IPEの果樹園2017 

今週のReview

12/4-9

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ヨーロッパのアイデンティティ ・・・中国と国際秩序 ・・・トランプ税制改革 ・・・技術革新のエコシステム ・・・プーチンによる平和 ・・・北朝鮮の核抑止 ・・・Brexitの妄想 ・・・ドイツの政権交渉 ・・・国歌をめぐる論争 ・・・株価上昇の3つの理由 ・・・トランプ政権の外交 ・・・ハリス王子とマークルの婚約 ・・・反グローバリゼーション ・・・ビットコイン ・・・ジンバブエの政変と成長

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 トランプ税制改革

PS Nov 24, 2017

America’s Supply-Side Scam

STEPHEN S. ROACH

ワシントンでは税制改革の仮面舞踏会が繰り広げられている。支持する意見は政治的なものだ。共和党の大統領と共和党が多数を占める議会であること。しかし、その結果は究極において経済的なものだ。

ドナルド・トランプ大統領は議論を指導する。減税は「アメリカを再び偉大にする」ために欠かせない、と。過剰な税負担と詐欺的な通商条約のせいで、アメリカは苦しんでいる。競争力を回復するために減税するべきだ、と。

この改革案の焦点は、政治的に唱えられた中産階級の家族を助けること、ではなく、アメリカ企業である。しかし実際は、アメリカ企業の多くは22%の法人税しか支払わず、それは第2次世界大戦後の歴史において低い税率である。アメリカ企業の競争力は、the World Economic Forumの評価で世界第2位に復活している。株式市場からも豊富な資金を得ている。

しかし、こうした事実を忘れて、共和党員たちは主張する。企業の税負担を軽減せよ。すべての病気はそれで治る、と。

経済論が政治化されるときは危険である。政党に偏らない予算局の予測によれば、減税は10年間で14000億ドルの赤字になるだろう。問題は、アメリカの貯蓄不足が今や危険領域に入ったことだ。1964年のいわゆるケネディー減税、1981年のレーガン減税のとき、国内貯蓄率は平均で10.1%であった。今や、わずか1.8%である。

貯蓄不足の経済では、要するに、海外から余剰貯蓄を借り入れることなしには、赤字支出ができない。だから国際収支や貿易赤字問題が、直接、財政政策に関係してくる。注目すべきは、1964年、1981年の大幅減税のとき、アメリカの経常収支が少し黒字であったことだ。対照的に、今ではGDP2.6%に達する赤字がある。赤字財政が貯蓄率をマイナスにするだろうから、経常赤字がさらに増大する大きな危険がある。これはトランプ経済学Trumponomicsの破たんである。アメリカを偉大にするには、経常赤字は減るべきなのだ。

この点で、架空の話が入る。トランプと共和党員たちは、減税がそれ自体で歳入不足を埋める、と主張するのだ。なぜなら、成長を加速するから、と。レーガン減税のときに現れた、いわゆるサプライサイドの主張である。現実はそうならなかった。確かに、経済は深い不況から脱して劇的に回復したが、それは2桁インフレを退治した後、積極的に金融緩和したからだ。対照的に、サプライサイダーが約束した財政の至福状態は決して実現しなかった。1980年代の予算赤字はGDP3.5%となり、公的債務のGDP比は198025%から199041%に上昇した。

それだけでなく、サプライサイダーの議論が間違っていたのは、これがアメリカの国際収支の均衡を終わらせた始点となったことだ。1960年から1982年まで、経常収支は基本的に均衡していた。平均してGDP0.2%の黒字であった。レーガノミクスの予算赤字で国内貯蓄が落ち込み、経常収支赤字が急速に膨張して、1983-1989年の平均で、GDP-2.4%になったのだ。

ジョージ・HW・ブッシュは1980年の共和党大統領候補予備選挙で、対立候補のレーガンを「ブードゥー(呪術)経済政策」と批判した。今や、将来に関する無謀な予測に既視感を覚える。

PS Nov 24, 2017

Reagan’s Tax Reforms Revisited

JEFFREY FRANKEL

レーガンの時代には2つの大幅減税が行われた。1981年と1986年の減税だが、それらはすべての点で大きく異なっていた。

1981年減税は、法人税も個人所得税も含めて、真の税制改革ではなく、財政的な無責任さに突進した、お粗末な熱狂であった。1986年減税は、長期の、慎重な、超党派の審議を経て、所得の限界税率を下げ、特に企業の側の控除を減らすことで、歳入に中立的な、よく考えられたものだった。

1986年の税制改革を見習うべきだが、現在、共和党員たちが進めている減税案は、避けるべき1981年のモデルに近い。

責任ある税制改革には、難しい選択がともなう。それが成功するには、犠牲を分かち合う精神がなければならない。ところが共和党の案には、慎重な考慮も、明敏な妥協もなく、何のコストもないまま減税できる、というふりをするだけだ。

まともな指摘がないわけではない。もしさまざまな抜け穴をふさぐなら、法人税の引き下げは良いことだ。また、1986年のレーガン減税では、企業よりも労働者家族が重視されていた。しかし、現在、こうした慎重さはなく、むしろ逆転している。企業は減税を享受し、75000ドル以下の家族では増税になるだろう。

より長期的な結果も懸念される。1つは、景気循環だ。1981年の減税は1981-82年の景気後退期に適当な短期的刺激策として行われた。今は逆である。失業率は4.1%で、刺激策は必要ない。さらに、ベビーブーム世代が引退しつつある。11万人が引退し、医療保険や年金の支払いが急速に増えていく。

アメリカ政府が国民に負う債務額はGDP76%に達する。レーガンが就任したときの25%、ジョージ・HW・ブッシュが退任したときの46%と比べてみるべきだ。政府債務の総額は、連銀の保有額を含めて、GDP104%に及ぶ。こんな状況で債務を増やすべきではない。

PS Nov 27, 2017

Cutting US Corporate Tax Is Worth the Cost

MARTIN FELDSTEIN

私は赤字予算が嫌いだし、そのマイナス効果について長く批判してきた。しかし、法人税減税のもたらす経済的利益は、債務増大のマイナス効果を上回るだろう。

法人税を引き下げれば、アメリカの企業部門に資本が集まる。海外の低い税率を好んで投資している企業が、国内により多く投資するだろう。利潤の本国送金も増える。これは生産性や実質賃金を高める。

財政赤字に関わる反対理由は、いずれも当てはまらない。政府債務の増大が民間投資から資金を奪う、高金利になる、社会投資や防衛費を奪う、完全雇用の経済に不要な刺激策となる、債務水準が高まって緊急の支出能力を損なう。

財政赤字による刺激策や法人税減税による投資増大は、2つの理由で歓迎される。1.連銀が金利を引き上げると予想され、量的拡大を終える。29年間の経済拡大の後、この先、5年の間に景気は悪化し始める。また、公的債務のGDP比上昇の影響は誇張されている。

NYT NOV. 27, 2017

The Biggest Tax Scam in History

Paul Krugman

最初はさまざまな減税を組み合わせて中産介入にも恩恵があるように見える.しかし,数年経つとそうではなくなる.

財政的に無責任だ,という批判をかわし,富裕層にだけ有利だ,という攻撃にも耐えられるような政治的工夫がなされている.政治的な必要だけで,それには何の合理的な理由もない.


 プーチンによる平和

FT November 29, 2017

Vladimir Putin won the Syria war, but can he keep the peace?

ROULA KHALAF

プーチンは,その目的の多くを達成した,と主張する.ISISを敗退させ,アサド政権に対する反抗を鎮圧し,地中海に面したロシア軍の拠点を強化した.彼はまた中東の地図を塗り替えた.中東では,彼のシリア政策に反対する者で,その話に耳を傾ける.

問題は,彼が再介入をすることなく,シリアから撤退できるのか,である.プーチンが西側を非難したように,軍事介入によってカオスを拡大しただけだ,と言われることなく,秩序が広まるのを確実に保証できるのか?

これは,プーチンによる平和,ではない.政治的解決策はまだはるかに遠い.反政府勢力は,もはやアサドの退陣を要求しないだろう.しかし和解はなく,廃墟に建つ国家,死者と飢餓に苦しむ社会だけである.

もっともありそうな結果は,ロシアが得意とする戦略,紛争の凍結だ.ソチでプーチンがアサドとあったとき,トルコとイランの大統領も参加した.これら3国が合意したのは,紛争を沈静化させるゾーンの確定だ.それは,事実上,すでに進んでいるソフトなシリア分割である.

シーア派民兵集団(イラン)と体制派の軍隊,トルコ軍,クルド人民兵集団,反政府集団が占領地域を管理している.南部ではヨルダンもゾーンを管理している.

分割という言葉を,外交官たちは決して口にしなかった.もしシリアが解体されるなら,同じような状態のイラクやレバノンも解体するだろう.それはタブーである.

しかし,現実にはソフトな分割が固まりつつある.たとえプーチンがシリアに国家を再建したと主張して,西側に説教するころには,その国家はもはや存在しないだろう.


 北朝鮮の核抑止

FP NOVEMBER 28, 2017

China Should Send 30,000 Troops Into North Korea

BY ALTON FRYE

北朝鮮の核武装を止めるすべての選択肢が失敗した。朝鮮半島の非核化を宣言したが失敗し、国連の安保理決議も失敗し、制裁の強化も失敗した。金正恩を侮辱することは強硬姿勢を煽っただけだ。

他の選択肢はないのか? 冷戦の歴史を観れば、その基本要素は戦略的保障の確立であった。それは他の諸国の核武装を抑えてきた。ドイツ、日本、韓国は、北朝鮮よりも、はるかに核武装する能力があった。彼らが核武装を選択しなかったのは、多くの要因によるが、アメリカとの軍事同盟によって安全保障を確保し、同時に、それが領土内の米軍基地によって確認されていたからだ。同盟国への確認は、敵を抑止する上で、この上なく重要だ。

ピョンヤンは、アメリカと韓国が金正恩の体制を転覆しようとしている、と恐れる。

長年、交渉の鍵は中国が握っている、と言われてきた。中国は北朝鮮の主要貿易相手であり、安全保障の支持を与えてきたからだ。それを交渉のテコにすることを中国政府は嫌った。しかし、朝鮮半島が核武装することは、明らかに中国の利益にならないから、次第に、北朝鮮に対する多角的な圧力の強化に関与するようになった。それがどこまで強化できるか、は疑わしい。

今、異なる視点で問題をとらえるべきだ。中国は、アメリカが韓国に安全保障の確認を与えるように、北朝鮮に約束してはどうか? 北の若い独裁者は、中国が払った犠牲の大きさを理解していない。その犠牲の大きさが北朝鮮を守る保証となっていた。米軍が韓国に駐留するのと同じ規模で、中国軍3万人が北に駐留するなら、安全保障への関与を確立できるだろう。

ピョンヤンは、この確認を歓迎しないかもしれない。中国の支持は欠かせないが、同時に、それに依存することを恐れるのだ。

中国は、朝鮮半島で戦った後、軍を撤退させた。ソ連は中国と異なり、領土や軍の駐留で東欧諸国の政府を拘束した。中国軍の駐留による安全保障の確認は、ピョンヤンをアメリカの攻撃に関する不安から解放する。そして核兵器やミサイル開発の正当化も、その根拠を失うだろう。制裁の緩和や政治的孤立の解消を求めて、金正恩は交渉に応じるかもしれない。

中国はこうしたアプローチを好まないだろう。しかし、状況は変化した。核兵器の拡散を抑えるために、また次の戦争のリスクを抑えるために、最小限の軍事力を朝鮮半島に置くことも考慮するはずだ。北朝鮮はこうした提案を歓迎しないだろう。それは、韓国が米軍の駐留を嫌うのと同じだ。中国軍の駐留を、安定化の枠組みではなく、体制転換の準備とみなすかもしれない。

しかし、たとえ好まないとしても、中国軍も参加した朝鮮半島の安全保障に関する確認が、戦争を回避するため、すべての関係諸国に欠かせない条件であるとわかるだろう。


 ドイツの政権交渉

FT November 25, 2017

Twelve years of Angela Merkel’s leadership style is enough

URSULA WEIDENFELD

これまで12年間、ドイツでは4年おきに選挙があり、メルケルのキリスト教民主同盟が勝利し、過半数を得るために社会民主党SPDと連立政権を組んだ。メルケルへの国民の高い支持とドイツの内外におけるパワーにより、連立相手の政党は苦しんだ。

これが、いわゆる、メルケル主義である。選挙によって勝利できなくても、連立政権交渉でトップを占め、議会を軽視した大統領的な役割を果たす。メルケルは西側の価値のシンボルであり、ドイツの経済的繁栄と国際的な地位上昇を担う存在であった。予測不能な世界での安全な港、利害の分散する政治を仲介する正直な仲介者とみなされていた。

しかし、メルケル主義はドイツに有害でもあった。ドイツの民主主義や政党を弱め、有権者たちの多くが政治的な左右の過激主義に流れた。SPDの得票は、歴史的な低水準にとどまった。

メルケルは大連立を組めるかもしれない。また、少数政権となるかもしれない。いずれにせよメルケルは新しい現実を受け入れる。連立交渉の破たんで彼女の権威は失われた。

ベルリンには苦渋と不信が満ちている。他者に妥協を求め、少数の側近だけで決める彼女の政治スタイルは維持できない。議会の重要性が回復するだろう。

それはドイツの民主主義にとって良いことだ。しかし、EU改革に意欲を示すフランスなど、他のヨーロッパ諸国には、内向きになるドイツに慣れるしかない。


 国歌をめぐる論争

FT November 27, 2017

Trump, Xi and the siren song of nationalism

GIDEON RACHMAN

「われわれの兵士たちを侮辱すること、あるいは、国歌を侮辱することを、私は容認できない。」と述べて、先月、ペンス副大統領はフットボール競技場を去った。選手の何人かが国歌の演奏中に跪いたからだ。同様の国歌に関する論争は、中国でも、インドでも、ヨーロッパでも起きている。

これはナショナリストとインターナショナリストとのグローバルなイデオロギー対立を象徴している。そこにはまた、狡猾な政治的側面もある。国歌に注目する議論は、国内の反リベラリズム、対外的な攻撃的姿勢と結びついている。

今月の初めに、中国の全国人民代表大会は、国歌を侮辱する者を、3年以下の禁固刑で処罰する法律を承認した。中国では愛国心を誇示することが増えており、習近平主席の「偉大な若返り」の一部である。他方、香港では最近のフットボール・マッチで国歌に対してブーイングが起きた。

インドでは、最高裁が昨年、公共の劇場で映画を上映する前には必ず国歌を流す、という指令を出した。支持者たちは、複数の宗教と数百の言語を話す国民の統合に国歌は重要だ、という。リベラル派は、モディ首相の下で、非寛容なナショナリズムが高まることを警戒する。マイノリティや政府を批判する者にとって生きるのが難しい状況を創り出している。また、警察が映画館をひそかに監視するようになる、と。

フランスの国歌論争はまた違う。昨年5月、選挙後の祝勝会で、マクロンはフランス国歌the Marseillaiseではなく、EU国歌、ベートーヴェンの“Ode to Joy”で登場した。それは、国粋派で反EUの国民戦線に対する巧妙な非難でもあった。

マクロンとトランプは、国歌論争において全く異なった立場をとる。彼らは国際政治における対抗するビジョンの提唱者だ。

トランプは、9月の国連総会演説で、「強力な主権国家」に基づく国際秩序を支持する、と何度も述べた。彼は選挙戦において、「国際機関を国民国家よりも優先する経済・政治イデオロギー」として「グローバリズム」を定義し、大統領になってもそれをしばしば攻撃している。その10日後、マクロンはパリで講演し、「われわれが国境内に閉じ籠ることはもはや不可能であり、その結果は集団的な破滅であろう」と述べた。

新しいナショナリストたちは主張する。「強力な主権国家」が安定した国際秩序の基礎である。ユートピア的で、エリートたちに偏った、過剰な「グローバリズム」は退場せよ、と。

しかし、ナショナリストたちの平和共存というのは愚かな考えである。確かに彼らは国際官僚制や人権派弁護士を侮辱する点で一致するだろう。しかし、同様に外国人を軽蔑する。アメリカ衰退論に刺激されたトランプと、中国の台頭と、歴史的な恥辱に復讐する気分を広める習近平が、朝鮮半島で、南シナ海で、WTOで衝突する。


 株価上昇の3つの理由

PS Nov 27, 2017

Today’s Rational Exuberance

ANATOLE KALETSKY

世界中の株価が上昇して、ほぼ毎日、最高値を付けている。市場は「非合理的な高揚」を広め、暴落が待っているのか? おそらく、そうではないだろう。

多くのアナリストが人為的な、持続不可能な金融的刺激策によるバブルとみなすものが、経済活動、利潤、雇用の構造的な拡大となり、さらに長く続くだろう。その理由は少なくとも4つある。

1.世界経済のすべてのシリンダーに火が付いた。2008年の金融危機以来、初めて、アメリカ、ヨーロッパ、中国のすべてが同時に拡大しつつある。それでも、ヨーロッパの高い失業率、中国の生産力余剰、そして技術とグローバル競争から生じるデフレ圧力が、なお数年は景気の過熱を抑えるだろう。

2.ゼロ金利や、QEと呼ばれる中央銀行による莫大な通貨供給増が、その後、良く理解されるようになった。最初の数年間、前例のない政策に対して投資家は不安を抱いた。人為的な刺激が終わったら、あるいは減るだけでも、不況になると考えた。しかし、それはもはや説得的ではない。アメリカ連銀は、2014年初めに長期債の購入を減らし、その年の後半、完全に停止した。2015年には金利を上げた。その後もアメリカ経済は拡大し、雇用を増やしている。

3.アメリカが示した金融政策と景気回復のロードマップは、さまざまな遅れをともない、他の諸国にも採用された。日本は2013年、アメリカに5年遅れ、ヨーロッパは7年遅れて20153月にQEを開始した。新興市場の多くでは、今年、金融刺激策と景気拡大が始まったばかりだ。その結果、世界の景気循環は以前の拡大期に比べて非同時化した。

4.アメリカ企業の利潤は、7年間の増大を経て天井に達しているだろう。しかし、アメリカ国外の利潤拡大や投資機会の利用は最近ようやく始まったところだ。利潤の増大は続き、他方で金利はまだ非常に低い。


 ハリス王子とマークルの婚約

NYT NOV. 28, 2017

Can Meghan Markle Save the Monarchy?

By IRENOSEN OKOJIE

マークルMeghan Markleに関して、王子との交際について最初の報道があってから、人々は静かに鳴動した。半分黒人の血が混じる、アメリカ人の、離婚歴のある女優だ。彼女は王室にふさわしくない、と言われた。

しかし、彼女はハリー王子と婚約した。Brexitとドナルド・トランプの時代、すなわち、人種差別的な動機の犯罪、憎悪に満ちた言葉、不安を掻き立てる者たちの時代に、ハリス王子とマークルとの結婚は、単なる強い解毒剤ではなく、政治的に意味がある。

ハリスは我々の時代の王子になった。彼が王室に与える影響は過小評価できない。この国で、だれが王室に席をおく資格があるのか、そのアイデアの核心を砕いたのだ。


 反グローバリゼーション

NYT NOV. 28, 2017

On Trade, Trump Puts Corporate America First

By DANI RODRIK

NAFTA再交渉の最近の話し合いが終わった。その成果はわからないが、貿易に関する彼のアプローチが基本的に間違った、非生産的なものであることはよくわかった。

アメリカの結んだ通商条約が、大企業や金融ビジネスに利益をもたらすけれど、アメリカ全体の利益にならない、という主張は間違っていない。自由貿易ではなく、投資家、大企業、薬品業界の特殊な利益をもっぱら実現するTPPを離脱するのは正しかった。

トランプ政権の通商政策が示す最大の欠陥は、その重商主義的な伝統に依拠した行動である。こうした考え方は、国益と、アメリカ企業や保護主義集団の利益とを同一視する。しかし、現代の貿易交渉は、概ね、各国の規制や基準に関するものだ。重商主義はもはや役に立たず、単なる、投資家と企業の要望項目を並べただけになる。

製薬産業、ハイテク、金融サービスで、巨額の献金とロビー活動が行われ、トランプ政権は熱心にその通商交渉を推進する。他方、トランプは労働基準や環境規制に関してリップサービスをするけれど、貿易によって生活を損なわれた人々に役立つ国内政策には関心がない。

真に公平なグローバリゼーションは国内から始まる。すなわち、それは、企業エリートと富裕層が労働者や中産階級と結ぶ、社会契約である。世界経済と結びつくすべての社会は、社会的給付、労働訓練プログラム、貿易による不利益をこうむる労働者やコミュニティのための地域政策を必要としている。

そのためには、累進的な所得税、インフラ投資など、雇用をもたらす政策、富裕層が政治を動かすことへの規制、が求められる。トランプと共和党が要求していることと、まさに逆である。


 ビットコイン

FT November 30, 2017

There are many reasons to be cautious about bitcoin

JEAN TIROLE

ビットコインのドル価値は大幅に上昇した。201111日の価値に比べて3万倍になった。「新規コイン発行」ICOは、今年だけでも35億ドルを発行者にもたらした。

2つの問題がある。ビットコインは持続可能か? ビットコインは公共財か? 私の答えは、おそらくNo, 完全にNo,である。

ビットコインは純粋なバブルだ。それ自体に価値はない。信頼が失われれば、価格はゼロになる。貨幣を最初に発行する者にはシニョレッジが生じる。それはコミュニティに帰属すべきものだ。しかし、ビットコインの発行は私的な利益になる。そのために新しいビットコインを探す「採掘」には、膨大な投資(コンピューターと電力)が行われ、資源の無駄使いとなっている。

ビットコインはリバタリアンの理想であるだろう。銀行など、金融仲介から解放される。しかし、実際には脱税、資金洗浄の手段として、市場経済をむしばんでいる。信頼できる、正しく資本化された金融仲介には、スクリーニングとモニタリングが必要だ。

詐欺的な、無価値のプロジェクトを排除し、ガバナンスへの発言を保証する。しかし、ほとんどのICOはフリーライドにおよび、株式とは異なり、発言権のないトークンの配布は投機でしかない。

ビットコインを容認する政府は、市民と金融機関をバブルの破たんから護るべきだ。


 ジンバブエの政変と成長

FT November 29, 2017

Zimbabwe’s chance to follow the China model

DAVID PILLING

ジンバブエの新大統領Emmerson MnangagwaムナンガグワとRobert Mugabeムガベには類似点が多い。2人は、1980年以来、Zanu-PFの支配をともに担ってきた。

大統領が変わっても何も変わらない。ムナンガグワも権力を維持するためには何でもやり、自分の支持者たちのネットワークを守るだろう。それはZanu-PFのエリートたちに富をもたらす仕組みだ。

しかし、同様に、ムナンガグワがムガベ体制からの決定的な転換を目指す、という見方にも説得的な理由がある。ムナンガグワはプラグマティックで、イデオロギーを抑えると予想されている。より重要なことは、ジンバブエの経済状況だ。通貨、雇用、資源採掘が破たんし、国際融資も得られない。ムナンガグワはこうした問題にオープンな姿勢で取り組むだろう。

彼はすでに、市場の基本要素を重視する、と演説している。それは言葉だけかもしれない。しかし、国際投資家を呼び込まねばならない。なぜなら、彼は選挙を約束しているからだ。経済が回復する、という希望を必要としている。

ムガベの破滅的な支配の後でも、ジンバブエの資源、農地、インフラ、人材は、国際投資家にとっての魅力を失っていない。その成長は、国有化プログラムを廃止し、通貨を安定化することから始まる。

NYT NOV. 30, 2017

Can the Singapore Model Save Zimbabwe?

By STEVE H. HANKE

ムガベの支配下で、国有企業、資本規制、価格管理、輸入管理、採掘課徴金、規制だらけの経済活動、が政治的に決定された。1人当たりGDPは、ムガベが権力を握った1980年に比べて、その78%にまで下がった。

毎年の予算赤字がGDP11.2%に達し、ハイパーインフレーションが起きた。200811月、年間インフレ率は89.71021乗倍に達した。最高裁判所が憲法に違反していると宣言しても、ムガベは補償なしに白人が所有する農場を奪った。

国民が政府の発行する通貨を拒んで、ドル化したとき、ムガベの選挙による敗北で連立政権がドル化の条件となる予算の制限を認めたため、経済活動が急速に回復した。しかし、国民統一政権が崩壊し、ムガベが権力を回復すると、ハイパーインフレーションが再発した。

ムナンガグワがなすべきことは、リー・クァン・ユーの戦略を採用することだ。それは4つの原理に基づく。1.安定した通貨。2.海外援助を受けない。3.世界1の競争力。4.私有財産と国民の安全を守る。シンガポールは、貧困の中から抜け出し、世界で最も豊かな国の1つになった。

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The Economist November 18th 2017

A coup in Zimbabwe: Fall of the dictator

China’s fiscal system: Muddled model

Wages: Great again

Zimbabwe: The man who wrecked a country

Lebanese politics: The mysterious Mr Hariri

German foreign policy: Taking the strain

(コメント) 日本に関しても2つ記事がありました.しかし,平凡です.中国の地方財政がどうなるのか,民主化運動の淵源にあるものです.トランプの場合,全く間違った政策を自慢しながら,実際に起きている賃金上昇が彼に慢心と再選をもたらすなら,アメリカと世界をさらに苦しめます.

ジンバブエの独裁終焉,レバノンの政変,ドイツの外交政策に関して,面白い記事を読みました.世界の政治経済が変貌する背景に,強い刺激を得るでしょう.

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IPEの想像力 12/4/17

メルケルは連立政権交渉に失敗し,トランプは共和党と組んで金融富裕層に有利な減税法案を前進させ,プーチンはシリアに平和をもたらす皇帝の輝きを得ました.それは個人の精神的な高潔さ,公共の善を目指す姿勢を問うとともに,その条件を私たちに問いかけます.

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相撲の人気は高いのに,スキャンダルが繰り返されています.プロスポーツの世界には,莫大なお金が動き,プレイヤーに慢心や嗜虐の心が生じ,詐欺行為を依頼する者も現れます.彼らの身体的な能力の高さが,むしろハラスメント,暴力,買収による詐欺行為の温床になるのだと思います.

個人の道徳や倫理観,相撲道,教育が,高い身体能力に見合っていない,という問題です.それは社会や経済が巨大かつ複雑なシステムになったことで,それに見合う強固な制度を求めています.

これに関して思うのは,脱税や金融市場の規制方法です.短期の投機を市場から完全に締め出すことはできません.しかし,高額所得は公開し,透明にして市民が監視するとよいでしょう.その弊害が明らかな場合,個人消費を超える,所得の大部分を資産管理口座で保管し,その用途を,長期投資だけに限定する法律を定めてはどうか,と思います.力士やスポーツ選手もそうです.

BBCの日本語記事を読みました.レベッカ・シールズ「スキャンダル相次ぐ日本の角界――何が起きているのか」BBC121日.

http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-42191155

「国技」と「暴行」(さらには死亡事件)とが,なぜ結びつくのか? 「モンゴル人力士」など,外国人の力士が増える中で,相撲部屋の伝統的な慣習・管理体制は,どうなっているのか? 給料,恋人,携帯電話を,どのように管理するのか? 保守的な相撲協会と「沈黙の掟」,効果的な宣伝活動は,いつまで相撲人気を維持できるのか? 相撲は日本スタイルのプロレスリングや公式ギャンブルになるのか? 柔道,剣術,弓道も同じです.しかし,後者はプロ化していません.

スポーツを楽しみ,スポーツを究めることの素晴らしい精神や身体を,私は心から称賛します.しかし,スポーツをめぐるスキャンダル,失敗した例も多いでしょう.オリンピックのドーピング問題もそうです.

スポーツが,その極端な報酬や営利ビジネス,社会的地位,政治権力と結びつく中で,おそらく,選手たちの精神は腐食されるのです.厳しい練習に耐える選手たち自身も,その周辺も,高い身体能力が異常な事態を正当化し,なかなか正しい判断ができない,という閉塞状況に陥ります.

まるで,平和を願いながら殺し合いをやめない,部族紛争や宗派対立のようです.横綱や金メダル獲得のために,その選手を育て,すべてを犠牲にしても守ります.

勝敗や順位,戦争状態が,スポーツの目指す精神,あるいは,政治家の理想とは違うでしょう.

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イギリス王室が認めたハリス王子の婚約や,法制化された天皇の退位に関する報道にも,私は類似の問題をみます.イギリスの王子は,黒人と白人の両親を持つアメリカの映画俳優と結婚できるし,日本の天皇も老人として,皇位を譲り,引退できるのです.

横綱や天皇は,現代を生きる貴族であり,最後の独裁者です.王室や皇室が好ましい社会の一部であるには何が必要か,国民が議論する十分なスペースを得るべきだと思います。

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