IPEの果樹園2018

今週のReview

4/9-14

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関税より産業開発計画 ・・・Brexitとユーロ ・・・トルコ人とはだれか?  ・・・ビッグ・データ、ロボット、製造業 ・・・中国の覇権は必然か? ・・・アメリカは戦争に向かうか? ・・・アメリカの保護貿易 ・・・アフリカの自由貿易 ・・・安全保障と金融改革 ・・・責任あるステークホルダー

長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


● 関税より産業開発計画

FT April 1, 2018

Columbus shows Trump how to thrive in the new world order

RANA FOROOHAR

アメリカは貿易赤字を嫌うが、中国はもっと長期的なゲームをしている。未来の戦略的なハイテク産業を育てる産業政策だ。

それが優れた戦略であることは、アメリカで成功しているオハイオ州・コロンバスを観ればわかる。コロンバスはラスト・ベルトの中心にある、トランプを支持した地域だが、人々は大統領の関税引き上げに関心がない。JPモルガンも、ホンダも、Nationwideも、ここでは最大の雇用先だが、職場を減らすアルゴリズムの開発に邁進している、と地域の経済開発戦略Columbus 2020を推進するトップは言う。

民主党員の市長が、この40年間で初めて、共和党を訪ねて、増税への支持を頼んだ。彼らはその資金を、知的財産・データ・アイデアの価値を高める時代に応じた人的資本形成に使う、と合意したのだ。教育機関を促し、若い知識労働者が住むような住宅も建てた。今では、若者が雇用される都市のトップ10に入る。

コロンバスの成功は、アメリカでも産業政策が有効であることを示している。中国だけでなく、ヨーロッパの諸都市など、多くの国で多年度の経済開発計画が立てられている。しかし、アメリカにはない。産業政策という言葉が軽蔑されている。

トランプは、中国の国家資本主義を非難するより、その優れた面をコピーする方がよいだろう。


● Brexitとユーロ

PS Apr 2, 2018

No Brexit for a Eurozone Britain

YANIS VAROUFAKIS

イギリスのメイ首相は、EU離脱はなんと困難で複雑なことか、と思っているだろう。しかし、もしイギリスが2000年にユーロを採用していたら、その難しさはこの程度ではなかったはずだ。

何より、イギリス国民はEU離脱を問われることもなかっただろう。ユーロ圏のイギリスが離脱を国民投票にかける、と発表すれば、直ちに銀行取り付けになる。慢性的な貿易赤字・経常収支赤字だから、ポンド価値が下落するとわかるからだ。

さらに、このユーロ圏のイギリスとして16年間の出来事が、今の離脱派や残留派の人々をどのように変えただろうか? 

199010月、イギリスはユーロに先行するERMEuropean Exchange Rate Mechanism)に参加した。ドイツ・マルクとポンドの交換レートを緊密に結びつける約束により、イングランド銀行は金利を高く維持しなければならず、1991年は不況になった。

その後も、ERMに属するイギリスやイタリアのような国は、2010年以後にギリシャが落ち込んだような不況を強いられた。イタリアの支配階級は、いかなるコストを払っても、リラをユーロに転換した。しかしイギリス政府は、イングランド銀行が生じる金融的なロスよリ、さらに重要な心理的・政治的な屈辱を受けても、賢明に振る舞った。1997年に勝利した労働党も、トニー・ブレアはユーロ参加に熱心であったが、ゴードン・ブラウン蔵相が巧みにそれを阻んだ。

しかしユーロに参加していたとしても、その影響は1990年代半ばの金融ブームで目立ったものではなかっただろう。ブームの間はギリシャも5%の成長を実現したのだ。ユーロが制約となったのは、バブルが破裂してからだ。

(ポンドを維持した)イングランド銀行には、シティの活動を維持し、政府による銀行国有化を助け、金融政策による安定化を巨額の資金供給で行う自由があった。それによってイギリスは、GDP5.15%が減少する1年の不況だけで済んだ。ロンドンが2008-2012年の時期にECBの政策を受け入れていたら、その貿易赤字、予算赤字、シティを維持するための資金供給に関して、ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペインへの救済融資が子供の遊びに見えるような、巨大な融資を要しただろう。その場合の緊縮策と融資の規模は、イギリス海峡の両岸で政治的に受け入れがたいものだったはずだ。

EUは激変しただろう。Brexitが雪崩となって、ドイツもユーロを離脱し、EUが解体しただろう。あるいは、EUが一夜にして財政統合を決断したはずだ。

イギリスがすでにユーロを採用していたら、Brexitの国民投票は行われず、ギリシャがドミノの最初になることもなかったわけだ。今、Brexitを支持する人々は、こうした独仏による財政統合を支持するだろうか?

2008-2016年に、大陸でECBが不況を広めたように、ユーロを採用したイギリスにブームは起きず、EU市民がイギリスに職を求めて流入することもなかったとしたら、どうだろうか?


● トルコ人とはだれか?

NYT April 1, 2018

Who is a Turk? It’s Complicated

By Kaya Genc

今年になって早くから、詳細な人口記録を公開し、オスマントルコの時代にさかのぼって系図がたどれるようになった。利用者は1882年までの祖先の記録をダウンロードできる。

この新しいサービスで、ソーシャル・メディアや職場、コーヒーショップには、ルーツ、移民、純粋、混血、といった言葉が飛び交っている。1世紀の間、トルコ国家は市民に厳格な国民アイデンティティーを求め、エスニシティーやトルコ民族の「純粋性」を排除していた。国家が創った民族の純粋さは動揺し始めていた。

長い間、エスニック・アイデンティティーは安全保障の問題であった。1915年、多くのオスマントルコ時代のアルメニア人が強制退去を強いられ死亡し、あるいは、一部はイスラム教に改宗した。改宗は家族にも秘密であった。

左派は、先祖への関心を恐れ、部族主義や内線さえも刺激される、と考える。しかし、アルメニア人の新聞の編集者は、これを歓迎する。トルコ・ナショナリズムの純血性は虚構であるとわかり、それが「当たり前のことになる」重大な兆候である、と。2012年のAnnals of Human Geneticsに載った研究によれば、トルコ人の父系祖先は、38%がヨーロッパ、35%が中東、18%が南アジア、9%が中央アジアである。

アタチュルクの死後、1940年代には、人種差別的なナショナリズムが広がり、「純粋なトルコ人」というアイデンティティーが主張された。右派も左派も、この単一エスニック国家を批判している。エルドアンは、保守主義とネオリベラリズムの融合を進めた、と多くのナショナリストが批判してきた。そして彼の権力の下で、ナショナル・アイデンティティーは、「純粋なトルコ人」から「イスラム主義」に徐々に移ってきた。

国民が祖先の系譜に自由にアクセスできるようにした理由は、彼の政治的な計算である。トルコ軍はシリア北部の町、アフリンを攻略した。2019年には大統領選挙がある。政府は、イスラム主義的なナショナリズムを強化したいのだ。

エスニックの多様さを知れば、イスラム主義が統一の基本となるだろう。そして、多様性はオスマントルコの支配領域が広大であったことも反映している。


● ビッグ・データ、ロボット、製造業

FT April 2, 2018

The rise of the information economy threatens traditional companies

JOHN THORNHILL

ベゾスJeff Bezosは世界1裕福な男になった。その資産は1250億ドル。彼はデータ資本主義の新しいルールを最初に理解した者たちの1人である。Viktor Mayer-Schönberger and Thomas Rangeの新著はベゾスの実践を理論として解明する。

ビッグ・データは、市場による情報メカニズムを超えることができる。その場合、ビッグ・データ企業に比べて、市場の「見えざる手」に依拠する伝統的企業は効率性を失い、消滅していくだろう。諸飛車としては彼らのサービスを歓迎しながら、労働者としては職場が失われてしまう。今、雇用の3分の2を提供するのは1億から2億の伝統的企業である。

また、ビッグ・データが示す優位を利用できるために、革新や競争を排除し、新興企業の可能性を奪ってしまう。

こうした欠陥を是正するため、Mayer-Schönbergerは政府の介入を求めている。たとえば、ドイツの自動車保険市場では、大企業の顧客情報を中小企業にも公開するよう強制している。

FT April 4, 2018

Made in Japan: can handcrafted glasses survive an automated world?

Leo Lewis in Sabae

福井県、特に鯖江市、には日本のメガネ生産の97%が集中している。しかし、多くの工場は老朽化し、高齢化した経営者には後継者がいない。鯖江市の工場は次々に閉鎖されている。ここは日本製造業の縮図である。サンダルから、半導体、造船でも、同じことが起きている。

日本は1980年代にチタン合金のメガネ・フレームを開発し、鯖江は「メイド・イン鯖江」のブランドを得た。しかし、国内製メガネは中国などからの安価な輸入品、そして、自動機械化のグローバルな趨勢と戦っている。

高齢化によってメガネ市場は拡大するだろう。グローバル企業は鯖江の会社を買収するために探している。彼らは日本企業の高度な技量をバーゲン価格で手に入れることができる。

鯖江の労働人口は2001年以来、11%減少して、3万人になった。同じ時期に、企業の20%が閉鎖された。商工会議所の会員は57%減少し、350社である。町中が倒産した企業だらけだ。

しかし、Kenzo Matsumuraの考えはまったく違う。彼はロボット、自動化、コールセンター、セレブ、セックス・アピールを駆使して、富豪となった。彼の会社、Hazuki、は世界の読書用メガネで指導的な地位にある。

2000年に入った頃、Matsumuraはソロモン・スミス・バーニーの投資銀行家であった。堀江貴文と同じように、彼は資本市場でイノベーションや敵対的買収を試みた。2007年、トミーとタカラのおもちゃ会社合併から生じた5つの会社を買収し、その1つが鯖江のメガネ会社であった。

当時のメガネは1万円もして、テレビショッピングで売れなかった、と彼は言う。しかし、読書用メガネの需要が大きいことを確信した。

私は鯖江を訪れ、15人のエンジニアとともに工場を観た、という。40年も使ったような機械。手でレンズを研磨する女性たち。すべてが手作業で、不良品の率は30%であった。工場を歩くと、不良品の山がドアまで積み重なっていた。

Matsumuraは、生産、組み立て、梱包を完全に自動化した。「ホヤ、ニコンなど、大手のレンズ・メーカーはコストを下げるために、中国やタイなど、海外に工場を移転した。工場を完全に自動化すれば、日本で工場を動かし、しかも中国より安いコストにできる。」

東京から自動車で約1時間、千葉県にあるHazuki工場では、複雑な振り付けでダンスをするロボットたちが、フレームやレンズを生産し、組み立て、検査し、1日に20000ケースを出荷している。工場長は、今月後半、新しい組み立て機械が入れば、このスピードを3倍にする、という。

鯖江にとって問題は、日本製造業の衰退する拠点の1つとして、Hazukiのような大胆な改革を実行するだろうか? ということだ。あるいは、モノ造りを愛し、1970年代の日本経済の「奇蹟」を忘れない倫理観でロボットの普及に対抗するのか?

日本には世界の指導的な工作機械メーカー6社のうちの4社が存在する。しかし、ロボットが職場を奪うとか、失業を生むという話は報道されないし、議論されていない。

人口変化と金融エンジニアが変化をもたらすかもしれない。自動化された工場を、高齢の経営者たちは見るべきだ。


● 中国の覇権は必然か?

PS Apr 2, 2018

Will China Really Supplant US Economic Hegemony?

KENNETH ROGOFF

アメリカの4倍も人口がある中国が、技術の停滞が長く続いた後で、急速にキャッチアップする決意をしているのだから、経済覇権を奪うのは避けがたい。

それはどうか? 多くのエコノミストは、中国の優位が豊富な労働力にある、と考える。同時に、エコノミストたちは、AIとロボットが多くの職場を失わせると心配している。次の100年間で優位を決めるのは、中国の労働者なのか、ロボットたちなのか? もし後者であれば、中国は人口の多さを憂慮しなければならず、その苦しみは急速な高齢化によって強められる。

ロボットの時代は、覇権争いのルールを変えるだろう。

PS Apr 3, 2018

The West Is Wrong About China’s President

KEYU JIN

中国についての西側の批評は、最近、主席と副主席に関する憲法の任期制限規定を中国が削除したことについて、大きな衝撃を示した。新しい、説明責任を宇和無い独裁者、「毛沢東2.0」が誕生する、と恐れたのだ。この反応は完全に的外れだ。

長期政権は西側でも珍しくない。例えば、ドイツのメルケル首相は4度目の4年任期を始めたばかりである。これはヨーロッパにとって、批判されるよりも、むしろ歓迎されている。

西側は民主的選挙を説明責任と同一視する。しかし中国では、政府が国民の必要や関心にどのように応えるか、その対応力を問うのだ。

FT April 4, 2018

The Chinese economy is rebalancing, at last

MARTIN WOLF

ついに、消費が中国経済で最も重要な要素になった。これは長い間、期待されていた、望ましい調整である。中国の成長モデルが、非効率な、債務によって膨張した投資に、過度に依存する状態から離脱する、と約束していたからだ。その移行には、累積した不良債務を処理する必要がある。

2007年、温家宝首相が率直に認めた、「中国経済の最大の問題は、成長が不安定で、不均衡、協調を欠き、持続可能ではないことだ。」 その年、国内貯蓄がGDP50%に達していた。この膨大な貯蓄がGDP41%に達する投資を実現し、さらにGDP9%の経常収支黒字を出していた。

その後、世界金融危機が起きて、中国政府はこのパターンが続けられないことを理解した。当初は、投資をさらに増やして、成長の維持を図った。しかし、それは累積債務と不動産バブルを生じたのだ。労働人口の減少、高齢化により、次第に消費が成長を担うモデルが実現するだろう。その移行期に発生する膨大な債務を安定的に処理する金融部門改革が終わるときとき、新しい成長モデルが完成する。


● アメリカは戦争に向かうか?

FP APRIL 2, 2018

How to Start a War in 5 Easy Steps

BY STEPHEN M. WALT

アメリカは戦争に向かっているのか? 特に、トランプがティラーソンを解任してから、多くの者がそれを恐れている。

もし戦争が、長く続き、莫大な戦費を要する、しかも彼らの敗北に終わるかもしれない、と思えば、指導者たちは戦争を選択しない。彼らは、戦争が、短期間で、コストが安く、勝利できる、と考えたのだ。第1次世界大戦前のドイツの指導者たち、第2次世界大戦のヒトラーは、数か月でフランスとロシアを征服できると考えていた。日本も真珠湾攻撃でアメリカの戦意をくじき、東アジアを自由に支配できると期待したのだ。


● アメリカの保護貿易

NYT April 4, 2018

Trade Wars, Stranded Assets, and the Stock Market (Wonkish)

Paul Krugman

中国がアメリカの関税引き上げに対する報復策を発表した。株価が大きく下落している。なぜか?

たとえ貿易戦争になっても、その理論的に推定されるコストはそれほど大きくない。しかし、グローバル・サプライ・チェーンが破壊されるとしたらどうか? これをアンチ・チャイナ・ショックと呼ぼう。

有名な『チャイナ・ショック』の著者たちは、貿易が急増したからアメリカ全体が貧しくなった、と主張したのではない。問題は、工場の移転が大幅に労働者から職場を失わせたこと、彼らの生活やコミュニティーを苦しめたことだ。皮肉にも、アンチ・チャイナ・ショックは全く同じことを起こすだろう。


● アフリカの自由貿易

FT April 4, 2018

How free trade could unlock Africa’s potential

DAVID PILLING

アメリカと中国は関税引き上げを競い、NAFTAは見直される。グローバリゼーションへの政治的反発は強く、ドーハ・ラウンドは完成しない。世界中で自由貿易は嫌われているが、そうでないところが1つある。それが、アフリカだ。

想像してほしい。アフリカ全体のGDPは約2.5兆ドルだが、それはおよそイギリスのGDPに等しい。もしイギリスが50の国家に分割され、異なる政治、言語、規制、厳しい国境管理をともなっていたら、どうなるか?


● 安全保障と金融改革

PS Apr 4, 2018

Reimagining Security and Rethinking Economics

HAROLD JAMES

今、世界は貿易戦争に直面しつつあり、西側が現実に戦争する可能性も増しつつある。われわれは戦間期の教訓を再考するべきである。

ケインズの思考が支持された真の理由は、総消費・投資・貯蓄を計算する方法が、第2次世界大戦中、アメリカやイギリスの軍事計画に重要であったからだ。一貫した国民計算があることで、政府は資源を有効に利用し、民生から軍事に生産を転換できた。また、インフレ圧力を抑え、消費と貯蓄が市民の不安になることを防いだ。

しかし、重要なことは、経済学の革命を生じたのは戦後の経済的奇蹟があったからだ。それは戦時の経済計画の産物であり。平和時の反省によるものではなかった。

現在も、多くのエコノミストが、金融危機は従来の経済学に真剣な見直しを促さなかった、と多くのエコノミストたちが不満を述べた。経済・金融問題が研究者の知的な閉鎖空間で議論されており、専門家たちの関心は安全保障や、国民的目標と国際目標との相互作用に向いていない。

しかし、戦間期のように、現代も安全保障と経済の前提とが結び付く問題は存在する。すなわち、第1、気候変動(深刻な危機を生む。地域によって大きなコストや利益を生じる。コモン・グッズである。)、第2AI(労働市場を激変させる。多くの技術を時代遅れにする。米中の競争とパワー・シフトが激化する。非国家主体の台頭や既存権力構造のバイパスが発達する。)、第3、ブロックチェーンのような金融革命(金融を介した権力、特に、アメリカの支配力が失われる。仮想通貨が市場を混乱させ、産業社会が依拠する金融構造を変える。中国、ロシア、インドで、新しい政治地理学が発達する。)である。

異なる発展の道がある。経済学と安全保障とを再考することで、より協力した、未来の社会・政治制度を提示できる、新しいアプローチを発展させる必要があるだろう。新しい技術だけでなく、それらを統治するシステムを創造するべきだ。


● 責任あるステークホルダー

FT April 5, 2018

How the world swapped a big idea for a bad one

PHILIP STEPHENS

西側はソ連崩壊を誤解した。結局、それは自由放任市場やリベラルな民主主義が歴史的に勝利することを証明したわけではなかったのだ。冷戦終結がもたらした大きな構想は、今や、日々、トランプがTwitterで愚劣なアイデアと交換している。

中国人の友人が好きな言葉では、共産主義崩壊はWin-Winワールドへの招待であった。富裕層や新興諸国の利己的な利益追求が、もしルールに従うなら、調和をもたらす、と期待された。グローバリゼーションによる相互依存の深まりが、競争する国益と多国間の義務との間に円環を描く。

EUにおいて国境線を消滅させる作業を続けるヨーロッパでは、その発想が一層の統合化を意味した。世界のほかの場所では、国家主権が高い優先順位を得ていたが、新しい秩序は大国間のホッブズ的紛争に回帰するのを阻止するほど強そうに見えた。

ルールも制度も必然的に不完全であった。西側は勝利の過剰な高揚感に包まれ、中国、インド、ブラジルなど、東や南へのグローバルなパワー・シフトが起きていることを認識しなかった。その当時、アメリカ国務省の高官であったゼーリックRobert Zoellickが「責任あるステークホルダー」という言葉で、新興諸国が既存秩序に果たす役割を提示した。

こうした議論の前提がナイーブであると否定することが流行っている。中国は西側のデザインした秩序における最大の勝者になった。21世紀初めの中国WTO加盟こそ、地殻変動の始まりだった。しかし、北京はアメリカ指導のシステムで2番手にとどまるつもりなどない。習近平は、恥辱の2世紀を終わらせるときだ、と判断した。ユーラシアの重心に向かう一帯一路イニシアティブも、その先に、中華思想の復興がある。

ゼーリックの積極的な包摂に代わる優れたアイデアはあるのか? われわれは中国の台頭を阻むため、中国を敵視し、WTOなど、国際機関から締め出すのか? 南シナ海でも中国封じ込めを展開する? それは国際平和を維持する道ではないだろう。

実際、アメリカこそが、中国以上に、自身の構想を破壊する敵になっている。中国の挑戦より、ワシントンがアフガニスタンとイラクに侵攻し、アメリカの国際的権威を損なった。巡航ミサイルで民主化を支持する試みは、政治的多元主義を否定した。2008年の金融危機で、リベラルでオープンな市場が繁栄に至る道だ、という合意を失った。

歴史が示すように、保護主義は悪質な伝染病だ。ヨーロッパにも独自のポピュリストが増殖し、左右の非主流派が、壁を築け、と叫んでいる。

トランプは他国の進路を変える。北京のナショナリストたち、ヨーロッパのネイティビストたち、その誰も勝者にはなれない。最後には、ゼーリックが正しかった、と知るだろう。

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The Economist March 24th 2018

Epic fail

Putin’s next term: The struggle for Russia

Russia: Gorbachev’s grandchildren

Bell: The battle for the conurbano

Charlemagne: Teddy Macron

American trade policy: Steel banned

Foreign investment in Europe: Capital control

Technology and international trade: Pulp fiction

(コメント) Facebookの情報管理やビジネス・モデルが深刻な疑念を生じて、根本的な対応を求められています。それは、企業と政治の対応次第で、GAFAの未来に向けた投資や利潤が、全く異なる水準であることを示しています。

ロシアの記事が興味深いです。プーチンの大統領再選は、プーチン後の始まりです。それはゴルバチョフの孫たちの世代であり、ロシアの政治を「正常化」することになる、と分析します。同様に、アルゼンチン、フランス・EUの政治を転換する試みについても、考えさせる内容です。

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IPEの想像力 4/9/18

長期政権の下で、政治は貧しくなったと思います。安倍首相は、議会における絶対多数を得たことにより、自分が信じる目的であれば、権力を維持するために何でもできる、という強権指導者の慢心に侵され、正邪の感覚がマヒしているのではないでしょうか?

正しい治療薬は、Facebookの疑惑を晴らす対応と同じだ、と思いました。すなわち、1.(加計学園の獣医学部開設、森友学園の国有地買収に関する)独立した機関による、疑惑の完全な解明。2.(政府・内閣府、官僚の把握する)情報や記録を、安全に、かつ、方法として確実に、公開すること。

たとえ機密資料や、そのときには交渉の過程を公開できないものでも、必ず事後に、すべてを公開する。それをだれが、どのような理由で機密に指定したのか、非公開の期間を決めたのか、明確にし、国民が納得できる基準を示すことです。

権力の側の疑惑であれば、野党やジャーナリストが、捜査機関や究明作業に、また、基準作りに、参加することは当然です。すでに官僚に自殺者が出ており、検察の捜査も始まっているのです。国会は国民に対して明確な姿勢を示すべきでしょう。

こうした姿勢を政権も支持し、安倍首相は疑惑を生んだ言動を深く反省するとともに、行政を歪めはしなかった、と独立機関によって証明されるなら、今後、官僚に対する適切な距離を保って、彼らの能力を十分に生かすことができると思います。

憲法改正、北朝鮮核危機、さらにはアジア安全保障体制の構築に向けて、日本が担う役割は非常に重要です。それは、安倍首相1人の政治的信念を超えたものであり、国民の総意を反映する民主的な権力の基礎を問い直す過程であると思います。

そうした重要な論争が充実するためには、おそらく、アベノミクス第2ステージ、「働き方改革」についても、国民が望むような中身を実現できるか、政府に問うべきでしょう。なんでも自分の名前に結びつける愚劣なキャンペーンを無視すれば、私はこうした改革に期待しています。

過労死、長時間労働、ワーク・ライフ・バランスといった政府の掛け声は、労働者の声を代表しているのでしょうか?

介護にしても、年金・社会保障にしても、望ましい姿になるにはまだまだ改革が必要でしょう。その前に、財政赤字と国債累積の末、パニックが起きて大幅に削減される時が来るかもしれません。

労働者がもっと自由に兼業、副業を持ち、職場を移れるのは、それを積極的な形で、組織や制度の改革、新しい合意形成に結び付けるなら、小さな企業や地方も、若者も退職者も、社会を活性化できると思います。労働組合があることで労働者の権利を守り、賃金や労働条件を改善してきた歴史的システムが、さまざまな形で侵食され、解体しています。それに代わる制度や法律、労働者自身の声を吸収し、具体化する仕組みが欠かせません。

日本の安全保障、労働、子育て、社会保障を、若者たちも、高齢者も、職場で仕事に追われる大人たちも、語り合う時間がもっと必要です。

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