァンカ・トランプと対決するかもしれない。

私は大西洋の反対側からこの婚礼を観ている。そして、もしアメリカ人がケンジントン宮殿に立つのであれば、イギリス人がホワイトハウスに入るのも大歓迎だ。


● マルチラテラリズム

PS May 18, 2018

Is Multilateralism Finished?

ZAKI LAÏDI

トランプは、TPPからも、パリ協定からも離脱し、鉄鋼とアルミニウムには高い関税を課した。さらに、中国からの輸入品には1000億ドルの追加関税を課すと脅している。

イラン核合意からの離脱は、アメリカがもはや、第2次世界大戦後、自ら構築し、維持した多国間の制度を破棄する意図を明確にした。トランプ政権の登場は、アメリカ政治文化がマルチラテラリズム多国間主義に対して生じてきた緊張感を、明確な敵意に変えた。

マルチラテラリズムの危機は、1965年のMancur Olsonの研究(The Logic of Collective Action: Public Goods and the Theory of Groups)によって説明できるだろう。オルソンによれば、「集団に属する個人の数がかなり少ないか、あるいは、個人を共通の利益のために行動させる強制もしくは何らかの仕組みがない限り、合理的で、利己的な諸個人は、その共通もしくは集団利益のために行動しない。」

現在、グローバルな秩序は、真のマルチラテラリズムを目指すのではなく、2つの局面でアメリカが前線を形成している。1つは、米中の経済競争であり、もう1つは、ロシアと西側の中東及びNATO東側における地政学的闘争だ。事実上それは、20世紀のアメリカとロシアと、21世紀の米中対決が形成した、マルチラテラリズムの危機である。むき出しのパワー・ポリティクスが出現すれば、マルチラテラリズムは後退する。

過渡期においては、異なるプロジェクトが列島のように連なり、異なる形と規模で、集団行動を形成する。それがひび割れた世界におけるひび割れた秩序なのだ。


● 国際資本移動とアルゼンチン

FT May 19, 2018

China offers protection amid the dance of the trillions

JAMES KYNGE

グローバル資本主義の最強の力は目に見えないものだ。何兆ドルもの投機的資本が、摩擦なく、新興経済に出入りしている。しかし、流出することは破局となりうるし、経済を破壊して、その再建に苦痛をもたらす。

今週、新興経済に集まる、最新の流動性パーティーが終わりに近づいた。アルゼンチンやトルコのように、投機の突風で打撃を受ける国もある。ドルが強くなるとき、根無し草の資本はドルに向かって還流し、発展途上国に犠牲となる国がある。それが金融的な天候の気圧配置と前線だ。

2008年の金融危機後、金融緩和が続いたために、発展途上諸国の非金融部門でドル融資が、10年前の1.5兆ドルから、昨年末には3.7兆ドルまで増えた。ドル高は債務の維持コストを増やし、投資家たちは債務国の審査を厳しくする。疑いがあれば、資本が流出する。問題は、最初の突風が台風になるか、ということだ。

トルコのエルドアン大統領のように、政治指導者が市場に挑戦しても無駄である。しかし、アナリストたちは新興市場の回復力に注目している。それは1990年代後半のアジア通貨危機にはなかったものだ。その最大の違いは、中国とアジア地域全体の台頭が、投機的な売り圧力に対する防波堤になっていることだ。

中国は今や世界第2の経済規模であり、人民元を守る外貨準備は3兆ドルもある。こうした中国の存在は、アメリカとドルの影響圏から離れる、もう1つの軌道があることを示している。2012年から2016年まで、世界の経済成長の34%は中国がもたらしたものであり、それはアメリカ・EU・日本の合計を超えている。製造業のサプライチェーンはアジア全体に広がり、その回復力を支えている。

北京は人民元の為替レートをドルに対して安定化しており、香港もそうだ。インドネシア・ルピーなど、アジアの通貨で下落したケースもあるが、その程度は抑えられている。米中貿易摩擦が高まれば、中国はますます経済の安定化に強い姿勢を示すだろう。米中のパワー・プレーが続く間、資本移動も中国の安定化に従う。


● 米朝会談と核危機

NYT May 24, 2018

Think Military Strikes Could Stop North Korea? Try It and See.

By MARK FITZPATRICK

ホワイトハウスは予防的な軍事攻撃が実行可能なオプションだと信じている。しかし、このシミュレーションを試せば、それほど単純ではないことがわかるだろう。

威嚇と挑発。首脳会談の提案。キャンセル。

北朝鮮が大陸間弾道ミサイルの実験を再開し、成功する。

トランプ大統領が「予防的」軍事攻撃を求める。北朝鮮に教訓を示すための「ブラッディー・ノーズ」作戦。日本海の空母からトマホーク巡航ミサイルで攻撃する。目標は、活動が見られないミサイル打ち上げ基地。

これによって、キムはトランプ大統領が軍事力を保持するだけでなく、それを使用する意志を持つことを確信し、核開発計画を終わらせる交渉に応じるはずだった。しかし、そうならない。

北朝鮮は100基の長距離砲に加えて、25005000トンはある化学兵器を使用するだろう、という恐怖が広がる。トンネル、低空飛行、小型潜水艦で特殊部隊が侵入する。

1週間で、韓国・アメリカの合同軍は北側の数百の長距離砲を破壊し、弾道ミサイル発射システムも破壊する。北朝鮮の防空システムは制圧され、境界線の両側で約10万人の犠牲者が出る。北朝鮮の特殊部隊は韓国で破壊活動を続ける。

米韓合同軍が北への侵攻を準備する中で、中国は次の展開を予想し、習近平がトランプに警告する。北朝鮮との友好協力条約に従い、米軍が北に対してさらに攻撃するなら、それを阻止するための必要なあらゆる手段を取る、と。

北朝鮮の化学兵器と通常兵器で多くの犠牲者を出した韓国は、攻撃を容易に中止しない。アメリカの支援なしに数か月の攻防戦を続けた後、ソウルも停戦に応じる。100万人が死亡し、朝鮮半島では分断状態が続く。

アメリカの安全保障が改善されたとは言えない。


● イタリア政府のユーロ改革

FT May 22, 2018

Italy’s new rulers could shake the euro

MARTIN WOLF

イタリアはギリシャではない。その経済規模は10倍、その公的債務は2.3兆ユーロであり、ギリシャの7倍である。ユーロ圏で最大、世界で4番目に大きい。潰すにも、救済するにも、イタリアは大きすぎる。問題は新政権がその引き金を引くのか、そうなった場合に何が起きるか、である。

これは単なる経済危機ではない。ユーロ圏ができた1997年から2017年の間に、イタリアの1人当たり実質GDP3%増加した。それはギリシャより悪い。イタリア人は移民危機についても勝手にやれと見放されているように感じている。イタリア人の多くはEUに半分しか入っていないと感じる。また、自国のエスタブリシュメントを嫌っている。だから右派と左派のポピュリストが権力を得たのだ。

この混乱にはイタリアにもEUにも責任がある。EUはインフレを達成せず、十分な需要を生んでいない。それは危機後の調整を難しくしている。ドイツはこうした問題を認めない。イタリア人も、イタリアが繁栄し、特に、ドイツと同じ通貨同盟にとどまるには、根本的な経済改革、制度改革が必要であることを認めない。

イタリアの新政権がECBの支持を失ってデフォルトになれば、その損失は甚大である。さらに広範な経済的、政治的衝撃を考慮するなら、イタリアをギリシャのように脅すことはむつかしい。ItalexitGrexitよりはるかに危険な展開である。

この怪物じみた危機を恐れて、イタリア政府は服従するだろうか? そうかもしれない。しかし、イタリア経済が前進する力はすでにない。その債務の返済に対するダメージが、資本や人、企業のイタリアからの逃避として生じるだろう。その場合、再び選挙が行われ、一層の過激な政権が成立するか、国民統合が失われるかもしれない。

長期に及ぶイタリアの危機がこの国に封じ込められるのか? 他国も影響を受けるだろう。たとえば、スペインはECB内の債務を増大させている。ユーロ圏は改革するか、さもなければ消滅する。

イタリアが繁栄を取り戻すまで、その政治も、ヨーロッパにおける位置も安定化しない。どのようなことも起きうるのだ。


● ユーロ危機・債務危機

VOX 23 May 2018

A plan to save the euro

Jeffry Frieden

独仏の指導的な経済学者たちが示した改革提案は重要だ。しかし、改革が成功するには政治的条件が必要である。ユーロ圏改革の政治経済を考える上で、いくつかの要点を指摘する。

1.ユーロ圏の住民の多くが通貨統合を支持している。・・・しかし、彼らは既存の政治指導者たちが、公平かつ効果的に、改革を実現する気があるのか、能力があるのか、疑っている。

2.危機管理の中心的な失敗は、調整コストの納得できる分配を達成できないことだった。・・・すべての債務危機は、債権者と債務者の間で調整コストもしくは苦痛を分担する対立に集約される。債権者は今すぐに全額返済してほしい。債務者は、債権者に、調整・財政緊縮の社会・政治コストを分担してほしい。そして多くの場合、国内対立が加わる。しかし、ユーロ圏の債務危機では、分担も、債務免除もなかった。

債務国の市民は、不良債権を累積した貸し手にも責任があるから、調整コストをすべて負わされるのは不当だ、と考えた。債権国の市民は、政府の説明が不十分なため、納税者の資金が使われることは間違っている、と感じた。

この危機の最悪の部分は、苦痛の多くは政策によって回避できたことだ。即座に債務を組み替え、債権者である金融機関が債務国と犠牲を分かち合っていたら、10年も経済停滞しなかったし、ユーロ圏の改革は前進し、今のようなポピュリズムの危機もなかっただろう。

3.危機管理の失敗をもたらした主犯は、EUの諸機関ではなく、各国政府である。・・・確かに遅れたが、ECBは重要な役割を果たした。加盟諸国は、何度も、調整コストを他者に転嫁しようとし、よりコストの小さな解決の機会を逸した。主要諸国が頑なに債務危機に対する協力的な戦略を拒んだ。

周辺・債務諸国の市民たちは、緊縮策を強制する機関としてユーロ圏を見ている。債権諸国の市民たちは、南欧への財政移転を強いられる機関、と見ている。将来に向けて、債務国の苦痛を債権国、他の加盟諸国は知らねばならない。また、周辺諸国は経済改革を実行し、多額の融資を利用して借り入れや支出を増やすことに歯止めとなる監視機関を受け入れねばならない。その意味で、ESMの強化が重要だ。


● 暗号通貨の革命

PS May 21, 2018

The Old Allure of New Money

ROBERT J. SHILLER

仮想通貨・暗号通貨の革命は2009年にビットコインが発行されて始まった。今では200近い暗号通貨が存在し、世界中で数百万人が熱狂している。

覚えておくべきだが、新しい通貨の発明には長い歴史がある。その多くが、少なくとも、しばらくは熱狂を生んだ。

こうした通貨の革新は、独特な科学技術の話をともない、根本的に、社会革命を目指すものである。暗号通貨とは、企業家的な世界市民のある種の共同体であり、彼らは、不平等と戦争の長い歴史を持つ諸政府を超越した存在であることを願う。

過去にもそうであったように、暗号通貨の魅力は神秘性によって与えられる。コンピューター・サイエンスの専門家以外には、それがどのように機能しているのかわからない。その排他的な神秘性がオウラを生じ、革命的情熱を満たすのだ。


● 人口減少とポピュリズム

NYT May 22, 2018

As Population Growth Slows, Populism Surges

By Philip Auerswald and Joon Yun

「普通の人々」とエリートや「他者」とを敵対させる政治運動として、概ね、定義されるポピュリズムがヨーロッパとアメリカを席巻する時代は、経済成長と人口増加がともに減速した時代であった。それは今日、西側とアジアの工業諸国にも広まっている。

世界のほとんどの地域で経済成長と人口増加は低下している。アメリカも例外ではない。それは、グローバルな都市化やデジタル化とともに、政治経済秩序を翻しつつある。「再びアメリカを偉大にする」というスローガンは、どこの国にも当てはまる、大都市のインテリに対する「普通の人々」の経済的・文化的地位を回復する訴えだ。

人口減少と経済停滞を日本の話としてよく聞くが、それは日本や少数の東欧諸国に限った問題ではない。イラン、ブラジル、など、新興市場でも、また、インドや中国でも出生率の急速な低下が起きている。アフリカ諸国だけが、今後、数十年は人口が大幅に増えるだろう。

地方の若者たちはますます都市に移住し、それは都市と地方との年齢、そして態度にも、大きな差を生じた。投票結果はそれを示している。発達した先進工業諸国は、2つの競争する政治運動に圧倒されている。1つは、人口稠密な、連携する諸都市の、現実的必要に応じた政治運動である。もう1つの運動は、地方の人々にとって、やはり必要な、諸価値に訴えるものだ。すなわち、自律、自給、直近のコミュニティーや場所を愛する態度である。

アメリカでは、大都市の住民八民主党に、小都市や地方の住民は共和党に、投票した。Brexit投票では、ロンドン、マンチェスターなど、イングランド大都市部の選挙区の84%がEU残留を支持し、地方の選挙区の87%が離脱を支持した。

その中でも一貫したテーマが、移民に比べて、地元生まれの人口が減少している、という問題だ。人口減少を認めながら、唯一、日本だけがポピュリストの影響を免れているようだが、それは厳しい移民政策を取っているからだろう。インターネットで距離が消滅し、AIが普及する時代に、人口の密度が政治を支配している。

この社会政治変化の最先端にある国はどこか? 日本より15年も前から人口が減少し始め、地方の民衆「ナロード」と都市のインテリゲンチャとの闘いを暴力的な時代の政治的本質とみなした指導者、プーチンの支配する国、ロシアである。

******************************** 

The Economist May 12th 2018

The $100 billion bet

The woes of Argentina: Tango tantrum

SftBank’s Vision Fund: The Son kingdom

The South China Sea: Making mischief

Guaranteeing employment: Make work can’t work

Rent control: The wrong remedy

Russia: Six more years

Charlemagne: What do European want?

Bagehot: The forgotten citizen

Markets and society: Sale of the century

(コメント) 孫正義の1000億ドルものファンドが何をするのか? その影響に関して特集しています。技術革新と新興企業をうながすファンドの役割があるとしても、特別な成功の秘訣はない、と思います。市場の機能に対して、これほど巨大な投資・投機に概ね否定的な評価です。

面白いのは、ヨーロッパとイギリスの選挙による代議制を見直す考察です。貴族制よりクジ引き制を導入し、大学卒業資格を持たない有権者の声をもっと聴け、というのは重要です。

****************************** 

IPEの想像力 5/28/18

それは、驚くほど簡明な表現でした。アメリカが(北朝鮮を破壊・制圧する)軍事行動を起こすとき、日本と韓国が財政負担を引き受ける、とトランプ大統領は金正恩に明言したのです。・・・誰がそんな約束をしたのか?

メディア批判、フェイク・ニュースとオルタナティブ・ファクト、強権指導者の姿勢や交際術を学んだ安倍首相は、ロシアのプーチン大統領、アメリカのトランプ大統領と、真の友人であることを自慢します。

****

通貨制度の改革論は、経済危機や社会の混乱が極端な破壊活動を経て、次の合意を形成する過程と一緒に情熱的に語られることの1つだ、と読みました。世界大恐慌と第2次世界大戦を経て、ようやく金本位制に変わるブレトンウッズ体制は成立したのです。

ビットコインなど、さまざまな仮想通貨の構想が熱気を帯びるのも、政府や中央銀行、金融専門家に対する不信と、先端技術への期待が混じり合った、ユートピアへの招待です。

****

リベラルな民主主義が深刻な問題に陥っているとき、通貨制度とともに、選挙制度の改革も必要だと思います。

戦争状態が続くアフガニスタンでは、アメリカが支援するような選挙に参加することを、タリバンが阻んでいる、とニュースが伝えています。投票所や候補者がテロの対象になったり、有権者登録をする村人の家族が脅迫を受けるとしたら、とても選挙などできません。むしろ長老を集めて意見を聞き、村人からさまざまな分野の知識・経験を集めるような政策諮問会議を各地で開くよう、制度を工夫することでしょう。それは「先進国」でも、選挙区や任期に縛られない「民主主義」を模索するものです。

「選挙」が、何か、得体のしれない政治運動に変わってしまう予感がします。

各地で街頭演説までする自民党の総裁選挙が、事実上の首相選びであるとしたら、私たちの民主主義はわずかな自民党員によって、しかも、それを取りまとめる者たちによって、動かされている、と言えるでしょう。それは有権者を差別化した、代表制の代表制、ロシアや中国の寡頭政治です。

同様に、戦後のEUや国際連合を民主的に活性化する試みを想います。ユーロ危機を長引かせたもの、ポピュリズムの台頭を用意した条件は、重要な意味で、この民主主義の制度的な破たんでした。むしろ村の運動会のように、政党やイデオロギーを超えてチームを作り、解決策を競わせてはどうでしょうか。

私たちは、何のために、だれがふさわしいと考えて、投票すべきか、わからなくなっています。「ヨーロッパ人は何を望むのか?」というThe Economistの記事が、その試み “Citizens’ Panel” を紹介しています。ふつうのヨーロッパ市民が100人ほど集まって、EUが選択すべて政策の優先順位をリストにします。彼らは、概ねEUの人口学的な分布を反映しています。フィンランドのソーシャルワーカーが、ギリシャの旅行代理店員、ルーマニアの建設業者、マルタの主婦と肩を並べます。

ユーロ改革に、なぜ合意できないのか? トランプやプーチン、エルドアン、安倍は、なぜ権力にしがみつくのか? もっと柔軟な権力のプールと、それを行使する透明な仕組み、市民の共感を得られる政策が実現するための制度改革を、たとえば、イギリスの「貴族院the House of Lords」に加えて「クジ引き議員たちthe House of Lots」を提案する記事に見ます。

あるいは、女性の地位や皇室に関する論争でしょうか。

アメリカ人の俳優で、離婚歴がある、混血男性と、日本の天皇の娘が結婚するとしたら、私たちは皇居の前で談笑し、日米の親密な関係がさらに深まると信じて、皇族や政治家たちがそれを祝福するのでしょうか? あるいは、Brexitとトランプの時代に、日本の政治混乱も加わるのか?

政治はタフで、柔軟であるべきです。米朝会談を恐れず、日本国民の長期的な利益、アジアや世界の秩序構築を目指す、十分な議論を事実に基づき尽くす私たちの議会に、私は権力を委ねます。

******************************