IPEの果樹園2018

今週のReview

3/26-31

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プーチン4期目 ・・・アメリカ発貿易戦争 ・・・仮想通貨の優位 ・・・ポピュリズムの拡大 ・・・技術革新のマイナス面 ・・・GDPリンク債券 ・・・習近平の中国 ・・・中東の国家間協力 ・・・デジタル大企業への課税 ・・・金融危機後の経済学

長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


● プーチン4期目

NYT MARCH 16, 2018

The Rise of Euro-Putinism

Bret Stephens

プーチンが大統領選挙に勝利することはわかっている。4期目の大統領になる。より重要な問題は、他の選挙でもプーチンが勝利するか? である。

イタリア、オーストリア、ドイツでも、プーチンに共感する、彼が好む候補者たちが当選するかもしれない。ギリシャ、ハンガリー、フランスやアメリカでもそうだ。イギリスのコービンもNATOを世界平和にとって危険な組織とみなした。

ロシアが、この点で、元スパイを暗殺しようとしたことは重要だ。敵を葬るためには謀略をめぐらす。2006年、ジャーナリストAnna Politkovskayaの暗殺事件を思い出す。

イギリス、フランス、ドイツ、アメリカが、ロシアに「国際的な平和と安全を維持する責任を果たす」よう求めた。しかし、行動や追加制裁はない。ヨーロッパはロシアからのエネルギーに依存し続け、ワールド・カップをボイコットすることもない。

クレムリンは、西側民主主義を支持しないし、仲間をイデオロギーによって決めることもない。プーチンの魅力はパワーである。彼はパワーを行使することをためらわない。しかも、その方法は邪悪である。彼が民主的社会に害をなすことを、疑う者はいない。


● アメリカ発貿易戦争

FT March 19, 2018

The economic damage from a trade war

GAVYN DAVIES

貿易戦争は有害だ。しかし、投資家にとっては、どれくらい有害か? が重要だ。

トランプ政権内の保護主義強硬派がグローバリストを追い出した。アメリカ大統領はその直観に従い、中国との貿易戦争を始めるだろう。彼らは関税によって中国の不公正貿易をやめさせるつもりだ。補助金、技術移転、知的所有権。

関税が及ぼすマクロ経済的な効果は、数年間で、GDP1~3%減らすだろう。比較優位や技術移転を損なうからだ。それが全体から見て深刻な規模ではないとしても、その分配に深刻な意味がある。

貿易理論は、大国が関税によって外国の生産者に価格の引き下げを強いるなら、交易条件を改善できる、と認める。しかし、それは現実に行うことが難しく、小国にはできない。また、幼稚産業の保護や、補助金などによる歪みの是正は、関税によってではなく、直接に問題を是正するべきだ。

マクロ経済における効果については、より複雑だ。為替レート、インフレ率、金融政策、失業率が変化する。

旧来のケインズ型モデルでは、物価と為替レートを固定するとき、関税が支出を国内と外国の間で転換する。支出の総額は変化しない、と考える。極端に単純化すれば、最初、世界の鉄鋼生産量は変化せず、外国製品を排除することで、アメリカの鉄鋼生産が増える。トランプが信じるように。

しかし、その総需要への影響は複雑だ。まず、アメリカの関税で中国の所得が減少する。アメリカ国内では、鉄鋼生産者が利益を得て、消費者、すなわち、家計や他の企業は損失を強いられる。政府も関税収入を得る。

こうした利益と損失がどのように支出に影響するのか? それは石油価格の上昇に似ている。所得が石油の消費者から生産者に移転されるからだ。もし(消費者が)損失をただちに支出の抑制に、他方、(生産者が)利益を徐々に支出の増加にする場合は、需要と供給は短期的な低下にとどまるだろう。しかし、そうなるとは限らない。(支出が増えるとインフレになり、貯蓄が増えると失業増になる。)

ケインズ型のモデルが示す重商主義的要素は、変動レート制になると失われる。1961年にR.マンデルが述べたように、関税の引き上げは、転換効果にもかかわらず、アメリカ全体の雇用や生産を低下させるだろう。関税が貿易収支を改善すれば、実質為替レートが増価するからだ。

さらにグローバル・サプライ・チェーンが破壊され、通商政策の不確実性が市場を不安にする。しかも、中国など、貿易相手国が報復関税をアメリカに課す危険がある。

FP MARCH 21, 2018

Is Trump’s Get-Tough Approach With China Working?

BY KEITH JOHNSON

中国の李克強首相は、全国人民代表大会における演説で、アメリカに貿易戦争を回避するよう呼びかけた。

中国は貿易戦争を望まない。アメリカとのより均衡した貿易関係を望む。中国は、特に製造業部門で、市場を開放するだろう。中国は外国企業に、技術を中国企業に公開するよう強制するのをやめる、と首相は述べた。

しかし、中国を長期に観察する専門家たちは、この約束を信じない。トランプ政権の前から、習近平政権は世界貿易の指導権を握るために、こうした発言を繰り返してきた。それが実行されたことはめったにない。「中国政府は、こうした発言でトランプの保護主義との違いを強調する。」

一方的な関税引き上げは、中国との交渉を有利にするより、アメリカの行動に不満を向けてしまう。それは北京の貿易慣行を是正する国際的な圧力を高める努力に水を差すのだ。中後港への圧力を強めるために、ワシントンがグローバルな連携に向けて協力すべきEUや日本が、この関税によって不利益を強いられる。

Bloomberg 2018323

Is Trump Playing Into Xi's Hands?

By Michael Schuman

トランプは、関税によって、中国の不公正な貿易慣行をやめさせ、アメリカ企業により大きな市場を開放し、米中の貿易不均衡を減らすことを願う。しかし実際は、その反対であろう。習近平は関税による圧力を感じないし、むしろ自分のために利用できるだろう。

中国政府のプロパガンダと一致するように、アメリカは「チャイニーズ・ドリーム」を阻むような行動をとった。中国は、平和的な、かつ繁栄する世界の中心に、戻ろうとしているだけである。むしろ西側の略奪の犠牲者であった。トランプの攻撃は、この習近平が演じるドラマを盛り上げる。

習は、トランプのように中間選挙を恐れるどころか、終生の国家主席を憲法で制約されることがなくなった。また貿易は、かつてのように、中国の成長を維持する条件として、もはや重要ではない。習の長期的な目標は、トランプ以上の自国産業優先、経済ナショナリズムである。トランプの関税は、習にとって、経済自由化の改革を延期する口実になる。

アメリカの緊密な同盟諸国がトランプから離反するのを、習は待つつもりだ。その政治・外交的な計算は、習にとってプラスである。


● 仮想通貨の優位

FT March 18, 2018

Central banks are right to consider the merits of digital cash

REZA MOGHADAM

仮想通貨バブルがはじけた後で、ビットコインを拒んで貶め、死滅させることは、大衆的な幻滅のパワーであるだろう。しかし、既存決済システムに対する不満、より迅速、安価、安全な代替システムを求める声も聴くべきだ。

幸い、中央銀行家たちはこの問題を考えてきた。スウェーデン、その他で考慮している、1つの解決策は、現金のデジタル化だ。これを行う最も簡便な方法は、中央銀行に、人々が利用できるデジタル・キャッシュ口座を開設することだ。すべての振替はここで行えるし、利用者のために銀行カードを発行することもできる。資金の移転に、仲介者や手数料は不要である。

中央銀行家がそれを躊躇するのは、1.銀行預金から資金が流出し、銀行のビジネスモデルが崩壊するかもしれない。2.それが容易であるほど、銀行への(デジタルな)取り付けは数分で起きる。

どちらの懸念も誇張である。決済が中央銀行の口座に移ると、銀行の不安定化になると限らない。小切手の振出しが移るだけで、他の預金は残る。すでにPayPalなどに奪われているが、それが銀行の終わりではない。また、消費者の利益になっている。

銀行が、決済ではなく、融資に集中することは、その安定化に役立つ。その方が、銀行危機や(納税者の負担による)救済は減るだろう。

デジタルな銀行取付けに関して、クリックすれば起きることは事実だが、それはデジタル通貨を抑える理由にならない。金融当局は、秩序正しく預金者がゆっくりと引き出すことぉお望む。

もっと良い方法は、中央銀行がその「通貨」をブロックチェーンによって電子取引を示すことだ。ブロックチェーンの通貨間取引が、仮想通貨、ビットコインの最大の欠点、価値の浮動性を取り除くだろう。

ブロックチェーンに依拠した通貨の最大の優位は、安全性である。なんでもハッキングされる時代であり、決済システムをショックから守ることは政策の最優先課題である。


● ポピュリズムの拡大

FP MARCH 20, 2018

The New Dutch Disease Is White Nationalism

BY THIJS KLEINPASTE

昨年の選挙戦は、互いを非難した2人、自由民主国民党のルッテMark Rutte首相と、自由党PVVのウィルダースGeert Wildersの間で醜いものとなったが、3月にルッテの勝利が決まると、メルケルなど、ヨーロッパの指導者たちは「民主主義の勝利」と歓迎した。しかし、実際は、ルッテがウィルダースの主張に近寄り、その政策を奪ったから勝利できたのだ、と観た者もいた。

その後、オランダ政治は、新しい勢力、民主主義フォーラムForum for Democracy (FvD)Thierry Baudetによって刺激され、新しいタイプの極右政治が急速に支持を広げている。この35歳の党首は、ヨーロッパ的な高踏文化趣味とオンライン型の文化戦士とを合わせた人物である。プーチンを称賛し、アメリカのオルト・ライトとも親交がある。

BaudetFvDは、最近の調査で、ウィルダースのPVVを超える支持を得ており、ネイティビズムの反イスラム主義に先鋭化したウィルダースと違い、より大きなイデオロギーと政治的枠組みの変更を目指している。彼は、19世紀の国民国家が直面していた敵対者に代わる、21世紀の敵対者たちと国民国家像を提案しようとする。すなわち、ヨーロッパの官僚制度、イスラム教徒の移民、フェミニズム、などだ。

Baudetによれば、オランダは自分たちの故郷を嫌う心理的病Oikophobiaに冒されているのだ。国民国家を破壊するのは、フェミニズム、文化的マルクス主義、現代アート、大量移入民、EU、あるは極右の嫌うものすべてがそうだ。

オランダ国民はむき出しの人種差別主義を受け入れないが、Baudetは、白人やその文化への攻撃に対しては反撃しなければならない、と主張する。それは、暗殺された政治家Pim Fortuynから引き継いだ、オランダの社会と政治文化を大きく右傾化する試みだ。極端な世俗主義、反聖職崇拝の伝統が、それと反対のイスラム教に対する敵意へと変わる。

西側は自己嫌悪の病気に苦しんでいるのだ。Baudetは、政治家を威嚇し、市議会の窓をたたき割る群衆、市庁舎を難民受け入れセンターにすることへの抵抗を擁護する。人民は有機的な存在であり、内外の敵によって毒を与えられている、と。それらの表現は、自分たちのエスニックな社会を遺伝的に優れたものと主張したナチズムに似ている。

2000年に入って最初の10年間、オーストリアとともに、オランダは反エスタブリシュメントのポピュリズムが勃興した初期の国であった。今また、一層のラディカルな政治運動がヨーロッパに始まる先駆者になろうとしている。

FP MARCH 21, 2018

Europe Forgot What ‘Conservative’ Means

BY JAN-WERNER MUELLER

ヨーロッパの社会民主主義は衰退している、と言われている。イタリア、ドイツ、フランスの最近お選挙で、左派の大衆政党が得た票は最盛時の5分の1でしかない。その結果、ポピュリストや中道右派が支持を集めたか、と言うと、そうではない。中道右派の諸政党は、特に、キリスト教民主党は、深刻な危機に直面している。彼らが何を目指すのか、社会民主党員と違って、彼らこそポピュリストの右派に支持を奪われつつある。

社会民主党員が苦しんでいるのは、トニー・ブレアやゲルハルト・シュレーダーのような指導者たちが、1990年代後半に追求した「第3の道」が、大きな信認問題を残したからだ。彼らは金融資本主義を容認しただけでなく、それを積極的に推進したのだ。そして名ばかりの左派政権の下で、規制緩和や不平等の拡大が起きた。今、彼らは社会主義の理想を裏切った、とみなされている。

しかし、重要なことは、こうした理想が失われたわけではない、ということだ。昨年のイギリスの総選挙で、ジェレミー・コービンは予想外の好結果を得た。社会民主党は、信認を回復し、移民流入のような、支持者を分裂させる問題から関心を引き離す必要がある。イギリスの労働党左派や、ドイツの社会民主党がそれを試みている。

逆に、ヨーロッパの中道右派は、今日、何を追求するのか? 市民たちはその答えを知らない。これは指導者たち自身が忘れている、歴史的難問だ。第2次世界大戦後、ドイツとイタリア、そして程度は劣るがフランスで、キリスト教民主党が政治を支配した。そのときは穏健な中道保守政党を求める歴史的諸条件があったのだ。ファシズムがナショナリストの右派政党を破たんさせた。世紀半ばの恐怖により多くの人々が宗教に道徳的な確かさを求めていた。冷戦の状況において、キリスト教民主党は、本来の、反共産主義政党としてアピールできた。

彼らは、古典的な自由主義の物質崇拝面と共産主義との間にある親和性を示唆し、共同体的な価値によって両方を拒んだ。しかし今、キリスト教民主党の持っていた強い進歩的性格は忘れられてしまった。何よりも、キリスト教民主党こそEU統合を生んだ原動力であった。彼らは19世紀の国民国家を信頼しなかった。それは、ともに新生の統合国家であったイタリアとドイツで、カソリックとの文化戦争が続いたからだ。異なるアイデンティティーや利害の調和、異なる集団間(ヨーロッパにおける諸国家)の妥協を追求し、調和的な社会のために、資本と労働とは協同するのだ。キリスト教民主主義は、文化戦争と階級対立を回避するために創造されたものだった。

キリスト教民主党は、極右のポピュリストたちを、封じ込め、あるいは、模倣し、あるいは、共謀しているが、いずれも失敗するだろう。本来のプラグマティズムや調和への進歩主義を失ってしまっている。単なるジェスチャーだ。


● 技術革新のマイナス面

PS Mar 19, 2018

Is Technology Hurting Productivity?

JEFFREY FRANKEL

生産性上昇が停滞していることは懸念されている。

新しい技術革新は、その質を正しく計測でいないから生産性上昇が過小評価されている(Martin Feldstein)のか、あるいは、そもそも情報・通信は、以前の電力・自動車のような、生産性上昇への貢献を期待できない(Robert Gordon)のか。さらに、技術革新が生産性やGDP成長にマイナスの効果を与えているかもしれない。

技術革新は旧技術に関わる分野で破壊的な作用を生じる。急速なデジタル技術の変化はセキュリティーの問題を生じている。これに対応する企業と家計のコストは膨大だ。

われわれの日常生活や心理にも大きな影響が生じている。労働を妨げるさまざまな情報の混在、テレビゲームやスマートフォンに依存した若者たちの行動パターン、事故や大惨事を招くケースもある。ビットコインがもたらす諸問題、フェイクニュース、あるいは、医薬品と合成麻薬の中毒、遠隔・精密兵器などの発達、など。

最近の技術革新のネット効果がマイナスだ、と主張しているのではない。しかし、マイナス面があることを無視してはいけない。シリコンバレーの技術者が懸念するように、「技術がわれわれの心や社会を征服するかもしれない。」 われわれは技術革新がどのように利用されるか、その支配権を取り戻さねばならない。


● GDPリンク債券

PS Mar 19, 2018

Making the Case for Sovereign GDP-Linked Bonds

ROBERT J. SHILLER

各国政府がGDPリンク債券を発行する期が熟した。GDPリンク債券は、そのクーポンと元本が発行国のGDPと連動して増減する。こうした債券を発行できれば、経済変動に直面した諸国の多くの根本問題が解決される。

GDPリンク債券は、緊急時における各国の財政余地を創り出す。金融危機の際、現在、多くの場合に政府債務の返済額が固定されている条件では、債務を増やして支払うことができず、急激な支出削減を強いられる。投資家ではなく納税者がリスクを負うのだ。

GDPリンク債券の発行は、一種の、経済危機に対する保険を買うことになる。10年前に、アイルランドやギリシャがこの債券を発行していたら、厳しい状況は回避できただろう。


● 中東の国家間協力

FP MARCH 20, 2018

The Middle East’s Age of Innocence Is Over

BY JAMES TRAUB

中東は、理想主義的アメリカ外交の墓場である。反逆者の、しかし、あまりにも重要な土地を改革する希望が、武器とともに、軍事訓練所で配られた。体制転換、民主化の推進、反政府勢力の懐柔、人道主義的介入、人権と民族自決のレトリック。

アメリカ自身がイラク侵攻で破壊したウェストファリア型国家間均衡による秩序は、地域全体で独裁者が復活した結果として、再生されたに過ぎない。

最近の歴史は、オバマがしばしば述べたような、正義に向かうものではなかった。それにもかかわらず、われわれはそうであるかのように行動するべきだ。私は、オバマがムバラクに辞任を求めたことを後悔しない。私は、オバマが2012年にシリアの反政府勢力を支援してくれていたら、と強く思う。しかし、そうした多くの試みが失敗に終わった後、残酷な国家に暮らす人々のために、われわれができることはほとんどない、と気づく。

灰燼の後、国家の対外行為は混乱の中から生まれる、とわかる。当面、中東の混沌は拡大するだろう。しかし、その後、ウェストファリア型の新しい国家間協力が生まれる可能性はある。この地域に紛争が続く1つの理由は、Henry Kissingerが述べたように、アラブ諸国が他国の国内秩序に関する自由を認めないことだ。30年戦争の後、ヨーロッパ諸国はそれを受け入れた。

独裁者たちによる秩序は、政治の終わりではない。ひとたび、人々が自由と尊厳を求める気持ちを持てば、その炎はいつか再燃する。


● デジタル大企業への課税

FT March 21, 2018

Three cheers for the European Commission’s tax on tech

PHILIP STEPHENS

欧州委員会は、今週、EUで活動するグローバル・ハイテク企業に対する課税計画を公表した。ヨーロッパの諸政府と市民はそれを歓迎するだろう。

デジタル世界の超巨大企業を統治するときが来た。大規模な租税回避を行い、規制当局の間をすり抜け、個人情報から利益を上げているグローバル企業Facebook, Google and Appleが、その社会に対して何の責任も果たさないことは許されない。デジタル課税は、それを改める正しい方針だ。

グローバリゼーションは、企業が合意されたルールに従うときだけ、持続可能である。デジタル課税法案は、ヨーロッパ中の反グローバリゼーション・ポピュリストが唱える強力な武器である。欧州委員会は、EU諸国で発生するグローバル企業の秘匿された利潤に課税する。

委員会が競争と透明性を確実に共生できることを示すのは、地域に根を持たない多国籍企業が住民の経済安全性を破壊し、一握りのグローバル・エリートが莫大な利益を受けている、というポピュリストに対する回答の出発点になる。十分な財源がなければ、経済の解体にクッションを提供する、教育、労働市場、福祉の手段を維持できない。学習する機械やAIが普及することは、ますますこうした対策を必要とする。

あまりにも多くのデジタル大企業が旧システムの外側で活動してきた。その権力乱用を解体するときだ。


● 金融危機後の経済学

FT March 21, 2018

Economics failed us before the global crisis

MARTIN WOLF

経済学は世界をよくするための学問である。特に、マクロ経済学は、大恐慌に対する答としてジョン・メイナード・ケインズが開発した。しかし、経済学者たちは、経済がどのように機能するか、正しく理解していなかったし、それが危機に陥ったときに正しく対処することも十分にできなかった。

2009年、Willem Buiterは、「1970年代以来、主流派のマクロ経済学が示した理論的な新しい議論は自己言及的で、内的に矛盾していた。」と述べた。David Vines and Samuel Willsが整理したように、その理論の主要部分は2つの前提に依拠していた。効率的市場仮説、そして、合理的期待、である。

どちらも今では信じられていない。未来というのは根本的に不確実である。だからこそ、さまざまな制度が重要であるのに、マクロの標準モデルはそれを無視した。正統派モデルは正常な状態で機能するが、危機は経済そのものに内在する。Joseph Stiglitzが言うように、危機のもたらすコストが甚大である以上、これを無視した理論化は間違いだ。複数均衡を考えれば、危機に応じた行動は避けられない。

心臓発作が起きた患者に、ダイエットを勧めるのは間違いだ。まずは強制的な治療が必要だ。Paul Krugmanは、ケインズの基本的な政策対応、特に財政支出と金融緩和は正しい、と言う。また、銀行システムを速やかに再生することが重要だ。この対応策の速さが違ったことは、アメリカとヨーロッパのその後の回復を分けた。

1930年代と比べて、物価や生産の落ち込みは小さかった。それは成功であった。しかし、10年経っても、危機前の生産水準を達成したのはドイツとイギリスだけである。さらに、ユーロ圏の多くの国でひどい苦しみが続いているのは、勝利にほど遠い。

経済学が複雑な経済の機能を完璧に理解することはむつかしいが、経済をより健全で、速やかな回復をもたらす状態に維持するため、いくつかの方策は知られている。

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The Economist March 10th 2018

The threat to world trade

The looming trade war: Massive attack

Banyan: Monsoon squalls

The economy: No storm, but lots of tea cups

Infrastructure in Latin America: Coming unstuck

A Russian spy mystery: Whodunnit?

Global patterns: Why they do it

Free exchange: Xi v Marshall

(コメント) アメリカは鉄鋼とアルミニウムの輸入に対する関税率を引き上げ、中国は一帯一路イニシアティブによる大陸規模のインフラ投資を行います。ルールに依拠した世界経済の破壊者は、トランプか、習近平か、という米中アピール合戦になります。

レーガンも同じような脅迫を行ったが、自由経済への確信を持っていた。一時的な保護措置を使って、次のグローバルな自由化交渉に向かったが、トランプは全く違う、と。EUのよく考えられた対抗措置は、もしトランプが自動車に及ぶなら、破滅的な展開になります。

インフラ投資が世界の市場統合を促し、政治改革をともなうのか、あるいは、中国による戦略的な投資と植民地化なのか、マーシャル・プランの効果と比較しています。

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IPEの想像力 3/26/18

共産党議員の追及に、安倍首相は明確に答えました。「それは昭恵が総理夫人だからです。・・・名誉理事や名誉校長にするのは、それによって自分たちの信用を高めようとすることであり、多く行われています。しかし、そのことと、行政を歪めたか、という問題とは別であります。」

およそ、このような言葉であったと思います。安倍首相は追及をかわし切れるかもしれない、と私は思いました。「忖度」と、「行政を歪めたか」という、2点に絞れば、このまま官僚たちが首相を守ることで終わる?

国有地不正売却問題、首相夫人(そして加計学園では首相本人)の行政に対する介入・私物化、官僚制における権力への追従・忖度(それを強いるシステム)、こうした構図を、野党はしっかりと描くべきでしょう。

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安倍首相の話は、The Economist March 10th 20182つの記事と関係しています。

ロシアの刑務所からスパイ交換で解放され、2010年、イギリスにきたSergei Skripalは、その娘とともに、35日、Salisberyの公園ベンチで発見されました。神経ガス・化学兵器による暗殺未遂事件です。2006年のAlexander Litvinenkoが放射性物質であるポロニウム210の入った飲料によって殺害された事件と似ている、と記事は指摘します。

事件を捜査した警察は、殺害は「おそらく」プーチンによって承認されたものである、と報告しました。しかし、こうした犯罪を究明することは困難です。ロシア国家の行為とその名の下に実行する人々を分ける明確な境界線がないからです。

2015年、ロシアの野党指導者Boris Nemtsovがチェチェンから来た殺し屋によって殺害されました。おそらく、チェチェンの独裁者Ramzan Kadyrovが命じたのだ、と言われます。あるいは、ウクライナ東部への侵略は、ロシアの諜報員たちが非正規の部隊を組織して行いました。資金提供したのは、横領の罪に問われているロシアの億万長者でした。

プーチンは、直接の関与があってもなくても、その恐怖を広めることによって利益を得るのです。

もう1つの記事は、ケニアの首都ナイロビのスラム街で行われた殺害についてです。自分の息子が殺害された直後に、母親は男たちの集団が息子の死体を取り巻く様子を見ました。彼女は立ち去るように言われ、後日、息子の遺体を引き取るために金を支払います。犯人を知っている、と彼女は言います。背の高い、中年の、“Rashid”と呼ばれる警官だ。あいつは多くの人を、子供を殺した。

警察官による殺害は珍しいことではない、と言います。なぜなら彼らは武装しており、殺害することを訴追されることはないからです。彼らは自分たちで犯人を決め、有罪を決め、処刑します。

それは、法律や裁判所が機能していないから、警察官が十分な給与を支払われず、賄賂に頼っているから、貧困に暮らす者は犯罪者である、という偏見があるから。

アメリカの警察は、年間、およそ1000人を殺害する、と記事は述べています。フィンランドの警察官は、2013年、6発しか撃たなかった、と。なぜある警官は他の警官よりも多く人を殺すのか?

殺人事件の多い国では、警察官が恐怖によって発砲します。しかし、アメリカでは違法な殺害は罪になります。多くの発展途上諸国では、権力が犯罪者や反体制派の撲滅を奨励し、警察による殺害を促すのです。そして有権者も、しばしば、そうした指導者を称賛します。フィリピン、タイ、エル・サルバドル、パキスタン、インドの例が挙げられています。

さまざまな改革が必要だが、何よりも、指導者(の姿勢)が変わらねばならない、と。

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安倍首相は、まず、独立した厳格な究明委員会を設けるべきです。そして、「忖度」できないような、公文書の管理と公開を求めます。

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