IPEの果樹園2018

今週のReview

5/21-26

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マレーシアの政権交代 ・・・イギリス王室の結婚式 ・・・仮想通貨と中央銀行 ・・・イタリア政府のユーロ改革 ・・・イラン核合意とエルサレム移転 ・・・モディも強権に向かうか ・・・ドル高とデフォルト ・・・ハイテク大企業の論争 ・・・良いフェンス ・・・3度目のドイツ帝国 ・・・中国の貿易戦争 ・・・中国の人権問題

[長いReview

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


● マレーシアの政権交代

FP MAY 11, 2018

Anger Broke the Fix in Malaysia’s Elections

BY BETSY JOLES

The Guardian, Tue 15 May 2018

At last, tyranny has ended in Malaysia. Now let’s build an open society

Nurul Izzah Anwar

先週の水曜日、マレーシア人民のパワーが、与党・国民戦線の61年間の支配を終わらせ、平和的な民主的権力移行を達成した。われわれにとってのベルリンの壁がついに倒れたのだ。1957年の独立以来、たった1つの支配政党がこの国を統治してきた。13回の総選挙で勝利した、もしくは、勝利を奪ったのだ。

特に、この30年間は、マレーシアの人権が著しく侵害されてきた。政治運動家、風刺漫画家、ジャーナリスト、野党政治家が弾圧された。ナジブNajib Razak元首相の汚職事件、1MDBスキャンダルで、マレーシアは世界で最も汚い政治の国となった。法廷は独立性を奪われ、検察や警察は政府の傭兵であった。

選挙の不正や選挙区の変更が広くあったにもかかわらず、マレーシア人民は59日の投票で政治の波を起こした。「虹の連合」Pakatan Harapan222議席中の113議席を得て、新しい政府を組織する。

人民は、決して、もう2度と政府を恐れてはならない。

われわれは、強固な、活気ある民主主義を求める。人権が尊重され、汚職を何1つ許さない。人ではなく、原則と政策に依拠した政府を求める。これまでの腐敗した指導者たちが人民から奪い、国際的な銀行口座に隠した資金、豪華な住宅、ピカソの絵画、ヨット、ブランドのバッグ、ピンク・ダイヤモンドを買って浪費した、数十億ドルの不正資金を返還するよう要求する。

教育と医療を改革し、開放的で、活気ある、多文化的、寛容な社会を築くのだ。そこにおいては、真実、正義、人権、法の支配が、すべての者のためにある。


● インセルとは何か?

FT May 12, 2018

‘Incels’ are wrong: sex is not like income

ALEXANDRA SCAGGS

MeToo運動で多くの著名人が失脚する一方。異なる文化戦争が始まった。悪意に染まったインターネットのコミュニティーとして「インセル」“incels”が、トロントの殺人犯に影響を与えたと言われる。これは“involuntary celibates”の省略語であり、性的なパートナーを見つけることができない者が自分たちに関して意見を述べ合う集団だ。

そのメンバーの1人は、2014年、カリフォルニアで6人を殺害した。彼らは女性に、特にフェミニストに激しい憎しみを抱いている。

彼らに関して、セックスと所得との相関を指摘する経済学者がいた。その主張は間違っている。所得は、移転可能な商品によって示された富の量である。セックスは2人の人間の合意で行われ、移転不可能だ。富を再分配するように、セックスの再分配を主張することはできない。「インセル」の対策として、売春やセックス・ロボットを合法化する、というのは間違いだ。

「インセル」の問題は、パートナーを社会的評価と結びつけることだ。それはホッブズ的な「万人の万人に対する競争」において、パートナーの獲得や社会的地位を最大化している、という社会進化論だ。アメリカには、こうした発想が広く存在する。20世紀初めには、30以上の州で、強制的な不妊を合法としていた。今も、IQが遺伝的に決まるとする主張が強い。

こうした意見は、アメリカ版のメリトクラシー論であり、スキルや能力の遺伝性を強調して、極端な不平等を正当化する。

さらに奇妙なことだが、マルクスの平等主義により、「インセル」はセックスの平等や再分配を主張する、という者がいる。しかし、マルクスはそのような「平等」を主張したのではなく、労働者が商品として取引されることを批判した。


● イギリス王室の結婚式

NYT May 12, 2018

How a Black Feminist Became a Fan of Princesses

By Maya Rupert

FT May 16, 2018

Prince Harry and Meghan’s wedding tests Britain’s royal reflexes

FREDERICK STUDEMANN

イギリス王室の結婚式をめぐるいつもの話題が盛りだくさんだ。いつもの登場人物も。熱心な反対論者たちも。イギリスのエリートと庶民との違いがみられる。

今回の特別な点は、イギリス王位継承者の第6位に、離婚歴のある、混血の、アメリカ人、女優が入ることだ。2人はこれまでと異なる結婚式を選んだ。ウェストミンスター大聖堂ではなく、ウィンザー城で。

いずれにせよ、そのセッティングは印象的である。結婚式は王室の変化を表現している。この10年間で、国民の王室に対する態度は大きく変化した。若い世代の参加、92歳のエリザベス女王と、ヨーロッパ史上最長の王位に対する尊敬。1990年代の荒涼とした王室に代わって、再び王室は永遠のイメージを回復し、生き延びるために変身した。

アメリカNetflixのテレビ番組The Crownも影響している。そして、現実世界の大きな不安だ。Brexit後のイギリスにはUK崩壊も懸念されている。しかし王室は、そのUKの憲章の一部となった制度である。皮肉なことに、現実の権力は持たず、それは出生の偶然に支配される。

かつてウォルター・バジョットは「高貴な魔術」と書いた。王室は、特に女王は、永久性を示す。しかし、それがいつまで続くか、次の移行は何か、それはわからない。


● アメリカの政治変化

NYT May 12, 2018

Liberals, You’re Not as Smart as You Think You Are

By Gerard Alexander

NYT May 14, 2018

The American Renaissance Is Already Happening

By David Brooks


● 戦争と「母の日」

NYT May 12, 2018

Dear Mom, the War’s Going Great

By Mitchell Yockelson

1918512日、日曜日の朝、Arthur Wolffは母に4ページの手紙を書いた。第306歩兵連隊の隊長であった彼は、フランスのカレーに駐屯していた。彼は戦線から離れて安全であったが、前線から巨大な砲撃の音が聴こえた。Wolffは母を安心させるために4週間おきに手紙を書いたが、この手紙は特別であった。それは母の日だった。

現代と違い、第1次世界大戦では、Wolffのような兵士と家族をつなぐのはペンと紙だけだった。19185月までに、アメリカは100万人もの兵士を西部戦線に展開していた。それは、混乱した忠誠心と帝国の野望をめぐる遠くの戦争だった。彼らの戦意を高めるのは、家族のことを思い出すときだった。

家族との絆の重要性を最もよく知る人物は、アメリカ遠征軍の司令官、John J. Pershing将軍であった。191858日に、アメリカ兵士が母の日の手紙を書くよう、強く求める命令を発したのは彼だった。「これは11人がする小さなことだが、われわれの勇気と母への愛情を呼び起こし、母の愛と祈りをわれわれの戦意と勝利への激励とする。」

負傷してペンを持てない兵士たちは、赤十字のボランティアの助けで口述した。母のいない兵士は、それに代わる男女に手紙を書くように求められた。

彼らは同じ願いを抱いていた。戦争が早く終わる、ということだ。しかし、停戦によって銃撃がやむまで、さらに6か月を要した。そのときWolff隊長は母に書いた。村々が破壊され、田畑は荒らされ、砲撃の穴があちこちにあった、と。戦闘が終わったとき、5万人以上の母親が息子を亡くしていた。

ウッドロー・ウィルソン大統領は、海外の戦場で息子や娘を亡くした母親たちに、金色の星を付けた従軍旗を掲げるように勧めた。1928年、American Gold Star Mothers Incが組織され、今も活動を続けている。


● 教育を受ける権利

PS May 13, 2018

Maintaining the Momentum Toward Universal Education

GORDON BROWN

一見したところ、大量の人々が文字を読めない状態は、容易に解消できそうに思うだろう。技術革新も科学的な発見も必要ない。良い教師と学校のために資金を費やすことで、すべての子供たちは教育を受けられる。それを実行する政治的意志があればよい。

しかし、国民すべてが教育を受けることは長年の人類の目標であったが、実現にはまだ遠い。現在、75000万人の成人たちが、その3分の2は女性だが、文字を読めず、26000万人の子供たちが学校に行っていない。

教育は、1948年の世界人権宣言に表明された基本的権利である。すべての人が初等教育を受けることは、2015年、国連のミレニアム開発目標にも含まれた。すべての人に教育を提供することは2030年に向けた持続的開発目標の1つである。

こうした約束にもかかわらず、国際社会は世界中の子供たちに教育を提供していない。2030年までに、現代の労働力として必要な教育を受けないまま、推定8億人が成人するだろう。たとえば、アフリカでは、典型的な高所得国に比べて、教育を受ける人々の水準が100年も遅れている。前世代は月にまで到達したが、われわれの世代は普遍的な教育、地球上のすべての子供たちに学校を提供できないままだ。

この目標を達成するために、私が議長となっているthe International Finance Facility for Education (IFFEd)が設立された。IFFEdは、開発のための資金を、教育システムの改革を重視する諸国に供与されるように求めている。われわれが伝えているメッセージとは、もしすべての人々に教育を受ける権利が保障されれば、最も貧しい諸国の1人当たりGDPは、現在の趨勢を続けるよりも、およそ70%は増えるだろう、ということだ。若者たちは技術革新を担う者、あるいは、教師、あるいは、指導者となって、その潜在的な能力を大きく実現するだろう。

PS May 14, 2018

Learning from Liberia’s Educational Partnerships

MARCUS S. WLEH


● 仮想通貨と中央銀行

VOX 13 May 2018

Cryptocurrencies’ challenge to central banks

Antonio Fatás, Beatrice Weder di Mauro

電子的な貨幣に中央銀行が関心を持つのはなぜか? ゼロ近辺からマイナス金利の政策を模索する中央銀行は、現金への逃避と戦わねばならない。キャッシュレス社会では、金融政策がゼロの壁を無視できるかもしれない。また、現金の匿名性は、脱税や犯罪などに利用されやすい。現金がなければ、こうした行為は非常に難しい。

最近、中央銀行は新しい民間人工貨幣との競争を強いられている。それは貨幣の発行特権を失う危険を意味する。すでに一部の中央銀行は、ドル化のような、よく似た状況に陥っている。中央銀行の選択肢は? 電子通貨を支持する理由は? 反対する理由は何か?

仮想通貨を発行することのリスクは非常に高い。他方で、その効率性改善という利益は大きくない。


● イタリア政府のユーロ改革

FT May 14, 2018

Italy looks for ways out of its eurozone fix

WOLFGANG MÜNCHAU

五星運動と連盟との連立政権が登場しつつある。最近まで、2つの正当ともユーロに強く懐疑的であった。

彼らはギリシャのケースを詳しく研究してきた。彼らは最初からEUの財政ルールを違反しないだろうし、ユーロ圏離脱で脅すこともないだろう。しかし、これは戦術的な後退と観るべきだ。ユーロ圏として、イタリアの問題は何も解決していないし、構造改革は進まないだろう。

選挙戦で、両政党はイタリアの経済・社会政策をラディカルに転換し、移民に関しても強い反対姿勢を約束した。連盟はフラット・タックスを、五星運動はベーシックインカムを主張した。両党とも2011年の年制度改革を元に戻すと主張した。連盟は「ミニBOT」、すなわち、債務を将来の税収で保証し、国債を支払い手段として受け取り可能にする、言い換えれば、パラレル・カレンシー案を主張している。これはユーロ圏を離脱せずに、ユーロ圏の制約を回避する方法の模索だ。

これらを実行すれば、もちろん、EUのルールに違反する。しかし、新政権が目標を達成する方法はある。第1に、選挙公約を薄めることだ。第2に、政策の実行を遅らせることだ。前者は有権者と、後者はEUと、政府は対立することになる。

ユニバーサル・ベーシックインカムの主張を、アクティブな労働市場政策に転換する、という話を聞いた。原則として、これは良いことだろう。イタリアには労働市場政策がない。しかし、それは政治的に難しい。有権者には福祉の給付を約束していたのに、実際は職業訓練の切符を渡すことになる。

フラット・タックス案を、2つか3つの税率にした階段上の税制に変えることで薄めることはできる。もし景気が回復するなら、有権者は受け入れるかもしれない。しかし、イタリアの景気回復は、ユーロ圏が低成長で、財政政策の引き締めを求められているときには、不可能だ。

この政権とEUとの対立は、3つの点で争われる。財政政策、ミニBOT、移民である。

イタリアは財政ルールによって窒息している、と連盟の指導者は演説した。このルールを変えることは、イタリアが要求しても、不可能だ。マクロンとメルケルが合意すればできるだろう。しかし、彼らがルールを緩和せず、イタリアを拒むなら、イタリアが彼らに協力するとは思えない。

ミニBOTに関して、もしイタリアがその可能性を試すなら、EUがそれを阻止する方法はない。また連盟は、非合法移民を直ちに追放し、ローマの難民キャンプを撤去するつもりだ。この点で、ヨーロッパの共通移民政策という発想は、イタリアに通用しない。

たとえベルルスコーニが政界に復帰しても、彼の時代は終わった。イタリア政府は五星運動と連盟によって動き出す。そして、イタリアはギリシャではない。EUの合意を破壊する上で、彼らの動きはシリザと全く異なる意味を持つ。

VOX 14 May 2018

Euro area reform: No deal is better than a bad deal

Peter Bofinger

FT May 16, 2018

The Five Star-League proposals would blow the eurozone apart

TONY BARBER


● イラン核合意とエルサレム移転

FT May 14, 2018

The march to another Middle East disaster

1973年の六日間戦争によってイスラエルがゴラン高原を占領して以来、イスラエルとシリアの国境は平和であった。しかし、イランのロケット20発がシリア領内からイスラエルに発射されたことの報復として、イスラエル軍はシリア内にあるイランの拠点を爆撃した。

中東情勢は一気に悪化しつつある。トランプ大統領はイラン核合意の一方的な離脱を検討している。長年、イランの体制転換を主張してきた、国家安全保障顧問のジョン・ボルトンは、さまざまな党派の攻撃を煽っている。イスラエルの抑制ではなく、アメリカとの関係強化を唱えている。エルサレムへのアメリカ大使館移転は、火に油を注ぐ行為だ。

情勢が混とんとする中で、シリア内戦の鎮静化が危うくなっている。イスラエル軍は、レバノン南部を支配するヒズボラや、シリアでイランの関係する軍事力を、すべて破壊すると主張した。しかし、イスラエルがレパントにおいて軍事勢力の同盟形成に強い介入を行うことで、イランの勢力拡大を阻止することは難しいだろう。レバノンではヒズボラが選挙で勢力を拡大した。シリアにおいてイランを攻撃することは、権力の真空地帯を生じる。

イスラエル、イラン、双方の無制限な反撃を抑えることができるのは、双方に対話のチャンネルを持つロシアのプーチン大統領だけである。

SPIEGEL ONLINE 05/14/2018

Revolution from Above

Prince bin Salman Drags Saudi Arabia into Modernity

By Susanne Koelbl

PS May 14, 2018

Trump’s War of Choice

SHLOMO BEN-AMI

イラン核合意を破棄するトランプ大統領の目的は、イランの体制転換である。それはネタニヤフ首相がイランの違反行為を宣伝いたことに一致する姿勢だ。国内政治の劣勢を動機としたトランプとネタニヤフの連携は、ジョージ・W・ブッシュ大統領がイラクに対して試みた以上に、危険な中東情勢を生み出すだろう。

イスラエルだけが核武装を独占する方針は、中東情勢の安定化をもたらさなかった。

The Guardian, Tue 15 May 2018

There is a cost to Trump. We are seeing it now in Gaza

Jonathan Steele

イスラエル国境で抗議する若者たちは武装していない。彼らを排除するのは通常の警察による対応で十分だ。しかしイスラエルは銃撃して多数を殺害した。

ハマスは、封鎖の解除と交換で停戦を提案した。イスラエルがそれを拒んだことで、若者たちは絶望し、命の危険を冒してまで境界線のフェンスに抗議するのだ。

ハマスは、イスラエルの頑迷さと冷酷さを訴えるために、明らかに若者たちの抗議を奨励している。しかし、若者たちの抗議活動を、あたかも操られたロボットのように、「ハマスの人間の盾」と称することは、ガザの住民が抱く不満と怒りを矮小化するものだ。

抗議活動の源は歴史に発している。パレスチナ人たちは70年前のイスラエル建国を思い出すのだ。それは巧妙に行われた数万人のパレスチナ人に対するエスニック・クレンジングであった。彼らが求める補償と再建は、何十年間も無視されてきた。パレスチナ人は、問題が未解決であることを消し去ることがないように闘っている。

SPIEGEL ONLINE 05/15/2018

Chasing Paradise

A Palestinian Clan Dreams of Going Home

By Alexander Osang

NYT May 15, 2018

Trump’s Dream Come True: Trashing Obama and Iran in One Move

By Thomas L. Friedman

トランプは、イランに対する強硬姿勢を取り、イランの悪行に注意を向け、その核合意を改善しようとした。そうであれば、オバマの取引の良い点を認め、その限界を改良するために、ヨーロッパ諸国と協力する必要があっただろう。

しかしトランプは、最大限の要求をし、橋を焼き払って、ドイツ、フランス、イギリスとも反目し、イランの穏健派を弱らせた。トランプはこの複雑な、多次元に及ぶテヘランとの対立を、アメリカだけで解決できると主張する。

それはどうか? ストリッパーとの和解にも手こずる大統領が、またホワイトハウスからの情報漏えいを阻むこともできないのに、イランと対決し、北朝鮮と交渉し、中国と、ヨーロッパと、そしてメキシコとも貿易戦争をすることが可能だとは思えない。

オバマは8年間の任期が終わるころ、中東の指導者たちすべてを信用できなくなっていた。オバマの中東政策はミニマリストであった。すなわち、最大の脅威を抑えるために、シンプルに行動する。それが、ドイツ、フランス、イギリス、中国、ロシアを加え、最も危険な兵器、核兵器を、最も危険な相手、イランの手から遠ざける合意であった。

オバマは、イランが世界に統合され、穏健派の体制になるだろう、と願ったが、それは実現しなかった。イランは、核兵器の水準までウラン濃縮を15年間行わない制約を受け入れ、それと交換に、経済制裁の緩和を得たのだ。IAEAによれば、この2年間イランは合意を守っている。

対照的に、トランプのチームはマキシマリストである。すなわち、イランの弾道ミサイルを制限し、スンニ派への帝国的な拡大を逆転し、ウラン濃縮を決して行わないと受け入れさせ、可能なら、その体制を転換させる。

しかし、イスラム体制が崩壊した後のイランを、だれが支配するのか? アラブの春の教訓とは、専制国家が崩壊した後、ほとんどの国で、それに代わるのは民主体制ではなく、無政府状態と独裁制である、ということだ。8000万人のイランがシリアのような状態になれば、それは中東全体を不安定化し、ヨーロッパに多くの難民が向かうだろう。

イランがアラブ世界で影響力を拡大したのは、トランプたちが言うような核合意による制裁解除で得た資金を使ったからではない。スンニ派の諸国家が弱体化し、内紛を続けていたからだ。それは権力の真空を生んで、シーア派の軍事勢力が拡大した。彼らが行っていることはエスニック・クレンジングである。

トランプがイランを追い出すと主張するのは良い。しかし、そのための戦略はない。合意を離脱するより、ヨーロッパ諸国に対して、合意にとどまるための3つの条件を提示すべきだろう。すなわち、1.ウラン濃縮の制限を15年から25年に延長する。2.イランがヨーロッパもしくはアメリカに到達する弾道ミサイルを開発すれば、制裁を強化する。3.アメリカとヨーロッパは、シリア、イラク、レバノンにおけるイランの「占領」を、外交的な焦点とする。

ヨーロッパ諸国はこの条件に飛びつくだろう。それは西側の統一を守り、イランの脅威を抑え、国内の穏健派を強化する。

何と残念なことか。われわれは最も親密な同盟諸国と連帯することなく、イランと取引する彼らの企業を制裁すると脅している。

FT May 16, 2018

Israel’s disproportionate response to the Gaza protests

FT May 16, 2018

Muqtada al-Sadr challenges Iranian influence in Iraq

DAVID GARDNER

FT May 16, 2018

Donald Trump is playing with matches in the Middle East

EDWARD LUCE

アメリカのエルサレムへの大使館移転は、一見、計算された挑発であるかのようだ。ドナルド・トランプ大統領は最も近い肉親であるイヴァンカとクシュナーを派遣した。パレスチナ人が故郷を失った70周年の抗議を行っていることには、言及しなかった。

同じ日、イスラエル軍は数十人のデモ参加者を殺害し、数千人を負傷させた。他方、ペンス副大統領は、不可能ともいえる戦いで、敵を撃退した聖書の巨人ダヴィデにたとえて、トランプを称賛した。

しかし、トランプたちの異常さは、デザインされたものではなく、怠慢によるものだ。彼がアラブ主義者たちの憎悪を煽るために行動したのであれば、それはこの上なくうまくいった。彼は自分の名前をどこにでも付けるし、行動計画に忠実だ。

しかし、大使館移転は、トランプの交渉による解決策を葬った。パレスチナ人はテーブルにもはや就かないだろう。アラブの親しい指導者たちも対応に苦しむ。彼らはイスラエルの生存権を容認する姿勢に近づいていた。なぜ、外交ではなく、戦争を望む必要があるか?

情勢は急速に悪化している。ジョージ・W・ブッシュでさえ、アメリカがイラクで戦争を選択するのに、アラブ人の反応を心配した。しかしトランプはアラブの王室を気遣うだけだ。彼らはトランプがシーア派とスンニ派の紛争で、自分たちの側であることに満足している。

歴史を学ぶ学生は、ヨーロッパのカトリックとプロテスタントが対立した「30年戦争」を思い出すだろう。中東はその再現であり、アメリカの国益はこの地域が大国によって支配されるのを防ぐことだ。他の大統領なら、アメリカは「オフショア・バランシング」を目指したはずだ。それは地域の少数派を助けて、均衡を維持すること、すなわち、今ならイランを助けることを意味する。トランプは逆だ。

イラン核合意からの離脱は、アメリカをスンニ派陣営に加え、レフェリーの役目をロシアのプーチンに与えたことを意味する。

中東和平は忍耐のいる外交だ。イスラエルは、ユダヤ人が生存の危機を経験した歴史に由来する特別な使命を負っている。他方、パレスチナ人はその過程で故郷を失った。彼らの要求はオークションで売買できるものではない。その相いれない立場を知ることから、公平な仲介が始まる。世界はトランプの2国家案を待っている。

トランプは選挙中の約束を実行した。アメリカ大使館のエルサレム移転。イラン核合意からの離脱。その通り。しかし、彼は肝心の約束を果たせるのか? 「私だけが解決できる。」

FP MAY 16, 2018

Netanyahu Needs Conflict to Survive

BY DAHLIA SCHEINDLIN

FP MAY 16, 2018

How Europe Can Block Trump

BY ELLIE GERANMAYEH, ESFANDYAR BATMANGHELIDJ

アメリカの対イラン制裁にEUが参加しない場合、アメリカはイランと取引するEU企業に制裁を科すかもしれない。しかし、以前のケースでも、EUはこれを阻止できた。アメリカの制裁による不利益を、企業はEU内で訴えることにしたからだ。

PS May 17, 2018

Europe Must Confront America’s Extraterritorial Sanctions

JEFFREY D. SACHS

FP MAY 17, 2018

Trump’s Jerusalem Theatrics Have Dealt A Blow to Peace

BY PREM G. KUMAR

FP MAY 17, 2018

Here’s What Trump Should Do Post-Nuke Deal

BY MICHAEL SINGH

FT May 18, 2018

Iraqis spring a surprise with Sadr poll victory


● モディも強権に向かうか

FT May 14, 2018

How India’s Narendra Modi will shape the world

GIDEON RACHMAN

世界は強権指導者が増える傾向を示している。中国、アメリカ、ロシア、トルコ、フィリピン。インドのモディNarendra Modiもそうだろうか?

モディの政治スタイルはプーチンやエルドアンほど脅迫的でないし、トランプやドゥテルテほど粗野でもない。また習よりも多くのチェック・アンド・バランスを受けている。

しかし、ここでも同じ不安の声を聴く。リベラルは言論の自由や法廷の独立性が失われる不安を語っている。指導者は巧妙に社会を分断し、政治基盤を強化している、と。

モディとトランプの比較が示唆的である。2人とも、既存の民主的制度の下で選挙に勝利した。自分はサイレント・マジョリティーを代表すると主張し、エリートを敵視した。次第に、テレビやソーシャル・メディアの過激な政治的主張と連携した。

しかし、18000万人のイスラム教徒を社会の外部に締め出す発言は、大きな危険を意味する。モディの与党BJPは、しばしば、「ヒンズー・ナショナリスト」と呼ばれる。最近、8歳のイスラム教徒の少女が、インド北部の山岳地でギャングにレイプされ、虐殺された事件は恐るべきものだ。しかし、地元のBJP政治家は犯人たちを支持するデモに参加した。彼らはヒンズー教徒だった。モディの反応は遅い。それは、批判するより、擁護していることを意味する。

しかし、モディの支持者たちは、2014年の選挙で勝利した頃の宗教対立を挙げて、その感情が今も続いている、と慎重な態度を説明する。っモディ以前の時代には、もっとひどい事件が多発していた。

モディの政治同盟は、文化対立よりも、彼の開発政策や経済問題を支持している。グジャラート州知事として経済改革に成功し、高い成長を実現した、という評判を得ているからだ。しかし、首相となってからの成果は、高額紙幣の「非貨幣化」は有益であるより有害であったし、全国一律の税制導入でも、長期の成長を促すものであったが、複雑すぎる。

経済成長と改革の成果、高い個人的人気で、モディが2019年お選挙で勝利すれば、むしろリベラルの不安は強くなる。ロシアも、トルコも、政権が長期化するほど強権体質が強まった。


● 政府への助言

FT May 14, 2018

Advice and Dissent, by Alan Blinder

Review by Alan Beattie


● ドル高とデフォルト

PS May 14, 2018

Managing the Risks of a Rising Dollar

MOHAMED A. EL-ERIAN

アメリカの金融政策は、主要な中央銀行の金利正常化の動きもあって、金利上昇が予測される。2017年は、アメリカからヨーロッパの成長回復へ、また、高い成長を示す他の地域へ資本が流出していた。

しかし、この数か月はアメリカの成長率が高くなって、その差は逆転した。ヨーロッパや新興市場への資本流出が減って、すでに逆転する者もあらわれた。そのリスクを抑える十分な政策手段はある。それを個別の政府も、国際協調においても、採用するべきだ。実際、ドル高はグローバルな均衡回復を促すものである。ただし、アルゼンチンが示したように、新興市場は苦しむ。

1990年代のアジア通貨危機もそうだった。ドル高が起きると、経常収支赤字国は通貨価値の下落が生じる。それを抑えるために国内金利を上げると、国内の矛盾や企業部門の信用リスクが高まる。通貨価値の下落を放置すると、インフレ加速や対外債務の支払い負担が増す。

多くの発展途上諸国が変動レート制を採用し、債務も国内の資金に頼るようになっている。しかし、今も2つの脆弱性がある。1つは、市場の浮動性が抑えられ、超低金利状態とドル安もあって、新興市場への資本流入が続いていたことだ。第2に、新興市場の民間企業が、例外的に有利なグローバル金融市場を利用してドル資金を取り入れたことである。

特に、デフォルトの歴史がある、経常収支赤字や他の金融不均衡がある、余りに多くの目標を少ない政策手段で追求するアルゼンチンのような国は、金融変数の変化に弱い。


(後半へ続く)