IPEの果樹園2018

今週のReview

5/28-6/2

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ネタニヤフの世界 ・・・王室の結婚式 ・・・トランプの中東戦略 ・・・マルチラテラリズム ・・・国際資本移動とアルゼンチン ・・・米朝会談と核危機 ・・・ドルの失墜 ・・・イタリア政府のユーロ改革 ・・・ユーロ危機・債務危機 ・・・暗号通貨の革命 ・・・人口減少とポピュリズム ・・・マレーシアとトルコ ・・・民主党の政策綱領

[長いReview

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


● ネタニヤフの世界

NYT May 17, 2018

The Gaza Violence: How Extremism Corrupts

By David Brooks

NYT May 18, 2018

It’s Benjamin Netanyahu’s World Now

By Anshel Pfeffer

ほとんど毎日のように、イスラエルのネタニヤフBenjamin Netanyahu首相は願いが叶う。アメリカはイラン核合意から離脱した、アメリカ大使館はテルアビブからエルサレムに移転した。ガザとの境界線でイスラエルの狙撃兵たちがパレスチナ人を射殺する数は増えたが、彼の勝利に酔った高揚感は何も損なわれない。

いつもそうであったわけではない。彼の36年に及ぶ外交官と政治家としての経歴は、レーガン大統領のホワイトハウスに招かれず、ジョージ・HW・ブッシュ大統領の国務省には拒否された。ビル・クリントンとオバマの両大統領とは対立し、2人ともネタニヤフへの軽蔑を隠さなかった。しかし、今、彼は称賛を浴びている。

トランプ政権が、ネタニヤフも常に称えてきた、2つのイデオロギーに依拠しているからだ。それは、ポンペオとボルトンが示す外交のタカ派と、ペンス副大統領の福音派キリスト教徒たち(エヴァンゲリカス)である。何より、トランプは1980年代にはじめてネタニヤフに会って以来、彼の知人であり、トランプは彼を称賛してきた。

アメリカだけではない。イラン核合意に関して、ロシアは維持を求めたが、59日、ネタニヤフはロシアの戦勝記念日にモスクワにいた。プーチン大統領のそばに立っていたのだ。プーチンはイランとの戦術的同盟関係を維持している。しかし同時に、ロシア大統領はイスラエル首相を、我が国の最も緊密な同盟国として示した。イスラエルがシリアにおけるイラン軍の基地を攻撃し、ロシアが築いた対空砲基地を破壊したことも容認した。

ネタニヤフをもてなしたのは、プーチンだけではない。インドのモディ、中国の習近平、日本の安倍晋三、他にも、多くの国の指導者が招待した。ハンガリー、ポーランド、オーストリア、エジプト、ペルシャ湾岸諸国。

ネタニヤフは、右翼の、ポピュリスト的、専制的な指導者たちの次々に登場する世界情勢を喜んでいる。彼らはネタニヤフの同族であり、心を許す友人たちであるから。彼はアメリカの大統領たちを超える長命の指導者であり、西側のリベラルな目標、人権を無視することに成功し、それに代わって、貿易と安全保障を重視した。イスラエルは経済・軍事大国として非リベラルなアプローチを広めてきたのだ。

ネタニヤフは、世界各地に現れた「強権指導者たち」 “strongmen” の新しい時代の先駆者であった。ビビ(ネタニヤフの愛称)の時代が来たのだ。

イスラエルが51年間占領しているヨルダン川西岸やガザ地区の封鎖について、ネタニヤフを非難する声はない。世界がパレスチナ問題に飽きたのだ、と彼はその趨勢を考える。ネタニヤフは、パレスチナ問題の関心が低いアジアやアフリカにおいても外交関係を広め、彼らが望む民生・軍事技術を提供する。

かつてオバマは、イスラエルと平和的に共存するパレスチナが、新しい独立国家として国連に加盟するだろう、と国連総会で述べた。しかし、次第にオバマは中東紛争の双方が譲歩しない頑なさに阻まれ、イランとの交渉に関心を移した。今では誰も中東紛争を解決できると真剣に試みていない。イスラエルは経済成長を享受し、地域の軍事的な覇権を握り、数百万人のパレスチナ難民を支配しながら、外交関係を改善している。

深刻な汚職の疑惑がある。しかし、もし5度目の選挙に勝利すれば、ネタニヤフは建国の指導者ベングリオンの首相在任記録を超えるだろう。

公正で公平な解決策、軍事占領の終わりは、多くのイスラエル人、イスラエル支持者の願いである。しかし、外部からの圧力は今の時点でほとんどない。ネタニヤフの勝利を止める者はいない。

FT May 19, 2018

Fighting its corner: can Gaza survive?

Mehul Srivastava in Gaza City

FP MAY 22, 2018

Don’t Blame Hamas for the Gaza Bloodshed

BY SARI BASHI

330日にデモが起きてから、イスラエル兵士はガザ地区で、100人以上のデモ参加者を銃殺した。イスラエル政府は、国際的な批判に対して、同じように反論する。それはハマスが決めたことで、われわれには避けられなかった、と。

しかし、国際的な基準に従えば、デモ隊を治安部隊が発砲することは許されない。たとえ、デモ隊が投石や火炎瓶で攻撃するとしても、命にかかわる緊急の脅威がない限り、武器は使用できない。

イスラエル政府がガザ地区の住民をすべてハマスの手先とみなして攻撃することは、逆にハマスへの支持を強化している。

NYT May 22, 2018

Hamas, Netanyahu and Mother Nature

By Thomas L. Friedman

FP MAY 24, 2018

Palestinians Have Been Abandoned by Their Leaders

BY ALAA TARTIR


● 英王室の結婚式

The Guardian, Fri 18 May 2018

The Guardian view on the royal wedding: have a lovely day

Editorial

NYT May 18, 2018

Meghan Markle and How the British Monarchy Became a Matriarchy

By Helen Castor

The Guardian, Sat 19 May 2018

It’s not Harry and Meghan. It’s the monarchy I oppose

Gary Younge

王室の結婚式というのは、1922年に始まった。メアリー王女とViscount子爵との結婚だ。それは強制された結婚ではなかった。子爵は友人たちに、もし彼女に求婚したら、承諾してくれるだろう、と請け合った。メアリーは熱望していたわけではなかったが、婚礼の公式行事の下で、不安を見せなかった。

各地で民衆の蜂起があり、王朝は崩壊していた。イギリスの王室も自分たちがその特権に見合った働きをすると示す必要があった。5年前、第1次世界大戦中に、ドイツの血縁から距離を措くため、ウィンザー王朝が設立された。

メアリーの結婚式は国民とのつながりを持つ機会であった。初めてウェストミンスター大聖堂で、行列と報道をともなって行われた。それは、彼女の兄、将来のジョージ6世が書いたように、メアリーの結婚ではなく、「ロイヤル・ウェディング」、「ナショナル・ウェディング」あるいは、「人民の結婚式」であった。

ロイヤル・ウェディングは、愛し合う2人の人間の挙式ではなく、大統領の就任式のようなものである。ハリー王子とメーガン・マークルとの結婚式はテレビ中継され、新聞各紙の1面を飾り、600人のゲスト、3200万ポンドの費用、1200人の「一般人」が指名されて「参加」した。

19世紀の立憲主義者であったウォルター・バジョットは、「見えないものは忘れられる。・・・シンボルであるとは、また、効果的なシンボルであるとは、活き活きとして、可視的でなければならない。」

私はすでに十分に見た。私が共和主義者であるのは理由がある。王朝は政府の核心に世襲の特権を置くものだ。権力の中枢にパトロンたちがいる。王族は階級であり、それが問題だ。私はそれほど熱心な共和主義者ではない。王朝のほかにも多くの問題で私は悩んでいるから。しかし、イギリスには階級問題があり、王室はそれを示すものだ。政治学者のベンディクス・アンダーソンは、国家を想像の共同体と呼んだ。しかし私が想像するのは、臣下としてではなく、市民として私は生まれ、生まれついて私を支配する他者がいるということのない、国家である。

私はそれを勝手にさせたらいいのだが、彼らは私を勝手にさせてくれない。私の子供たちは学校で、赤、白、青の服を着て、あるいは、カップケーキを焼き、結婚式を祝う用意をしている。

これはプロパガンダである。その目的は2つだ。王室の正当性を回復し、現代における意味を回復することだ。神が彼らに他のすべての者を支配するように命じた、と主張する者たちは、常に、その信用に注意しなければならない。ボルシェビキに処刑されたロシアの皇帝は、女王の祖父のいとこだった。女王の夫は、赤ん坊の時に果物かごに隠されてギリシャを脱出した。だから彼女は、王室の正当性が失われたとき、何が起きるかを知っている。

王室の結婚に関する調査によれば、「無関心」が最も多く、46%、だった。次が、「幸せ」を感じる、で29%。庶民の結婚式は、イギリスなら、世代を超えた踊りを楽しむ。私は結婚式より、踊っている彼らを観るのが好きだ。

私は共和主義者で、人間を愛ずる。人間を愛するから共和制を支持する。

NYT May 19, 2018

Why Is the Royal Wedding at Windsor Castle?

By Anna Whitelock

The Guardian, Sun 20 May 2018

The Guardian view on Brexit and the royal wedding: which is the real Britain?

Editorial

国民がたどる現代化に至る道は曲がりくねっている。決してウィンザー城に向かうthe Long Walk in Windsor Great Parkのようにはならない。ハリー王子とメーガン・マークルとの結婚も、人種を包括する点で新しいものである。イギリスがより公平な国に向かうための里程標だ。

しかし、この婚礼が行われる国の姿はBrexitによって損なわれている。世界に対してドアを閉ざす。海の向こうのアイルランドでは、金曜日、憲法の修正を国民投票で決める。中絶を禁止している修正条項の破棄をめぐる投票だ。賛成派が有利と見られていたが、Brexitやトランプと同様に、地方のアイルランド人が都市のエリートたちに拒否を示す恐れもある。

毎年、3000人もの女性たちが中絶のためにアイルランド共和国から、また約500人が北アイルランドから、イギリスに向かう。もし来年、イギリスがEUから合意できないまま離脱すれば、アイルランド共和国からの旅行ができるのか、わからない。

中絶に関するアイルランドの感覚は、Brexitの感覚とそれほど異ならない。イギリスでは移民について、アイルランドでは中絶について、戯画化されたヨーロッパの容認姿勢を、島国の誇りとして拒絶する。どちらも純血性と例外主義との祖先にさかのぼる幻影である。

The Guardian, Mon 21 May 2018

As a feminist, why should Meghan settle for being a dutiful royal wife?

Simon Jenkins

サセックス公爵夫人は、いつか、ホワイトハウスにも立つのだろうか?

これはイギリスとアメリカ、著しく異なる経歴を持つ2つの民衆の間の結婚だ。メーガンのアメリカをシンデレラ物語にすることは女性を描く定番だ。しかし、彼女は俳優であり、フェミニストである。それはどういう意味か、と尋ねる者はいない。意志の強い、アメリカの俳優と結婚するとはどういうことか、混血であるとはどういうことか、どれほど愛されているとしても、それは厳しい緊張をともなう。

もしメーガンが混血のアメリカ人男性で、イギリスのプリンセスと結婚するとしたら、同じように歓迎されただろうか? 私はそう思わない。

彼女の友人たちは、彼女は政治的な衝動を持っている、と言う。その意味では、彼女はロナルド・レーガンの軌跡と完全に一致する。彼女が民主党を率いて、共和党のイヴァンカ・トランプと対決するかもしれない。

私は大西洋の反対側からこの婚礼を観ている。そして、もしアメリカ人がケンジントン宮殿に立つのであれば、イギリス人がホワイトハウスに入るのも大歓迎だ。

The Guardian, Wed 23 May 2018

The answer to Britain’s productivity crisis? Meghanomics

Larry Elliott


● トランプの中東戦略

SPIEGEL ONLINE 05/18/2018

Iran Crisis

Trump Drives Wedge Between Germany and France

By SPIEGEL Staff

FP MAY 21, 2018

The United States Finally Has an Aggressive Plan to Defang Iran

BY RAY TAKEYH, MARK DUBOWITZ

FP MAY 21, 2018

Pompeo’s Iran Plan Is a Pipe Dream

BY JON WOLFSTHAL, JULIE SMITH

月曜日、ポンペオ国務長官は、彼が言うところの、中東全域におけるイランの行動に対する新戦略、を発表した。それは、イランに対する12の要求リストである。

すなわち、ヒズボラ、ハマスなど、中東におけるテロ集団への支援を止めること。イラク政府の主権を尊重し、シーア派軍事勢力の武装解除、解体、再統合を認めること。イエメンにおけるフーシ派への軍事支援を止め、平和的な政治解決に協力すること。シリアからイランの全兵力を撤退させること。アフガニスタンにおけるタリバンその他のテロ集団への支援を止めること。イスラム革命防衛隊によるテロ集団への支援を止めること。イスラエルを破壊するという脅迫、サウジアラビアやUAEへのミサイル攻撃を含む、近隣諸国への脅迫を止めること。国際航行への脅迫やサイバー攻撃を止めること。

オバマ政権に関わったすべての者が、同様に、イランのこうした行動を止めたいと願っていた。しかし、重要なことは、オバマ政権がイランの核保有を、数週間で完成する水準から、遅らせたことだ。それがイラン核合意であった。

トランプとポンペオの戦略とは何か? ポンペオは、アメリカが「かつてない金融圧力をイランの体制に加えるだろう」と言う。つまり、トランプ政権のパイプ・ドリーム(白昼夢)は、2009年から2012年に行われた核合意よりも厳しい、はるかに厳しい制裁体制に世界が合意する、という戦略だ。

しかし、この政権は、候補者のチェック、政府職員の指名、行政指令、という単純な仕事もできない。アメリカの最も古い、緊密な同盟諸国にも協力する気がなくなっている。それで、史上最も一貫した、効果的な制裁体制の合意を達成するのは可能か? 同盟諸国のほとんどが信頼していない大統領の下で、信頼に基づく交渉など行えるか?

トランプのリームに戦略はない。あるとしたら、これは破滅に向かう戦略だ。

FP MAY 21, 2018

In the Middle East, Soon Everyone Will Want the Bomb

BY HENRY SOKOLSKI

FT May 23, 2018

Donald Trump sets America on a collision course with Iran

FT May 23, 2018

Hardliners push Trump towards a regime change plan for Iran

DAVID GARDNER

YaleGlobal, Thursday, May 24, 2018

The EU Splits With Trump on Iran Nuclear Deal

Dilip Hiro


● インド

PS May 18, 2018

An Assault on India’s Institutions

SHASHI THAROOR


● マルチラテラリズム

PS May 18, 2018

Is Multilateralism Finished?

ZAKI LAÏDI

トランプは、TPPからも、パリ協定からも離脱し、鉄鋼とアルミニウムには高い関税を課した。さらに、中国からの輸入品には1000億ドルの追加関税を課すと脅している。

イラン核合意からの離脱は、アメリカがもはや、第2次世界大戦後、自ら構築し、維持した多国間の制度を破棄する意図を明確にした。トランプ政権の登場は、アメリカ政治文化がマルチラテラリズム多国間主義に対して生じてきた緊張感を、明確な敵意に変えた。

トランプにとって、国際的なルールや原則は重要でない。重要なものは結果であり、彼の支持率だ。常に、目的が手段を正当化する。中国の貿易戦争でも、ZTEへの姿勢はにわかに変化した。アメリカの同盟諸国を「重荷」と感じている。中国の台頭に対して、WTOなど、国際ルールで対処することを望むEU諸国を無視して、トランプは2国間交渉を優先した。

トランプ政権の終わりがマルチラテラリズムの復活につながる、と期待するのはむつかしい。国際秩序が多極化するとき、まさにマルチラテラリズムは衰弱しつつある。理想的には、権力の分散が進むことで、ますます交渉や対話による合意形成が重要になる、と思うかもしれない。しかし、最近の事件は逆方向を示している。

ロシアはシリアに関する安保理決議に繰り返し拒否権を発動した。WTOの多角的自由化交渉は行き詰まったままである。問題は、アメリカがWTO交渉を、台頭する中国に向けた有益な抑制メカニズムとはみなさなくなったことだ。しかも皮肉なことに、TPPなど、オバマ政権が模索した新しいメカニズムも、トランプは破壊する。

マルチラテラリズムの危機は、1965年のMancur Olsonの研究(The Logic of Collective Action: Public Goods and the Theory of Groups)によって説明できるだろう。オルソンによれば、「集団に属する個人の数がかなり少ないか、あるいは、個人を共通の利益のために行動させる強制もしくは何らかの仕組みがない限り、合理的で、利己的な諸個人は、その共通もしくは集団利益のために行動しない。」

GATTは最適なマルチラテラリズムを代表していた。最強の権力集団が、その意志を他の者に強制した。同時に、発展途上諸国にはルールの実施が容易になる合意があり、彼らは貿易の利益を享受できた。

しかし、新興諸国、特に中国が台頭することで、パワー・バランスが変化し、西側先進諸国はヘゲモニーを失った。世界の貿易交渉は開発諸国と発展途上諸国の利益を両方取り上げ、優先順位を決めることができなくなった。しかし、WTOは貿易交渉の重要な仲介者である。しかし、トランプ政権のWilbur Ross商務長官はWTOの最恵国待遇を破壊する姿勢を示している。

今も世界の主要諸国はWTOを支持しているが、その姿勢には異なる意味がある。中国は公にWTOを支持するが、それは現状維持が彼らの利益であるからだ。2001年に加盟してから、中国はすでに世界の経済大国になったにもかかわらず、市場経済としての条件を免れている。インドも、この同じダブル・スタンダードを利用したいと考える。

他方、EUのマルチラテラリズムに対する支持は、彼らの価値に根差す原則的なものだ。それゆえトランプ政権が、中国との交渉で共通の姿勢を取らず、イラン核合意から抜けたことは、ヨーロッパが嫌うパワー・ポリティクスへの偏りである。中国の輸出がアメリカ市場ではなく、ヨーロッパに向けられ、貿易摩擦を強めることを恐れている。

こうして、離脱した諸国が2国間交渉を始めれば、国際ルールは修復不可能なほど損なわれるかもしれない。

現在、グローバルな秩序は、真のマルチラテラリズムを目指すのではなく、2つの局面でアメリカが前線を形成している。1つは、米中の経済競争であり、もう1つは、ロシアと西側の中東及びNATO東側における地政学的闘争だ。事実上それは、20世紀のアメリカとロシアと、21世紀の米中対決が形成した、マルチラテラリズムの危機である。むき出しのパワー・ポリティクスが出現すれば、マルチラテラリズムは後退する。

過渡期においては、異なるプロジェクトが列島のように連なり、異なる形と規模で、集団行動を形成する。それがひび割れた世界におけるひび割れた秩序なのだ。

FP MAY 18, 2018

Can the U.S.-Europe Alliance Survive Trump?

BY KEITH JOHNSON, DAN DE LUCE, EMILY TAMKIN

FT May 21, 2018

Team Trump’s ‘deep state’ paranoia fans conspiracy theories

GIDEON RACHMAN

アメリカ大統領は「アメリカ史上最大の魔女狩り」と憤慨する。あるいは、しばしば、自分の政府内で彼に対する陰謀がある、とTweetする。「ディープ・ステイト(秘密の国家機関)」だ、と。

しかし、陰謀論が流行するのは、それが真実であることを意味しない。しかし、それはこの精神分裂症がアメリカ政治の主流にまで入ったことを示しており、大統領自身が喜んでいる。

「ディープ・ステイト」理論は、秘密裏に政治家たちを支配し、事態の推移を管理する機関がある、というもので、伝統的に、アメリカよりずっと貧しい、教育水準の低い、民主的伝統の弱い国で広まる話だ。トルコ、パキスタン、エジプト、タイ、インドネシアのような国では、ディープ・ステイトが幻想では決してない。これらの国では軍事クーデタが、しばしば繰り返し、起きたし、選挙による政権を崩壊させた。

アメリカはそうではない。しかし、トランプに対する「ディープ・ステイト」の陰謀は多くの支持者を集めている。あまりにも広まった陰謀論は、急速にもっと野蛮な幻想につながる、ということに注意するべきだ。

FT May 21, 2018

Shadows of Empire, by Michael Kenny and Nick Pearce

Review by Jonathan Derbyshire

FP MAY 21, 2018

Trump Is in a Coma on Public Health

BY LAURIE GARRETT

SPIEGEL ONLINE 05/22/2018

Interview with Joschka Fischer

'The U.S. President Is Destroying the American World Order'

Interview Conducted By Mathieu von Rohr and Christoph Schult

イラン核合意の目的は、イラク戦争後、第2の破局を避けることだった。すなわち、イランとの大規模な地上戦である。イラン政府は繰り返しヨーロッパとアメリカとを分断しようとしたが、失敗した。ところが、ドナルド・トランプはまさにそれをやろうとしている。

トランプがイランとの戦争を望むとは思えない。彼は勝利できない、際限のない中東における戦争を嫌っている。しかし、ボルトンだ。その名前を聞くだけで十分だ。彼こそイラク戦争の首謀者の1人である。

ボルトンはこう書いた。"To stop Iran's bomb, bomb Iran."

彼にはすべてについて1つの答えがある。軍事力の行使だ。

PS May 22, 2018

The World According to Trump and Xi

BRAHMA CHELLANEY

世界の指導的な民主主義国家であるアメリカが、ますます、世界最大・最古の専制国家である中国のように見える。グローバルな合意を損なう、驚くべき一方的な政策を取って、トランプ大統領は彼の対抗者である習近平の国際法違反を正当化してしまい、ルールに依拠した世界秩序がすでに深刻な危機にある現状を悪化させている。

トランプの通商戦術は、アメリカの相対的な経済衰退を重視し、中国が豊かに、力を強めた重商主義と同じことを、強力に推し進めている。米中両国は、ルールに依拠した貿易システムを積極的に解体するだけでなく、十分な力を持つ国は、共有されたルールや規範を破っても処罰されない、と証明している。今日の世界では、強者だけが強者を尊重するのだ、と。

このダイナミズムが、トランプと習近平の単独行動を相互に強めている。トランプの「アメリカ・ファースト」と習の「チャイニーズ・ドリーム」は、共通の前提に立つ。世界の2大国が、その利益に従って行動する。G2の世界秩序とは、決して世界秩序ではなく、1つの罠である。他の諸国は、トランプの予測不能、取引型アメリカの秩序と、野心に満ちた、略奪的な中国の秩序の、どちらかを選ぶしかない。

NYT May 22, 2018

Germany’s New Face in Foreign Affairs

By Anna Sauerbrey

FT May 23, 2018

China and India compete by twisting history

JAMIL ANDERLINI

FT May 23, 2018

The exorbitant cost of Trump’s America going it alone

EDWARD LUCE

ドナルド・トランプは自己破滅的な取引の天才である。第1に、中国のアメリカに対する貿易黒字をなくすように要求した。第2に、交渉チームを分断し、混乱させる。第3に、中国が意味のないいくつかの譲歩を約束すると、要求を取り下げた。

この姿勢の乱暴な転換はどのような代償を意味するか? 即座に、アメリカの交渉力が低下する。しかし、より重大な、累積するコストは、グローバルなシステムの修復が困難になることだ。もしトランプが2020年に再選されるなら、そのショックは最初の当選どころではない。

ヨーロッパは、アメリカ抜きでイラン核合意を維持しようとするだろう。そしてその行動は他の分野でも習慣となる。トランプは北朝鮮と再び核兵器のチキンゲームに落ち込むのか?

PS May 23, 2018

A Bilateral Foil for America’s Multilateral Dilemma

STEPHEN S. ROACH

SPIEGEL ONLINE 05/24/2018

Economic Superpower

Chinese Expansion Has Germany on the Defensive

By DER SPIEGEL Staff

FP MAY 24, 2018

Trump Has No Idea How Diplomatic Deals Work

BY ILAN GOLDENBERG

今週、NYTが、トランプ政権の中国との通商問題に関するハイレベル交渉に関する詳しい中身を報じた。

オバマ政権でイラン核合意に関わった経験から判断して、トランプ大統領の経済チームが行った中国との交渉はことごとく間違っていたと思う。Treasury Secretary Steven Mnuchin, U.S. Trade Representative Robert Lighthizer, Director of Trade and Industrial Policy Peter Navarro, Chief Economic Advisor Larry Kudlow, and Commerce Secretary Wilbur Rossは、まさに国際交渉でしてはならないことの教科書的なケースを示した。

準備できていない。・・・交渉団は同じページを開けて席に就くべきだ。それは準備によって統一した交渉姿勢がまとまっていることだ。しかし、トランプのチームは基本姿勢がバラバラで、ただ1人、トランプだけが判断できる。しかし、彼は細部を知らない。事前に合意がないため、重要な点で幹部が席を外し、室外で交渉し始める。このような姿勢では、交渉相手がさらに警戒し、譲歩しなくなる。なぜなら、いったん合意した話を、後で蒸し返し、さらに要求するかもしれない、と疑うからだ。

自分たちの内部事情を漏らす。・・・交渉中に内部情報を漏らせば、双方が国内の反対派を抱えるために、合意は難しくなる。しかし、トランプはTwitterで交渉中の情報を流した。

立場によって異なることを主張する。・・・交渉チームの異なるメンバーが、異なる見解を公表した。合意した結果への評価がバラバラであるような相手と、まともに交渉する者はいない。

トランプ政権は重要な交渉を控えている。北朝鮮との核兵器、イランとの核合意から離脱した後、NAFTA再交渉、いずれについてもトランプとそのチームに外交の能力があるとは思えない。


● マイクロソフト

NYT May 18, 2018

What the Microsoft Antitrust Case Taught Us

By Richard Blumenthal and Tim Wu


● 国際資本移動とアルゼンチン

FP MAY 18, 2018

Mauricio Macri Was Supposed to Be Different

BY OMAR G. ENCARNACIÓN

2015年に大統領となったマクリMauricio Macriは経済競争力を高めるため、前任者の政策を否定し、社会支出の削減、通貨管理の廃止、保護主義の放棄を約束した。マクリの経歴は、アルゼンチンの金融支配層の家系、コロンビア・ビジネス・スクールとペンシルヴェニア大学ウォートン校の学歴を含め、ウォール街やトランプ政権が歓迎するものであり、国際社会における、アルゼンチンの経済的栄光を回復させる人物と期待された。

しかし、IMFからの300億ドルの融資というニュースは、2001年、2002年の金融崩壊という悪夢を思い起こさせた。数百万人の中産階級が困窮し、抗議デモと略奪なのかで20人以上が死亡した。当然、ペロニストの野党からは即座にIMF交渉を非難する声が出た。連立政権内の閣僚も、IMFの治療は病気そのものよりも悪い、と警告した。

マクリ自身にも責任がある。外国投資と高利回り債の発行に依存し、アルゼンチン経済への信頼を外国投資家に誇張した。政府は、財政赤字削減も、汚職一層も、インフレ抑制も、達成できなかった。選挙公約は実現できていない。

アルゼンチン経済とマクリの将来に、IMF融資がどのように影響するかは、まだ、何とも言えない。

FT May 19, 2018

China offers protection amid the dance of the trillions

JAMES KYNGE

グローバル資本主義の最強の力は目に見えないものだ。何兆ドルもの投機的資本が、摩擦なく、新興経済に出入りしている。しかし、流出することは破局となりうるし、経済を破壊して、その再建に苦痛をもたらす。

今週、新興経済に集まる、最新の流動性パーティーが終わりに近づいた。アルゼンチンやトルコのように、投機の突風で打撃を受ける国もある。ドルが強くなるとき、根無し草の資本はドルに向かって還流し、発展途上国に犠牲となる国がある。それが金融的な天候の気圧配置と前線だ。

2008年の金融危機後、金融緩和が続いたために、発展途上諸国の非金融部門でドル融資が、10年前の1.5兆ドルから、昨年末には3.7兆ドルまで増えた。ドル高は債務の維持コストを増やし、投資家たちは債務国の審査を厳しくする。疑いがあれば、資本が流出する。問題は、最初の突風が台風になるか、ということだ。

トルコのエルドアン大統領のように、政治指導者が市場に挑戦しても無駄である。しかし、アナリストたちは新興市場の回復力に注目している。それは1990年代後半のアジア通貨危機にはなかったものだ。その最大の違いは、中国とアジア地域全体の台頭が、投機的な売り圧力に対する防波堤になっていることだ。

中国は今や世界第2の経済規模であり、人民元を守る外貨準備は3兆ドルもある。こうした中国の存在は、アメリカとドルの影響圏から離れる、もう1つの軌道があることを示している。2012年から2016年まで、世界の経済成長の34%は中国がもたらしたものであり、それはアメリカ・EU・日本の合計を超えている。製造業のサプライチェーンはアジア全体に広がり、その回復力を支えている。

北京は人民元の為替レートをドルに対して安定化しており、香港もそうだ。インドネシア・ルピーなど、アジアの通貨で下落したケースもあるが、その程度は抑えられている。米中貿易摩擦が高まれば、中国はますます経済の安定化に強い姿勢を示すだろう。米中のパワー・プレーが続く間、資本移動も中国の安定化に従う。


● 米朝会談と核危機

NYT May 19, 2018

Ending the Dead End in North Korea

By James Clapper

FP MAY 21, 2018

Security Brief: Trump Has Second Thoughts on DPRK; Pompeo’s ‘Plan B’ for Iran

BY ELIAS GROLL

FP MAY 22, 2018

Forget the Libya Model. South Africa Shows the Path to Peace With Pyongyang.

BY TERENCE MCNAMEE

南アフリカの非核化プロセスを進めば、北朝鮮は孤立した無法国家の地位から脱し、国際社会に復帰して繁栄できる。かつてアパルトヘイトによって南アフリカがそうだった。デクラークは、正当にも、核兵器が国際的な信頼を損なっていることを理解した。

PS May 23, 2018

North Korean Action for US Words?

CHRISTOPHER R. HILL

NYT May 24, 2018

Trump’s Relationship With North Korea Just Got More Dangerous

By Nicholas Kristof

NYT May 24, 2018

Think Military Strikes Could Stop North Korea? Try It and See.

By MARK FITZPATRICK

ホワイトハウスは予防的な軍事攻撃が実行可能なオプションだと信じている。しかし、このシミュレーションを試せば、それほど単純ではないことがわかるだろう。

威嚇と挑発。首脳会談の提案。キャンセル。

北朝鮮が大陸間弾道ミサイルの実験を再開し、成功する。

トランプ大統領が「予防的」軍事攻撃を求める。北朝鮮に教訓を示すための「ブラッディー・ノーズ」作戦。日本海の空母からトマホーク巡航ミサイルで攻撃する。目標は、活動が見られないミサイル打ち上げ基地。

これによって、キムはトランプ大統領が軍事力を保持するだけでなく、それを使用する意志を持つことを確信し、核開発計画を終わらせる交渉に応じるはずだった。しかし、そうならない。

攻撃は人命の損失を避けるよう意図されていた。しかし、犠牲者が出た、と北朝鮮は発表。

キムは、アメリカの最後通牒を拒否し、攻撃は限定的だ、という保証を信用しない。彼の軍事顧問たちは、反撃しなければ降伏とみなされ、アメリカの次の攻撃を刺激する、と主張する。

北朝鮮は、西海の紛争海域にある島に駐留する韓国軍を砲撃する。約100名の兵士と民間人が死亡する。2010年に、同様の砲撃で、より小規模な犠牲が出た。当時の韓国軍のルールは報復を小規模に抑えた。

しかし、その後にルールは変更された。韓国軍は、今回、即座に大規模な報復を行う。北朝鮮の砲撃基地と駐留拠点を、空軍が爆撃する。

相互防衛条約の下で、アメリカ軍はそれを支援する。

北朝鮮は長距離砲で反撃する。非武装地帯から30マイル以内のすべての軍事基地、数十カ所の韓国軍とアメリカ駐留軍を攻撃する。約1000名が死亡する。

アメリカ兵の死に対して、トランプ大統領は迅速かつ撤退した報復を約束する。

外国人が韓国を脱出し始める。ソウルからの避難が始まるが、高速道路や橋が渋滞して動けない。軍の北への移動も止まる。

北朝鮮は100基の長距離砲に加えて、25005000トンはある化学兵器を使用するだろう、という恐怖が広がる。トンネル、低空飛行、小型潜水艦で特殊部隊が侵入する。

1週間で、韓国・アメリカの合同軍は北側の数百の長距離砲を破壊し、弾道ミサイル発射システムも破壊する。北朝鮮の防空システムは制圧され、境界線の両側で約10万人の犠牲者が出る。北朝鮮の特殊部隊は韓国で破壊活動を続ける。

米韓合同軍が北への侵攻を準備する中で、中国は次の展開を予想し、習近平がトランプに警告する。北朝鮮との友好協力条約に従い、米軍が北に対してさらに攻撃するなら、それを阻止するための必要なあらゆる手段を取る、と。

シチュエーション・ルームには、アメリカが中国の要求を呑むべきではない、という者もいる。新興の大国との戦争は避けられない、と。

トランプ大統領は、中国との戦争があまりにも高くつくことを理解する。中国が北を非核化するという約束と交換に、軍を撤退させる。

しかし、中国の約束はあいまいで、検証できない。

北朝鮮の化学兵器と通常兵器で多くの犠牲者を出した韓国は、攻撃を容易に中止しない。アメリカの支援なしに数か月の攻防戦を続けた後、ソウルも停戦に応じる。100万人が死亡し、朝鮮半島では分断状態が続く。

アメリカの安全保障が改善されたとは言えない。

NYT May 24, 2018

Canceling of Trump-Kim Meeting Upends Asia but Could Help China

By Jane Perlez

NYT May 24, 2018

Trump’s Gamble Hits Reality Check in North Korea Negotiations

By David E. Sanger

トランプ大統領は北朝鮮の指導者に、まるで不動産開発業者のようにアプローチする。将来の繁栄という、素晴らしい物件があるから、キムはこれに飛びつくはずだ。

しかし、核兵器をめぐる交渉は違う。ペリーWilliam Perry元国防長官は、彼らが取引に応じない、と言う。彼らの最優先目標は安全保障だから。彼らはアメリカが北朝鮮を滅ぼす力があると知っている。だから、唯一の方法は段階を踏んで進むことだ。

北朝鮮が直面するのは、かつてのイランと同じ問題だ。対立をエスカレートするべきか? 核兵器をゼロにすることはできないだろう。もはや手遅れだ。トランプに達成できるのは、2015年のイラン核合意に似たものである。

つまり、トランプは2つの核危機を抱えるわけだ。離脱したイラン核合意と、これから合意する北朝鮮。

FP MAY 24, 2018

Now That the Summit Is Off Between the U.S. and North Korea, What’s Next?

BY EMILY TAMKIN, ELIAS GROLL, DAN DE LUCE

FT May 25, 2018

North Korea sceptics proved right

Katrina Manson and Demetri Sevastopulo in Washington

FT May 25, 2018

Libyan remarks may have sunk Donald Trump’s North Korea summit

GIDEON RACHMAN

Bloomberg 2018525

Trump Can Win by Walking Away From Korea Talks

By Eli Lake


● 金融改革

FT May 20, 2018

This is exactly the wrong time to roll back financial reform

RANA FOROOHAR

FT May 22, 2018

Chinese fintech’s global future is arriving now


● ドルの失墜

FT May 20, 2018

America beware: dollar supremacy is not forever

ESWAR PRASAD

グローバルな金融システムにおけるドルの支配的地位は、トランプ政権と共和党が支配する議会によって浸食されるだろう。

トランプ氏はしばしばドル安を求める。しかし、そのような発言だけでドルが信用を失うことはないだろう。より深刻な、侵食性のダメージは、アメリカの財政基盤を損なうこと、その信頼性や、諸制度の力を損なうことから生じる。

アメリカの政府・企業債券市場は巨大であり、金融危機で不安を感じた投資家たちが世界中から資金を逃避させる。その信用の基礎は、中央銀行が政治的介入から独立しており、独自の司法システムが法の支配を監督していることである。

しかし、トランプ政権は貿易や軍事、その他の国際的取極めを損ない、同盟諸国からも信頼できない相手とみなされている。トランプがドルを他国に対する支配の道具に利用する、という懸念がある。すでに中国は、韓国との間で取引にドルを仲介しない合意を得ている。また中国とロシアは、アメリカの金融システムを経由しないエネルギーの決済システムを築いている。

アメリカ・ドルの地位は、トランプの下で、いつまでも維持できないだろう。

FT May 21, 2018

Consequences of the Great Fiscal Divergence

GAVYN DAVIES

PS May 21, 2018

Learning from America’s Forgotten Default

SEBASTIÁN EDWARDS

Bloomberg 2018522

The Untold Story of FDR and the Battle Over Gold

By Sebastian Edwards


(後半へ続く)