IPEの果樹園2017 

今週のReview

11/20-25

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ポピュリスト政治に対抗する ・・・サウジアラビアの変身 ・・・タックス・ヘイブン ・・・大国による世界秩序の逆転 ・・・テクノロジー企業の巨大化 ・・・日本経済の構造問題 ・・・Brexitと闘う ・・・デジタル経済の税制 ・・・グローバル・ガバナンス ・・・ジンバブエのムガベ失脚

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 ポピュリスト政治に対抗する

PS Nov 13, 2017

How to Combat Populist Demagogues

DANI RODRIK

最近、会議でNAFTAについて話し合った。トランプ大統領はNAFTAのせいで労働者が苦しんでいると非難し、再交渉を求めている。あるエコノミストが、NAFTAは重要じゃなかった、と述べたことに私は驚いた。彼は専門家としてNAFTAの成立を強く推進した1人である。

また、数週間後に、ユーロ圏の国で財務大臣であった人物の夕食会に出た。彼は、ポピュリストたちが守れないような約束をする、とわれわれは攻撃したが、その批判は自分たちにも帰ってきた、と述べた。

多くのエリートたちは、貧しい人々、労働者がトランプのような人物に投票したことに戸惑った。結局のところ、ヒラリー・クリントンの約束した政策の方が、労働者にとって好ましい結果になっただろうから。このパラドックスを解くために、エリートたちは有権者が無知で、非合理的で、人種差別的である、と考えた。

しかし、別の説明もできる。有権者は合理的で、自己利益に従ったのだ。主流の政治家たちが有権者の信用を失った。そして有権者は、反主流の候補者たちの方が、確実に、支配的な政策から離れられると期待した。

これをエコノミストは、情報の非対称性、と考える。政治家たちは改革を唱えるが、有権者たちは政治指導者を信じない。グローバリゼーションの利益を誇張して売りつけ、彼らの苦悩を軽視してきた政治家たちと何も違わない、と思うからだ。クリントンの場合、彼女は民主党のグローバリゼーション推進派に近く、金融部門にも密接な関係を持っていた。彼女は選挙中、公正貿易を約束し、TPPへの支持を撤回した。しかし、国務長官としてTPPを推進したのは彼女だった。

エコノミストが、プーリング均衡、と呼ぶ問題だ。伝統的政治家と改革派の政治家は同じように見える。だから有権者は、システムを破壊する、と約束するポピュリストやデマゴーグに票を入れてしまうのだ。この条件では、伝統的政治家が決してマネしないほどに「十分に過激」でありながら、ポピュリストにならず、むしろ彼らの目的をくじくような改革派である「抑えた過激さ」を持たねばならない。

中道派の政治家はデマゴーグの怒りを退けるために、非常に狭い経路をたどらねばならない。その目的に合うのは、新しい、若手の政治家である。同時に、政治家になるのは国益を実現するためだ、と明確にすることだ。すなわち、既存の政治的な聖域をすべて攻撃しなければならない。たとえば、金融の自由化、財政緊縮へのバイアス、経済に対する政府の消極さ、世界中で資本移動を自由化する姿勢、国際貿易の神聖化。

主流派から見れば、そのような主張は「過激」である。しかし、ポピュリストを支持する有権者の関心を取り戻せる。そして政治家として、ネイティビズムではなく、包括的な、国民的アイデンティティを示して、政治をリベラルな民主主義の規範内に回復するのだ。


 サウジアラビアの変身

NYT NOV. 10, 2017

Can the Saudi Crown Prince Transform the Kingdom?

By MADAWI al-RASHEED

サウジアラビアは生まれ変わろうとしている。モハマドMohammed bin Salman皇太子は、11人の王子、数人の閣僚、実業家を逮捕した。その2週間前、リヤドでサウジの未来を宣伝したのだ。

石油だけに依存しない多様化した経済。5000億ドルをかけて紅海沿岸に未来都市Neomを建設する。それは穏健なイスラム国家の再生である。富裕なエリートたちの多く、王子たちと取り巻きは追放する。

モハマド皇太子は1979年をサウジの過激化した年とした。それはイランのイスラム革命が起きた年だ。それはサウジアラビアにとっても熱病のような年だった。イランはサウジの誇る唯一のイスラム教国家という地位を脅かしたのだ。

不安に駆られたサウジ国民の間に、18世紀のイスラム純粋信仰としての、ワッハービズムが復活した。その1集団がメッカのモスクを占拠して、政府の腐敗、西側との関係、西洋化に反対した。サウド家は宗教的な混乱を鎮静化するより、過激な集団と妥協した。1979年はキャンプ・デーヴィッド合意の年でもあった。エジプトがイスラエルを承認したのだ。国民の不満を背景に、サウジアラビアはエジプトを追放した。

ソ連がアフガニスタンに侵攻したのも1979年であった。サウジアラビアは、この機会を利用して、信仰心を示すようにした。自国のイスラム過激派をアフガニスタンの聖戦に送り、殉教させたのだ。その結果は、ビンラディンの指揮するグローバルな聖戦であった。

モハマド皇太子は穏健なイスラム国家がどのように実現するのか示さなかった。さまざまな信仰に関する自由な議論を許すべきだろう。逆に、多くの聖職者、知識人、思想家が投獄されている。サウジアラムコの社員たちは壁に囲われた敷地内で自由に暮らしている。サウジの富裕層も同じだ。しかし、体制はこうした生活を壁の外には広めない。

モハマド皇太子は、国民に絶対王政の新しい正当性の説明を売り込む必要がある。しかし新都市の建設は、経済発展や雇用機会をもたらすことはなく、人間よりも。ロボットに依存している。彼はあまりにも多くのことを、余りにも短時間に計画したのだ。

この粛清は権力を固めるためのものであった。


 タックス・ヘイブン

NYT NOV. 10, 2017

How Corporations and the Wealthy Avoid Taxes (and How to Stop Them)

By Gabriel Zucman

企業が利潤をタックス・ヘイブンに移転することでアメリカが税収を失っている額は、私の推定によれば、ほぼ700億ドルである。それは各年の法人税の20%に近い。これは合法である。

世界の課税避難所に超富裕層が保有する資産は、推定で8.7兆ドル、世界GDP11.5%に匹敵する。その多くは関連する課税当局に報告されていない。これは、・・・合法とは言えない。

ここには莫大な資源の無駄があり、そこからの税収があればわれわれには減税できるし、社会にとって有益なプログラムにもっと支出できるはずだ。

どのようにして行うのか? たとえば、今、あなたの目の前にあるGoogleもそうだ。

最初、Googleは検索や広告に関する重要な技術の知的所有権を、すべてGoogle Ireland Holdingsに移転した。アイルランドの規制では、バーミューダにおいて「経営」することを認めているからだ。そこからさらに別会社のGoogle Ireland Limitedに技術の利用ライセンスを与えている。このGoogle Ireland Limitedがすべての国のGoogle子会社と契約し、技術を利用させている。利用料から生じた利潤はバーミューダ経由で親会社のthe Google Ireland Holdingsに送られる。

2015年、155億ドルの利潤を出したGoogle Ireland Holdingsは、バーミューダで数人しか雇用していない。その法人税率は?

ゼロである。


 大国による世界秩序の逆転

NYT NOV. 10, 2017

Trump in the Age of the Strongman

Bret Stephens

習近平とモハマド・ビン・サルマンは、かつてないほど権力を個人に集中した。ドナルド・トランプは、自由世界の指導者であるはずだが、彼ら2人の権力確立を祝福した。

彼らだけではない。われわれは強権指導者の時代に生きている。トルコのエルドアン、エジプトのシシ、フィリピンのドゥテルテ、ハンガリーのオルバン、ロシアのプーチン。トランプはその仲間ではない。アメリカのシステムがそれを許さない。しかし彼は強権指導者の心理的な素質を持ち、彼らのような権力集中を熱望している。

われわれは、また、民主主義の自信喪失の時代を生きている。低成長の常態化。勝利する道が見えない戦争に踏み込み、あるいは、それを恐れて踏み込めない。議会は機能せず、政党制は破たんし、大統領は愚か者だ。

それは歴史的に観て、およそ40年ごとに再現した。1930年代、1970年代にも、専制体制が現れ、民主主義は衰退した。政治の交渉過程に対する嫌悪感から、カリスマの政治、効率性の政治、その両方が熱狂的に支持された。

現代が異なるのは、以前の時代にはフランクリン・ルーズベルトやドナルド・レーガンがいたことだ。彼らは開放型の社会が閉鎖社会に対する優位性を疑わず、民主主義を歴史の使命として、道義において支持した。トランプは違う。

北京を訪問したトランプは、歓迎式の軍事パレードに感動した。「あなたは私にとって特別な人間だ」と習に話しかけ、その独裁的権力の獲得を「驚くべき昇進だ」と祝福した。香港で反体制的書店の体制による店主誘拐、ノーベル賞受賞者の投獄、公海における米海軍の拿捕があっても、習が支配する体制について何も言わなかった。

国家安全保障会議や国務省が、その使命から民主主義や人権を削った。それはリアリズムに依拠し、民主主義を過剰に奨励して失敗した、過去の厳しい経験から学んだからだろう。しかし、アメリカ大統領の理想は強権指導者ではない。それはアメリカの価値に反する。自由を支持して立ち上がる意志が疑われる。

Bloomberg 20171111

Putin's Trolling of the West Is Not Just a Tactic

By Leonid Bershidsky

20162017年にアメリカや西側民主主義国で行った公然の情報介入は、プーチンの戦略的失敗であったのか? エストニアの大統領Toomas Hendrik Ilvesは、会議で、戦術的には大成功だが、戦略的に観て、失敗だった、と述べた。プーチンは多くの国を敵にしただけだ。

西側の専門家たちは、プーチンの力を数年に関して観ている。しかし、それは戦術か、あるいは、戦略か? もし他国に混乱を起こす作戦、選挙でポピュリストを支援する作戦であったなら、それは失敗であった。プーチンは、短期のゲームによって、長期のゲームをしくじった戦術家だ。

しかし、プーチンの権力を観察してきたが、大統領としての最初の8年間に、彼は2つの異なる長期ゲームを行った。1期目は、パックス・アメリカーナのルールに従って、経済効率と国際的な評価を高めようとした。ロシアのNATO加盟についてまで話した。

2期目は、西側のルールに飽き飽きして、ロシアは、アメリカやヨーロッパ諸国と話すとき、同じ地位に立とうとした。石油価格の上昇から莫大な富を得て、ロシアの富が国際的に波及し、プーチンの自信となった。ロシアはG8に参加し、テロとの戦いでも仲間であった。

2008-2012年の大統領でなかった4年間、西側とのパートナーシップに基づく戦略はうまく行かなかった。西側のリビアに対する軍事介入に反対し、ロシア人が不正選挙に抗議する中で、クリントン国務長官は公然とロシア国内の抗議活動を支持した。

プーチンの行動は、混乱したものでも、予測不能なものでもなかった。おそらく、西側指導者の誰よりも戦略的であった。3度目の大統領任期が、突然、機会主義的な戦術家になったのではない。第3の長期ゲーム、彼自身にとっても、これは未知の領域に向かう邪悪な旅である。

クリミアを併合し、ウクライナ東部で分離独立派の内戦を刺激し、シリアに軍事介入し、英米、その他の西側諸国でプロパガンダを流し、選挙に介入した。フランスのル・ペンのような、友人と極右政治家をヨーロッパ各地で支援した。プーチンは、西側との協力に利益はない、と確信したのだ。ロシアが何をしても、西側はロシア制裁をやめない。

だからプーチンは、西側が、特にアメリカが非常に不安定で、わずかな攻撃にもバランスを崩すことを示した。それは、発展途上諸国に対して、アジア、中東、ラテンアメリカ諸国がアメリカのヘゲモニーに挑戦するよう促したのだ。西側は粘土の足で立つ神殿だ。フィリピンや中国で、それはうまく行った。

プーチンは、かつて西側の指導者たちとG8に参加し、ハイレベルの外交や心のこもった会話を行えたが、今やその失った地位を苦しんでいる。トランプとの会談を求めたクレムリンの外交努力を、後悔やメンツの維持、と観るのは間違いだろう。プーチンの考え方は逆転しえず、ロシアが苦境を耐える能力はいつも過小評価されている。だれが正しいか、現時点ではわからない。

西側がプーチンのゲームに勝つには、民主的制度が機能すること、人々の望みを政府が叶えること、発展途上諸国や、さらにはロシア人にとっての模範であると示すことだ。これまでのところ英米はそれに失敗している。実存的な危機として分裂と破たんをもたらすプーチンの戦略は、必ずしもまだ、失敗していない。

Bloomberg 20171111

Trump, Brexit and Echoes of World War I

By Tobin Harshaw

1次世界大戦の前に似てきたのか? このことを26冊の著書があるイギリスの歴史家Sir Max Hastings、特に"Catastrophe 1914: Europe Goes to War"の著者に尋ねた。

政治家たちは100年前と同じようにナショナリズムをもてあそんでいる。中国の指導者たちは反日感情を煽り、経済改革の口実にする。他方、安倍晋三はナショナリズムを同様の理由で利用している。ウラジミール・プーチンはシリアが解体されるのに満足し、20世紀の戦争に対する集団的反省であったEUは、その創設以来、これほど感情が荒廃し、原始的ナショナリズムによって分断されたことはない。

Max HastingsMH): 歴史は決して再現しない。しかし、過去に犯した重大な失敗から、われわれは多くを学ぶことができる。

3年前、中国から軍事使節団がイギリスに来たとき、私は彼らと話すように求められた。彼らは私が第1次世界大戦に関する本を書いたことから、類似のことは起きているか、と尋ねた。私は1つ指摘した。

私にとって1914年の最も皮肉な事実とは、もしドイツ人が戦争しなかったとしたら、彼らが20年以内にヨーロッパを平和的に征服するのは確実であったことだ。経済・産業指標のすべてが、イギリス、フランス、ロシアに対するドイツの優位を示していた。しかしヴィルヘルム皇帝とその将軍たちは兵力のみで優位を判断し、戦争に踏み切った。その結果は、歴史が示すものだ。

私は彼らに、中国政府がその多くの成果を犠牲にしてまで南シナ海や台湾について強硬姿勢を取るべきか、と問いかけたのだ。

MH: 歴史において不可避なものなど何もない。「ツキディデスの罠」という話の半分しか私は支持できない。

Richard Haass and Graham Allisonが指摘した重要な点は2つだ。1.アメリカはもはや、世界のどこでも、何にでも、自分の意志を押し通す力がない。問題によってはアメリカが譲歩しなければならない。特に、中国に。それは厳しい駆け引きだ。

2.われわれはしばしば「平和」という言葉に最高の価値を与え過ぎている。Sir Michael Howardが指摘するように、「安定性」 stability こそがキーワードだ。本当に貴重なもの、われわれを次の戦争に向かうことから救出するものは、安定性と予測可能性である。政治家たちはその意味を語らねばならない。

MH: 「栄光ある戦死」"The Glorious Dead"という言葉を観る。しかし戦争は、狂人を除く、すべての者にとって絶対的に凄惨な経験だ。こうした標語で、社会は大衆を鼓舞し、息子たちを戦場へ送ってきた。若者が死ぬことに栄光など決してない。言いうるのは、ある戦争が他の戦争に比べて、優れた大義を示したかどうか、である。


 テクノロジー企業の巨大化

FT November 15, 2017

Taming the masters of the tech universe

MARTIN WOLF

世界で最も価値のある上位8社はテクノロジー企業である。その市場評価額は合計で4.7兆ドルである。これは上位100社の他の92社の合計額の30%にあたる。この8社とは、アメリカの5 (Apple, Alphabet, Microsoft, Amazon and Facebook), 中国の2 (Alibaba and Tencent) 韓国の1 (Samsung)である。ヨーロッパで最高額のテクノロジー企業SAPは世界60位である。

この市場評価額は何を意味するのか? デジタル経済の問題を、より広範に7つの疑問として示す。

1.アメリカの支配力にとってどのような意味を持つか? テクノロジー分野で主要企業を持たない国は、将来の競争に残らないだろう。

2.この膨大な市場評価額は何か? 独占ではないか? Appleの株式簿価総額は1340億ドルであるが、市場評価額は9000億ドルに近い。この差は、投資家が「正規を超える」利潤を期待しているからだ。

3.競争政策はどうなるのか? シュンペーターの「創造的破壊」よりも、「反競争的」な、新規参入の企業を買収する行為にそれが現れている。

4.マクロ経済的な影響は何か? Appleの総資産額は3750億ドルだが、固定資産はわずか340億ドルだ。これほどの投資で利潤を上げる機会が企業内にはない。それは革新企業への投資ファンドになり、総需要のブラックホールになっている。

5.こうしたビジネスにどうやって課税するべきか? 1つは、独占的なレントに対する課税率を高くすることだ。そして、グローバル課税が必要になる。グローバルなテクノロジー企業に対する領土的な課税の競争が深刻な歪みをもたらす。

6Google Facebookのような、メディアにおけるテクノロジー大企業をどう考えるべきか? メディアは自由で民主的な社会の死活的要素である。2017年に、これら2社がデジタル広告収入の63%を占めた。彼らが創るわけではない情報を集積し、それを拡散する。社会に害をなす者が危険な偽情報を流すことは深刻な問題だ。

7.テクノロジー企業が創る“machine, platform, crowd”は、労働市場に重大な影響を与え、AIの進歩が続けば、世界における人類の地位を変える。

テクノロジー企業は魔法を生じさせるが、だれも宇宙の支配者を選挙していない。政策を担う者たちは、何が起きているのか、知的に把握していなければならない。


 日本経済の構造問題

FT November 12, 2017

Cash-hoarding companies are still a problem for Japan

JOHN PLENDER

日本経済の直面する最大の構造問題は企業の過剰貯蓄である。それがデフレを長引かせている。高齢化が進む中で、日本では貯蓄より消費が増えた。高齢者への年金や手厚い医療保険があるからだ。同時に、労働人口は減少するから、労働者の賃金は高くなるはずだった。

しかし、家計の貯蓄は減ったが、それ以上に企業の投資が減ったため、デフレは終わらない。賃金の上昇も実現しない。終身雇用が雇用の安定性を支えているが、同時に労働者の要求も抑えている。さらに、パートタイム労働者の増加が交渉力を弱めている。

リスク回避的な企業の高利潤は、記録的な水準の内部留保を生んでいる。日本の消費は弱く、1930年代のような不況を回避できているのは、政府が財政赤字を増やして需要を維持しているからだ。政府債務はますます累積してしまう。

安倍政権は、賃金引き上げを求め、また、企業のガバナンスを改革しようとしている。企業がもっと内部留保を株主に配当すると考えるからだ。しかし、日本企業の行動は容易に変わらない。カルビー食品グループの会長が講演で指摘したように、日本企業のガバナンスで優先されるのは、第1に顧客、第2に被雇用者、第3に地域社会である。日本企業はG7諸国の中で配当率が最も低い。

日本企業の経営は、資本家ではなく、経営者と被雇用者が握ってきた。構造的な貯蓄過剰とガバナンスのスキャンダルは、今後も続くだろう。


 Brexitと闘う

The Guardian, Thursday 16 November 2017

No wonder the north is angry. Here’s a plan to bridge the bitter Brexit divide

Larry Elliott

昨年6月、国民投票の前にもどりたい、と願う夢想家は、イギリスの現状を思い出すべきだ。記録的な経常収支赤字、住宅市場の過熱によって維持された成長、金融危機前の水準を超えることのない工場の生産額、貧困地域の人々を狙い撃ちにする福祉の削減。

ロンドンとその北東部だけが豊かになって、イギリスの南北分断は悪化している。旧工業地帯は、30年、40年前の工場閉鎖になお苦しんでいる。失業率は高く、福祉の給付に依存する者が多かった。彼らがBrexitを強く支持したのは当然だ。

Brexitとは、40年に及ぶ脱工業化と労働市場の非正規化が積み重なった結果であった。2度目の国民投票で残留が支持されるとはだれも保証できない。たとえ今度は僅差で残留が決まっても、貧困地帯の人々は、繁栄するロンドンや大学町に対して、システムの不正を見出し、裏切られたと確信するだろう。怒りと絶望が深まる。投票による平和的な解決策を失った場合、彼らはより平和的でなく手段を探す。

国民投票は人々の生活を改善する計画を示すはずであった。今のところ、右派だけがそれを示している。低税率、規制緩和の、シンガポール型テムズ・モデルだ。そのアイデアのいくつかは正しい。南東部は過密で、北部には住宅があるけれど、粗末で、エネルギーを欠く。北部の統合化から始めるべきだ。燃料費の削減、炭素排出量の削減、地域住民への高賃金雇用を提供する。

北部や新産業に投資を移転するため、新しい国民投資銀行を設立する。ロンドン、オックスブリッジの独占状態を破り、新技術を指導できる大学や産業を支援する。高速鉄道HS2の計画に財政を当てるより、費用を抑えたHS3を建設し、Liverpool, Manchester, Leeds, Sheffield and Hull with Newcastleをリンクすべきだ。労働者の熟練を高める教育システムを拡大する。

大胆な地方分権、すなわち、地方に財源を移し、独自に資金調達する、国民投資銀行は地方に設立する、地方の大都市に議会を設ける。1945年、1979年のように、異常な時期は根本的な変革を促す。イギリス経済を活性化し、南北分断を解消する、北部のためのニューディールが必要だ。


 デジタル経済の税制

FT November 13, 2017

The tax reform the US really needs

RANA FOROOHAR

アメリカで税制改革の論争が起きているが、われわれは、ほとんどの富が、どこにでも立地できるような知的財産である時代の、公平で、成長を高める課税方法について議論するべきだ。

大企業はすでに、政治のグローバル化を超えた経済のグローバル化の結果、資本を移転して、最適な税務処理を模索している。このような最適化は金融やハイテク企業にとって最も容易なことだ。なぜなら彼らの資本やデータは移動できるから。彼らがますます経済の大きな部分を占めるにつれて、多くの税収が失われていく。

課税できる利潤と、リアルな経済活動、価値の創造とを、どのように関連付けるべきか、根本的に考えなおすときだ。それは容易に移動できない活動に課税する、すなわち、消費税のようなものになる。

アメリカ企業の利潤の約半分は海外のタックス・ヘイブンなどに保有されている。人々が感じているリベラルな民主主義への不満、大企業が社会で利潤を上げながら、それに公平な形で負担しない、ということが広範な政治の過激化と結びついている。

アメリカでは、法人税を廃止する意見が強い。その場合は、さまざまな税制の抜け穴を防ぐべきだが、政治的に困難だ。他の国でも法人税引き下げが求められるのは、底辺への競争圧力があるからだ。アメリカ企業は領域的な税制への復帰を支持するが、まさに企業や利潤が海外移転されてしまうだろう。

インドのように、テクノロジー企業の自国における販売について追徴金を課す動きもある。シリコンバレーの巨人たちはこれに強く反対する。その弁護人は、利用者の生のデータは石油ではなく、そのままでは価値がない、と主張する。しかし、デジタル・コマースの時代には、まさにデータが価値を持つのだ。大企業のアルゴリズムには価値がない。

各国政府は利用者を代表して、データから大企業が得た利潤から税を取って、自国の利用者に公共サービスで還元すべきだと考えている。しかし、デジタル時代の公平な税制が解決すべき問題は多い。

テクノロジー企業は、大衆が裏切られたと感じるような利潤を得ることは、政治に不都合なだけでなく、自分たちのビジネスを危うくする、と知るべきだ。


 グローバル・ガバナンス

PS Nov 16, 2017

The Pandora’s Box of the Digital Age

CARL BILDT

世界はサイバー戦争による終幕を迎えるのだろうか? 世界はますますインターネットのインフラに依存するようになっている。それは新しい脆弱性を広めている。

その脅威は核兵器と異なる。核兵器は、少数の、高度な教育を受けた専門家しか利用できない、複雑で、費用の掛かる武器であった。しかし、サイバー・ウェポンは開発にも保有にも費用が掛からず、その使用は容易である。その結果、たとえ弱小な、破たんした国家でも、重大なサイバー・ウェポンを保有することが可能である。

しかも、サイバー戦争の技術は急速に普及してしまう。その威力はすでにイギリスの国民保険制度に侵入したウィルス“WannaCry”が示した。北朝鮮はすでに、世界の多数の標的にサイバー攻撃を行ってきた。ほかにもロシア、中国、イスラエルなどが、その開発を進めている。

核時代には抑止が行えたが、サイバー戦争の時代には抑止が有効ではないだろう。その競争には勝者がいない。

FP NOVEMBER 16, 2017

Are China’s Chickens Contaminating America’s Plates?

BY YANZHONG HUANG

この夏、静かな、しかし、潜在的には膨大な、米中経済関係における変化が起きた。その中心は、チキンである。

中国のチンタオからロサンゼルスまで、食用チキンが空輸される時間はわずか11時間である。しかし、それがアメリカに再上陸するまでには14年かかった。それは、政治と保護主義、公衆衛生の関心が混じった遍歴物語であった。


 ジンバブエのムガベ失脚

Bloomberg 20171116

Zimbabwe's Coup Is Nothing to Celebrate

By Leonid Bershidsky

ジンバブエのムガベRobert Mugabeは、ソ連のスターリンや中国の毛沢東よりも長く、指導者として生き延びた。UCLAの政治学者Daniel Treismanは最近の論文で、多くの独裁者が失脚するのは、その人間的な弱さが理由である、と述べている。すなわち、慢心、必要のないリスクに向かう、滑りやすい坂道に至る衝動の開放、間違った後継者の選択、生産的ではない暴力の行使。93歳のムガベも例外ではない。

37年間のムガベの権力を、ほぼ一貫して、Emmerson Mnangagwaは支持してきた。彼はムガベと同じ、イギリスからの独立戦争の元軍人だ。ジンバブエ最初の防衛大臣として、ムガベの支配に逆らう部族を鎮圧するために特殊部隊を動かした。こうした軍隊が、親族の葬儀で村人たちに踊りを命じ、ムガベを支持するスローガンを唱えさせ、国民解放の指導者から独裁者への変身をもたらした。

ムガベが自分の妻Grace Mugabeを後継者に指名し、Mnangagwaを解任したことに、Zanu-PFと結びつくジンバブエ防衛軍ZDFが公開の式典でも居眠りする独裁者に従わず、革命となった。しかし、何ら祝福できるものではない。

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The Economist November 4th 2017

Do social media threaten democracy?

Social media and politics: How the world was trolled

Trafficking women: Fear on the border

Luther: The stand

Zimbabwe’s deepening crisis: Surviving under Mugabe

Free exchange: Who is my neighbor?

(コメント) ソーシャル・メディアが民主的な政治を侵食し、その根本を破壊してしまう危険について、Brexitやトランプが示しました。何が変わったのか、どのような対策が必要なのか? ルターと宗教改革に関する特集記事も、関係ある論点を刺激します。

中国の国境付近で行われている、女性の拉致、人身売買が描かれています。それは一人っ子政策の結果だけでなく、貧富の格差拡大、豊かな都市への人口移動も関係しています。ジンバブエの独裁者が、なぜこれほどの混乱を経ても権力を保持しているのか? 経済と政治との乖離について、あるいは、ここでもリベラルなモデルは破産しています。

カタルーニャ独立の混乱が示す、豊かな地域の叛乱について。市場だけでなく政治組織・統治の効率でも、規模の経済は重要です。小さな単位ほど住民の意向が反映されますが、安全保障上の問題や輸送の途絶もしくは容易さが、政治の範囲を修正します。

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IPEの想像力 11/20/17

急に寒くなってきました。ようやく帰宅して、夕飯を食べながら、BS時代劇「赤ひげ 第3回 最期の告白」を観ました。山本周五郎の作品には、圧倒的な人間の存在感を描いて、沈黙するしかない話があります。このテレビドラマは、それをよく映像として描いている、と思いました。

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経済学の、純粋で、合理的で、均衡や最適解をモデルにした、現実を予測する思考方法は、現実の政治の、余りにも陰惨で、混沌とした、常軌を逸した権力争い、醜悪で、残酷な、権力者たちの振る舞い、暴力的な言葉と、まったくの異質の世界、違う星のイメージです。

グローバルな超資産家が人類の半数よりも多くの富を所有し、しかも、グローバルな企業とともにタックス・ヘイブンを利用して課税を免れている一方で、金融危機や衰退地域において失業・貧困に長く苦しむ人々は、「システム」の不正義を感じています。中世を打ち破った宗教改革の指導者、マルティン・ルターであれば、超資産家やグローバル企業の玄関に、質問状を打ち付けたことでしょう。

「私は問う。聖書に基づく正しい理由のほかには、何者にも屈しない。」

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The Economistの記事は伝えています。

中国との国境に近いベトナムの村で、若い女性がバイクの若者に誘われ、食事をしたり、カラオケを楽しんだりした後、他のバイクも加わって、男たちは彼女を、国境を超えて連れ去りました。彼女は他の誘拐された女性たちと一緒に閉じ込められ、中国の農家や、都市の裕福な家族に売られる、と告げられます。それを拒めば、彼女たちはそのまま山中に軟禁されて暮らすことになるのです。

ILOの調査によれば、世界で約3500万人の強制された結婚が行われています。特に中国では、男子を生むことが重視されるあまり、男女比の偏りがひどく、2020年までに3000万人から4000万人の男性には結婚する女性がいない、と予想されます。その結果、結婚相手を見つけるビジネスが繁栄し、貧しい近隣諸国から女性を誘拐・拉致する者もあらわれるのです。

安価なスマートフォンが普及し、ネットワークの広がりが、誘拐ビジネスを容易にしています。田舎の町で犯罪者たちが稼ぐ額は、女性1人について50ドルほどですが、中国の警察による報告では、最終目的地のベトナム人女性の価格は6万元から10万元(9000ドルから15000ドル)になります。彼女を購入した家族には、ベトナム人であることがわからないように、少数民族の出身だ、と教えています。

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IPEの講義で、私は、現実の戦争が解決できるのか、と自問しながら話します。抽象的で、合理的な経済学の説明と、現実の暴力や、醜悪な権力者の姿とは、決して重なりません。しかし、どちらも政治経済秩序の形成に加わり、さまざまな偶発的な事情や歴史的な確執、障壁とも一体化しているに違いありません。

戦争や金融危機は、強者がその条件を押し付けるというより、新しい条件で争うために破壊の限りを尽くして、安定性を回復するに至る、社会契約の改訂作業なのです。もし地方から若い女性たちが、都市の豊かな家族に招かれて、家内サービスや老人の介護に生業として従事するなら、そして、グローバルなインフラ建設の現場に国境を超えて若い男性労働者たちが出稼ぎに向かうとしたら、新しい社会契約の条項を挙げて、その権利や平等な機会について、読み聞かせる者がいるべきでしょう。

「私は問う。人類の憲章に基づく正しい理由のほかには、何者にも屈しない。」

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