IPEの果樹園2018

今週のReview

5/14-19

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アメリカの抜けた世界 ・・・アルゼンチンの経済危機 ・・・第1次世界大戦 ・・・ユーロ圏とEUの将来 ・・・中国の成長と植民地 ・・・米朝会談が拓く未来 ・・・イラン核合意からの離脱 ・・・カール・マルクスの失敗 ・・・中国ではなく、Faangsと闘え ・・・移民論争と政治 ・・・核兵器禁止体制 ・・・トランプの通商政策

[長いReview

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


● アメリカの抜けた世界

NYT May 4, 2018

Trump’s Dangerous Global Retreat

By Bret Stephens

ドイツの空軍も海軍も、全く役に立たない。今なら、ルクセンブルグでもドイツを征服できるだろう。

世界で4番目の経済大国が、戦争のとき、自国を守れないことを誰も真剣に心配しないのか? NATOがある? しかし、トランプは嘘ばかりついている。

プーチンは間違いなくそれに注意している。

グローバルな秩序が解体しつつある世界には、独裁者の強気と、内向きの民主主義諸国のリスク回避が現れている。

シリアのアサドは、先月、アメリカのミサイル攻撃を受けたにもかかわらず、反政府派を追い詰めている。クレムリンは、イスラエルの攻撃に対抗できる防衛システムをアサドに提供すると伝えられている。イスラエルは、イランやその武装勢力とレバノンで戦争を始めている。メディアではそれを、ガザとの境界線の壁を守るため、としている。

ウクライナを征服して居座るロシア、南シナ海で人工島を軍事要塞にする中国、アメリカが支援するクルド人部隊に戦車を送って攻撃するトルコのエルドアン。しかし、アメリカはほとんど抗議もしない。アメリカ大統領の外交とは、恫喝と撤退、である。

このところ、トランプは何をしていたのか? シリアから米軍を撤退させる、と言った。NAFTA再交渉を進めている。メキシコ、カナダ、アメリカ議会とも政府は対立するつもりだ。そして、通商協定はもう死んだ、と表明する。

韓国はどうか? トランプは国防総省に、米軍の韓国撤退計画を準備するよう命じた。28500人の米軍の少なくとも一部を。トランプは韓国に在韓米軍の費用をもっと支払わせたいのだ。ソウルはすでに半額を支払っている。また、トランプは米軍撤退を自分の成果とみなし、北朝鮮との和平条約を望んでいる。

これは、もし民主党の大統領が関わったとしたら、外交の古典的大失策だ。ボルトンやポンペオのような人々は大騒ぎして反対しただろう。ピョンヤンはこれを和平と非核化の代償として求めるだろう。そして北京も、長い間、東アジアから米軍がいなくなることを目指してきた。

共和党は、トランプをトルーマンと同一視するのか? しかし、トルーマンはリベラルな国際主義者であり、自由世界の改善に配慮していた。

韓国をめぐるより大きな目標は? イランは? シリアと、その支援者であるイランとロシア、イスラエル。NAFTAが崩壊した後の北米貿易体制・・・?

193991日、すべての国が自国のことしか考えないときに世界がどうなるか、人々は学んだ。アメリカ大統領はそれを再現しようとしている。あまりに長く、パックス・アメリカーナを前提して、怠惰であった諸国は、警察官がいなくなった、と知るべきだ。

FT May 5, 2018

Tickling Trump: World leaders use flattery to influence America

Edward Luce in Washington

SPIEGEL ONLINE 05/05/2018

American Roulette

Trump Tricks Trade Partners into Dangerous Game

By Martin Hesse, Peter Müller and Christian Reiermann

PS May 7, 2018

China Won’t Wait

P.H. YU

NYT May 8, 2018

The U.S. and China: More Alike Than We’d Like?

By Thomas L. Friedman

今、ワシントンと北京で我々が見ている政治劇はよく似ている。汚職追放におびえる中国人は互いに話すことを恐れている。アメリカ人は、価値観や政党が違えば、互いに話しかける方法を知らない。

FT May 9, 2018

Donald Trump goes for global regime change

EDWARD LUCE

58日は、アメリカが同盟諸国への信用を破棄した日として歴史に記録されるだろう。ドナルド・トランプはイラン核合意を離脱して、テヘランではなくワシントンを、国際条約の違反者にした。この数十年間で初めて、アメリカはヨーロッパのパートナーなしに行動している。

2003年のイラク戦争は、イギリス、スペインなどに支持されたが、フランスやドイツは支持しなかった。これに対してトランプは、たいして苦しむこともなく、アメリカを全世界から孤立させた。

その最初の犠牲者は、グローバルな秩序である。アメリカは今や、有毒な国際対立の、イスラエルやサウジアラビアと同じ側にある。他の側には、中国、ロシア、ヨーロッパ、イランがいる。そして、もちろんそれに加えて、日本、インド、オーストラリア、カナダがいる。トランプはアメリカの最も重要な同盟諸国の訴えを無視した。

イギリスのボリス・ジョンソン外相が述べたように、イラン核合意に代わる案は存在しない。すなわち、外交ではなく、それは戦争である。

トランプは、ヨーロッパがなんとかして回避したかった最悪のジレンマをもたらした。すなわち、アメリカが指導するNATOの同盟諸国は、彼らが取りまとめた条約(それをイランも支持してきた)を維持するか、あるいは、アメリカ・ファーストの戦争集団と、ヨーロッパはほとんど何の影響力を持たないまま、仲間になる。前者の場合、イランと取引し続けるヨーロッパの銀行やエネルギー企業に、アメリカは制裁を科すだろう。後者の場合、ヨーロッパの判断は無視され、アメリカよりヨーロッパを大きく損なうような、中東の戦争リスクを冒す。トランプをおだてたマクロンの支持率が急落したように、アメリカと組むことは高い政治コストを意味する。

イランのロウハニ大統領は、ボールはヨーロッパのコートにある、と述べた。もし3人のMMerkel, May and Macron)が条約を維持するなら、イランもそうするだろう。その場合、西側は分裂する。ワシントンはヨーロッパの諸組織を制裁し、ヨーロッパは報復することを強いられる。

ワシントンが2次的な制裁を科すことは、致命的な意味を持つ。ロシア、中国、その他の諸国もイランとの取引を続けるだろう。アメリカが金融的な罰則を科せば、彼らも報復するだろう。

その影響は、中国との貿易紛争、金正恩への中国からの非核化圧力にも影響する。ヨーロッパや中東と同じく、アジアは膨れ上がる不安を持って、トランプを監視している。

誰もイラク戦争が始まる前の状況に似ているとは思いたくない。しかし、火曜日、トランプはイランに宣戦布告したに他ならない。アメリカの世界的地位は致命的な打撃を受けるだろう。

FT May 10, 2018

Trump’s America First policy carries a heavy cost

FT May 10, 2018

How Europe should react to Donald Trump

PHILIP STEPHENS

NYT May 10, 2018

Europe Doesn’t Have to Be Trump’s Doormat

By Steven Simon and Jonathan Stevenson

Bloomberg 2018510

What the U.S. Didn’t Learn From the Asian Financial Crisis

By Daniel Moss

アメリカは不完全な国際合意による仲間として世界を築く試みから離れて、アウトサイダーとして、もっと良い条件を主張するべきか?

1997-98年のアジア通貨危機が1つの教訓となる。アメリカは、自分たちがコントロールできない代案について、同盟諸国が考えることを拒んだ。それは今に関わる問題だ。イラン核合意だけではない。中国の影響力拡大にアメリカは苛立っている。TPP交渉に再参加することも考えている。

ドル高とアメリカの金利上昇で、新興市場は圧力を受け、20年前にアジア諸国でパニックが広がった状況を人々は思い出している。諸大国の動きは鈍かった。

アジア通貨危機の初期に、IMF・世銀とは別に、アジアの融資機関が必要だった。1997年、アメリカがタイへの救済融資に参加することを拒んだとき、アメリカのアジアにおける同盟諸国は失望した。わずか2年前、メキシコはクリントン政権が支持してIMF融資を受けていたからだ。

日本が、アジア通貨基金AMFとして、1つの考えをまとめ始めた。しかし、アメリカは、クリントンの財務省がそれを圧殺した。アメリカの強い反対、中国の沈黙により、日本は考えを取り下げた。東南アジア諸国や韓国を、日本は支援したが、それは不十分だった。日本自身が防衛をアメリカに依存し、経済状態が悪化していた。アメリカの反対するAMFを推進することはできなかった。

アメリカは、しばらくの間、日本に独自のアイデアを実現するよう、容認する方がよかっただろう。日米の緊密な政治・金融関係を前提すれば、それが財務省の考えたものでなくても、アジアの融資機関の運営に影響力を行使できたはずだから。AMFを潰したことは、近年、中国がワシントンを無視して独自の考えを復活させている。

アジア・インフラ投資銀行AIIBは、IMFに対抗するのではなく、もっとアジアを重視した世界銀行として、インフラ投資を重視する。オバマ政権はこれに反対し、同盟諸国が参加しないように求めた。しかし、かつてアメリカが樹立を促したアジア開発銀行の会合には、いたるところ、AIIBの話があふれている。

AMFが示したように、アジアには資金が豊富にあった。地域主義の力も必要性も常に強く、金融危機を政治介入に利用した、とIMF融資に反発した。アメリカは当分、AIIBに加盟しないだろうし、アメリカ・ファーストの時代には、新しい開発援助も承認されそうにない。

しかし、1990年代に日本のAMF案に反対したことを反省するなら、AIIBを激しく敵視するのは間違いだろう。また昨年、日本は、アメリカが抜けたTPPを分裂から救い出すために指導力を発揮した。日本の努力は報われるだろうか?


● アルゼンチンの経済危機

PS May 4, 2018

Argentina’s Unseen Fragility

MARTIN GUZMAN

一見したところ、アルゼンチン経済は好調だ。スタグフレーションを抜け出し、GDP2.9%で拡大した。2016年には40%近くもあった年インフレ率が24.8%に低下した。

しかし、最近の回復は債務によるものだ。2017年の経常収支赤字はGDP4.6%に達している。アルゼンチンの輸出額の39%に等しい。対外債務の水準はまだ低いが、その急速な拡大は懸念される。

対外債務を安定化する最も良いやり方は、不況で輸入を減らすより、輸出を伸ばすことだ。しかし、現時点の政策ではそれを実現できない。

マクリMauricio Macri大統領の政権は現状維持を目指している。アルゼンチンの巨額の経常収支赤字は市場がこの回復を支持しているからだ。アルゼンチンのドル建債券には強い需要がある。彼らはそう考えている。

しかし第2の、より慎重な見方では、マクロ経済への介入が必要だ。アルゼンチンの債務膨張は疑わしいものであり、この国の歴史的なストップ・アンド・ゴーに特別な注意を要する。

2011年以来、輸出は停滞している。生産性を高め、競争力を強化する政策が必要だ。しかし政府の現在の安定化政策は、2つの基本戦略から成っている。インフレ目標による金利の決定と、基礎的な予算赤字の漸進的削減である。

しかし、中央銀行が前提する、変動レート制がマクロ経済的な均衡を回復する、という証拠はない。インフレ抑制は必要だが、アルゼンチンのように急速なディスインフレは対外不均衡を拡大する。財政赤字の大部分を外貨建債務で金融することと合わせて、対外赤字の増大は、将来、維持不可能になるだろう。

中央銀行は、高金利がただちに低インフレをもたらす、と信じているが、それは間違いだ。そのメカニズムは間接的で、確実とは言えない。インフレ目標が効果的であるのは、安定した、持続的成長を実現している経済においてである。それでも、アルゼンチンの中央銀行は、インフレを抑えるためなら「何でもやる」という意志を示す。2012年のECBのように。しかし、たとえば賃金交渉のように、彼らの権限を越えたことがある。

対外不均衡を減らす最善の策は、財政赤字を大幅に削減するショック療法だ、という意見がある。このアプローチは、敗北を認めるものだ。輸出を拡大して成長することはできない、というわけだ。

新しい思考が求められる。マクリ政権はそれを認めない。「アルゼンチン的均衡」とは、政府の積極的な見通しによって創り出され、市場がそれを強めている。政府はさらに強気の予測を示して、市場のより大きな混乱を隠そうとするだろう。

そうではない。高金利による通貨高が輸出を困難にしているのだ。マクロ政策の戦略を転換するべきだ。中央銀行が金融緩和し、短期的に、インフレが高まることを容認する。対外不均衡や債券市場の期待を抑える。それは強気より、慎重さを要するだろう。

NYT MAY 4, 2018

Argentina Raises Key Rate to 40%, Bringing Economic Uncertainty

By DANIEL POLITI and MATT PHILLIPS

FT May 5, 2018

Argentina stuns markets as it pushes interest rates to 40%

Cat Rutter Pooley, Adam Samson and Roger Blitz in London

FT May 7, 2018

Stormy weather hits emerging markets

FT May 10, 2018

IMF considers whether to support Argentina again

FT May 10, 2018

Argentina’s plea for IMF help is a reminder of global fragility

GILLIAN TETT


● 技術革新

FT May 4, 2018

Cheap innovations are often better than magical ones

TIM HARFORD


● 第1次世界大戦

PS May 4, 2018

The Great Crack-Up, Then and Now

SHERI BERMAN

The Great War(第1次世界大戦)はヨーロッパの経済的・政治的基礎を破壊したが、新しい国際秩序を確立しなかった。世界が同様の激変に向かう中で、当時の教訓が再論されている。

Peter Clarke, The Locomotive of War: Money, Empire, Power and Guilt, Bloomsbury, 2017.

Robert Gerwarth, The Vanquished: Why the First World War Failed to End, Farrar, Straus and Giroux, 2016.

Adam Tooze, The Deluge: The Great War, America and the Remaking of the Global Order, 1916-1931, Penguin Random House, 2014.

Philip Ziegler, Between the Wars: 1919-1939, MacLeHose Press, 2016.

1次世界大戦(WWI)は莫大な破壊的影響を残した。およそ1000万人が死亡し、その3倍が負傷した。ヨーロッパは粉砕されたが、その後に襲ったインフルエンザの流行が、おそらく、5000万人を犠牲にした。

戦前は、王朝による独裁制や帝国がヨーロッパを支配していた。しかし、戦争はこうしたシステムを崩壊させ、1917-1920年に民主化が波及して、ロシア、ドイツ、オーストリア・ハンガリーで王室が廃止され、その後背地のヨーロッパにも民主化が広まった。しかし、王朝の終わりは民主的な安定性の新時代をもたらさなかった。むしろコミュニスト、アナーキスト、ファシスト、権威主義者、民主主義者が、戦間期を通じて、ヨーロッパの将来を争った。

Philip Zieglerによれば、ドイツでは、新しいワイマール共和国が政治的暗殺と暴力的な左右の暴動に冒された。イタリアは2年間の都市と農村の混乱Biennio Rosso (“two red years”)と左右両派の武装闘争を経験した。

ヨーロッパの諸帝国が死滅したことは、暴力を広めた。Robert Gerwarthが示すように、1918年以前でも、オスマン帝国の崩壊がもたらす暴力の予兆があった。WWIの戦中と戦後に、トルコ国家は組織的なジェノサイドとエスニック・クレンジングを、アルメニア人、ギリシャ人、アッシリア人、その他に行った。

オスマン帝国と連合軍との戦闘を公式に終わらせる和平は、むしろ一層の苦しみを生じた。1923年、ローザンヌ条約で、「人口交換」が合意され、120万人のキリスト教徒がトルコからギリシャへ、40万人のイスラム教徒がギリシャからトルコへ、強制移住させられた。

ヨーロッパの旧帝国が、国境によって新しい諸国に分かれたことは、必ずしも、その内部の住民の好むものではなかった。それは1916年、中東において、英仏がオスマン帝国の領土を分割したサイクス・ピコ条約にも同様に言えることだ。たとえ連合国がすべての住民の自決を保証したとしても、帝国内の人口の混在によって、国歌の境界線を引くことは、不可能でないとしても、非常に困難であった。

Robert Gerwarthが示したように、パリ講和会議は、この問題を“minority treaties”(少数民族保護条約)によって解決しようとした。しかし、効果的な強制メカニズムはなく、戦間期に、少数民族の権利を守る警察活動に、連合国は関心を示さなかった。英軍のArchibald Wavellが述べたように、「戦争を終わらせる戦争」の後、パリでは、「平和を終わらせる和平」が成立した。

多くの新生諸国では内戦や国際間の戦争が起きた。旧帝国の後継国家は、それに劣らず苦しんだ。ドイツは、700万人以上の住民がいた25000平方マイルの領土を失った。新しい「外国」となった国に繋がれたドイツ人たちは、国家再興のナショナリズムに向かった。

ハンガリーも大幅に領土を削られた。短命な共産党独裁、隣国との戦争の後、さらに悪質な権威主義体制に変わった。今日にまで、ハンガリー王国が失った領土の3分の2、人口の5分の3は、ヴィクトル・オルバン首相のようなナショナリストを刺激している。

ソビエト連邦も、その成立直後から、内戦と、ポーランドや連合国との戦争に苦しんだ。300万人が戦場で、さらに200万人が1921-1922年の飢饉で犠牲となった。飢饉は戦争とその後の干ばつによるものだった。

WWI後のヨーロッパについてGerwarthは結論した。17世紀の30年戦争以来、これほど結びついた戦争と内乱がおびただしい死者と破壊をもたらしたことはなかった。戦後ヨーロッパは、大戦争the Great Warを公式に終えた1918年から、19237月のローザンヌ条約まで、この地球上でもっとも暴力的な場所であった、と。

WWIは経済的なシステムの基礎も破壊した。戦前は、貿易の増大とグローバリゼーションの時代であった。しかし1918年の後、経済の開放度は回復せず、保護主義、近隣窮乏化政策が蔓延した。戦争は金本位制を破壊したが、その後も新しい金融秩序は現れなかった。

不安定化の劇的な表明はハイパーインフレーションであった。現金の山を積んで手押し車を動かすドイツ人たちの写真は有名だ。しかし、それはドイツに限らなかった。オーストリア、ハンガリー、イタリアもそうだった。銀行危機、高い失業率、その他の慢性的な問題が多くの国を苦しめた。

Peter Clarkeは、ジョン・メイナード・ケインズの旧経済秩序に代わる新しい秩序の模索を取り上げた。ケインズは、ヨーロッパが成長と安定性を回復するには、資本主義の機能に関する新しい解釈が必要だ、と主張した。それは、経済危機や大量失業を避けるために、政府が積極艇に市場に介入することだった。しかし、この新しい経済秩序は、北欧諸国やF.D.ルーズベルトのアメリカで、例外的に、わずかに模索されただけで、実現しなかった。

Adam Toozeは、戦間期の悲劇にアメリカが果たした役割について考察した。なぜ新しい秩序は生まれなかったのか、2つの通説を検討する。1つは、腐敗したヨーロッパの旧支配層、特に英仏の「帝国主義者たち」が、根本的な変革の必要性を認める気がなく、理解できなかった。もう1つは、アメリカが新しい覇権国としての役割を引き受けなかった。ウィルソンはナイーブで、あるいは、利己的、近視眼的な孤立主義者たちが戦後のアメリカの指導力を観ていなかった。

しかし、どちらの説明も間違いだ。当時、アメリカだけがヒトラーやスターリン、イタリアのファシスト、日本の仲間を圧倒できた。しかし問題は、アメリカがそのパワーを自分のイメージに従って世界を築き上げる「大戦略」に表せなかったことだ。アメリカの国家が、国際秩序を築くだけの、権力集中と国際的な能力の水準を欠いていた。

当時の連邦政府の力は制約されたものだった。その後のニュー・ディールと戦争そのものが、連邦政府の能力を飛躍的に高めた。

現在のアメリカに関して、アメリカのパワーが失われ、ロシア、中国のような秩序再編を求める勢力が現れたことではなく、アメリカ国家それ自体の意志、ビジョン、能力が問題である。この数十年間、「大きな政府」が絶えず攻撃され、イラクとアフガニスタンでは失策を演じた。不平等の増大、社会的移動性の低下、政治腐敗が社会を分断し、アメリカ国家を弱めた。

アメリカがこのままトランプの描くコースをたどるなら、もうすぐ、世界は無秩序とシステム的な暴力に再び落ち込むだろう。

FP MAY 10, 2018

Trump’s Terrifying Treaty of Versailles Precedent

BY JEREMI SURI

トランプのイラン核合意からの離脱は、アメリカの決定が国際体制に与えた著名な打撃を思い出させる。アメリカの上院が国連加盟を拒否したことで、ヴェルサイユ条約の中心となる柱が失われたことである。


● ユーロ圏とEUの将来

VOX 04 May 2018

Europe needs a broader discussion of its future

Guntram Wolff

ユーロ圏の市民の繁栄と福祉を決定するものを考察するとき、5つの問題が重要だ。独仏の研究者が共同で示した見解は、そのうちの2つに関するものだが、私はそれがバランスを欠いていると考える。

1.十分な公共財を供給する。

2.金融政策がゼロ近辺のとき、ユーロ圏の財政政策が適切になされる。

3.マクロ経済不均衡と構造的欠陥に対して対処する。

4.銀行同盟を完成し、資本市場同盟を前進させる。

5.公的債務問題を解決する。

1に、債務の組み換えを妨げている曖昧さを除去すると言うが、それは市場のパニックを早めるだろう。OMTECBによる公的債券の購入)に関する言及を意図的に避けている。

2に、主要国の公的債券を購入するためには、ESMの能力に限界がある。現状では、ECBIMFも関与しない。

NYT May 5, 2018

Glitter, Strobe Lights and the Dream of a United Europe

By William Lee Adams

The Guardian, Mon 7 May 2018

The EU’s core values are under attack as never before. It must defend them

Timothy Garton Ash

Boris Johnsonは、ハンガリーに移住して改名したようだ。ジョンソンの有名な発言は、「ケーキに関する私の基本政策は、これを持つことに賛成し、これを食べることに賛成する、というものだ。」 しかしイギリス政府は、Brexitに関して、ケーキを持つことも食べることもできないだろう。対照的に、ハンガリーのナショナリスト政権を率いるオルバンは、ジョンソン・ドクトリンを実践した。EUから他国以上に補助金を得て、しかもブリュッセルを非難することでナショナリストたちから支持を得た。ダニューブ川に移住した傭兵Boris Johnzsönhelyiである。

EUは基本的価値、リベラルな民主主義、多元主義、法の支配、言論の自由を守らねばならない。基本条約第7項を発動したポーランドへの制裁には、ハンガリーが反対するだろう。もっと即時に効果的な制裁が必要だ。次の選挙に向けて、オルバンのFideszEPPから除名するべきだ。

もしポーランドがハンガリーと同じ道をたどれば、中東欧圏は権威主義体制に向かうだろう。それはEU内部をむしばむ。

FT May 10, 2018

Northern Europeans hold the eurozone’s future in their hands

NICK CLEGG

FT May 11, 2018

Germany’s surpluses should be put to work


● 中国の成長と植民地

NYT MAY 4, 2018

Is China a Colonial Power?

By James A. Millward

かつてジュール・ベルヌは、ヨーロッパのフロンティアから、カスピ海、北京まで、特別列車the “Grand Transasiatic Railway”で冒険旅行する小説を書いた。それから125年後に、中国はその大陸横断鉄道のさまざまなルートに融資し、建設を進めている。いわゆる「一帯一路」イニシアティブである。同様に、南シナ海からインド洋、アフリカ、地中海まで、新しい港湾の列を開発している。

数億人が貧困から抜け出した中国の成果は顕著であるから、中国政府がその開発の経験を提供すると言うとき、それは真剣に受け止めるべきだ。

しかし、歴史は懸念ももたらす。スリランカは中国の国有企業に対して負う80億ドルのインフラ建設費用を支払えず、その港湾を99年間、中国に貸すことに同意した。それはまさに、別の戦略的な港湾、香港を、清王朝がイギリスに貸し出した条件であり、植民地主義の典型的な事例と一致している。

一帯一路は現代の植民地主義なのか?

鉄道やこれらのインフラ建設には安全保障が必要であるから、中国政府の政治的な関与は、中央アジア、パキスタン、中東に及ぶ。一帯一路は、中国型のグローバリゼーションを示すものであり、そのメッセージは、平和、多文化的な寛容さ、相互の繁栄、である。一帯一路は、中国外交の全体を、その複雑さとともに、総括する名称に他ならない。

中国は賢明にも、アフリカとユーラシアの人民を結ぶ歴史的な、喜ばしい神話を、その外交政策に選んだ。皮肉な見方をすれば、これはプロパガンダの甘い外皮でしかない。2005年、ジョージ・W・ブッシュは中国を世界情勢において「責任ある利害関係者」となるよう求めた。一帯一路は、その全面的な回答である。ただし中国は、アメリカ中心の世界秩序に収斂することなく、それとは独立していることを明確にする。

シルクロード計画の中には、無駄なものも、経済的な利益を生むものもあるだろう。貧困を減らすものもあれば、中国の国家や企業の利益を促進するものもあるだろう。それは邪悪な世界征服計画ではないし、世界のすべての問題に対する答でもない。われわれは個々のプロジェクトを、それ自身が立てた目標に照らして評価するべきだ。すなわち、理想化された過去の上に、より良い未来を築く。

PS May 10, 2018

China and the Future of Democracy

BARRY EICHENGREEN

もうすぐ中国はグローバルな指導的国家になるのか? それは民主主義の将来にどのような意味を持つか?

中国の台頭はめざましい。20年以内に、GDPでアメリカを抜くだろう。すでに指導的な貿易国であり、人民元は世界通貨の地位を狙ってドルに挑戦する。中国の直接投資はアフリカや南アジアに及び、軍事拠点を得ている。ソフトパワーでも、教育・文化交流や博物館の展示、UNESCOに関わっている。

こうした経済的成功が続けば、中国は国際的なモデルとして、特に、他の諸国に受け入れられるだろう。中国のパワー、繁栄、安定性が続くほど、その権威主義的モデルの魅力は増す。それは民主主義の将来に暗い影を投げる。

その自信には重要な点が見逃されている。民主主義は混乱するかもしれないが、それ自身に政策転換するメカニズムが備わっている。権威主義体制には、そのような自動調整メカニズムがない。

中国の指導者たちが、将来も、政策の深刻な失敗を回避できる、という考えは現実的でない。重債務の巨大企業の倒産、金融システムの隠れた問題の表面化、グローバルなエネルギー価格の急騰、深刻な地政学的危機、など、多くのショックの中の1つでも襲えば、成長は減速する。中国が金融市場を開放するほど脆弱性は増し、資本逃避のリスクも高まる。北朝鮮は中国に隣接している。

人々が指導層に反対すれば、それをどう扱うのか? 「天安門だ」と思うものもいるだろう。過去の成長を将来に延長する予測は間違っている。中国がショックに遭えば、その政治統制モデルの他国に対する魅力は失われるだろう。特に、体制が市民社会を弾圧すれば。民主主義は、中国の未来である。

FP MAY 10, 2018

China Enlists U.N. to Promote Its Belt and Road Project

BY COLUM LYNCH


● 米朝会談が拓く未来

NYT MAY 4, 2018

Trump’s Talk of U.S. Troop Cuts Unnerves South Korea and Japan

By CHOE SANG-HUN and MOTOKO RICH

FP MAY 4, 2018

Could North Korea Help Bring the United States and China Closer Together?

BY PATRICK M. CRONIN

Bloomberg 201857

This North Korea Show Might Be Over Before It Starts

By Michael Schuman

NYT MAY 8, 2018

What Is Kim Jong-un’s Game?

By Jean-Pierre Cabestan

朝鮮半島に外交的な突破口が開いたのは、中国とロシアも参加した国際的な制裁の強化、最近の核・ミサイル実験に対するトランプ大統領の好戦的な強い反発であった。

しかし、見失われている基本的条件は、東アジアを支配するという中国の増大する野心である。キムが韓国のムン・ジェインと和解を求める明らかな動機は、何より、中国をけん制するためアメリカに接近する布石として利用することである。キムは、中国に貿易を過度に依存すること、北京が朝鮮半島を支配する野心を、抑えたいのだ。

体制の生き残りと安全保障が、長く、キム一族の最優先目標であった。そのために北朝鮮は核兵器と長距離ミサイルを求めたし、同様に、中国との緊密な関係を持つ叔父のJang Song-thaekや兄のKim Jong-namを殺害した。

こうした実存的な脅威を取り除いた後、今や経済発展が体制の長期的安定性にとって欠かせないものになっている。朝鮮労働党は、軍備強化と経済発展を同時に実現する方針を転換し、経済発展に集中することを表明した。

しかし、90%の貿易を中国に依存している状態は、中国の付属国家、もしくは、貢納国家になるリスクを高めている。それは中国のナショナリストにとっては理想であるが、北朝鮮にとっての悪夢である。韓国との統合も金一族の目標を脅かす。そこでキムの目指す経済発展に向けたベスト・オプションは、西側と日本にパートナーを求め、開放することである。

中国を遠ざけ、アメリカに接近することは、安全保障面でも、北朝鮮の健全な戦略だ。中国はあからさまに北朝鮮の独立を脅かさないだろうが、東南アジアでも、南シナ海でも、その行動は北朝鮮に強い疑念を生じただろう。中国を牽制するためにトランプに接近するキムは、1970年代初めに、ソ連を牽制して毛沢東とニクソンが接近したことに、似ていなくもない。

この展開は、リアリストの指導者であれば、何も驚くことではないのだ。ここには中国の姿が見えないかもしれないが、北京は常に存在し、問題の一部である。中国の近隣諸国は、中国が強大化し、彼らとの階層的な、あるいは、恩顧主義的な関係を築こうとする中で、自国の位置を模索する。カンボジアやラオスのように服従する国もあれば、ベトナムやシンガポールのように、そのような関係を離れて、バランスを取る国もある。北朝鮮もそうだ。

そこには不確実な要素が多くある。しかし、少なくともキムが会談を提案し、トランプ大統領がそれを即座に受け入れたことは、2人の指導者がここに緊張緩和の機会を見ている、と言えるだろう。朝鮮半島の戦略的な地形はすでに変容したのであり、それはアメリカとその同盟諸国にとって有利な展開である。

キムがにわかに習近平と会談したことは、中国のメンツをつぶさないためのものだ。習は、権力を握ってから5年間、キムを無視してきた。そのアプローチを後悔しているかもしれない。

北朝鮮も、韓国も、再統一を急ぐことはないだろう。しかし、アメリカとその同盟諸国は、北朝鮮との関係改善をはかるまれな瞬間であることを知るべきだ。北東アジアの新しいバランス・オブ・パワーを協力して築くチャンスである。それが成功すれば、地域を支配する中国の野心を抑え、西側の利益を守ることができる。

FP MAY 8, 2018

Don’t Overestimate the Power of Historic Summits

BY MICHAEL H. FUCHS, ABIGAIL BARD

The Guardian, Thu 10 May 2018

North Korea’s release of US prisoners doesn’t mean peace

Polly Toynbee

NYT May 10, 2018

What It Would Mean to End the Korean War

By Elizabeth A. Stanley


● マクロンの迷い

FP MAY 4, 2018

Macron Is Too Weak to Lead the Free World

BY PETER ROUGH

PS May 8, 2018

Macron’s Reform Train Will Not Be Derailed

PHILIPPE AGHION, BENEDICTE BERNER

PS May 10, 2018

Macron’s Internationalism and the New Politics

KEMAL DERVIŞ


(後半へ続く)