IPEの果樹園2018

今週のReview

1/8-13

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2018年の予想 ・・・将来の成長 ・・・中国の技術革新 ・・・トランプの政治 ・・・巨大都市と中小都市 ・・・イランの政治 ・・・AI,ロボット,グローバリゼーション ・・・国際通貨の地政学 ・・・ヨーロッパの政治

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 2018年の予想

FP DECEMBER 29, 2017

2017 Was the Year of False Promise in the Fight Against Populism

BY YASCHA MOUNK, MARTIN EIERMANN

ポピュリストの運動は少なくとも20年にわたって勢いを得てきた。しかし、その不安は1年前にピークを越えた。2016年、イギリス国民はEU離脱を支持し、アメリカではドナルド・トランプが大統領に当選し、2017年には何が起きるか、と恐れられたのだ。

1年経って、その不安は過剰なものであったようだ。フランス大統領選挙で、第1回投票において、左右のポピュリストが投票数の半分以上を占めたが、マクロンは極右のル・ペンを破って当選した。ドイツの選挙でも、第2次世界大戦以来、初めて極右のポピュリスト政党が議席を得たが、穏健派の諸政党が過半数を占めている。

このことから間違った教訓を引き出すかもしれない。ポピュリストの運動は頂点を過ぎて、衰退に向かうだろう、と。

しかし我々は、同じ経過から異なる教訓を学んだ。ポピュリストたちが既存の政治システムを破壊したとか、政権を得たとかいうことではなく、過去数年の彼らの活動から現在の水準を判断する。最初に、ポピュリストの簡単な定義を、イデオロギーではなく、政治組織のロジックが、支持者と敵対者とを明確に分けるようなものと考える。ポピュリストであるとは、国内エリートや、外国からの移民、エスニック・宗教・性によるマイノリティーに反対する、民衆の真の意志を代表する、と単に主張する者たちであれば何でもよい。

すると明確な姿が示せる。ポピュリストの運動は2016年以前から徐々に増加していた。それ以降も増加し続けている。ヨーロッパでポピュリスト政党が得た投票は、20009.6%200817.2%、現在24.6%である。そこには3つの特徴がある。

1.中欧における人口規模の大きい、戦略上重要な国家で、ポピュリズムが重要になっている。バルチック海からエーゲ海まで、ポピュリズムが政府に影響を与えた国がある。さらに多くの国で、ポピュリストが政権に入る可能性がある。ソ連の支配から解放されて、まだ30年しか経っていない諸国では、民主主義が生存できるか、試されている。

2.右派のポピュリストが政権を得た国は西欧に存在しない。しかし、ギリシャ、オーストリア、ノルウェー、多くの国で、ポピュリストは政権に参加している。ポピュリストの影響が強まる国では、過激な主張を排除するためにも、伝統的には穏健な諸政党が、フランスやオーストリアなど、最近、右傾化している。

3.極右のポピュリズムにだけ注目するのは間違いだ。右派のポピュリストが増大する第1の地帯に加えて、左派の諸政党が第2の地帯を形成し、南欧に多くの支配地域を得るかもしれない。それらはユーロ危機や10年に及ぶ停滞の結果として債務諸国に広まったが、同時に、ますます排外主義的で、独立したメディアの破壊を求めている。

こうした長期に及ぶ政治変化は、構造的な要因によって説明されねばならない。すなわち、経済不安、移民や多エスニック社会への反発、極端な主張が大きな影響を容易に及ぼすソーシャル・メディアの拡大。

ドイツのAfDやフランスのル・ペンが成果を上げなかったとしても、ポピュリスト運動は決して消滅しないだろう。それはなお頂点を越えておらず、われわれが今行動しなければ、これからも勢力を拡大し続ける。

FT December 30, 2017

Forecasting the world in 2018

2017年の20問に関するFTコラムニストの予想は間違いも含んでいた。しかし、概ね、19の内、15は正しかった(20番目、北朝鮮の判定はむつかしい)。

われわれは2018年の20問にも挑んでみよう。

1.メイは首相の地位を維持するか? Yes ・・・EUとの離婚手続きが進む間、離脱派と残留派は保守党内の内戦を回避したいと願い、結果的に、メイを首相の地位にとどめる。

2UK経済の成長はG7で最低水準か? No ・・・メイが断崖から飛び降りるタイプの合意なし離脱を回避できるなら、UKの成長率は1.5%と予測され、日本やイタリアの1.3%を超える。

3.マクロンはメルケルと約束したユーロ圏統一予算を実現するか? No ・・・メルケルが受け入れるとしても小規模のユーロ圏投資基金だけである。選挙によってメルケルの力は失われた。

4.中間選挙で民主党がアメリカ下院の過半数を回復するか? Yes ・・・歴史的に観て、大統領の政党は敗北する。特に、大統領の支持率が50%を割っているときは、大きな敗北となる。

5.ドナルド・トランプに対する弾劾手続きが始まるか? Yes

6.トランプは中国との貿易戦争を開始するか? Yes

7.中国のGDP成長率は6.5%を超えるか? Yes

8.日銀は金融引き締めに転じるか? No

9.新興市場のGDP成長率は5%を超えるか? Yes

10.インドのモディ首相はより非正統的な経済実験を試みるか? Yes

11.サウジ・アラムコの新規公開株は国際取引を始めるか? No

12.ミードJosé Antonio Meadeが次のメキシコ大統領になるか? Yes

13.ジンバブエの新しい指導者は公正な選挙を行って勝利するか? No ・・・軍が管理した選挙になる。

14AT&TTime Warnerとの合併は(CNN売却無しに)成立するか? Yes

15Tesla25万台以上のModel 3を生産するか? No

16S&P 5002018年の終値が2650ドルを超えるか? Yes

1710年物財務省証券の利回りは2018年の終値が3%を超えるか? No

18.石油の2018年の終値がバルル70ドルを超えるか? Yes

19.安定的で流動性のあるビットコイン先物市場は成立するか? No

20.ブラジル、ドイツ、スペイン以外の国がワールドカップで優勝するか? No ・・・過去20回のワールドカップで優勝したのは、ブラジル5回、ドイツ4回である。開催国の優位があり、6回優勝している。しかし、ロシアはランクが低すぎる。過去50年で、開催国以外で初めて優勝したのはスペインだ。

FT January 2, 2018

The case for optimism in 2018

GIDEON RACHMAN

2018年は、経済指標と地政学的指標とが全く異なる方向を指して始まった。世界の株価は記録的な高水準であり、経済における自信がほとんどの発展した諸国で強まっている。しかし、国際政治は非常に懸念されるものだ。

近年の傾向は、中東の悪いニュースをアジアの楽観主義が打ち消したのだが、今年はそれが逆転するだろう。地政学上の最大のリスクは朝鮮半島にある。アメリカ大統領は、北朝鮮を武装解除するために、初めて、核戦争を行うと威嚇した。

これに対して、中東では、いくつかの重大な問題が良い方向に転換した。イランの反政府デモ、サウジアラビアの自由化、イスラム国家の軍事的崩壊、これらはイスラム原理主義の大きな後退を意味しているからだ。

投資家やエコノミストたちは北朝鮮の危機を過小評価している。しかし、ワシントンの安全保障専門家たちは、2003年のイラク侵攻が始まる前の状態と似ている。重要なポストにある者たちが、「予防的な戦争」を避けられないと語り始めている。これに対しては、特に韓国の受ける報復の犠牲は計り知れないほど大きくなる、という反対論が強い。ソウルに対する報復能力を破壊する、というが、そもそも核兵器を完全に無能力化するには地上軍の派遣が必要だ。

アメリカの最重要な同盟諸国、日本、韓国、オーストラリアが強く反対するから、朝鮮半島の戦争は起きない、と私は考える。これまでの大統領なら、北朝鮮の核武装を許せばアメリカの信認を損なう、と考えただろうが、トランプなら気にしない。彼は独自のリアリティーに生きており、見え方が変わればよい。

ただし、中東世界では最も悲観的な予想が実現する。イラク戦争でも、アラブの春でも、イスラエルとパレスチナとの和平でも、そうだった。同様に、イランの反政府活動は次第に勢いを失い、あるいは、弾圧されてしまうだろう。

他方、イスラム原理主義者の運動は経済的、社会的に行き詰まり、巻き込まれた人々はこれを最終的に逆転しようとする。サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子はワッハービ支配層を排除する決断を下したようだ。リヤドとテヘラン、そしてシリアとイラクの戦場から、敵対する原理主義集団が勢力を失うとしたら、2018年は歴史的な転換となるだろう。

世界政治に関する憂慮を出してから、むしろ良いニュースに驚くこともある、と考えてよい。朝鮮半島でも、南シナ海でも、東ヨーロッパでも戦争は起きず、EUは分裂しないし、Brexit交渉は決裂せず、株価暴落も起きない。逆に、中東はプラスの大きな転換を迎え、イングランドがワールドカップで優勝する。


 将来の成長

FT December 29, 2017

Why I predict we will be wealthier in the future

TIM HARFORD

2018年ではなく、2118年に経済はどうなるだろうか? 100年後の予測は、1930年に、ケインズもしたことだ。彼は2030年に、孫たちは8倍豊かになる、と期待した。われわれはそれより少し低いが、十分に浴衣になると期待する。2118年に、われわれは今より5倍豊かになるだろう。世界の平均所得は1人当たり約8万ドルだ。UKは約2倍豊かになって、年間25万ドルであろう。

それはどの程度幸せか? 戦争は起きないか? 自然環境はそれを維持できるか? 配管工、タクシー運転手、ジャーナリスト、など、ロボットによって失業するのか? そうなれば、ユニバーサル・インカムが導入されるだろう。


 中国の技術革新

PS Dec 29, 2017

China, the Innovation Dragon

SIMON JOHNSON, JONATHAN RUANE

中国が経済構造を転換するスピードは史上空前のものだ。1978年以降の40年間、年平均10%で成長した。

中国の生産性は大規模なインフラ投資による近代化により達成された。高速鉄道網は22000キロを超えて世界最長である。2021年まで、毎年、約2兆ドル消費が増え、それはドイツの市場規模に等しい。今や。工業生産や世界貿易だけでなく、技術革新でも世界最大の国になろうとしている。

AppleCEOであるTim Cookは、中国に進出するのは労働コストが安いからではない、と述べた。先進的な生産ノウハウと強力なサプライ・チェーンが中国製造業の強さを支えている。中国指導部が生産性をさらに高め、ヴァリュー・チェーンを一層登ろうとするのは疑いない。

昨年5月の第135か年計画は、2020年までに「技術革新国家」、2030年までに「革新の国際的指導国」、2050年までに「科学と技術革新の世界大国」になるという目標を定めた。

保護主義に向かうトランプ政権と比べて、中国は諸政策を挙げてその目標に邁進する。


 トランプの政治

FP JANUARY 3, 2018

Trump’s Nationalism Is Arbitrary, Dangerous, Incoherent, and Silly

BY PAUL D. MILLER

ドナルド・トランプ大統領はナショナリズムを明確に強調した。国連演説がその強力な表現であった。しかも、それは危険で、空っぽで、道徳的な気まぐれを示している。

トランプは、「強力な、主権を持つ、独立した諸民族Nations」を称賛し、それこそが国際秩序の支柱である、という。「国家States」ではなく「民族Nations」を好む。

しかし、Nationsの定義は、良く知られていることだが、あまりにも困難である。その中心には、文化、言語、歴史、エスニシティを共有することがある。ナポレオン以来、あらゆるナショナリズムは国民の共同体を主張し、それが世界政治の主体であった。各民族はそれを統治する国家を持った。

だが、現実には不可能である。そのような主張は国の内外で分裂を生じるだろう。ナショナリズムは、常に、多様な現実の敵であった。今日の世界には、国民国家など存在しない。ほとんどすべての国家が、同質的なマイクロ主権集団よりも大きい。多くのエスニシティを抱え、多元主義的で、多様な政治体を含んでいる。


 巨大都市と中小都市

NYT DEC. 30, 2017

The Gambler’s Ruin of Small Cities (Wonkish)

Paul Krugman

巨大都市はますます中小都市を必要としなくなっている。現在経済における地方都市の役割は何か?

かつて、地方の小都市は明らかにすることがあった、彼らは農業に従事し、その他の自然資源に基づく経済活動があった。耕作地や自然資源は分散しており、地方人口も分散して諸都市が点在した。

しかし時とともに、農業が経済に占める重要性は低下した。それとともに地方人口は減少し、都市も衰退した。それにもかかわらず地方の小都市は生き残り、中には工業の中心地となって成長する都市もあった。それは一般に、マーシャルの三位一体である、情報交換、特化した供給業者、特化した技量を持つ労働者の集積、があったからだ。

何によって小都市の産業は発展するのか? 立地や資源は重要だが、多かれ少なかれ、それは偶然に決まる。1つの産業が発展した後、また新しい産業がそれに続く。エリー運河の利益を受けて製粉所が発達したRochesterがそうだ。その後、ドイツからの移民がレンズやガラスの工場を建てた。コダック、その後はゼロックスが発展した。

それは機会に応える幸運を要した。新しい産業が起きて旧産業に代わり、ある都市は成功したが、他の都市は失敗した。巨大な多様化した都市は多くの衰退産業があっても成長できるが、小都市にはできない。それは賭けだった。

これはグローバリゼーションとは関係なく、もっと長期に進行した過程である。小都市が破たんすることの社会的コストは大きく、その活力を維持する地域政策には一定の根拠がある。しかし、この闘いは長期的趨勢に逆らうものだ。現代経済が土地から切り離されたとき以来、地方の小都市は歴史的な衰退過程にあるからだ。


 イランの政治

NYT Jan. 2, 2018

Why Iran Is Protesting

By AMIR AHMADI ARIAN

これは私が経験した3度目の大衆抗議である。19997月、表現の自由を求める学生たちの抗議が広がった。20096月、大統領選挙の投票結果をめぐって数え直しを求める声が街頭抗議と緑の革命につながった。どちらも市民の権利を要求し、政府に弾力性と説明責任を求めた。デモはもっぱらテヘランで行われ、大学教育を受けた中産階級の、非暴力的なものだった。

今回は違う。抗議は国中の小規模な宗教的町から強まった。それは政府が体制を支持することが当然とみなす土地だった。大都市での抗議は大きく遅れていた。彼らの要求は、表現の自由でも、女性やマイノリティーの権利でもない。失業問題、インフレ、国富を略奪する者への不満を訴えている。ある女性は、わずか月300ドルで暮らすように、ロウハニ大統領に求める。イラン・イラク戦争の退役軍人は、自分を「忘れられた者たち」とみなしている。高齢の女性は、自分の75歳の夫が長時間働いて生活を維持している、という。「インフレを止めよ。」「略奪者を許すな。」「宗教指導者は政治に口を出すな。」

1979年の革命以来、イラン政治は改革派と原則派に分断されている。1999年、2009年のデモは改革派の支持を得たが、今回は分断を越えたものだ。彼らは、改革派のロウハニも含めて、現状維持につながる誰の支持も求めない。改革派のジャーナリストで亡命中のEbrahim Nabaviは、デモ参加者たちを「ポテトを食べるモッブ」と軽蔑した。

革命後の数十年と違って、富裕層は富を軽率な形で自慢している。2000年代の最初は、ドバイやトロントに富を隠し、国内では質素に暮らした。富を見せびらかさず、1979年の革命の理想を薄っぺらな膜でごまかした。しかし、若い世代は、富の源泉を気にしない貴族のように振る舞う。貧困層の前で高級車を乗り回し、豊かな生活を写してインスタグラムに載せた。イラン人たちは、体制の支配者家族は世界中の海岸で酒を飲み、ぶらぶらしている写真を観た。他方、自分の娘はスカーフをしていなかったという理由で逮捕され、息子は酒を断ったという理由で投獄されている。

しかし、権力のピラミッドで頂点にある人々は、1979年の革命に参加した。シャーが革命派の声に耳を貸したときが、その体制の終わりの始まりだった。アラブの春でもそうだ。チュニジア、エジプトはデモ参加者を宥和しようとして権力を失った。他方、反対派の存在も認めなかったシリアのアサドは生き延びている。

イランは多くの動乱を生き延びた。政府は今回を生き延びるかもしれない。しかし、大都市のエリートが政府に反対するとき、頼ることのできた地方からの支持はもうない。


 AI,ロボット,グローバリゼーション

NYT Jan. 1, 2018

A.I. and Big Data Could Power a New War on Poverty

By ELISABETH A. MASON

ビッグデータやAIが職場を失わせるという不安に対して、われわれはもっと積極的に問題解決に活用することを考えるべきだ。ビッグデータとAIは貧困を解消し、経済の安定性を高めることができる。

1に、AIによって職を失う恐れのある労働者に、中産階級にふさわしい他の職場を見つけることができる。また、将来、必要となる職場に合わせて、技能や職業訓練を実施できる。

2に、生徒たちに対して、異なるやり方、異なるスピードで教育できる。

3に、政府の社会給付に依存する人々に対して、イデオロギーによる対立を廃して、プログラムの改善や、無駄の解消ができる。

歴史的に、われわれは、社会管理やジョブ・マッチングが指令経済につながると恐れて、手を付けなかった。しかし、その姿勢を改めるときだ。AIや新技術は社会の前進を促し、カオスや社会崩壊をもたらすものではない。

PS Jan 2, 2018

Does Trade Fuel Inequality?

JEFFREY FRANKEL

所得分配の不平等化とグローバリゼーションは同時に進んだ。しかし、グローバリゼーションを不平等の原因とするのは間違いだ。

Xavier Sala-i-Martinが指摘したように、不平等はすべての国で増大しており、国家間の不平等は減少している。特に、中国とインドのように、発展途上諸国の成功が重要だった。其れには多くの要因が関係しているが、アジアの成長に果たした貿易の重要性は明らかだ。

トランプ大統領のようなゼロサムの貿易論は、アダム・スミスとデイヴィッド・リカードが否定したものだ。ただし、スミス=リカードの貿易論は国内の分配問題に応えなかった。

その点では、HO-SSthe Heckscher-Ohlin-Stolper-Samuelson)モデルによる労働者と物的・金融的・人的資本の所有者との区別が有益だ。国際貿易は豊富な生産要素の所有者に利益を、希少な生産要素の所有者に損失をもたらす。

その後、1980年から、貿易論の革命が起きた。Paul Krugman and Elhanan Helpmanが、不完全競争や収穫逓増を貿易論に取り込んだ。グローバリゼーションへの批判は、自由貿易に関する伝統的支持を否定する動きと並行して起きた。それは、むしろ、HO-SSの予測が実現したものであった。

10年を経て、発展途上諸国の国内でも不平等が拡大している。BRICSがそうだ。技術変化は、ますます熟練労働者への需要を強めているが、その供給は遅れている。勝者がすべてを得るような傾向が強まり、再分配政策は否定されている。

グローバリゼーションを否定することではなく、もっと政策による不平等の解消を目指すべきだ。


 国際通貨の地政学

VOX 02 January 2018

Mars or Mercury? The geopolitics of international currency choice

Barry Eichengreen, Arnaud Mehl, Livia Chiţu

国際通貨の選択は何によって決まるのか? 一方は、国際通貨としての利便性で説明する。他方は、地政学的な関心、アメリカに安全保障を依存していることが重要とみなす。

ドイツ、日本、サウジアラビアは、中国、ロシア、フランスよりも、核の傘や安全保障をアメリカに頼っており、この要因を考慮することで外貨準備に多くのドルが選択されていることも説明できる。逆に、アメリカが国際安全保障や国際的な役割を放棄し、アメリカ第1の姿勢を取るなら、ドル建の外貨準備は大幅に減少するだろう。それはアメリカの長期金利を上昇させる。

また、中国は人民元の国際化に積極的になっており、ユーロ圏が安全保障や防衛に関す得る合意を形成することは、国際通貨の選択に影響する。


 ヨーロッパの政治

PS Jan 3, 2018

Can Movement Politics Renew European Democracy?

JAN-WERNER MUELLER

ヨーロッパの政治を変えるのは、新しい若手指導者によるカリスマを重視した運動だ。フランスのMacron’s La République En Marche! オーストリアのSebastian Kurzとその“The Sebastian Kurz list – The New People’s Party”はそれを示している。

ヨーロッパでは、人々が政党を自分たちの利益を実現するだけで、権力闘争の手段とみている。発展途上諸国では、政党は権益を握る組織、腐敗の源とみなされている。特に、若い有権者たちは、伝統的な政党と働くことを好まない。政党は官僚的で、退屈だ、と。

ヨーロッパの最近の政治的革新は、ヒエラルキー的な組織を排除した、街頭の抗議活動や大衆集会から生じている。たとえば、スペインのPodemos、イタリアのFive Star Movement (M5S)、がそうだ。しかし皮肉なことに、水平的な組織や参加型の民主主義を唱えながら、カリスマ的指導者に権力を集中している。

指導者の役割は、シングル・イシューの社会運動がそうであるが、運動のダイナミズムや目的を意識させることだ。こうした新しい政治運動が重要であるとしたら、それは既存政党が示さない選択肢を、特に2大政党制によって政治システムを長期政権が独占していることに不満を感じる市民・有権者に、より多くの選択肢を示すからである。

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The Economist December 23rd 2017

Our country of the year: Formidable nation

Sex and inequality: The peril of polygamy

Indian foreign policy: The two sides of the mountain

(コメント) 体調不良です.The Economistの選ぶ優れた国は,韓国とフランスです.韓国は,中国とアメリカに挟まれたまま北朝鮮の核兵器による脅しを受けながら破滅を回避したからです.他方,フランスはマクロンが登場して,最も改革が困難な国に改革の希望をよみがえらせたからです.

一夫多妻制という社会制度が,これほど暴力的であるというのも驚きでした.そして,ヒマラヤという世界最高の防壁をはさんで,インドと中国が平和に生きてこられた時代は終わったことも,世界の枠組みを変える衝撃です.

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IPEの想像力 1/8/18

GIDEON RACHMANが、中東ではなくアジアに、特に、朝鮮半島に最大の地政学上のリスクがある、と述べているのを知りました。2018年が終わるとき、イギリスから見れば、日本は、中東の混乱に生き延びるイスラエル、あるいは、レバノンやヨルダンのような存在に近いかもしれません。

The Economistのクリスマス・年始合併号で、一夫多妻制が社会の安定性を破壊し、戦争状態を悪化させる、という記事に悪い予感がしました。それは,日本でも若者の貧困が結婚を難しくしている,と聞くからです。そして,中国の男女比率が大きくことなり,近隣諸国から若い女性を略取するビジネスのことを読んだからです。

記事が取り上げている南スーダンでは,結婚の40%1人の男性に複数の女性が妻となるポリガミーPolygamyである,といいます.裕福な者は多くの妻を持つべきであり,それは社会的に尊敬される,とアメリカでIT技術を学び,帰国した若い男性は説明します.そして,彼もこの国の水準では裕福な男であり,この習慣に従うのです.

なぜポリガミーが広まったのか? その理由として,記事は,激しい内戦を挙げます.部族間の対立があり,政治家たちは強欲で,制度が脆弱な上に,石油の富があったから,内戦が繰り返されたわけです.暴力によってのみ,富と女性を奪い取ることは正当化された,と人々は考えます.

しかし,記事のポイントはそこになく,むしろ,それが逆転した形で真実に近い,というわけです.1人の男が1人の女を追加して妻にするたびに,1人の男が結婚できなくなります.ポリガミーが認められた社会こそ,暴力を助長し,内戦をより頻発させる,残虐な殺害によってしか正当化されない秩序を温存してしまう,と.

ポリガミーこそ,「アラブの春」が急激に広まったこと,ボコハラムやイスラム国のような原理主義がナイジェリア,イラク,シリアに広がったこと,インドネシアやハイチで不安定化しやすい地域,を説明するものだ,と指摘します.Foreign Policyが示すFragile Indexの上位20か国で,ほとんどの国にポリガミーが存在する,というのは驚きです.

他方,妻を得るためには多額の金品が要求され,それがますます妻となる女のインフレーションと低年齢化を進めた,というのは,現代の市場が支配する近代社会にもあてはまりそうです.記事は,富裕層が自動車を買っても,それ以外の人々がさまざまな他の財を購入する機会は奪われない.だからポリガミーは特別に破壊的だ,と書きます.私はそう思いません.

超富裕層のリゾートが,ますます気象になる美しい自然を私的に所有するとしたら,その醜さは激しい反発を呼ぶでしょう。中国本土で制約される富裕層の暮らしを,外国や香港で実現したときに生じる変貌,ツーリズムによって破壊されてきた諸外国の苦痛は,今や日本の地方にも現れていると思います。

豊かな諸国で、一夫一婦制を法律が強制し、政府が所得再分配を行うからこそ、社会を組織する原理として,労働倫理や勤勉さ,発明・発見,開拓の精神,社会的な合意や契約の尊重,民主主義や人権が重要になったわけです.妻を得られないと知った若者たちが,他国を征服することでもなければ,多くの妻を囲い込んでいる富裕層やエリートたちを殺戮するには,小さなきっかけがあれば十分だ,と思います.

そして貧しい、一夫多妻制を奨励する政府が,軍事的な強国になるかもしれません。その国の支配層は、国際的な無法国家としてサイバー空間の違法行為を許し、関連企業や犯罪集団を世界中から集めるかもしれません。トランプの減税・タックスヘイブン国家、ロシア、北朝鮮、中国の核兵器とサイバー部隊、政治経済的なポリガミー秩序に対抗する基礎となるのは,核武装より,女性解放です.

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