IPEの果樹園2017
今週のReview
10/30-11/4
*****************************
カタルーニャの反乱 ・・・グローバリゼーションのトリレンマ ・・・中国共産党全国大会 ・・・日本の選挙 ・・・ITと新しい社会契約 ・・・民族自決権 ・・・狂信者に愛を ・・・希少通貨条項
[長いReview]
******************************
主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times,
The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate,
SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● カタルーニャの反乱
FT October
24, 2017
Catalonia
and Madrid drift towards extremes
Miriam González Durántez
スペイン政府はカタルーニャ地方から権力を奪い返すことを決意した。法的には、選択の余地がない。しかし、スペイン国民の合意を修復するというのはそれよりはるかに重大だ。双方が極論に走る中で、スペイン政治における穏健派の意見は見失われつつある。
州政府のプチ・デモンCarles
Puigdemont首相が、スペイン憲法を無視して、10月1日に住民投票を実施してから、状況はますます悲劇的なものに向かっている。独立を支持するカタロニア人は再び街頭デモを行った。しかし、こうしたデモは毎年行われてきた。
むしろ危機の決定的な転換点は、独立反対派のカタロニア人が1週間後にデモを行ったことだ。スペイン全土で多くの人々が反対デモに参加した。それまでプチ・デモンに敵対するカタロニア人は沈黙していたが、ついに声を上げたのだ。長年、寛容な、抑制されたカタルーニャの独立運動は、スペイン全体で、より非妥協的な対立に変わった。
こうした新しい事態に直面し、スペインのラホイ政権は、厳格な、強硬策を採るしかなくなった。与党・国民党内でラホイの基盤は弱く、それが政策の余地を狭めている。党内の保守派グループは、ラホイがカタルーニャに対して「放任」政策を採った、と批判している。彼らはますます発言力を強めており、もしラホイがカタルーニャの分離独立主義者に少しでも譲歩すれば、党から離脱するだろう。
カタルーニャとスペイン双方の強硬姿勢は、その弱さの表れである。バルセロナで州政府は街頭デモを呼びかけ、自分たちの強さを示そうとするが、多くの企業がカタルーニャを去りつつあり、カタルーニャ連立政権内部でも強硬派と現実派との分裂が深まっている。マドリードの反応についても、ラホイは、スペイン民主主義と憲法の重大な危機にもかかわらず、まだカタルーニャを1度も訪れていない。警察や治安部隊を送り込み、自治権を取り上げるだけだ。
危機を解決するには、非合法な住民投票に対して強硬策を採るだけでは不十分だ。ラホイは広くカタルーニャの社会をつなぐ共感を示し、極端な主張に固執しない独立派とも協力しなければならない。しかし、誰もそのような「強硬かつ温和」なアプローチを唱えない。本来、王室がこうした状況で仲介する役割を担うべきだが、フェリペ4世はスペイン政府の側にある、と多くの者に見なされている。
カタルーニャのリベラル政党で、連立政権に参加したCiudadanosは、そもそもカタルーニャとスペインの統一を支持する穏健派であるはずだ。しかし、憤慨によって強硬姿勢に偏っている。保守派以上に妥協を拒んでいる。閉じられたスペイン政界の在り方が、穏健なアプローチを支持する旧閣僚や元首相を、「裏切り者」「妨害行為」と非難するのだ。
いずれの党派にも穏健派がおり、彼らは極端な主張に向かうことを好まない。主要な政治指導者が新しい和解の取り組みを公に求めるべきだ。解決の鍵は穏健派の強さにある。
● グローバリゼーションのトリレンマ
PS Oct 20, 2017
The Sovereignty that Really Matters
JAVIER
SOLANA
有名な「世界経済の政治的トリレンマ」において、ハーヴァード大学のエコノミスト、ロドリックは大胆な主張をした。世界経済統合、国民国家、民主主義、これら3つは同時に成立しない。せいぜい2つであり、1つは否定される、と。
最近まで、自由化、規制緩和、民営化を主張する「ワシントン・コンセンサス」は世界の経済政策を決定していたが、2008年の世界金融危機で、その信用を失った。それでもG20は保護主義への反対姿勢をただちに表明できた。
またEUは、唯一、欠陥はあるものの、超国家的な民主主義の実験として誇りを持っていた。すなわち、国民国家に依拠しているが、グローバルに統合化する方針を持ち、他方で、民主主義は国際市場のダイナミズムによって低下していた。
2016年の転換点が何に向かうものなのか、われわれにはまだわからない。開発をめぐる「北京コンセンサス」が現れて、より大きな政府介入が唱えられた。しかし、Brexit投票とドナルド・トランプの大統領当選こそ、グローバリゼーションと国民国家と民主主義の長期的なバランスが変化したことを示す事件だった。
それらを支持した者たちの診断を軽蔑するのは賢明なことではない。実際、ロドリックもその一部に同意している。彼らはグローバリゼーションを妨げ、他方で、金融自由化といったワシントン・コンセンサスの他の側面を維持し、もしくは、推進するのだが、国民国家による民主主義を強化する、と主張している。
FT October 24, 2017
Europe could see more Catalonias
Janan
Ganesh
全ての豊かな地域がその国との関係で複雑な問題を抱えている。彼らの生産物に課税し、それを他の地域に移してしまうのは、国民国家である。それは、有権者の数では圧倒的に多くが住む都市の利益に反している。ロンドン市民に尋ねてみることだ。EUが何をするか、彼らは何も聞かれなかった。
もっと多くの都市がカタルーニャのように独立を求めるのは当然だ。カタラン人は強いエスニック・アイデンティティを持ち、経済的な自助能力と、自治の歴史的経験を持っている。そのような独立に向かう条件を備えた都市や地域がヨーロッパ中にある。
国民国家はグローバル経済より以前の、土地や工業が重要な時代に生まれた。グローバル経済の報酬は知識や資本に与えられる。都市と脱工業化した中心地帯との物質的なギャップは何十年も拡大し、西側民主主義の問題を生み出す最前線となっている。ドナルド・トランプやルペン、Brexitの投票が示す地域区分を観ればよい。これは単なる取り残された場所や者たちではない。インフラ投資、工業保護策、新しい文化的主張を示す保守派の支配する土地である。
道義的には、弱者を優先することは正しい。しかし、時間を経る中で、そのような政治は機能しなくなる。大都市に対して他の地域が抱く怒りは、その逆に、都市が抱く不満よりも重要でないかもしれない。彼らの富にただ乗りする地域に騙されている、遠くから異教徒たちのやり方に反対投票するのは、都市の住民である。政府が他者に補助金を支払うため税収を得ることはむつかしくなるだろう。ますます大きな自治権を求める地域主義の運動が起こる。
エスニックな同質性がなくても、自動的な財政移転による安定化が行われるなら、それは国民である。国民であるとは、豊かな地域が当然のこととして、すすんで他の地域のために支払うことを意味する。もしこの気持ちが失われたら、国民の中身が失われる。
トランプの顧問であったバノンも、Brexitの推進派たちも、国民国家を永久の存在であるかのように主張する。しかし、それは数世紀の間に広がった想像でしかない。福祉国家が現れる前、財政移転の規模は誰も負担と感じないほど小さかったし、グローバル経済が現れる前、土地や工業が利益をもたらした。現代はそうではないのだ。
ヨーロッパの最も裕福な諸都市は、周辺も含めて、自治を行っていたものがあるし、その帰属する国家よりも古くから存在した。国家が分裂して都市連合に代わることはないが、都市と国家との関係は悪化し、都市の自治要求は強めるだろう。保守派は国民国家を強化し、怒りに燃える地方を代弁することはできなくなる。それは国家ではなく、収奪の関係だ。国民性を長期的に脅かすものは、生産性の高い、外向きの地域から来るのである。
● 中国共産党全国大会
FT October 23, 2017
An assertive China challenges the
west
Gideon
Rachman
思想の分野で、中国の共産党指導部はますます西側の指導体制をますます批判するようになった。「中国モデル」を、アメリカが推進する民主化のモデルに対抗して、他の世界でも追及するべきだという考えにはまだ論争がある。しかし、世界金融危機、ドナルド・トランプの選挙、EUの混乱があったことで、中国の指導者たちは西側を叱責することが容易になった。
民主主義以上に西側が弱さを意識したのは、中国が政治的自由を制限したまま6.9%の経済成長を続けていることだ。反体制派やジャーナリストを弾圧し、Google, Facebook and Twitterの中国における活動を阻止したが、それによって中国の技術革新や経済成長は失われていない。その高い成長率より、先端的な技術分野で成功していることが重要だ。
中国は「キャッシュレス社会」の実現に向かっている。最も普及しているAlipay and WeChat Payの決済システムは革新のシンボルだ。政府と民間企業が、ロボット、ドローン、環境技術、AIにおいて一層の画期的な成果を上げる自信に満ちている。欧米企業が先端分野で指導的な地位を維持する、という期待とは逆に、国際投資の分野と並んで、中国が次の成長分野を拓きつつある。
アメリカ政府は海軍を中国の東の海に展開しているが、中国はますます西の大陸に関心を広げている。強力に推進している「一帯一路」は、中国の新しい市場開拓をユーラシアに向けたものである。中央アジア、南アジアから、ヨーロッパやアフリカまで、インフラ整備して結び付けようとしている。中国の20都市がヨーロッパに鉄道路線で直結し、2013年以来、輸送量が5倍になった。
ユーラシアへの中国の関心は、その戦略的な意味も重大だ。インド政府は、パキスタン、スリランカなどで、中国の整備するインフラに包囲されることを懸念する。中国の陸路、海路は、中東地域の石油供給と安全保障にも関係する。一帯一路の究極目標は、ユーラシア大陸を統一して、ユーロ・アトランティック地帯と対抗し、最終的に凌駕することであろう。すでに中国は、ドイツの最大の貿易相手国である。
習近平の描く大構想と、それに比べて、トランプ大統領の、暴言ばかりで、矮小かつ内向きの展望は、あまりにも異なっている。
● 日本の選挙
Bloomberg 2017年10月26日
Japan Goes
With Another Round of Abenomics
By Noah Smith
長期政権を得た自民党は,経済に何をしたいのか? 中国の成長が減速し,欧米の経済が停滞する中で,日本は輸出よりも金融政策によって成長と雇用を維持した.しかし,アベノミクスの成功が極めて限定されたものだ.
安倍政権は,日本企業の生産性を高めること,また,成長の成果を分配する包括的な成長を実現すること,をテーマとするべきだ.安倍はその政策をすでに示している.労働者が長時間働くことをやめさせ,正規雇用と非正規雇用との賃金格差をなくす,という方針だ.また,中途採用を増やし,高等学校や大学を無料化する.
アメリカの共和党は安倍から学ぶべきだ.
● ITと新しい社会契約
PS Oct 25,
2017
Economic
Growth Is No Longer Enough
MANUEL MUÑIZ
富の生産と分配に関する改革がなければ、政治の混乱は鎮められない。賃金と雇用を観れば、それがわかる。欧米諸国では、2008年の金融危機からGDPや雇用は回復したが、平均給与は停滞したままだ。
雇用が増加しても、国民所得に占める賃金の割合が低下したままである。逆に、金融危機後にできた富の多くは富裕層によって得られた。このことが先進諸国の消費の弱さ、また極度に金融緩和しても物価が上昇しないことを説明している。
雇用の増加は歴史的な経路を通じて生じていない。たとえば、多くの雇用が低生産性部門と高生産性部門で生じている。中間層は空洞化していく。かつて西側の中間層を形成した多くの人々が、経済的な中下層や下層階級を形成し、かつてない不安定な雇用に従事している。生産性の上昇も分極化している。その3分の1が、トップ5%の「フロンティア企業」によって実現され、他の民間企業は生産性が上昇していない。少数の企業に高い効率による利益をもたらされ、それが経済全体に広がらない。
賃金はもはや再分配の中心的な役割を果たさなくなった。資本の生産性上昇は、中間的な家計の所得を高めることにならず、リベラルな経済の依拠する社会契約に穴をあける。世界の経済が根本的な構造変化の過程にあることは明らかだ。「雇用・生産性・所得」という分配の三角形が傾いている。中産階級は消滅し、不安定なプレカリアートが登場した。
このことを理解するなら、一層の技術革新を推進するだけでは問題を解決できないことがわかる。コンピューターやロボットが生産性を高めても、それに応じて賃金は上昇しないからだ。指導者たちは急速な技術変化がもたらす外部性に対処し、経済的・政治的な持続可能性を回復しなければならない。言い換えれば、デジタル時代の新しい社会契約だ。
教育や税制を改革し、労働よりも資本にもっと課税すべきだろう。新しい再分配メカニズムを発見しなければならない。
● 民族自決権
The Guardian, Monday 23 October 2017
Catalonia, Lombardy, Scotland … why
the fight for self-determination now?
Paul
Mason
ウィルソンWoodrow Wilsonはヨーロッパの旧帝国を解体するためにそれを使い、レーニンVladimir Leninは帝国主義を破壊する目的でそれを促進した。国連はそれを憲章の第1条にした。人民の自決権は、ヴェルサイユ条約以来、国際法の1つの原則であり、1948年のカシミールから1973年のベトナム、1990年の東欧における国境画定でも、交渉の基礎であった。
しかしキルクークからバルセロナまで、国民国家の問題は近代民主主義とテクノクラート型の中央集権化に対する難問として再浮上してきた。左派は、民主主義や社会正義について、階級ではなく、民族やエスニシティから闘う準備がなく、EUは、その基本条約が民族自決権を含んでおらず、すでに国家となった民族だけを扱っている。
この問題について国際法が存在するのは、第1次世界大戦を終結させるうえで、自決権を求めて戦った人々がいたからだ。それはドイツとオーストリア=ハンガリー、そしてロシアの旧帝国に従わされた人々だ。またそれは、国際連盟の基礎にこの原則を入れたウィルソンであり、ボルシェビキたちだ。レーニンは、1920年の夏までに民族自決権を認めていたが、それは国家主権を求める闘いが、ロシアを侵略してきた諸帝国を解体させる力になると理解していたからだ。
欧州議会のAntonio Tajani議長が指摘したのは、まさに、恐怖の原理だ。彼はこの週末、Lombardy と Venetoで自治権を求める人々を非難した。「小国の増殖を促すこと」が国際法の議論にはなりえない、と。
なぜ地域や都市、民衆が、今、民族自決権を問題にするようになったのか? スペインやイタリアで明らかなように、緊縮策、汚職、政治的機能マヒが重なって、地域民主主義が制限されたからだ。カタルーニャのように自立した地域が独立に向かい、Lombardy と
Venetoのような土地が財政の自律を求めるのは、中央政府が機能しないからである。
経済破たんや民族的分断に加えて、スコットランドからカタルーニャまで、ナショナリズムを推進する積極的な要因がある。それは技術変化だ。情報化した社会は人的資本の開発に大きな報酬をもたらす。第1言語を習得し、豊かな国民文化に参加する能力、国際投資を呼び込む独自のローカルな販売ポイントを持つことが、何より重要だ。もし地域や民衆、民族が「文化ナショナリズム」に向けてより大きな自由を要求するなら、それは技術変化とグローバルな競争によってさらに促される。
その影響として、大都市の成功がもたらされ、中小の市町村は荒廃していく。情報と文化のネットワークを濃密に集中させた大都市がグローバリゼーションに生き残る人々を助ける。地域の経済戦略は特別な「開発区」を創り出し、ますます巨大都市とその周辺に集中する。
離脱と自律の要求は、国際法の中に確立されている。12月、欧州司法裁判所は、国連憲章第1条がEU内でも法的強制力を持つ、と判決した。カタルーニャでも、フランダースでも、スコットランドでも、法に訴えるだろう。
PS Oct 26,
2017
Like the
Palestinians, the Kurds Deserve a State
SHLOMO AVINERI
現在では、すべてのものが、パレスチナ人が国家を持つべきだということに同意する。ほとんどのイスラエル国民も同意する。多くの西側民主主義諸国では、左派の強い地域で、パレスチナ独立を支持するデモが行われる。
その基礎にあるのは、民族自決を支持する基本的な道義性である。しかし、クルド人の同じ権利については、西側は恥知らずに、奇妙な沈黙を示す。西側民主主義諸国は先月のクルド地域政府(KRG)の独立を求める住民投票を支持しなかったし、イラク政府やトルコ政府がクルドの独立を軍事力で阻止するという脅迫にも反対しなかった。
EUやアメリカの政府スタッフがクルド独立に反対する理由として挙げるのは、リアルポリティークであり、イラク領土の統一を脅かす、ということだ。また独立は、多数のクルド人少数派が住むトルコやイランを不安定化する、と言われる。
こうした主張はダブル・スタンダード(いんちき)である。パレスチナ人も、クルド人も、道義的な根拠がある。何世代にもわたり、クルド人が野蛮な弾圧を受けたことを軽視している。サダム・フセインのイラクでは、化学兵器によるジェノサイドの犠牲にもなった。トルコ軍は何百ものクルド人の町を破壊した。
イラクの領土の統一性を主張するほど、虚構で偽善的な主張はない。第1次世界大戦でオスマントルコ帝国が敗北したとき、イギリスの政治家たちがイラクを創った。それは彼らの帝国的な利益に従い、イラク領土の歴史や地理、人口、エスニックと信仰に関する多様性を無視したものだ。シーア派が多数で、多数のクルド人、キリスト教徒も住む国に、住みたいか、とだれも聞かれなかった。イギリスがHejazから移したスンニ派の王朝によって支配されたいか、とも聞かれなかった。
最初は、1920年にオスマントルコが署名したセーブル条約に従い、クルド人は、アルメニア人と同様に、独立国家を約束されていた。しかし勝利した連合諸国は、その約束を破棄したのだ。それ以来、クルド人は弾圧の下に暮らしている。イラク北部となった土地で、クルド人は自分たちの言語や文化も否定された。イラク領土の一体性は、弾圧の言い訳でしかない。
しかもKRGは、すでに開放的で多元的な社会を実現している。半自律的な地域として、イラクのクルディスタンは、複数の政党が競い合っており、イランやトルコがますます権威主義体制に向かうのに比べて、この地域では顕著な存在だ。人権運動は、リアルポリティークを超えて、パレスチナ国家だけでなく、クルド人の国家も支持しなければならない。
長い弾圧の歴史において、クルド人が繰り返し西側に見捨てられたことは、大いに恥じるべきことだ。再びこれを許してはならない。クルド人のペシュメルガは、イスラム国家を掃討する最強の同盟軍でもあったのだ。
● 狂信者に愛を
NYT OCT.
23, 2017
How to
Engage a Fanatic
David Brooks
狂信者と、どのようにかかわるべきか?
野球の試合を観に行ったとき、トランプ支持者が私と妻や息子に、10分間も冒涜的な言葉を吐き続けた。ノースカロライナ大学では、過激主義者の発言をキャンパス内で許すべきか、激しい論争があった。マドリードでは、カタルーニャ独立運動の指導者たちがあまりにもラディカルで、理性的に説得できない、と多くのスペイン人が語った。ロンドンでは、Brexitの賛成派と反対派との市民対話を試みた。
狂信者と市民的な対話をしても無駄である。彼らを追放するべきだ。同じように対抗する力を示すべきだ。彼らには軽蔑しか値しない。
しかし、私はさらに考え、Stephen
L. Carterの1998年の本“Civility”に同意する。狂信者には、唯一、愛をもって対抗するしかない、と。狂信者に本当の質問をする。彼らの言葉がいかに嫌いでも、彼らの運命と魂に心から配慮する。
それは自分自身のためになる。暗黒の情念に打ち勝ち、より良い情熱を持てる。
それは彼らのためになる。狂信者の多くはニーチェの超人ではなく、むしろ孤独で、悲しい。彼らの狂信は傷ついたプライドから生まれている。
それは、自分たちの国、市民的な共通のきずなを強くできる。われわれは共通のプールを泳いでいるのだから。Carterは、市民であるとは「共に暮らすためにわれわれが求められる犠牲のすべてのことである」と書いた。
あなたが狂信者を好きになる必要はない。Martin
Luther Kingがしたように、敵の心に愛を与えるのだ。
● 希少通貨条項
PS Oct 24,
2017
Resurrecting
Creditor Adjustment
ROBERT SKIDELSKY
保護主義的な議論がすべて出てくるトランプ政権について、持続的な対外不均衡に対する顕著な是正手段についてだれも言及しないことは驚きである。それは1944年のブレトンウッズ協定に示された「希少通貨条項」"scarce-currency clause"である。
協定の第7条は、加盟諸国が一時的に希少通貨の取引を制限することを認める。希少通貨国とは、経常収支黒字を続けて、外国為替市場で希少となる通貨の発行国である。
J.M.ケインズは、国際清算同盟案で、継続して債権国となる加盟諸国に対する次第に重くなる制裁措置を提案した。それは経常収支黒字国に圧力をかけることを意味する。アメリカは世界最大の債権国であったから、ケインズ案を拒否した。しかし、ケインズ案を提出したイギリスをなだめるために、第7条を加え、ドル不足に陥った諸国がアメリカ財の購入に制限を加えることを許したのだ。
希少通貨条項はそれ以降も無視されてきた。戦後、アメリカはヨーロッパ諸国の収支ギャップをマーシャル・プランの援助で埋めた。1970年代初めから、アメリカは貿易収支の赤字を出してドルを供給した。逆にアメリカ議会が希少通貨条項をヨーロッパや日本の黒字に適用することを求めたが、成功しなかった。
エコノミストのVladimir
Maschは、アメリカが“compensated
free trade” (CFT)を推進すると示唆した。それは希少通貨条項をアメリカが一方的に発動する仕組みだ。トランプ政権はアメリカの貿易赤字に毎年の上限を課す。そして主要な貿易相手国にその黒字額の限度を示すのだ。Masch案では、限度を超えた国はそれに応じて罰金を支払う。支払わなければその国の輸出を阻止する。
しかしこの仕組みでも、ドイツがユーロ圏内で生じている黒字は減らない。2008年の世界金融危機以後、EUはMacroeconomic
Imbalance Procedure(MIP)を定めて、GDPの6%を超える黒字国と4%を超える赤字国に罰金を科すことにした。しかしMIPにはケインズ案に比べて2つの欠陥がある。1.継続的黒字国に対して自動的に発動しなかった。2.債務国(赤字国)の保護措置を省いた。
経常収支不均衡を解消する1つの方策として、ユーロ圏諸国が所得と貿易の大きさに応じてEuropean
Monetary Fund(EMF)に資金を拠出し、EMFが独自の希少通貨条項を定め、黒字国からの輸入を差別化することを許すべきだ。マクロンは、先月、ソルボンヌの演説でEMFを提案した。その細部は示されていない。黒字国への制限はEUの自由貿易原則に反するが、経済統合は常に黒字国にも調整を求める。それなしには国境を開放することは維持できない。
********************************
The Economist October 14th 2016
The world’s most powerful
man
Iraq and Islamic State:
Squandering the peace
Cambodia: The man who
foiled the UN
Xi Jinping after five
years: Life and soul of the party
South Korea: Promising
the moon
Banyan: Land to the
tiller
Austrian politics: The
Wunderwuzzi
Charlemagne: Breakaway
blues
Schumpeter: The nuclear
option
(コメント) 中国の習体制が安定することは,権力の過度の集中と不安定化を意味する.イスラム国家から解放された大都市が以前の政治システムによって再生できるか.日本が内戦終結後の民主的選挙による再出発を誘導したはずのカンボジアが1人の強権体制に堕落している.
オーストリア政治の変貌,そして,アメリカがドルとその金融システムを用いた地球規模の懲罰的権限.それを,ヨーロッパや日本のような安全保障をアメリカに依存する国ではなく,中国に対して行使されるとき,その報復は全く異なる破滅的な結末に至る.・・・
韓国,ムン・ジェイン大統領の最低賃金引き上げ政策やチェボル解体政策が,新しい成長モデルに向かうのか,興味深い考察があります.
******************************
IPEの想像力 10/30/17
「護憲」という主張は政治のダイナミズムを失いました。しかし,立憲民主党が自民党に対抗するには、保守派を取り込むリベラルになるべきだ、という日本の政治解説は間違っていると思います。
カタルーニャの独立宣言.クルディスタンの後退。あるいは、イスラム国の領土消滅と,その後のテロ,ガバナンス回復。The
Economistに見る,韓国,カンボジア,南スーダン,オーストリア.
Reviewが示すグローバルな政治経済構造の変容に,この国に生きる市民が対抗できる条件を,日本は提供できるのですか? 既存の支配秩序に対抗して,リベラルな市民的国際秩序の維持・調整に関する小国と大国の関係を問い直す,深い考察を示さねばなりません。
****
Janan
Ganesh ・・・国民であるとは、豊かな地域が当然のこととして、すすんで他の地域のために支払うことを意味する。もしこの気持ちが失われたら、国民の中身が失われる。
ヨーロッパの最も裕福な諸都市は、周辺も含めて、自治を行っていたものがあるし、その帰属する国家よりも古くから存在した。・・・保守派は国民国家を強化し、怒りに燃える地方を代弁することができなくなる。それは、収奪の関係だ。国民性を長期的に脅かすものは、生産性の高い、外向きの地域から来るのである。
MANUEL MUÑIZ ・・・富の生産と分配に関する改革がなければ、政治の混乱は鎮められない。賃金と雇用を観れば、それがわかる。・・・賃金はもはや再分配の中心的な役割を果たさなくなった。・・・指導者たちは急速な技術変化がもたらす外部性に対処し、経済的・政治的な持続可能性を回復しなければならない。言い換えれば、デジタル時代の新しい社会契約だ。
Paul Mason ・・・ウィルソンWoodrow
Wilsonはヨーロッパの旧帝国を解体するためにそれを使い、レーニンVladimir Leninは帝国主義を破壊する目的でそれを促進した。・・・スペインやイタリアで明らかなように、緊縮策、汚職、政治的機能マヒが重なって、地域民主主義が制限されたからだ。・・・大都市の成功がもたらされ、中小の市町村は荒廃していく。情報と文化のネットワークを濃密に集中させた大都市がグローバリゼーションに生き残る人々を助ける。
ROBERT SKIDELSKY ・・・経常収支不均衡を解消する1つの方策として、ユーロ圏諸国が所得と貿易の大きさに応じてEuropean
Monetary Fund(EMF)に資金を拠出し、EMFが独自の希少通貨条項を定め、黒字国からの輸入を差別化することを許すべきだ。・・・黒字国への制限はEUの自由貿易原則に反するが、経済統合は常に黒字国にも調整を求める。それなしには国境を開放することは維持できない。
****
希少通貨条項に関して検索すると、「岩田一政の万理一空」の「2010年10月25日 経常収支数値目標とプラザ合意II」がありました。世界金融危機後、G20でマクロ数値のガイドラインを合意することができなかった、という話が興味深いです。
戦争を回避し,暴力による優位を許さず,市民の安全と権利を保障して,富の生産と分配をめぐるルールに合意できるのか? 1国でも,国を超えて,地域や世界の秩序再編でも,その能力が問われます.
イギリス政治においては,EU離脱から資本主義をめぐるイデオロギー論争が復活しました.アメリカの政治はトランプ後にも残る長期的な意味を問い始め,超国家的なドル体制の限界,米中貿易・金融戦争に備えています.内外に新しい秩序を描く,積極的な構想を持って初めて,日本で政権を担うための「保守派を取り込むリベラルになる」意味があります.
******************************