IPEの果樹園2017 

今週のReview

10/23-28

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世界金融危機とブラック・マンデー ・・・EUの将来 ・・・習近平の共産党大会 ・・・世界経済の政治リスク ・・・ウソだらけの大統領 ・・・キルクークの軍事衝突 ・・・UNESCO離脱声明 ・・・オーストリアの選挙 ・・・Brexitという妄想 ・・・日本の衆院選挙 ・・・移民管理の撤廃 ・・・中国の改革と外交 ・・・知的所有権IP体制 ・・・グローバリゼーションの適正化 ・・・トランプ・ドクトリン ・・・北朝鮮の核ゲーム ・・・プーチン時代の終わり ・・・ロボットと人間

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 世界金融危機とブラック・マンデー

VOX 13 October 2017

Ten years after the crisis: Looking back, looking forward

Richard Baldwin, Thomas Huertas, Tessa Ogden

CEPRがカンファレンスを開いた。テーマは"Ten years after the crisis: Looking back, looking forward"である。

Mario Monti(イタリア元首相)は、自分の経験から考察した。総需要管理と金融政策が論争になった。ドイツは嫌ったが、公共投資が重要だった。ヨーロッパの南北を分断する安定・成長協定は、再交渉する必要がある。すべての国に当てはまる1つのルールに合意することはむつかしい。しかし、弾力性が求められる。

Vittorio Grilli (JP Morgan and CEPR)は、規制改革という第1パネルのテーマを4つの視点で議論した。システム・リスクの大きさ、規制と成長のトレードオフ、生来のショックに対する経済の回復力、市場の規制分野と規制されていない分野との境界、である。「大きすぎて潰せない」(TBTF)を扱う政策には大きな改善があった。しかし、成長を促す規制改革をヨーロッパ規模やグローバルに進めることはまだできていない。

Catherine Mann (OECD)は、規制を3つの基準、成長、リスク、平等(不平等な分配)、で評価した。TBTFは、金融部門の雇用を守り、ゾンビ企業が生き残る形で、包括的な成長に反していた。

John Vickers (University of Oxford)は、金融危機後の自己資本増強に関しても、評価をめぐる異なる見解があると指摘する。

Tamim Bayoumi (IMF)は、第2パネルのテーマ、TBTF、デリバティブ、シャドー・バンキングを扱った。法改正the 1996 Single Market Actで、資本を、バランス・シートの拡大した利用で、TBTFに導いた。また、1970年代のインフレで大口預金が流出し、シャドー・バンキングに資本調達を移した。

Charles Goodhart (LSE and CEPR)は、危機後の金融政策が2つの点でモラル・ハザードを生じた、と考える。1.自己資本を高める仕組みがなかった。銀行は、資本増強より、融資の削減を選んだ。2.巨額の罰金で詐欺的な金融ビジネスを抑えられなかった。主要株主の有限責任を廃止し、財務規律を改正するべきだろう。

Paul Krugman (City University of New York and CEPR)は、間違った政策モデルが主張され、彼らが失敗を認めなかったために、ケインズ主義の政策対応が遅れた、と指摘した。そのようなモデルとして、1.「オーストリア学派」が過剰な融資・投資の後の「破産」を主張した。2.「構造主義」が失業率の低下を否定した。3.「財務省見解」が財政政策の効果を否定した。4.「マネタリズム」がマネタリーベースの増大による高インフレを警告した。

Shang-Jin Wei (Columbia Business School and CEPR)は、新興市場諸国における新しい危機のリスクについて指摘した。中国経済の世界に対する波及効果は甚大である。企業債務の増大や住宅価格の高騰が起きているが、危機になった場合、どちらのリスクも緩和できる。

Bloomberg 20171016

What's the IMF to Do Without a Crisis? Mostly Fret

By Daniel Moss

FT October 17, 2017

How big is the risk of another Black Monday equities crash?

Nicole Bullock, Robin Wigglesworth and John Authers In New York and Christian Pfrang in Hong Kong

FT October 20, 2017

The rise of US stocks masks shifting sentiment on Donald Trump

Gillian Tett

FT October 20, 2017

An eerily calm Black Monday anniversary veils volatility benefits

Tim Harford


 EUの将来

SPIEGEL ONLINE 10/13/2017

Interview with Emmanuel Macron

'We Need to Develop Political Heroism'

Interview Conducted by Klaus Brinkbäumer, Julia Amalia Heyer and Britta Sandberg in Paris

DER SPIEGEL: あなたは大学でヘーゲルを読んだ。彼はかつて、ナポレオン・ボナパルトを「馬上の世界精神」と呼んだ。1人の人物が歴史を動かせる、とあなたは思うか?

Macron: いいえ。ヘーゲルの思想では、「偉大な人物」はさらに偉大な何者かの手段である。ヘーゲルはそう言ったが、必ずしも常にナポレオンを称賛したわけではない。個人は、ある瞬間に、世界精神を体現しただけだ。

DER SPIEGEL: 大統領は、政治家は、どのように歴史を進めるべきか?

NYT OCT. 16, 2017

Where’s the E.U. in the Catalonia Crisis?

By SUSI DENNISON

カタルーニャとマドリードの争いが続く中、EUは何をしているのか?

EUは密室の交渉で事態を鎮静化しようと努めた。しかし、彼らはもっと早く双方の対話を促すべきだった。また、101日の投票に警察が暴力的に介入した事態を、もっと明確に非難すべきだった。

こうした混乱はカタルーニャが最後ではないだろう。ポピュリズムとの戦争は続く。近年、国民・住民投票がポピュリストの武器になってきた。ハンガリーでは、難民の引き受け割り当てを問い(投票率が低く不成立)、オランダでは、EUとウクライナの自由貿易協定を問い(否決した)、イギリスでは、EUに利樽すべきかを問うた(離脱を支持した)。

住民投票は民主主義の印象を与えるが、それが人民の声を表現しているのか、あるいは、民主的に選出された政府に対するポピュリストの強制力になるのか、明らかではない。

住民投票でカギとなるのは、その問題の表現方法だ。2016年のBrexit投票が示したように、単純な問題(“Should the United Kingdom remain a member of the European Union or leave the European Union?”)を立てながら、緊縮財政から、「エスタブリシュメント」、政府への感情、など、何もかもが議論された。

カタルーニャでも、問題を広げることで、分離主義者は以前の投票よりも多くの同調者を得た。カタルーニャ危機においては、すべての局面で双方が誤りを犯した。しかしEUは政府間組織であり、スペインはそれを構成する国民国家である。中立の立場でEUが仲裁するのはむつかしい。

同様に、メガホン外交で、スペイン警察の暴行を告発するのは偽善的である。むしろ静かに、価値のある外交交渉を進めるべきだ。危機を震源と考えるなら、EU指導者たちが全力を挙げるべきだろう。

それは短期的な意味だけではない。EU指導者たちには、単なる兆候だけでなく、カタルーニャも1つのケースとして、ポピュリストが大きな支持を得る諸原因に対処しなければならない。それは長期的に、ヨーロッパ市民たちが懸念を感じている、アイデンティティ、雇用、歴任あるサービス供給、安全保障に関して、ポピュリストに対抗する政策を示すことだ。

政府がこれらの問題で有権者の心をつかむ政策を示せないとき、その不満の唯一の解決策として、システムへの反対投票を1回限りの国民・住民投票で示すのだ。

PS Oct 17, 2017

Europe’s Attackers From Within

JOSCHKA FISCHER

NYT OCT. 17, 2017

Can the E.U.’s Weakest Link Hold?

Nikos Konstandaras

ユーロ圏におけるギリシャの地位をドイツは守れるだろうか? ドイツにおいてもポピュリストの影響が懸念される。メルケルは、モラル・ハザードを避けるために、それ以上に、国内の反対論を意識して、ギリシャに対する融資で厳しい条件を求めてきた。しかし、選挙の結果を受けて、新しい連立政権を模索している。その相手となる政党The Free Democratsは、救済融資を拒み、ユーロ圏全体に財政規律を求めている。


 習近平の共産党大会

FT October 14, 2017

China’s next five years: ‘Only Xi is indispensable’

Tom Mitchell in Beijing

中国共産党の新しい総書記として習近平が最初に訪れたのは、2012年、南部の深圳であった。そして実物よりも大きな鄧小平の彫像に花輪を捧げた。習は敬意を表して、現代中国の基礎を据えた彼の政策を続けることを表明したのだ。

水曜日の党大会を準備する習が、第2期の政権を、鄧小平の「開放政策」を持続するために、その権力を行使するのか、あるいは、峡湾党内の自己の権力と同盟者たちの地位を守るために動くのか、それが問題である。

彼の政治資本は、容赦ない反汚職キャンペーンと、中国の領土に関する強硬姿勢である、と支持者たちは言う。党大会の成功後、いよいよ彼のAチームが、経済・金融分野の改革にも挑むだろう、と。

しかし、習は中国現代史の新しい時代を意図しているようだ。北京の精華大学教授Li Xiguangは言う。「毛沢東は侵略者を敗退させ、鄧小平は貧困を撲滅した。」しかし、「習は、われわれの(政治・経済)システムについて自信を示す。・・・それは全く新しい時代となる。」

人民大学の教授Shi Yinhongは言う。「習が取り組む問題はある。しかし、アメリカを観よ。大統領は狂人であり、議会は分裂状態で、人民も分断されている。ヨーロッパは財政危機にある。習は、中国が活気ある、強力な、上昇し続ける国であると信じている。その人気の終わりに、中国の復活は基本的に実現するだろう。」

FP OCTOBER 16, 2017

1.3 Billion People Are in One Man’s Grip

BY VICTOR SHIH, JUDE BLANCHETTE

中国の政治はブラックボックスであり、存在しないテキストを読む作業である。13億人の中国を、すべての面で統治するため、8900万人の党員が共産党の下に指導者への忠誠を誓う。習近平は、共産党内部の分派やネットワーク、パトロン関係を許さず、汚職追放キャンペーンで自分とその同盟者に対する権力の集中をはかった。

それは重要ポストの異動や国営放送の内容によって示される。江沢民や胡錦濤が、前任者や偉大な指導者たちの遺産を強調し、それを自身の正当性につなげたことに比べて、習近平は権力掌握直後から、習に対する忠誠をアピールし始めた。

巨大な官僚組織が指導者の手を縛っている、という考えは当てはまらない。経済や外交における重大なリスクは存在しており、権力を確立したのちに、改革を進めると前提されてきた。しかし、習近平は、必ずしも経済改革を進めないし、外交を制約されてもいないだろう。すべては共産党の権力を高めることに向けられる。

FT October 17, 2017

Xi Jinping consolidates his power in China

George Magnus

Bloomberg 20171017

China's Stronger Without a Strongman

By Michael Schuman

FP OCTOBER 19, 2017

The Resistible Rise of Xi Jinping

BY SPECIAL CORRESPONDENT


 世界経済の政治リスク

FT October 14, 2017

A political shadow looms over the world economy

Martin Wolf

世界経済に関する楽観論は、政治におけるポピュリズムの広がりを恐れる気持ちに打ち消された。それがIMF・世銀総会の気分である。

経済的、政治的に重要な、高所得諸国の成長は構造において弱い。生産性の上昇率が低く、労働市場は、驚くほど緩やかにしか、賃金と可処分所得を増やしていない。特にアメリカでは、雇用者の比率が歴史的な低水準である。

金融危機後の大不況で、高所得諸国の回復はまだ遠い。危機前の成長率が続いた場合の実質GDPに比べて、6分の1は少なくなっている。危機は社会的・政治的な基礎に不快な影響を与えた。そして、この複雑な問題に単純な解決策を約束する、危険な政治的主張が広まっている。

カタルーニャも、トランプの唱えるNAFTA、貿易赤字、連銀議長、イラン核合意、北朝鮮、などの解決策も、深刻なリスクを意味している。しかし、市場はそれを無視したままだ。

FT October 15, 2017

World economy may be healthier than the IMF thinks

Gavyn Davies' blog


 イランとの核合意

FT October 14, 2017

Trump’s irresponsible approach to Iran

FT October 16, 2017

Donald Trump’s Iran gamble will not pay off

Richard Nephew

トランプ政権は、イランとの核合意JCPOAが守られていないと主張し、それを破棄する可能性を示唆した。明らかに、大きなリスクがあることを理解していながら、彼らは「もっと良い合意」というキメラを追うことを選んだのだ。

トランプは、国内で高まる制裁の再導入という政治圧力を利用し、核開発の抑制だけでなく、テロ支援や人権問題を取り上げることに賭けた。しかし、それが失敗する3つの理由がある。

1.アメリカの一方的な要求を、国際合意のパートナーやイラン側が受け入れることはない。2.交渉の高い不確実性によって、国際ビジネスはイランから撤退し、あるいは、契約を延期するだろう。それはアメリカ側の将来の交渉力を失わせる。3.テヘランの政府側が国内の政治圧力によって制約されている。指導者たちは、たとえ再交渉に応じても、引き延ばし戦術を取り、トランプへの国際的な反発を利用して、分裂を促すだろう。それはブッシュ、オバマ、両政権が多くの政治資本を費やした合意のための国際連携を、トランプのせいで失うことを意味する。


 ウソだらけの大統領

NYT OCTOBER 14, 2017

Lies, Lies, Lies, Lies, Lies, Lies, Lies, Lies, Lies, Lies

Paul Krugman

現代の保守派は税金について多くの嘘を並べてきた。その多くは1970年代にさかのぼる。しかし、トランプ政権はその愚劣さと数値について新しい水準に達した。私が彼らの真っ赤な嘘を数えていると、ついに10に達したので、これをリストアップする。

嘘の1:アメリカは世界で最も高い税金を課す国だ。・・・彼は何度も、何度も、こう言った。しかし、OECDの示すGDP比を観よ。OECD平均が34.3%であり、アメリカは26.4%だ。

嘘の2:不動産税が農場や運送業者を破産させている。・・・そのような例は1つもない。少なくとも、1970年代後半以来、免税額を現在価値で200万ドルほどに引き上げてからはそうだ。トランプは最近、それに運送業者を付け加えた。不動産税を支払う農場や運送業者はごく一部である。

嘘の3:パススルー事業体に課税されて零細企業が苦しんでいる。・・・トランプの提案は、零細企業のためではなく、富裕層への減税だ。

嘘の4:利潤を減税することは、労働者の利益になる。・・・企業は減税で増えた利潤を使って、より多くの労働者を雇用し、あるいは、より多くの賃金を支払うだろうか? 現在では、労働者たちの要求は全く無視される。より多くの投資によって、それらが起きるのか? 1.多くの企業が物的な投資で利潤を上げていない。Apple, Google, Microsoftなどは、技術革新、ブランド力、市場支配、によって利潤を増やす。2.賃金引き上げとなるような資本ストックの増大はどこから来るのか? 減税が国民貯蓄を増やすことはない。それは海外からの資本流入だろう。そして、ドル高と貿易赤字を意味する。企業は海外投資を好み、国内の賃金引き上げには向かわない。

嘘の5:海外利潤をアメリカに送金させれば雇用が増える。

嘘の6:これは富裕層のための減税ではない。

嘘の7:中産階級のために大幅減税をする。

嘘の8:減税は貿易赤字を増やさない。

嘘の9:減税が高成長を一気に実現する。

嘘の10:減税がそれ自身で税収を増やす。

こうして並べるだけでも気がめいる。しかし、まだいくつも抜けているだろう。トランプは新しい嘘を創り続けている。


 キルクークの軍事衝突

Bloomberg 20171014

Tillerson Letters Show U.S. Nearly Averted Kurdish Referendum

By Eli Lake

Bloomberg 20171017

Trump's Neutrality Only Deepens the Kurdish Crisis

By Eli Lake

トランプ大統領は、アメリカが中東におけるイランの介入を辞めさせる、と述べた。それは良いことだ。今がそのチャンスである。

イラク軍とイランが支援するシーア派の民兵集団がイラク北部のキルクークに入った。先月、イラクのクルド人が独立に関する住民投票を実施したことに対抗したものだ。クルド人はこの地域に舞台を増強していたのだ。これこそ、イランの介入、というものだ。

アメリカが与えた武器で、イラク軍はクルドの同盟軍を攻撃する、というトランプの有名なTweetがあった。"If Iraqi forces want to attack our Kurdish allies, they can't use the tanks and Humvees WE gave them!!!" イラク軍とシーア派の民兵集団がさらに侵攻するなら、バクダッドとのハイレベルな会談が必要だ。

しかし、トランプ政権は双方に味方して動けない。アメリカ大使館は声明を出した。「すべての紛争地域において、イラク憲法に従い、平和的に連邦支配を確立する」ことを求めた。イスラク国との戦いを進める連携の声明は、この衝突を誤解から生じた、という。

そうではないだろう。イラクのHaider al-Abadi首相は緊張緩和を唱えているが、シーア派の民兵集団の指導者は、明確に、彼の軍と対峙するクルド人のペシュメルガ部隊を、イスラム国と同じものとみなしている。

その経過が重要だ。サダム・フセインがキルクークからクルド人を追放した。2003年に独裁から解放されたとき、クルド人は町にもどり始めたが、それはアラブ人に危機を生じた。イラク憲法ではキルクークの地位を住民投票で決めることを許しているが、バクダッドの政府はそれを延期し続けた。

2014年に状況が大きく変わった。モスルを征服したイスラム国の攻勢が、キルクークにも近づいたのだ。2015年、その市長であったNajmaldin Karimに話を聞いた。彼はアメリカで学んだ神経外科医でもあった。2014610日、キルクークを防衛するイラク軍の将軍はイスラム国を恐れて戦うことを放棄した。兵士たちは民間人にふんして逃走したのだ。クルド人のペシュメルガがその役割を担い、イスラム国に占領されるのを防いだ。それ以来、彼らがキルクークを守っている。

ペシュメルガの部隊は油田近郊やアメリカ特殊部隊の駐留する拠点から撤退した。しかし、都市部にはとどまっている。アメリカにとって2つの同盟軍が相互に戦闘することは、イスラム国との戦い、イランの介入を排除する大統領の戦略からの、危険な逸脱である。

アメリカの指導力が求められる。クルド人指導部は、住民投票が「国家」を要求するものではない、と表明してきた。連邦制の下での交渉をティラーソン国務長官が呼びかけるべきだ。無意味な中立姿勢は危機を拡大する。

FT October 18, 2017

Iraq’s seizure of Kirkuk is part of a much bigger story

David Gardner

クルディスタンの住民投票と、キルクークにおけるクルド人部隊とイランの支援するイラク軍との衝突は、中東全体の国家の変容を争う焦点となっている。

NYT OCT. 18, 2017

Iraq Will Remain United

By HAIDER al-ABADI

FP OCTOBER 18, 2017

America Is in Denial About Iraq

BY EMILE SIMPSON


 UNESCO離脱声明

FT October 15, 2017

The US puts the World Bank under renewed fire

NYT OCT. 17, 2017

Unesco Shmunesco

Shmuel Rosner

先週の木曜日、アメリカ政府はUNESCOを離脱する意志を表明した。政府はその説明として、UNESCOが採る「反イスラエルの偏見」を挙げた。

これはイスラエルが歓迎する事件であったか? 必ずしもそうではない。たとえ直ちに、イスラエルがアメリカに続いて脱退を表明したとしても。

イスラエルは紛争に関わっている。しかし国連の諸機関はしばしばイスラエルだけに注目し、その行動を非難する。他国はもっとひどい犯罪に関わっていながら、その調査を求めることさえない。最近、アメリカの国連大使Nikki Haleyが国連人権委員会で、反イスラエルの偏見がある、と主張したこともそうだ。

それはイスラエルにとって、建国以来ずっと不満な点であった。しかし、それにもかかわらずイスラエルは国連にとどまることを選択した。国連加盟国として、できる限り闘うこと。そのプレーヤーであること。イスラエルの敵に望むものを与えない。それは、イスラエルを国際社会から排除し、孤立させることだ。

ここでトランプが来て、イスラエルの70年間築いてきた戦略を破壊した(イスラエル政府に相談もしなかった、という)。アメリカが離脱したから、イスラエルも離脱するしかなかったのだ。そしてアメリカに感謝しないわけにはいかなかった。

真実は違う。イスラエルは国連にとどまって国益を追求する。それが長期の戦略であった。もしトランプの動機がイスラエルを助けることでなかった場合、アメリカはイスラエルの国益を損なったのだ。


 オーストリアの選挙

FT October 15, 2017

Orban: Europe’s New Strongman, by Paul Lendvai

Review by Tony Barber

Bloomberg 20171016

Austria's Great Millennial Hope Walks a Fine Line

By Leonid Bershidsky

選挙後、オーストリアのナショナリスト、自由党の党首Heinz-Christian Stracheは、中道右派の人民党Sebastian Kurzによって政策を模倣された、と主張した。より一貫したEUの移民統合政策に関して中道右派の見解が支持されたことはプラスであろう。しかし、その連立政権はEUの東西分断をさらに深めるかもしれない。

通常の説明では、31歳のKurzが、保守派の人民党を率いて、移民を激しく攻撃するStracheから、勝利を奪い取った。2015年の難民危機以降、自由党が支持率で上回っていたが、Kurzはエスタブリシュメントの政党を転換し、多くの有権者が望むような、厳しい移民管理と、Stracheのような汚い主張をしない、安全な選択肢を提供した。自由党はオーストリアとドイツのネオナチにつながる歴史を持ち、穏健な有権者を恐れさせた。しかしKurzは、中道左派の社会民主党より、自由党との連立を望んでいる。

メルケルと違って、Kurzは移民政策で政治的な経歴を積んだ。その移民政策は最初から、ドイツ語の習得を要求し(ドイツ語は外国人が学ぶのは非常に難しい)、EU外からの移民に専門的な資格を求め、新しい統合法案で、ドイツ・オーストリアの価値を学ぶように求めていた。

アフガニスタンからの移民が言葉の問題で労働市場に統合されないことを注意したが、反イスラムの主張をしなかった。2005年以来、初めての政権参加という見通しを与えることで、自由党の乱暴な主張を穏健化しようとしている。オーストリアが直ちにユーロ圏やEUから離脱すべきだ、といった主張だ。

反ユダヤ主義を隠そうともしないStracheだが、ベビーフェイスのKurzは、もっと年配のドイツ語圏の政治家たちに比べて、そのことを連立の障害とは考えない。Kurzの世代にとって、ナチの時代は歴史的にあまりにもかけ離れているからだ。ある意味で、ナチの強固な伝統はオーストリアから消えないだろう。彼らを拒むより、Kurzはもっと建設的な姿勢を彼らに求める機会を得たのだ。近年、ノルウェーで同じことが起きた。

しかし、Kurz-Stracheの連立政権は、短期的に、EUの結束を脅かすかもしれない。強硬な移民政策は、政府を「ヴィシェグラード4the Visegrad Four」(Poland, Hungary, Slovakia and the Czech Republic)に接近させるだろう。オーストリアのような旧来の民主主義国を仲間に加えて、脱共産圏諸国の、移民から統合深化まで、EU指令に対する反発は強まる。

Kurzのゲームは若い政治家の危険な一手である。そのプラグマティックな解決策は、安定性を愛する有権者に支持された。しかし、もし彼が自由党の中に潜む恐ろしい勢力を制御できず、東欧を西欧から切り離すようなことになれば、オーストリアもヨーロッパも、この若い指導者が一国を運営するのは早すぎた、と悔いるだろう。

NYT OCT. 20, 2017

European Populism Is Here to Stay

By MATTHEW GOODWIN


 Brexitという妄想

FT October 15, 2017

The Brexiters’ war on the enemy within

Gideon Rachman

FT October 16, 2017

London is right to prepare for no deal on Brexit

Wolfgang Munchau

SPIEGEL ONLINE 10/17/2017

Shadow Brexit Minister Starmer

'Theresa May Engages in Doublespeak on Brexit'

Interview Conducted by Jörg Schindler

FT October 19, 2017

Both the UK and the EU need a solution to Brexit

FT October 19, 2017

Reasons why a no-deal Brexit would suit the EU

DeAnne Julius

交渉をめぐって、保守党内部の離脱派と残留派とが論争を今も続けている。EUは、もっとンも困難な合意を優先し、他の離脱を促しかねない、いかなる妥協も好まない。それゆえEUとイギリス、どちらの側も、妥協は望ましくないと考えている。合意がないWTOケースをイギリスは真剣に準備するべきだ。

FT October 20, 2017

Zombie ideas about Brexit that refuse to die

Martin Wolf

合意がないまま離脱する場合、それがイギリス経済や近隣諸国との関係に破壊的なショックを生じる可能性は高くなる。もっとプラスの側面を観よ、と主張するのは、障害を越えられない者に、空を飛べると考えればよい、と助言しているのに等しい。

現状を理解するには、多くの離脱派が執着するゾンビ思想を知るべきだ。

1EUは離婚の全般的条件から決めるべきだと主張する。これは理不尽である。・・・「彼らは時間をかけて、できるだけ多くを搾り取るつもりだ」とDavid Davisは不満を言うが、相手が強い、ということだ。

2.より大きな貿易赤字を持つUKは、EUよりも交渉力がある。・・・UKが抜けても、EUは世界第2の経済圏だ。UK市場の6倍の規模がある。どういう意味か、わからない? カナダ人に尋ねてみよ。彼らはアメリカとNAFTA再交渉を進めている。

3EUの優先順位は理不尽だ。通貨・金融問題、アイルランド、イギリスに住むEU市民。・・・最初の2つに関するイギリスの提案は不十分で、矛盾している。

4UK経済は(EUを抜けても)強力だ。・・・イギリスの雇用状況は良い。しかし、危機後、生産性は伸びず、イタリアと並んでOECDの底だ。投資も輸出も弱い。Brexit投票後は、債務による消費が成長を支えた。実質賃金は低下し、成長が弱まってきたのは、Brexitが超ハードになりそうだからだ。

5.離脱や移行に関して合意がなくても、UKには何も問題ない。・・・WTOルールだけでは、イングランド銀行総裁が警告したように、UKは脱グローバル化するだろう。19世紀の貿易と違って、現代の貿易は近接性や規制の障壁が重要だ。EU市場へのアクセスを失ったことは容易に他で埋め合わせできない。US、中国、インドと優遇措置を合意すると言うが、そのような交渉ではUKは全く弱い交渉国だ。話し合いは残酷な結果になる。

6.離脱派の主張を否定するのは、「裏切り者」であり、「人民の意志」に反する「妨害行為」だ。・・・それこそ独裁者の主張だ。間違った決定は逆転することができる。近隣諸国やパートナーとの関係を切断し、破滅をもたらすゾンビ思想に執着する者こそが妨害者だ。反対する権利がわれわれにはある。

VOX 19 October 2017

Brexit: The economics of international disintegration

Thomas Sampson


 技術と社会

FT October 15, 2017

Technology and bicycles transform sex and society

John Thornhill

自転車がフランス人の身長を高くしたように、インターネットは社会の何を変えるのか? 恋愛、セックス、結婚?


 インドの改革

FT October 15, 2017

Serious economic reform is key to unlocking India’s potential

Eswar Prasad

インドの成長率は5.6%であった。それは中国を超える成長率を自慢したインドにとって大きな後退である。減速は、インド経済の脆弱性を示した。モディ政権の改革は、税制でも、通貨でも、不十分で、一貫しなかった。改革の設計も、実施も、不満足なものだった。

FP OCTOBER 17, 2017

Is India Starting to Flex Its Military Muscles?

BY SUMIT GANGULY, S. PAUL KAPUR


 NAFTA再交渉

NYT OCT. 15, 2017

Nafta Needs an Update, Not Repeal

By GEORGE P. SHULTZ and PEDRO ASPE

NAFTA1993年に成立したが、経済は大きく変化してきた。NAFTAを現代化し、改善するチャンスである。デジタル経済、国家所有企業(特に中国)、政府契約、これらに関して合意が必要だ。それはアメリカ企業(自動車、電子、航空、など)を有利にするだろう。また、NAFTAの経済圏に明確な境界を設けるべきだ。

FT October 16, 2017

Donald Trump drags Nafta towards breaking point

FT October 18, 2017

Donald Trump’s poisoning of global trade

Edward Luce

トランプの発想では、NAFTAWTOも、アメリカの利益に反している。カナダ、メキシコ、中国は、トランプの脅迫や制裁に対して抵抗するし、それを嫌うトランプはルールをすべて破壊する。そして、すべての者が敗者となる。

NYT OCT. 19, 2017

Trump, Trade and Tantrums

Paul Krugman


(後半へ続く)