IPEの果樹園2018

今週のReview

1/15-20

***************************** 

イランの反政府デモ ・・・ドイツ外交 ・・・アラブ首長国連邦のコモロ島民 ・・・イギリスの植民地主義と罪悪感 ・・・Brexit,トランプ,ウィンフリー ・・・北朝鮮との核戦争 ・・・国際移民管理体制 ・・・公益事業体の革新 ・・・なぜ日本ではポピュリズムが広まらないか?

 [長いReview]

****************************** 

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 イランの反政府デモ

FT January 6, 2018

Growing dissent adds to Iranian regime’s troubles

Najmeh Bozorgmehr in Tehran

昨年,若者たちは選挙に行った.友人や親せきにも,ロウハニHassan Rouhaniを支持するように説得した.西側との関係改善,経済の回復を約束して,ロウハニは5月に勝利したのだ.

今,テヘランでも,若者たちは連夜のデモに参加している.その要求は,大統領を解任せよ,1979年の革命以来,この国を動かしているイスラム体制を打倒せよ,である.デモ参加者は大学生に限らない.多くの都市や町で,経済に対する不満,不平等について,人々はデモに参加し,訴えている.

若者たちは言う.「イスラム共和国ではなく,イラン共和国を求める.」 しかし,デモのタイミングはロウハニにとって特に苦しいものである.彼は,国内でインフレを鎮静化し,経済を再建しなければならない.しかし,その政策に信用を得られない.彼の最大の成果は,経済改革のために核合意を結んだことだ.しかし,アメリカのトランプ大統領は,イランが中東に影響を拡大し,混乱を煽っていると非難し,核合意を破棄すると脅している.

抗議は激しくなり,すでに20人以上が死亡した.銀行,自動車,警察署,モスクが炎上し,破壊された.騒乱が散発的に継続している.

2018年のデモに特徴的なことは,その多くが労働者であることだ.伝統的に体制の支持者であった都市や町で,多くのデモが起きている.そこには汚職が広がり,不満が多いと推測されている.政府のインフレ抑制,支出削減のために,毎月700万イラン・リヤル(194ドル)以上の稼ぎがある家庭に対し補助金を削減する計画が,怒りを刺激した.他方で,宗教機関への資金供与は増額される.燃料価格の引き上げも予想されている.

デモの群衆は「ロウハニに死を」と叫ぶ.経済は悪化し続けているから.そして「ハメネイに死を」と叫ぶ.彼らはイランがシリアやパレスチナ,レバノンで軍事介入することの意義を疑っている.シリアのアサド政権にイランは60億ドルから100億ドルも支援している.その金はテヘランが必要としているのだ.戦争の犠牲者をイラン国民が受け取っている.シリアで1000人以上が殺された.「シリアを捨てろ.われわれのことを考えろ.」 デモの群衆は叫ぶ.

シリアでは民主化運動が内戦になった.改革派は民衆と国家とをつなぐことができなかった.イラン改革派の役割は,その1人が言うには,国家に民衆の抗議の重要さを認めさせ,同時に,人々が暴力を選ばないように警告することだった.

しかし街頭を埋めるデモの群衆は,政治のエスタブリッシュメントをすべて攻撃し,叫ぶ.「改革派は聞け.強硬派も聞け.お前たちのゲームは終わった.」 「聖職者たちよ.政治から出ていけ.」

イラン政府は,デモを刺激しているアメリカ,イスラエル,サウジアラビアを非難する.そして政府を支持するデモを組織する.若者たちはソーシャル・メディアを利用する.イラン国民の約半数が30歳以下である.彼らは変化を求めている.

自由な情報の流れはロウハニを権力の座につけた.しかし,若者たち,小さな町の住民は,より高い失業率に苦しみ,差別を意識し,強い不満を持つようになる.デモが起きた町で,失業者は,国民平均の11.7%という失業率より多いだろう.非公式には,失業率は2倍と言われている.若者の失業率は国民平均で公式に24.4%に達する.

構造改革が必要だ,しかし,それには政治システムの内部でコンセンサスがなければならない.強力な,富を支配する個人たちは既得権を手放さず,コンセンサスを妨げる.核合意は人々の希望を高めた.イランが改革されると期待した.ウランの精製(核開発)を中止し,それと交換に国際的な制裁を解除する,と合意したからだ.しかし,実際には,アメリカが銀行封鎖を続けている.テロ活動の資金源になっている,と推論しているからだ.外国企業はイランとの取引に参加しない.

ロウハニは,5月の選挙を核合意への国民投票に変えた.それなしには,彼が約束した経済改革は不可能だ,と訴えた.イラン国民は,もっと資金や技術が流れ込むことを期待したのだ.しかしトランプは,この画期的な合意の検証を拒み,守られていないという.トランプはイランの外交や軍事的関与,ミサイル開発を断ちたいのだ.そのためにデモを刺激するTwitterを流す.「変革の時が来た.」

ロウハニの支持者たちにも,強硬派に大きく妥協した,とロウハニを批判する声がある.大統領は難しいバランスを模索している.もしデモを弾圧すれば,彼を選挙で支持した人々を失うだろう.もしデモを容認すれば,体制の転覆を図るデモに同調した,と強硬派が彼を攻撃するだろう.国家が民衆に広まる社会不安の深刻さを理解し,彼らの意見に聴いて改革を真剣に進めることを,かつて政治犯として投獄された若者は期待する.


 ドイツ外交

SPIEGEL ONLINE 01/05/2018

The American Void

Time for Germany to Learn to Lead

By Christiane Hoffmann

ワシントンが世界の指導を放棄するとき、ドイツ外交の無邪気な時代も終わる。ベルリンはすぐに難しい選択に直面し、その道徳的な立場を損なうことになるだろう。

アメリカが70年間も築いてきたリベラルな世界秩序は解体しつつある。アメリカは3つの異なる分野で後退した。すなわち、軍事的、道義的、そして、国際社会の指導者という責任から、後退したのだ。ヨーロッパの安全保障を約束する信頼できる国家ではなくなり、グローバルな政策形成や、自由な西側世界を指導する力も失った。アメリカのいない世界がどうなるのか? ドイツ外交はどうなるのか? 他国も「アメリカ・ファースト」をまねるのか?

ドイツにとって、外交の決断から隔離されている時代は終わった、ということだ。近年のドイツは、ヨーロッパで最も繁栄した経済、最大の人口を持つ国として、それにふさわしい責任を取ることに意欲を示してきた。しかし、今まではウクライナでも、ユーロ危機でも、主導的というより、受動的な姿勢を好んだ。

かつて西ドイツの主権は制限されていたし、歴史的な理由から、その立場の慎重さは理解できた。分断国家として、国際政治で役割を果たすには小さすぎた。しかし、将来について考えれば、ドイツは指導する国であるべきだろう。では、どこに向けて? 現在の世界情勢は、ドイツがその望みを明確にするよう求めている。

ドイツのグローバルな禁欲があったから、その外交は諸価値を重視できた。他国がリアル・ポリティークの汚れた側面を扱った。メルケルの難民政策は、人道的な原則をEUの結束より優先したものだ。それはドイツの伝統のもっとも極端な表現だった。価値と利害が対立すれとき、諸価値はプラグマティズムをともなうだろう。ベルリンは困難な決断を強いられる。

われわれはどこまでやれるか? ヨーロッパを防衛したり、中東に平和をもたらしたり、アフリカを安定化する覚悟があるのか?

法の支配、人権、多国間主義、グローバルな合意の尊重は、ドイツの利益を実現するものだ。しかし、それでもドイツ外交の目標としては制限する必要がある。

たとえば、EUとウクライナとの合意は、キエフの主権をEUに引き寄せておくことになる。しかし、ドイツはヨーロッパの利益を実現するために、ウクライナやロシアと戦争するだろうか? また、EUは移動の自由という原則を無条件に受け入れている。その姿勢がイギリスのEU離脱に道を開いたのではなかったか? ドイツは原則が損なわれることを恐れて、妥協のための話し合いを許さなかった。

ほかにもある。カタルーニャの独立をめぐる紛争だ。EUは加盟国の内政問題に干渉しない、という原則をドイツも支持している。しかし、ベルリンもブリュッセルも、もしマドリードとバルセロナが中間の道を見いだすのを助けられるなら、その方がよい。

こうした考察は、われわれが事態を変えるパワーを持たないことを受け入れる必要がある、という意味だ。ドイツは、ロシアで民主主義の発展が、予想される将来に、起こりそうにないという事実を覚悟せねばならない。それでもわれわれは、ロシアやトルコをヨーロッパと結びつける政策を必要とする。中東においては、われわれがロシアとともに、アメリカが抜けた穴を埋めねばならない。そして中国だ。中国の拡大する影響力を、ヨーロッパが制限する政策をドイツは必要とする。

最後に、ポーランドをどうするべきか? ポーランドがEUにとどまること、ポーランドが法の支配という原則を守ること。もし両方を満たすことができないとしたら、東欧諸国をEUにとどめることがドイツの利益である。たとえ彼らがすべての価値を受け入れないとしても。

ドイツは、将来、こうした対立に直面する。われわれはもっと激しい議論を必要とするだろう。それは国民と行われるべきだ。ところが、ドイツ政治は道義的パワーの幻想に注目して、議論している。もしドイツが国際政治を指導するなら、世界に対するリアリストの視点と外交政策を持つべきだ。


 アラブ首長国連邦のコモロ島民

NYT JAN. 5, 2018

Who Loses When a Country Puts Citizenship Up for Sale?

By ATOSSA ARAXIA ABRAHAMIAN

コモロ諸島は東アフリカの小さな国で、輝く砂浜がある。巨大な活火山のために、人口は80万人を切っている。15万人のコロモ島民が、かつて島を統治したのはフランスであったため、パリ都市圏に住む。さらにコモロのパスポートを持つ4万人がアラブ首長国連邦(UAE)に住む。

しかしUAEに住むコモロ島民は自分たちの国の言葉を話せない。彼らは身体的にも、文化的にも、島民と似ていない。彼らは島で生まれたのではなく、島を見たこともない。事実、最近まで、彼らは国籍がなく、bidoonであった。

Bidoonとは、アラビア語の“without”を意味し、主に家族と離れて暮らす者のことだ。その土地の部族に属さず、人口に数えられない。その土地の文字が読めず、エスニックが異なり、行政にアクセスできない。

UAEbidoonを真の国民とみなさない。彼らに国籍を与えることは、国民と同じ潤沢な社会福祉を得ることを意味するだろう。9年前に、その解決策としてUAE政府は、コモロ政府に多額の資金を与え、彼らにパスポートを発行させた。その額は、小さな島国に対しては破格のもの、1人のパスポート当たり4000ユーロ、2008年以降、総額2億ユーロと推定される。それはコモロのGDP3分の1にあたる。

当初、UAEは仲介者を通じて資金を与え、島のインフラ整備などに支出することを考えた。しかし、開発計画は期待外れであったため、資金をコモロ中央銀行に直接に移転し、アブダビ内務省がこの口座を管理している。

最近、アブダビのコモロ大使館は、8歳以下の子供、830人にコモロ国籍を与える、と内務省に手紙を書いた。これは表面的には、すべての関係者に利益がある。国籍のない者がパスポートを得て、暮らし、働き、旅行できる。貧しいコモロ島民は資金を得る。UAEは無国籍者を減らす。国連難民局は、世界の無国籍者1000万人を2024年までに解消するキャンペーンを進めているのだから。

しかしそれは、実際、悪辣な過程で進んでいる。UAEは国際条約に従わず、住民への市民的自由や政治的権利を否定している。無国籍からコモロ市民となっても、彼らは生涯、外国市民と分類される。UAEは資金を出すだけでなく、コモロ政府のパスポート発行を助け、住民に運転免許証や学校への入学を拒むと脅して、応募することを強いている。

バヌアツやマルタのように、最近、多くの小国がパスポートを売っている。しかし、その買い手は世界の富裕層だ。彼らが旅行や銀行口座を処理するのに便利だから。コモロの場合、USEが国籍を与えないために貧しい国に金を払っている。グローバリゼーションが、パスポートが必ずしもその人のことを、住む場所を、帰属するコミュニティーを示していない状況を創っている。

パナマ文書やパラダイス・ペイパーが示したように、富裕層は国民国家システムの割れ目を利用して、自分が住む土地の社会的な、そして財政的な責任を無視した、ボーダーレスな暮らしを楽しむのに都合のよい法的資格のショッピングをしている。また権威主義的な政府は、住民への基本的人権を満たす義務から逃れるために、コモロ島の主権を借りている。

ミャンマーでは特に、ロヒンギャ難民が人口スワップにさらされている。軍部がロヒンギャを襲撃し、65万人のロヒンギャ難民がバングラデシュのキャンプに流入した。バングラデシュ政府は難民を長期に受け入れる気はないが、ミャンマー政府にも、その一部の帰還を認めても、彼らに完全な市民権を許す政治的意志がない。ロヒンギャが外国のパスポートを強いられても不思議はない。

国際社会は、難民とその次世代が直面する現実を知らねばならない。


 イギリスの植民地主義と罪悪感

The Guardian, Sat 6 Jan ‘18

The sun may never set on British misconceptions about our empire

Ian Jack

Oxford1人のドンが、イギリス国民は植民地主義に関する罪悪感を持つべきでない、と求めている。

われわれは帝国について学校でどのように学んだのか? 教師たちはそのことを語りたがらなかった。1950年代までに、イギリスの栄光ある征服や植民地支配のもたらした利益を強調することは、もはや支持されなくなっていた。単に道徳的な理由だけではない。血によって獲得したものは今や失われていた。その過程は平和的なことも、そうでないこともあった。イギリス人は、公平さの響きを込めてCommonwealthと呼んでいたが。国民的な衰退は、教室での楽しい話題ではなかった。

こうして帝国の歴史を教えなかったことは、現在の国民感情にかなり影響しているだろうが、正確に知ることはむつかしい。2年前、セシル・ローズ像を撤去すべきか、を問うYouGovの調査によれば、43%のイギリス人が「イギリス帝国は良いことだった」と答え、悪いことだったと答えたのはわずか19%であった。さらに、44%は「イギリスの植民地主義の歴史を誇りにすべきだ」と答え、19%が後悔すると答えた。Oxfordにあるセシル・ローズ像を撤去すべきと考えたのは11%だけだった。

植民地主義の評価をめぐる論争で、アメリカの政治学者Bruce Gilley“The case for colonialism”を発表した。掲載をめぐっては、雑誌Third World Quarterlyの編集委員会から大量辞任を引き起こした。植民地主義の道徳的な非難に反対し、学術的な方法で、植民地支配のバランス・シートを作るべきだ、とNigel Biggarは主張する。しかし、歴史的な事実の選択には人によって大きな違いがみられる。

Biggarは「もしローズ像を倒すなら、チャーチル像も倒さねばならない。彼らの帝国や人種に関する見解はほとんど違わない。」という。 チャーチルはインド人を心底嫌っていた。1945年、チャーチルは、ヒンドゥー教徒は滅びる運命を、その繁殖の速さによって免れてきた不潔な種族だ、と私設秘書に語った。チャーチルの態度が1943年のベンガル大飢饉を助長した、という主張もある。彼はインド植民省からの助言を無視し、飢饉の犠牲者は200万から300万人に達した。

歴史家たちは、帝国の道徳的な批判を再定義するより、過去に何があったのかを研究するべきだろう。


 Brexit,トランプ,ウィンフリー

FT January 10, 2018

The temptation of Oprah Winfrey

EDWARD LUCE

ウィンフリーOprah Winfreyが大統領になることを、なぜそれほど多くのアメリカ人が望むのかは容易にわかる。ウィンフリーは、トランプではないものすべてである。

トランプと違って、ウィンフリーは証明書付きの億万長者だ。彼女は聴き手の共感を呼び、本気で慈善活動を行っている。トランプのような恵まれた過程を持たず、彼女は自力で成功した。しかし、2人には共通した欠点がある。それは、政治の経験がないセレブであることだ。

有名人を侮辱するつもりはない。アメリカがセレブを創り出した。しかし、またアメリカは現代の民主主義も創った。問題は、セレブ文化が政治を圧倒することだ。それは政府を苦しめる。政治が人気投票であるなら、ウィンフリーは勝つだろう。しかし、彼女の経歴には、労働が将来どうなるか、中国の台頭にどう対応するか、示すものはない。ウィンフリー政権ができれば、それは彼女のブランドを破壊するだけだ。

アメリカの統治の安定性が問われている。アメリカ憲法は群衆による支配を排除するようにデザインされた。まさに、トランプのような男が権力を握れないように、憲法が創られたのだ。アメリカは民主主義のモデルというより、立憲共和制として生まれた。そこには大きな違いがある。建国の父たちはデマゴーグを恐れた。

ウィンフリーの台頭は、アメリカがもはや政治を真剣に扱わない国になったことを示す。もしトランプを倒すために、セレブにはセレブで対抗するなら、公務という考え方は消滅する。ロナルド・レーガンは俳優であったが、カリフォルニアの知事に2度選ばれたし、政治的な指導的地位を経験した。そして、妥協の技術を学んだのだ。政治では、混乱した結果を得るために政治的資本を費やす。セレブは、自分のブランドを守るだけだ。

かつて西側の民主主義は、教会と国家との間に壁を築いた。今、われわれはエンターテインメントと政治の間に壁を必要としている。

もしウィンフリーが立候補すれば、その最初の犠牲となるのは民主党だ。第2の犠牲者はウィンフリーである。トランプの政治マシーンは、彼女の経歴を汚すことを、執拗に追求するはずだ。トランプが勝利するかもしれない。またウィンフリーが勝利しても、その戦いはアメリカ政治を支配する文化戦争になる。それはゼロサムであり、たとえ勝利しても、それは敗北である。

ウィンフリーがもっとも輝いたのは、2008年の選挙で、オバマを早くから支持したことだ。ニューハンプシャーでウィンフリーが“You are the one,”とオバマに語ったとき、衝撃が走った。今、ウィンフリーが聞くべきは、経験のある民主党議員ペロッシNancy Pelosiの助言である。賛否あるだろうが、自分の仕事に励め、と。


 北朝鮮との核戦争

FT January 8, 2018

Time to step off the nuclear tightrope

Beatrice Fihnexecutive director of the International Campaign to Abolish Nuclear Weapons, winner of the 2017 Nobel Peace Prize

北朝鮮とアメリカの核戦争をめぐる言葉の応酬で、1つだけ良いことがある。それは冷戦終結以降、人々がほとんど忘れていた、人類の絶滅を思い出すことだ。

核兵器は歴史の遺物ではない。何千発、何万発もの核弾頭がわれわれを狙っている。数分以内に発射できる形で、核武装を維持する政治・軍事システムが続いている。こうした条件のまま生きることを受け入れるのは間違いだ。核戦争の脅威は本物である。それが起きていないのは、慎重な指導者のおかげではなく、単なる幸運である。いずれ、幸運は尽きる。

アインシュタインと共同で反核宣言を書いたラッセルBertrand Russellはそこに記した。「あなたが張り詰めたロープの上を10分間も歩けると思うのは理由があるのかもしれない。しかし、何の事故にも遭わずに200年間も歩き続けると思うなら、それは間違いだ。」

世界の多くの地点で、人類滅亡の15000もの標的を狙っている。それらは軍事施設ではない。都市を壊滅し、市民を無差別に殺戮する。それは現代の軍事的必要に応じないし、戦争法にも反する。北陽線が核武装することを抑止したわけでもない。核兵器は戦略的な優位をもたらさない。単に、核武装を刺激するだけである。

私は解決策を知っている。北朝鮮についても、その他の場合でも。すべての核兵器を禁止し、全廃することだ。現実的ではない、と言うのか? 7月には122か国が国連の新しい核兵器禁止条約に参加した。われわれは新しい国際規範を創ったのだ。そこでは核兵器がパワーではなく、恥辱である。

化学兵器も、生物兵器も、地雷も、クラスター爆弾も、禁止することは不可能だ、と言われた。しかし、われわれは禁止した。アメリカ、ロシア、中国は、地雷やクラスター爆弾御禁止条約に参加しなかった。しかし、彼らも政策を変えたのだ。その使用は受け入れられないものとなったから。

たとえ北朝鮮のような国家が核を保有していなくても、テロリストが核兵器を盗み、基地を攻撃するかもしれない。ハッカーが核の管理システムをハイジャックするかもしれない。核兵器が存在する限り、それは使用されるだろう。

FP JANUARY 8, 2018

It’s Time to Bomb North Korea

BY EDWARD LUTTWAK

北朝鮮の核・ミサイル実験を空爆によって阻止することには、反対する理由があるが、一般に考えられるほど強い理由ではない。

北朝鮮による報復があるとしても、アメリカの安全保障政策を妨げるものではない。ソウルとその周辺をミサイル攻撃することに対して、その影響を緩和する方法はある。韓国政府は首都機能を移転するべきだったし、シェルターの整備を急ぐべきだった。また、イスラエルとアメリカが生産するIron Domeを輸入することで、ミサイルの95%を阻止できるだろう。

北朝鮮の核施設は多くないし、規模も小さい。その防空システムは旧式で、空爆を妨げるものではない。

唯一、重要な理由は、中国の影響が強まる可能性だ。中国はすでに、石油の禁輸を含む制裁に参加しており、北朝鮮体制の保護を主張していない。北朝鮮が不安定化して、アメリカ軍が中国との国境に接近することを中国は好まないだろうが、韓国は北との統一コストを支払う意志がない。韓国政府は、むしろアメリカに依存することを抑えるため中国に接近するだろう。

インド、イスラエル、パキスタンも核兵器を保有している。しかし、政治的混乱や戦争を経験しても、こうした諸国は核の使用に言及していない。北朝鮮の行動は全く異なる。

手遅れになる前に、アメリカは行動すべきだ。

FP JANUARY 10, 2018

It Is Not Time to Bomb North Korea

BY RUBEN GALLEGO, TED LIEU

Edward Luttwakの主張は間違いだ。北朝鮮に軍事攻撃を行うことほど破滅的な選択肢はないし、それこそアメリカの国益を損なう。

その犠牲は大きく、数日中に30万人が死亡する、アメリカ議会の調査は推定した。また、限定的な行動は一気に核戦争に進むだろう。


 国際移民管理体制

The GuardianThu 11 Jan ‘18

Migration can benefit the world. This is how we at the UN plan to help

António Guterressecretary general of the United Nations

移民の管理は、われわれの時代の国際協力に向けた最大の挑戦である。移民は経済成長を助け、不平等を減らし、多様な社会を結びつける。しかし、それはまた政治的緊張や人間的な悲劇の源泉ともなる。移民の多数派合法的に働き、暮らしている。しかし、絶望的な状況にある移民たちは、命の危険を冒して他国に入り、犯罪者や奴隷のように扱われる。

人口圧力や気候変動は、今後も、脆弱な社会からの移民を増やすだろう。グローバル・コミュニティーは選択を迫られる。移民を繁栄と国際的連帯の源泉とするのか? あるいは、人道に反した扱い、社会的衝突の源泉とするのか?

今年、多くの政府が国連に集まって、移民に関するグローバル・コンパクトを交渉する。それは正式の条約ではないし、諸国を拘束するものでもないが、移民がわれわれの国民のために役立つことを示す共通のビジョンを示すものだ。

1に、移民の相互利益を認め、それを強化すること。第2に、諸国は移民を管理し、移民を保護する法律を整備すること。第3に、弱い立場にある移民や難民を保護する国際法を整備し、国際協力を強めること。


 公益事業体の革新

The Guardian, Tue 9 Jan ‘18

We can undo privatisation. And it won’t cost us a penny

Will Hutton

イギリス有権者の4分の3が、鉄道、ガス、水道の再国有化を望んでいる。公有制が再び支持を高めている。

Thames Waterは、民間株式保有性の、最悪の例の1つだ。莫大な債務を築き、過剰は配当を支払って、税金を免れるためにルクセンブルクの持ち株会社を利用した。BTのハイスピード・ブロードバンド投資もそうだ。

しかし、コービンの再国有化案では、再国有化により国家債務の増大がGDP10%に達する。また、大蔵省の予算として借入に制限を受ける。そのため、積極的な投資はできなくなるだろう。

新しい企業の形態、公益企業体the public benefit company (PBC)を考えるべきだ。その経営では、私的利益よりも、公益を重視する。その設立では、政府に非専門家の経営理事を指名する権利を与える。彼らの役割は、PBCが交易を重視しているか監視することだ。直接、消費者グループと関連した理事が入ることもありうる。

PBCの株式は民間保有されているから、借入は国家債務ではない。株主の投票や配当についての権利はそのまま残っている。その目的は、国有企業と民間企業の最善の組み合わせた形態を創り出すことだ。

FT January 12, 2018

Re-nationalising utilities is the wrong answer to a real question

MARTIN WOLF

公共事業と基幹サービスの所有と支配を、それを利用し、そこで働く者たちの手に取り戻す、と、コービン労働党の影の蔵相であるJohn McDonnellは主張する。もし労働党が次の選挙で勝利すれば、1980年代以降、マーガレット・サッチャーが始めた民営化の多くは逆転されるだろう。それはうまく行くのか? 一言でいうなら、Noである。

われわれの中には、国有企業がどのようなものか、記憶している者がいる。それは決して、利用者の手に委ねられていなかった。閣僚と公務員が支配し、慢性的に過剰な職員を雇用し、過度に政治介入された。投資が不足したり、投資の決定がお粗末だったりした。利用者を無差別に扱った。私もその利用者だった。こうした企業形態は、機能しなかったから、すたれたのだ。

もちろん、民営化も万能薬ではない。自然独占、安全性、技術革新と投資のサイクル、など、民営化された事業を規制する理由はある。しかし、鉄道で明らかなように、民営化は成功だった。

再国有化はサービスの改善ではなく、混乱と時間の無駄につながる。コービンは、再国有化ではなく、規制改革を行うべきだ。


 なぜ日本ではポピュリズムが広まらないか?

PS Jan 10, 2018

Why Is Japan Populist-Free?

IAN BURUMA

右派のポピュリズムが,ヨーロッパ,アメリカ,インド,東南アジアの一部まで席巻しているが,これまでのところ,日本はこれに侵されていない.日本には,文化的,政治的なエリートに対する大衆にたまった怨嗟を爆発させるGeert Wilders, Marine Le Pen, Donald Trump, Narendra Modi, or Rodrigo Duterteのような政治家がいない.なぜか?

安倍晋三はトランプと息が合う.2人の間で,「私が朝日新聞をうまく手なずけたように,あなたもニューヨークタイムズを手なずければよい」と,安倍がトランプに冗談を言ったそうだ.

しかし,デマゴーグたちが,外国人,コスモポリタン,知識人,リベラル派に対する大衆の怨嗟を掻き立てるには,金融,文化,教育における顕著な不平等がなければならない.日本の1930年代にはそれがあった.しかし,今はない.現代の日本は,確かに欠陥もあるだろうが,ヨーロッパ,アメリカ,インド,東南アジアに比べて,平等主義が支配的である.日本では,最も裕福な人々が控えめな行動をとり,中産階級のための国家運営が支配的である.

デパートの店員たちは,商品に美しい包装を施すことに,本物のプライドを感じているようだ.また,制服を着た中年の男性が,銀行に入ってきた顧客に笑顔でお辞儀する姿を想像してみることだ.それは全くの表面的な儀礼のように見える.こうした職務を満たすから大きな満足を与えている,と思うのは無邪気すぎるだろう.しかし,人々は感じるはずだ.自分たちはつつましいけれど,この場所を得て,この社会に必要な役割を果たしている,と.

同時に,日本の経済は,開発された諸国の中で,最も保護されており,グローバル化が抑えられている.日本政府は,さまざまな理由で,西側に広まったレーガン=サッチャーの新自由主義を制限した.その1つとして,効率性を犠牲にしても雇用の安定性を守り,労働者のプライドを維持した.

サッチャリズムは,おそらく,イギリス経済をより効率的にしたが,労働組合や労働者階級の文化を守る様々な制度を破壊した.政府はまた,苦しい職場に務める人々のプライドの源泉を捨て去ったのだ.しかし,効率性はコミュニティーの心を生まない.エリートたちは良い教育を受け,才能のある人々かもしれないが,彼らはグローバル経済を利用し,繁栄している.漂流する労働者たちの不満は,こうしたエリートに向かう.

自分の富を自慢し,成功を自慢し,天才を自慢する,ナルシストの億万長者を大統領に選ぶような人々がアメリカに多くいたことは,その皮肉な結果である.同じようなことは,日本で起きない.その理由をよく考えることで,われわれは重要なことを学ぶだろう.

******************************** 

The Economist December 23rd 2017

Urban development: Welcome to “nuclear-power town”

Nationalism: Vladimir’s choice

Brexpats: iAdios, amigos!

Free exchange: Have yourself a dismal Christmas

Women in economics: Inefficient equilibrium

(コメント) 特集号の後半です.中国では中堅都市を何かの特産品でアピールさせる分散型成長戦略を採用しました.「原発」もその1つである,ということです.

ナショナリズムの特集記事に注目しました.しかし,私の読みが浅かったかもしれません.ドイツ帝その誕生の瞬間として,プロシア軍の優位に対して,フランス革命を守る義勇兵を鼓舞するためにナショナリズムを唱えた,と紹介されています.それは国家の正当性や権力の見直しを含む物でした.しかも国民はすべて異なっており,国民国家による統治を求めるのです.

21世紀のグローバリゼーションに対しては,トランプより,カナダでしょうか? 核兵器も加わって,国民国家間の均衡で平和を維持する,という前提条件は失われたようです.固有の文化を尊重しながら,しかも,多文化社会を受け入れること.

クリスマスは経済学に反省を求めています.その功利的,個人主義的な,合理性の解釈は,社会的条件を無視している,と.また,経済学部にはなぜ女性の教授が少ないのか? 女性を排除した経済学は,どのような偏りを生じたのか?

****************************** 

IPEの想像力 1/15/18

2年のゼミでは,なぜ日本の国連安保理改革は失敗したのか,と話し合い,3年のゼミでは,ワールド・ピース・ゲームのすごろく=人生ゲームを作ろうとしています.卒業研究を書く学生は,それぞれのテーマでIPEを考えたことでしょう.

IPEの講義を聴いてくれた学生たちが,未来に,グローバル・ガバナンスを樹立する自分たちの力を信じて,この複雑で,見通しの立たない,しばしば醜悪な現実を生き抜く,たくましい希望を得てくれるだろうか? 自分たちの能力を高め,豊かな機会を与えてくれる,歴史的な統治形態を各地の人々が見いだす,歴史的瞬間に,彼らは立ち会うだろうか?

そういう希望を与えられない講義に終始したことに,そうではない,と願う部分を拾い集めて,少しは埋め合わせたい・・・ と思いました.

グローバル・ガバナンスとして,私は<国際レジーム>を想定しました.歴史的に,覇権国による国際秩序の確立(その多くは大戦争の結果)は,より集団的な,平和的調整過程に変わっていくでしょう.さまざまな問題に応じて,主要諸国が,企業・市民団体も加えて,新しいルールに向けて協議すること,協議における主要国の説得力,独立・常設の監視機関と情報収集,定期的な相互評価の積み重ねが,一定の<規範>を形成する,と考えます.

3つの議論を紹介しました.第1に,ジョン・アイケンベリーです.圧倒的な軍事力が,大戦争に勝利したことが,戦後の秩序を確立するのではない.パワーを持つ国は,新しい秩序において自らパワーを制限し,その優位を制度化するとともに,パワーの行使に関するルールを示します.

2に,公共財の供給を<文明(圏)>と見るマーチン・ウルフです.農業革命に続く帝国の形成,帝国の崩壊が生み出す軍事的地方支配に代わって,産業革命と民主主義の時代がさまざまな公共財を供給し,維持しました.グローバル化し,多極化した<文明圏>を維持する集団的試みが,われわれに求められています.

3に,アメリカやEUがグローバル・ガバナンスを形成した過程に注目したジェフリー・フリーデンです.新しい法的強制力は,市場の拡大と外部性の強まり,組織された利益集団の形成に沿って,起こりました.ただし,市場に媒介された分配をめぐる効果は不均等であり,パワーの正当性と財源・発言力の独占は,問題を偏った形でガバナンスに反映する,と指摘します.

だから未来に希望はあるのか? その答えは決まっていない,と思います.

私の答えは,IPEの果樹園が紹介する,現実の政治・経済・社会・文化をめぐる錯綜した関係・力学と,この講義が整理した「基本的なステップ」とがどのように結びつくか,常にそれを考えることです.イラクの反政府デモを考え,トランプ政権による通商政策の軍事化,イギリス労働党の目指す新しい国有化と公益事業体,ドイツ外交の価値とリアリズム,植民地支配をめぐる罪悪感,ビットコインの投機に加わる人々や政府,ロシア,サウジアラビア,エジプト,イエメン,メキシコ,ポーランド,マレーシア,エチオピア,あるいは,安倍首相とトランプ大統領の間で交わされた悪質なジョークに,驚き,恐れることです.

それは,噴煙と雷鳴に覆われた,強烈な火山島をめぐる何千キロものGreat Raceだと思って間違いないでしょう.各チームは,数千メートルの火山をいくつも超えて,あなたの命を載せて走り続けています.

******************************