IPEの果樹園2017 

今週のReview

10/9-14

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国家が分離するとき ・・・カタルーニャの住民投票 ・・・ドイツの選挙とヨーロッパ ・・・労働党政権の可能性 ・・・アメリカの減税と企業 ・・・ラスヴェガスの惨劇 ・・・制度と革新

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 国家が分離するとき

FT October 4, 2017

The fraught right to self-determination

Roula Khalaf

独立運動により2つの批判が強まった。住民投票を強行したカタルーニャ地方政府の姿勢と、強硬な弾圧策を採ったマドリード中央政府の姿勢だ。

分離独立派は民族自決権を独立の根拠にする。それは国連憲章にもある原則だが、脱植民地時代に適用するのはむつかしい。特に、それは諸国家の領土保全と矛盾する。さらに、その権利を正当と認めても、それが行使できるとは限らない。自決権の国内における実現、すなわち、自治権が与えられる。

カタロニア人は植民地化されていないし、弾圧されても、差別されてもいない。民族自決権の専門家Allen Buchananは、独自の文化や予算が比例していないこと(納税額が地域内に支出されていない)は、(独立を主張するほど)不当とは言えない。裕福な諸都市が貧しい地域への分配を嫌い、分離を求めるというのでは、国家の分裂をもたらすだろう。

しかしBuchananは、カタルーニャに当てはまる他の2つの分離理由を挙げる。すなわち、自治権を剥奪されるとき、また、自治を認める道義的な理由があるのに、その地域との交渉を中央政府が拒むとき、である。カタロニア人は、後者の理由が既に存在する、という。2010年の憲法裁判所による自治権拡大の拒否以降、マドリード政府は交渉を拒んでいるからだ。

バルセロナから5000キロ離れた土地で、もう1つの独立をめざす住民投票が行われた。それは925日の、イラク北部におけるクルディスタンの投票だ。混乱も、不正もなく、円滑に行われた。クルド人は、想像を超える弾圧や脅威にさらされてきたし、彼らの半自治地区は、権力の共有を拒む、住民にとって役に立たない国家の一部であった。それでも、イラク政府が反対し、トルコやイランのような近隣諸国も反対する中で、独立することは大きなコストを意味する。アラブ人とクルド人との内戦が起きる危険によって、独立の意義は大きく失われる。

あるいは、最近の南スーダンを観れば、この世界で最も新しい独立国家は、「途方もない人為的な人道危機」となっている。南スーダンの人々は、長年、政治的、社会的、経済的な差別に苦しんだ。さまざまな国内的解決策が試みられたが、国際社会は南スーダンに独立国家を創る必要があると認めた。それでも、独立して3年もたたずに、200万人以上が住居を棄てて難民となる内戦状態になった。世界で最も新しい破たん国家を創ったのだ。


 カタルーニャの住民投票

The Guardian, Monday 2 October 2017

The crisis in Catalonia is being fed by pernicious myths on both sides

Victor Lapuente Giné

経済パフォーマンスに優れ、人権擁護や民主主義の清廉さも改善していた国が、ヨーロッパ最悪の領土分割や憲法の危機に直面しているのか?

そうではない。カタルーニャにはエスニックな、あるいは言語の紛争はない。問題は2つの悪質な神話である。第1に、分離主義者やグローバルな左派のインテリが主張する、スペイン政府は歴史的に観て高度に権威主義的で、中央集権的だった、という神話である。第2は、スペインの連邦主義者や右寄りの思想家が主張する、危機に対処するのはハト派よりタカ派がうまい、という神話だ。

FT October 2, 2017

Force is not the answer in Catalonia

Gideon Rachman

分離主義者たちは望み通りの写真でメディアに飾った。中央政府が暴力的な弾圧で住民を排除したのだ。警察官が独立支持のデモ隊を殴った。

幸い、死者はまだ出ていない。政府は戦術を転換するべきだ。

ラホイ政権は正しい。分離独立を問う住民投票は違法であり、スペイン憲法に反している。しかし、カタルーニャにおける逮捕や殴打は、政府の正当性を破滅的なほどに損なった。それは長期に重大な影響を及ぼすだろう。

カタルーニャは、2002年の東チモールや、1989年のエストニアとは違う。カタルーニャはヨーロッパでもっとも繁栄し、人々は権利と民主主義を享受し、政治的な自治権を得ている。

スコーっとランドの独立に関する運動を見聞したことから学んだのは、国家を分割するという考えが、どれほど苦痛に満ちた熱狂をもたらすか、ということだ。ナショナリズムは今なお本質的に正しく、ロマンチックである。それゆえ、民主的な国家は、統一を望むとしても、その考えを可能性としては進んで受け入れるべきだろう。

しかし、住民投票を許容することが、独立を容易にすることは意味しない。国家の分割には、単純多数決ではなく、条件付きの多数、例えば60%の支持を求めるべきだ。また、独立したカタルーニャはEUから離脱しており、参加を申請するしかない。Brexitが示したように、ヨーロッパ単一市場からの離脱は大打撃である。

この事件はヨーロッパに対する警告である。「ポスト国民国家」としてEUが主権をプールし、過去の紛争から解放される、というのは間違いだ。連邦主義者は真剣な見直しを求められている。

NYT OCT. 2, 2017

Spanish Democracy vs. Catalonia’s Independence Vote

By CARLOS DELCLÓS

ラホイ首相にとって、住民投票への暴力的な介入は唯一の選択肢ではなかった。もし投票結果を否定するだけなら、それを拒否すれば、彼と右派の与党はスペインのほとんどの政治勢力から反対を受けなかったはずだ。

暴力の行使は、投票に参加した者にその正当性を与える意味を持ち、逆効果だった。しかし、ラホイの主要な目的は、カタルーニャの住民の心をつかむことではなかったのだ。彼はスペインの安定よりも、自分と党の利益を優先した。

ラホイの政党Popular Partyは、常に、カタルーニャとバスクで多数の支持を得られなかった。それはフランコ独裁政権の下で弾圧され、分離主義が強いからだ。住民たちは反ファシスト運動に言及して、保守政党と自分たちとを対比した。

2012年、ラホイの最初の内閣で、彼はカタルーニャに一層の財政的な自治を与えることを拒んだ。その前に、カタルーニャの保守政党Convergenceはラホイ政権に協力して、緊縮政策を議会で通過させていた。しかし、緊縮策は非常に不人気で、Convergenceは連携を棄てて、革新政党や独立運動に参加した。

こうした状況が、ラホイの強硬策の政治的コストを低くした。むしろ彼は、野党勢力の分断を促すために問題を利用している。スペインの連邦制や民族自決権は、左派にとって内部対立を生じる問題である。伝統的な中道左派の社会党は連邦制を支持し、住民投票を避けたがった。しかし草の根の新しい左派、Podemosは、カタロニア人独立の法的拘束力を持つ投票を支援している。

ラホイ政権も、独立運動も、自分たちを民主主義の擁護者であるという。ラホイは演説で、法の支配、警察と司法制度を称えた。カタロニア人独立派は、民衆のパワー、自治権を訴える。この危機はスペインの領土を超えている。スペインはヨーロッパの小さな宇宙なのだ。

FT October 3, 2017

Catalonia’s road towards secession has complex roots

Andrew Dowling

経済危機が、スコットランド、カタルーニャ、フランダースの分離主義を活性化し、ナショナリストの運動につながった。2008年からスペインを襲った危機は、フランコ独裁体制から移行した後、1970年代半ばに成立した、相対的に安定した政治秩序を動揺させた。カタルーニャはずっとスペインの領土的危機の震源地であった。

2000年代の半ばでも、カタルーニャのナショナリストたちは分離主義者ではなかった。スペインの国家体制は、本物の連邦的秩序に向けて移行しているように見えた。カタルーニャは、ヨーロッパにおいて、また、それを超えて、権限移譲の成功例として称賛されてきた。

20世紀の大部分において、バルセロナはスペインの経済的首都であった。しかし、1990年代の半ばまでに、マドリードがますますスペインの明確な首都となって、バルセロナはもはやそれに対抗できなかった。カタロニア人に生存の危機を感じさせた起源をたどるなら、スペイン政治システムにおける相対的な重要性を失い始めたことに求められる。要するに、カタルーニャはスペインの政治・経済発展における指導的地位を失い、そのことが1980年代から出現したカタルーニャ民族主義の政治的物語の中心要素となった。

保守派の人民党政権1996-2004年は、さらに権限委譲を進めることを嫌った。1970年代後半の憲法や領土に関するあいまいな解決はそれを可能にした。このときスペインの権限移譲モデルは、中央政府によって、はじめて疑問とされたのだ。20106月には最高裁が自治権の主要政策を否定する判決を出した。経済危機によって生じていたカタルーニャの不満は、この判決後、政治的な悲観論に変わった。

もしカタルーニャが一方的に独立を宣言すれば、マドリードはその自治権を停止するだろう。そしてカタルーニャでは市民的不服従が新しい段階に入る。マドリードの交渉姿勢が足りないときには、国際圧力によって事態の打開が求められる。


 ドイツの選挙とヨーロッパ

PS Oct 2, 2017

Europe’s Future After Germany’s Election

GUY VERHOFSTADT

CDU/CSUSPDは、まったく内向きの、選挙区に焦点を限った運動を展開した。確かにドイツの有権者には、ディーゼル車の禁止や税制、賃貸料などが重要かもしれない。しかし、EUとユーロ圏が直面している課題には全く触れなかった。

それは多方面にわたる。イギリスのEU離脱が生じた不確実さ。ポーランドとハンガリーでさらに後退する法の支配と民主主義。移民・難民危機の長期的な解決策。テロリズムの拡大、国際秩序の改変を目指すロシア、方向性を見失ったトランプのアメリカがもたらす安全保障上の危機。ユーロ圏の景気回復を維持し、安定化すること。

これらの課題にどのように取り組むかによって、ヨーロッパの将来と、その中でドイツが占める位置が決まるのだ。CDU/CSUSPDは、大きな問題を避けて、小さな問題に議論を集中することで、政治に真空を創り出した。そして極右のナショナリストたちAfDが喜んでこの真空を埋め、13%の票を得た。

ドイツの選挙結果は、マクロンが望む独仏によるEU改革を打ちのめしたのか? そうではない。この10年間、ユーロ圏改革のほとんどを拒んだのはCDUWolfgang Schäuble蔵相であった。メルケルがFDPとグリーンを加えた連立政権を組むことは改革の出発点になる。

EU改革は、リベラルで民主的な勢力にかかっている。マクロンもFDPEUの民主的改革を支持している。たとえば、EUレベルの選挙における国家の枠を超えた候補者リストの作成。加盟諸国におけるEU市民権の拡大。移民に関するEU共通のルール。テロに対するヨーロッパ規模の捜査態勢。FDPEUの安定・成長協定を重視し、単なる財政移転だけでなく、ガバナンスの改善を求めている。その基本は、財政規律ルールと成長を高める公共投資の組み合わせである。

ヨーロッパは重要な局面にある。独仏が改革に向けて前進するべきだ。

NYT OCT. 4, 2017

Germany’s Problem Is Europe’s Problem

Ivan Krastev

繁栄し,民主的で,寛容なドイツ.選挙戦を通じて,その異常なほどの正常さに私はショックを受けた.ヨーロッパの他の社会は不安と怒りによって分裂状態にあるのに,ドイツでは市民の大多数が経済状態に満足している.

しかし,その満足感は表面的でしかない,と言える.ユーロ危機,Brexit,ウクライナの戦争,なにより難民危機は,ヨーロッパの将来を変えるだろう.東ドイツの地方政治家は述べた.「政府は難民を統合したいと言うが,どうしてまず我々を統合しないのか?

彼らの不満を吸収したのは,共産主義後の左派政党ではなく,右派のAfDであった.選挙結果は,ドイツの移民政策をヨーロッパの合意に近づける.すなわち,国境は閉鎖すべきだ.あるいは,少なくとも,慎重に開放するべきだ.

他方,東西の移民を拒むことは,ヨーロッパの東西の対立を強めるだろう.東ドイツの住民は,自分たちが西へ移住した者よりも政治的・経済的な敗者の側にある,と後悔している.彼らの多くはポピュリストを支持した.


 労働党政権の可能性

FT October 5, 2017

The economic consequences of Jeremy Corbyn

Martin Wolf

もしJeremy Corbynが政権を執ったら,経済成果を示せるのか? 私たちはそれを考えてみるべきだろう.

すでに労働党の党首となってから,Brexitの論争では消えてしまい,推進派が勝利するのを助けた.若者たちがBrexitに憤慨して自分を支持すると喜んだとしたら,きわめて無責任だ.EUに対する立場も示さない.

保守党がこれほど分解している以上,Jeremy Corbynが勝利することも考えられる状況だ.彼は何をするのか?

社会主義自体は新しいものではない.それには3つのタイプがあった.専制的,ポピュリスト的,社会民主的なタイプだ.ソビエトや毛沢東の,専制的社会主義は破滅をもたらした.他方,北欧やオランダの謝意民主主義は,豊かで,ダイナミックな,安定した経済を実現した.ポピュリスト的な社会主義は,ラテンアメリカがそうだが,経済的に機能しなかった.

なぜヨーロッパの社会民主主義は成功したのか? 1.社会主義の魔術ではなく,財政規律を守った.2.人間行動を決める価格の誘因を重視した.3.それを形成する安定した諸制度を重視した.4.経済における民間部門の重要性を理解していた.

たとえ税収がGDP50%を超え,政府の経済分野における大きな役割を認めても,民間部門が活発に働くように指導した.他方,ポピュリストはこうした制約を一切認めようとしない.彼らはエリートに対抗する「人民の声」であるから,その能力を制約するものは,どんな制度も不当なのだ.

Jeremy Corbynはどうなのか?


 アメリカの減税と企業

FT October 2, 2017

Donald Trump’s trickle-down delusion on tax

Rana Foroohar

トランプ大統領がポピュリストではなく、トリクル・ダウン経済学の仲間であることは、もはや明らかだ。ジョージ・W・ブッシュ以来、最大の減税法案を準備している。

トランプ案の支持者たちは正しい主張をしている。アメリカの法人税率はOECD諸国の平均より大幅に高い。アメリカは、資産の国際的な課税回避を阻むために、より単純で、統一した税制を必要としている。

しかし、法人税の引き下げがアメリカの成長を引き上げ、職場を取り戻し、賃金を引き上げる、とも主張する。それは信じがたい。減税は、今後20年間の持続的成長をもたらさない。レーガン時代とは条件が全く異なる。当時は、生産性が高まり、女性が大量に雇用され、連邦財政赤字はGDP20%でしかなかった。

今、生産性の上昇はほとんどなく、女性の職場進出はすでに実現し、出生率は低く、大統領は移民を減らすと約束している。成長率は生産性と人口成長の和であるから、この公式を変えない限り、成長は高くならない。

減税によって資産の持ち手が変わるとしても、それは実質成長を意味しない。ディール・メイキング、資産評価、企業債務は記録的な水準かもしれないが、雇用が増えたわけではない。それは十分な消費需要がないからだ、と私は思う。企業幹部たちはアメリカ国内の成長を諦めている。平均的なアメリカ人の給与は、1990年代初めから、実質的な増加していない。

企業は誰が経営すべきか? どのように経営すべきか? 「エージェンシー理論」によって、それは株主がその利益を増やすために経営者を決定する、とアメリカ(そして、より程度は少ないがイギリス)の企業は答える。それによって企業の投資が、賢明かつ公平に行われ、成長も実現するはずだった。

しかし、経済成長の成果と株主の利益との間にはますます大きなギャップが現れている。たとえば、Appleがそうだ。彼らは1980年に最初の株式市場公開でわずかに資本調達しただけで、市場で資本を調達したことがない。

民間企業の市場システムは、もはや経済全体の利益を実現していないのだ。減税とトリクル・ダウンの正当化は、長期の成長や競争力を実現する答えにならない。


 ラスヴェガスの惨劇

NYT OCT. 5, 2017

Guns Aren’t a Bulwark Against Tyranny. The Rule of Law Is.

By MICHAEL SHERMER

ラスヴェガスの惨劇は58人の死者、500人もの負傷者を出した。銃の所有を認めるもっともよく聞く議論は、a)自衛のため、b)専制支配に対する抵抗の砦になる、というものだ。

自衛のために銃を持つ話は、銃の愛好家や保守派のラジオ・トークの司会者により広まっている。しかし、1998年のThe Journal of Trauma and Acute Care Surgeryにある研究は、その一例だが、異なる事実を示す。「自宅にある銃を自衛のため、法的に正当化される形で使用したケース1つに対して、4つの暴発事故、7つの犯罪や殺人のための使用、そして11の自殺や自殺未遂があった。」

また、銃保有の権利を主張する者が示す誇大妄想とは、人民の銃保有が独裁的政府に対する抑止になる、という主張だ。それは実際、アメリカ憲法修正第2条に記されている。その条文は1770年代には意味があった。当時の武器は元込め式のマスケット銃だった。現代では、市民が武装して、国家に暴力的に反対することに意味はない。

どのような場合も、政府と問題を生じたら、銃よりも強い武器として、弁護士がいる。政治家や警察官は、銃器で武装した市民より、法律で武装した市民を恐れる。前者は射ち倒せばよいが、後者は法廷に出ることが必要だ。

市民社会は、外部からの脅威に対して市民を守る専門的な軍事集団をともなう、法の支配に依拠している。警察力は内部の危険から市民を守る。刑事訴追システムは国家と市民との紛争を平和的に解決する。民事訴訟は市民間の紛争を非暴力で解決する。こうした制度があることで、過去数世紀に渡り、暴力は劇的に減少した。それは武装した大衆がいたからではない。

国家というのは、暴力の合法的な使用を独占することで、犯罪学者の言う「自助的な正義self-help justice」に代えるのだ。後者では、麻薬密売集団やマフィアのように、諸個人がしばしば暴力的に自分たちの問題を解決する。例えば殺人事件は、14世紀のイングランドに比べて、100分の1に減った。当時、10万人に対して110人が殺害されたが、今では年間、10万人に1人も殺害されない。

専制国家は市民の自由を蹂躙するが、それに対して武装した市民が対抗することは、もはや現実的でない。はるかに優れた方法は、非暴力で民主的な、権力のチェックア・アンド・バランス、市民権を守る憲法、さまざまな自由の法的保護である。

Bloomberg 2017105

Want to Keep Gun Rights? Strengthen the Social Fabric

By Leonid Bershidsky

ラスヴェガスの殺人者は15分間で、イスラム主義テロリストが西欧で1年間に殺害したよりも多くの人々を殺害した。

銃規制を強化する、というのは1つの答えであるが、アメリカでは実現しない。銃保有の権利を主張する者たちと、それに反対する者たちが、共通の基礎を得られるかもしれない別の方法がある。

アメリカはもちろん世界でもっとも銃保有率の高い国である。100人当たり89の銃器が保有されている。しかし、ヨーロッパでもスイスやフィンランドなど、高い保有率の国があった(100人当たり4645)。スイスでは、多くの家庭が外国の侵略を恐れて銃を保有する。アメリカの保有論者にとって模範となる国だ。高い銃保有率が、スイスでは、高い殺人発生率にならない。10万人当たりわずか0.7件である。フィンランドは0.2である。

なぜ相対的に多くの銃を保有する諸国が、アメリカのような大量殺人や高い殺人発生率につながらないのか? UKの犯罪学者Peter Squiresは、結束した、信頼し合う、寛容な、責任ある社会ほど、銃保有のリスクを低く抑える、と述べた。

銃保有の文化を持つこれらの諸国Switzerland, Finland, Norway and Icelandは、小さな、豊かで、同質的な社会であり、ローカル・コミュニティーが強い。また、これらは世界で最も幸せな国として評価されている。World Happiness Reportによれば、その順位はアメリカよりもはるかに高い。

エコノミストのJeffrey Sachsは、このレポートの支援者で、2017年版に特別な章を書いている。そこで、アメリカの1人当たりGDPは、1960年以来、3倍になったが、幸福を測ればそうではない。実際、それは最近になって低下した、と指摘する。

アメリカは幸福度を上げることができるし、そうするべきだ。そのためには、アメリカの多面的な社会的危機に対処することだ。不平等、汚職・腐敗、孤独、信頼の喪失。Jeffrey Sachsはもちろん、Sandersの顧問をした党派的な人物だ。しかし、多くの観察者が同じような問題を指摘意する。社会資本の欠如。コミュニティーの分解=アトム化。

鬱屈やイデオロギーから虐殺を行う者から、社会を守ることはできない。しかし、アメリカでは銃による大量殺人が頻発しており、この問題に多方面で取り組みことが急務なのだ。さまざまな人と話したが、アメリカは銃規制を選択しないだろう。しかし、他の方法で結果を変えるだけの、経済的な能力をアメリカは持っている。

それは、より強固な社会保障制度、より平等な、社会資本の充実した社会を実現することだ。それを多くのアメリカ人は「社会主義」と呼んで拒むが、そうではない。他の西側世界が広く実現している標準的な社会民主主義である。それによって、銃の保有はそのリスクを減らすだろう。


 制度と革新

PS Oct 4, 2017

Dealing with Damaging Institutional Inertia

MOHAMED A. EL-ERIAN

深く根を張った、信用でき、説明責任を果たす、効果的な諸制度があることは、長く、社会の持続的な厚生と繁栄にとって決定的に重要であった。それらが社会を、頻発する、解決できない、経済、政治、社会の変動から守り、高いコストを生じるショックのリスクを抑えている。しかし近頃、基軸となる政治・経済制度が、その環境における異常な流動性と、住民小川における累積する信頼喪失の効果に、圧迫されつつある。

適切に設計された、見事に機能する道路網のように、強固な諸制度は、安定的な作用環境、円滑な移行メカニズム、コストやリスクを抑えた経済取引、信頼できる所有権、法の支配に対する服従をもたらすことで、経済を活性化する。それらは幅広いウィン・ウィン関係を用意するだけでなく、信頼できるゲートキーパーとして働くのだ。

民間部門では、そうした圧力の主要な源泉が技術革新、特に、人工知能、ビッグ・データ、位相性の、ますます興梠オクな組み合わせである。その強烈な競争から攪乱的なコンテンツと巨大なプラットフォームを築いた例、Amazon, Facebook, Google, Netflix, and Uberは有名だ。

公的部門の調整過程はさらに困難な問題が多い。それはゲートキーパーと、能力の付与と、規制する役割を兼ねる点からも生じている。惰性、不完全情報、リスク回避、意識的・無意識的な偏見、これらが結び付いて、緊急の、重要な適用を妨げている。教育システムの顕著な、引き続く失敗はその1つである。

公的部門への効率性に対する信頼喪失は、さらにその効率を悪化させ、高い、包括的な成長を実現することを妨げて、悪循環を生じる。人々は失望し、疎外され、見捨てられたと感じるのだ。

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The Economist September 23rd 2016 

Does China play fair?

A crisis in Spain: The Catalan question

Innovation in China: The next wave

The future of Kurdistan: In a terrible state

Spain: The clash in Catalonia

China’s economy: Biting the bullet

(コメント) 中国製品が世界市場に輸出されることについて,特に市場を失うアメリカなど,多くの国は対策を迫られています.「貿易戦争」ではなく,その違いを区別せよ,と記事は主張します.違法な競争,苛烈な競争,不公正な競争,です.WTOによる規制や制裁の強化,産業の転換を助けて輸入品を歓迎,中国に対抗して欧米アジアの市場が連携する.

他方,中国の新興企業群が示す革新の能力と,中国政府が占める広範な産業政策について,考察しています.

カタルーニャとクルディスタンに関して,独立を問う住民投票の理想ではなく,その統治の問題点を厳しく指摘する内容です.

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IPEの想像力 10/9/17

日本の衆院選挙は、幸い、関心を集めています。小池ユリ子と希望の党が、枝野幸男と立憲民主党とともに、台風の目になることを,日本の政治のために良かったと思います。

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中国のIT関連新興企業に関して、The Economistの特集記事を読みました。記事に付いたイラストは,ジェット機のように空を飛行する若者,あるいは,子どもたちの姿です.Tシャツを着て,ヘッドセットで音楽を聴き,ゲーム機を片手に,ランドセルを背負った姿の,彼・彼女たちは,前方を向いてはるか上空を飛翔します.

中国のIT企業といえば,BATBaidu, Alibaba, Tencent)ですが,彼らも陰に呑み込まれるような新興企業向け投資の波が起きている,と言います.中国製品といえば,まがい物,コピー商品,という時代は数年前まであったのです.しかし,今は違います.野心に満ちた,才能あふれる,世界志向の,若手起業家たちが群れを成して現れました.

なぜなら中国には,1.広大な市場があり,2.失敗をあまり気にしない,冒険的な消費者がおり,3.(逆説的ですが)あまりにも消費者を無視した,非効率な国有企業が支配する分野に,人々の不満が蓄積されているからです.その答えを,技術革新と資本,アイデアによって,新興企業家たちが発見するのを,人々は待っています.

Ofoの創設者たちは,北京で暮らす貧しい学生であったとき,しばしばバイクを盗まれた.今では,800万台のバイクを管理し,中国だけでなく,アメリカ,シンガポール,イギリスで,1日に2500万回の利用を管理している.」

バイク戦争が起きています.ウーバーの成功に決して劣らない,配車サービスのネットワークから,バイクの利用,充電器など,さまざまなシェア・ビジネスが広がります.Didiはカー・プール,ミニバス,バス,タクシー,豪華自動車の時間利用を管理し,高齢者に対しては運転手とともに配送します.12000万件の利用があり,それはUberが世界全体で利用される件数の数倍である,と記事は紹介します.DidiAIで需要の立地を予測し,それを自動車,公共輸送,自転車にも拡大します.20万台の電気自動車をプラットフォームに,数年で100万台を投資します.

中国の新興企業群は,ITSNSのビッグ・データを活発に利用します.スマートフォン,ネットの決済,モノのIT化が急激に進む中国で,欧米に比べて,中国人は企業による情報の利用を気にしません.企業家はそれを基礎に次々と新しいビジネスを生み出します.利用者の行動に関して記録を取り,良い利用者を優遇し,悪い利用者を罰します.

記事は,中国を称賛するわけではありません.The Economistは,中国(アジア)式の産業政策に批判的ですし,政府の介入や規制が起業家を変えるか,企業家・投資家たちが共産党を変えるのか,わかりません.過当競争,過剰生産,金融的なバブル,国際紛争が待っています.

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北朝鮮の核実験やミサイル発射を,一種の,安倍政権応援団のように感じるのは,安全保障政策を「日米同盟の強化」しか語らないからです.選挙が政策論争を欠き,人物評価に偏るのは,与野党とも成長をめぐる「アベノミクス」への賛否しか報道しないからです.

「政権選択選挙」と言いますが,そうでしょうか? だれが政権を執るかより,日本の未来を決める選挙のはずです.トランプ政権の迷走や,日銀の超金融緩和政策に頼ることを超えて,平和と繁栄を築く長期の構想,孫たちの社会像を示すべきです.ポピュリストという非難を恐れず,財政規律を無視したバラマキという批判にもしっかり答える,自分たちの政策能力を示して闘う政党を,国民が選ぶ仕組みこそ「選挙」と呼びたいです.

超高齢化と急激な技術革新の間で,アメリカと中国の対抗と共謀の時代に,あなたたちは政府を組織し,日本の未来をどうしたいのか?

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