前半から続く)


 日本の衆院選挙

NYT OCT. 15, 2017

The Death of Liberalism in Japan

By KOICHI NAKANO

先月、安倍首相による突然の解散で衆院選挙が決まった。それは、野党が分裂し、安倍の支持率が回復しつつあったからだ。彼のタカ派の主張が、北朝鮮の好戦的な姿勢によって支持された。

しかし、実は安倍政権は弱さを抱えている。日本の政治は、代表制の危機にある。保守2大政党の対決は、有権者の求める政策からさらに乖離するだろう。2つのスキャンダルで安倍は追及されていた。国会審議を拒んで、議会を解散したのだ。

安倍と自民党の多数支配とは、政権交代できる野党がなく、小選挙区制のために、消極的な支持を得たものである。自衛隊の活動範囲を拡大する安全保障の法改正は、いまだ、国民の中に意見の分裂を生じている。

民主党が市民運動と形成した共闘は、その後も問題を生じた。民主党内の保守派が反対していたし、新しい指導部は優れた党首を得られなかった。安倍が議会を解散したとき、東京都知事の小池ユリ子は、希望の党を立ち上げた。その後、民主党党首の前原と、党の吸収という驚くべき合意を発表する。

しかし、希望の党の政策はあいまいだ。自民党は「日本を取り戻す」と唱え、希望の党は「日本をリセットする」という。しかし、安倍と小池はイデオロギーを共有する。結局、ポピュリストの小池が実現したのは、日本の左派・リベラルが連携するのを破壊したことだ。

民主党のリベラル派は、希望の党から拒まれ、立憲民主党を立ち上げた。彼らを支持する声はあるが、選挙準備の時間はなかった。選挙によって日本の左派は消滅するだろう。


 移民管理の撤廃

The Guardian, Monday 16 October 2017

End all immigration controls – they’re a sign we value money more than people

Gary Younge

人類は常に旅をしてきた。資本に対する境界を取り除いただけで、世界の貧しい人々にとって、境界線はますます超えにくくなっている。

私は10代のとき、西ベルリンに行った。当時、もちろん、壁があった。明らかに、そこにとどまることを望まぬ人々を、壁によって、意図的に罠に落とした。それは東側・共産圏に対する道義的な反発の根拠となった。彼らの政府が人々に西側への旅行を禁じたことが、彼らに自由がない証拠となった。それは天井のない監獄であった。

ベルリンの壁が倒れて間もなく、このロジックは逆転した。スターリン体制を打倒し、自由市場の変動に国々が飛び込むにつれて、彼らが出国する権利を支持するよりも、彼らが自国に来るかもしれないという不安が強くなった。彼らが壁を解体する間に、われわれは自国に砦を築いた。政治は彼らの入国を支持するが、自分たちの経済的利益を優先することが彼らを国境の外に止めた。

オスカー・ワイルドは、「ユートピアのない世界の地図は観るに値しない」と書いた。人類は国の外を観る。もっと良い国を求めて航海する。

ベネディクト・アンダーソンは、国民(民族)国家を「想像の共同体」と呼んだことで有名だ。私が想像する国家には、国境警備隊はいない。有刺鉄線も、パスポート管理も、壁も障害物もない。世界はそういうものをなくすことで改善されるだろう。

それは私が旅する民の1人であるからだ。私の両親は、カリブ海の小島、バルバドスに生まれ、そこで育った。植民地の紐帯と戦後の労働力不足の中にあった。両親と14人の叔母や叔父は、その中から9人が島を出て、イギリス、アメリカ、カナダに暮らす。甥たちは世界中に散っている。

国境はいつも、私に緊張を強いる。制服の職員たちは、私の黒い顔とパスポートを観るからだ。黒人として西側を旅することは、容疑者として見られることだ。

最近、人にとって壁が強化される一方で、資本に対する壁は取り除かれた。資金は世界中を規制もなく移動できる。より規制の少ない、より賃金の安い土地を探して、資本は移動する。それはしばしば人々を荒廃させる。その土地の投資や資源を奪い、工場を地球の裏側に移転し、機械化を進めて雇用を失わせる。こうして生活を奪われた人々が仕事を求めて国を移動することは妨げられる。

裕福な者は20もの国で国籍を買うことができる。われわれが創った国境を越えようとして、人々は投獄される。彼らは、われわれは始めた戦争、われわれの進めた環境破壊、われわれが創った貧困を逃れてきたのだ。世界の貧困層は旅することを許されない。

国境は、特権者を守るためにある。移民は問題ではない。国境が問題なのだ。

YaleGlobal, Thursday, October 19, 2017

Impossible Task: Sorting Economic and Political Refugees

Will Hickey

急速に増加している国際移民に,国際法は大きく遅れてしまった.

すべての政治問題の起源は経済問題であり,その逆も正しい,とノースDouglas Northは言った.個人の取引と嗜好が法的枠組みを形成しているのは,世界の一部に限られる.たとえば,バルカン半島の問題は,このように進まない.


 メキシコの震災後

FT October 16, 2017

Mexico’s earthquake aftermath threatens political tremors

Jude Webber


 ファタハとハマス

PS Oct 16, 2017

Will Palestinian Reconciliation Revive the Two-State Solution?

DAOUD KUTTAB

FT October 19, 2017

Palestinian accord reflects the dynamics of the Middle East

David Gardner

ファタハとハマスが、エジプトの仲介で和解した。ハマスがイスラエルとの3度の戦争を経た後だ。それは中東地域の勢力地図が変わったことを反映している。


 シリアの民主主義

NYT OCT. 16, 2017

Democracy Is Possible in Syria. My Friend Knew How.

By DAVID GRAEBER


 ロシア革命とジョン・リード

NYT OCT. 16, 2017

The Journalist and the Revolution

Jack Shenker


 気候変動と貧困層

FT October 17, 2017

Why climate change puts the poorest most at risk

Martin Wolf


 中国の改革と外交

PS Oct 17, 2017

A Chinese Model for Foreign Aid

ASIT K. BISWAS, KRIS HARTLEY

Bloomberg 20171018

China Isn't Fixing Its Flaws

By Leland Miller And Derek Scissors

中国の経済回復は、共産党大会で習近平を支える楽観論につながっている。しかし、回復の基礎にある前提は間違っている。

1.中国の成長が債務依存型であることは変わっていない。債務の増大は遅くなったが、減少しているわけではない。

2.中国経済の成長が、製造業の投資から、サービス産業や消費に移った、ということはない。2017年の回復を支えたのは製造業だ。世界的な金融緩和、リフレ政策と、商品価格の上昇が製造業の利潤と投資拡大を可能にした。

3.中国は、政府の主張に反して、製造業の過剰生産力を削減していない。

中国経済の構造転換は始まっていない。むしろ、共産党の安定性優先によって、その課題は延期されたのだ。

FT October 19, 2017

Chinese property boom props up Xi’s hopes for the economy

Tom Hancock in Hainan and Gabriel Wildau in Shanghai

Bloomberg 20171020

China's Toughest Job?

By Christopher Balding

PS Oct 20, 2017

Why the Renminbi Won’t Rule

PAOLA SUBACCHI

トランプ大統領は、アメリカを世界的な指導的地位から撤退させるだろう。しかし、かつてポンドがそうであったように、経済、金融、地政学とは別に、国際金融の指導的地位は、まだドルにとどまる。「ドル外交」は終わっても、ただちに「人民元外交」の時代が始まるわけではない。

その理由は、何より、不十分な人民元改革の現状だ。人民元はオフショア市場において流動性がなく、交換可能ではない。中国自身が、国際貿易の4分の1しか人民元建ではない。中国の優良企業はニューヨークや香港で株式を発行し、ドルで評価されている。中国の急速に増える融資や海外投資も、ドルで行われる。

そもそも中国の指導者たちは、人民元をドルに代えたいと望んでいない。彼らは、複数通貨による国際通貨体制を目指している。それによって単一の国の通貨や金融政策に依存する状態を変えたいのだ。より多くの中央銀行が流動性を供給し、国際金融センターがそれをプールして、金融ひっ迫のリスクを抑える、と考えている。

アメリカ・ドルの支配が続くのは、彼らが築いた戦後のブレトンウッズ体制に依拠するからだ。こうした国際金融機関の改革を進めるよう、中国政府は要求している。それは人民元体制ではない。


 知的所有権IP体制

PS Oct 17, 2017

Intellectual Property for the Twenty-First-Century Economy

JOSEPH E. STIGLITZ, DEAN BAKER, ARJUN JAYADEV

南アフリカ政府がエイズに対するジェネリック薬品の使用を許す法改正を試みたとき、グローバルな薬品企業は全力でこれを法的に排撃し、エイズによる人的な被害を拡大した。南アフリカは最終的に勝利したが、国民の健康や福祉を守る政府の手を、グローバルな知的所有権IP体制によって縛られてはならない、という教訓を得た。

現行のIP体制は、必須の医薬品に対するアクセスを制限するものだ。その中心問題は、知識はグローバルな公共財である、という点である。だれかが知識を追加で利用することはゼロである。知識の増加はグローバルに人類の攻勢を改善する。研究活動に資金提供する方策は、IP体制に限られない。

既存の支配的企業が知識の独占によって利益を確保する考え方は、今後、力を失うだろう。1.南アフリカ、インド、ブラジルなど、新興諸国が力を増す。2.革新的アイデア、知識、情報による経済活動が増大する。

特許制度は、革新に対して賞金を出すことに等しい。それは知識の流れを妨げ、経済を歪める。その対極にあるのは、知識の流れを最大化し、創造的な共有財を維持し、オープンソースのソフトウェアを実現するシステムだ。


 グローバリゼーションの適正化

VOX 17 October 2017

Making globalisation more inclusive: A way forward

Sergei Guriev, Danny Leipziger, Jonathan D. Ostry

グローバリゼーションが行き過ぎることで受益者と犠牲者との差が生まれている。グローバリゼーションそれ自体のデザイン、ルールを修正することで、より包括的なモデルに転換する必要がある。排除を緩和し、地位を失う市民が再生できるような仕組みが必要だ。

世界経済の回復を促し、経済システムの公平さを信頼できるようにする魔法の杖はないが、適切な政策のセットは考えられてきた。

職場が失われることに対する再教育・再訓練を整備する。

税制改革を通じて、不平等を緩和し、社会保障を提供する。適切な再分配は成長を損なわない。

全てのものの利益になる金融市場の在り方。

公平な競争を促進する。

国際協調の新しい時代を拓く。


 トランプ・ドクトリン

NYT OCT. 17, 2017

The Trump Doctrine

Thomas L. Friedman

トランプ・ドクトリンはTweetに適して簡単だ。“Obama built it. I broke it. You fix it.”(オバマが創ったものだから、私は壊す。お前たちが解決しろ。)

トランプは一気に、長期に築かれた政策や制度を解体した。NAFTA、オバマケア、環境保護の合意、TPP、イラン核合意。しかも、解体する前も、そのあとも、何も準備しなかった。

要するに、われわれは大統領の言葉、「これまでにない最悪の取引だ」というのを受け入れるものとされた。それを裏付ける真剣な議論はないし、それを改善する計画もない。

NYT OCT. 19, 2017

Democracy Can Plant the Seeds of Its Own Destruction

Thomas B. Edsall


 北朝鮮の核ゲーム

FP OCTOBER 17, 2017

Trump Should Focus on Deterring North Korea

BY MICHAEL SINGH

Bloomberg 20171018

North Korea Is Playing a Longer Game Than the U.S.

By Tyler Cowen

北朝鮮の核問題をゲーム論で考えるとき、1つの点が注目される。指導者、金正恩が非常に若い、33歳であることだ。金の戦略は50年以上も権力を維持しなければならない。半世紀先を予測することは困難だ。

長期の生き残りを目指す独裁者は、誰が敵か味方がわからないから、すべてに対してハリネズミのような戦略をとる。長期的には、中国こそ敵である。北朝鮮の核は中国の諸都市を容易に攻撃できる。中国が東アジアにおける支配を築くうえで、金が障害となるだろう。すでに中国との関係は悪化している。金はアメリカや日本、韓国に対して、中国へのカードとなることを売り込むかもしれない。

別の可能性として、対外圧力や制裁のせいで、北は核のパリア国家となり、生き残れないかもしれない。金は挑発によって、日本や韓国の核武装を促し、地域の核不拡散体制を破壊し、自国への圧力を緩和するだろう。

金の行動は、その狂ったレトリックに反して、十分に計算された、合意的なものだ。彼は父親から権力を継承したが、その基礎は弱かった。しかし、国内権力を固め、大陸間弾道弾と核兵器を拡充し、経済か区画に成功して、国内の支持を得ている。

金融市場は、北の行動を冷静に見て、上昇し続けている。

FT October 19, 2017

Rage, Rocket Man and the price of Donald Trump’s vanity

Philip Stephens

トランプ大統領のエゴによる衝動的な反応から、戦争が起きることも考えられる。イラン核合意を観ても、トランプを外して政策を進める体制は成功しなかった。東アジアは、アメリカを中心に各国が2国間の安全保障を合意するシステムに固定されている。北を抑えるには、中国やロシアも含む、東アジアの地域安全保障が必要だ。

しかし、国連演説が示すトランプの姿勢は野蛮な孤立主義である。たとえ韓国で多数の死者が出ても、アメリカは北の核武装を許さない。交渉は無駄であるから、軍事攻撃せよ、と命令する。


 中世の疫病

FT October 18, 2017

Medieval diseases are making a grim comeback

Anjana Ahuja


 銀行国有化

The Guardian, Thursday 19 October 2017

British banks can’t be trusted – let’s nationalise them

Owen Jones

労働党は、ドイツ型の公共投資銀行を提案している。しかし、それは不十分だ。

イギリスの民間銀行は、その株主以外には、誰にとっても災厄であった。唯一の代替策は、労働者、消費者、地方政府が経営する公共利益を代表する銀行である。それはコミュニティーの最善の利益を守る義務を負う。


 プーチン時代の終わり

PS Oct 19, 2017

Is Vladimir Putin Losing His Grip?

ANDERS ÅSLUND

1984年、ゴルバチョフが権力を握る前に、ソ連は石のように固まって、何も変わらない、という気分がモスクワにはあった。しかし、その後、すべてが変わったのだ。水面下で起きていた変化の大きさが明らかになった。今も、プーチンの体制は安定しており、終わることはないという気分がモスクワにある。しかし、かつてと同様に、よく見れば鎧には多くの隙間がある。

ロシア経済は大きく後退し、市民の自由な文化、民間部門の成長は後退して、秘密警察が肥大化している。プーチンの海外資産取り締まりで、富裕な投資家たちは海外に逃げてしまい、ロシアのGDP1.5%から2%でしか成長しないのも当然だ。

「法の支配」は、富裕層と権力者の結託した体制と矛盾しており、改革を進めることは不可能だ。変化を促すどころか、プーチンは4期目の大統領を目指している。クレムリンはメディアと法廷を支配しており、それは不可能ではない。しかし、国民は投票に行くだろうか。70%の投票率を目指すが、最近の選挙ははるかに低い。

国民は、選挙による変化の可能性を求めている。そのための信頼される候補者は、反汚職運動を指導し、クレムリンを公然と批判したAlexei Navalnyしかいない。

富裕層は、政府に富を奪われることを恐れて海外に逃れた。今、政府が自分たちの富を守れないことを恐れて、海外に逃れている。プーチンの支配は持続できないだろう。

The Guardian, Friday 20 October 2017

Russia without Putin? We should try to at least imagine the prospect

Mary Dejevsky


 アメリカ・トルコ関係

NYT OCT. 19, 2017

How to Fix U.S.-Turkey Relations

By KEMAL KIRISCI


 ロボットと人間

FT October 20, 2017

People power, not robots, will overcome humanity’s challenges

Tim O'Reilly

ロボットが人間の仕事をすべて奪ってしまうのか? そんなことはない。周りを観たら、やるべきことはいっぱいある。

インフラは崩れている。高齢者は介護を求めている。医療や公共サービスは前世紀のシステムだ。何千万もの難民、災害の犠牲者がいる。彼らの生活を改善することは、第2次世界大戦後に敵国の経済を再建したことと同じだ。気候変動の妖怪が徘徊する。

人間社会を改善するとは、その問題を解決する方策の積み重ねだ。問題がなくならない限り、やるべき仕事はある。

何かが安価な商品となれば、他の何かが価値を持つ。産業革命では、紡績や織布の工員は機械化で仕事を失った。しかし、衣服は安価になって、そのデザインに高い価値が生まれた。多数の労働者が、衣服のデザイン、マーケティング、販売・流通において仕事をしている。

富裕層のしていることを、未来では、誰もが消費する。ヨーロッパ一周旅行。野外の食事。携帯電話。個人教授。個人向けの薬。個人向けのトレーナー、コーチ、セラピスト。

生産性を高めることではなく、その豊かさを分配することが問題だ。なぜ賃金はこれほど低く、労働時間は減らないのか? 賃金と労働条件が需要と供給で決まる、という経済理論は間違っている。生産性の上昇が、資本の所有者への利益となり、安価な商品として消費者に届く、というとき、労働者は削減するべきコストでしかない。

問い方を変えることで、もっと良い世界を発見できる。

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The Economist October 7th 2016 

The bull market in everything

Separatism in Catalonia: How to save Spain

Asset prices: The bubble without any fizz

Banyan: Homage to Formosa

Emerging Markets: Out of the traps

(コメント) アメリカや他の富裕諸国で金融市場は上昇し続けています.株,債券,不動産,だれもがバブルを恐れ,次の恐慌を懸念しますが,そうではないかもしれない,これは,ブーム・アンド・バストではない,という話です.金融政策と市場安定化の手段はある,と.

カタルーニャの分離主義は,それを議論によって抑制し,自治権について合意する十分な根拠がある,と考えます.この問題に,台湾が強い関心を示すのは当然でしょう.しかし,テレビ局が取材班を派遣したのはクルディスタンでした.

「新興市場」に関する特別な悲観要因(中所得の罠,通貨・債券市場の崩壊,石油の呪い,早期脱工業化,ポピュリズム)はすでに適切な政策・制度により解決可能な問題として扱われます.彼らにとっての脅威は,トランプの広める保護主義,世界貿易の破壊です.

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IPEの想像力 10/23/17

衆議院選挙の過程で,立憲民主党への期待は大いに高まりました.政治や指導者に対する期待が極端に低い,と東北の被災地をめぐった外国人ジャーナリストは注目していました.だからこそ,日本人に政治の力を信じさせる政党が生まれたことを喜びました.

「女子高生も「エダノン」と叫ぶ 立憲民主・枝野幸男の変わらない政治の原点」澤田晃宏AERA 2017.10.21

「立憲民主党、「野党第1党」への道が見えてきた」安積明子『東洋経済 ONLINE20171021

希望の党と立憲民主党に臨むことは,政策を具体化してほしい,ということです.

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The Economistの特集Emerging Markets: Out of the trapsは,「新興市場emerging markets」という呼称で,発展途上諸国への新しい潜在的成長力に国際投資を促した時代を振り返り,もはやそのような呼称は必要ない,と主張しています.

特集を読んで私が感じたことは,新興市場ではなく,これはグローバリゼーションの問題だ,ということです.冷戦終結(ソ連・共産圏の崩壊),中国の世界市場統合,金融・IT・輸送革命,がもたらしたグローバリゼーションの加速は,先進諸国を含む,開放型のグローバルな投資や雇用のシステムに参加するすべての国を「新興市場」に似た政策効果の混乱に陥れました.

いかなる国も,輸出によって市場に刺激を得て,成長に向けた国内改革を加速する時代があります.しかし,そのことが主要な輸出市場の景気後退や金融政策,為替レートを介した不況・経済危機の波及にもつながるのです.

特集は,新興市場に関して,もはやドルやアメリカ連銀に頼ってマクロ経済を安定化する必要はない,と教えます.資本市場や商品市場のブームに翻弄されることのない,通貨・金融制度を築くべきだ,「中所得との罠」を特別視することは何もない,と.

記事は指摘します.1人あたりGDPの成長をもたらすのは,1.伝統的な農村から近代工場へ,生産性の高い分野に労働者が移動する.2.進んだ技術,機械を手に入れるため,より多くの資本を投下する.3.資本であれ,労働力であれ,新技術を吸収する.4.究極的な成長の源泉である,技術革新を実現する.そして,すべての国がさまざまな圧力の下で,異なるペース,異なる割合で,これらを実現するのです.

「日本病」も,その1つです.

グローバルな金融市場統合に翻弄され,中国を含むグローバル・ヴァリュー・チェーンに呑みこまれ,トランプの世界貿易に対する破壊的介入,累積する国債や社会保障システムの破たんに関する政策の迷走,不安,に落ち込んでいます.何より,労働者の生活水準や労働条件の制度化されていない部分が広めた腐食効果により,グローバリゼーションやAI,ロボット,電気自動車が,機会ではなく混乱や失業の源泉と見えるのです.

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特集が最後に取り上げた論点は,ポピュリズム,でした.ポピュリストたちは,すべての人に何かを与える約束をする,と.それは現在の人々に与え,将来の人々を犠牲にします.債券を大量に発行し,紙幣を印刷し,国内産業を輸入品から守り,生産性上昇を超えて賃金を引き上げます.明らかに持続可能ではない,と分かっているのに,それが破局に至るまでの時間は想像以上に長く(特に不況やデフレにおいて),政治はその支配を確立して,正しい政策や制度を歪めてしまう,と.

もし具体的な政策で争わないなら,希望の党も立憲民主党も,日本に「ポピュリズム」のブームを呼び込み,あるいは,軍備拡大に頼るデフレ脱却と経済活性化に向かう「保守化」の最終章を開くだけの役割を担うでしょう.

アイデアや知識,経験のある人々を集めて,政策協議会を組織し,活性化してください.何を,どのような政策によって実現するのか,日本の辺境から世界の政策センターまで,政策チームが改革を刺激する方針を整理し,党として具体化します.政治への熱い期待を政策に実現する党が,グローバリゼーション下の政党政治を拓きます.

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