IPEの果樹園2017 

今週のReview

11/27-12/2

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サウジアラビアの政変 ・・・トランプの税制改革 ・・・ジンバブエの政変 ・・・トランプの外交と産業 ・・・ロボットとAIの未来 ・・・トランプの貿易論 ・・・メルケルの政治的没落 ・・・ヴィクトリア・シークレットのトップモデル ・・・移民の社会政治的コスト

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 サウジアラビアの政変

NYT NOV. 23, 2017

Saudi Arabia’s Arab Spring, at Last

By THOMAS L. FRIEDMAN

サウジアラビアが、独自にアラブの春を開始した。サウジ・スタイルで。

32歳の皇太子、Mohammed bin Salman (M.B.S.)と、リヤドの郊外で4時間近く話し合った。彼は私の年齢の半分であるが、これまでのいかなるアラブの指導者よりも、この国を変えるアイデアに燃える人物だと思った。

政府支出の10%が賄賂になっている、とM.B.S.は指摘した。王子やビジネスマンの汚職を尋問するためにthe Riyadh Ritz-Carltonへ閉じ込めた。これは権力闘争ではなく、サウジの検察庁による捜査の結果である。容疑者たちは証拠を示されて、95%は罪を認め、その資産を国庫に返済した。法廷で争う者もいる。

サウジのビジネス界はこれを歓迎している。汚職は以前から問題視されたが、対策は効果がなかった。それはボトムアップに行われたからだ。今度は違う。トップダウンで行い、その結果、商人たちには賄賂を出さないように警告のシグナルが伝わったはずだ。これでシステムは信頼を取り戻す。市井の人々は広く支持している。

M.B.S.は、サウジアラビアを1979年以前に戻そうとしている。その当時のサウジは、「穏健な、バランスの取れたイスラムの国であった。世界に対して開かれ、すべての宗教、すべての伝統の人々を受け入れた。」 M.B.S.は最近の投資家の会議で演説した。

私は、彼の仕事を観て、アメリカの歌劇「ハミルトン」の1節を思い出した。コーラスは問う。「なぜ彼は時間が消えてしまうかのように、いつも急ぐのか?

「なぜなら」とM.B.S.は答えた。「私は死ぬ時になって、自分が思い描いたことが完成せぬままに死ぬ、ということを恐れるからだ。人生は短い。」


 トランプの税制改革

NYT NOV. 16, 2017

Everybody Hates the Trump Tax Plan

Paul Krugman

上院に提出された共和党の税制「改革」案は、中産階級や労働者階級に対して、さらに、推定1300万人の保険に未加入の約1300万のアメリカ人藻加え、増税になるが、そのすべては法人税の大幅削減につなげるためだ。一般国民は同意しないだろう。しかし、少なくとも企業の重役たちは改革案を支持するはずだ。

実際は、そうでもない。数日前、トランプの経済顧問であるGary Cohnが企業家の重役たちに会った。そして彼らは、減税によって投資を増やす者は手を挙げてほしい、と尋ねられたが、投資を増やすと手を挙げた重役は少数だった。

右派のイデオローグたちと違い、企業の重役たちは現実の世界に生きているからだ。税率は投資を決定する重要な要素ではない。たとえ大幅な減税がなされても、企業の支出は増えないと知っている。このことは、減税案の主要な正当化の理由を失わせる。減税は、豊かな者をさらに豊かにするために行われるのだ。

トランプ政権は、こう説明している。企業の利潤に対する税金が減れば、民間投資が増え、経済成長が加速する。成長の成果は労働者階級にも高賃金として波及する。そして税収が増えるから、減税はその税収の不足を自ら埋め合わせるだろう、と。

この話のいくつかの部分は正しいが、言及していない問題がある。結局、企業の支出はどこから資金を得るのか? アメリカ人の消費を減らしたり、貯蓄を増やしたりすることはないだろう。資金は外国から来る。株や証券、外国人に対する資産を売るのだ。

それはドル高と巨額の貿易赤字をもたらすだろう。楽観的な推計でも、この先10年間で6兆ドルだ。この貿易赤字は製造業に破壊的な影響を与え、トランプが増やすと約束した雇用を、およそ200万人分も破壊する。


 ジンバブエの政変

FT November 18, 2017

Hope comes to Zimbabwe and Africa at last

MICHAEL HOLMAN

ムガベによる長期支配をどうやって終わるのか? 独立に関わった彼の仲間をどうやって腐敗した権力から取り除くのか? 経済の混乱や周辺地域における成長から利益を得てきたエリートたちに代わって、反対派の人々の意見がどうやって政治に反映されるのか?

19902月にネルソン・マンデラが釈放されて以来、アフリカ大陸はこうした地殻変動を続けてきた。ジンバブエは、独立戦争後の混乱から経済を立て直してきたが、1990年代に、ムガベが煽動した群衆による4500におよぶ主に白人所有農地の占拠により、政治的に破壊された。

野蛮な介入と不正な選挙によって民主化への希望は失われ、与党であるZanu-PFが一党支配を続けてきた。ジンバブエの衰退は、地域経済の成長のエンジンではなく、癌へと変わった。それにもかかわらず、南アフリカ経済が拡大する中で、周辺諸国の資源や製品輸送のネットワークとなって、ジンバブエも潤った。

地域市場統合SADCthe Southern African Development Community)は停滞し、南アフリカ共和国や、かつての植民地宗主国イギリスは、ジンバブエの政治混乱に関与することを避けてきた。それは介入に限界のあることを理解した、賢明な判断であったが、緊急支援さえも抑制しているのは残念だ。

ムガベに追放された副大統領Emmerson Mnangagwaが権力を握るだろうが、西側は慎重に対応するべきだ。ジンバブエ国民が、長いシニシズムを乗り越え、今こそ希望を取り戻す時期である。

FT November 18, 2017

Zimbabwe: a ‘slow motion coup’

David Pilling and Joseph Cotterill in Harare

ムガベは1980年に白人少数派から銃口によって権力を奪って以来、ジンバブエの最初の、そして唯一人の指導者であった。40年近い支配において、かつて強力な経済を誇った国が、緩やかな、ときには劇的な衰退を経て、その終末に至った。

「スローモーションのクーデタ」と観る者もいる。Constantino Chiwenga将軍は、周辺諸国の反応を観て、特に南アフリカが軍事クーデタによる体制転換を強く拒んでいることから、慎重な行動を求められる。

ムガベの後継者の地位にあったが、最近、解任された、元副大統領Emmerson Mnangagwaが、軍と共謀して、与党Zanu-PFの分裂を回避するためにムガベ大統領を拘束したようだ。ムガベは、その妻グレース・ムガベを、新たに後継者に指名しようとしていた。しかし、ムガベの行動はそれほど制限されておらず、軍の意図は、後継指名を元に戻し、任期の終わりに引退することをムガベに同意させるだけであろう、という。ムガベの抵抗により、軍の介入はその勢いを失うかもしれない。

Zanu-PFも、反政府勢力も、慎重な姿勢で、この軍の介入を歓迎している。それは与党の腐敗を正し、より多元的な政治システムに変わる一歩を示す、と考えているからだ。有力な反対派の指導者Morgan Tsvangiraiは、権力の移行を描くロード・マップが重要だ、と指摘する。包括的な改革のために、自由で、公正な、信頼でいる選挙を行うべきだ、と。

首都ハラレの人々は大統領に関してあまり語らない。彼が権力を完全に失ったとまだ思えないからだ。多くの支配的な地位にある人々は、軍がZanu-PFの支配を終わらせることはなく、むしろその再確立を狙ったものだ、と言う。軍は、グレースとその側近たちを嫌った。介入は、ジンバブエではなく、与党を救出するものだ。

ムガベの右腕であったMnangagwaについて、農業の生産性を高め、国際社会やIMF・債権者との関係を良好に維持することに貢献した、と評価する者もいる。しかし、支配体制は変わらないだろう、と批判する声がある。独立後の初期の反政府運動を軍によって弾圧し、1000人以上の市民の犠牲者を出したNdebeleコミュニティーでの行動に、彼は責任がある。

かつては農産物の輸出と優れた工業力、最高水準の教育を誇ったジンバブエが、経済破たんとハイパーインフレーションにより、多数の移住者、難民を近隣諸国に出している。たとえ軍がZanu-PFの権力を維持したいと願ったとしても、この介入が全く異なる政治の方向を可能にするだろう、と反対派は考えている。


 トランプの外交と産業

Bloomberg 20171118

What Trump Got (Half) Right in Asia

By Tobin Harshaw

中東、ヨーロッパ、アジアにおけるトランプの外交に関して、ジョセフ・ナイに尋ねた。

アメリカがアジアに関与することを示す意味で、トランプが国際会議に参加したのは成功だった。サウジアラビアでMbSが起こした政変は、トランプがいなくても、やったはずだ。トランプが演説に取り入れた「インド・太平洋」という概念は重要だ。これは中国の台頭に関わり、日本に加えて、インドとオーストラリア、さらにベトナムなどの小国、を含む連携を示している。

日本の米軍基地において、トランプが米日の同盟関係を重視する姿勢を明確にしたことは、選挙中、日本の防衛を軽視し、核保有を勧めた発言を撤回する意味で、必要な言葉であった。アメリカの武器をもっと買え、貿易不均衡を税制せよ、という発言は、トランプの独自なセールスマン外交、不動産開発業アプローチであるが、安全保障を議論する賢明な視点ではない。習近平との会談で、台湾や北朝鮮と貿易問題を合わせて持ち出すことも同様だ。

アメリカと日本で専門家たちの会議に参加した。その見方を総括すれば、アメリカが限定的な軍事力行使に踏み切る可能性は5分の1、中国が北朝鮮への圧力を増して双方の凍結を実現する可能性も5分の1である。どちらの可能性もゼロではないが、私はどちらも起きないと思う。

トランプの下でアメリカのソフトパワーが損なわれた、という報告がある。しかし、その国のソフトパワーを決めるのは市民社会であって、政府ではない。

TPPを離脱したことを、習近平は明らかにチャンスと見ているだろう。TPPは地域の高水準な貿易ルールを定めるはずであった。アメリカの離脱後、TPP11として、日本などがそれを樹立できるか、また、アメリカが復帰できるか、私は注目している。

オバマ政権でも、アジア「旋回」、むしろ「リバランス」論が、市場と安全保障とを結び付けていた。ジョージ・W・ブッシュ政権が中東にまき散らした軍事力をアジアに移したのだ。海軍の60%を太平洋に展開する目標を立てた。しかし、トランプにはこうした結びつきがない。アジアにおける米軍を支持しても、貿易では2国間の取引だけだ。

日本に5万人、韓国に28000人の米兵が駐留するのは、米軍の信認を高めるためだ。北朝鮮が日本や韓国を攻撃すれば、アメリカがかかわらないことは考えられない。それが抑止力を高める。マティスが述べたように、もしソフトパワーが足りなければ、それだけ多くの弾薬が必要だ。アメリカへの留学生受け入れを減らし、海外援助を削減するなら、トランプはより多くの軍事力を持たねばならない。

しかし、政府はこのバランスを見失っている。

FT November 22, 2017

Donald Trump’s unwitting surrender to China

EDWARD LUCE

60年前、ロシアが人工衛星スプートニクを打ち上げて世界を驚かせたとき、トランプは11歳だった。アメリカはその後、インターネットでもGPSでも、ソ連に対する優位を獲得した。しかし今、71歳の大統領はスプートニクの衝撃を感じていないようだ。中国は2020年までにAIの開発で支配的な地位を得る計画を発表した。

中国のAI開発には、北朝鮮の核の脅威のように、軍事的な封じ込めができない。中国がアメリカを飛び越える可能性は否定できず、ロシアのプーチン大統領は「誰であれ、AIを指導する者が世界の支配者になる」とコメントした。

トランプは、「インテリジェンス・システム」の開発資金を11%削減し、連邦政府の研究開発支援も5分の1を削減する。NASAも同様だ。トランプは合法移民の受け入れを半減させ、アメリカが最良の研究者を雇用する機会を制限する。

ハイテク企業のトップはアメリカが指導しているが、中国には2つの利点がある。1.アメリカ以上に急速に経済がデジタル化している。Alibaba, Tencent, Baiduにより、中国のe-コマース取引額は世界の40%を占める。Tencentは市場評価額でFacebookを超えた。2.中国の民間部門は政府と協力している。グローバル・サプライ・チェーンへの依存や脆弱性を懸念して、中国は自給力を高め、貿易戦争にも耐えられるようになった。同じ理由で、AIの開発を加速し、Google, Facebook, Twitterの市場参加を拒んだ。

これに対して、トランプの目標は法人税率の20%への引き下げだ。しかし、アイゼンハワーの時代、個人所得の限界税率は90%以上であった。それでも、アメリカ政府と企業がソ連に勝利するのを妨げなかった。トランプが舵を握るアメリカが、明日の技術分野で勝利するとは思えない。


 ロボットとAIの未来

FT November 21, 2017

Harnessing technology to challenge inequality

Mustafa Suleyman

気候変動や不平等など、社会にとって最も緊急の、持続する問題を、われわれが解決したいと思うなら、技術が重要な役割を果たすだろう。多くの分野で新しい知識、アイデア、戦略を発見することを通じて、AIによる決定的な科学進歩が、それを可能にする。

しかしある種の問題で公共の関心が高まっているが、技術はあまりにも重要であり、その影響は広範囲におよぶ。少なくとも3つの点で、技術は現実世界と齟齬を生じている。

1.技術の開発者とそれを利用するコミュニティーとの乖離。シリコンバレーの研究者の給与はその他のアメリカ社会に比べて高く、しかもジェンダー、階級、民族、その他を反映していない。それは意図しない害悪をもたらす危険がある。

2.技術の実際の利用に情報の非対称性がある。複雑なアルゴリズムを開発するには、それが社会に及ぼす影響を深く理解するために、新しい組織を必要とする。社会運動家、政府、技術者は、しばしば互いに批判し合うが、制度の役割について真に議論し、関与することを優先するには、勇気と信頼が求められる。

3.インセンティブに構造的な不均衡がある。ビジネスの標準的な評価基準は、世界を改善する試みに対する社会的責任を含んでいない。技術分野に多額の資金があったとしても、企業家の多くは失敗する。資金提供者や投資家に企業の成長を期待させるためだけに、企業家は何でもしなければならない。複雑な社会的外部性は考慮されない。世界で最も聡明な人々が、最も安全で、成功すると証明済みのアイデアやビジネス・モデルに集まる。

5億人がきれいな飲み水を利用できないのに、個人向けのソーダ飲料に新商品を開発する。8億人もの栄養不良の人々がいるのに、食事を電話注文できる新ビジネスを起こす。インセンティブの構造を、もっと現実世界の問題を重視し、企業を設立する人々が倫理的に行動するよう、促すものにするべきだ。

より公正な世界は、偶然によって生まれるのではない。倫理的に優れた結果を得るには、アルゴリズムやデータ以上のものが必要だ。それは、社会的な議論や責任の質に依存している。技術の力を信じる者は、そのシステムが人間の最高の集団的な自己を反映するように万全を期すべきだ。

PS Nov 21, 2017

The Platform Economy

ANNE-MARIE SLAUGHTER, AUBREY HRUBY

最近は、仕事の将来に関する会議がない週はない。ロボットは予想されたほど急速に広まっていないが、ますます多くの仕事を奪うだろう。しかし、ますます多くの仕事も作るだろう。

しかし、将来を語るより、現実を見てはどうか? 世界人口の80%は新興経済に住むのだから。そこではインフォーマル市場と流動的な雇用形態が支配している。3つの教訓が得られるだろう。1.人々は、1つではなく、複数の所得源によって生活する。2.伝統的ネットワークの上に、プラットフォーム型の経済が出現する。3.新しい仕事のパターンが所得の極端な不平等をもたらす。

発展途上諸国のインフォーマル経済を特徴づけるのは弾力性と不確実性である。人々は、不確実な労働市場に対して、時間、専門知識、ネットワーク、アイデアを売って対処する。仕事はオンラインでマッチングする。ガーナでは、法律サービスでも、伝統的な法律事務所に代わって、さまざまな売り手と買い手がプラットフォームを共有している。

新興市場の労働者がデジタル経済に集まるのは、弾力性が有利だからとか、新ビジネスへの情熱からではなく、金融アクセスや教育機会が限定されているために、ほかに生活する方法がないのだ。それにもかかわらず、彼らの経験は職場の分散化や労働者の上昇に関する多くの実験を示している。


 トランプの貿易論

FT November 20, 2017

US trade problems begin at home not abroad

RANA FOROOHAR

アメリカの貿易について、1つ、知っておくべき統計がある。それは、アメリカ企業のわずか1%しか輸出していない、ということだ。

アメリカの貿易問題は、海外ではなく、国内に原因がある。NAFTA再交渉で、離脱するぞと脅してメキシコに改定を要求するより、国内の3つの政策失敗を考えるべきだ。そして、それを中国の政策と比べてみればよい。

1に、製造業の投資が少ない。アメリカの工場や基幹設備は老朽化している。ところが、アメリカ政府は貿易や税において投資の促進策を採っていない。企業の海外に保有する利潤を送金させることが話題になるが、その資金は国内投資ではなく、株の買い戻しや配当になってしまうだろう。他方、中国は1兆ドルのインフラ投資を計画している。

2に、アメリカの貿易論は大企業にばかり注目している。だが25万の企業グループの大多数は、雇用者数が100人以下の企業である。世界経済をゼロサム・ゲームとして観るのは、彼らに関わりのない問題だ。企業の多くは資本調達に苦しんでいる。大企業のサプライチェーンと結び付く形で、多くの企業が参加しなければならない。

グローバリゼーションの新局面は、サプライチェーンの地域化なのだ。中国はそれを2025年の開発計画において重視している。外国市場や技術への依存を低下させたいからだ。

3に、アメリカはシリコンバレーとラスト・ベルトとを結び付けねばならない。ハイテク製造業には未来がある。しかし、アメリカ製造業の半分はデジタル化の戦略を欠いている。

トランプ政権は、産業戦略を機能させる明確かつ一貫した計画も持たずに、「アメリカ・ファースト」を推進する。しかし、トランプが破棄したTPPに集まる高成長諸国にこそ、アメリカの最も価値ある輸出品、ハイテク製品、医薬品、重機械などを需要する中産階級が増えている。NAFTAを離脱することも、同様に、大きな失敗だろう。

計画のない経済ナショナリズムが、アメリカを再び偉大にすることなどない。


 メルケルの政治的没落

SPIEGEL ONLINE 11/21/2017

Coalition Talks Collapse

Germany Wins, Merkel Loses

A Commentary by Ullrich Fichtner

メルケル首相の統治スタイルが終わった。

これは良いニュースである。連立交渉の破たんは、停滞した、ビジョンも野心もない政府が登場することから、この国を救った。4党は、建設的に互いを補完することはないだろう。むしろ、常に互いの邪魔をしただろう。

有権者の意志は、彼らに連立政権を求めたわけではない。連立は誰の意志をも反映していない。いかなる政策も、有権者から権限を委ねられていないことになる。

政党間の対抗は民主政治の活力であり、政党の何よりの使命は、国家の福祉ではなく、ドイツ社会の多様性を反映することだ。社会民主党はいち早く連立協議を否定したが、有権者がメルケルによる保守派とSPDの連立を否定したことは確かである。

この分裂状態で再選挙に向かうことから明らかに利益を受けるのは、AfDだけである。可能性としては、メルケルが少数議席で政権を運営することになる。メルケル自身が政治スタイルの最も重大な危機に直面する。イデオロギーを廃して、メルケルの下で、いかなる党派とも政策を実現してきた時代は終わるだろう。

PS Nov 21, 2017

Germany’s Götterdämmerung

HANS-WERNER SINN

少数政権は、その構成が何であれ、必ずしも悪いものではない。法案を通過させるために政府はパートナーを事後的に求めるから、ついに議会は再び公共の議論の場となる。あまりにも長い間、連立政権はパートナーとの閉ざされた交渉で政策を決定し、議会はそれを追認するか、採決するだけであった。

同時に、少数政権の外交は明らかに弱まるだろう。メルケルはヨーロッパ政治で積極的な行動を取れなくなる。しかし、それはまた、ドイツのパートナーたちがドイツ政府との妥協を模索することを意味する。


 ヴィクトリア・シークレットのトップモデル

The Guardian, Monday 20 November 2017

How China made Victoria's Secret a pawn in its ruthless global game

Paul Mason

ランジェリーの有名ブランドVictoria’s Secretが中国で行うショーに、人気モデルを呼んだところ、中国政府に入国を拒まれた。Katy Perryは台湾独立の支持者とみなされ、Gigi Hadidは人種差別的な仕方で中国人をにらんだ、という理由だ。

企業にとって中国市場を得ることは非常に重要だ。中国における高価格の女性下着に対する需要は、賃金上昇と生活態度の変化とともに、急速に増えている。この5年間で販売額は5倍になり、180億ドルに達する。中国の下着は今も機能を重視し、そのギャップはこれまでオンライン販売で埋めていた。しかし、2億人のヤングアダルトの女性たちは90ドルのブラを買う用意がある。

習近平の体制では、すべてが政治によって決まる。Hadidはメディアで批判され、謝罪した。中国では、習の「思想」が党綱領において神聖化された。それを広めるために、行政機関は市民の思想や行動を監視している。

中国がこれまでグローバリゼーションと対抗した方法は論理的であった。自国の企業と市場を厳格に守って、低利融資や政治的な保証のついた投資によって成功してきたからだ。特に、情報分野における「万里の長城」は、西側企業に政府の情報管理を受け入れるように求め、受け入れない企業を遮断した。

Sesame Creditは、Alibaba Tencentによって設立された信用評価機関だが、オーウェルが描いた自己監視社会を実現している。個人の信用評価だけでなく、巨大インターネット企業の顧客データが、政治的忠誠の評価にも利用されている。評価の低い人々には仕事のオファーがなく、融資やハイスピード・インターネットも利用できない。低評価の人々とネットワークを共有する人々の評価も、下げられる。人権団体はこうした機関を、大衆監視手段である、と批判している。

インターネット市場はバルカン化しており、国家が民間の情報をいつでも利用できる中国の市場と、西側の市場とは、分断されている。中国に進出する西側のビジネスでは、それを利用することになる。それが国家による大衆の監視や反政府的な意見の弾圧に協力している、ということも考えねばならない。


 移民の社会政治的コスト

PS Nov 22, 2017

Inconvenient Truths About Migration

ROBERT SKIDELSKY

経済学ではなく、社会学、人類学、歴史が移民論争に大きな役割を果たしそうだ。

移民に反対する人々は、単に失業や賃金低下、不平等を嫌うからではない。経済問題は確かにアイデンティティ・ポリティクスの登場に関係しているが、アイデンティティ危機は経済改革だけでは解消しない。

英連邦UKには、1991年から2013年までに、490万人の外国生まれの移民がやってきた。標準的な経済理論は、自由貿易と同様に、移民流入も一定の時間を経て自国生まれの人々に利益をもたらす、と教える。すなわち、労働力の流入で賃金は下がるが、利潤が増え、投資が増え、賃金が逆に上昇する。以前よりも多くの人々が、良い生活水準を享受できるだろう。

しかし、ケンブリッジのRobert Rowthornは、この議論に多くの欠点を観ている。たとえ不況にならないとしても、一時的な賃金低下は5年、10年と続くだろう。また、1度きりの移民流入ではなく持続的な流入であれば、労働需要の増加は常に供給の増大よりも遅れる。移民が失業や賃金低下をもたらした、という主張は、誇張もあるが、間違いではない。

また、移民が労働力を若返らせ、財政を安定させる、という議論もある。若い労働者の納税が高齢者の年金の財源となるからだ。Rowthornは、これを際限のないtreadmillと批判する。1度きりの移民流入では、労働力の年齢構成が元の経路にもどるだろう。高齢化問題は解消しない。

大規模な移民流入を支持する経済学は決定的なものではない。移民問題の核心は社会的な衝撃、人々の結束力を低下させることだ。

David Goodhartは、社会民主主義の視点で移民に反対した。移民規制に反対するリベラルの前提は、社会に対する個人主義的な観方である。リベラルは、移民の社会統合に関して非常に楽観している。しかし、「社会という何か」は存在し、移民たちがそれに参加するよう努めないと、生まれつきの市民たちは彼らを「想像の共同体」の一部とみなさない。

あまりに急速な移民流入は連帯の紐帯を弱め、長期的に、福祉国家の基盤を侵食する。多くの異なる背景を持つ人々から成る社会は、ふさわしいコミュニティーを定義するような、現実的なリベラリズムでなければならない、とGoodhartは主張する。

経済と政治のリベラリズムは、無制限の移民を支持する元来の仲間である。彼らは、国境を不合理な障壁とみなし、国民国家や忠誠心を人類の政治統合を妨げるものと考える。しかし、市民とは、そこに生まれることで形成されるものだ。諸価値は特別な歴史と地理の産物である。もしコミュニティーがあまりにも急速にその構成を変えるなら、人々は自身の歴史を見失い、漂流し始める。

「国境の管理」に失敗した政治家たちは、人々の信頼を失うのだ。

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The Economist November 11th 2017

Endangered

Initial coin offerings

The rise of Muhammad bin Salman: A palace coup in Riyadh

Technology in Africa: The leapfrog model

(コメント) まるで軍事政権のような、ポピュリストの指導者に軍人が取り囲むアメリカの姿を、リベラルな国際秩序の指導者とはみなせません。その反対の極端が、仮想通貨の新規発行による富の創造かもしれません。

サウジアラビアの若い指導者がイスラム世界をどのように変えるのか? 期待と不安、希望と恐怖の幕が切って落とされました。

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IPEの想像力 11/27/17

さて、どうも書くことがありません。そういう日もある、かな。

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アン・マリー・スローターが言うように、豊かな諸国の労働者たちが、ロボットやAIによって職場を奪われることを恐れるより、新興市場や発展途上諸国の貧しい労働者たちを観て、学ぶ方がよいでしょう。私には、共通のプラットフォームによって、時間や専門知識、技量を示し、必要な知識や労働、話し相手を求める人とのマッチングをする社会が、良い社会のように思います。

ロシア革命100周年に、いずれの記事も称賛する内容ではありません。しかし、社会主義が共同の食堂や住居を提供し、運営する理想は、将来も失われないでしょう。現実の暮らしにおいても、そうした共通のプラットフォームがあるなら、異なる出自を持つ多様な人々と、ロボットやAIのもたらす新しい社会変動にも、容易に溶け込めるのではないか、と思います。

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大学祭のために講義がなく、すばらしい好天であったために、鴻ノ池運動公園までランニングしました。往復すると20キロです。最初、足は重いながら市街地を抜けて、次第に、ゆるやかな起伏のある住宅地を過ぎ、もっと行くとゴルフ場、そして、開けた土地を蛇行しながら、道は奈良の中心部へ向かいます。

ゆっくりジョギングするだけでいいや、と思って走り始めても、せっかく20キロも走るのだから、とタイムが気になり出しました。快晴の空と開けた土地を楽しむはずが、足が止まるのも我慢して、上り坂でペースを刻みました。なかなかの苦行です。

近鉄電車の線路を越え、国道を越えると、もはや住宅はなく、歩道を行く人もいないような場所です。それでも自動車が絶えることなく走ってきますが、ランナーには誰も会いませんでした。

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ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が、内政、外交において、余りにも急激な改革目標を同時に進めている、と懸念されています。あれは、明治維新かもしれない、と私は学生に答えました。

明日はないと思っているのか、なぜそれほど急ぐのか? とトマス・フリードマンは問います。すると彼は、「人生は短い。」・・・自分が死ぬまでに、思い描いたことが達成できるかどうか、見極めたいと答えたそうです。

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ランニングの本には、なぜ走るのか、とか、走ることの爽快感、達成感、など、さまざまな理由が書いてあります。私にはあまり当てはまりません。人それぞれに、こうした苦行を楽しむ理由はあるのでしょう。

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あちこち悪くなって、今まで聴いたこともないような不思議な病気になります。歳を取ったわけです。医療費や保険料が、自分や家族、社会にどのような形で負担されるのか、私たちは十分に考えてシステムに合意していないように思います。

これも共通のプラットフォームでしょう。複数の仕事を経て、体や意欲に合わせて、いくつか引退し、あるいは、楽しく続けることができる社会なら、医療や介護も、それほど負担にならないと思うのです。精一杯働いて、静かに老いて、死にたいですね。

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酒も、食事も楽しまない、好きな本を読むだけの地味な毎日です。せめて、ランニングを続けていてよかったです。

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