IPEの果樹園2017 

今週のReview

10/23-28

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EUの将来 ・・・習近平の共産党大会 ・・・ウソだらけの大統領 ・・・オーストリアの選挙 ・・・Brexitという妄想 ・・・日本の衆院選挙 ・・・移民管理の撤廃 ・・・中国の改革と外交 ・・・知的所有権IP体制 ・・・グローバリゼーションの適正化 ・・・ロボットと人間

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 EUの将来

NYT OCT. 16, 2017

Where’s the E.U. in the Catalonia Crisis?

By SUSI DENNISON

住民投票は民主主義の印象を与えるが、それが人民の声を表現しているのか、あるいは、民主的に選出された政府に対するポピュリストの強制力になるのか、明らかではない。

住民投票でカギとなるのは、その問題の表現方法だ。2016年のBrexit投票が示したように、単純な問題(“Should the United Kingdom remain a member of the European Union or leave the European Union?”)を立てながら、緊縮財政から、「エスタブリシュメント」、政府への感情、など、何もかもが議論された。

カタルーニャでも、問題を広げることで、分離主義者は以前の投票よりも多くの同調者を得た。カタルーニャ危機においては、すべての局面で双方が誤りを犯した。しかしEUは政府間組織であり、スペインはそれを構成する国民国家である。中立の立場でEUが仲裁するのはむつかしい。

同様に、メガホン外交で、スペイン警察の暴行を告発するのは偽善的である。むしろ静かに、価値のある外交交渉を進めるべきだ。危機を震源と考えるなら、EU指導者たちが全力を挙げるべきだろう。

それは短期的な意味だけではない。EU指導者たちには、単なる兆候だけでなく、カタルーニャも1つのケースとして、ポピュリストが大きな支持を得る諸原因に対処しなければならない。それは長期的に、ヨーロッパ市民たちが懸念を感じている、アイデンティティ、雇用、歴任あるサービス供給、安全保障に関して、ポピュリストに対抗する政策を示すことだ。

政府がこれらの問題で有権者の心をつかむ政策を示せないとき、その不満の唯一の解決策として、システムへの反対投票を1回限りの国民・住民投票で示すのだ。


 習近平の共産党大会

FT October 14, 2017

China’s next five years: ‘Only Xi is indispensable’

Tom Mitchell in Beijing

中国共産党の新しい総書記として習近平が最初に訪れたのは、2012年、南部の深圳であった。そして実物よりも大きな鄧小平の彫像に花輪を捧げた。習は敬意を表して、現代中国の基礎を据えた彼の政策を続けることを表明したのだ。

水曜日の党大会を準備する習が、第2期の政権を、鄧小平の「開放政策」を持続するために、その権力を行使するのか、あるいは、峡湾党内の自己の権力と同盟者たちの地位を守るために動くのか、それが問題である。

彼の政治資本は、容赦ない反汚職キャンペーンと、中国の領土に関する強硬姿勢である、と支持者たちは言う。党大会の成功後、いよいよ彼のAチームが、経済・金融分野の改革にも挑むだろう、と。

しかし、習は中国現代史の新しい時代を意図しているようだ。北京の精華大学教授Li Xiguangは言う。「毛沢東は侵略者を敗退させ、鄧小平は貧困を撲滅した。」しかし、「習は、われわれの(政治・経済)システムについて自信を示す。・・・それは全く新しい時代となる。」

人民大学の教授Shi Yinhongは言う。「習が取り組む問題はある。しかし、アメリカを観よ。大統領は狂人であり、議会は分裂状態で、人民も分断されている。ヨーロッパは財政危機にある。習は、中国が活気ある、強力な、上昇し続ける国であると信じている。その人気の終わりに、中国の復活は基本的に実現するだろう。」

FP OCTOBER 16, 2017

1.3 Billion People Are in One Man’s Grip

BY VICTOR SHIH, JUDE BLANCHETTE

中国の政治はブラックボックスであり、存在しないテキストを読む作業である。13億人の中国を、すべての面で統治するため、8900万人の党員が共産党の下に指導者への忠誠を誓う。習近平は、共産党内部の分派やネットワーク、パトロン関係を許さず、汚職追放キャンペーンで自分とその同盟者に対する権力の集中をはかった。

それは重要ポストの異動や国営放送の内容によって示される。江沢民や胡錦濤が、前任者や偉大な指導者たちの遺産を強調し、それを自身の正当性につなげたことに比べて、習近平は権力掌握直後から、習に対する忠誠をアピールし始めた。

巨大な官僚組織が指導者の手を縛っている、という考えは当てはまらない。経済や外交における重大なリスクは存在しており、権力を確立したのちに、改革を進めると前提されてきた。しかし、習近平は、必ずしも経済改革を進めないし、外交を制約されてもいないだろう。すべては共産党の権力を高めることに向けられる。


 ウソだらけの大統領

NYT OCTOBER 14, 2017

Lies, Lies, Lies, Lies, Lies, Lies, Lies, Lies, Lies, Lies

Paul Krugman

現代の保守派は税金について多くの嘘を並べてきた。その多くは1970年代にさかのぼる。しかし、トランプ政権はその愚劣さと数値について新しい水準に達した。私が彼らの真っ赤な嘘を数えていると、ついに10に達したので、これをリストアップする。

嘘の1:アメリカは世界で最も高い税金を課す国だ。・・・彼は何度も、何度も、こう言った。しかし、OECDの示すGDP比を観よ。OECD平均が34.3%であり、アメリカは26.4%だ。

嘘の2:不動産税が農場や運送業者を破産させている。・・・そのような例は1つもない。少なくとも、1970年代後半以来、免税額を現在価値で200万ドルほどに引き上げてからはそうだ。トランプは最近、それに運送業者を付け加えた。不動産税を支払う農場や運送業者はごく一部である。

嘘の3:パススルー事業体に課税されて零細企業が苦しんでいる。・・・トランプの提案は、零細企業のためではなく、富裕層への減税だ。

嘘の4:利潤を減税することは、労働者の利益になる。・・・企業は減税で増えた利潤を使って、より多くの労働者を雇用し、あるいは、より多くの賃金を支払うだろうか? 現在では、労働者たちの要求は全く無視される。より多くの投資によって、それらが起きるのか? 1.多くの企業が物的な投資で利潤を上げていない。Apple, Google, Microsoftなどは、技術革新、ブランド力、市場支配、によって利潤を増やす。2.賃金引き上げとなるような資本ストックの増大はどこから来るのか? 減税が国民貯蓄を増やすことはない。それは海外からの資本流入だろう。そして、ドル高と貿易赤字を意味する。企業は海外投資を好み、国内の賃金引き上げには向かわない。

嘘の5:海外利潤をアメリカに送金させれば雇用が増える。

こうして並べるだけでも気がめいる。しかし、まだいくつも抜けているだろう。トランプは新しい嘘を創り続けている。


 オーストリアの選挙

Bloomberg 20171016

Austria's Great Millennial Hope Walks a Fine Line

By Leonid Bershidsky

選挙後、オーストリアのナショナリスト、自由党の党首Heinz-Christian Stracheは、中道右派の人民党Sebastian Kurzによって政策を模倣された、と主張した。より一貫したEUの移民統合政策に関して中道右派の見解が支持されたことはプラスであろう。しかし、その連立政権はEUの東西分断をさらに深めるかもしれない。

通常の説明では、31歳のKurzが、保守派の人民党を率いて、移民を激しく攻撃するStracheから、勝利を奪い取った。2015年の難民危機以降、自由党が支持率で上回っていたが、Kurzはエスタブリシュメントの政党を転換し、多くの有権者が望むような、厳しい移民管理と、Stracheのような汚い主張をしない、安全な選択肢を提供した。自由党はオーストリアとドイツのネオナチにつながる歴史を持ち、穏健な有権者を恐れさせた。しかしKurzは、中道左派の社会民主党より、自由党との連立を望んでいる。

メルケルと違って、Kurzは移民政策で政治的な経歴を積んだ。その移民政策は最初から、ドイツ語の習得を要求し(ドイツ語は外国人が学ぶのは非常に難しい)、EU外からの移民に専門的な資格を求め、新しい統合法案で、ドイツ・オーストリアの価値を学ぶように求めていた。

アフガニスタンからの移民が言葉の問題で労働市場に統合されないことを注意したが、反イスラムの主張をしなかった。2005年以来、初めての政権参加という見通しを与えることで、自由党の乱暴な主張を穏健化しようとしている。オーストリアが直ちにユーロ圏やEUから離脱すべきだ、といった主張だ。

反ユダヤ主義を隠そうともしないStracheだが、ベビーフェイスのKurzは、もっと年配のドイツ語圏の政治家たちに比べて、そのことを連立の障害とは考えない。Kurzの世代にとって、ナチの時代は歴史的にあまりにもかけ離れているからだ。ある意味で、ナチの強固な伝統はオーストリアから消えないだろう。彼らを拒むより、Kurzはもっと建設的な姿勢を彼らに求める機会を得たのだ。近年、ノルウェーで同じことが起きた。

しかし、Kurz-Stracheの連立政権は、短期的に、EUの結束を脅かすかもしれない。強硬な移民政策は、政府を「ヴィシェグラード4the Visegrad Four」(Poland, Hungary, Slovakia and the Czech Republic)に接近させるだろう。オーストリアのような旧来の民主主義国を仲間に加えて、脱共産圏諸国の、移民から統合深化まで、EU指令に対する反発は強まる。

Kurzのゲームは若い政治家の危険な一手である。そのプラグマティックな解決策は、安定性を愛する有権者に支持された。しかし、もし彼が自由党の中に潜む恐ろしい勢力を制御できず、東欧を西欧から切り離すようなことになれば、オーストリアもヨーロッパも、この若い指導者が一国を運営するのは早すぎた、と悔いるだろう。


 Brexitという妄想

FT October 20, 2017

Zombie ideas about Brexit that refuse to die

Martin Wolf

合意がないまま離脱する場合、それがイギリス経済や近隣諸国との関係に破壊的なショックを生じる可能性は高くなる。もっとプラスの側面を観よ、と主張するのは、障害を越えられない者に、空を飛べると考えればよい、と助言しているのに等しい。

現状を理解するには、多くの離脱派が執着するゾンビ思想を知るべきだ。

1EUは離婚の全般的条件から決めるべきだと主張する。これは理不尽である。・・・「彼らは時間をかけて、できるだけ多くを搾り取るつもりだ」とDavid Davisは不満を言うが、相手が強い、ということだ。

2.より大きな貿易赤字を持つUKは、EUよりも交渉力がある。・・・UKが抜けても、EUは世界第2の経済圏だ。UK市場の6倍の規模がある。どういう意味か、わからない? カナダ人に尋ねてみよ。彼らはアメリカとNAFTA再交渉を進めている。

3EUの優先順位は理不尽だ。通貨・金融問題、アイルランド、イギリスに住むEU市民。・・・最初の2つに関するイギリスの提案は不十分で、矛盾している。

4UK経済は(EUを抜けても)強力だ。・・・イギリスの雇用状況は良い。しかし、危機後、生産性は伸びず、イタリアと並んでOECDの底だ。投資も輸出も弱い。Brexit投票後は、債務による消費が成長を支えた。実質賃金は低下し、成長が弱まってきたのは、Brexitが超ハードになりそうだからだ。

5.離脱や移行に関して合意がなくても、UKには何も問題ない。・・・WTOルールだけでは、イングランド銀行総裁が警告したように、UKは脱グローバル化するだろう。19世紀の貿易と違って、現代の貿易は近接性や規制の障壁が重要だ。EU市場へのアクセスを失ったことは容易に他で埋め合わせできない。US、中国、インドと優遇措置を合意すると言うが、そのような交渉ではUKは全く弱い交渉国だ。話し合いは残酷な結果になる。

6.離脱派の主張を否定するのは、「裏切り者」であり、「人民の意志」に反する「妨害行為」だ。・・・それこそ独裁者の主張だ。間違った決定は逆転することができる。近隣諸国やパートナーとの関係を切断し、破滅をもたらすゾンビ思想に執着する者こそが妨害者だ。反対する権利がわれわれにはある。


 日本の衆院選挙

NYT OCT. 15, 2017

The Death of Liberalism in Japan

By KOICHI NAKANO

先月、安倍首相による突然の解散で衆院選挙が決まった。それは、野党が分裂し、安倍の支持率が回復しつつあったからだ。彼のタカ派の主張が、北朝鮮の好戦的な姿勢によって支持された。

しかし、実は安倍政権は弱さを抱えている。日本の政治は、代表制の危機にある。保守2大政党の対決は、有権者の求める政策からさらに乖離するだろう。2つのスキャンダルで安倍は追及されていた。国会審議を拒んで、議会を解散したのだ。

安倍と自民党の多数支配とは、政権交代できる野党がなく、小選挙区制のために、消極的な支持を得たものである。自衛隊の活動範囲を拡大する安全保障の法改正は、いまだ、国民の中に意見の分裂を生じている。

民主党が市民運動と形成した共闘は、その後も問題を生じた。民主党内の保守派が反対していたし、新しい指導部は優れた党首を得られなかった。安倍が議会を解散したとき、東京都知事の小池ユリ子は、希望の党を立ち上げた。その後、民主党党首の前原と、党の吸収という驚くべき合意を発表する。

しかし、希望の党の政策はあいまいだ。自民党は「日本を取り戻す」と唱え、希望の党は「日本をリセットする」という。しかし、安倍と小池はイデオロギーを共有する。結局、ポピュリストの小池が実現したのは、日本の左派・リベラルが連携するのを破壊したことだ。

民主党のリベラル派は、希望の党から拒まれ、立憲民主党を立ち上げた。彼らを支持する声はあるが、選挙準備の時間はなかった。選挙によって日本の左派は消滅するだろう。


 移民管理の撤廃

The Guardian, Monday 16 October 2017

End all immigration controls – they’re a sign we value money more than people

Gary Younge

私は10代のとき、西ベルリンに行った。当時、もちろん、壁があった。明らかに、そこにとどまることを望まぬ人々を、壁によって、意図的に罠に落とした。それは東側・共産圏に対する道義的な反発の根拠となった。彼らの政府が人々に西側への旅行を禁じたことが、彼らに自由がない証拠となった。それは天井のない監獄であった。

ベルリンの壁が倒れて間もなく、このロジックは逆転した。スターリン体制を打倒し、自由市場の変動に国々が飛び込むにつれて、彼らが出国する権利を支持するよりも、彼らが自国に来るかもしれないという不安が強くなった。彼らが壁を解体する間に、われわれは自国に砦を築いた。政治は彼らの入国を支持するが、自分たちの経済的利益を優先することが彼らを国境の外に止めた。

オスカー・ワイルドは、「ユートピアのない世界の地図は観るに値しない」と書いた。人類は国の外を観る。もっと良い国を求めて航海する。

ベネディクト・アンダーソンは、国民(民族)国家を「想像の共同体」と呼んだことで有名だ。私が想像する国家には、国境警備隊はいない。有刺鉄線も、パスポート管理も、壁も障害物もない。世界はそういうものをなくすことで改善されるだろう。

国境はいつも、私に緊張を強いる。制服の職員たちは、私の黒い顔とパスポートを観るからだ。黒人として西側を旅することは、容疑者として見られることだ。

最近、人にとって壁が強化される一方で、資本に対する壁は取り除かれた。資金は世界中を規制もなく移動できる。より規制の少ない、より賃金の安い土地を探して、資本は移動する。それはしばしば人々を荒廃させる。その土地の投資や資源を奪い、工場を地球の裏側に移転し、機械化を進めて雇用を失わせる。こうして生活を奪われた人々が仕事を求めて国を移動することは妨げられる。

国境は、特権者を守るためにある。移民は問題ではない。国境が問題なのだ。


 中国の改革と外交

Bloomberg 20171018

China Isn't Fixing Its Flaws

By Leland Miller And Derek Scissors

中国の経済回復は、共産党大会で習近平を支える楽観論につながっている。しかし、回復の基礎にある前提は間違っている。

1.中国の成長が債務依存型であることは変わっていない。債務の増大は遅くなったが、減少しているわけではない。

2.中国経済の成長が、製造業の投資から、サービス産業や消費に移った、ということはない。2017年の回復を支えたのは製造業だ。世界的な金融緩和、リフレ政策と、商品価格の上昇が製造業の利潤と投資拡大を可能にした。

3.中国は、政府の主張に反して、製造業の過剰生産力を削減していない。

中国経済の構造転換は始まっていない。むしろ、共産党の安定性優先によって、その課題は延期されたのだ。

PS Oct 20, 2017

Why the Renminbi Won’t Rule

PAOLA SUBACCHI

そもそも中国の指導者たちは、人民元をドルに代えたいと望んでいない。彼らは、複数通貨による国際通貨体制を目指している。それによって単一の国の通貨や金融政策に依存する状態を変えたいのだ。より多くの中央銀行が流動性を供給し、国際金融センターがそれをプールして、金融ひっ迫のリスクを抑える、と考えている。

アメリカ・ドルの支配が続くのは、彼らが築いた戦後のブレトンウッズ体制に依拠するからだ。こうした国際金融機関の改革を進めるよう、中国政府は要求している。それは人民元体制ではない。


 知的所有権IP体制

PS Oct 17, 2017

Intellectual Property for the Twenty-First-Century Economy

JOSEPH E. STIGLITZ, DEAN BAKER, ARJUN JAYADEV

既存の支配的企業が知識の独占によって利益を確保する考え方は、今後、力を失うだろう。1.南アフリカ、インド、ブラジルなど、新興諸国が力を増す。2.革新的アイデア、知識、情報による経済活動が増大する。

特許制度は、革新に対して賞金を出すことに等しい。それは知識の流れを妨げ、経済を歪める。その対極にあるのは、知識の流れを最大化し、創造的な共有財を維持し、オープンソースのソフトウェアを実現するシステムだ。


 グローバリゼーションの適正化

VOX 17 October 2017

Making globalisation more inclusive: A way forward

Sergei Guriev, Danny Leipziger, Jonathan D. Ostry

グローバリゼーションが行き過ぎることで受益者と犠牲者との差が生まれている。グローバリゼーションそれ自体のデザイン、ルールを修正することで、より包括的なモデルに転換する必要がある。排除を緩和し、地位を失う市民が再生できるような仕組みが必要だ。

世界経済の回復を促し、経済システムの公平さを信頼できるようにする魔法の杖はないが、適切な政策のセットは考えられてきた。

l  職場が失われることに対する再教育・再訓練を整備する。

l  税制改革を通じて、不平等を緩和し、社会保障を提供する。適切な再分配は成長を損なわない。

l  全てのものの利益になる金融市場の在り方。

l  公平な競争を促進する。

l  国際協調の新しい時代を拓く。


 ロボットと人間

FT October 20, 2017

People power, not robots, will overcome humanity’s challenges

Tim O'Reilly

ロボットが人間の仕事をすべて奪ってしまうのか? そんなことはない。周りを観たら、やるべきことはいっぱいある。

インフラは崩れている。高齢者は介護を求めている。医療や公共サービスは前世紀のシステムだ。何千万もの難民、災害の犠牲者がいる。彼らの生活を改善することは、第2次世界大戦後に敵国の経済を再建したことと同じだ。気候変動の妖怪が徘徊する。

人間社会を改善するとは、その問題を解決する方策の積み重ねだ。問題がなくならない限り、やるべき仕事はある。

何かが安価な商品となれば、他の何かが価値を持つ。産業革命では、紡績や織布の工員は機械化で仕事を失った。しかし、衣服は安価になって、そのデザインに高い価値が生まれた。多数の労働者が、衣服のデザイン、マーケティング、販売・流通において仕事をしている。

富裕層のしていることを、未来では、誰もが消費する。ヨーロッパ一周旅行。野外の食事。携帯電話。個人教授。個人向けの薬。個人向けのトレーナー、コーチ、セラピスト。

生産性を高めることではなく、その豊かさを分配することが問題だ。なぜ賃金はこれほど低く、労働時間は減らないのか? 賃金と労働条件が需要と供給で決まる、という経済理論は間違っている。生産性の上昇が、資本の所有者への利益となり、安価な商品として消費者に届く、というとき、労働者は削減するべきコストでしかない。

問い方を変えることで、もっと良い世界を発見できる。

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The Economist October 7th 2016 

The bull market in everything

Separatism in Catalonia: How to save Spain

Asset prices: The bubble without any fizz

Banyan: Homage to Formosa

Emerging Markets: Out of the traps

(コメント) アメリカや他の富裕諸国で金融市場は上昇し続けています.株,債券,不動産,だれもがバブルを恐れ,次の恐慌を懸念しますが,そうではないかもしれない,これは,ブーム・アンド・バストではない,という話です.金融政策と市場安定化の手段はある,と.

カタルーニャの分離主義は,それを議論によって抑制し,自治権について合意する十分な根拠がある,と考えます.この問題に,台湾が強い関心を示すのは当然でしょう.しかし,テレビ局が取材班を派遣したのはクルディスタンでした.

「新興市場」に関する特別な悲観要因(中所得の罠,通貨・債券市場の崩壊,石油の呪い,早期脱工業化,ポピュリズム)はすでに適切な政策・制度により解決可能な問題として扱われます.彼らにとっての脅威は,トランプの広める保護主義,世界貿易の破壊です.

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IPEの想像力 10/23/17

衆議院選挙の過程で,立憲民主党への期待は大いに高まりました.政治や指導者に対する期待が極端に低い,と東北の被災地をめぐった外国人ジャーナリストは注目していました.だからこそ,日本人に政治の力を信じさせる政党が生まれたことを喜びました.

「女子高生も「エダノン」と叫ぶ 立憲民主・枝野幸男の変わらない政治の原点」澤田晃宏AERA 2017.10.21

「立憲民主党、「野党第1党」への道が見えてきた」安積明子『東洋経済 ONLINE20171021

希望の党と立憲民主党に臨むことは,政策を具体化してほしい,ということです.

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The Economistの特集Emerging Markets: Out of the trapsは,「新興市場emerging markets」という呼称で,発展途上諸国への新しい潜在的成長力に国際投資を促した時代を振り返り,もはやそのような呼称は必要ない,と主張しています.

特集を読んで私が感じたことは,新興市場ではなく,これはグローバリゼーションの問題だ,ということです.冷戦終結(ソ連・共産圏の崩壊),中国の世界市場統合,金融・IT・輸送革命,がもたらしたグローバリゼーションの加速は,先進諸国を含む,開放型のグローバルな投資や雇用のシステムに参加するすべての国を「新興市場」に似た政策効果の混乱に陥れました.

いかなる国も,輸出によって市場に刺激を得て,成長に向けた国内改革を加速する時代があります.しかし,そのことが主要な輸出市場の景気後退や金融政策,為替レートを介した不況・経済危機の波及にもつながるのです.

特集は,新興市場に関して,もはやドルやアメリカ連銀に頼ってマクロ経済を安定化する必要はない,と教えます.資本市場や商品市場のブームに翻弄されることのない,通貨・金融制度を築くべきだ,「中所得との罠」を特別視することは何もない,と.

記事は指摘します.1人あたりGDPの成長をもたらすのは,1.伝統的な農村から近代工場へ,生産性の高い分野に労働者が移動する.2.進んだ技術,機械を手に入れるため,より多くの資本を投下する.3.資本であれ,労働力であれ,新技術を吸収する.4.究極的な成長の源泉である,技術革新を実現する.そして,すべての国がさまざまな圧力の下で,異なるペース,異なる割合で,これらを実現するのです.

「日本病」も,その1つです.

グローバルな金融市場統合に翻弄され,中国を含むグローバル・ヴァリュー・チェーンに呑みこまれ,トランプの世界貿易に対する破壊的介入,累積する国債や社会保障システムの破たんに関する政策の迷走,不安,に落ち込んでいます.何より,労働者の生活水準や労働条件の制度化されていない部分が広めた腐食効果により,グローバリゼーションやAI,ロボット,電気自動車が,機会ではなく混乱や失業の源泉と見えるのです.

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特集が最後に取り上げた論点は,ポピュリズム,でした.ポピュリストたちは,すべての人に何かを与える約束をする,と.それは現在の人々に与え,将来の人々を犠牲にします.債券を大量に発行し,紙幣を印刷し,国内産業を輸入品から守り,生産性上昇を超えて賃金を引き上げます.明らかに持続可能ではない,と分かっているのに,それが破局に至るまでの時間は想像以上に長く(特に不況やデフレにおいて),政治はその支配を確立して,正しい政策や制度を歪めてしまう,と.

もし具体的な政策で争わないなら,希望の党も立憲民主党も,日本に「ポピュリズム」のブームを呼び込み,あるいは,軍備拡大に頼るデフレ脱却と経済活性化に向かう「保守化」の最終章を開くだけの役割を担うでしょう.

アイデアや知識,経験のある人々を集めて,政策協議会を組織し,活性化してください.何を,どのような政策によって実現するのか,日本の辺境から世界の政策センターまで,政策チームが改革を刺激する方針を整理し,党として具体化します.政治への熱い期待を政策に実現する党が,グローバリゼーション下の政党政治を拓きます.

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