IPEの果樹園2017 

今週のReview

10/2-7

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女性というディストピア ・・・社会主義政党の未来 ・・・クルディスタン独立 ・・・AfDが加わるドイツ議会 ・・・メルケルの憂鬱 ・・・核兵器をもつ諸国 ・・・金利生活者の支配 ・・・マクロンとEU改革 ・・・プエルトリコの災い ・・・アメリカの税制改革 ・・・トランプの描く秩序 ・・・中国の秩序

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 女性というディストピア

FT September 23, 2017

Margaret Atwood, Canadian queen of dystopia

Emma Jacobs

女性を職場から追放し、男性の奴隷にする国家を描いたディストピア小説は、フェミニストの作家マーガレット・アトウッドにより1985年に出版された。小説は、今、トランプのアメリカやサウジアラビア、イスラム国家にとっても、何か意味があるかもしれない。

女性は子供を産むためだけに存在する。作家は、レーガン時代のキリスト教右派やアンチ・ポルノ・フェミニズムが台頭する時代に、鉄のカーテンの下、人々が沈黙を強いられる、西ベルリンに住んで、小説を執筆した。


 デジタル通貨

VOX 23 September 2017

Central bank digital currency and the future of monetary policy

Michael Bordo, Andrew Levin


 社会主義政党の未来

FT September 24, 2017

Labour should be radical on Brexit after May’s Florence speech

Paul Mason

The Guardian, Monday 25 September 2017

The AfD’s breakthrough shows that parties of the left must get radical

Paul Mason

ヨーロッパの社会民主主義プロジェクトは終わった、とある社会主義政党の幹部は私に語った。

ドイツの社会民主党の指導者たちが極右の進出に責任を感じているとしたら、それは彼らだけではない、と知ることは慰めになるかもしれない。フランスも、オランダも、オーストリアもそうだ。

ヨーロッパの中道左派政党は、余りにも長く連立政権に参加し、あるいは、味気ないテクノクラートになって、右派と左派の刺激的なポピュリストたちに容易に出し抜かれた。しかし、問題の根はもっと深い。社会民主主義がネオリベラルの経済モデルを穏健化し、人間的にするはずだったが、そのモデルはもはや機能していない。それは、中央銀行から12兆ドルを、世界規模の生命維持装置として供給され、生き延びている。

2008年以後、ネオリベラリズムは文字通り不正義となった。ヨーロッパの庶民は貧しくなった。子供たちの将来は不確かになった。金融と不動産開発に集まるエリートたちは、非常に裕福になった。主流派の政党が示す説明は意味をなさず、一部の人々には、ナショナリズムや外国人排斥の方が正しい解決策に見えた。

中道左派は、ネオリベラリズムから完全に切断しない限り、そして、市場諸力を人間の必要に従わせる経済モデルを示さない限り、失敗し続けるだろう。その経済モデルを改善するのではなく、サッチャー、レーガン、ベルルスコーニが1980年代、90年代に反革命を起こしたように、新しいモデルを示すのだ。

伝統的なヨーロッパの左派の中では、唯一、イギリス労働党だけが必要な転換をなしつつある。確かにコービンを拒む者がいる。マルクス主義は現代の労働党に必要ない、と元労働大臣Chris Leslieは主張する。しかし、マルクス主義はいたるところにある。日曜日の夜、マルクス主義人類学者David Harveyの講演には人があふれた。グラムシの思想をイギリスに広めた社会学者、故Stuart Hallこそが、40歳以下の労働党員に政治経済の基本的理解を与えている。コービン主義は、ラディカルな社会民主主義である。

ヨーロッパが必要とする変化も、その規模は大きく、労働党はグリーンなどと、広く進歩的な連携を模索する。EUが改革の拘束衣であってはならない。国家の役割は人民と地球とを守ることであり、金融エリートを守ることではない。

Bloomberg 2017926

Socialist Parties in Europe Keep Losing for the Same Reason

By Leonid Bershidsky

日曜日に行われたドイツの選挙後、ヨーロッパにおける既存の社会主義政党が敗北することは、孤立した現象ではなく、中道左派の趨勢、生存の危機であることがはっきりした。

社会民主党SPDのシュルツMartin Schulzはメルケルに憤慨した。彼女は「政治を組織的に回避した。」 そのことが生んだ空白をナショナリストが埋めたのだ。メルケルの「いいねキャンペーン」を「呆れたscandalous」中身だと非難した。まるで、この4年間も連立政権を組んだメルケル首相が敗北の原因であるかのように。SPDはわずか20.5%しか得票できなかった。

シュルツの非難は的外れだ。フランス社会党が今年の大統領選挙で消滅し、オランダの労働党も3月の選挙で崩壊した。

ノルウェイの選挙戦を指揮したAsbjoern Wahlは、労働党の敗北を次のように説明した。「社会民主主義の黄金時代は、階級的な妥協とパワー・バランスで、資本主義の社会的な規制を進めること(福祉国家)が可能になる時代であった。福祉政策を充実する物資知的基礎は、資本主義の深刻な危機と停滞、同時にネオリベラリズムの攻撃によって、今や終わりつつある。現在の政治状況で、社会民主的な試み、すなわち、階級的な妥協、三者協議、社会対話、は幻想である。」

他方、メルケルを含む、「ネオリベラル」は、資本主義の危機と停滞から利益を得た。彼らは速やかに有権者の地殻変動を吸収したのだ。左派政党は、1990年代に、肉体労働者が消滅する中で、労働者階級の支持基盤を失い始めていた。ポスト工業社会では、福祉政策を支持する同盟を中産階級に頼ることになる。中道右派政党の方がうまく対応した。SPDのシュレーダーが行った先駆的な労働市場改革を、SPDの支持層ではなく、CDUのメルケルが継承した。

フランス、オランダ、北欧諸国と同じように、ドイツも十分に社会主義国家である。社会保障を追加する、というSPDの主張により、有権者がCDUよりSPDに投票することはない。一般に、中産階級は中道右派でも中道左派でもかまわないのだ。ここはアメリカではない。アメリカなら、権力を握った政党によって、医療保険の適用範囲が変わる。

社会主義政党がもっと左に動くこと(ベーシックインカムや大規模な産業国有化)は、すでにある急進左派政党と衝突する。急進左派はその支持者に対して雄弁にアピールするから、たとえ中道左派政党が急進的な政策を掲げても、支持層を奪うことはできない。むしろ中産階級の支持者にとって、ユートピア的な主張として拒否される。

イギリス労働党はコービン党首の下で急進化し、支持されているが、弱体化した保守党政権の下で支持を得ているだけだ。コービンのラディカリズムは、長期的に、中産階級の好むものではなく、戦略として敗北するだろう。

主流の左派政党にとって唯一の道は、中道右派勢力との合併である。それはフランスでマクロンが勝利した後に進んだ。ますます政治の中心には有権者の統合された勢力が現れ、そこは既存の諸政党が競争する場所ではなくなっている。中道右派が、しばしば、もっとも強力な勢力となって、合併と政治同盟の中核となる。強力な政党がなければ、フランスのシナリオが現れる。

今や競争は、左派でも右派でも、統合された中心勢力と急進派との間で戦われている。メルケルはSPDとの連携を、FDやグリーン都の連携に代えることで、マクロンの中道戦略を吸収した。他方、SPDの対抗策は見えない。

The Guardian, Thursday 28 September 2017

A new shock doctrine: in a world of crisis, morality can still win

Naomi Klein

われわれは恐怖の時代を生きている。国家のトップの地位からTweetで核によるせん滅の脅しが広まり、あるいは、地域全体が気候変動のカオスに陥り、何千もの移民がヨーロッパの沿岸で溺死し、公然と人種差別を主張する政党が議席を得ている。

例として、カリブ海やアメリカ南部を襲ったハリケーンの猛威がある。イルマ、そしてマリアに襲われたプエルトリコは完全に電力を失い、数か月に及ぶ。水道やコミュニケーション・システムも深刻な損害を受けた。しかし、ハリケーン・カトリーナと同じように、支援は届かない。

危機を利用して搾取を強める政策を、私はショックドクトリンと呼んだ。公的な領域を破壊する政策で、ますます少数のエリートが利益を得る。トランプはほかのことに忙しく、議会もまだ援助を決めていない。その間にハゲタカが集まっている。プエルトリコはその発電所を売却するしかないだろう。

Grenfell Towerの火災でも、われわれは目撃した。責任ある人々が行動しないとき、コミュニティーが集まって、次々に支援を与え、生き延びた人、そして亡くなった人のために寄付を組織した。コミュニティーの支援は今も続いているが、100日経っても、まだわずかな家族しか新しい住居を得ていない。

真の危機の時には、大胆かつ未来を見据えた提案が要る。この数か月、労働党は他の選択肢を示してきた。富を再分配し、不可欠な公共サービス部門を国有化する。それはグローバルな現象だ。アメリカ大統領選挙で起きたサンダースの歴史的躍進。同様に、スペインのPodemosが大衆運動からパワーを得た。

ハイテクと化石燃料による経済ではなく、地球と隣人へのケアを重視した経済への転換を示すべきだ。気候変動と戦い、より公平で民主的な経済への転換が、100年に1度のチャンスとして現れている。労働党がより野心的で、一貫し、全体的な展望を示すなら、政権を獲得するだろう。

世界中で、左派の勝利は道義的に不可避である。

The Guardian, Thursday 28 September 2017

Now she’s defending capitalism. That shows just how rattled Theresa May is

Polly Toynbee

The Guardian, Thursday 28 September 2017

Corbyn’s man of the future act is hooked on dogmas of the past

Simon Jenkins


 クルディスタン独立

NYT SEPT. 24, 2017

Trump Should Bet on Kurdish Independence

By RON PROSORa former Israeli ambassador to the United Nations and the chairman of the Interdisciplinary Center’s International Diplomacy Institute in Herzliya

中東を、イスラク国家の過激主義や、アンカラ、テヘラン、バクダッドの集団的支配に委ねるのではなく、アメリカが支持する価値を実現し、その同盟諸国を強化し、アメリカが指導力を発揮するには、クルドの独立を明確に支援するべきだ

トランプ政権は、住民投票を中止するように働きかけてきたし、イスラク国家との戦争はまだ続いており、住民投票はこの戦争のすでに亀裂を生じている同盟関係を損なう、と主張している。それは重大な誤解である。クルド人の独立を全力で支持しなければ、短期的な動揺をうむだけでなく、中長期の機会を逃すだろう。

クルドは公式に国家を持たないが、国家としての多くの基準を満たしている。彼らの社会は経済的に活気があり、エネルギー産業が発達している。選挙された議会と比較的自由なメディアを含む、諸制度が機能している。彼らは他者を攻撃することなく、イスラム国家から自衛する能力がある。

クルディスタンはすでに、その諸価値とガバナンスにおいて、民主的な民族国家である。

FT September 27, 2017

Thirsting for independence, Iraqi Kurds face serious obstacles

David Gardner

近隣諸国からの脅しを無視して、イラク北部のクルド人は投票した。現在のクルド自治政府を維持するか、それとも、中身のない、気まぐれなイラク国家からの完全な独立を目指すか。

イラクのクルド人は、1991年、湾岸戦争のときから独自の国家を創ると決意したように見える。アメリカが指導したイラク侵攻は、エスミックや宗派間の対立を刺激し、連邦政府の秩序が崩壊する。その過程で、クルド人指導者たちはバグダッド政府との連邦主義を試したが、シーア派のイラク政府が権力の共有は受け入れなかった、という。

しかし独立は高リスクのギャンブルだ。3000万人のクルド人たちがイラク、シリア、トルコ、イランに広がっている。彼らは100年前にオスマン帝国が崩壊したとき、イギリスとフランスに独立を拒まれたのだ。トルコ、イラン、そしてイラクの中央政府は、経済的禁輸や地上と領空の封鎖で脅している。また石油価格の下落は、クルド政府の財政危機を生じている。

トルコのエルドアン大統領は、オバマ大統領がYPG(クルド人の武装組織)を支援することに激怒した。トルコ政府はPKK(その政治団体であるクルド人労働者党)と戦っていたからだ。トランプ政権やロシア政府は、クルド自治政府に投票を中止するよう求めた。しかし、彼らの一時的な反対をクルド人は信用しない。むしろ近隣諸国による眼前の脅威が問題だ。

エルドアンは、トルコとクルド人との30年に及ぶ戦いに自分の生存が賭かっていると考える。トルコ軍はイラク北部でPKKの軍事基地を爆撃するだけでなく、シリアでもYPGを爆撃し始めた。そしてトルコ政府が、クルド人の石油産業が輸出するためのパイプラインを支配している。

The Guardian, Wednesday 27 September 2017

The Kurds of Iraq have been loyal allies. The west must repay its debt

Simon Tisdall

クルド人自治区政府KRGが独立を目指すのは、民族自決の理想であり、オスマントルコ帝国からの独立を英仏が恣意的に奪ったことで、彼らが第1次世界大戦後に離散し、国家を持たない人々となって、数世代にわたり持ち続けた願いであるからだ。

驚くべきは、そして憂慮すべきは、世界の主要な国・勢力the US, the EU, Russia and China, plus the Arab League, Iraq, Iran, Syria and Turkeyが、一致して、クルディスタンの独立に反対していることだ。彼らが、現代において、このように一致したことなどあっただろうか? 

クルド人の問題を観るとき、いつものように、外部の勢力が自分たちの利害を主張して、より良い未来を見えなくしている。彼らは、短期的な目標として、ISISやイスラム・テロリズムとの戦いが続いている、という。長期的には、特にアメリカとロシアが、アラブの春の後、シリア内戦の後の、中東におけるバランス・オブ・パワーの形成に関心がある。大国の地政学ゲームにおいては、クルド人問題を利用するが、彼らが国家を持つことは迷惑だ。

イギリスやその同盟諸国は、クルド人のBarzani政府とその近隣諸国イラク、イラン、トルコとの間で急激に高まる対抗関係の、間違った側にいる。KRGが緊張の原因ではない。KRGは、その独立を長く阻まれたが、高度に成功した、透明で、民主的、包括的な運営を実現している。他方、この地域は住民の意見を聞かない政府ばかりである。

緊張の原因は外にある。例えば、トルコのエルドアンRecep Tayyip Erdoğan大統領だ。エルドアンは、20156月、クルド人の政党が躍進して、あやうく政権を失いかけたとき以来、トルコ南東部やシリア北部のクルド人を攻撃している。また、民主的な自由を奪い、その仲間として数万人を追放した。彼の政府はNATOとの協力を断ち、シリア難民問題ではEUを脅している。

エルドアンは、今、イラクのクルド人に、石油輸出のためのパイプラインを止めて飢えさせる、と警告している。「われわれが蛇口を閉めれば、それで終わりだ。彼らの収入はすべてなくなる。われわれがイラク北部に行くトラックを止めれば、彼らは食糧も得られない。」

2015年のレポートは、イギリスが信じるべき相手を示していた。それはKRGである。KRGを維持することは、「寛容と安定性の避難所」として、また女性の権利や人権を守るだけでなく、過激主義の軍団に対抗する同盟者として、決定的な重要性を持つ。

1次湾岸戦争で、1991年、サダムがイラク北部のクルド人を粉砕しようとしたとき、イギリスと友軍は安全地帯と飛行禁止ゾーンを設けて助けた。今もまた、クルド人の民主的権利を支持する姿勢を断固示すべきだ。

NYT SEPT. 27, 2017

How to Defuse the Iraqi Kurdish Crisis

By SAJAD JIYAD


 AfDが加わるドイツ議会

SPIEGEL ONLINE 09/24/2017

Merkel, the AfD and a Wounded SPD

Eight Lessons from Germany's Elections

By Sebastian Fischer

FT September 25, 2017

The end of German exceptionalism

Gideon Rachman

選挙で明らかになったように、ドイツも、例外と思われてきたが、怒りに満ちた、反エリートのポピュリズムに免疫はなかった。それは中道の衰退であった。CDUSPDも得票を減らしたのだ。過激派のアピールに対する沈黙がドイツの「歴史的な負債」だ、という希望は打ち砕かれた。

AfDは、最初、ユーロ圏を批判する「プロフェッショナルな政党」であったが、難民危機を経て、時とともに過激化した。そして、移民排斥を主張する極右の運動になった。

その指導者の1人、Alexander Gaulandは、ドイツ人は両大戦のドイツ兵士たちに誇りを持つべきだ、と述べた。また他の指導者Alice Weidelは、ドイツ政府は第2次世界大戦の戦勝諸国の操り人形である、と攻撃した。こうした右派ナショナリストが議会に参加することで、そこでの論争や、他のヨーロッパ諸国の反応も変わるだろう。トルコやポーランドとの関係はすでに悪化しているが、今後の関係はさらに困難な、辛辣なものになるだろう。

フランスとの協力はメルケルにとっても難しくなり、まず、ドイツ人労働者たちの生活水準が停滞しているという不満にメルケルは応えねばならない。ユーロ危機と難民危機に対する彼女の対応は、その代価を示した。

ドイツが他のヨーロッパ諸国に似てきたことは、他国がその特別な優位を攻撃してきたことだが、決して歓迎すべきものではない。

SPIEGEL ONLINE 09/25/2017

Democracy at Stake

Germany's Slide to the Right

by Klaus Brinkbäumer

NYT SEPT. 25, 2017

In Germany, the Center Holds

By ANNA SAUERBREY

AfDに投票した人の6割が、そのイデオロギーを支持したのではなく、既存の主流政党に対する抗議として投票した、と答えた。それは健全な答えである。われわれは500万人の人種差別主義者と暮らしているのではない。

FP SEPTEMBER 25, 2017

Voters Shatter Germany’s Centrist Politics

BY BETHANY ALLEN-EBRAHIMIAN, ROBBIE GRAMER

The Guardian, Thursday 28 September 2017

Only respect for the ‘left behind’ can turn the populist tide

Timothy Garton Ash

グローバルなポピュリズムの流行はもはや終わった、と主張する気の早い評論家たちにとって、ドイツの選挙でAfDが多数の議席を得たことはショックであろう。ドイツ人は、世界でもっとも繁栄した経済をもつ、外国人排斥や右翼のナショナリズムを強くタブー視する、EUの統合化を自分たちの生存条件とみなす国民だ。その国で8人に1人の投票者が、ヨーロッパを嫌う、右派ポピュリストのAlternative für Deutschland (AfD) を支持した。

もちろんドイツ人のすべてがBMWに乗っているわけではないし、マヨルカ島での長期休暇を楽しむわけでもない。しかし、AfDに投票した理由は経済的な不満ではない。彼らの95%が指摘したのは「ドイツの言語や文化」への脅威である。

特殊な事情として、ドイツは過去12年の8年間をCDUSPDとの大連立政権が統治した。そのことが不満のはけ口として小政党や急進政党への投票になった。メルケルは、穏健派、市民派、リベラル派の中道を支持層にした。私はその姿勢を過去に称賛したし、今も優れた政治手法だと思う。しかし、その中道的な、少し左派寄りの姿勢は、代償をともなった。他の主流派政党が極右に寛容になったのだ。

また、ドイツの東西分断がある。極右の、外国人排斥ポピュリズムが強い支持を得ているのは旧東ドイツである。AfDがもっとも多くの支持を得た地域には、ほとんど移民がいない。そこにあるのは40年間の共産主義体制の遺産であり、また、再統一後の東西関係・交流の型である。

トランプ支持者にも、Brexit支持者にも、ポーランドの「法と正義」党の支持者にも、リベラルな中央に対する地理的な反発が見られる。ポピュリストに投票するこれらの地域の住民には共通した怨嗟の感覚がある。「ここに我われもいるのだ。しかし、彼らは我われを無視し、自国の二流市民として扱っている。」

それは経済的な不平等ではなく、不平等の社会的な側面である。ネオリベラルな、金融資本主義的グローバリゼーションでは、トップの人々に富が集中し、逆に、社会の下半分では賃金や家計所得が停滞し、減少している。増大する社会・経済的な不平等は機会の不平等をもたらす。

ポーランドの右派ポピュリストたちは「威信の再分配」をスローガンとして広めた。この初めて聴くと奇妙な主張は、貨幣だけでなく、威信も再分配せよ、と求めるものだ。人々は、社会において関心を争っている。ドイツの有権者には、文化的な不安がある。「私はこの国が私の国とは思えない」という。移民はそのカギとなる要素である。彼らは、現実であれ、想像であれ、イスラムの脅威を恐れている。

妊娠中絶、同性婚もそうだ。「政治的正しさ」によって規制されてきた政治家の主張を、トランプ、ル・ペン、AfDの指導者たちは破壊する。有権者は「やっと、ありのままを語る政治家が現れた」と称賛する。彼らは異なるエスミック集団、宗教、文化集団を攻撃する。そして、その土地に生まれた、「真のイギリス人(アメリカ人、ポーランド人、ドイツ人)」を除く、すべてのものを非難する。それは「アイデンティティ政治」である。

こうした間違った診断により、病が治癒することはない。

FT September 28, 2017

Germany needs an alternative to AfD’s politics of resentment

Hajo Funke


 メルケルの憂鬱

FT September 25, 2017

Angela Merkel has passed the zenith of her power

Wolfgang Munchau

ドイツ議会に極右が登場することはショッキングである。AfD12.6%の得票により、およそ100人の議員を議会に送り込み、その3分の1は極右である。彼らはフランスの国民戦線やイギリスのUKIPよりも、はるかに危険な者たちだ。

社会民主党SPDの衰退もショッキングであった。メルケルとの親密さが長く続いたことは、その代償として政党としての主張を失った。

しかし、最大の衝撃は、メルケルのCDUとその姉妹CSUが支持を失ったことだった。2013年の得票率41.5%から、この選挙では33%に減少した。

メルケルはSPDとの連立を否定し、CDU/CSUと市場自由派のFDP、グリーンとの連立を目指すと表明した。メルケルには他の選択肢がないから、FDPとグリーンは強い交渉力を持つだろう。特にFDPの主張は問題を生じる。

FDPは自分たちを親ヨーロッパの政党だと主張してきたが、反EUである。ギリシャをユーロ圏から追放するよう求め、ESMの拡大を望まず、むしろその消滅を待っている。また、フランス大統領であるマクロンのユーロ圏共通予算案を拒否する。それが彼らの連立に合意する絶対譲れない線である、という。

グリーンの要求はそれほど厳しくない。しかしグリーンは、連立を拒否して再選挙をすれば党勢が伸びる、と考えるだろう。メルケルにはCDU/CSUの支持低迷を受けて、連立政権を組むしかない。それができなければ、3期に及んだ彼女の政治基盤は失われ、CDU/CSU内でも反対が強まる。

ドイツはより内向きの政治に変わるだろう。AfDに対抗する政治が焦点になる。以前も、メルケルがヨーロッパや世界の政治舞台で指導力を発揮する、というのは幻想であった。それがはっきりした。

彼女もまた、退任の時期を逸した指導者の1人になった。

SPIEGEL ONLINE 09/25/2017

The Price of Success

Merkel Lands Fourth Term, But at What Cost?

By Philipp Wittrock

PS Sep 25, 2017

Germany’s Economic Road Ahead

CLEMENS FUEST

PS Sep 25, 2017

Germany’s Weimar Ghosts

HAROLD JAMES

多くのSPD指導者たちは、連立政権に参加してきたことを悔やんだ。それは、戦間期のドイツに短期間だけ存在したワイマール共和国の特徴であった。権力からの逃避である。1949年に連邦共和国ができたとき以来、1つの疑問がドイツ政治にさまよっている。「再び極右が勝利し、ワイマールの経験が再現するのだろうか?

ワイマールでは、大恐慌に先立つ安定した時期にも、政権に参加した諸政党が有権者によって罰せられた。そして、自分たちを代替勢力や抵抗の党と示すとき、党勢を拡大した。その後、不況になり、同じメカニズムがさらに強く働いた。政府を支持することは自殺行為になり、ますます急進化する反対派がそう呼んだように、「システム」の支持者は処罰された。

今回の選挙結果で楽観できる余地があるとしたら、それはヨーロッパ的な基準に近いことだ。13%の支持率は、オランダのポピュリストGeert Wildersが獲得した数字と同じだ。ドイツ人の多数がAfDの支持者ではないし、AfDは指導部が分裂して衰退するかもしれない。

工業諸国の選挙は景気動向の反映である。しかし、ドイツの長期政権は、政治家たちの新しいアイデアを示す力が足らず、2016年末にはメルケルが疲れた様子であった。選挙は、こうした指導者たちへの不満を表明した。

メルケルがCDUと市場リベラリズムのFDP、グリーンとの連立を目指すことは、ドイツに新しい政策をもたらすだろう。グリーンも、環境政策を市場メカニズムに依拠させる姿勢を示しているからだ。その新しいドイツ政治は、独仏協力の強化と、ヨーロッパ諸制度の改革を進めるだろう。市場だけでは受け入れられない。

ワイマールの罠をドイツが打破する道は、ドイツだけで考えることではない。政治不安の答えは、ドイツとヨーロッパの制度にある。安定したヨーロッパだけが、過去の亡霊を封じるのだ。

NYT SEPT. 25, 2017

The Twilight of Angela Merkel

Roger Cohen

AfDの指導的政治家Alexander Gaulandは、「われわれの国、われわれの民族 “Volk” を取り戻す」と誓った。

ドイツはより怒った、より乱れた国になるだろう。タブーは失われた。西側民主主義の主要政党を襲う波はよく知られている。未来への不安、移民、イスラム、テロへの不安だ。責任を免れた者への怒り、不平等とグローバルなエリートの示す傲慢さへの怒りだ。ドイツもそれらに対する免疫を持たなかった。

AfDはトランプが創り出したのではないが、アメリカ大統領がネオナチを明確に非難しないことで、自由世界の政治的地平が変わった。

ドイツは、より穏健でない、たぶん、より普通の国、よりナショナリストの国になる。メルケルは、この選挙戦中、嵐に向かって夢遊病者の歩みを続けた。そのメッセージ、安心感を与え、庶民的で、抜け目ない、退屈な、ライバルにとっては鋭いナイフである政治家、はもう十分すぎた。

10年以上も政権にとどまることは長すぎた。メルケルは疲れ、ドイツも疲れた。

Bloomberg 2017925

Merkel's Lackluster Win Is Good for Germany

By Leonid Bershidsky

投票所からの最初の選挙結果を観たとき、メルケル首相の同盟者たちが示した渋い表情は、すぐに、メルケルが得たのは「ピュロスの勝利」だと物語った。しかし日曜日の選挙は、彼女にとっても、ドイツの民主主義にとっても、良い結果だった。それは次の連立政権の選択肢を示し、左右両方からの政府に対する反対派に発言力を与えた。

FT September 26, 2017

Angela Merkel confronts a new political landscape

PS Sep 26, 2017

A Test for Europe’s German Anchor

DANIELA SCHWARZER

PS Sep 26, 2017

Germany’s Grave New World

JOSCHKA FISCHER

FP SEPTEMBER 26, 2017

This Was the Worst Possible German Election for Europe

BY MATTHIAS MATTHIJS, ERIK JONES


(後半へ続く)