IPEの果樹園2017 

今週のReview

12/11-16

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オーストラリアのヘッジ戦略 ・・・Brexitアイルランド問題 ・・・EU「最適政治圏」 ・・・ポピュリスト政治とビットコイン ・・・WTOの崩壊 ・・・北朝鮮危機の外交 ・・・トランプ減税と紳士同盟 ・・・プーチン後の始まり ・・・グローバリゼーションへの不満

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 オーストラリアのヘッジ戦略

FP NOVEMBER 30, 2017

Australia Is Worried About America’s Ability to Lead

BY ROBERT A. MANNING

インド太平洋圏はその経済ダイナミズム、そして、ルールに依拠した秩序を維持できるのか? 中国の増大する戦略的、地経学的geoeconomicパワーに対抗しながら? 内向きの、信頼できないアメリカとともに?

この太平洋の難問に挑むことが、オーストラリアの新しい外交白書の核心である。

白書は述べる。急激な技術変化の中で、増大するナショナリズム、権威主義的な国家中心の資本主義から示される世界秩序の競合するビジョンが、「対抗する世界」をもたらす。ワシントンがこの地域で果たす不確実な役割を、「世界の指導力を維持するコストについてのアメリカの論争」と婉曲に描く。同時に、中国のことを隠れて指示し、「主要な大国は国際法を無視し、弱めている」と書く。

白書はトランプの「アメリカ・ファースト」がアジアにもたらすであろう結果を正確につかんでいる。アメリカの、経済、安全保障における強い関与がなければ、パワーはより急速に西から東に移動する。これに対して白書が唱えるのは、ダブル・ヘッジ戦略だ。近い考え方の(つまり民主主義)諸国と協力関係を強化し、ルールに依拠した秩序を維持して、中国の行動を牽制する。またアメリカがこの地域に関与し続けるように働きかける、ということだ。こうした協力により、アメリカと中国の両方がもたらす下振れのリスクを抑えたいのだ。

しかし、地域と世界の通商システムに対するトランプの攻撃は、ベトナムにおけるAPEC首脳会合で彼が行った演説に顕著に示された。トランプはTPPを離脱しただけでなく、第2次世界大戦後のアジアの成長を支えた通商レジームを、アメリカに貿易赤字をもたらす不公平なものとしか見ていない。NAFTAと米韓FTAが次の標的である。貿易が「自由かつ公平」であることの基準は、アメリカとの2国間で赤字かどうか、だけである。貯蓄も投資も関係ない、自国で生産した以上に消費しても気にしない。トランプが平坦な競争条件というとき、それは特に、アメリカの貿易赤字のほぼ半分を占める中国を指しており、1930年代の世界を再現する主張である。

トランプは地域的な、また世界的な通商レジームに戦争を仕掛けている。「われわれの手を縛り」「主権を手放すような」「大規模な条約にはもはや参加しない」と、トランプはAPEC首脳たちに述べた。多国間のシステム、特に、その最重要なWTOの紛争処理メカニズムを、主権の名のもとに攻撃する。それに代わってトランプが地域に示すのは2国間条約だ。しかし、インド太平洋圏では、ますます、地域全体に広がる貿易と投資が諸国を深く統合しつつあり、多角的通商レジームに向けて主要な政策は動いている。

トランプの、勝手にやるぞ、というアプローチはアジアを不安にする。ワシントンの姿勢は、北京に地域の秩序構築を委ねるだけである。日本はアメリカ抜きのTPPへ向かい、中国はRCEPを推進する。

他方、安全保障に関しては、白書は、キャンベラとアメリカの同盟関係が戦略の中心である、と強調する。トランプも、皮肉なことだが、オバマの「アジア旋回」が十分な資源を投入しなかった、と批判して、米軍のアジアにおける存在を高めてきた。

白書は明白にヘッジ戦略を採用する。一方では、民主主義的なパートナーとの協力。特に、Japan, India, South Korea, and Indonesiaを挙げる。他方で、国際システムを新興大国の利害に合わせて適応させるべきだ、と考える。すなわち、China, India, Brazil, and Nigeriaである。しかし、中国の略奪的な産業・通商政策と、領土回復主義の外交を観れば、こうした考え方は色あせる。また、アメリカがインド太平洋圏とは逆方向に経済を進めるなら、その防衛政策やアジアでの関与は持続するだろうか?

ミドル・パワーとして、オーストラリアがその運命を支配する力には限界がある。アメリカの支持がなければ、ルールに依拠した秩序のリベラルな性格と有効性は失われるだろう。中国はすでに地域における最大の貿易国であり、一帯一路で大規模なインフラ投資を約束している。

アメリカの指導力を失ったインド太平洋圏は、中国を中心とする地域に変わるのか?


 Brexitアイルランド問題

FT December 1, 2017

Brexit and the Irish contradiction

DAVID ALLEN GREEN

かつてジョセフ・チェンバリンは、アイルランド問題に関して自由党を分割し、その後、通商問題で保守党と統一党を分割した。その現代における後継者たちは、より野心的であるが、センスを欠き、2つの問題を同時に解決しようとしている。

この2つは1920年代までの100年間、イギリスの政党政治を支配する重要問題であった。それらが変化するとき、政党が再編され、新しい政党が生まれたのだ。現在、下院では「ハードBrexit」を支持する議員が少数派だ。政党を越えて多数派は、イギリスを単一市場とEUの関税同盟内にとどめる「ソフトBrexit」を主張している。しかし、与党でも野党でも、その幹部は「ハードBrexit」を推進する。

しかし、アイルランド国境がBrexitの最も困難な問題となっている。国民投票が明確に言及したことは、単一市場や、関税同盟、離脱の起源、依拠する法律ではなく、UKが離脱する、ということだった。すなわち、Brexitはスコットランド、ウェールズ、北アイルランドを含むのだ。

もしUKが離脱すれば、EUとの間に税関や国境検問が復活する。それゆえ、もしアイルランド共和国政府が、アイルランド島にいかなる異なる規制も境界も認めない、と主張すれば、ここに矛盾が生じ、解決は困難だ。たとえ武力衝突が起きると言わないまでも、アイルランド問題がロンドンの政治家たちを1世代にわたって苦しめた問題であったことを思い出すべきだ

しかし、政治家たちは1998年のグッド・フライデー合意以降、アイルランドに関する政治問題は「解決された」かのように振る舞っている。

チェンバリンの亡霊だけは、この政治的混乱を楽しんでいるだろう。

PS Dec 4, 2017

The Brexit Tragicomedy

HAROLD JAMES

Brexitは単なる政治的混乱ではない.これは革命だ.

イギリスの政党政治が再編されたのは,2大政党が誕生した1688年の名誉革命,穀物法をめぐって保守党が分裂した1846年.このとき,地方の農村に依拠した保守党員は反対したが,製造業や,イギリス社会にとって,穀物保護は良くないことだった.そして1920年代,労働党が自由党に代わって,保守党と政権を争うようになった.

再び,そのような時が来たようだ.Brexitをめぐって,保守党も,労働党も,党内が分裂している.っそして,グローバリゼーションをめぐる同様の対立が,ドイツやフランスなど,ヨーロッパ諸国でも起きている.

イギリスの将来には2つのシナリオがある.1つは,ハムレットだ.混乱の末に,イギリスは単一市場や関税同盟から飛び出す.政治的な死者が並び,破滅の部隊ができる.もう1つのシナリオは,良識の支配だ.マクロン型のプラグマティズムがイギリスにも広まる.反EUの「離脱」キャンペーンから政治を切り離す.それはヨーロッパにも生じて,アメリカ,ロシア,トルコに生じた機能不全の歪んだ政治,そして新しくドイツにも生じた不安定性から,政治を切り離すだろう.


 EU「最適政治圏」

PS Dec 4, 2017

Europe’s Crisis Starts at Home

MARK LEONARD

EU内の対立を理由に、統合の深化を推進する者は、より小さなグループでより大きな利益をもたらす方が良い、と考えるかもしれない。

しかし、ヨーロッパの統合に対する脅威は、個々の国の内部にも生じている。ドイツでは、中道右派と中道左派の連立が崩壊した。オランダでは、Mark Rutte首相が連立政権を組むのに208日もかかった。UKでは、政治のエスタブリシュメントがBrexitをめぐって分裂状態だ。ポーランドでは、白人ナショナリストとネオナチがワルシャワの町を行進した。

各国はEUに参加するときリベラルな民主主義の基準(いわゆるコペンハーゲン基準)に合意している。しかし時間が経過する中で、ハンガリーとポーランドの政府は、もはやルールに縛られない、と決意した。1つの解決策は、EUを縮小することだ。しかし、その解決策には大きな問題がある。国家間の分断よりも、国内の社会により大きな分断があることだ。

ブルッキングズ研究所のレポートは、R.マンデルの「最適通貨圏」を援用して、「最適政治圏」という概念を示した。その研究によれば、過去30年間で、EU加盟諸国の間で文化的・制度的な収斂は進んでこなかった。また、国家間の差異は国内の差異よりも小さい、というのだ。つまり、人の異動に関して、UKとポーランドとの差異より、ロンドンとイングランド中部の差異の方が大きい。

社会内部の課題に応えなければ、ヨーロッパの統合プロジェクトは容易に進まない。


 ポピュリスト政治とビットコイン

FT December 2, 2017

Bitcoin is a faith-based financial asset for a populist era

MILES JOHNSON

ビットコインの価格が1000ドルを超えたとき、クリプトカレンシー(暗号通貨・仮想通貨)の支持者は、先週、勝利をTwitterで自慢した。「ウォール・ストリートのトレーダーたちよ。お前たちは何年も学校で金融論の細目を学び、毎週100時間を10年間も、家族にも会わず、今年のリターンが10%であれば異常に興奮しているのだろうが」・・・「ビットコインを愛する私はどうだ。本を読み、Twitterに書き込み、ステーキを食べて、900%のリターンを得た。」

このトローリングを意図したソーシャル・メディアの投稿は、ビットコインの登場を疑念と恐怖で観察してきた専門の金融業者たちと、金融における偶像破壊行為としてクリプトカレンシーを保有する真の信奉者たちとの、相互の侮蔑感情を完璧に示している。

主流の金融界は、ビットコインの人気や行動を理解できなかった。それは彼らが、事実に依拠する理論を、それが全く当てはまらない資産に適用したからだ。ビットコインは、ポピュリスト時代の、信念に基づく金融資産である。

ビットコインの価格は、通常の金融論があつかう何ものにも依拠せず、むしろ過去2年間に政治的ショックを引き起こしたのと同じ力によって上昇した。ポピュリスト政治と同じく、クリプトカレンシーと「信頼を欠くネットワーク」への信念は、伝統的な権威への信頼が崩壊したこと、専門家たちへの侮蔑と一緒に高まってきた。ビットコイン物語への揺るがぬ信仰は、群衆によって生じるインターネット上の権威なのだ。

金融専門家たちが、余りにも顕著なバブルに自分の富を投げ出す人々を理解できなかったのは、政治アナリストたちがUKEU離脱はあり得ないと信じていたことに匹敵する。

世界金融危機は銀行システムの信用を極度に損なった。投資の世界で、専門の投資家や投資アドバイザーが言うことは信頼されなくなった。多くの人々から年金運用を託され、過剰な報酬を得て乏しい成果しか上げなかった投資銀行への批判が強まる中で、インデックス・ファンドのようなパッシブ投資が広まった。

最も献身的な支持者たちは、価格に何が起きてもビットコインを保有し続けるのであり、これまでの価格暴落を生き延びたことを誇りにする。ビットコインの価値と将来を敬虔に支持する姿勢は、信念の問題であり、マニ教的な信仰と懐疑との闘いなのだ。

これから数週間でビットコインの価格がどうなるかに多くの関心が集まっている。しかし、数十年後には、ビットコインがあってもなくても、われわれの時代を創った政治的力の将来を予見するバロメーターであった、とみなされるだろう。


 WTOの崩壊

PS Dec 6, 2017

Whither the Multilateral Trading System?

DANIEL GROS

近頃、自由貿易の支持者は減っているようだ。グローバリゼーションはますます不満を広めている。

60年ほど前は、アメリカが世界で唯一の経済「超大国」であった。疑いなく、主要な先端的工業部門を支配していた。ルールを広めるパワーも、そこから最大の利益を得る支配力も、持っていた。だから「利益をもたらすヘゲモン」の役割を担えたし、実際に担った。

しかし、日本やヨーロッパが第2次世界大戦から復興し、アメリカの指導力は衰えてきた。1970年代、80年代には、世界の通商問題を解決するパワーをヨーロッパと分け合うようになった。それでも両者は多くの共通利益を持ち、協力アプローチを採用した。

アメリカがますます多くの産業で輸入品に圧倒され、巨額の持続する対外赤字を生じて初めて、通商政策が国内産業の保護に向かい、貿易摩擦を生じるようになった。それでもアメリカの指導者たちは、リベラルな多角的通商システムの価値を理解していたから、GATTを引き継ぐWTOの創設を支持した。WTOは関税だけでなく、コック内規制に絡む他の障壁も扱ったので、効果的な紛争処理メカニズムが重要だった。このシステムが機能したのは、主要国が独立パネルの正当性を認めていたからだ。

今やそれが疑わしい。ルールに依拠したシステムを支持する経済のタイプとは何か? それは、第2次世界大戦後のアメリカのように、世界に圧倒的な経済優位を持つ国が1つあるか、すべての国が小国である場合だ。

世界が同じような規模の少数の経済から成るとき、事態は複雑になる。P.クルーグマンが1989年の2国間主義に関する論文で示したことだが、世界が主要な3つの経済から成るとき、貿易にとって事態は最悪である。3者の間に明確な協力がないまま、貿易障壁が増加する。現在の世界がまさにそうだ。中国、EU、アメリカが、それぞれ4兆ドルの貿易額を示し、世界貿易の40%、世界GDP45%を占めている。

原材料は自由であり、農産物は特殊な問題として自由化されない。その結果、アメリカ通商政策の焦点は工業製品の自由化であった。しかし、アメリカがエネルギーで時給を高めている今、世界に工業製品を輸出する必要は、国内にエネルギーを持たない他の工業国に比べて少ない。

アメリカの大企業は海外に生産拠点を多く持っているから、トランプが貿易戦争に向かうことに反対するだろう。しかし、個別企業としては、自由化による損失を耐えたり、他国の企業と利益を分け合ったりすることは望まない。そして3大経済圏も、たとえば、EUが政治資本を費やしてアメリカの保護主義を抑制しても、その利益を受けるのは中国である、ということを知っている。

中国の指導者たちは、あれほど明確にルールに依拠した通商システムを支持しながら、具体的な行動を取っていない。それは、恐らく、今の世代の内にも中国が世界経済を支配するだろう、と考えているからだ。その時点で、もはや他国のルールには縛られない。

中国は、1党支配の国で、経済のすべての領域で共産党がパワーを強めている。そのような体制が、国内利害より、国際的なルールを優先するとは思えない。


 北朝鮮危機と外交

The Guardian, Monday 4 December 2017

Have we got just three months to avert a US attack on North Korea?

Mark Seddon

12000人が参加する米韓合同軍事演習が行われた。初めてアメリカ空軍のF22「ステルス」ラプターが参加した。演習に先立ち、北朝鮮の外務省は、トランプ政権が「核戦争を求めている」と述べ、トランプの安全保障担当顧問HR McMasterは、「北朝鮮はアメリカが即時に対応すべき脅威である」と語った。

先週、ロンドンと下院を訪れた、アメリカの元国連大使で著名なタカ派のボルトンJohn Boltonは、CIA幹部がトランプ大統領に、北朝鮮のICBMを阻止する猶予期間は「3か月」である、と告げたことを伝えた。3月を最終期限とする北朝鮮への予防攻撃は、数日前に、アメリカの司令官からヨーロッパ議会の元議員にも告げられている。ティラーソンから強硬派のポンペオMike Pompeoに、国務長官の交代も推測される。

NYT DEC. 4, 2017

Madeleine Albright: How to Protect the World From North Korea

By MADELEINE ALBRIGHT

オバマが選挙直後に初めて大統領執務室でトランプに会ったとき、北朝鮮DPRKが最も深刻な安全保障に関する課題になるかもしれない、と警告した。その警告は正しかった。

北朝鮮に対するトランプのアプローチは何ら一貫性がない。韓国の指導者を、宥和策だと非難し、自由貿易協定を破棄すると脅した。同様に、クリントン大統領も好戦的な北朝鮮に直面した。私は国連大使として、また国務長官として、政権に参加していた。われわれの焦点は、北朝鮮の核開発を止めることだった。われわれは国連で圧力をかけ、同時に、原子炉への軍事攻撃を含む、他の選択肢を考慮した。

幸い、外交によって軍事衝突は回避された。同盟諸国と緊密に協力して、北朝鮮を含む「枠組み合意」を得たのだ。北朝鮮は原子炉を閉鎖し、再処理されたプルトニウムを含む8000本の燃料棒を取り出し、プルトニウムの生産施設をIAEAの監視下で凍結する。その見返りに、アメリカと同盟諸国は、北朝鮮の燃料不足を解消し、新しく2つの原発を建設するコストを支払う。

しかし、「枠組み合意」は完全ではなかったし、双方とも実施が不十分であった。ブッシュ政権の誕生で、アメリカ政府は交渉を続けるより、対決する戦略を選択した。2003年までに「枠組み合意」は崩壊し、2006年、北朝鮮が最初の核実験を行ったのだ。

私が政権を去るとき、朝鮮半島には多くの可能な方向性がある、と思った。根本的には、北朝鮮指導部が、核兵器なしには生き残れない、と確信していることが問題だ。今、安定化のために北朝鮮に求める合意も、われわれが試みたものと大きく異ならないだろう。外交圧力、軍事的抑止、韓国・日本との緊密な協力、直接対話への呼びかけ、それを北朝鮮への報酬とみなさず、われわれの安全保障に必要であると理解することだ。


 トランプ減税と紳士同盟

Bloomberg 2017125

Trump's Economic Revolution Is All About Investment

By Tyler Cowen

トランプの経済革命の核心は、通商政策ではなく、投資にある。トランプ主義者の望みと共和党の願いが重なる部分を観れば、それはこうだ。アメリカを新しい、支配的な、投資の中心地にしたい。他国を犠牲にしても。

共和党は法人税率を20%に引き下げることに固執する。これはおそらく外国投資を大量に引き寄せる。もしフラッキングがアメリカを次のサウジアラビアにするとしたら、減税はアメリカを次のアイルランドにする。しかも、はるかに大きな規模だ。その前提には、より多くの投資がもたらす利益は、多くのアメリカ人に直接税が増えることを相殺する、という信念がある。

それは新しいサプライサイド経済学だ。1980年代のそれは、主に個人に焦点を当てていた。減税が個人や企業のパワーを解放し、労働や投資は増える、と。今の理論は企業集団に注目する。

減税案と通商政策とはその基礎にある哲学が同じである。大統領が最初にしたことの1つは、TPPからの離脱であった。ナショナリストから見れば、TPPは通商政策ではなく、ベトナム、マレーシア、その他の新興経済に、多国籍企業が投資することを安定的に承認するものである。アメリカから多くの投資が失われる。

政策の核心は、通商ではなく投資である。国際経済学の視点では、アメリカに向けた投資が増えれば、貿易赤字が増えるだろう。それはトランプの選挙公約に反する。

トランプ政権はすぐに中国に対する不満を強めるだろう。しかし、重要なことは、アメリカが中国からの投資をどこまで受け入れるか、である。アメリカの投資は長期的に減少しており、投資の促進は新産業、技術革新、賃金を高めて、最終的に税収を増やす。アジアの貯蓄過剰が消滅する過程で、外国投資を引き寄せることはむつかしくなる。

私はまだ、相互の優位を生かすグローバルな通商秩序を築く戦後の計画を信じている。アメリカは多くの国に利益をもたらし、アメリカも互恵的に利益を得た。しかし、トランプ政権はそうしたアプローチから離れていく。しかし、細部は不明であっても、これがトランプのもたらす経済政策の革命だ。

PS Dec 5, 2017

Trump’s Willing Accomplices

IAN BURUMA

1933220日、ベルリンにおいて、ゲーリングHermann Göringの豪邸で開催された秘密会議に、20人を超えるドイツ産業の指導者たちGustav Krupp, Friedrich Flick, and Fritz von Opelが参加した。彼らはヒトラーの演説を聴いた。ヒトラーは、彼らの資産は安全だ、と約束し、その結果、ナチ党は200億ライヒスマルク以上の資金を得た。それは当面の選挙資金を十分に賄う莫大な額であった。

彼らのほとんどだれも、ナチスを信奉していなかった。彼らは保守的な紳士同盟the German Herrenklub (Gentlemen’s Club)のメンバーであったが、国家社会主義者ではなかった。しかし、狭隘な私的利益に従い、ヒトラーの擁護者となった。

そうすることで、彼らは、大量殺戮や、採取的に時刻を滅ぼした、犯罪体制の共犯者になったのだ。彼らの企業は奴隷労働から大きな利益を得た。トーマス・マンは紳士同盟を「時代の方向を決めた」と非難したが、彼らは戦後も、わずかな禁固刑だけで、昇進を妨げられなかった。

ドナルド・トランプ大統領はナチの独裁者ではない。しかし、民主主義を脅かし、自由な報道や司法の独立性を攻撃する。ネオナチを含む、群衆の暴力を称賛している。多くの共和党指導者たちはトランプと協力し、億万長者たちも彼に選挙資金を与えた。少数の政治家を除いて、だれもトランプを支持していないが、その理由はドイツ紳士同盟と同じだ。狭隘な私的利益、自分が権力にとどまること、支援者たちに大きな利益をもたらすことだ。

その最たる例が、最近、上院を通過した税制法案だ。貧困層や社会的に弱い立場の者を犠牲にして、大企業と富裕層に利益をもたらす。党派性のない議会予算局によれば、アメリカの財政的な健全さを損ない、2027年までに12140億ドルの赤字をもたらす。

短期的に、富裕層や企業は利益を受けるだろう。まだしばらく株価は高騰を続けそうだ。しかし長期的に、財政赤字は膨張し、国際的な通商協定は破棄され、重要なインフラ・教育・医療に十分な投資を行わないことで、事態は悪化するだろう。


 プーチン後の始まり

Bloomberg 2017127

Russia Takes a Step Toward the Post-Putin Era

By Leonid Bershidsky

2012-18年、プーチンはアメリカやヨーロッパ諸国と協力する見せかけをすべて捨てた。パックス・アメリカーナは終わる、と世界に向けて広言した。その一方で、地政学に達成したものが、彼の国であるロシアにとって維持できないことを無視した。ロシアは、プーチンが代表することも、ましてや運営することもできない、膨大な、今なお貧しい、ますます冷笑的で、潜在的な怒りに満ちた国民を抱えている。

プーチンの技量は地政学で発揮されたが、自国においては、ますます不在地主のような存在になった。クレムリンの政治工作を担当したGleb Pavlovskyは、その感覚をラジオのインタビューで語っている。「世界にとってはプーチンのロシアであるが、国内では、もはやプーチンの国ではない。プーチン後の時代は始まっている。・・・プーチンはもはや事態の周辺を歩き回るだけだ。」


 グローバリゼーションへの不満

PS Dec 5, 2017

The Globalization of Our Discontent

JOSEPH E. STIGLITZ

グローバリゼーションへの不満は、発展途上諸国だけでなく、アメリカや先進諸国のポピュリズムにも示されている。

発展途上諸国の人々から見たら、トランプの不満はお笑い草である。基本的に、アメリカがグローバリゼーションのルールを決め、制度を創ったのだ。私の経験からも、アメリカが交渉で望むものをほとんど得たことは明らかである。しかし、問題はその望むものである。彼らの要求項目は、密室において、大企業が決めている。それは巨大な多国籍企業のために、彼らが書いた要求であり、どこでも労働者や市民はその犠牲になるのだ。

しばしば、賃金低下や職場の消滅に苦しむ労働者たちは、経済進歩にともなう、無実ながら不可避な犠牲者のように見える。しかし、異なる解釈もある。グローバリゼーションの目的の1つは、労働者たちの交渉力を奪い、企業が安価な労働力を得ることなのだ。

グローバリゼーションへの不満には3つの対応があるだろう。第1に、ラスベガス戦略。過去4半世紀のグローバリゼーションを2倍に強める。たとえば、トリクル・ダウン経済学のような、失敗した政策が将来は成功する、と信じて。第2は、トランプ主義。失われた世界を取り戻すために世界から自分を切り離す。しかし、先進的な製造業が復活しても、雇用は回復しない。より少ない労働者しか必要としないからだ。

3は、保護主義に頼らない社会的な保護である。北欧の小国が採用しているものだ。彼らは、小国が市場を開放しておく必要があると知っている。しかし、それは労働者たちに大きなリスクとなる。高度に民主的な社会である北欧諸国は、労働者たちがグローバリゼーションを利益とみなさなければ、それを維持できないことも知っている。また富裕層も、グローバリゼーションが成功するなら、十分な利益がめぐってくることを知っている。

だから彼らは、労働者たちが新しい職場に移ることを支援する、という社会契約を結んだ。

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The Economist November 25th 2017

The case for taxing death

The splintering of German politics: Deadlock in Berlin

Marriage: A more perfect union

Coal in Australia: Pier pressure

Tying Hong Kong to the mainland: Signal failure

Marriage: A looser knot

Sustainable investing: Generation SRI

Ethical investing and passive funds: Thin end of the wedge

(コメント) 課税や投資の合理性が,死や結婚,持続可能性,倫理的な動機といっしょに議論されていることに注目します.それは,オーストラリアや香港についても,やはり,捉えがたい社会政治問題と経済的なロジックとが交差しているのです.

正直,ここで議論されている諸問題が,市場メカニズムや資本の論理から観て,他の商品や資本市場と両立可能なものか,あるいは,もしかしたら新しい時代を示しているのか,私にはわからない,と白状します.結婚の在り方が世界中で変化しているように,投資や,資本をキー概念として市場を動かす時代も,いつの間にか大きく変化するのかもしれません.

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IPEの想像力 12/11/17

こころの時代「紛争の地から声を届けて」で,ハアレツ新聞記者,アミラ・ハスのことを知りました.そこでは,在日朝鮮人作家の徐京植が話し相手でした.

彼女は,ガザ地区やヨルダン川西岸で,パレスチナ人たちと一緒に暮らしています.彼女から見ると,イスラエルでも,これらの地区でも,2つの民族がともに住む社会なのです.その意味では,どちらも同じです.しかし,2つの民族の間に,大きな差別があります.それは,水道管の太さが違うことでわかる,と彼女は東大の教室で語っていました.アパルトヘイトなのだ,と.

2国家案を最終解決と見なすオスロ合意は,彼女から見ると,間違いでした.彼女は,新自由主義も批判します.解決策は,国家が与えるものでも,市場に見出すものでもなく,社会が「平等」であることから実現し始めるものだ.彼女はそんな風に言いたいのかな,と思いました.

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アミラ・ハスの母はスペイン出身のユダヤ人でした.ユーゴスラビアに住んでいたそうです.彼女には共産主義の理想があり,それを共有する仲間がいました.さまざまな集団が,その時代の,集団的生活に関する理想を持っています.「共産主義」という言葉ではなく,共有された理想の社会を意識することが,おそらく,現実の困難を克服する鍵でした.

彼女は,わずかな紙を見つけて,収容所で日記を書きました.誰かに思いを伝える,記録を残すことで,絶滅される人々の生きたことを知る者がきっといる,と思ったのか.親や兄弟を失った子供たちが多くいたそうです.子供たちのために彼女は学校を開きました.あるいは,何も入っていない,水のようなスープでも,その配給を平等にするようストライキをした,と言います.それは命がけの行動であったはずです.

彼女は奇跡的に生還しました.戦争が終わったからです.しかし,彼女の帰るべき「国」はなかった,と言います.多くの人々はすでに死んで(gone)いました.ユダヤ人のコミュニティーも,共産党の仲間も,もはやいなかったのです.彼女は「空虚さ」に苦しみました.「空虚さ」から逃れ,押し出されたのだ,とアミラ・ハスは彼女の心を語りました.

イスラエルに来て,共産党の活動で父と知り合って結婚し,すぐに2人は政府に反対しました.ベングリオンに反対し,占領に反対し,レバノン侵攻に反対しました.母は死にたかったのだと思う,とハスは述べています.悪しき現実の世界から,多くの仲間が去った(gone)後でした.

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日本に来たアミラ・ハスは,記者として,福島、広島、沖縄を取材しました.

福島では,非常に詳しい説明を受けた.彼らは私に,原発事故を必ずコントロールできる,ということを示したかったのだと思う.しかし私は,原子力エネルギーが大きな賭けであると感じた.人類がこうした賭けに依存することは間違っている,とハスは考えます.

“People” という言葉を,民族や国境を超えて,彼女は感じます.

彼女の父は,レバノンに向かうイスラエル軍の飛行機が爆音を残して飛び去ることに,身をよじって苦しみました.自分たちが苦しんだ同じ苦しみに反対する.その姿が,沖縄で米軍基地に反対する老人たちと共通します.沖縄からB52が飛び立って、ベトナムに爆弾を降らすことが耐えられない.沖縄が受けた苦しみを思い出す.

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再び,エルサレムでは抗議デモが起き、ガザ地区から発射されたミサイルに対してイスラエル空軍が「報復」のために爆撃しました.

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