IPEの果樹園2017 

今週のReview

11/27-12/2

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サウジアラビアの政変 ・・・トランプの税制改革 ・・・ジンバブエの政変 ・・・トランプの外交と産業 ・・・ロボットとAIの未来 ・・・トランプの貿易論 ・・・メルケルの政治的没落 ・・・ヴィクトリア・シークレットのトップモデル ・・・ティラーソン国務長官の評価 ・・・移民の社会政治的コスト

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 サウジアラビアの政変

NYT NOV. 16, 2017

Saudi Arabia Has No Idea How to Deal With Iran

By EMILE HOKAYEM

近頃のリヤドには、権力、野心、不安が渦巻いている。

サウジアラビアはイランの意図とパワーを誇張しているかもしれないが、西側とアジア諸国はそれをあまりにも軽視している。イランは「イラク、シリア、レバノン、北アフリカと湾岸地域では、イランの同意なしに、何事も起こらない」と、その影響力を自負している。テヘランは、バクダッド、ダマスカス、ベイルートで完全な支配を確立してはいないが、その武装勢力や同盟者を通じて、戦場や政治における決定力を保持している。

ムハンマド皇太子は、これまでのリスク回避に偏った政策を見直した。しかし今、外交、安全保障では問題が生じている。イエメンではフーシ派を追い出そうとして、逆に、レバノンのヒズボラに匹敵する武装勢力を生んだかもしれない。

カタールとの断行、経済封鎖は成功しているが、レバノンのハリリ首相がリヤドで辞任を発表したことも併せて、サウジアラビアの外交に関する評価は深く損なわれただろう。それは長期的に観て大きなコストとなる。レバノン情勢は、むしろサウジアラビアにとって悪化するかもしれない。イランとヒズボラは、何十年もレバノンの政治に介入し、敵対勢力を暗殺し、外国との戦争や他の地域に兵士を輸出してきた。これに対して、サウジアラビアはハリリのような政治指導者に影響力を行使しただけだ。

レバノンやイエメンは中東情勢において重要ではない。勢力均衡を決めるのはシリアとイラクである。これらの国にサウジアラビアが介入するのは、そのコストもリスクも非常に高い。今はイランが先行している。2011年、サウジアラビアがシリアの反政府派を支援したのは、イラクでイランが勢力を拡大したことに対抗する動きだった。しかし、それは失敗した。アメリカが手を引いて、シリア内戦の結果は、モスクワ、アンカラ、テヘランが決めるだろう。

リヤドは、地域の同盟を育てるコストを学んだ。エジプトへの巨額の支援は、期待したような政治的・軍事的な利益をもたらさなかった。シシAbdel Fattah el-Sisi大統領は、シリアのアサド政権との関係を断たなかったし、イランとの敵対を求めるサウジアラビアの圧力を拒んだ。また、イエメンのフーシ派に対する合同軍の派遣というサウジアラビアの要請にも応えていない。

サウジアラビアの最も目立った成果は、トランプ政権との関係修復だ。リヤドは、オバマ政権が説いたテヘランとの和解、中東世界の分割、というアイデアを嫌い、その経験がトラウマとなっている。

基本的には、テヘランとリヤドのどちらが支配するかは、その資源と能力に依存する。ネットワーク、専門家、経験、戦略において、武装集団を動かすイランは優れている。また、イランは一貫した支援を続けてきた点でも同盟者を得ている。

イランに対して反撃するには、サウジアラビアが国際的な支援を得なければならない。そのために、コストのかかる外交的な野心は抑え、国内の、重要な改革を優先するべきだ。

PS Nov 17, 2017

The Saudi Prince’s Dangerous War Games

SHLOMO BEN-AMI

MBSは、明らかに、ペルシャ湾岸で唯一の覇権国家であることを示したがっている。そして、イスラム世界におけるスンニ派イスラムの守護者でありたいのだ。しかし、その努力はますます素人のギャンブラーに見えてきた。

イランを挑発しても、それはサウジアラビアの最善の利益につながらない。MBSは、サウジの軍事協力がイランに匹敵しないことをよく知っている。彼の頼みの綱はイスラエルとの軍事協力であるが、イスラエルがイランとの戦争に参加するとは限らない。

PS Nov 20, 2017

The Abnormality of Oil

JIM O'NEILL

FT November 22, 2017

Iran and Saudi Arabia on the brink of a proxy war over Lebanon

DAVID GARDNER

FP NOVEMBER 22, 2017

Tehran Is Winning the War for Control of the Middle East

BY JONATHAN SPYER

NYT NOV. 23, 2017

Saudi Arabia’s Arab Spring, at Last

By THOMAS L. FRIEDMAN

サウジアラビアが、独自にアラブの春を開始した。サウジ・スタイルで。

32歳の皇太子、Mohammed bin Salman (M.B.S.)と、リヤドの郊外で4時間近く話し合った。彼は私の年齢の半分であるが、これまでのいかなるアラブの指導者よりも、この国を変えるアイデアに燃える人物だと思った。

政府支出の10%が賄賂になっている、とM.B.S.は指摘した。王子やビジネスマンの汚職を尋問するためにthe Riyadh Ritz-Carltonへ閉じ込めた。これは権力闘争ではなく、サウジの検察庁による捜査の結果である。容疑者たちは証拠を示されて、95%は罪を認め、その資産を国庫に返済した。法廷で争う者もいる。

サウジのビジネス界はこれを歓迎している。汚職は以前から問題視されたが、対策は効果がなかった。それはボトムアップに行われたからだ。今度は違う。トップダウンで行い、その結果、商人たちには賄賂を出さないように警告のシグナルが伝わったはずだ。これでシステムは信頼を取り戻す。市井の人々は広く支持している。

M.B.S.は、サウジアラビアを1979年以前に戻そうとしている。その当時のサウジは、「穏健な、バランスの取れたイスラムの国であった。世界に対して開かれ、すべての宗教、すべての伝統の人々を受け入れた。」 M.B.S.は最近の投資家の会議で演説した。

私は、彼の仕事を観て、アメリカの歌劇「ハミルトン」の1節を思い出した。コーラスは問う。「なぜ彼は時間が消えてしまうかのように、いつも急ぐのか?

「なぜなら」とM.B.S.は答えた。「私は死ぬ時になって、自分が思い描いたことが完成せぬままに死ぬ、ということを恐れるからだ。人生は短い。」


 トランプの税制改革

NYT NOV. 16, 2017

Everybody Hates the Trump Tax Plan

Paul Krugman

上院に提出された共和党の税制「改革」案は、中産階級や労働者階級に対して、さらに、推定1300万人の保険に未加入の約1300万のアメリカ人藻加え、増税になるが、そのすべては法人税の大幅削減につなげるためだ。一般国民は同意しないだろう。しかし、少なくとも企業の重役たちは改革案を支持するはずだ。

実際は、そうでもない。数日前、トランプの経済顧問であるGary Cohnが企業家の重役たちに会った。そして彼らは、減税によって投資を増やす者は手を挙げてほしい、と尋ねられたが、投資を増やすと手を挙げた重役は少数だった。

右派のイデオローグたちと違い、企業の重役たちは現実の世界に生きているからだ。税率は投資を決定する重要な要素ではない。たとえ大幅な減税がなされても、企業の支出は増えないと知っている。このことは、減税案の主要な正当化の理由を失わせる。減税は、豊かな者をさらに豊かにするために行われるのだ。

トランプ政権は、こう説明している。企業の利潤に対する税金が減れば、民間投資が増え、経済成長が加速する。成長の成果は労働者階級にも高賃金として波及する。そして税収が増えるから、減税はその税収の不足を自ら埋め合わせるだろう、と。

この話のいくつかの部分は正しいが、言及していない問題がある。結局、企業の支出はどこから資金を得るのか? アメリカ人の消費を減らしたり、貯蓄を増やしたりすることはないだろう。資金は外国から来る。株や証券、外国人に対する資産を売るのだ。

それはドル高と巨額の貿易赤字をもたらすだろう。楽観的な推計でも、この先10年間で6兆ドルだ。この貿易赤字は製造業に破壊的な影響を与え、トランプが増やすと約束した雇用を、およそ200万人分も破壊する。

NYT NOV. 17, 2017

How Cutting Taxes Makes Life Worse for the Rich

By ROBERT H. FRANK

FT November 22, 2017

A Republican tax plan built for plutocrats

MARTIN WOLF

NYT NOV. 21, 2017

Paul Krugman - New York Times Blog

Tax Cuts, Growth, and Leprechauns


 愛着理論

NYT NOV. 16, 2017

Our Elites Still Don’t Get It

David Brooks

愛着理論attachment theoryによれば、人間は人生の最初の関係性から形成される。その後の人生を送る手段を手に入れる。

われわれはさまざまな選択された、仕事、配偶者、趣味、あるいは選択されることのない関係、家族、故郷、エスニック、宗教、国家、遺伝子によって変化する。アメリカの歴史を通じて、社会も同様の変化を生じる。家族、コミュニティー、信念、そして民主主義と資本主義を経て、自由や個人の権利を称賛する。

むき出しのリベラリズムという木になったままでは、社会は不安定であるが、個人の権利や自由が追加されていく。しかし、それは金融危機や、個人の疎外を生むことがある。国民統合の物語がなければ、不信、分極化、果てしない政治抗争が起きる。

ドナルド・トランプは部族主義の力に訴えた。人々の疎外感に文化的な解決策を示した。歴史が示すように、人々は孤立よりファシズムを好み、道徳の混乱より権威主義を好む。

伝統的な共和党員は、税制改革がポピュリズムの解決策だと信じ、主流の民主党員は、再分配によって疎外感を解消できる、と信じる。ワシントンの政策を決めるのは、官僚制度と文化的な部族主義を放棄した貴族たちだ。

歴史には、さまざまな復活の例がある。その最初の一歩は、問題をその根源において理解することだ。


 グテーレス国連事務総長

FT November 17, 2017

UN secretary-general António Guterres on Trump and North Korea

Gillian Tett

9代国連事務総長グテーレスAntónio Manuel de Oliveira GuterresがニューヨークのUNビル38階の部屋に座っている。

ここでの食事について、つまらない、切れ味の悪い、重苦しい(Dull, bland and stodgy)と嘆くが、それは国連にも当てはまるだろう。Kofi Annanのように活躍した事務総長もいたが、前任者Ban Ki-moonは全く目立たなかった。

UNへの批判も多い。コンゴ民主共和国における平和維持活動は、兵士たちによる強姦、汚職が問題となっている。信認の危機である。しかし、改革するにも、安保理の常任理事国によって制約された条件であることを知っている。

グテーレスは、ポルトガルの独裁が終わったとき、政治に飛び込んだ。民主化に向けて合意を形成し、中国へのマカオ返還を進めた。植民地であった東チモールをUNに委ねた。グテーレスは難民高等弁務官事務所UNHCRの代表として信認を得た。そして前評判を覆して、すべての常任理事国の支持を得て事務総長選挙に勝った。UNHCRのコスト・カットに成功し、中国との関係も良好であったからだ。

トランプ、北朝鮮に深い憂慮を示し、イラン、そしてサイバー戦争の危険性を大いに強調した。政治や外交のむつかしさは、部屋に2人の人物がいても、交渉は6人が参加している、ということに表現される。それぞれの人物が、自分と相手の心の中を想像するからだ。

政治でも、国連の改革でも、必要な資質は、ひたすら忍耐、忍耐、忍耐、忍耐、忍耐である。

FP NOVEMBER 16, 2017

Russia Vetoes U.N. Effort to Finger Those Responsible for Syrian Chemical Weapons Attacks

BY COLUM LYNCH


 ジンバブエの政変

NYT NOV. 17, 2017

The Cloudy Dawn of a Post-Mugabe Era in Zimbabwe

By THE EDITORIAL BOARD

NYT NOV. 17, 2017

Mugabe and Other Leftist Heroes

Bret Stephens

FT November 18, 2017

Hope comes to Zimbabwe and Africa at last

MICHAEL HOLMAN

ムガベによる長期支配をどうやって終わるのか? 独立に関わった彼の仲間をどうやって腐敗した権力から取り除くのか? 経済の混乱や周辺地域における成長から利益を得てきたエリートたちに代わって、反対派の人々の意見がどうやって政治に反映されるのか?

19902月にネルソン・マンデラが釈放されて以来、アフリカ大陸はこうした地殻変動を続けてきた。ジンバブエは、独立戦争後の混乱から経済を立て直してきたが、1990年代に、ムガベが煽動した群衆による4500におよぶ主に白人所有農地の占拠により、政治的に破壊された。

野蛮な介入と不正な選挙によって民主化への希望は失われ、与党であるZanu-PFが一党支配を続けてきた。ジンバブエの衰退は、地域経済の成長のエンジンではなく、癌へと変わった。それにもかかわらず、南アフリカ経済が拡大する中で、周辺諸国の資源や製品輸送のネットワークとなって、ジンバブエも潤った。

地域市場統合SADCthe Southern African Development Community)は停滞し、南アフリカ共和国や、かつての植民地宗主国イギリスは、ジンバブエの政治混乱に関与することを避けてきた。それは介入に限界のあることを理解した、賢明な判断であったが、緊急支援さえも抑制しているのは残念だ。

ムガベに追放された副大統領Emmerson Mnangagwaが権力を握るだろうが、西側は慎重に対応するべきだ。ジンバブエ国民が、長いシニシズムを乗り越え、今こそ希望を取り戻す時期である。

FT November 18, 2017

Zimbabwe: a ‘slow motion coup’

David Pilling and Joseph Cotterill in Harare

ムガベは1980年に白人少数派から銃口によって権力を奪って以来、ジンバブエの最初の、そして唯一人の指導者であった。40年近い支配において、かつて強力な経済を誇った国が、緩やかな、ときには劇的な衰退を経て、その終末に至った。

「スローモーションのクーデタ」と観る者もいる。Constantino Chiwenga将軍は、周辺諸国の反応を観て、特に南アフリカが軍事クーデタによる体制転換を強く拒んでいることから、慎重な行動を求められる。

ムガベの後継者の地位にあったが、最近、解任された、元副大統領Emmerson Mnangagwaが、軍と共謀して、与党Zanu-PFの分裂を回避するためにムガベ大統領を拘束したようだ。ムガベは、その妻グレース・ムガベを、新たに後継者に指名しようとしていた。しかし、ムガベの行動はそれほど制限されておらず、軍の意図は、後継指名を元に戻し、任期の終わりに引退することをムガベに同意させるだけであろう、という。ムガベの抵抗により、軍の介入はその勢いを失うかもしれない。

Zanu-PFも、反政府勢力も、慎重な姿勢で、この軍の介入を歓迎している。それは与党の腐敗を正し、より多元的な政治システムに変わる一歩を示す、と考えているからだ。有力な反対派の指導者Morgan Tsvangiraiは、権力の移行を描くロード・マップが重要だ、と指摘する。包括的な改革のために、自由で、公正な、信頼でいる選挙を行うべきだ、と。

首都ハラレの人々は大統領に関してあまり語らない。彼が権力を完全に失ったとまだ思えないからだ。多くの支配的な地位にある人々は、軍がZanu-PFの支配を終わらせることはなく、むしろその再確立を狙ったものだ、と言う。軍は、グレースとその側近たちを嫌った。介入は、ジンバブエではなく、与党を救出するものだ。

ムガベの右腕であったMnangagwaについて、農業の生産性を高め、国際社会やIMF・債権者との関係を良好に維持することに貢献した、と評価する者もいる。しかし、支配体制は変わらないだろう、と批判する声がある。独立後の初期の反政府運動を軍によって弾圧し、1000人以上の市民の犠牲者を出したNdebeleコミュニティーでの行動に、彼は責任がある。

かつては農産物の輸出と優れた工業力、最高水準の教育を誇ったジンバブエが、経済破たんとハイパーインフレーションにより、多数の移住者、難民を近隣諸国に出している。たとえ軍がZanu-PFの権力を維持したいと願ったとしても、この介入が全く異なる政治の方向を可能にするだろう、と反対派は考えている。

FT November 20, 2017

Rescuing Zimbabwe from the legacy of Robert Mugabe

PS Nov 20, 2017

How Women Shape Coups

RAJ PERSAUD, PETER BRUGGEN

FP NOVEMBER 21, 2017

Mugabe Is a Goner, But His Looting Machine Is Here to Stay

BY TODD MOSS

Mnangagwaは、Zanu-PFが築いた支配体制と管理された選挙の一部として、その弾圧に加わってきた。膨大な汚職の帝国において、トップの少数者が利益を得るだけだ。Mnangagwaは、このシステムを何も変えないだろう。


 トランプの外交と産業

FT November 17, 2017

China will fill the space left by America’s retreat

トランプのアジア歴訪は、アメリカの長期的な同盟諸国にその関与を強く疑わせるものであり、アメリカの諸価値を損ない、アメリカをアジアの重要な決定から外すことになった。

歴訪の目的は、1.北朝鮮の脅威に対して協力する、2.新たに攻勢を強める中国に対する地域の警戒を指導する、3.トランプの好む取引を重視した、ゼロサム型の通商関係を築く、ということだった。穏やかな東京滞在が、ベトナムにおけるWTO批判で、一気に暗転した。それは悪質な経済ナショナリズムを公然と主張したものだ。

北京はこの機会を逃さず、アジアの主導権を奪うだろう。

Bloomberg 20171118

What Trump Got (Half) Right in Asia

By Tobin Harshaw

中東、ヨーロッパ、アジアにおけるトランプの外交に関して、ジョセフ・ナイに尋ねた。

アメリカがアジアに関与することを示す意味で、トランプが国際会議に参加したのは成功だった。サウジアラビアでMbSが起こした政変は、トランプがいなくても、やったはずだ。トランプが演説に取り入れた「インド・太平洋」という概念は重要だ。これは中国の台頭に関わり、日本に加えて、インドとオーストラリア、さらにベトナムなどの小国、を含む連携を示している。

日本の米軍基地において、トランプが米日の同盟関係を重視する姿勢を明確にしたことは、選挙中、日本の防衛を軽視し、核保有を勧めた発言を撤回する意味で、必要な言葉であった。アメリカの武器をもっと買え、貿易不均衡を税制せよ、という発言は、トランプの独自なセールスマン外交、不動産開発業アプローチであるが、安全保障を議論する賢明な視点ではない。習近平との会談で、台湾や北朝鮮と貿易問題を合わせて持ち出すことも同様だ。

アメリカと日本で専門家たちの会議に参加した。その見方を総括すれば、アメリカが限定的な軍事力行使に踏み切る可能性は5分の1、中国が北朝鮮への圧力を増して双方の凍結を実現する可能性も5分の1である。どちらの可能性もゼロではないが、私はどちらも起きないと思う。

トランプの下でアメリカのソフトパワーが損なわれた、という報告がある。しかし、その国のソフトパワーを決めるのは市民社会であって、政府ではない。

TPPを離脱したことを、習近平は明らかにチャンスと見ているだろう。TPPは地域の高水準な貿易ルールを定めるはずであった。アメリカの離脱後、TPP11として、日本などがそれを樹立できるか、また、アメリカが復帰できるか、私は注目している。

オバマ政権でも、アジア「旋回」、むしろ「リバランス」論が、市場と安全保障とを結び付けていた。ジョージ・W・ブッシュ政権が中東にまき散らした軍事力をアジアに移したのだ。海軍の60%を太平洋に展開する目標を立てた。しかし、トランプにはこうした結びつきがない。アジアにおける米軍を支持しても、貿易では2国間の取引だけだ。

日本に5万人、韓国に28000人の米兵が駐留するのは、米軍の信認を高めるためだ。北朝鮮が日本や韓国を攻撃すれば、アメリカがかかわらないことは考えられない。それが抑止力を高める。マティスが述べたように、もしソフトパワーが足りなければ、それだけ多くの弾薬が必要だ。アメリカへの留学生受け入れを減らし、海外援助を削減するなら、トランプはより多くの軍事力を持たねばならない。

しかし、政府はこのバランスを見失っている。

FT November 22, 2017

Donald Trump’s unwitting surrender to China

EDWARD LUCE

60年前、ロシアが人工衛星スプートニクを打ち上げて世界を驚かせたとき、トランプは11歳だった。アメリカはその後、インターネットでもGPSでも、ソ連に対する優位を獲得した。しかし今、71歳の大統領はスプートニクの衝撃を感じていないようだ。中国は2020年までにAIの開発で支配的な地位を得る計画を発表した。

中国のAI開発には、北朝鮮の核の脅威のように、軍事的な封じ込めができない。中国がアメリカを飛び越える可能性は否定できず、ロシアのプーチン大統領は「誰であれ、AIを指導する者が世界の支配者になる」とコメントした。

トランプは、「インテリジェンス・システム」の開発資金を11%削減し、連邦政府の研究開発支援も5分の1を削減する。NASAも同様だ。トランプは合法移民の受け入れを半減させ、アメリカが最良の研究者を雇用する機会を制限する。

ハイテク企業のトップはアメリカが指導しているが、中国には2つの利点がある。1.アメリカ以上に急速に経済がデジタル化している。Alibaba, Tencent, Baiduにより、中国のe-コマース取引額は世界の40%を占める。Tencentは市場評価額でFacebookを超えた。2.中国の民間部門は政府と協力している。グローバル・サプライ・チェーンへの依存や脆弱性を懸念して、中国は自給力を高め、貿易戦争にも耐えられるようになった。同じ理由で、AIの開発を加速し、Google, Facebook, Twitterの市場参加を拒んだ。

これに対して、トランプの目標は法人税率の20%への引き下げだ。しかし、アイゼンハワーの時代、個人所得の限界税率は90%以上であった。それでも、アメリカ政府と企業がソ連に勝利するのを妨げなかった。トランプが舵を握るアメリカが、明日の技術分野で勝利するとは思えない。

PS Nov 23, 2017

A Belt and Road for the Americas?

LUIS ALBERTO MORENO


 ロボットとAIの未来

FT November 17, 2017

Why the robot boost is yet to arrive

TIM HARFORD

ロボットが普及し、生産性が爆発的に伸びる、という予想は現実と大きく異なっている。生産性の上昇は何年も失望する状態であり、失業者は少ない。

なぜか? これまでの予想は大げさすぎたのか? 技術革新の実現が大きく不均等に進むからか? あるいは、現実のデータに正しく反映されていないのか?

おそらく、変化は遅れて大きな影響を及ぼすのであろう。生産性上昇が少ないことも同じ理由である。まだ、ロボットの実現する世界を待つことだ。

FT November 19, 2017

Chipmakers bet on the ‘big bang’ of artificial intelligence

Tim Bradshaw in Los Angeles

NYT NOV. 20, 2017

How Evil Is Tech?

David Brooks

FT November 21, 2017

Harnessing technology to challenge inequality

Mustafa Suleyman

気候変動や不平等など、社会にとって最も緊急の、持続する問題を、われわれが解決したいと思うなら、技術が重要な役割を果たすだろう。多くの分野で新しい知識、アイデア、戦略を発見することを通じて、AIによる決定的な科学進歩が、それを可能にする。

しかしある種の問題で公共の関心が高まっているが、技術はあまりにも重要であり、その影響は広範囲におよぶ。少なくとも3つの点で、技術は現実世界と齟齬を生じている。

1.技術の開発者とそれを利用するコミュニティーとの乖離。シリコンバレーの研究者の給与はその他のアメリカ社会に比べて高く、しかもジェンダー、階級、民族、その他を反映していない。それは意図しない害悪をもたらす危険がある。

2.技術の実際の利用に情報の非対称性がある。複雑なアルゴリズムを開発するには、それが社会に及ぼす影響を深く理解するために、新しい組織を必要とする。社会運動家、政府、技術者は、しばしば互いに批判し合うが、制度の役割について真に議論し、関与することを優先するには、勇気と信頼が求められる。

3.インセンティブに構造的な不均衡がある。ビジネスの標準的な評価基準は、世界を改善する試みに対する社会的責任を含んでいない。技術分野に多額の資金があったとしても、企業家の多くは失敗する。資金提供者や投資家に企業の成長を期待させるためだけに、企業家は何でもしなければならない。複雑な社会的外部性は考慮されない。世界で最も聡明な人々が、最も安全で、成功すると証明済みのアイデアやビジネス・モデルに集まる。

5億人がきれいな飲み水を利用できないのに、個人向けのソーダ飲料に新商品を開発する。8億人もの栄養不良の人々がいるのに、食事を電話注文できる新ビジネスを起こす。インセンティブの構造を、もっと現実世界の問題を重視し、企業を設立する人々が倫理的に行動するよう、促すものにするべきだ。

より公正な世界は、偶然によって生まれるのではない。倫理的に優れた結果を得るには、アルゴリズムやデータ以上のものが必要だ。それは、社会的な議論や責任の質に依存している。技術の力を信じる者は、そのシステムが人間の最高の集団的な自己を反映するように万全を期すべきだ。

PS Nov 21, 2017

The Platform Economy

ANNE-MARIE SLAUGHTER, AUBREY HRUBY

最近は、仕事の将来に関する会議がない週はない。ロボットは予想されたほど急速に広まっていないが、ますます多くの仕事を奪うだろう。しかし、ますます多くの仕事も作るだろう。

しかし、将来を語るより、現実を見てはどうか? 世界人口の80%は新興経済に住むのだから。そこではインフォーマル市場と流動的な雇用形態が支配している。3つの教訓が得られるだろう。1.人々は、1つではなく、複数の所得源によって生活する。2.伝統的ネットワークの上に、プラットフォーム型の経済が出現する。3.新しい仕事のパターンが所得の極端な不平等をもたらす。

発展途上諸国のインフォーマル経済を特徴づけるのは弾力性と不確実性である。人々は、不確実な労働市場に対して、時間、専門知識、ネットワーク、アイデアを売って対処する。仕事はオンラインでマッチングする。ガーナでは、法律サービスでも、伝統的な法律事務所に代わって、さまざまな売り手と買い手がプラットフォームを共有している。

新興市場の労働者がデジタル経済に集まるのは、弾力性が有利だからとか、新ビジネスへの情熱からではなく、金融アクセスや教育機会が限定されているために、ほかに生活する方法がないのだ。それにもかかわらず、彼らの経験は職場の分散化や労働者の上昇に関する多くの実験を示している。

FT November 24, 2017

The internet of things helps spark a rust belt revival

ANNE-MARIE SLAUGHTER

アメリカの諸都市はますます乖離し続けている。一方は、「正しい」産業を持つ、確実な人的資本に支えられた成長する都市。他方は,「間違った」産業を抱える、人的資本の基礎を欠く衰退都市である。


 東西ドイツの分断

SPIEGEL ONLINE 11/17/2017

A Country, Still Divided

Why Is the Former East Germany Tilting Populist?

By DER SPIEGEL staff


後半へ続く)