IPEの果樹園2017 

今週のReview

12/18-23

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エルサレムをイスラエルの首都に ・・・Brexit交渉の1つの前進 ・・・トランプ減税と戦争 ・・・勢力均衡を恐れるな ・・・金融危機からの回復 ・・・ユーロ圏と政治統合 ・・・日本経済の転換 ・・・金融革命の時代 ・・・超低金利政策

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 エルサレムをイスラエルの首都に

NYT DEC. 7, 2017

Trump Is Making a Huge Mistake on Jerusalem

By HANAN ASHRAWI

イスラエルが1967年の第3次中東戦争で東エルサレムを軍事的に占領して以来、アメリカと国際社会は、イスラエルが境界を非合法に拡大し、併合して、ヨルダン川西岸から切り離すために、その外周においてパレスチナ人の土地へ入植者の住宅を建てる行為を拒否してきた。水曜日のトランプの発表は、イスラエルの違法行為を合法化するものだ。そのメッセージは、アメリカがもはやいかなる国際合意や規範にも従わない、力や強制が正義や法律よりも勝る、ということだ。

The Guardian, Saturday 9 December 2017

Jared Kushner is wreaking havoc in the Middle East

Moustafa Bayoumi

パレスチナからイエメンまで、中東全体がこの1週間で炎に包まれたようだ。すでに分裂していた地域だが、最近お出来事はそれを悪化させた。このカオスが生まれるのにJared Kushnerが果たした役割は何か?

彼は大統領の特別顧問として、中東全体を創り変えることを決意したように見える。新しく親友となったサウジアラビアの、32歳、サルマンMohammed bin Salman皇太子とともに、混乱を広めつつある。サルマンが前代未聞の宮廷クーデタを始める数日前に、クシュナーは未発表のリヤド訪問を行っていた。2人がどのような相談をしたか、われわれにはわからないが、トランプはTweetで、サルマンを「大いに信頼」している、と書いた。

クシュナー=サルマン同盟はリヤドの政変だけにとどまらない。その新しい「和平」取り決めは、パレスチナ人やアラブの指導者たちにとって、これまでになくイスラエルに偏ったものである。「パレスチナには見せかけの国家だけで、占領地は切り離されたセグメントのまま支配され、東エルサレムは首都ではなく、パレスチナ難民には帰還する権利がない。」

イエメンは人道的な破滅の瀬戸際にある。その主要な理由は、サウジアラビアが封鎖しているからだ。サウジアラビアとアラブ首長国連邦は、ますます自由にイエメンを攻撃するだろう、と言われている。トランプとその義理の息子が同意したから、と。それはまた、ティラーソン国務長官をイライラさせる。国務省では中東に関する責任者がどれも空席のままだ。さまざまな悪い事態が予想されるのに、だれも政権に発言できない。ホワイトハウスは中東外交に関して決定権を独占し、国務省を完全に消去した。

イランを孤立させる情念において、クシュナーとサルマンは一致し、彼らの周りには破壊が口を開ける。中東の住民を犠牲にして、専制君主との同盟を優先することが、アメリカ外交の歴史であった。

ますます少数者の手に権力が集中されていく。密室で語られる彼らのアイデアはすでに破滅でしかないのに、だれがそれを伝えるのか?

FT December 11, 2017

President Trump has a chance to bring peace to the Middle East

Ghanem Nuseibeh

エルサレムは、繰り返し、戦争する集団がその国をより大きな地域紛争に引き込むために攻撃目標となってきた。イラクの元大統領サダム・フセインが、1990年代の初めに、第1次湾岸戦争でエルサレムをロケットで攻撃した。

トランプの決定がフセインよりも効果的に、エルサレムの未来を変えるかどうか、歴史が明らかにするだろう。エルサレムをイスラエルの首都と認定することは、彼が中東和平に失敗した過去の大統領たちと同じ列に加わったように見える。

エルサレムは、何よりも、その人々に帰属するのであり、アラブ人、ユダヤ人、すべてのものだ。私は都市の最も古いアラブ家族の一員である。十仁軍によって89年間の中断された時期を除けば、私たちは1400年以上もここに住んできた。いくつもの帝国が現れては消えたが、エルサレムが人々に対して持つ神聖さは、その宗教やエスニシティーに関係なく、強まり続けた。

今、トランプは、平和の指導者となる、改善に向かう特異な機会を得た。排除は宗派闘争と流血をもたらす。エルサレムをイスラエルの首都としてだけ認めることは、キリスト教徒やイスラム教徒の歴史を排除するものだ。

彼の任務は単純だ。エルサレムをパレスチナの首都としても認めるのだ。トランプは、エルサレムを平和の都市として、ユダヤ人だけでなく、キリスト教徒やイスラム教徒にとっても平和の都市にできるだろう。


 Brexit交渉の1つの前進

FT December 8, 2017

The Brexit monomania built on blind faith

TIM HARFORD

イギリスの政界におけるエスタブリシュメントがクリスマス休暇に読む本としては、William Goldingの『尖塔』The Spireがおすすめだ。

400フィートの尖塔を建てることに執着した男Dean Jocelinを描く小説だ。彼は、高い尖塔を建てようとするが、それは土地の状態や嵐の恐れから断念すべきだ、と説得されてもあきらめなかった。彼の野心の強さが他の義務を放棄させ、教会やそのコミュニティーの脅威となっていた。彼には何も見えなかった。

イギリスがBrexitについて抱いた熱狂的展望は、Jocelinに従う者たちが彼の意志に見たものだ。昨年の夏、Brexit担当大臣となったDavid Davisは予言した。イギリスは2年以内に「EUよりはるかに大きな」自由貿易圏の交渉ができるだろう、と。17か月が経った。Davisがその当時見たものは、何であれ、現実ではなかった。

証拠を示しても、Jocelinはそれを認めない。彼は専門家たちの声を無視した。「私は助言を退け、信念において尖塔を建てる。それしかない。」

もちろん、純粋な決意が何らかの方法を見出して実現することもある。偏執によって世界は変わった。ときには良い方へ。スティーブ・ジョブズがAppleを始めたころのように。Brexitが最終的に称賛されるものであるかどうか、それは将来の歴史家が決めることだ。

Jocelinの野心は、尖塔を建設する労働者の軍団を必要とした。軍団は無辜の人々を殺戮する。天に向けてJocelinは告げた。「どうぞあなたの思うままに、犠牲を支払います。」

結末で、Jocelinはその地位も尊厳も失う。ついに嵐が来たのだ。現実がそれを確認した。強い圧力を受けて、ビジョンが、夢に執着する者が、尖塔が砕けた。「私は偉大な仕事をしていると思っていた。」と彼は告白する。「しかし私のしたことは破滅をもたらし、憎悪を広めただけだった。」

Brexitは、まだ、砕けていない。


 トランプ減税と戦争

PS Dec 11, 2017

Populist Plutocracy and the Future of America

NOURIEL ROUBINI

ドナルド・トランプがアメリカ大統領になったのは、経済ナショナリズムのポピュリスト的公約に基づき、労働者階級と白人保守派の支持を得たからだ。トランプは、共和党の伝統的な政策、大企業に親密な、自由貿易を推進する政策を拒んで、バーニー・サンダースのような、破壊的な技術と貿易・移民を促す「グローバリスト」政策で傷ついたアメリカ人に呼びかけた。

しかし、トランプはポピュリストとして選挙を戦い、プルートクラット(富裕層による政治支配の信奉者)として統治する。最近では、共和党の執着するサプライサイド理論というまやかしを支持した。ワシントンD.C.やウォール街の汚物を洗い流すと約束したが、政権には億万長者とゴールドマンサックスの出身者が並ぶ。大企業のロビイストたちは今までにないほど繁栄している。

トランプは、生産拠点を海外に移す企業や、課税逃れをする企業に対して、攻撃するTweetをしたが、それは見せかけに過ぎないことを経営者たちは知った。メキシコや中国などへ、製造業の工場移転は続いている。同様に、移民を激しく攻撃したが、実際の移民政策は穏当なものである。トランプの選挙戦を支援した経営者たちの多くが、より穏健なアプローチを好むからだ。

トランプは、皆が言うように、ポピュリストの衣装を着たプルートクラットだ。しかし、なぜ彼の支持基盤は自分たちを傷つけるような政策を採る彼を支持し続けるのか? 彼らは、非常に保守的な人々、ナショナリスト、宗教的信念の強い、沿岸部のエリートを憎む白人の肉体労働者たちなのか?

「パンとバター」を棄てて「神と銃」を支持する、と、どれほど長く期待できるのか? ローマ帝国のプルートクラットたちは、ポピュリストの群衆を取り込んでおくには「パンとサーカス」が必要なことを知っていた。

共和党があわただしく議会を通過させた減税は、特に危険である。多数の中産階級、低所得者層が、わずかしか得られないだけでなく、時間を経て所得減税が失われると、実際には、より多くを支払うだろうから。さらに、共和党はオバマケアも廃止するつもりだ。

それにもかかわらず、トランプと共和党員たちは、結局、中産階級の増税を先延ばしすることで、2018年の中間選挙、2020年の一般選挙に勝ち、その年の大統領選挙に向けて、2019年に刺激策の効果がピークになると考えて、リスクを取ったのだ。民主党が強い州に不利な形で、また、社会給付を増やすことができないようにする戦略(“starve the beast”)を信じるからだ。

世界経済の拡大が続けば、トランプは少なくとも株価上昇を自慢できる。減税と規制緩和で雇用が増える、と思っているだろう。アメリカの成長率は、専門家たちの推定を無視して、4%に高まると主張する。トランプはフェイク・ニュースを流し、かつてない「最大かつ最高」の経済状態を吹聴する。こうすることで、ローマ帝国のサーカスに代わるものを彼は提供しているのだ。

しかし、そのもやもやした大言壮語だけでは十分でないとき、彼は攻勢に出る、特に国際政治で攻撃的になるだろう。NAFTA離脱、中国への貿易制裁、強烈な移民排斥。さらに最後の選択肢がある。ローマの皇帝たちや他の独裁者たちが、内政の困難さに苦しむとしたことだ。すなわち、外部の脅威を誇張し、外国における軍事的冒険を企てて、支持者たちの関心を、彼と共和党が議会でしていることから逸らすのだ。

北朝鮮やイランとの戦争を始めるかもしれない。イスラム教徒の邪悪さを強調し、怒りを煽って、ISISに多くのテロリストを提供するかもしれない。多数のテロ攻撃が起きることで、彼は「言ったと通りだ」と主張する。事態がさらに悪化すれば、彼は非常事態を宣言し、市民の自由を停止して、アメリカをまさにプルートクラットの支配する権威主義国家に変える。

上院外交委員会の委員長、共和党議員のBob Corkerは、はっきりと警告した。トランプは第3次世界大戦を始めるだろう、と。信じないなら、ロシアとトルコの最近の歴史、ローマ時代のカリギュラやネロの時代を観ることだ。トランプ皇帝の君臨する時代が、すぐそこまで来ている。


 勢力均衡を恐れるな

FP DECEMBER 8, 2017

Who’s Afraid of a Balance of Power?

BY STEPHEN M. WALT

国際関係論の入門で「勢力均衡」という言葉を聞かないとしたら、授業料を返してもらうべきだ。ツキディデス、ホッブズ、古代インドのカウティリヤ、現代のリアリストたちE.H. Carr, Hans J. Morgenthau, Robert Gilpin, and Kenneth Waltzが書いている。

しかし、アメリカの外交エリートたちはしばしばそれを忘れてきた。その代わりに、ロシアや中国に関して、権威主義体制や反アメリカ主義のような、イデオロギー的連帯を強調する。

勢力均衡のロジックは単純だ。他国の侵略から自国を守ってくれる世界政府はなく、国家は自分の資源と戦略で危険を避けねばならない。強力な敵対する国家が現れた場合、より多くの資源を求め、同じ危険に直面する他国との同盟を模索する。

バランスのための同盟化の相手には、かつての敵国や、将来において敵になると思う国も含まれる。チャーチルはこのロジックを完璧に理解していた。「もしヒトラーが地獄を責めるなら、私は議会で悪魔たちについて好意的な発言をするだろう。」

アメリカ外交の担当者や評論家は、しばしば、勢力均衡のロジックが同盟国や敵国をどのような行動に向かわせるか、正しく理解していない。そして、その外的環境(直面する脅威)より、内的な性格(指導者の性格、政治経済体制、支配的イデオロギー、など)を重視する。それはいくつかの仕方で間違いを生んだ。

1.既存の同盟関係の結束や持続性を誇張する。NATOがそうだ。「共有された価値観」は、大西洋を超えて30もの国を同盟化するには不十分だ。トルコ、ハンガリー、ポーランドはリベラルな諸価値を放棄した。

2.他国が自分たちに敵対する同盟を組むたびに驚き、困惑する。ジョージ・W・ブッシュ政権が、フランス、ドイツ、ロシアが連携してアメリカの求めるイラク侵攻の安保理決議に反対したとき、驚愕したように。しかし、彼らはサダム・フセインを打倒することがもたらす危険を正しく理解していた。

3.敵を実際以上に団結しているとみなす。世界中のすべての共産主義者がクレムリンの忠実な手先であると考えたり、中国とソ連との間にある反目を見逃したりした。イラン、イラク、北朝鮮を合わせて「悪の枢軸」と呼んだり、イスラム過激派のさまざまな運動を「イスラモ・ファシズム」として同一の行動原理に従っていると考えたりした。

4.アメリカの主要な地政学的優位を消耗している。西半球で唯一の大国として、アメリカは同盟国の選択や交渉において圧倒的な自由度を持っている。遠隔の地でも、諸国や非国家アクターを競わせ、アメリカの支持を与えたり、奪ったりできる。アメリカと敵対する諸国の対立を促すことができる。そのためには、外交の柔軟性、諸地域の事情に関する高度な理解、他国との「特別な関係」を避ける、異なった性格の諸国を過剰に敵視しない、ということが重要だ。

残念ながら、アメリカは過去数十年間、それと全く反対のことをしてきた。


 金融危機からの回復

NYT DEC. 13, 2017

The Global Economy Is Partying Like It’s 2008

By DESMOND LACHMAN

いわゆる大後退Great Recessionは、2008年後半に始まって、2009年半ばまで続いたが、高騰していた住宅価格や様々な資産価格が暴落した。あとから見れば明らかなことであったが、だれも暴落を予想していなかった。

われわれは同じ間違いを犯しつつあるのか? 明らかに、そうらしい。世界の資産価格は再び急速に上昇している。つまり、バブルだ。10年前よりも広がっている。元FRB議長のグリーンスパンは、世界の主要中央銀行が続けてきた非正統的な極端に緩和した金融政策の下、政府債券はグローバルなバブルを生じており、長期金利が歴史的な低水準となっている、と警告した。その結果、新興市場の企業債務、リスクの高い債務が急増している。

超低金利の時代は終わる。アメリカ連銀はすでに金利を引き上げ始めた。多くの主要新興諸国に断層線が走っている。特に、深刻な公的債務と不安定な銀行システムを抱えるイタリア、政治的混乱と持続不可能な公的債務の増大を続けるブラジル、アメリカを超える住宅債務、信用膨張を示す中国では、それが顕著である。

アメリカのNAFTA離脱や、朝鮮半島の軍事衝突がバブル崩壊のきっかけになるかもしれない。それにもかかわらず、金融担当者たちは2008年のリーマン・ショックから学んだ銀行規制に満足し、安全性を過信している。彼らは、バブルを防ぐには遅すぎるが、ブームと破たんのサイクルが襲ってきたときの対策を用意する時間はある。それはほぼ10年おきに起きた。たとえば、M.フリードマンの「ヘリコプター・マネー」を市民に供給して不況を回避する対策だ。

しかし、世界最大の経済を指導する地位にトランプが就いていることは、アメリカ政府がバブル崩壊に対処する能力を制約するだろう。そのことが一層の異常な金融緩和策に依存する結果となり、再び、次のブームと破たんのサイクルを招来する。


(後半へ続く)