IPEの果樹園2017
今週のReview
11/13-18
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カタルーニャ独立 ・・・大国間外交とユーラシア ・・・反トラスト法の修正 ・・・MbSによる粛清と外交 ・・・ロシア革命100周年 ・・・パラダイス・ペーパー ・・・イランの外交
[長いReview]
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● カタルーニャ独立
The
Guardian, Friday 3 November 2017
Catalonia
isn’t just Spain’s nightmare – it is Europe’s
Simon Jenkins
民族自決は、ウッドロー・ウィルソンが1917年に、ヨーロッパの平和に向けた14か条の原則で示したときから、ヨーロッパの安定に欠かせない部分であった。しかし、スペイン人とカタラン人の自決権はどうなるのか? その定義はヨーロッパの利益によって歪められる。分離独立は自治権の程度で表現されるだけだ。
EUとは、元来、中央集権化を進めた組織であった。47の国民を組織する欧州評議会が、ヨーロッパ全体で民主主義や人権の問題を扱う。EUそれ自体が政治的な拘束衣となった。加盟国にEU離脱の国民投票を行なわせない。しかし、これは健全ではない。アイデンティティ政治が高まって、ヨーロッパの自由を脅かしている。カタルーニャの問題は、小さな地方の紛争ではなく、ヨーロッパへの警告だ。
● 大国間外交とユーラシア
The
Guardian, Friday 3 November 2017
Trump’s
Asia tour will expose his craving for the approval of despots
Simon Tisdall
北朝鮮の核問題や中国の不公正な貿易に関して多くのコメントが出るだろう。他方、ホワイトハウスがこれら2つのテーマに重点を置くことで、トランプのホストたちが人権についてひどい状態であることには触れないだろう。トランプは、開放型の、民主的なガバナンス、といった「西側の価値」を支持する見せかけも放棄してしまった。彼の前任者たちも、低度の差はあれ、こうした権利にはダブル・スタンダードがあった。しかし、トランプの姿勢には、まったくスタンダードというものがない。
何より、ドゥテルテとの会談に示されたトランプの歓迎ぶりがそうだ。フィリピンの大統領が行う麻薬の密売と常習者に対する超法規的な撲滅キャンペーンを、トランプは公認するのか? 5月の電話会談で、「麻薬問題で信じられないほどの成果を上げている」とドゥテルテを称賛したのだ。その成果とは、就任1年で7000人以上を法律によらずに処刑したことだ。
トランプの姿勢を弁解する者は、彼はアメリカ大統領として難しいバランスを取らねばならないのだ、と主張する。アメリカは、フィリピンが北朝鮮の体制に反対してほしいし、中国の南シナ海進出にも反対してほしい。ベトナムについてもそうだ。TPP離脱後、アメリカの2国間交渉を進めねばならない。同時に、防衛、安全保障、情報協力を進め、中国に対抗する必要がある。ベトナムが、いかに無慈悲な、共産党の一党独裁という、アメリカの民主主義に全く反する体制であることを指摘する話も出ないだろう。
トランプがマニラの殺人者やハノイの権力者を宥和するのは、支配的な、独裁的人物にすり寄っていく、彼のお馴染みの姿勢である。ウラジミール・プーチンへの執着もそうだ。中国の権力者、習近平への誇大な称賛もそうだ。アジア太平洋における将来のバランス・オブ・パワーで、トランプが譲歩するのではないか、と真剣に恐れるアナリストがいる。
トランプは、北朝鮮問題で習近平の協力を求めている。貿易摩擦では中国の譲歩を求めている。習の偉大さを称えている。トランプが人権問題を持ち出して、習を不快にすることはないだろう。しかし、習は、毛沢東の時代以来、個人の自由を最も制限した指導者である。表現の自由は細部にまで管理されている。反体制派は反逆罪で投獄ざれる。香港の理想主義的な、民主化運動に加わった若者たちは告発された。国中で、キリスト教会の指導者、人権擁護の弁護士が拘束されている。国連の要求は無視されている。中国の縁で、台湾の住民は常に軍事攻撃の脅威を感じている。
1945年以来、アメリカが普遍的な価値観、民主的、人間的、市民的な権利が攻撃されているのが、アメリカ大統領は、発言するべきだ。
PS Nov 3,
2017
Asia’s New
Entente
BRAHMA CHELLANEY
アメリカのティラーソン国務長官は、世界の「重力の中心がインド・太平洋にシフトした」と認めて、この地域の民主主義諸国が「関与と協力」を実現するように求めた。唯一、民主主義諸国の同盟だけが、世界で最もダイナミックな地域のルールに依拠した秩序を強化し、安定したバランス・オブ・パワーを維持する方法である。
第1次世界大戦前に、ドイツが急速に台頭してきたとき、フランス、ロシア、イギリスの「3国協商」が形成されたように、中国のますます攻撃的になる外交姿勢は、アジア太平洋の民主主義諸国がより強力な連合を形成する強い刺激を与えている。南シナ海の例が明確に示したように、一国では、領海や領土を書き換える中国に、その方針を変えさせるほど、十分なコストを強いることができない。
今年の夏、中国はインフラの建設プロジェクトを利用して、ヒマラヤ高原の辺境の地で、南シナ海と同様に、現状を変更しようとした。インドが介入して、中国は建設工事を止めた。もしオバマ大統領が同じ決意と行動を南シナ海で取っていたら、中国が7つの軍事拠点を得ることはなかっただろう。中国の外交方針を変え、アジア太平洋地域のパワー変動を安定化するには、1国ではなく、アメリカ、日本、インド、オーストラリアが協力して、中国の行動を抑制するべきだ。
今年のインド洋におけるアメリカ、インド、日本の海軍合同演習Malabar
exerciseには、初めて3国の空母が参加する。ティラーソンが述べたように、中国の内政干渉を恐れるオーストラリアも参加するべきだろう。これは正式な軍事同盟になるのではなく、民主主義諸国が広範な戦略的理解と価値観を共有することを目指すものだ。
この点で、トランプの訪中がグローバルな注目を集めるとしても、民主主義諸国の協力関係と同じような同盟関係にはならない。
NYT NOV.
3, 2017
The Quiet
Rivalry Between China and Russia
By ROBERT D. KAPLAN
中国の「一帯一路」路線は、唐や元の時代にユーラシアを超えた貿易路をたどって、経済的な拡大を目指す野心的なものだ。そこにはユーラシアの未来が見える。
新シルクロードの目標はいくつかあるが、さまざまな道路、橋、パイプライン、鉄道をつないで、かつてソ連が支配した資源豊富な中央アジアまで結びつけること、また、中央アジアと中国のイスラム圏とがぶつかる地域を開発することが含まれる。
さらに大きな目標は、ユーラシアを支配し、ロシアを二流の国家に降格することである。中国とロシアは2600キロもの国境を共有している。その一部は最近になって確定したものだ。1969年には、双方が部隊を展開し、中ソ対立の深刻化に乗じて、ニクソン大統領は中国との関係正常化、米ソデタントを行った。
ロシアの極東地域は非常に弱い。エスニック集団としてのロシア人は推定で600万人ほどしかいない。中国人労働者が、人口の足りない土地、天然ガス、石油、木材、ダイヤモンド、金といった資源豊富なシベリアに移住しつつある。中国がこの地域を失ったのは、清朝末期の19世紀であったし、その他も20世紀のことだ。
同時に、中国は中央アジアでもロシアを征服している。この10年で、中国国営石油公社が中央アジアの主要取引相手になった。中国は、カザフの石油を、ヨーロッパと中国にパイプラインで輸出している。またトルクメニスタンの天然ガスを中国西部に輸送している。中国資本が中央アジアの資源インフラを建設しているのだ。
イランがその最大の成果を得ている。中国企業はイランと契約して、資源を採掘し、軍隊を派遣する。ロシアのユーラシア経済同盟は、それに対抗するため、2014年に創設された。極東、中央アジアだけでなく、ヨーロッパでもロシアは中国に敗退しつつある。モスクワが旧ソ連圏の共和国に介入して、独立を脅かしつつあるとき、中国は貿易でヨーロッパとの関係を強化した。トランプ政権の自由貿易からの離脱も、ヨーロッパにおける中国の拡大を許した。中国からのシルクロードの終着点、ギリシャがそうだ。また東欧各地で、中国が原発やエネルギー・インフラを建設している。プーチンの西側への挑戦は、その経済の弱体化に応じて、戦略的な短絡さが明らかになる。
中国の地政学的野心も、ロシアと同じように、内部の不安定性から生じている。中国の弱点は西域にあり、そこは歴史的に東トルキスタンがあった、トルコ系イスラム教徒、ウイグル人少数派の土地である。彼らは、中国国家とは別に、独立のアイデンティティを持っている。「一帯一路」は中央アジアを、経済的、政治的に、中国と緊密に統合化し、ウイグル人が反抗する拠点を奪うものだ。
しかし、かつてSamuel P.
Huntingtonが指摘したように、社会がより複雑になれば、制度はより住民に責任を持たねばならない。さもなければ多数の中産階級が不安定化する。中国の専制体制は、その成功ゆえに、社会、エスニック、宗教における緊張を、漢民族、ウイグル族の双方で生じ、正当性の危機に直面する。特に、成長が減速し、人々の過度に高められた期待を裏切るときに。
アメリカは、東アジアにおける中国の脅し、中東欧におけるロシアの脅しから、長期にわたって同盟諸国を守ってきたが、それは中国とロシアの間に静かな地政学的対立があったことに助けられた。中露の地理的近接性は避けられず、アメリカは状況に応じて、どちらかに対して態度を硬化させ、あるいは、軟化させる柔軟性があった。
アメリカが西半球で支配的な役割を果たしてきたのと同じように、中国が東半球で支配的な地位に就くのを阻止しなければならない。しかも、中欧や中東で、ロシアに影響力を奪われることなく、そうしなければならない。そのための答えは、地政学の外にある。アメリカは、中国人やロシア人のような領土的な野心を持たず、現地の人々もそのことを疑わない。アメリカは、自由貿易、人権、市民社会を広めることで、地域に広がる急速な社会変化における信頼性を得るのだ。
こうして、ニクソンの時代よりも中国とロシアの対抗関係が大幅に見えにくくなったとしても、アメリカはある国を他の国に対して乱暴に均衡させることなく、ユーラシアでの影響を保持できる。中国が促進する経済発展こそが、シルクロードに沿った多くの社会、特に、イランと中央アジアの独裁体制を管理し、支配する者の困難を増すのである。
トランプ大統領はそれを理解していない。
FT
November 8, 2017
The House
of Trump and the House of Saud
EDWARD LUCE
豪邸に黄金のエレベーターがあるように、トランプ一家とサウド家の趣味は一致する。しかし、ドナルド・トランプとサルマン皇太子の親和性は、単なる「独裁趣味」を超えている。それは主として取引を交わすことだ。アメリカ=サウジ関係こそ、トランプ外交の神髄である。その行方は、アメリカが指導するグローバルな秩序の衰退を象徴する。
対外関係を扱うトランプの姿勢とは、家族と金をブレンドした上で、お愛想に弱い、というものである。安倍首相は娘のイヴァンカが主催する世界女性基金に5000万ドルの寄付を約束した。半年前には、サウジアラビアとアラブ首長国連邦がイヴァンカに最初の寄付1億ドルを出した。今度は中国がトランプをもてなす番だ。
世界中の政府が、アメリカの大統領家族から気に入られようとして競っている。この点でサウド家に勝る者はいない。リヤドが、大統領となったトランプの最初の訪問地であった。彼の動機は明白だった。サウド家が1100億ドルの武器購入を表明することに合意したからだ。それこそトランプが求めていたものだった。しかし、その趣意書は事実だが、サウジアラビアが支払うことはないだろう。
それは「フェイク・ディール」であったが、トランプが望み、Tweetできるような驚きの購入リストであった。娘には現金を与え、黄金のカーペットで歓迎し、一緒にオバマの遺産を消去する。次はトランプがサウド家に返礼する番だ。
MbSとして知られるモハマド皇太子が、王族たちの逮捕を含む、権力奪取を行った。少なくとも1人は殺害された。トランプはそれをTweetで承認する。その粛清は、先月、トランプの娘婿であるクシュナーが皇太子と話し合った後、行われた。トランプの側では、オバマが残したイラン核合意を弱体化した。トランプはまた、テヘランと緊密な関係を持ったカタールをサウジがボイコットするのも支援した。
トランプが、何をしているかわかっているのか、不明である。しかし、MbS支援は、アメリカ外交の2つの原則を否定した。すなわち、1.スンニ派とシーア派の宗派対立に関わらない。2.超資産家・ポピュリストの強権体制を擁護しない。しかしトランプは、多数の市民を犠牲にしたサウジによるイエメン空爆にも、中東地域の安定化にも、関心がない。「ワシントンの大掃除」どころか、サウジ王族の比類ない汚職にも無関心で、これにより中国の習近平に対する信頼も予告された。
ポピュリストは敵を個人攻撃し、権力を私物化する。ポピュリストたちの外交において、体制が専制か民主制かが重要ではない。サウジアラビア、中国、ロシア、トルコ、その他の国が指導者に対するカルトを病んでいる。彼らは互いに助け合っている。世界にとって衝撃であるのは、アメリカの指導者もその仲間であることだ。
トランプがアジア歴訪で何を示すかに注目したい。国益と家族の利益を区別できない、サウジ王家と利己的な取引をした大統領の言動を注視するつもりだ。
● 反トラスト法の修正
SPIEGEL
ONLINE 11/03/2017
Digital
Darwinism
We Need
New Rules for the Internet Economy
A DER SPIEGEL Editorial by Armin Mahler
Facebookも、友人たちと会話するソーシャル・ネットワークではない。その中身を確かめもせず、多くの広告を拡散して莫大な利益を得ているメディア企業である。Google,
あるいはAlphabetもそうだ。彼らの成長率は、アナログ経済では不可能なものだ。危険なほどのパワーを集中しており、政治的な反発が高まっている。
GoogleやAmazonがヨーロッパ市場で駆使するパワーをEUが制限するのを、アメリカは保護主義として、ヨーロッパ人が劣ったデジタル経済を保護している、と非難してきた。しかし、アメリカの政治家やエコノミストも、インターネット大企業の分割を議論し始めた。
デジタル化には、もちろん、多くの優れた点がある。しかし、旧法が効果的でないとき、デジタル資本主義を規制する新しい法律が求められる。アルゴリズムに依拠したデジタル経済では、その最も影響力ある企業が物質的な製品を売っていない。顧客はただでそのサービスを利用し、その代わりに情報を提供する。顧客が多いほどサービスは魅力的であり、ますます多くの顧客とデータを集めてしまう。それゆえGoogle
やFacebookは競争を恐れない。
勝者がすべてを得るのだ。ダーウィン型のデジタル経済法則は、独占を生み出す傾向が強い。それゆえ、1.デジタル企業のパワーとその濫用を再定義すべきだ。大企業は潜在的な競争企業を、その発展の前に、買収してしまう。こうした行為を監視し、必要なら、阻止するべきだ。
2.蓄積したデータをだれが所有するか、決めるべきだ。競争相手も利用できるのか、消費者は検索結果を無料で記利用する以上に、十分なサービスを得ているのか?
3.彼らによる情報の拡散は、その内容に関する責任をともなうべきだ。虚偽の主張や表現は、許されない。
4.こうした情報から莫大な富を得るものは、十分な税金を支払うべきだ。それは企業の所在する国だけでなく、関係するすべての諸国によって求められる。
法改正を、メルケル首相は次の連立政権の課題にするべきだ。
● MbSによる粛清と外交
FT
November 7, 2017
Saudi
crown prince’s purge extends into Lebanon
DAVID GARDNER
サウジアラビアの最強のサルマンMohammed
bin Salman(MbS)皇太子が、王族、閣僚、富豪を粛清しただけでなく、外国にも粛清の手を伸ばした。
レバノンのハリリSaad
Hariri首相が、リヤドでサウジのテレビ放送に登場し、辞任の声明文を読み上げたのだ。サウジが支援し、スンニ派の指導者として首相であった、彼の父が2005年に暗殺された政治情勢と似てきた、と語った。イランが支援する、シーア派のヒズボラと形成している連立政権の内紛である、という予測もある。
ハリリの周辺ではだれも辞任を予想していなかった。サウジ皇太子がハリリに辞任を強制した、と考える側近もいる。レバノンと地域の仲間から彼を切り離すためにリヤドに召還した、と。サウジの政府関係者たちが、ヒズボラと、イランにいるシーア派の支援者たちに攻勢をかけたのは間違いない。
1年前、サウジはテヘランが大統領選挙とハリリの連立政権を組むのを承認していた。しかし、今やリヤドは、「サタンの政党」(ヒズボラは「神の政党」という意味がある)がレバノンを支配し、サウド王室との戦争を指揮する拠点にしたと考え、戦うつもりである。サウジの外相は、イエメンからリヤド空港に向けて発射された弾道ミサイルは、イランが供給し、ヒズボラによって発射されたものだ、と主張した。
サウジの皇太子MbSは、王国の経済並びに防衛と治安を担当する大臣である。しかし彼のタカ派の外交はうまく行っていない。イエメンに軍事介入し、カタールの首相を追放して、経済封鎖している。シリア内戦では、シーア派のイランが勝利した。しかし、イスラム教徒とキリスト教徒がモザイク状に混じるレバノンでは、いまだに1975-90年の内戦から完全に抜け出していない。イランとサウジが、ほぼ均等に対抗している。
ハリリは、レバノンの権力闘争において、突如、暗殺された父と同じ状況に陥ったようだ。彼のサウジにおける建設会社がMbSの経済改革で破たんに瀕している。皇太子は、トランプ大統領やイスラエルのイランとヒズボラに対する強硬姿勢が、自分に有利であると考えている。イスラエルが、シリアの拠点を築くイランやヒズボラと戦争を始めるのは時間の問題だ。
FT
November 7, 2017
Saudi
Arabia’s crown prince plays for high stakes
ROULA KHALAF
先週、サウジアラビアにも西側銀行で有名なロボットSophiaが現れた。彼女はMohammed
bin Salmanサルマン皇太子から市民賞を授与されたのだ。しかし今週、かつてない反汚職の粛清が行われた。失脚した王族や多数のビジネスマンが逮捕されたのだ。
MbSは、リベラルな社会、多様な経済、という王国の改造を固く決意している。そのために権力を集中したのだ。彼は、人口3200万人の多数を占める若者に支持される、と考えているが、さまざまなセクションを敵にした。聖職者から政治エリート、王室の他の派閥、ビジネス・エリートたち。皇太子の夢が広がるほど、さまざまな敵が共謀する。
MbSは、一方で、サウジアラビアをかつてのような自由な社会に戻したいのだ。1979年、メッカの神殿がワッハーブの過激派に占拠されてから、サウド家は保守派の聖職者たちにパワーを大きく譲歩したのだ。他方、MbSは、国家による過度の社会保障を削減しようと計画している。サウジはもはや石油の富に依存できないのだ。厳格な緊縮策を実行する上で、王室内、近隣のスンニ派国家まで、あらゆる反対派を粛清した。
外交においては、中東におけるイランの影響力を押し戻そうとしている。イエメンでは、テヘランの支援を受けた反政府軍と戦争し、サウジの路線に従わないカタールを外交的に懲罰し、イランが支援するヒズボラを含む国民統一政権のハリリ首相に辞任を強いた、と言われる。
いずれの政策も大きなリスクをともなう。イエメンでの戦争は何十億ドルもの費用が掛かり、MbSが約束した国内の雇用創出に投資する財源がなくなった。粛清はサウド家の支配の恣意性とビジネスの不安を強めた。MbSは、一方の手で創ったものを、他方の手で破壊している。
Bloomberg 2017年11月9日
Saudi
Arabia Is Putinizing, Not Modernizing
By Leonid Bershidsky
権威主義体制は汚職を招き寄せる。権力者に近いほど多くの商談を得られるのだ。粛清はその性格を変えるわけではない。サルマン皇太子とプーチン大統領は、相違点より、類似点の方が多い。今回のサウジにおける粛清は、2003年のプーチンによるオリガークMikhail
Khodorkovsky粛清とよく似ている。
MbSが公表した砂漠の空想都市建設は、ロシアの冬季オリンピックに合わせて建設されたソチとよく似ている。権威主義的指導者は自国を世界に開かれた、投資を招き寄せる未来の国として見せたがる。ソチが失敗したのは、プーチンがクリミア併合に動いたからだ。
シリア内戦では、プーチンはイランとともに戦った。それゆえ、最近、サルマン皇太子はモスクワを訪問し、MbSとクレムリンの間で頻繁な交渉が行われたのだ。中東におけるアメリカ外交の失敗を前提に、ロシアとサウジアラビアは積極的な役割を果たすつもりがあり、両者の協力は有益である。彼らは同じ言葉で考えている。国内の反対派は粛清し、迅速な意思決定で取引する。
MbSがサウド家の改革派で、プーチンは時代を逆行する独裁者だ、と西側の多くの論者は思いたがる。しかし、2人は世界最大の石油輸出国の支配者として、その価格を引き上げ、軍備や未来都市のために財源を維持する強い動機を共有している。
● ロシア革命100周年
FT
November 7, 2017
The
Russian Revolution: what economic lessons does it reveal?
Sergei Guriev
血みどろの内戦、私有財産制の廃止、国家所有と指令経済の誕生、市場の廃止と価格統制。ロシア革命は今から100年前に起きた。
政治経済史における最大の実験の1つであるロシア革命は、3つの重要な教訓を残した。1.テロによる工業化は非効率である。2.テロを欠いた指令経済は機能せず、破たんする。3.政治的競争を欠けば、ガバナンスは硬直化して、必要な改革を実行しない。
NYT NOV. 7,
2017
What
Russian Revolution?
By SERGE SCHMEMANN
1917年のロシア革命から100年目に、ロシア政府は公式の扱いに苦慮している。歴史を政治的に利用することはありふれたことである。ロシアでは、長く、歴史が政治とイデオロギーを説得する事業の一部であった。
しかし、1991年にソ連が終わったことで、歴史の漂流が始まった。絶対主義の王制を倒した全体主義的な独裁体制の崩壊は、何を祝福し、何を非難し、何が輝くべきか、ロシア人に難しい選択を残した。「自由主義」。「民主主義」、「選挙」は、100年前と同じように、現在も論争の的である。
プーチン大統領は、ドイツとの停戦のために領土を失ったレーニンを非難し、それを回復したスターリンを称賛する(その後、ゴルバチョフとエリツィンが再び失った)。最後の皇帝、ニコラス2世は弱い指導者であり、愚かにも官僚制度を損ない、民主化の波を利用し損ねた。
「革命」という概念は、ソビエト時代には神聖化されたが、1990年代の混乱と貧困化を経て、劇的に変わった。ロシア人御圧倒的な多数が、それを「何であれ、国家が許してはならないもの」とみなす。それはプーチンの考えでもある。ウクライナなどの近隣諸国で起きた「カラー革命」もそうだ。
プーチンが描く歴史とは、偉大かつ強大なロシア国家の連続である。皇帝であれ、ボルシェビキであれ、何世紀にもわたって君臨した。革命とは、外国にそそのかされた権力者の失敗である。プーチンは革命よりも和解を強調する。「社会、政治、市民のコンセンサスを強化し、われわれは現在にまで至った。」 ロシア革命を祝う公式行事は何もない。
● パラダイス・ペーパー
The
Guardian, Tuesday 7 November 2017
Tax
avoidance may be legal but it’s bankrupting our social order
Owen Jones
「パラダイス・ペーパーが暴露したことは合法である。何が問題なのか?」 彼らは課税を悪者にする。国家を縮小し、自由市場の「ユートピア」を築く。実際には、それが多数の庶民に対するディストピアだ。
高度な抜け穴を使って課税を回避することが産業となっている。個人も、企業も、十分に意識して決めたことだ。Lewis
Hamiltonは、国営のNHSによって守られた病院で誕生した。国家が多大の貢献を行った学校で学び、一生を通じて、国家の建設した道路や鉄道を利用する。国家が運営する警察と消防がその生活を守っている。国家の支援を受けた大学で学んだ会計士を雇い、課税の抜け穴を探させた。彼がその感謝のために国家に与えたものは、1650万ポンドのヨーロッパ税回避する、という選択であった。
こうした課税回避は、法律の意図を破壊できるような超富裕層にだけ許されている。国家の投資するインフラ、教育、医療、研究開発、法と秩序、銀行システムがなければ、どのような個人も、企業も、利益を出せないだろう。脱税者たちは、彼らが貢献することを拒む国家の犠牲で、繁栄している。
パラダイス・ペーパーは、再び、われわれの社会秩序がひどく腐敗し、不正義で、不道徳で、破たんしていることを示している。社会の頂点が守るルールは、他のすべてのものが守るルールと異なっている。西側世界の誰もが緊縮財政に苦しむが、醜いほどの裕福なエリートたちは資産をタックス・ヘイブンに隠している。このシステムを修復するのではなく、すべてを交換するべきだ。民主革命は迫っている。恥知らずな、退廃的エリートたちは、それが自ら招いたものであると知るべきだ。
● イランの外交
NYT NOV.
8, 2017
Iran’s
President Defends Yemeni Rebel Attack on Saudi Capital
By THOMAS ERDBRINK
イランのロウハニHassan
Rouhani大統領は、地域紛争に関する立場を明確にした。サウジアラビアが、イランによる戦争行為だ、と非難する、イエメン武装勢力によるミサイル発射に関して、彼らを擁護した。
サウジはイエメンを「絶え間なく爆撃している。」 ロウハニ大統領はさらに述べた。「この爆撃に対して、イエメン国民はどんな反応を示せるのか? 彼らに武器を使うのな、というのか? それなら、サウジが爆撃を止めて、イエメン国民からの積極的な反応を観てはどうか?」
国連は、イエメン紛争を、世界最悪の人道危機とみなしている。2014年以来、イランが支援するフーシ派反政府軍と、Abdu
Rabbu Mansour Hadi大統領の政府を再建するためサウジアラビアが、戦闘を続けている。最近のサウジ皇太子Mohammed
bin Salmanの行動は、地域を冷戦状態に向けて動かした。
レバノンのハリリSaad
Hariri首相が、突然、リヤドで辞意を表明した。生命の危険を感じる、という。ロウハニ大統領は、歴史において、他国の政府に辞任を強制した例を知らない、とサウジアラビアを非難した。
ハリリ辞任の後、サウジアラビア国内の高官が何人も逮捕され、32歳のサルマン皇太子が権力を確立した。
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The Economist October 28th 2017
A tsar is born
Japan’s constitution:
Abe’s next act
E-commerce: There be
giants
Vladimir Putin: Enter
Tsar Vladimir
E-commerce: The new
bazaar
The UN in conflict zones:
Looking the other way
(コメント) プーチン大統領の再選は疑いない.しかし,皇帝として君臨するプーチンのロシアには,その後継者がおらず.正当性の危機も生じてくるだろう,と考えます.
安倍首相が再任された結果として,日本は憲法改正に向かいます.記事は,日本が憲法9条を書き換え,自衛隊とその国際貢献を合法的に議論する状態を歓迎します.軍国主義の復活だ,と中国や南北朝鮮が非難するのは不当である,と.ただし,そのためにも安倍は靖国参拝をやめ,過去の日本が犯した残虐行為を非難し,彼の祖父,岸信介と距離を取るべきだ,と.
国連の平和維持活動が繰り返して失敗していることを,ロヒンギャの難民流出について考察します.しかし,Amazon,Alibabaのeコマースを扱う特集こそは,私たちの未来について,大きな意味を持つ問題群の整理です.
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IPEの想像力 11/13/17
台湾は,トランプ大統領が北京で習近平主席と取引することを恐れたそうです.北朝鮮の核危機と貿易不均衡を解決してくれたら,台湾のことは目をつむる,と取引するのではないか?
トランプのアジア歴訪,それと並行して起きたサウジアラビアなど,中東の政変は,世界が少数の大国による,強権的な指導者たちの秘密取引によって動く時代に変わったことを実感しました.富とパワー(支配体制+軍事力)の在り方が,その目標や理想ではなく,現実によって変わったのです.
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The
Economistのロシア論が興味深いです.ロシア革命100周年をロシアは何ら公式行事で祝うことがなかった,と言います.「革命」というのは混乱であり,偉大なロシアの歴史を逸脱させた外来思想や戦争の派生物だからです.
21世紀のツァーとして,プーチンの権力に正当性を与えたのは,1999年のチェチェン戦争でした.モスクワその他の都市で爆弾テロがあり,チェチェンの反政府勢力が責められたとき,当時の首相であり,ボリス・エリツィンが後継者に指名したプーチンに人々は注目したのです.モスクワの爆破現場に立ったプーチンを観て,自分たちの指導者と認めました.
・・・プーチンは,これまでのツァーのように領土を拡大し,破壊と無秩序の後に,ロシアを解体から救済し,人民の団結をもたらした.彼は1990年代を,西側スタイルの近代民主主義や自由市場に向けた移行としてではなく,16世紀後半から17世紀前半にそうであったような,反乱,侵略,飢饉の困窮時代と見なした.
・・・エリツィンが彼に権力を手渡す2日前,演説において,プーチンは国家の絶対的な優位を主張した.その国家とは,Stateではなく,ロシアの古い国家Gosudarstvoであった.それgosudarとは君主と臣下の関係であり,すべての権威と秩序をツァーの延長と見なす.元KGBのスパイであったプーチンは国家を,彼に隷属することを誓った富裕層とその家族からなる貴族制によって支配した.石油,天然ガスの国有企業,銀行業を経営するのは,プーチンの親しい友人の子どもたち,そして元KGB職員たちである.
破滅的な時代から復活した強権指導者のイメージ,というのは,「恥辱の200年」を断ち切って復活を遂げた中国に君臨する習近平や,程度は違うとしても,バブルと衰退の20年,震災と原発事故,デフレなど,弱体な非自民党の時代と決別して,強い日本を復活させたと自負する安倍晋三にも重なります.
****
The
Economistのe-commerce論も興味深いです.ヘッジファンドで働いた後,Jeff
BezosがそのアイデアをAmazonで始めたのが1997年,1964年生まれのJack MaがAlibabaを始めたのは1999年です.学生たちには驚きでもないのでしょうが,彼らと同世代の私には衝撃です.
e-commerceは,ネットの書店や,へき地の消費者に買い物を楽しめるホームページを開いただけではありません.さまざまな産業分野にわたって,物流システムやインターネット決済システムを作り変え,既存の寡占大企業を革新的な中小企業群が瞬く間に追い上げるプラットフォームを提供したのです.Amazonが,創業以来ずっと赤字である,というのも驚きです.将来の利潤を期待して流入する投資の流れは,止まることがないのです.
それは単なるアイデアというより,巨額の投資と産業・景観の大改造によって出現します.技術革新への投資,企業買収,倉庫や物流を確保するための投資,など.都市や地球の姿を変えつつあります.双方のビジネスモデルが融合しつつあるとはいえ,Amazonがヘッジファンドによる諸産業への爆発的な革新,Alibabaが多数の生産者と消費者とを結びつける競争的なプラットフォーム,という印象を持ちました.
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インターネットの生み出すグローバル企業はBig
Brother(オーウェルのディストピア小説に描かれた監視社会の最高権力者)でもあり,ビッグデータを駆使して,消費者たちが買いたいと想う前に買いたい商品を作り,望ましい倉庫に配置します.
トランプが登場したことで,プーチン,サルマン皇太子,習近平,そして,もっと多くの中小の独裁的権力者が時代の主役となりました.AmazonやAlibabaでも,権力者たちの脅迫から身を護る防具やサービスは売っていないでしょう.しかし,資本主義の革新的能力,中小の生産者がグローバル市場につながるダイナミズムは,権力者たちの密約や核武装をも超えて,社会秩序の基礎を作り変えると思います.市民をめぐる,e-commerceと独裁者との戦いが始まります.
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