IPEの果樹園2018

今週のReview

5/14-19

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アメリカの抜けた世界 ・・・第1次世界大戦 ・・・中国の成長と植民地 ・・・米朝会談が拓く未来 ・・・イラン核合意からの離脱 ・・・カール・マルクスの失敗 ・・・中国ではなく、Faangsと闘え ・・・移民論争と政治 ・・・トランプの通商政策

長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


● アメリカの抜けた世界

NYT May 4, 2018

Trump’s Dangerous Global Retreat

By Bret Stephens

ドイツの空軍も海軍も、全く役に立たない。今なら、ルクセンブルグでもドイツを征服できるだろう。

世界で4番目の経済大国が、戦争のとき、自国を守れないことを誰も真剣に心配しないのか? NATOがある? しかし、トランプは嘘ばかりついている。

プーチンは間違いなくそれに注意している。

グローバルな秩序が解体しつつある世界には、独裁者の強気と、内向きの民主主義諸国のリスク回避が現れている。

193991日、すべての国が自国のことしか考えないときに世界がどうなるか、人々は学んだ。アメリカ大統領はそれを再現しようとしている。あまりに長く、パックス・アメリカーナを前提して、怠惰であった諸国は、警察官がいなくなった、と知るべきだ。

FT May 9, 2018

Donald Trump goes for global regime change

EDWARD LUCE

58日は、アメリカが同盟諸国への信用を破棄した日として歴史に記録されるだろう。ドナルド・トランプはイラン核合意を離脱して、テヘランではなくワシントンを、国際条約の違反者にした。この数十年間で初めて、アメリカはヨーロッパのパートナーなしに行動している。

2003年のイラク戦争は、イギリス、スペインなどに支持されたが、フランスやドイツは支持しなかった。これに対してトランプは、たいして苦しむこともなく、アメリカを全世界から孤立させた。

その最初の犠牲者は、グローバルな秩序である。アメリカは今や、有毒な国際対立の、イスラエルやサウジアラビアと同じ側にある。他の側には、中国、ロシア、ヨーロッパ、イランがいる。そして、もちろんそれに加えて、日本、インド、オーストラリア、カナダがいる。トランプはアメリカの最も重要な同盟諸国の訴えを無視した。

イギリスのボリス・ジョンソン外相が述べたように、イラン核合意に代わる案は存在しない。すなわち、外交ではなく、それは戦争である。

トランプは、ヨーロッパがなんとかして回避したかった最悪のジレンマをもたらした。すなわち、アメリカが指導するNATOの同盟諸国は、彼らが取りまとめた条約(それをイランも支持してきた)を維持するか、あるいは、アメリカ・ファーストの戦争集団と、ヨーロッパはほとんど何の影響力を持たないまま、仲間になる。前者の場合、イランと取引し続けるヨーロッパの銀行やエネルギー企業に、アメリカは制裁を科すだろう。後者の場合、ヨーロッパの判断は無視され、アメリカよりヨーロッパを大きく損なうような、中東の戦争リスクを冒す。トランプをおだてたマクロンの支持率が急落したように、アメリカと組むことは高い政治コストを意味する。

イランのロウハニ大統領は、ボールはヨーロッパのコートにある、と述べた。もし3人のMMerkel, May and Macron)が条約を維持するなら、イランもそうするだろう。その場合、西側は分裂する。ワシントンはヨーロッパの諸組織を制裁し、ヨーロッパは報復することを強いられる。

ワシントンが2次的な制裁を科すことは、致命的な意味を持つ。ロシア、中国、その他の諸国もイランとの取引を続けるだろう。アメリカが金融的な罰則を科せば、彼らも報復するだろう。

その影響は、中国との貿易紛争、金正恩への中国からの非核化圧力にも影響する。ヨーロッパや中東と同じく、アジアは膨れ上がる不安を持って、トランプを監視している。

誰もイラク戦争が始まる前の状況に似ているとは思いたくない。しかし、火曜日、トランプはイランに宣戦布告したに他ならない。アメリカの世界的地位は致命的な打撃を受けるだろう。

Bloomberg 2018510

What the U.S. Didn’t Learn From the Asian Financial Crisis

By Daniel Moss

アメリカは不完全な国際合意による仲間として世界を築く試みから離れて、アウトサイダーとして、もっと良い条件を主張するべきか?

1997-98年のアジア通貨危機が1つの教訓となる。アメリカは、自分たちがコントロールできない代案について、同盟諸国が考えることを拒んだ。それは今に関わる問題だ。イラン核合意だけではない。中国の影響力拡大にアメリカは苛立っている。TPP交渉に再参加することも考えている。

ドル高とアメリカの金利上昇で、新興市場は圧力を受け、20年前にアジア諸国でパニックが広がった状況を人々は思い出している。諸大国の動きは鈍かった。

アジア通貨危機の初期に、IMF・世銀とは別に、アジアの融資機関が必要だった。1997年、アメリカがタイへの救済融資に参加することを拒んだとき、アメリカのアジアにおける同盟諸国は失望した。わずか2年前、メキシコはクリントン政権が支持してIMF融資を受けていたからだ。

日本が、アジア通貨基金AMFとして、1つの考えをまとめ始めた。しかし、アメリカは、クリントンの財務省がそれを圧殺した。アメリカの強い反対、中国の沈黙により、日本は考えを取り下げた。東南アジア諸国や韓国を、日本は支援したが、それは不十分だった。日本自身が防衛をアメリカに依存し、経済状態が悪化していた。アメリカの反対するAMFを推進することはできなかった。

アメリカは、しばらくの間、日本に独自のアイデアを実現するよう、容認する方がよかっただろう。日米の緊密な政治・金融関係を前提すれば、それが財務省の考えたものでなくても、アジアの融資機関の運営に影響力を行使できたはずだから。AMFを潰したことは、近年、中国がワシントンを無視して独自の考えを復活させている。


● 第1次世界大戦

PS May 4, 2018

The Great Crack-Up, Then and Now

SHERI BERMAN

1次世界大戦(WWI)は莫大な破壊的影響を残した。およそ1000万人が死亡し、その3倍が負傷した。ヨーロッパは粉砕されたが、その後に襲ったインフルエンザの流行が、おそらく、5000万人を犠牲にした。

戦前は、王朝による独裁制や帝国がヨーロッパを支配していた。しかし、戦争はこうしたシステムを崩壊させ、1917-1920年に民主化が波及して、ロシア、ドイツ、オーストリア・ハンガリーで王室が廃止され、その後背地のヨーロッパにも民主化が広まった。しかし、王朝の終わりは民主的な安定性の新時代をもたらさなかった。むしろコミュニスト、アナーキスト、ファシスト、権威主義者、民主主義者が、戦間期を通じて、ヨーロッパの将来を争った。

オスマン帝国と連合軍との戦闘を公式に終わらせる和平は、むしろ一層の苦しみを生じた。1923年、ローザンヌ条約で、「人口交換」が合意され、120万人のキリスト教徒がトルコからギリシャへ、40万人のイスラム教徒がギリシャからトルコへ、強制移住させられた。

多くの新生諸国では内戦や国際間の戦争が起きた。旧帝国の後継国家は、それに劣らず苦しんだ。ドイツは、700万人以上の住民がいた25000平方マイルの領土を失った。新しい「外国」となった国に繋がれたドイツ人たちは、国家再興のナショナリズムに向かった。

ハンガリーも大幅に領土を削られた。短命な共産党独裁、隣国との戦争の後、さらに悪質な権威主義体制に変わった。今日にまで、ハンガリー王国が失った領土の3分の2、人口の5分の3は、ヴィクトル・オルバン首相のようなナショナリストを刺激している。

WWI後のヨーロッパについてGerwarthは結論した。17世紀の30年戦争以来、これほど結びついた戦争と内乱がおびただしい死者と破壊をもたらしたことはなかった。戦後ヨーロッパは、大戦争the Great Warを公式に終えた1918年から、19237月のローザンヌ条約まで、この地球上でもっとも暴力的な場所であった、と。

WWIは経済的なシステムの基礎も破壊した。戦前は、貿易の増大とグローバリゼーションの時代であった。しかし1918年の後、経済の開放度は回復せず、保護主義、近隣窮乏化政策が蔓延した。戦争は金本位制を破壊したが、その後も新しい金融秩序は現れなかった。

現在のアメリカに関して、アメリカのパワーが失われ、ロシア、中国のような秩序再編を求める勢力が現れたことではなく、アメリカ国家それ自体の意志、ビジョン、能力が問題である。この数十年間、「大きな政府」が絶えず攻撃され、イラクとアフガニスタンでは失策を演じた。不平等の増大、社会的移動性の低下、政治腐敗が社会を分断し、アメリカ国家を弱めた。

アメリカがこのままトランプの描くコースをたどるなら、もうすぐ、世界は無秩序とシステム的な暴力に再び落ち込むだろう。


● 中国の成長と植民地

NYT MAY 4, 2018

Is China a Colonial Power?

By James A. Millward

かつてジュール・ベルヌは、ヨーロッパのフロンティアから、カスピ海、北京まで、特別列車the “Grand Transasiatic Railway”で冒険旅行する小説を書いた。それから125年後に、中国はその大陸横断鉄道のさまざまなルートに融資し、建設を進めている。いわゆる「一帯一路」イニシアティブである。同様に、南シナ海からインド洋、アフリカ、地中海まで、新しい港湾の列を開発している。

数億人が貧困から抜け出した中国の成果は顕著であるから、中国政府がその開発の経験を提供すると言うとき、それは真剣に受け止めるべきだ。

しかし、歴史は懸念ももたらす。スリランカは中国の国有企業に対して負う80億ドルのインフラ建設費用を支払えず、その港湾を99年間、中国に貸すことに同意した。それはまさに、別の戦略的な港湾、香港を、清王朝がイギリスに貸し出した条件であり、植民地主義の典型的な事例と一致している。

一帯一路は現代の植民地主義なのか?

鉄道やこれらのインフラ建設には安全保障が必要であるから、中国政府の政治的な関与は、中央アジア、パキスタン、中東に及ぶ。一帯一路は、中国型のグローバリゼーションを示すものであり、そのメッセージは、平和、多文化的な寛容さ、相互の繁栄、である。一帯一路は、中国外交の全体を、その複雑さとともに、総括する名称に他ならない。

中国は賢明にも、アフリカとユーラシアの人民を結ぶ歴史的な、喜ばしい神話を、その外交政策に選んだ。皮肉な見方をすれば、これはプロパガンダの甘い外皮でしかない。2005年、ジョージ・W・ブッシュは中国を世界情勢において「責任ある利害関係者」となるよう求めた。一帯一路は、その全面的な回答である。ただし中国は、アメリカ中心の世界秩序に収斂することなく、それとは独立していることを明確にする。

シルクロード計画の中には、無駄なものも、経済的な利益を生むものもあるだろう。貧困を減らすものもあれば、中国の国家や企業の利益を促進するものもあるだろう。それは邪悪な世界征服計画ではないし、世界のすべての問題に対する答でもない。われわれは個々のプロジェクトを、それ自身が立てた目標に照らして評価するべきだ。すなわち、理想化された過去の上に、より良い未来を築く。


● 米朝会談が拓く未来

NYT MAY 8, 2018

What Is Kim Jong-un’s Game?

By Jean-Pierre Cabestan

朝鮮半島に外交的な突破口が開いたのは、中国とロシアも参加した国際的な制裁の強化、最近の核・ミサイル実験に対するトランプ大統領の好戦的な強い反発であった。

しかし、見失われている基本的条件は、東アジアを支配するという中国の増大する野心である。キムが韓国のムン・ジェインと和解を求める明らかな動機は、何より、中国をけん制するためアメリカに接近する布石として利用することである。キムは、中国に貿易を過度に依存すること、北京が朝鮮半島を支配する野心を、抑えたいのだ。

体制の生き残りと安全保障が、長く、キム一族の最優先目標であった。そのために北朝鮮は核兵器と長距離ミサイルを求めたし、同様に、中国との緊密な関係を持つ叔父のJang Song-thaekや兄のKim Jong-namを殺害した。

こうした実存的な脅威を取り除いた後、今や経済発展が体制の長期的安定性にとって欠かせないものになっている。朝鮮労働党は、軍備強化と経済発展を同時に実現する方針を転換し、経済発展に集中することを表明した。

しかし、90%の貿易を中国に依存している状態は、中国の付属国家、もしくは、貢納国家になるリスクを高めている。それは中国のナショナリストにとっては理想であるが、北朝鮮にとっての悪夢である。韓国との統合も金一族の目標を脅かす。そこでキムの目指す経済発展に向けたベスト・オプションは、西側と日本にパートナーを求め、開放することである。

中国を遠ざけ、アメリカに接近することは、安全保障面でも、北朝鮮の健全な戦略だ。中国はあからさまに北朝鮮の独立を脅かさないだろうが、東南アジアでも、南シナ海でも、その行動は北朝鮮に強い疑念を生じただろう。中国を牽制するためにトランプに接近するキムは、1970年代初めに、ソ連を牽制して毛沢東とニクソンが接近したことに、似ていなくもない。

この展開は、リアリストの指導者であれば、何も驚くことではないのだ。ここには中国の姿が見えないかもしれないが、北京は常に存在し、問題の一部である。中国の近隣諸国は、中国が強大化し、彼らとの階層的な、あるいは、恩顧主義的な関係を築こうとする中で、自国の位置を模索する。カンボジアやラオスのように服従する国もあれば、ベトナムやシンガポールのように、そのような関係を離れて、バランスを取る国もある。北朝鮮もそうだ。

北朝鮮も、韓国も、再統一を急ぐことはないだろう。しかし、アメリカとその同盟諸国は、北朝鮮との関係改善をはかるまれな瞬間であることを知るべきだ。北東アジアの新しいバランス・オブ・パワーを協力して築くチャンスである。それが成功すれば、地域を支配する中国の野心を抑え、西側の利益を守ることができる。


● イラン核合意からの離脱

NYT May 8, 2018

Trump’s Most Foolish Decision Yet

By Susan E. Rice

イランは核開発を何の制約もなく行えるようになった。無節操なアメリカは同盟諸国から孤立し、安全保障がはるかに低い水準になった。

イラン核合意は意図されたとおりに機能していた。イランは濃縮ウランの97%を破棄し、遠心分離器の3分の2とプルトニウム施設のすべてを破壊し、歴史上最も厳格な査察と監視を受け入れた。

トランプは、ヨーロッパの最も緊密な同盟諸国からの訴えを無視した。同盟諸国との合意なしに、トランプは彼らを害し、合意に従うヨーロッパ企業を処罰するつもりだ。

これはアメリカのグローバルな指導力を大幅に破壊するものだ。世界はアメリカの信頼性や責任感を大幅に見直すだろう。すでに気候変動に関するパリ協定から離脱し、TPPからも離脱した。しかし、イラン核合意からの離脱ははるかに危険なものだ。

サウジアラビアなど、地域の諸国が核兵器を求めるだろう。イランの強硬派は核合意を嫌っており、これによって地域の不安定化や、ロウハニのような穏健派への攻撃を強めるだろう。アメリカに代わって、ロシアや中国の影響力が強まる。どのようなシナリオでもアメリカは、戦争するか、核武装したイランと対峙することになる。

トランプは、この決断が北朝鮮への強いシグナルだ、と考えるかもしれない。それは間違いだ。金正恩はトランプの約束を信じないだろう。日本、韓国のような同盟国、そして中国は、集団的な約束を守るアメリカの能力を疑うだろう。

大統領は、その任期における最も愚かな、危険な決断を示した。混乱が生じるとき、彼は皆を非難するだろう。しかし、これはたった一人、大統領の責任である。


● カール・マルクスの失敗

Bloomberg 201858

Remember Marx for How Much He Got Wrong

By Noah Smith

マルクス生誕200年を祝う祭典には出席しにくい。20世紀の歴史を読む者、生きた者にとって、毛沢東の支配下で飢餓のために死んだ数千万人、スターリンによって粛清され、収容所に送られ、あるいは、餓死した数千万人、カンボジアで集団殺戮された数百万人のことを、忘れることはできないからだ。

たとえマルクスが虐殺を提唱しなかったとしても、これほどの蛮行と経済運営の失敗が、すべてマルクス主義の名の下に行われた。北朝鮮からベトナムまで、20世紀の共産主義は、人道に反する犯罪、貧困層の粉砕、その両方の結果に終わった。

マルクスの間違いを論じる例として、私が好きなのは、2013年のBrad DeLongが示したものだ。彼はマルクスのエッセンスを蒸留し、評価した。マルクスは、資本の投下により、生産性が上昇し、労働者の生活が改善することを評価しなかった。製造業からサービスへの移行を予告しなかった。資本主義経済の中にある価格システムの信号や誘因の重要性を過小評価した。

農業の集団化は、ロシアでも中国でも、政策失敗の顕著な例である。なぜこれほどしばしば、共産主義は蛮行をともない、指導者たちは長期に及ぶ失策に執着したのか? それは、マルクスが進化よりも革命を好んだからだ。

しかし、システムを破棄することは、通常、破滅をもたらす。革命が成功するのは、アメリカ独立のように、外国の支配を脱して、現地のシステムは無傷のまま継承する場合だ。ロシア革命、中国の内戦のように、暴力的な社会騒乱は、より多くの場合、社会的な分裂と苦悩が継続し、機会主義的、誇大妄想の指導者を生んだ。

最も成功した社会主義とは、北欧諸国の混合経済のように、暴力的な旧秩序の転覆ではなく、民主的で、部分的には資本主義的なシステムの内部で、漸進的に改革することで実現した。


● 中国ではなく、Faangsと闘え

FT May 7, 2018

Fight the Faangs, not China

RANA FOROOHAR

この問題はハイテク分野の将来に重要な問題を提起する。技術革新に成功するのは、集中型経済モデルか、分散型か? 中国は前者である。Baidu, Alibaba and Tencentは国営企業ではないが、体制に大きく影響されている。7億人のスマートフォン利用者からデータがAI開発を加速する。また、政府は産業政策に従い、企業の資源を利用する。

しかし、集権的な管理は短期的に有利かもしれないが、長期的には問題を生じる、と考えることも可能だ。毛沢東の計画経済や、最近では中国が自動車産業を支配しようとした例がそうだ。

アメリカのハイテク分野も、ますます集中化が進んでいる。かつてガレージで起業した人々より、トップからの経営重視が目立っている。ハイテク分野が準独占の巨大企業に支配されている。小企業のときに技術革新の多くを行って、集中が進むと、労働よりも資本に大きな利益をもたらし、低賃金と不平等を拡大することは、現在の最重要問題となっている。

独占化が分散型の革新的システムを苦境に追い込む。ハイテク大企業の特許権に関するロビー活動は、バイオやソフトウェアの中小企業を弱めた。

アメリカはトップダウン型の競争力促進で中国と競うことができない。しかし、分散型システムのメリットを再強化することはできる。いわゆるFaangs — Facebook, Apple, Amazon, Netflix and Googleの支配を制約するべきだ。

アメリカの競争慮億を高める最善の策は、中国と闘うのではなく、Faangsと闘うことだ。


● 移民論争と政治

FT May 7, 2018

Migration will drive western politics for decades to come

GIDEON RACHMAN

かつて政治顧問をいらだたせたセリフは、「(選挙結果を決めるのは)経済なんだよ、当たり前だろ!」だった。しかし、西側の政治では、最近、それに代わって、「移民問題だよ、当たり前だろ!」と言われている。

トランプの大統領選挙も、Brexitも、さらには、ドイツ、ハンガリー、オーストリア、フランス、スウェーデン、そしてイタリアでも。イタリアは過去4年間で、6000万人の国民に、60万人の移民が入ってきた。

それは最近になって減少したが、決して長期的に減ることはない。アフリカの人口圧力と経済状態は、今後の数十年間、大規模な移民を流出させるからだ。特に、ナイジェリアは、1960年の4500万人から、現在は18700万人、さらに2050年までに41000万人に増加するよと予測されている。2060年にはEU27ヵ国よりも人口が大きくなる。

ヨーロッパの人口は減少し、しかも高齢化するだろう。欧米の右派指導者たちは、制御できない移民流入から、特に、イスラム教徒の流入から「西側文明」を防衛する、という点で一致している。リベラルな人々は、それを人種差別と呼ぶが、有権者のますます多くが共鳴する。

新しい移民政策・管理体制が見いだされるまで、この問題は右翼政治家の台頭を刺激し続ける。


● トランプの通商政策

FT May 8, 2018

Donald Trump declares trade war on China

MARTIN WOLF

トランプ政権は中国に対する最後通牒を発表した。その内容は、驚くべきものだ。

貿易不均衡を12か月で1000億ドルずつ、2年間減らす、解消する「具体的で、検証可能な行動」を要求する。/市場を歪める補助金を即座に廃止する。/技術や知的財産を狙ったサイバー攻撃を止める。/アメリカによる投資規制に対して、反対や報復をしない。/中国市場への公平・効果的・無差別のアクセスをアメリカ企業に保証する。/関税を下げる。/この合意を守っているか監視する。中国は反対しない。WTOに苦情を出さない。

こうした要求は、無差別・多角主義の原則に違反する。アメリカが築いた貿易システムを否定する。不均衡がアメリカの側にも、特に、財政赤字に原因があることを無視する。第3国への悪影響を無視する。

アメリカが中国の技術革新を阻止できるような主張を、中国は決して受け入れない。アメリカが裁判官で、法廷で、法の執行者であるという考えは、19世紀の「不平等条約」を現代化したものだ。このような要求は、中国を侮辱し、それだけでなく、アメリカの同盟諸国にも貿易戦争を挑むものだ。

中国は多角的貿易システムを支持するだろう。そして、中国の経済を開放して、だれともウィン・ウィンの関係を求める。中国がそれを指導し、ヨーロッパも日本もそれを支持するだろう。

PS May 10, 2018

The Double Standard of America’s China Trade Policy

DANI RODRIK

中国はグローバリゼーションの顕著な成功例である。それは、経済の自由化と同じくらい、非正統的な、体制による創造的産業政策によって達成された。「中国製造2025」はそれを継承している。

中国がグローバリゼーションで取った政策は、われわれがブレトンウッズのルールと呼ぶものだ。戦後初期の世界経済は、より多くの独自の政策を許容していた。そして実際、中国が行ったことは、多くの先進諸国が、歴史的に、キャッチアップの時期に採用してきた政策と同じである。

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The Economist April 28th 2018

Within reach

Financial regulation: Taming crypto

Global logistics: Thinking outside the box

Banyan: Misunderstood youth

Farming in Africa: Squeezed out

Commodities and geopolitics: The 800-pound-gorilla effect

(コメント) ユニバーサル・ヘルス・ケアUHCが特集されています。ユニバーサル・ベーシック・インカムUBIの議論と重なって見えますが、別の議論です。社会の集団的能力を高める枠組みを提供できる公共的な権力の問題を、はっきりと示しています。

それは、仮想通貨の規制問題や、グローバルなロジスティクス(物流)についても、北朝鮮の核危機と朝鮮戦争の終結でも、部分的に重なって現れています。アフリカが世界の食糧庫になる、という話と、トランプ政権が世界の商品市場や通貨市場をかく乱する話に注目しました。

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IPEの想像力 5/14/18

震災の後、残された家族2人、父と息子が7年間をどうして過ごしたか、NHKが紹介していました。自分の父母と妻、幼い子供を亡くし、お父さんは小さな息子に何とか不自由させないよう、必死に働き、慣れない家事を勤めます。

しかし、たった一人残されたら、どうしたのでしょうか? 父だけ、あるいは、幼い子供だけの日々は、さらに寂しく、悲しく、苦しいものであったと思います。どのような慰めも、補償も、それを回復するものではないでしょう。

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サハラ砂漠より南のアフリカには、まだ多くの未耕作地があり、もしこれが現代の農業技術によって耕作されるとしたら、世界の食糧庫・パン籠になるだろう、というThe Economistの記事に希望を感じます。その未耕作地の広さは、2億ヘクタールです。

なぜ利用しないのか? その多くの土地が、内戦状態の国家に属している、というのが重要な理由です。・・・スーダン、コンゴ民主共和国。また、農耕をするには、伝統的な放牧業者と土地利用の対立が生じます。

政府が土地を、バイオ燃料や輸出用の商品作物を植える外国企業に、大規模に貸し出すこともあります。また、広大な自然公園に指定し、住民たちの利用を制限する場合もあるのです。家畜の飼料用の土地、狩猟用の土地、など、さまざまな用途によって農耕は排除されています。都市の住民が土地を保有するのは、農耕以外の目的で投資し、耕作しません。

もし化学肥料や優れた農機具、耕作機械、など、最新技術を導入すれば、生産性は大きく高まり、農民も豊かになれます。しかし、農業で就労できる人口は大幅に減るでしょう。AIの普及を恐れる富裕な工業諸国と同様の問題です。

FTの記事で、G. Rachmanが、移民・難民問題が解決できなければ、民主主義の将来をポピュリズムや人種差別集団が支配する、と警告しています。アフリカの人口増は、それに対して人口減少と高齢化を生きるヨーロッパ諸国に移民圧力を及ぼすからです。ナイジェリアだけでも、その人口はEU諸国の全人口より多くなる、と予測されています。

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日本には、優れたインフラがありながら、それを利用する住民は減少しています。都市のインフラを維持するコストは、少なくなった人口にとって負担となり、都市の規模を縮減する計画を検討しているようです。

駅前の、シャッターが下りたままの商店街でも、積極的に若い人口を受け入れて、子供を育てる家族が移住してきたら、あちこちに、素晴らしい街がよみがえると思います。

日本に多くの外国人観光客が訪れて、お寿司を食べたり、神社仏閣を訪ねたり、桜やモミジの美しい景色を観て、インターネットに写真を載せます。アジアやラテンアメリカ、中東、そしてアフリカにまで、日本は治安のよい、住みやすい国である、という認識が広まることで、きっと次の人口圧力や戦争、難民危機の過程で、日本が最終の目的地である、と言われるようになるでしょう。

被災地で苦悩する残された家族が、もし父親1人、あるいは、子供1人であれば、一緒に助け合って暮らせたらよいのに、と私は思いました。グローバリゼーションも同じです。もし政治が、対話と合意形成の優れた能力を発揮するなら、さまざまなインフラと機会を提供し、日本はもっと多くの難民家族を受け入れることができます。そして、すばらしい日本人を得るでしょう。

移民・難民の受け入れを国際的に分担し、成長につなぐモデルを築くことが、民主主義の将来を決めるのです。

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