IPEの果樹園2018

今週のReview

4/23-28

***************************** 

米英仏によるシリア空爆 ・・・独仏ハネムーンの終わり ・・・米中貿易戦争の勝者 ・・・ECB総裁にはドイツ人を ・・・AIと失業問題 ・・・Brexit投票のやり直し ・・・リベリアを忘れないで

長いReview

****************************** 

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


● 米英仏によるシリア空爆

FT April 14, 2018

The danger of repeating past mistakes in Syria

MARY KALDOR

なぜ同じ共感を示さないのか? 軍事介入の拡大を恐れるからだ。

人道的介入という考え方は、ジェノサイドやエスニック・クレンジング、人権の大規模な蹂躙行為について、住民を保護するというもので、1990年代、バルカン半島やアフリカの戦場で示された。特に、広く関心を集めたルワンダ内戦であった。

2005年、国連総会で、住民を保護する責任、が正式に議決された。しかし、シリア内戦における惨状を緩和するために、人道的介入も、保護する責任も、圧力とはなっていない。

その理由は、この20年間の経験にある。アフガニスタンとイラクにおける戦争は、人道的介入ではなく、古典的な地政学的戦争であった。西側の利益を追求し、住民の利益を守った戦争ではない。英米の指導者は、人道的理由やテロを強調したが。

コソボとリビアの戦争は、明らかに、こうした考え方が実行された最初のケースであった。それは部分的には成功した。しかし、どちらのケースでも、主要な介入の手段は、直接に住民たちを保護するのではなく、空爆であった。それはまさに住民たちの命をリスクにさらしたのだ。こうした軍事介入は地上の武装勢力を強め、コソボ政府を完全な機能不全にしたし、リビアでは長期にわたる暴力状態を生んだ。

人道的介入と、古典的な軍事行動との違いを、正しく評価しなかったことは重大である。人道的介入でも軍事力を使用するだろうが、その目的は住民を保護し、命を救うことだ。敵を敗退させるのではない。それゆえ、異なる手段を必要とする。人道的介入とは、むしろ治安維持や法の執行に近い。

ボスニアでは、その手段が開発された。安全地帯、戦争犯罪者の捜査と逮捕、人権の国際監視、飛行禁止空域。軍人だけでなく、警察、医療関係者、支援団体、地雷除去チーム、などが参加した。国連を通じた国際的な権限の付与は重要である。

ロシアが国連安保理で拒否権を行使することは問題だ。国際世論を高める必要がある。また、地上では、住民たちによる限定された地区の停戦合意が多く結ばれた。こうした停戦は体制側によって容易に破られる。国連の圧力が欠かせない。

効果のない、有害な軍事介入に代わる手段とは、暴力を終わらせるシリア住民への、強い、国際的支持である。

NYT April 17, 2018

A Way Forward in Syria

By Susan E. Rice

アメリカはシリアにおいて、その戦略的目標を明確にし、それらを厳格に追求する必要がある。

アメリカの選択できる政策は、さらに悪いことに、一層、制約された、効果のないものになっている。英仏と協力して空爆したのは、必要な、計算されたメッセージをアサドに届けるものだった。文明世界は化学兵器の使用を認めない、と。しかし、抑止効果はわずかであろう。アメリカはアサド体制を脅かさない、とわかるからだ。

危険なことに、シリア内戦は、今や、大国の間の戦争に変わりつつある。イスラエルとイランの戦争。アメリカとイラン・ロシアの戦争。トルコと、アメリカが支援するクルドとの戦争。

それゆえアメリカは、その利害を明確にして、軍事行動が拡大していくのを避けねばならない。イラクの教訓とは、イスラム国の掃討が主要目標であり、体制転換は目標としない、ということだ。それは内戦の外交的解決を追求するが、トランプ政権は外交の資本を欠いている。

アメリカの視点でもっともましなアプローチとは、1.現在の米軍の関与を維持すること。現地のパートナーとともに、開放された地域で効果的なガバナンスを築き、それを維持する。なるほど、それは少なくとも地域レベルの国家建設に関与するものだが、地域を見捨てることはテロリストに領土を与えるに等しい。

2.アサド体制を軍事的に解体することはない。アメリカは、ロシアとの直接の戦闘を避け、イスラエルとイラン・ヒズボラとの戦闘が及ぼすリスクを抑え、トルコと、シリア領内のクルド人との戦闘を鎮静化するべきだ。アメリカは同盟する勢力を、堅く、巧妙に、支援せねばならない。

3.豊富な人道支援を、国内で苦しむシリア人、近隣諸国に行う。難民受入れの停止を直ちにやめる。

4.紛争の交渉による解決を再開する。アメリカは軍事的テコを持たないが、外交における力がある。シリアが再生するには、国民が選んだ政府を必要とする。ロシア、イラン、アサドを交渉に引き出す、2つのカードがある。1つは、シリアの北部・東部を抑えるクルド人の重要性。もう1つは、ヨーロッパや湾岸諸国とともに、シリア再建や難民帰還を実現するための財源だ。ロシアとイランにはない。

アメリカは、停戦後の自由かつ公平な選挙を支援の条件にする。

FP APRIL 17, 2018

Has Trump Become a Realist?

BY STEPHEN M. WALT

ドナルド・トランプがリアリストになったのか? 「オフショア・バランシング」を実践し始めた?

2次世界大戦後、アメリカの指導者たちは、中東の戦略的な重要性が高まったことを認めた。しかしアメリカは、中東の石油を守るために、この地域を植民地化したり、米軍を大規模に駐留させたりすることはなかった。そうではなく、アメリカはイギリスに依存し(1960年代後半まで)、域内の勢力均衡を維持するために現地の諸勢力を頼り、また、ソ連が過度に影響力を強めることも阻んだ。

最初の湾岸戦争の後、こうしたオフショア・バランシングをアメリカが棄て、「二重封じ込め」や「中東の民主化」を唱えた。それは911と、その後のイラク戦争における大失策につながった。

トランプは、再びその方針を転換した。リアリストたちは、トランプ外交を称賛するべきなのか?

アメリカが真に「オフショア・バランシング」を実践するなら、中東のすべての国をビジネスライクな外交関係でとらえ、いかなる国の行動計画や国益にも、アメリカが保障を与えたり、無視したり、してはならない。それは、アメリカが西半球にあるという特権的な地位である。アメリカは友好国とも(現時点における)敵国とも、緊密に意見交換し、自分たちの見解を伝え、また彼らの意見を聞く機会を持つべきだ。

こうして誰とも対話することで、敵国に、彼らが正しくカードを切ればアメリカの支持を得られる、と教え、また友好国にも、アメリカの支持を前提に行動することが間違いだ、と教えるのだ。トランプには、その知識も、技量も、高度な戦略を立てる巧みさもない。


● 独仏ハネムーンの終わり

FT April 15, 2018

Germany is frustrating Emmanuel Macron’s grand ambitions

WOLFGANG MÜNCHAU

キリスト教民主同盟CDUとその姉妹等であるCSUは、マクロンのユーロ改革のすべてに対して反対である。金融機関救済のためのESM、ユーロ圏単一財政、そして預金保険も、イタリアの銀行が不良債権を自分で解決するまでは、反対だ。

ギリシャに対する債務免除も望まない。

この拒否に加えて、マクロンにとって傷に塩を塗られることだが、フランスがシリアに対して行った軍事介入に、ドイツは参加しなかった。

これからフランスが受け取るメッセージは、国民戦線のマリーヌ・ル・ペンが示した立場そのものだろう。通貨同盟においてフランスの意見は通らない。地政学的な危機に対応するならイギリスの方が頼りになる、と。

ヨーロッパ統合に向けたマクロンの情熱は、フランスとドイツの政治的現実を変えるものではない。独仏はもはや自然な同盟相手ではないのだ。フランスと違って、ドイツでは親ヨーロッパ政党は衰退している。

ユーロ改革は不可能なのか? そうは思わない。

今は戦術的な後退をするときだ。単一の安全資産、あるいはユーロ債市場の創設、政府と銀行との法的・政治的な分離、といった改革を唱えても、成功しない。

ユーロ圏の北ヨーロッパ諸国が、その大規模な持続的経常収支黒字を、優位としてではなく、脆弱性とみなすときに、改革を推進できる。生存の危機を味わって初めて、ドイツ、オランダなど、ユーロ圏北部も譲歩するだろう。


● 米中貿易戦争の勝者

FP APRIL 13, 2018

Why China Will Win the Trade War

BY PHILIPPE LEGRAIN

トランプ大統領は、アメリカが中国との間にばく大な貿易赤字、3370億ドル、を生じていることから、貿易戦争に勝つのは確実だ、と思っているようだ。しかし、彼の計算が示すより、経済的、政治的に観て、北京の立場はもっと強い。

AppleiPhoneを例にすれば、中国における組み立ては、iPhone Xの製造コスト370ドルのわずか3-6%であるにすぎない。そして999ドルの小売価格との差は、Appleやアメリカの小売店のマージンだ。

アメリカは、トランプが思う以上に、貿易戦争に対してもっとずっと脆弱である。トランプがiPhoneに対する関税を上げた場合の、消費者の反発を考えるべきだ。アメリカ企業の多くが生産を中国に外注している。彼らは特に脆弱だ。貿易戦争は、中国からの部品を使うアメリカにある製造業のグローバルな競争力を損なう。トランプの関税は、そのような部品を含んでいる。

逆に、中国による報復関税は、標的を絞っている。第1に、民間航空機の輸出だ。発表後に、ボーイングの株価が下落した。中国に航空機を売るボーイング社は、関税に応じて販売価格を下げるかもしれない。中国にはボーイングに代わる供給者があるからだ。ヨーロッパのエアバス社だ。

2に、アメリカの大豆輸出額は128億ドルだ。中国は、アメリカの大豆輸出の半分以上を占めている。貿易戦争の話だけでも、アメリカ農家は打撃を受けている。大豆価格が急落したのだ。この場合も、中国には信頼できる代替供給者がある。ブラジルだ。

また、中国政府は、その輸出が減少しても、ダメージを吸収する政策を取ることができる。アメリカのように、中央銀行は独立していない。だから人民銀行は、必要なら、金利を下げて国内需要を刺激できる。国有銀行も、同様に信用を増やす。中國政府の財政状態は、アメリカよりもずっと健全だ。貿易戦争で損なわれた産業に対して、補償することができる。

最後に、中国政府は、貿易戦争の政治的ダメージを、トランプ政権よりも容易に吸収できる。トランプが中国を罵倒するたびに、アメリカの株価は下落した。トランプ大統領はダウ平均株価を自分の支持率のように扱っている。アメリカ政府は、株式市場を安心させるために、貿易摩擦の交渉による解決を強いられるだろう。11月に中間選挙が迫っている共和党議員たちにとって、この問題は特に政治的に影響する。中国はこうした選挙区の製品に報復関税を予告している。

何より、トランプには戦略がない。中国に市場開放や知的財産保護を求めるなら、国際的な同盟を組むことが効果的である。昨年は、アメリカがこの点でEUや日本と協力した。しかし、今やトランプは日本やEUも関税で脅している。アメリカ単独で中国を脅迫するやり方は、むしろ中国に、貿易戦争に反対する、という国際政治上の優位を与えている。

トランプ政権の稚拙さに比べて、洗練された、辛抱強い、活力ある中国の外交術は、トランプに見かけ上の譲歩を与えて、win-winの解決を促すだろう。たとえば、アメリカから液化天然ガスをもっと購入することだ。トランプは勝利を宣言できる。

中国には利用できる十分な時間がある。有権者が議会に民主党議員を送れば、トランプの力は殺がれる。2020年にはトランプを追い出すことができる。他方、習近平は再選を心配することもない。

PS Apr 17, 2018

Why China Won’t Yield to Trump

JEFFREY FRANKEL

トランプは貿易赤字が大きいことを貿易戦争で有利だと誤解している。しかし、貿易黒字を出す国は金融資産を蓄積するから、優位を得るのだ。中国がまさにそうだ。アメリカの財務省証券を1兆ドルも保有している。それを売れば価格が下がってアメリカも中国も損失を被るが、売る必要はない。その噂だけでも、アメリカの金利は上昇し、財政赤字を維持するコストが増す。

中国の世論はアメリカに対する報復を強く支持している。それはアヘン戦争を思い出すからだ。かつてイギリスは、中国に、アヘンその他の輸入市場を開放するよう強いた。この屈辱を晴らすには、中国が貿易による制裁を断固として拒否するしかない、と彼らは確信している。

たとえ中国が譲歩したように見えても、中国は台湾その他の国から製品として輸出するだろう。そもそも、2008年以降、中国の経常収支黒字は大幅に減少してきた。今ではGDP1%でしかない。他方で、アメリカの対外赤字は増大し続けている。その原因は、通商政策ではなく、共和党の減税策だ。その予算赤字がアメリカの貯蓄を減らした。

中国がトランプのメンツを保つようなジェスチャーを示すかもしれないが、中身のない譲歩である。トランプの貿易戦争は、アメリカの対外収支、生産、雇用、実質賃金、何についてもプラスにならない。トランプは嬉々として記念写真を撮り、自慢話をTweetし、Fox Newsが勝利を称えるとしても、その事実は変わらない。


● ECB総裁にはドイツ人を

Bloomberg 2018416

Where Does the ECB Go From Here?

By Mervyn King

Mario DraghiECB総裁になったとき、ECBが伝統的な中央銀行になれないことは明白だった。それは高度に政治的組織であり、不完全な政治同盟において、ユーロ圏を代表する財務大臣もいなかったからだ。

ユーロ危機の中で、2012年、ドラギは「ユーロを守るためにECBは何でもする用意がある」と宣言し、金融市場で投資家たちの信認を得た。ドイツ首相とフランス大統領が、翌日、それを認めた。しかし、彼らはドラギを信じただけで、その信認は常にもろいものだ。

ヨーロッパの指導者たちは、ユーロ改革を一層の政治同盟に向けて進めるには、国内の支持を欠くと知っている。だから既存の制度内で、秘密裏に作業した。その過程は、ECBを秩序の蝶番として、何とかつながっていた。すなわち、政治家ではなく、官僚たちが維持していたのだ。

ドイツの新しい大連立政権とフランスのマクロン大統領が、通貨同盟の基本的枠組みを改革する、と人々は願っている。しかし、両国のアイデアは対立している。マクロンはユーロ圏の財政同盟や単一の財務大臣を目指すが、ドイツはそれを嫌う。

ドイツの世論がユーロを嫌うようになった。それは、ユーロがドイツの輸出企業や政治家にとって良いものでも、消費者にとっては良くなかったからだ。彼らは、もしドイツの通貨が増価していたら、生活水準をもっと改善できたはずだ。多くの評論家やIMFは、ドイツが財政黒字を使って、もっと政府支出を増やすように求めた。しかし、ドイツに必要なのは、実質為替レートの引き上げである。それはインフレを意味する。このままでは赤字国への財政移転とインフレが続き、ドイツ国民はそれを嫌う。

ここでECB総裁の後継問題が関係してくる。だれが次期総裁になるべきか? この困難な政治組織を動かすのに、フィンランド中央銀行のErkki Liikanen、フランス銀行のFrançois Villeroy de Galhau総裁、オランダ中央銀行のKlaas Knotは、いずれも有力候補だ。

しかし、ユーロのシステムを維持するには、ドイツにおける抵抗を克服できなければならない。今、その反対派の中心には、ドイツ連銀と金融政策の学者たちがいる。この反対派を黙らせるには、ECB総裁に、ドイツ人が尊敬する中央銀行家を据えることだ。最後には、ユーロのシステムを守るために「ECBは何でもする」と宣言するしかない、と認める人物だ。より高いインフレとより大きな財政移転を受け入れると誰も疑わないような。

Jens WeidmannECBの決定から外すのではなく、その中に取り込む方がよい。かつてアメリカ大統領Lyndon B. Johnsonは、FBI長官J. Edgar Hooverについて、有名な言葉を残した。「彼をテントの外に出してわれわれを非難させるより、テントの中において外を非難させる方がよいだろう。」 ヨーロッパの諸政府が同じように考えるとしても、不思議ではない。

ECB総裁を引き受けるとしたら、よく考えることだ。


● AIと失業問題

PS Apr 18, 2018

Automation and American Leadership

ROBERT SKIDELSKY

失業についての2つの見解が争っていたのは、それほど前の話ではない。一方では、ケインズ主義者が需要不足論を展開した。他方では、シカゴ学派が失業は余暇と仕事との間で行われる自発的選択である、と説明した。

今、第3の説明が広まっている。フルタイムの機会や実質賃金が減少するのは、機会かによるものだ、というのだ。これは人間の職場を奪う、旧来の技術的失業問題である。しかし、旧式の対策は役に立たない、という。

この説明によれば、機械化やAIは、急速に、予想を超えた規模で人間の職場を失わせる。そして、こうした新技術を受け入れることが、地政学的に、また競争上、必要と考えられている。既存の雇用パターンが破壊される影響を抑えるため、自動化が進むのに応じて、教育や社会保障のシステムが適応しなければならない。

外交評議会CFRの新しい報告書(The Work Ahead: Machines, Skills, and US Leadership in the Twenty-First Century)は、こうした議論を集約している。ほとんど、あるいは、部分的に、すべての職場が機械化される。これに抵抗しても無駄だ。適応する以外の選択肢はない。戦略的な敵である中国と、われわれはグローバルな指導力を競い合っており、技術革新に遅れてはならない。

最後に、われわれは、仕事がその人のアイデンティティーの源泉である、と教えられる。それゆえ経済的保障と雇用を切り離してはいけない。伝統的な、しかし、より柔軟な雇用形態で賃金を得るべきだ、と。こうして、「膨大なコストと、労働への誘因を損なう」ユニバーサル・ベーシック・インカムは拒否される。

こうしたルールを1つにまとまるなら、それは、ロボットの普及に対する答は、積極的な労働市場政策を採用して、人間とロボットが競争するしかない、ということだ。職場が移ろいやすくなるという挑戦に、人々を移ろいやすい形にして対処するのだ。

最終的に、報告書は答えていない。「ギグ・エコノミー」の弾力的な職場はケインズ主義的な需要不足を示すのか、パートタイムや自営業の選択は自発的なものか、あるいは、自動化によって強いられるのか? 彼らの答えは、グローバリゼーションや技術的ダイナミズムに取り残された人々、地域への対策を、一層強化せよ、ということだ。

私は、同じ現実に対して異なる答えを出す。もし、できるだけ多くの人々を雇用することが目標なら、グローバリゼーションも自動化も減速させるべきだ。すべての市民が、大幅に取り残されない、という権利を持っている。その権利は、アメリカがグローバルな指導力を競っている、というインチキな理由で、犠牲にされてはならない。


● Brexit投票のやり直し

FT April 20, 2018

A second Brexit referendum would tear Britain apart

MARTIN WOLF

すでにBrexit投票後に重大な変化があった。特に、トランプ大統領は、UKにもEUにも、地政学的な環境を悪化させた。さらにBrexitのコストも明白になった。大蔵省の予測した経済危機は起きなかった。しかし、衰退はゆっくりやってくる。イギリス式のゆでガエルだ。

そもそもイギリス議会がBrexitを逆転すればよい。2度目の投票は不必要だ。しかし、国民投票は神聖なものであり、それを逆転するには再び国民投票するしかない、と言える。

それはむつかしい、という意見からは、投票で問うことが明確でない、と反対される。このままEUとの交渉で合意できないかもしれない。離脱の細部は何もわかっていない。国民投票を準備しても、そのタイミングが離脱交渉の期限と重なってしまう。EUに交渉期間を延期するよう求めることはできるが、EU側はUKのごまかしに付き合うことを嫌悪している。

さらに重要な問題は、イギリスの国内政治だ。今も有権者の意見は均等に分断されている、という証拠がある。この国は一種の内戦状態なのだ。もし投票結果が5149Brexit反対になった場合、それで解決なのか? むしろ紛争は激化するだろう。イギリスの主要政党でBrexitに反対する決意を示しているものはない。労働党のコービン党首はEUに反対だ。それは資本家の陰謀であるから。逆に、保守党の右派もEU離脱を主張する。EUは社会主義的すぎるから。

私は、EU離脱が不必要で、破滅的な失敗である、と確信している。列車がBrexitの駅に着くのを止めたいと思う。しかし、それはできないだろう。むしろ、そのことでUKが分解してしまうことを恐れる。

可能な、最善の取引を目指すべきだ。できれば関税同盟には残るべきだ。これを敗北主義と言うかもしれないが、ダメージを最小限にすることも重要だ。


● リベリアを忘れないで

NYT April 19, 2018

The Road Ahead for Liberia

By George Manneh Weahthe president of Liberia

私はClara Townで育った。リベリアの首都、モンロビアのスラムだ。スポーツが、貧困から抜け出す私のパスポートだった。幸運と厳しい練習のおかげで、私はClara Townの汚れた競技場から、ヨーロッパの豪華なスタジアムに移った。私はプロ・フットボールの世界最大のクラブでプレーし、アフリカ出身で最初の、FIFA年間最優秀選手になった。

122日、私はモンロビアのフットボール・スタジアムthe Samuel Doeにもどってきた。ここで多くの試合に出た思い出があるけれど、リベリア大統領として宣誓をするためだった。それは、この75年間で最初の、民主的な、平和的な政権移行であった。私はスタジアムに立って、リベリアというチームを率いる大きな責任を痛感した。

私がリベリアにもどったのは2003年であった。同じ年、最初は西アフリカの近隣諸国から、その後は国連からの平和維持軍が到着した。14年間も続いた残酷な内戦状態を終わらせるためだ。内戦で、およそ25万人が殺害され、200万人が難民となった。

平和を維持し、貧困層を助けるため、経済の安定性と成長をわれわれは必要とする。公務員は国の財源を奪ってはならない。政府を民主化し、人々にアクセスしやすいものにする。土地の権利を確立し、インフラや道路、国民統合を促す法律を作りたい。規制を減らし、官僚主義を打破して、投資を招き寄せる必要がある。リベリアはビジネスに対して開かれ、政府は全力で国民の繁栄を支援する。

しかし、われわれは引き続き国際的なパートナーを必要としている。リベリアを忘れないでほしい。われわれは施しを求めているのではなく、チャンスがほしいのだ。進歩と発展に向けて共に歩む、パートナーになってほしい。

******************************** 

The Economist April 7th 2018

French strikes: How to stay on track

Britain’s gender pay gap: Howe to narrow it

Japan’s sex industry: More smutty than slutty

Corruption in South Korea: The presidential curse

Water: A massive diversion

Segregation: Coming apart

Israel and Gaza: Will it boil over?

Charlemagne: Orban’s unwittingly ally

Supermarkets in China: Two Ma race

Emerging markets: A new shade

(コメント) 多様な圧力が働いています。・・・マクロンがフランスの労働組合や年金に関して、極端な優遇策に、改革を唱えたのは正しい。イギリスのジェンダー・ギャップは、北欧などを見習って、なくすべきだ。高齢化・少子化で日本のセックス産業はどうなったのか? 

しかし、おそらく最大の圧力は、アメリカの人種差別を解消するキング牧師らの運動が展開されて半世紀を経ても、分断状態・隔離は、大規模な混乱を刺激するほどに再生しています。また、中国の水不足を解消する水資源の地理的大迂回は、むしろ膨大な無駄遣いで、解決につながらないことです。

****************************** 

IPEの想像力 4/23/18

NHKBSで「北米イエローストーン 躍動する大地と命」を観ました。厳しい冬の生存競争です。家族(おそらく自分の母親)の死体を喰うために集まる、狼を追い払おうとするバイソンにも、傷ついて弱ったオオツノ鹿を、長い時間をかけて狩り、その肉を子供たち食わせる間、離れて他の肉食獣が来ないように見張る狼の親にも、生きることの困難な現実、生命の相互に依存した姿を観て感動します。

****

IPEと言いながら、シリア空爆や北朝鮮の核危機を議論しているけれど、経済政策はどうなっているのか? ・・・

イングランド銀行元総裁、メルビン・キングのコラムは、ECBの困難な政治的条件、金融政策としての限界、債務危機がユーロ危機として再来する覚悟を述べています。共通通貨であるためには、通貨圏内の経済的な不均衡、構造的な調整問題が起きたとき、経済政策として、中央銀行が公的債権の市場を安定化するために介入すること、また、苦境にある地域や産業に財政的な支援を行うことは、必要であり、しかも、公正な手続きにおいてなされることです。

しかし、ドイツはこれを認めません。ギリシャに財政支援して、問題をほんとうに解決するのか? ECBの市場介入は、財政赤字をさらに融資するだけではないか? 彼らの疑念や不信も、また、正当な理由があると思います。なぜなら私たちも、朝鮮半島の非核化と再統一に関する財政的分担問題を、これから構想しなければならないからです。あるいは、アメリカがシリア内戦後の経済再建に関して交渉するとき、ロシアやイラク以上に強力なテコを持つ、というSusan E. ライスの指摘を思い出します。

キングによれば、ドイツ人のECB総裁が、その限界を打ち破るべきなのです。それは、単に、政治統合という基礎を欠いたECBの苦悩ではありません。私は、かつてアジア通貨危機の後、アメリカの学者に意見を聞いたことがあります。その1人は、アジア諸国が連邦準備銀行制度を設けるべきだ、と述べました。

イギリスの政治経済学者、ロバート・スキデルスキーの2つのコラムは、金融危機後の「失われた10年」と、人工知能やロボットの普及による「技術的失業」という、2つの失業問題を議論しています。

金融危機後の財政再建は、間違っていたのか? あるいは、むしろ健全化を急ぐべきなのか? 不況を避けるためには、財政赤字を増やすべきである。しかし、緊縮策を採用しなければ、投資家は増税やインフレを心配するのではないか? その意味で、財政再建が政策の余地を確保する、と緊縮策を支持する修正ケインズ主義者も現れました。

意見対立は、AI・ロボットによる技術的失業論でも顕著です。もし技術革新で失業者が増大するなら、社会保障を充実し、教育システムや職業訓練プログラムを大幅に拡充して、AI・ロボットが社会によって支持される条件を政治が創り出さねばなりません。しかし、ベーシックインカムについては、反対意見が強く、市場経済の中で機能するのか、と疑われています。

スキデルスキーに言わせれば、経済学の論争はイデオロギーです。・・・政府は(常に)うまく機能しない。金融市場は(すべて)正しい。労働と報酬は(人間にとって)切り離せない。

****

NHKBS「駅ピアノ アムステルダム」を観ました。異なる大陸から、内戦状態や飢餓を逃れ、異郷から集まった人々が新しい都市を創ります。今、政治経済秩序を築くものは何か?

融資や投資として「資本」は境界を越え、それに加えて、労働者や難民も境界を超えて行きます。金融危機、貿易不均衡、AI・ロボットは、経済学と経済政策の革新、それを決定し、実施する政治の主体と制度も、やはり、境界を超える、と告げているのでしょう。

******************************