(前半から続く)
● ユーロ圏と政治統合
PS Dec 11,
2017
Does
Europe Really Need Fiscal and Political Union?
DANI RODRIK
ギリシャの元財務大臣Yanis
Varoufakisとドイツの元財務大臣Wolfgang
Schäubleは、ギリシャ債務問題に関して天敵の関係にあったが、ユーロ圏の将来に関して一致する見解を示した。すなわち、通貨同盟には政治同盟が必要である。中間の道はない、ということだ。
しかし、それとは異なる意見もある。財政統合も政治同盟も必要ない、というものだ。FTのMartin
Sandbuは、民間の金融と政府の財政とを切り離すべきだ、と主張している。民間金融部門はヨーロッパ全体で完全に統合し、他方、財政は個々の加盟国に委ねられる。政府による民間銀行の救済を止めさせるには、そのような改革が必要だ、と考える。銀行の破たんはその所有者と債権者によって負担され、ベイル・アウトではなくベイル・インが行われる。
カリフォルニア大学、バークレー校のBarry
Eichengreenも、財政政策の再国有化を主張する。それは、財政の悪化を民間銀行システムに負担させることをやめさせるために必要だ、と考えるからだ。財政破たんした政府は、他のEU諸国によって救済されるのではなく、自ら債務を組み変えねばならない。
しかし、こうした提案が本当に有効か、はっきりしない。経済政策が国民国家によって決定される限り、ソブリン・リスクは続くだろう。主権国家は、常に、事後的にルールを変更できるし、ローカルな金融・財政ショックは容易に分散化できない。アメリカではどうなっているのか? 彼らの提案する改革はすでに実現している。地域経済の悪化は波及しない。なぜなら、信用力は借り手のファンダメンタルズによって決定され、居住する州ではないからだ。だれも州政府が、州間貿易に介入する、破産法を書き換える、独自通貨を発行する、とは思わない。
州政府が主権の大部分を行使しないのは、その必要がないからだ。州の住民は中央から財政移転を受けている。連邦政府の政策を決定するため、彼らの代表をワシントンD.C.に派遣している。
EUはそうではない。加盟国とEU諸機関との関係は非常に異なっている。なぜなら彼らは主権を保持しているからだ。金融市場に介入する可能性がある。EUにおける金融的ショックが同じ国にいることで他のすべての借り手に影響するだろう。われわれは民間金融と公的金融が分離されているふりをしても無駄だ。
現代社会では、金融は金融市場の利益を越えて、公共の目的に従う。それは必ず政治化するのだ。
● 金融革命の時代
Bloomberg
2017年12月12日
Must-Reads
of 2017: How Finance Ate Everything
By Pankaj Mishra
30年前、世界経済には革命が起きた。われわれはその政治的な結果を生きている。その革命とは金融革命だ。金融サービスが、銀行、ヘッジ・ファンド、トレーディング・ハウスによるものだが、アメリカ経済で最大の産業になった。成長のエンジンは工業生産性から市場投機に変わった。資本移動が世界中で、税制と規制を自由化したのだ。
それは予想外のものであり、十分に理解されてもいない。少数の急速に豊かになる者がいたし、多くの者が失望し、苦しんだ。すべての大陸で政治は不安定化し、トランプのようなデマゴーグが力を得た。
19世紀の産業革命も人類史の新しい時代を拓いた。大衆が政治に参加し、不平等は政治問題となって解決を求め、社会主義思想や帝国主義が広まった。
脱工業化した社会、モノを売るより、貨幣から貨幣を生み出す経済の意味を理解するために、3冊の本を取り上げる。
Joseph Vogl’s “The Ascendancy of Finance”
Rana Foroohar “Makers and Takers: How Wall
Street Destroyed Main Street”
Sheelah Kolhatkar’s “Black Edge: Inside
Information, Dirty Money and the Quest to Bring Down the Most Wanted Man on
Wall Street”(新版)
1980年代から、国民国家ではなく世界経済が、より大きな主権を行使するようになった。「現代金融は、・・・意思決定を集中する。」 それは主権国家とは別に侵攻しており、民主的意思決定過程をバイパスする。政府はこうしたシステムを改革することに失敗し、弱者が犠牲となって、システムに対する怒りが広まった。トランプの成功は、ウォール街が破滅的な失敗を犯したことの結果である。金融の億万長者たちが集まれば、いかに小さな集団が容易に民主主義を解体できるか、が示された。福祉、年金、貯蓄、医療、教育が金融システムのリスクと結びつくようになった。多数のアメリカ市民がその参加者にされた。
しかしForooharが書いたように、金融化によって成長の見せかけはできても、賃金の停滞、不平等、雇用の不確実さは解決されない。
● 超低金利政策
PS Dec 14,
2017
Surveying
the Damage of Low Interest Rates
ANDERS ÅSLUND
金融危機以後,超低金利政策が長期化している.ケインズ主義者たちのコンセンサスでは,今金融を引き締めることは間違いだ,という.
しかし,インフレーションの測定は恣意的であり,2%という目標も恣意的だ.巨額の財政刺激策が公的債務を累積させたことも心配だ.
通常,金融危機は構造改革を刺激するはずだ.しかし,金融危機後のゼロ金利で,それは全く起こらなかった.シュンペーター型の創造的破壊を避けたのだ.過去において超低金利を続けた後には赤字支出の増大とバブル崩壊が起きた.いつ,どこで,バブルが破裂するかは予測できないが,金融危機の研究者たちが示すことは無視できない.
世界中にバブル現象を見いだせる.タジキスタンのような,貧しい,経済運営を失敗している国が,ユーロ債を発行する.その買い手がいるからだ.中産階級の年金は運用先に苦しんでいる.保険も,銀行も,ビジネスが成り立たない.不透明で,投機的な金融手段に資金が流れ込んでいる.低利融資によって栄えるそのような金融機関は,しばしば税金を回避し,さまざまな優遇策を利用している.
低金利の利益は人口の大部分が受け取るのではなく,中産階級に及ぶ者ではない.人口の0.1%でしかない超資産家たちが得るのだ.低金利を支持するグローバルなプルートクラシーに対して,西側の制度は耐えられるのか?
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The Economist December 2nd 2017
The war the world ignores
Internal migrants in
China: Expelling Chinese people from Chinese cities
Yemen: From bad to worse
Society: Life imitates
nightmares
Free exchange: The second
chance
(コメント) イエメンの戦争がどのようにして拡大したのか,また,その終着点をどこに求めるべきか,興味深い考察を示しています.どのような軍事紛争も,その背景を知らねばなりません.サウジアラビアの皇太子やトランプ大統領,顧問のクシュナーが,どこまで真剣に理解していたのか.
中国の出稼ぎ労働者たちが,都市の巨大化を嫌う政府や都市住民によって弾圧されている,という記事を読んで,驚く人はいないと思います.しかし,それがSF小説となって,アメリカのヒューゴー賞を受賞した,というのには驚きました.
ユーロ圏の抱える問題は,次の金融危機までに解決できるのか? あるいは,SF小説になるのか?
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IPEの想像力 12/18/17
クリスマスから年末年始の休日に、何より、読書を楽しむのが最高でしょう。戦争,貧困,富裕層,バブルの物語,社会改革,難民,移住者,差別,新しい技術の普及過程,輸送,携帯電話に閉じ込められた時代,地球工学,・・・時代小説,スパイ,SF
Hao
Jingfangは若手の中国人作家です.彼女の書いた短編「折り畳み式の北京」
“Folding Beijing” がSF小説の分野で国際的に有名なHugo賞を受賞しました.
この物語の舞台は,人口が増大し,さまざまな公共サービスの不足,交通渋滞,病院・学校の混雑,騒音などに悩む市民たちの姿,「生活の快適さ」が重要な政治問題となった,世界中に見られる都市化現象です.
単なる小説ではなくSFであるのは,そこに示された解決策が空想的だからです.都市の住民たちは,政府によって居住できる地区だけでなく,生活時間を管理・配分されます.
First
Spaceの人々は富裕層であり,支配階級です.500万人が,午前6時から翌日の午前6時まで,まる1日を生活します.
Second
Spaceの人々は中産階級です.2500万人.彼らは2日目の午前6時に目覚め,その日の午後10時まで生活します.
Third
Spaceには,市民citizenではなくdenizen不法占拠民,都市底辺層です.彼らが目覚めるのは2日目の午後10時です.そして3日目の午前6時まで生活します.夜だけの人々です.
そして3日目の午前6時に,富裕層は目覚めて,この循環を繰り返すのです.
彼らは生活時間だけ目覚めているだけで,他の時間を眠るように政府が薬で管理します.こうすることで,スムーズに移動でき,公園を散歩し,病院で診察を受け,ショッピングをゆっくり楽しめます.もちろん,底辺層の人々が太陽の出ている青空を知らない,そして,望まないのであれば.
The
Economistが紹介する現実の北京は,東京とそっくりです.・・・11月18日の夕刻,倉庫と住宅を兼ねた建物から出火した.そのあたりは北京南部,出稼ぎの人々が住む貧民街である.都市政府は彼らのことを「最下層民」と呼ぶこともある.7歳の子どもを含む,19人の出稼ぎ労働者たちが焼死した.
北京の都市政府は人口の上限を2300万人と決めました.移入民を周辺の都市に向けるだけでなく,北京の底辺住民を強制的に退去させます.出稼ぎ労働者たちの職場を閉鎖し,電気や水道を止め,貧民街の住宅や道路が火災を防ぐ基準を満たさない,として破壊します.ホームレスとなって,極寒の街頭で困窮する人々に,自発的な避難シェルターを提供する慈善活動も禁止しました.
現実の北京で暮らす,いわゆるSecond
Spaceの中産階級にも,さまざまなスキャンダルが襲っています.・・・高額の幼稚園に通う子供たちに針で刺された跡がみつかった.幼児たちが薬を飲まされ,裸にされて性的に虐待された.幼児にカラシや殺菌剤を飲ませた.昼寝を拒む子どもの尻に青インクを注射した.
だから,都市を「折り畳む」ことは,不平等やストレスを抑制し,都市の公共財を有効に利用し,たとえ超富裕層であっても,都市に住む限りは人生の半分を失うという分担に従う,過剰都市化の現実に対する「理想的」な社会管理システムなのです.
まるで異なる惑星のように,小説でも現実でも,異なる階層の人々は隔絶した形で生活しています.しかし小説の主人公は,うっかり,異なる空間に足を踏み入れてしまいます.娘をダンス教室に通わせるため,追加の収入を得たかったからです.現実の北京でも,人々はWeChatにおいて,さまざまな意見や批判を表明しています.それは政府による検閲システムによって直ちに消去されても,次々に現れるのです.
The
Economistは,北京でも,ロンドンでも,政府による社会管理を好みません.人々は自由に移住し,市場の需給で決まる公共料金を払うべきだ,と考えます.・・・東エルサレムや「惑星ガザ」の住民たちにも,メリー・クリスマス?
Folding
Beijing
BY
HAO JINGFANG, TRANSLATED BY KEN LIU
https://uncannymagazine.com/article/folding-beijing-2/
"Society:
Life imitates nightmares" The Economist December 2nd 2017
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