IPEの果樹園2017 

今週のReview

9/25-30

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北朝鮮と米中露 ・・・中国の国際的役割 ・・・国家と国境による世界 ・・・誰がEUを動かすのか? ・・・世界の民主主義 ・・・大国の外交政

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 北朝鮮と米中露

Bloomberg 2017916

Growth Isn't Good News for Kim Jong Un

By Nisid Hajari

1990年代の飢饉の後、北朝鮮の経済は大きく変化した。家計の70~80%は非公式な市場から所得を得ているだろう。また、北朝鮮はもはや閉鎖経済ではない。それゆえ経済制裁、特に、中国との貿易が止まれば北朝鮮の経済は崩壊する。

北朝鮮は中国型の市場改革を採用するだろう。それは金正恩と中国との妥協によるものか、あるいは、より暴力的な形になる。

NYT SEPT. 18, 2017

What’s the U.S.’s Best Chance With North Korea? Russia

By DMITRI TRENIN

ロシアは、アメリカとの関係が緊張している中でも、安保理で北朝鮮制裁に反対しなかった。2015年夏、ウクライナ危機の最中でも、モスクワはオバマ政権のイランとの核合意に反対しなかった。ロシアはアメリカ外交を助けることができる。

ワシントンとピョンヤンは最終的に直接交渉するだろう。しかし、今は秘密交渉が始まっただけだ。さまざまな意味で、ロシアはその重要な仲介者になる。

FP SEPTEMBER 21, 2017

Regime Change by Exit Visa

BY ROBERT WARNE NELSON

トランプの国連総会における演説は、米朝間で大陸間弾道ミサイルを含む戦争に向かうことを予想させる。しかし、そうではない、北朝鮮の体制と核武装を解体する道が存在する。

その答えは、中国が北朝鮮からの難民に対する政策を転換することだ。地雷源となっている韓国との非武装地帯と違い、中国と北朝鮮との国境は密輸や難民が行き来している。しかし、中国の難民に対する扱いは北朝鮮への送還であり、難民とその家族は厳しく処罰される。韓国が、たとえ中国を経由してでも、北からの難民を歓迎すること対照的だ。

中国が難民を受け入れない理由は2つある。1つは、大規模な難民危機が起きて、中国国内の少数民族の不満や、国際社会の介入を招くことを嫌うからだ。もう1つは、大規模な難民流出で北の体制が崩壊するかもしれないことだ。再統合した朝鮮において、米軍が中国との国境まで迫ってくることを嫌う。

中国の懸念には先例がある。社会主義と資本主義とが1国を分割したもう1つのケース、東西ドイツの再統一が、同様の政策転換から生じたことだ。

1989年まで、ハンガリー政府は東ドイツの移民に対して、現在の中国が北朝鮮難民に対して行っているのと同様に、東ドイツへ送還していた。ハンガリー政府は、逃げた難民を撃ち殺したから、より厳しかったとも言える。しかし、1989627日、ハンガリートーオーストリア政府が電気を流したフェンスの撤去に合意してから、状況は劇的に変化した。

東ドイツを含む、移民たちが、秩序、ハンガリー経由で西ドイツに行けるようになったのだ。何千もの東ドイツ国民がこの機会に飛びついた。そして、ますます多くの東ドイツ国民が国を逃げ出すにつれて、東ドイツは失策を犯し、ベルリンの壁が崩壊し、東西ドイツの再統一につながった。

もちろん、1989年の東ドイツと2017年の北朝鮮は同じではない。特に、東ドイツでは政治革命とソ連の撤退が起きた。他方、知る限り、北朝鮮は強固な態勢を維持している。しかし、現在の北朝鮮は当時の東ドイツよりも4倍貧しい。

中国自身が難民流出による北の崩壊シナリオを恐れている。アメリカは中国を説得しなければならない。中国は、たとえ無法国家を嫌っているとしても、隣国への影響力を保持したい。アメリカは北の解体を目指さない、と約束するだろう。

もし中国が北朝鮮の問題を解決できたら、アメリカはそれに報いるだろう。難民危機や再統一後の経済再建に資金を出す。再統一した朝鮮半島から、米軍が撤退する、と約束するかもしれない。また、中国に思い出すよう促すべきだ。北朝鮮の核武装は、米軍が東アジアで強化されることを意味する。THAADも拡大するだろう。

長期的に、多数のICBMを保有する朝鮮半島より、非核化した統一朝鮮の方が、中国にとって好ましいはずだ。


 中国の国際的役割

NYT SEPT. 16, 2017

The China Puzzle

By THE EDITORIAL BOARD

かつて大統領の守護者であったスティーブ・バノンが、香港への訪問を前に、中国について語った。Timesとのインタビューで、中国との「経済戦争」を宣言していたからだ。「今から100年後に、中国人たちは、自分たちの世界支配への道をアメリカが阻んだ、と思い出すだろう。」 しかし、香港での大規模な投資家の会議では、中国の指導力を称賛し、貿易戦争を回避できる希望を持たせた。

バノンの姿勢は、トランプ政権にある根本的な緊張状態を反映する。中国に対抗するべきか(対抗するとしたら、いつ、どこで?)、あるいは、協力するべきか?

バノンと同じような北京に対する恨みを感じている多くの人々がいる。中国は、アメリカの中産階級、労働者を犠牲にして成長した、という感覚だ。他方で、中国の助けが必要だ、とも感じている。北朝鮮を抑えるため、南シナ海やアジアの太平洋沿岸を安定化するために。

米中の協力は圧倒的な力になる。17億の人口、他を寄せ付けない経済力と軍事力、ともに核兵器を保有し、国連安保理の拒否権を持つ。両国は世界の姿を決める意欲と野心を持っている。

トランプ大統領はそれを理解し、マララーゴの別荘で習近平主席を取り込もうとした。しかし、一貫した戦略を欠いている。トランプは国務省のスタッフをなかなか充足せず、「アメリカ・ファースト」の直感的な主張で孤立主義や保護主義に向かう。他方、習は着実に、グローバルな経済・政治秩序を変え、諸国を中国の軌道に導いた。

そのために話し合うことがある。テロ対策、外国投資の拡大、知的所有権、もちろん、北朝鮮。かつてジョン・ケリーの国務省とオバマのホワイトハウスが熱心に交渉して、中国と協力した、気候変動対策もそうだ。米中の利害と外交的努力が両者の協力をもたらせば、世界全体がその利益を享受できる。


 国家と国境による世界

The Guardian, Monday 18 September 2017

We’ve hit peak injustice: a world without borders, but only for the super-rich

Hugh Muir

われわれには、トランプ、Brexitの野蛮な現実を忘れて、国境のない世界に暮らしたい、という涅槃の世界像があった。イギリス第1で、移民を減らす、とBrexit推進派は願う。実際にはできないだろうが。グローバル・ビレッジの世界像が、有刺鉄線で再編集される。しかし、こうした世界でも、やはり金がものを言うのだ。

キプロス政府は、グローバルな超富裕層に市民権を提供して、2013年以来40億ユーロも調達した。投資する代わりにEU市民として、彼らはEUのどこにでも暮らし、働くことができる。その中には、億万長者のロシア人オリガークや、汚職に問われているウクライナ人がいる。キプロスが求めるのは、わずかに、200万ユーロの不動産所有、もしくは、250万ユーロの社債や国債保有である。

キプロスだけではない。イギリスのパスポートも早急に手に入る。ビザも、パスポートも。必要な物は、200万ポンドの投資だけだ。ギリシャの市民権は25万ユーロで買えるし、ポルトガルの不動産を50万ユーロ買えば、“golden visa” schemeで、非EU市民に完全な居住権とEU28か国を自由に旅行できる権利がもらえる。

35万ドルで得られるグレナダのビザは、互恵協定によって、100か国以上に入国できる。移民たちは命がけで大陸や海を越え、同じことを願うが、むしろ自国にとどまって宝くじを買った方がよい、と助言するべきだろう。

非常に裕福な、高額の資産を持った人々は、弾力性を最大化するだけでなく、国境や国籍が意味を持たない「遊牧民」である、と考える。彼らは世界の変化を懸念している。過熱するナショナリズム、移民危機、テリーザ・メイの「世界市民」など「どこの市民でもない」という侮蔑。しかし、あなたが本当に非常に裕福であれば、何者もあなたを制限しない。

サヴォイ・ホテルのシャンデリアの下で、Eric Majorは聴衆に述べた。彼は市民権の専門企業Henley & Partnersの最高経営責任者だ。「特別な実体としての国民という概念を棄てなさい。それは単なるクラブのようなものだ。ある国民がうまく行かなければ、他の国民に入る。」


 誰がEUを動かすのか?

PS Sep 18, 2017

Germany’s Hour

ROBERT SKIDELSKY

誰がEUを動かすのか? ドイツの選挙前に、考えてみることだ。

普通、その答えは、「EU加盟諸国」である。あるいは、「欧州委員会」だろう。しかし、イギリスの元ドイツ大使、Paul Leverは「ベルリンが支配する」と答える。「現代のドイツは、かつて戦争によって得たものを政治が達成できることを示している。」

FT September 21, 2017

Angela Merkel writes the plumber’s guide to politics

Philip Stephens

メルケルは控えめな国内政治家として、配管工のように政治を動かした。ドイツ首相として言ったそうだ。食器洗い機が故障した主婦は、技術者の長い説明やくたびれる図表を観たいわけではない。彼女が求めているのは、機械の修理を任せられる、信頼できる職業人だ。配管工について言えることは、政治においても正しい。有権者たちは望ましい政策の分析や地政学の理論などに関心がない。彼らが求めているのは、事態を正しくできるという確信を持てる指導者だ。

トランプが、ドイツの安全保障の重要な基礎を蹴った。軍事力よりルールに基づく国際関係のシステムをドイツは守りたいが、戦後の西側秩序やリベラルな価値をトランプは軽蔑する。こうしたアメリカ大統領がテレビの画面に出るたびに、人々はメルケルを支持する理由を得たわけだ。


 世界の民主主義

NYT SEPT. 18, 2017

In Syria, the World’s Democracies Failed Us

By FADI AZZAM

予言者マホメッドの最後の正統な後継者Umar ibn al-Khattab1400年前に没した。彼は、「母親たちが自由な人として生んだ者を、奴隷にすることなどできるだろうか?」という美しい言葉を残した。

Khattabはまた、ペルシャからシリアにまで、征服した土地にも公平なガバナンスを敷くことで、イスラム帝国を拡大した。ダマスカスはアラブ世界の歴史を理解する旋回軸であった。数え切れぬほど征服者が変わったが、ダマスカスは常に生き残った。過去1世紀を通じて、そこには民主主義の要素があった。選挙、議会、政党、反政府運動、自由な新聞。

1963年、バース党のクーデタが起きた。Hafez al-Assadが自由を奪い、狂気の体制を築いた。2000年、その息子Basharは改革を約束したが、それは進まなかった。2011年、アラブの春で、抗議デモがダマスカスの通りを埋め、民主化と政治犯の釈放を求めた。治安維持軍は彼らに発砲した。

当時のビデオには、政府軍兵士たちが鎖につながれた若者たちを地面に踏みつぶす姿がある。自由がほしい? この獣たちめ。言ってみろ。自由とは何か? それが問題である。アサドの体制はこれに答えた。

アルカイダが支配したシリア一帯では、ビデオに、チェクニア、フランス、サウジアラビア、チュニジアから来た外国兵士たちがシリア革命に参加した若者たちを恐慌に陥らせ、彼らの旗を引き裂く姿が映っている。アルカイダは支配地の道路に書く。「民主主義は(神への)冒涜だ。」

2014年、西側が軍事支援しないことについて弁解するため、オバマ大統領は疑問を示した。シリアの「穏健な反対派」、農民、歯科医、ラジオのレポーターなどが、外部の支援を得た、戦闘を激化させる政府に対して勝利できるだろうか? それは無理だ。

われわれシリア人は、虐殺を止めるように、市民たちに避難所を提供するように、戦争犯罪者たちを告発するように、求めた。その訴えは無駄であった。この国の最も勇敢な男女が、自由、尊厳、民主主義を求めて歌い、踊る中で、殺害された。

民主主義は軍事力で作れるのか? その答えは、Yesである。西側がシリアに介入していたら、シリア革命は生き延びるチャンスを得ただろう。

FT September 20, 2017

Capitalism and democracy — the odd couple

Martin Wolf

民主主義は衰退している。1970年代から2000年の最初の10年まで拡大したが、その後、後退している。リベラルな世界経済も衰退している。民主主義と資本主義とは結婚しているが、それはしばしば問題を起こす関係だ。

産業革命は究極において政治革命をもたらし、専制体制は民主化された。グローバリゼーションの時代は民主化の拡大と重なり、グローバリゼーションの逆転では民主化も後退した。これは当然だ。経済的繁栄と民主化は互いに強め合う。1820年以来、グローバルな1人当たり実質所得は13倍に増大した。経済の進歩は人々の教育を必要とする。それは工業化された戦争に大衆動員することになり、政治への参加を促した。

逆に、金融危機は、1930年代、2008年、貧困、不安定さ、怒りをもたらした。その感覚は、健全な民主主義が必要とする信頼をもたらすものではない。最低限でも、民主主義は、勝者がその一時的な権力を敗者の破壊のために使用しない、と信じることが必要だ。信頼がなければ、政治は毒される。

民主主義と資本主義は、ともに平等という理想に依拠している。すべてのものが政治的決定に参加できるし、市場で最善と思うことをする。しかし、両者は深刻な対立にもなる。民主主義の連帯と資本主義の国籍無視、民主主義の地域性と資本主義のグローバル性、民主主義の平等な市民権と資本主義の不平等な分配、民主主義と資本主義、投票権と金の力。経済的な安定性を望む有権者と景気の過熱と破たん。

各国の民主主義とグローバルな資本主義との緊張関係は破滅に至ることがある。しかし、共存することも歴史は示している。

市場経済は必ず民主主義だとか、すべての市場経済がグローバル化する、というのではない。安定的な民主主義は、少なくとも、十分な開放型の市場経済である、と考える。それ以外に、この複雑な社会を機能させることはできないだろう。資本主義を制御して民主主義を可能にし、民主主義を制御してグローバルな資本主義がより全体の利益になるように機能させる。今こそ、それが求められる。

NYT SEPT. 19, 2017

Why We Need Political Parties

By MOISÉS NAÍM

2008年の金融崩壊から10年が経ち、主要な経済は回復したか、回復の過程にある。しかし、危機前にもどらないのは、政治である。政党は、民主主義システムが強くなるには欠かせないものだが、今や絶滅危惧種になりつつある。

近年、政党は理想を掲げる政治家の生息地ではなくなり、早口で話す、しばしば偽善的なご都合主義者、出世志向の者たちが集まる場所になった。現状維持の政治や政党に対する強い軽蔑が世界中に広がっている。

新しい政治秩序は、既存政党や選挙された指導者を追放し、腐敗した、効果のない組織をもっと効果的な組織に代えるよう求める。しかし、NGOsや、緩やかな、階層化されない運動を、その答えと考えることは間違いだ。民主主義は政党を必要とする。恒久的な組織が政治権力を獲得し、統治するべきだ。政党こそが、分散した利害や意見をまとめることになる。将来の政治指導者を探し出し、育て、既存の権力者を監視するのだ。

政治指導者には、幼稚園の教育にも核兵器にも、医療でも農業でも、政治的立場を示す必要がある。テロとどう戦うか、銀行をどう規制するか、多くの他の政策課題について、的確に結び付けられた見解を持たねばならない。政党とは指導者たちの訓練キャンプなのだ。

21世紀に向けて、われわれには、特に若者の政治参加を促せる、現代の技術革新を統治にも生かすような、民主主義的政党の破壊的な革新が必要だ。


 大国の外交政策

FP SEPTEMBER 21, 2017

Great Powers Are Defined by Their Great Wars

BY STEPHEN M. WALT

国際政治の研究者にとって多年にわたる問題意識とは、大国の外交政策をどのように説明、そして可能ならば予測するか、である。諸国家から成るシステムに関して多くの本があるけれど、われわれは、なぜある国はある仕方で行動するとき、他の国は異なる仕方で行動するのか、という問いにも関心がある。

リアリストたちにとってそれは、相対的なパワーである。リアリストたちは、すべての大国が似たような行動を取る、と言う。それはアナーキーに制約されているからだ。大国の行動に生じる差は、相対的なパワーを反映している。台頭する国はその利害を拡大して定義し、バランス・オブ・パワーの変化をチャンスとみなす。予防的な戦争の動機にもなる。

他の者には、地理が重要である。John Mearsheimerは、オフショア・バランサー(英、米)とランド・パワー(独、露)とを区別した。地理は、境界線や影響圏としても重要である。また、政治体制のタイプを重視する者もいる。民主的国家は互いに戦争しない、という理論。ほかにも、政治体制と外交政策とを結びつける多くの理論がある。最後に、指導者の個人が挙げられる。ときには他の要因を圧倒して、指導者が政策を決めるだろう。

国家の行動を理解する、もう1つの方法がある。それは歴史的なアプローチである。特に大きな戦争の経験が重要だ。

大規模な戦争は、ねじれた、巨額の出費をともなう、恐るべき出来事だ。社会のすべてのことに影響する。そのエピソードは将来に影を落とし、戦争を経験した人々を怯えさせ、勝利であれ、敗北であれ、その教訓は国民の集団的な記憶に深く刻まれる。過去の戦争の経験こそ国民的アイデンティティの中心をなし、安全保障こそ国家機関を強化する圧倒的な理由になる。「愛国者」であることが良き市民を意味し、その政治的な区分は将来まで続く。

ウィンストン・チャーチルは、第1次・第2次世界大戦を、20世紀の「30年戦争」と呼んだ。B.H. Liddell Hartの著述が示すように、第1次世界大戦の惨禍がイギリスを、大陸の戦争に至る状況において慎重にさせ、宥和策を取らせた。第2次世界大戦後に帝国を失ったことで、イギリスの指導者たちは、将来の影響力はアメリカとの「特別な関係」を育成することだと考えた。

2次世界大戦の敗者であるドイツと日本にとっても、その影響は重要だ。ドイツは分断され、日本は空襲で焼かれ、原子爆弾を浴びた。いずれの国も軍国主義・ファシズムをチェックしなかったことが破滅につながった、と学んだ。その後、両国は平和主義の国になった。

ロシアにとって、「大祖国戦争Great Patriotic War」は、2000万人以上の犠牲者を出した、まさに大惨禍であった。無数の都市、町、村が崩壊した。その経験がロシアの指導者たちの国境や「影響圏」に関する過敏な反応を強めたのは当然であった。他国の意図を最悪の可能性まで疑い、安全保障のためならなんでも犠牲にする。第2次世界大戦がソ連に与えた衝撃を理解しなければ、あなたはロシアの世界観を理解できず、モスクワの行動の多くを見失う。

中国の状況は複雑だ。第2次世界大戦は中国の現在の行動を決める中心的な出来事ではない、と思う。より重要な経験は、西側と、その後の日本により、中国が侮辱された2世紀に及ぶ歴史である。今、中国は主要国の中に「正当な」位置を回復した、という信念が、中国の指導層の正当性と、国民の動機の、強烈な源泉となっている。

アメリカはどうか? 第2次世界大戦は、今なおアメリカにとっての「良い戦争」である。英雄譚が多くあり、国民の考え方や1945年以降の世界における役割を導いてきた。宥和策の失敗、信認の重要さ、孤立主義、同盟国(都合よく、ナチスを倒すうえでソ連が果たした絶大な部分を無視している)、軍事的優位。アメリカは「欠かすことのできない」大国であり、すべての面で指導する。

冷戦も重要だが、その影響は限られるだろう。特に成功した軍事行動はないし、ベトナム戦争は大きな失敗であった。冷戦は、戦場ではなく、市場と交渉力で勝利したのだ。経済モデルの勝利であって、市民たちの暮らしはかなり良かった。

ベトナムの教訓は、自分たちが理解しない、貧しい、分断された社会において、国家建設を行うことの不毛さであったが、それは驚くほど急速に忘れ去られた。イラクやアフガニスタンも、アメリカ人の意識に残らないだろう。なぜなら、戦場に言ったアメリカ人は相対的に少なく、(徴兵ではなく)ボランティアであったし、そのコストは将来世代が負ったからだ。

戦争の記憶は消えてしまうだろう。どれほど多くの研究や小説、映画があっても。常に新しい出来事の方が影響する。

核の抑止、経済相互依存、政治家の優れた判断、幸運、外交努力によって、さらに70年間は大規模な戦争が回避できると思う。そのとき、他の集団的な出来事が、危機意識や、英雄、犠牲、国民のアイデンティティを決めるだろう。たとえば、ハリケーン・ハーベイと繰り返して襲う天災が。

戦争、不況、疫病、革命、その他、大規模な集団的経験の社会的記憶が、他の要素の影響を決めるような、強い、長期的な効果を及ぼす。作家フォークナーが書いたように、“The past is never dead. It’s not even past.”

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The Economist September 9th 2016 

Germany’s election Angela’s unfinished business

China’s economy: Created destruction

Angela Merkel: The livin’ is easy

The Koreas: A bomb for a bomb

Technology and financial inclusion: Underserved and overlooked

Chinese industry: Great Leap Bachward

(コメント) 日本と比べて,ドイツの選挙は何が争点だったのか? メルケル,メルケル,そして,メルケル.その政治姿勢やドイツに及ぼした功罪を,記事は慎重に検討します.

中国政府の過剰生産力削減方針を,「大躍進」になぞらえ,後ろ向きの大躍進,と注目します.世界デフレの元凶とばかりに避難していた西側の生産者も,価格の回復によって利益を得ている,と.しかし,これで市場経済の調整力が高まった,とは言い難いようです.

朝鮮半島危機と沖縄米軍基地や核武装,ハイテク技術と金融市場に世界の貧困層を取り込む話,どちらも考える機会になります.

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IPEの想像力 9/25/17

日本郵政株の2回目の売り出しがある,という案内が証券会社から来ました.応募に対して抽選が行われる,ということです.

新規公開株に比べて,政府保有株を民間に売り出す際に2~4%を割り引く,ということで,すでに市場で決まっている価格が基準になり,大幅に値上がりするような期待はないのです.むしろ,郵便局が何か儲かるのだろうか? と考えてしまいます.通信業務は,年賀状も,暑中見舞いも,次第に減少していくように思います.若者はSNSで頻繁に連絡を取っているのです.長い文章を,たとえパソコンでも,印刷して郵送することなど,あるでしょうか?

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株式市場への投資,新規公開株,配当やキャピタルゲインへの期待,そういった言葉は,「富はどこから来るのか?」という疑問を生じます.

働くのは嫌だ.好きなことをして,裕福に暮らしたい.そんな理想を実現した若い投資家の話がテレビやインターネットで紹介されます.シンガポールに住んで投資する.ドバイに移住する.

ソーキン『リーマン・ショック・コンフィデンシャル』に載った話の中で,主要人物の生い立ちや経歴を読むとき,アメリカ金融ビジネスの実像が浮かびます.中産階級や下層労働者,移民,黒人であっても,ハーヴァード・ビジネス・スクール,軍隊,ゴールドマンサックス,デリバティブ取引,M&Aを介して,巨万の富を得ます.

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富は,社会的な分業によって生まれます.また,知識や技術を具体的に生産過程や製品に生かす資本設備によって,技能,熟練を蓄積し,広める,教育システムや労働現場の人々の関わり方において,増えるのではないでしょうか? 富とは,単なる,製品や消費ではなく,変貌する労働世界の一部として,私たちがこの社会に貢献し,この世界を楽しむ共通の基準を認め合う,そうした日常の過ごし方,楽しみ方にあると思います.

豊かな国と貧しい国とは何が違うのか? 投資家は,農夫や兵士と,どう違うのでしょうか?

ダイナミックに変化する条件を短時間で利益に結び付けるため,資金調達の方法として,投機や賭博のメカニズムが発達したのでしょう.株価や通貨,保険の権利証が売買されるシステムを築き,手数料を得る人々が莫大な報酬を実現しています.

世界金融危機の教訓とは,こうした利益が長期的にも,社会全体の利益をもたらしている,という責任ある仕組みに従わせることだったはずです.

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富者に国境はない,と言います.地理的に分割されたガバナンスと,グローバルに移動し,再配置される資本との関係は,戦争や移民・難民とともに,社会的な合意・規範を脅かします.

日本郵政の政府保有株式売却に関して,インターネット上に簡単な説明がありました.なるほど,それは巨大なガバナンスです.郵政民営化論争や小泉構造改革の時代を思い出します.その成果は,今,静かに実現しつつあります.株式会社化された郵便局,簡易保険,郵便貯金が,その株式を民間投資家に売り出すのです.

ソ連崩壊や東西ドイツ再統合後の市場自由化もそうでした.資本主義的な市場システムには,株式だけでなく,国民の声を反映する政治的なメカニズムが欠かせない,と思います.

日本郵政も,その保有資産,物流ネットワーク,地方における平等なサービス,高齢者からの信頼,など,富をもたらす可能性を秘めています.もし,グローバル資本のためではなく,クロネコヤマト+LawsonAmazonFacebookに劣らない革新と新興企業群のビッグバンを,多くの日本人や高齢者に納得できる形で実現するためなら,その株式を買うでしょう.

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