IPEの果樹園2018
今週のReview
4/16-21
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貿易戦争とハイテク ・・・ファシズムの再生 ・・・オルバンの非民主主義体制 ・・・シリア空爆の限界 ・・・日本経済の奇跡 ・・・アメリカと中国の国際体制 ・・・民主主義の失敗 ・・・ポスト冷戦の資本主義
[長いReview]
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● 貿易戦争とハイテク
PS Apr 6,
2018
Trade Wars
in a Winner-Take-All World
DANIEL GROS
トランプ大統領は関税を武器に、グローバルな多角的貿易システムを指導するチャンピオンと擁護者から、これを罰する魔人となった。しかし、情緒不安定な1人の政治家が長年にわたって築かれた構造やメカニズムを突然に転覆させる、というのは、根本的な経済変化がなければ難しいだろう。
それはあるのだ。
現在の貿易摩擦は、最初、「旧経済」の鉄鋼部門、特に中国における膨大な過剰生産力の問題であった。2002年に、ジョージ・W・ブッシュ大統領も鉄鋼の輸入製品に高い関税を課した。しかしそれはWTOの紛争処理パネルで否定された。トランプ政権の通商分野に関するタカ派は、それを敗北とみているかもしれないが、多くのエコノミストたちはそうではない。高い関税を止めること、すなわち、アメリカの多くの産業にとって主要投入財である鉄鋼に課税しない方が、究極において、アメリカ経済に良いのである。
しかし、現在の関税は根本的な意味でブッシュの保護関税と異なる。特に、これは通商法301条の下、中国を標的としている。トランプ政権は、外国企業に知的財産を公表するよう中国が強制していることに、強い不満を持っている。これはアメリカのハイテク企業に深刻なダメージを与えている。
たとえば、ソーシャル・ネットワークや検索エンジンの大手は、新市場に参入するコストがゼロである。既存のソフトウェアは数百万人の追加の利用者も容易に対応できる。もしそのような企業が知的財産の公開を強いられたら、彼らのビジネスモデルは破壊され、地元の企業に市場で負けるかもしれない。
これは競争的産業の問題ではない。より競争的な「旧経済」では、企業が海外の新市場に参加するにはコストがかかり、限界的な利潤を制限する。潜在的な輸出業者が他国の市場アクセスを求めるロビー活動は、通常、それほど目立たない。例えば、インドの保護主義はそれほど大きな抵抗を受けていない。
「勝者総取り」の新しいハイテク経済は、中国のような巨大市場が保護され、閉ざされていると、こうした知的財産を持つ勝者になる企業がその莫大な利潤を失ってしまう。それゆえ貿易紛争は非常に激しくなる。他方で、通商政策はレントを奪い合う性格を強め、雇用や消費者の視点が無視される。(競争的市場では、貿易による生産性の向上や質の高い雇用創出が政策担当者たちの優先目標である。) 独占企業のレントは高い株価に反映されている。
貿易戦争は非対称な同盟を形成する。支配的なハイテク企業のすべてが属するアメリカは、中国との戦いで同盟国を得るのに苦労するだろう。ヨーロッパや日本では、主要な知的財産を持つ企業が競争的な産業に属する。彼らにとって、中国の要求は、アメリカほど大きな損失にならない。
さらに、ヨーロッパはアメリカとの同盟を好まない。なぜならヨーロッパのいくつかの国は独占的レントをアメリカと分け合うことを強く求めているからだ。デジタル多国籍企業の利潤に対する課税を強化しつつある。
競争的な旧経済では、巨大な赤字国が貿易戦争の勝者になった。しかし、「勝者総取り」の新経済では、貿易戦争の目的な他の市場を開放することである。だからアメリカは、インターネットの巨大企業の陰で、外交的な攻撃をアレンジしている。他方で、中国とヨーロッパはその独占利潤を奪おうとしている。
これはゼロサム以上に破壊的な戦争だ。グローバルな貿易システムが破壊され、すべての者が損害を受ける。
PS Apr 11,
2018
South
Korea and the End of US Credibility
ANNE O. KRUEGER
米韓同盟は、戦後、最も劇的な成功を収めた関係である。ところがトランプ大統領は、この長期的な関係の経済的・戦略的な利益を放棄する決断をしたようだ。
1950年代、韓国は戦禍によって1人当たり所得が3分の1になり、ハイパーインフレーションに苦しみ、成長率も非常に低かった。しかし、その政権は1960年代に重大な改革を推進し、次の30年間で生活水準を4倍にし、重要な工業国家となって、OECDに加盟した。その成功の多くが、援助への依存から輸出志向の成長に転換したことによるものだった。
2012年3月、アメリカと韓国が結んだ米韓自由貿易協定は、一層の緊密な貿易関係を実現するためのものだった。しかし、トランプ政権が誕生すると、これは「最悪の取引」と非難され、再交渉すべきだ、となった。
● ファシズムの再生
NYT April
6, 2018
Will We
Stop Trump Before It’s Too Late?
By MADELEINE ALBRIGHT
1945年4月28日、今から78年前、イタリア人たちは元独裁者、ムッソリーニの死体を、ミラノのガソリンスタンドの横でさかさまにぶら下げた。その2日後、アドルフ・ヒトラーは、戦争によって破壊されたベルリンの地下壕において自殺した。ファシズムは死んだ。そのように見えた。
甦ることがないように、戦争とホロコーストを生き延びた人々は力を合わせて、国連を設立し、国際金融機関を形成し、世界人権宣言による法の支配を強化した。ベルリンの壁が崩壊し、中央ヨーロッパ、ラテンアメリカ、アフリカ、アジアでも、独裁は終わり、民主的な政府が広まるように見えた。自由が実現した、と。
しかし今、われわれは新しい時代にいる。テロと、宗派対立と、脆弱な国境線、悪辣なソーシャル・メディア、野心的な人々の冷笑主義、こうした中にあって、民主主義の旗が高く掲げられるのか、その答えはもはや明らかではない。ファシズムは、第2次世界大戦の終結以来、かつてないほど深刻な脅威としてよみがえっている。
アメリカの指導力が求められている。しかしトランプは、グローバルな話し合いの席で、アメリカの積極的な発言力を着実に低下させ続けた。トランプは重要な国際条約から離脱し、国際機関を侮辱し、国務省の資源と役割を奪った。自由な社会を守らず、独裁者たちに助けとなるような行動を取った。アメリカはもはや人権や市民的自由を擁護するために彼らを批判しない。
われわれは何をなすべきか? 第1に、真実を守ること。たとえば、自由な新聞はアメリカ国民の敵ではない。われわれの守護者である。第2に、だれも、大統領であっても、法に従わねばならない、という原則を厳格に実行する。第3に、われわれ一人一人が、民主的な過程を力づけることに参加すべきだ。選挙に参加し、意見が異なる人々にも敬意を払い、その声を聴き、支援する候補者のために活動し、「何をしても無駄だ」という冷笑的な言葉に負けてはならない。
私は80歳を超えたが、今でも、学ぶ権利を要求する若者たちが、薄いジャケットも着ずに集まってくるのを観ると励まされる。
偉大さとは、われわれのホテルのロビーに使われた大理石の多さではないし、ソビエト式の軍事パレードをすることでもない。アメリカの最高の姿が示されるのは、さまざまな背景を持つ人々が協力して権利を守り、すべての者の生活を改善するために行動するときだ。それが世界の人々に希望を与えるモデルとなる。政治家は、たとえ大統領でも、この理想を汚してはならない。
● オルバンの非民主主義体制
NYT April
6, 2018
How
Democracy Became the Enemy
By Roger Cohen
「脅威は西側から来る。」 とオルバンは述べた。このハンガリー首相は、独立した司法を弱め、メディアを隷属させ、移民を悪の源泉とみなし、仲間のエリートだけで資本主義を育て、忠誠心を高めた。歴史の記憶を捜査して、民族の犠牲とヒロイズムの物語を創る。「人民の意志」という名目で、憲法を改正した。
秘密警察はない。深夜にだれも消えたりしない。外国資本も歓迎だ。しかし、ハンガリーは自由だ、と言えない。オルバンとカチンスキーの緊密な新型ハイブリッド体制だ。彼らはともに、西側のような自由を求める若者たちと闘っている。
EUは、2012年から2016年だけでも、約900億ユーロをポーランドの近代化のために資金援助した。NATOとEUに加盟し、ハンガリーも1999年と2004年にそうしたが、普通のヨーロッパ国家として、安全保障を得たわけだ。市場経済と法の支配が新しい関係を固めるはずだった。これらの目標が、困難な構造転換を通じて、達成された。
ポーランドもハンガリーも、西ヨーロッパから見れば夢のような、4.6%の成長を昨年達成した。しかし、彼らはこの30年間をどう考えているのか? 民族のイメージ、英雄たち、殉教者、すべてが犠牲になった。代わりに得たのは、ショッピング・モールとドイツ製の自動車だ。燃え尽きた世代は改革に疲れた。かつては灰色の共産主義体制と比較した。今は、ロンドンやベルリンの繁栄と比較する。
「1989年、われわれは皆、国から離散した難民となった。」と、ワルシャワの社会学者は言う。資本主義は、いわば、違う国だった。市場とリベラルな民主主義が必然的に一緒にあるものなのか、だれも問わなかった。それは間違いだ、とわかったのだ。
● シリア空爆の限界
The
Guardian, Mon 9 Apr 2018
After
Douma, the west’s response to Syria’s regime must be military
Simon Tisdall
イギリスとその同盟諸国は一致して、シリア市民を意のままに殺戮するアサドの力を削ぐために、軍事行動を起こすべきだ。中東の軍事介入が果てしない戦争になることを恐れて、何もしないと決める前に、考えてみるべきだ。2011年以来、アサド体制に対して起きた蜂起は内戦状態に向かい、それを回避する方策は何も成功しなかった。犠牲者の数は50万人に近くなる間、国連は停戦や戦闘停止、地域交渉、国民会合を試みた。そのすべてが失敗した。
数百万人の市民が内戦を逃れ、あるいは戦場に閉じ込められた。EUやその他の国が難民割当を提案し、安全地地帯の設置を求め、人道支援の回廊、飛行禁止空域、エスカレーションを避ける地帯を主張した。しかし何1つとして流血と惨状を止めることはできなかった。アサド体制は続いている。次は、反政府派が支配するイドリブ県を狙っている。
過去にもアサドは非合法な化学兵器を使ったが、中でも最悪のケースは、2013年に1700人が死んだ東Ghoutaにおけるサリン攻撃であった。しかしアメリカは、バラク・オバマがレッド・ラインと呼んだこと(化学兵器の使用禁止)を強制できなかった。
オバマにとって、シリアはその任期の汚点となった。ビル・クリントンがルワンダによって傷を残したのと同じだ。
同盟による軍事攻撃は、たとえ遅くても、行われないより良かった。それは将来の蛮行を回避させ、無辜の人々の命を救う。どこであれ、普遍的な人権や国際秩序、国際法に対する信念を腐食する邪悪な毒素を中和するだろう。
The
Guardian, Mon 9 Apr 2018
Only
Assad’s victory will end Syria’s civil war. The west can do nothing
Simon Jenkins
西側がシリアにおいて取りうる選択肢は、事態を悪化させるかどうか、である。いかに立派な見栄えの、素晴らしい言葉、断続的な爆撃を行っても、この内戦でアサド政府側が勝利するのを止めることはできないだろう。2011年以来、西側が反政府側に与えた援助のすべてが、この国の苦しみを長引かせた、ということが今や明らかになった。7年前、西側の諜報機関とメディアが、アサドは失脚するだろう、と述べたが、それは間違いだった。
外部からの非難にもかかわらず、アサドは先週も反政府勢力が支配するDoumaで毒ガスを使った。昨年、毒ガスの使用後に、アメリカが59発のミサイルをシリアの空軍基地に撃ち込んだが、その効果はゼロであった。アサド体制は生存を賭けて戦っているのであり、非難も気にしないし、国際条約に従う気もない。また彼らの支援者であるロシアとイランも、冷淡な外交姿勢を変えない。
1997年の化学兵器禁止条約は、戦場における殺害に「受け入れることのできる」形態を定義する点で前進した。その欠陥は、貧しい小国が化学兵器を大量に保有していることだ。彼らは、その塩素ガスやサリンと、NATOのクラスター爆弾、白リンとを区別しない。窒息する子供たちをテレビは映すが、高度な爆発力を持つミサイルが細片に砕いた遺体を、われわれは観ていない。
非人道的なことが戦争における市民の殺害にはある。ダマスカス郊外の市街地を標的とした爆撃は特に忌まわしい。しかし、そのすべての非難を西側も受けるべきだ。昨夏のモスルをめぐる空爆戦で、推定8000人以上の市民が殺害されたが、その多くはイラク、アメリカ、イギリスのミサイルによるものだった。市街戦に市民の犠牲はつきものだ、とイギリスのRupert
Jones大将は述べるが、アサドも同意するだろう。
Bloomberg 2018年4月10日
Trump's
More Likely to Pay a 'Big Price' Than Assad
By Hal Brands
今思えば、アサドに対してアメリカが決定的な介入を行うとしたら、それは2012年か13年であっただろう。当時は、反政府派が軍事的なイニシアティブを持っていたし、過激派が反アサド勢力をまだ支配しておらず、ロシアやイランの軍事的な関与も小さかった。
アメリカが強く押せば、アサド政権は崩壊したか、少なくとも彼を交渉による体制移行に同意させただろう。しかし、あの時点では、紛争の被害を放置することの道義的、地政学的な深刻さは、まだ徐々に注目されていたに過ぎなかった。また、西側が介入しなくても、アサドは退陣するように見えた。
オバマ政権の終盤には、アメリカの強い介入なしにアサドが去ることはないし、非介入の恐るべき結果が明らかになっていた。しかし、その状況で、すでに戦況は反政府勢力に不利であったし、ますます過激派が指導するようになっていた。イランと、その後はロシアも軍事介入を行い、アメリカの行動の自由派、むしろ紛争を激化させるコストによって制約される形となった。
もしトランプが本気でアサドに「高い代償」を支払わせるとしたら、戦略的な状況を変える形の介入をすることになるだろう。例えば、アメリカは大規模な、持続的な空爆を行い、シリアの軍事的資産、アサドの権力の象徴を破壊することだ。それは(化学兵器の使用に応じた)「比例的な」報復ではない。アサドとその支援者であるロシアに対する十分な危険を意味する軍事力の行使である。その攻撃は、まだ存在する少数の穏健な反政府勢力に対する支援を再開し、強化すること、また、シリア市民たちに安全地帯を設ける、という野心的な試みと並行して行われる。
しかし、そうすれば、これまで介入を停滞させた困難と危険がふりかかる。アメリカはシリアに本格的な軍事的関与を行う意志を持ち、ロシアやイランとの軍事的対立がエスカレーションするリスクを冒し、他方で、国防総省は中東から東欧や東アジアに軍事力の重心を移そうとしているのだ。しかも、こうしたことをしても成功する見込みはせいぜい不確実なものだということを知っている。
● 日本経済の奇跡
FT April
9, 2018
Japan's economic
miracle
Dan McCrum
日本がすでに裕福な国であり、将来もそうであることと、何十年間も成長していない経済停滞の国、インフレも起きない国であることとの間には、ずっと何かギャップがあった。
David Pillingは、GDPの計算の仕方に問題を見ている。・・・日本人は生活状態が良いのに、20年間も名目GDPが伸びていない。デフレと人口の低い増加率が原因だろう。1人当たり所得はもっと良い。しかも、サービスの質や技術が生活の質を高めている。三越百貨店のサービスは良いし、数秒も送れないほど正確に運行される、時速200マイルの新幹線がそうだ。
われわれは2014年に示した。・・・15歳から64歳の日本の人口は1995年にピークに達し、それ以来10%も減少した。日本の総人口は25年前とほぼ同じである。1990年代の後半以来、日本の1人当たり実質GDPの成長は、他のすべての主要経済を超えている。さらに他の経済と異なり、日本の所得不平等は増大しなかった。開発諸国中で最低だ。
日本について、なお心配なことがある。政府の赤字、金融刺激策の規模が、バブル破裂後の民間部門の債務削減を補って、膨張し続けたことだ。
この点でも、日本の教訓は、2つの間違った前提によって誤解されてきた。
第1に、物価の安定性は必ずしも悪いことではない。・・・日本は25年間も物価が安定してきた。しかし、これは新しいことでも、憂慮することでもない。イギリスは250年間もそうだった。1651年のイングランド内線から、大英帝国のピークであった1914年までだ。
第2に、今、ヨーロッパで銀行に仕事を得るのは止めた方が良い、ということだ。・・・日本の金融部門の利潤は、1990年のピークから半減している。ユーロ圏の金融部門の利潤も2007年にピークに達し、17年遅れて日本の経験をたどっている。
20年間、生活水準を向上させ、比較的、平等を維持し、銀行システムが機能してきた。われわれは日本の経済的奇蹟について話し始めるときだろう。
● アメリカと中国の国際体制
PS Apr 9,
2018
Asia After
Trump
JOSEPH S. NYE
シンガポールで、私はリー・クアンユーに尋ねた。中国はアメリカを超えるだろうか?
彼は、「ノー」と言った。なぜなら、中国は14億人から才能ある者を集めるが、アメリカは開放的な社会であるから、75億人の中の才能ある者が集まる。中国以上に創造力を発揮するだろう、と。もしその開放性を保つことができれば、アメリカの指導力は、アジアでも、世界でも、生き延びるとみてよいだろう。
FT April
11, 2018
US-China
rivalry will shape the 21st century
MARTIN WOLF
IMFによれば、2017年、中国の1人当たりGDPは、市場価格でアメリカの14%、購買力平価PPPで28%である。それらは2000年に3%と8%であった。
中国の人口はアメリカの4倍であるから、2017年のGDPは、中国がアメリカの62%、PPPで119%である。
2040年までに、中国の成長率は大きく減速するが、1人当たりGDPで中国がアメリカの34%と50%になる。経済規模では、PPPで2倍、市場価格で30%大きくなる。
経済規模がアメリカを越え、技術革新を促す中国が、それを軍事力に利用することをアメリカは警戒する。しかし、発展する権利はすべての国にある。アメリカは中国による知的財産の盗用を非難するが、それはキャッチアップしたすべての国がしたことだ。アメリカも19世紀にはそうだった。
知的財産は不可侵の権利だ、と主張するが、間違いである。神聖な、不可侵のものとは技術革新だ。知的財産はそれを助けることも、妨げることもある。権利の擁護では、そのバランスを取ることが重要だ。知的財産があるから中国の技術革新を阻止できる、と思うのは狂気の沙汰である。
中国のアメリカに対する挑戦は、2つの点で際立つ。1つは、市場経済の計画化。もう1つは、非民主的な政治システムである。高所得諸国が金融危機を繰り返したことで前者を宣伝し、トランプが大統領選挙に勝ったことは後者の魅力を高めた。アメリカは、強力かつ協調的な同盟諸国によって有利な地位を維持するのだが、残念ながら、トランプは彼らに経済戦争を仕掛けている。もし北朝鮮を軍事攻撃し、ソウルと東京が壊滅すれば、アメリカの軍事同盟は終わりだ。
2つの超大国が競争を管理することはむつかしい。新興の中国にとって、アメリカとの衝突を避けられない。しかし、核武装した大国間で本格的な戦争が起きることはないだろう。
大規模な軍事衝突、経済関係における協力の途絶は起きるかもしれない。すでにトランプの考えによって、気候変動など、グローバルな共通財をめぐる協力体制は破壊された。
中国は、西側が決めたルールに従う義務を感じていない。しかし、中国は脅威ではなく、その関係を管理することは可能だ。むしろ西側の退廃こそ脅威である。特にアメリカでそうだが、レントの収奪が経済生活に広まっており、多くの市民たちが陥る宿命に関心を持たず、政治が資金提供者によって腐敗し、真実を軽視し、政府も民間も消費のために長期投資を犠牲にしている。
西側は中国の台頭と共存できるし、しなければならない。そのカギは、自分たちの善き性格を回復することだ。
● 民主主義の失敗
PS Apr 10,
2018
What’s
Been Stopping the Left?
DANI RODRIK
不平等、経済についての不安、認められた社会的地位の低下、エリートと普通の市民との間に広がる分断状態。民主的な政治システムが、専制的なポピュリストに利用されてしまうほど人々の苦悩が高まる前に、もっと早く対応しなかったのはなぜか?
原則として、不平等が拡大すれば再分配の要求を強めるだろう。民主的な政治家たちは、富裕層に課税し、より苦しい暮らしを送る人々のために支出するはずだ。
しかし、実際は、民主主義が逆に向かった。所得税の累進性は低下し、逆進的な消費税が増えた。資本に対する課税はグローバルな「底辺への競争」を続けている。政府はインフラ投資を増やすよりも、財政緊縮策を追求して、特に低スキルの労働者たちを苦しめた。大銀行と大企業は税金で救済されたが、家計は救済されなかった。アメリカでは最低賃金が十分に調整されなかったため、実質的に減少している。
その理由の一部は、民主党もアイデンティティ政治に巻き込まれたことだ。社会的なリベラルの目標のために、所得や雇用は犠牲になった。また、民主党が金融ビジネスや大企業からの献金に依存するようになった。特に、金融部門は政権の経済閣僚ポストを得ることで影響力を強めた。もしビル・クリントンがゴールドマンサックスの元幹部、Robert
Rubin財務長官ではなく、革新派の学者であるRobert
Reich労働長官に相談していたら、1990年代の経済政策は違ったはずだ。
既得権が政策に及ぼす影響だけでなく、考え方が同様に重要であった。1970年代のサプライサイド・ショックによって戦後のケインズ主義的コンセンサスが解体した後、累進課税やヨーロッパの福祉国家ははやらなくなった。その真空を埋めたのは、サッチャー=レーガン型の市場原理主義であった。また左派政党が、貧困層ではなく、高等教育を受けた知識人に支配されるようになった。この「バラモン型左派」は、再分配を好まず、メリトクラシー(能力主義)を信じていたため、貧困層の苦境を軽視した。
アメリカの有権者は、高所得層の限界税率を引き上げることや、社会的な財政移転に対して、強い関心を示さなかった。このパラドックスを説明するのは彼らが不平等を解決する政府の能力を信頼していないことだ。政府に関する信念は、彼らへの説得、経験、状況によって変化する。このことはエリートだけでなく、庶民についても言える。
ネイティビストに対抗する左派は、良い政策を示し、さらに、良いストーリーで説得する必要がある。
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The Economist March 31st 2018
America and world trade:
The danger of the deal
Northern Ireland and
Brexit: Identity theft
Iraq: Better days in
Baghdad
Northern Ireland: Past
and future collide
Iraq after Islamic State:
Moving forward
Returning migrants:
Homeward bound
Europe’s “identitarian”
right: White, right and pretentious
US-China trade: Tumbling
down
(コメント) 特集記事AI
in businessはあるのですが、期待したほどの中身はありませんでした。AIがもたらすプラス面とマイナス面が紹介され、プライバシーや産業の独占が懸念されます。
私が興味を持って読んだのは、Brexitによって揺さぶられている北アイルランドの情勢です。最近まで内戦状態を抱えていたイギリスが、保守党政権の迷走とEU離脱過程で、この問題に再び火を放つのでしょうか? 同様に、サダム・フセイン体制がアメリカの軍事介入で崩壊してから、これほど長く、また多くの犠牲を払わなければ、政治的な安定を得る政治的枠組みが見いだせなかったのか、ということです。その安定も、まだまだ十分に機能する仕組みではないようです。
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IPEの想像力 4/16/18
The
Economistの記事で、イラクとアイルランドにおける政治の困難な状況を読みました。混迷する日本政治と重ねて考えていました。
長い戦争状態がようやく終わって、イラクに平和が戻り、都市には経済活動が戻ってきた、と人々は歓迎します。「戦争は、イラク人が正気を取り戻すために必要だった、という者がいるけれど、もしそれが本当なら、それは恐るべき治療であった。アメリカがイラクに侵攻してからの15年間に、約30万人のイラク人と、4400人のアメリカ兵市が殺害された。さらに、ISとの戦いで、少なくとも7000人の市民、2万人の治安要員、2万3000人以上のIS兵士が殺害された。」
他方で、北アイルランドにおける平和を実現するために、カソリックとプロテスタント、2人の聖職者が多大の苦労を負って両勢力の依拠する村々をめぐり、和平への説得を極秘に続けた、と紹介しています。1998年、グッド・フライデー合意(ベルファスト合意)が成立しました。最後の武器庫が破壊され、アイルランド共和軍IRAの若い兵士が将軍の前まで行進し、おごそかに、銃を手渡した。
それまでイギリスは内戦状態だったのだ、と思うと、国家が平和を維持することが決して容易でないと分かります。1972年、最悪の年に、双方で殺害された犠牲者は498人でした。
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私たちは、現実の枠組みや基礎が溶解するようすを観ているのではないか、と不安を覚えます。ポスト真実の時代。仮想現実を生き、AIが考え、ロボットと働く時代。
・・・ポケモンGo! で遊ぶうちに、歩行者が交通事故に遭ったり、運転して人をはねたりする。
・・・アメリカ大統領のフェイク・ニュース非難。ロシアや中国による情報操作、プロパガンダ、ハイテク産業スパイを警戒する西側。
・・・東欧のハンガリーでは、独立した司法システムが破壊される。政治的な宗教裁判が行われる。
・・・イタリアのベルルスコーニが復活し、ロシアではプーチンが4期目に入る。ヨーロッパ中に、「アイデンティティー政治」が広がり、政治の舞台が右傾化する。
・・・佐川、福田、柳瀬、・・・。安倍首相の総理官邸に関わる幹部官僚たちは、なぜ事実をはっきり答えないのか? 彼らの個人的記憶や認識の有無、資料が発見できるかどうか、を問うているのではない。事実かどうかを知る必要がある。
・・・シリア政府軍による化学兵器の使用が非難されている。反政府勢力が使用した、と政府は反論する。「やらせ」と批判するロシア外相。国際機関による検証メカニズムは機能するのか?
・・・インターネットを介した情報収集、行動や意見の監視。莫大な利益を生むFacebookのビジネスモデル。アマゾンやGoogleによる製品情報からロジスティクスの圧倒的優位。AIをめぐる多分野におけるビジネスの買収、急速な独占の形成。
・・・中国公安局によるAIの利用。犯罪捜査。ソーシャル・メディア、ネットによる金融・決済、ビッグデータ。人々の行動を評価し、分析する。
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真実よりも、何よりも、権力を究極の目的として重視する姿勢に、この新しい時代を覆う腐食・腐敗の淵源があると思います。権力を握ることは、他のすべてを自由に決めることだ。彼らはそう確信して、権力に奉仕し、その目的に従った嘘をつくのです。
Irelandと似たAbe-landでも、アイデンティティー政治を駆使すれば、政策の失敗で支持率が低下するのは抑えられる。データの改ざん、隠蔽は、官僚システムを権力者とのコネで分断し、政治家による明確な指示がなくても、彼らの願いをかなえることを使命とする国家の誕生を意味します。
その後、Abe-landの人々は、アメリカのように幹部官僚が大量に権力者による指名で入れ替わり、北アイルランドのように武装した民兵が住民を守り、イラクのように15年の殺戮を経験して初めて、平和と真実に依拠した政治を回復します。
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