前半から続く)


 世界の民主主義

NYT SEPT. 18, 2017

In Syria, the World’s Democracies Failed Us

By FADI AZZAM

予言者マホメッドの最後の正統な後継者Umar ibn al-Khattab1400年前に没した。彼は、「母親たちが自由な人として生んだ者を、奴隷にすることなどできるだろうか?」という美しい言葉を残した。

Khattabはまた、ペルシャからシリアにまで、征服した土地にも公平なガバナンスを敷くことで、イスラム帝国を拡大した。ダマスカスはアラブ世界の歴史を理解する旋回軸であった。数え切れぬほど征服者が変わったが、ダマスカスは常に生き残った。過去1世紀を通じて、そこには民主主義の要素があった。選挙、議会、政党、反政府運動、自由な新聞。

1963年、バース党のクーデタが起きた。Hafez al-Assadが自由を奪い、狂気の体制を築いた。2000年、その息子Basharは改革を約束したが、それは進まなかった。2011年、アラブの春で、抗議デモがダマスカスの通りを埋め、民主化と政治犯の釈放を求めた。治安維持軍は彼らに発砲した。

当時のビデオには、政府軍兵士たちが鎖につながれた若者たちを地面に踏みつぶす姿がある。自由がほしい? この獣たちめ。言ってみろ。自由とは何か? それが問題である。アサドの体制はこれに答えた。

アルカイダが支配したシリア一帯では、ビデオに、チェクニア、フランス、サウジアラビア、チュニジアから来た外国兵士たちがシリア革命に参加した若者たちを恐慌に陥らせ、彼らの旗を引き裂く姿が映っている。アルカイダは支配地の道路に書く。「民主主義は(神への)冒涜だ。」

シリアの悲劇は世界中に放映された。自由と民主主義を求める人々が陥った運命を理解しているか? シリアが血で示したように、アラブの春はダマスカスで終わったのだ。アメリカや西側は、もっぱら言葉だけで介入した。アサド体制の残虐さ、外国からのテロリストの輸入を非難することで、何かが変わるかのように。髭で覆われた男たちが戦車を操縦し、マシンガンを撃つ。ポストモダンの魔術が、ビデオゲームと現実のテロリストたちを世界中から呼び寄せた。

2014年、西側が軍事支援しないことについて弁解するため、オバマ大統領は疑問を示した。シリアの「穏健な反対派」、農民、歯科医、ラジオのレポーターなどが、外部の支援を得た、戦闘を激化させる政府に対して勝利できるだろうか? それは無理だ。

アメリカは、中東や世界の野蛮な政治体制を支援してきた。ラテンアメリカ、その他で、選挙によって成立した政府を打倒した。イラクと違ってシリアには、アメリカが軍事介入するほど、石油埋蔵量がない。アメリカにはアブグレイブ監獄があるし、軍はドローン攻撃による市民への誤爆を繰り返している。アメリカと西側にはパワーがあるけれど、もし世界の貧しい者のために自由と民主主義を守らないなら、それは道義に反する。

われわれシリア人は、虐殺を止めるように、市民たちに避難所を提供するように、戦争犯罪者たちを告発するように、求めた。その訴えは無駄であった。この国の最も勇敢な男女が、自由、尊厳、民主主義を求めて歌い、踊る中で、殺害された。

民主的世界はシリアを見捨てた。それは、西側の政治家、外交官、将軍のことではない。文化的エリート、市民社会、人権活動家のことだ。彼らは我々を裏切った。

911は障壁を破壊した。西側は直ちに貧しいアフガニスタンに反撃し、出血をハンカチで押さえたように、民主主義を広げた。大量破壊兵器があるとみなしてイラクを攻撃し、バクダッドのグリーン・ゾーン内、数キロメートルの民主主義を創った。

民主主義は軍事力で作れるのか? その答えは、Yesである。西側がシリアに介入していたら、シリア革命は生き延びるチャンスを得ただろう。

FT September 20, 2017

Capitalism and democracy — the odd couple

Martin Wolf

民主主義は衰退している。1970年代から2000年の最初の10年まで拡大したが、その後、後退している。リベラルな世界経済も衰退している。民主主義と資本主義とは結婚しているが、それはしばしば問題を起こす関係だ。

ドナルド・トランプの当選後、アメリカではリベラルな貿易への反対が強まった。金融危機後、ウォール街や自由なグローバル金融への反感も強い。人の移動に対する反対派はどこでも見られる。

The Polity IV database from the Center for Systemic Peaceによれば、1800年には、ほとんどすべての政治体制が専制的であった。1800-2016年、民主的な体制は、22中のゼロから、167の中の97まで増加した。1945年以降、政治体制の数が急増したが、民主的体制の比率と、世界生産に対する世界貿易の比率は、緊密に関係している。

産業革命は究極において政治革命をもたらし、専制体制は民主化された。グローバリゼーションの時代は民主化の拡大と重なり、グローバリゼーションの逆転では民主化も後退した。これは当然だ。経済的繁栄と民主化は互いに強め合う。1820年以来、グローバルな1人当たり実質所得は13倍に増大した。経済の進歩は人々の教育を必要とする。それは工業化された戦争に大衆動員することになり、政治への参加を促した。

逆に、金融危機は、1930年代、2008年、貧困、不安定さ、怒りをもたらした。その感覚は、健全な民主主義が必要とする信頼をもたらすものではない。最低限でも、民主主義は、勝者がその一時的な権力を敗者の破壊のために使用しない、と信じることが必要だ。信頼がなければ、政治は毒される。

民主主義と資本主義は、ともに平等という理想に依拠している。すべてのものが政治的決定に参加できるし、市場で最善と思うことをする。しかし、両者は深刻な対立にもなる。民主主義の連帯と資本主義の国籍無視、民主主義の地域性と資本主義のグローバル性、民主主義の平等な市民権と資本主義の不平等な分配、民主主義と資本主義、投票権と金の力。経済的な安定性を望む有権者と景気の過熱と破たん。

各国の民主主義とグローバルな資本主義との緊張関係は破滅に至ることがある。しかし、共存することも歴史は示している。

市場経済は必ず民主主義だとか、すべての市場経済がグローバル化する、というのではない。安定的な民主主義は、少なくとも、十分な開放型の市場経済である、と考える。それ以外に、この複雑な社会を機能させることはできないだろう。資本主義を制御して民主主義を可能にし、民主主義を制御してグローバルな資本主義がより全体の利益になるように機能させる。今こそ、それが求められる。

FT September 20, 2017

Myanmar’s Aung San Suu Kyi fails the Rohingya test

NYT SEPT. 19, 2017

Why We Need Political Parties

By MOISÉS NAÍM

2008年の金融崩壊から10年が経ち、主要な経済は回復したか、回復の過程にある。しかし、危機前にもどらないのは、政治である。政党は、民主主義システムが強くなるには欠かせないものだが、今や絶滅危惧種になりつつある。

経済の下降局面では、トランプのような非伝統的指導者や、かつては考えられなかったBrexitを生じた。それは西側の賃金が長期停滞し、中産階級が没落する中で、機械化やグローバリゼーションを非難する声が高まっていたからだ。移民流入や国際貿易も、経済統合のコストとみなされた。ブラジルのような新興市場や、アジア、ラテンアメリカ、アフリカの発展途上諸国でも、人々の満足は得られていない。経済的進歩や繁栄も、政治的安定性を意味しないのだ。

豊かな国でも、貧しい国でも、有権者の怒りはグローバルな波である。特に、汚職に対する非寛容が見られる。公務員の汚職に抗議し、かつて庶民には手の出なかった政治家たちが追放された。ブラジル、インド、ロシア、スペイン、各地で権力者の汚職を非難する街頭デモが起きた。

近年、政党は理想を掲げる政治家の生息地ではなくなり、早口で話す、しばしば偽善的なご都合主義者、出世志向の者たちが集まる場所になった。現状維持の政治や政党に対する強い軽蔑が世界中に広がっている。

その典型例は、2010年に当選したチリリッカTiriricaだ。彼は道化師の姿でブラジル議会選挙を戦い、当選した。彼のメッセージは正直で、直截的だ。「私は国会議員が何か知らない。もしあなたが私を議会に送ってくれたら、私はそれをあなたに語るだろう。」 彼の目標は「この国の困っている人たちを助けること、・・・特に、私の家族を。」

Tiriricaを反政治のみせかけ、ブラジル民主主義の未熟さ、と非難するのは、すぐに間違いだとわかった。イタリアで喜劇役者のグリッロBeppe Grilloが成功し、アメリカではリアリティTVの司会者であったトランプが大統領になった。2人は既存政党の権力を破壊した。グリッロは、政治のアウトサイダーとしてFive Star Movementを育て、トランプは政治のインサイダーとして共和党を乗っ取った。

新しい政治秩序は、既存政党や選挙された指導者を追放し、腐敗した、効果のない組織をもっと効果的な組織に代えるよう求める。しかし、NGOsや、緩やかな、階層化されない運動を、その答えと考えることは間違いだ。民主主義は政党を必要とする。恒久的な組織が政治権力を獲得し、統治するべきだ。政党こそが、分散した利害や意見をまとめることになる。将来の政治指導者を探し出し、育て、既存の権力者を監視するのだ。

政治指導者には、幼稚園の教育にも核兵器にも、医療でも農業でも、政治的立場を示す必要がある。テロとどう戦うか、銀行をどう規制するか、多くの他の政策課題について、的確に結び付けられた見解を持たねばならない。政党とは指導者たちの訓練キャンプなのだ。

21世紀に向けて、われわれには、特に若者の政治参加を促せる、現代の技術革新を統治にも生かすような、民主主義的政党の破壊的な革新が必要だ。

NYT SEPT. 19, 2017

Samantha Power: Why Foreign Propaganda Is More Dangerous Now

By SAMANTHA POWER

FP SEPTEMBER 20, 2017

I Would Vote for (a Sane) Donald Trump

BY MAX BOOT

NYT SEPT. 21, 2017

Myanmar’s Rohingya Crisis Meets Reality

By KEVIN RUDD


 トランプの国連総会演説

FP SEPTEMBER 18, 2017

Trump Reaches Out to U.N., Criticizes Waste, in Debut Appearance

BY COLUM LYNCH

FP SEPTEMBER 18, 2017

Before U.N. Summit, World Tells Trump His ‘America-First Fun’ Must End

BY COLUM LYNCH

The Guardian, Tuesday 19 September 2017

Trump calls Kim the aggressor – while trying to take down the Iran nuclear deal

Peter Westmacott

だれも東アジアで核戦争が起きることを願っていない。トランプ大統領の国連総会における演説は、北朝鮮の軍事的挑発がどれほど深刻な結果につながりうるかを示した。

他方で、トランプ大統領は、イランとの核合意を激しい言葉で攻撃した。しかし、それはイランが核武装するより優れた合意である。

どちらの面でも、外交官たちが前進しなければならない。東アジアに核拡散の亡霊がさまようとき、中東における効果的な核合意を破棄することは間違いだ。

The Guardian, Tuesday 19 September 2017

The Guardian view on Trump at the UN: bluster and belligerence

Editorial

NYT SEPT. 19, 2017

Trump Vows to ‘Totally Destroy’ North Korea if It Threatens U.S.

By PETER BAKER and RICK GLADSTONE

FP SEPTEMBER 19, 2017

At U.N., Trump Threatens to ‘Totally Destroy’ North Korea

BY COLUM LYNCH

FP SEPTEMBER 19, 2017

The Fatal Flaw in Trump’s U.N. Speech Could Be Disastrous for American Power

BY KORI SCHAKE

ドナルド・トランプ大統領の国連総会における演説は、チャベスやアフマディネジャドほどではなかった。フルシチョフほどひどくもない。選挙期間中の演説よりも抑えたものだった。

その演説はナショナリストの表現を多用し、就任演説のような暗黒の示唆はない。大統領の補佐官たちが、トランプの「アメリカ・ファースト」に関して、できる限り、好ましい面を示したものだろう。これはアメリカが世界に自分たちの姿勢を正当化する機会であったが、それをしなかった。

彼の戦略家やスピーチライターたちは、諸国が非妥協的に自国の利益を追求することは、アメリカの国益にならない、ということを理解していないようだ。多くの国にとって最も利己的な戦略とは、難しい仕事から手を引き、すべてアメリカにやらせることだ。トランプ外交とは、他国がアメリカを利用しており、われわれは貢献しない方がよい、という不満だ。

国連が依拠するすべての原則を拒む一握りの無法国家が地球の惨劇をもたらす、とトランプが言うとき、他国はアメリカの主張に共感しない。トランプ演説のすべての前提が、他国が国連に加わる理由をすべて拒否することだから。

彼の世界観は中国やロシアとそっくりだ。アメリカ外交を支える高い価値観はない。他国を励ます共通の利益もない。われわれの価値は世界を安全にしないし、改善もしない、というわけだ。権威主義国家よりも、われわれは良い隣人、責任ある国際的なアクターだ、という主張もない。国家主権を最重視する取引の外交とは、民主化も、人権も、虐殺の阻止も、アメリカの優先課題ではない、という意味だ。

Richard Haassの優れた冊子のタイトルがそうだが、アメリカは、いやいやながらの保安官、であるべきだろう。われわれの軍事力を他国に使用させない。アメリカも間違いを犯す、と世界の世論は慎重になる。アメリカ国民は、最終的な戦争になった場合、戦う意志を高める。しかし、トランプは国民を分断したまま、北朝鮮の完全な崩壊を示唆して脅す。

幸い、アメリカ国民も、世界の指導者たちも、彼の演説を聴かなかった。アメリカのソフト・パワーを大きく損なっただけだ。

Bloomberg 2017920

Trump Evangelizes for American Exceptionalism

By Eli Lake

NYT SEPT. 19, 2017

Warmongers and Peacemakers at the U.N.

By THE EDITORIAL BOARD

NYT SEPT. 20, 2017

Right and Left React to Trump’s Speech at the U.N.

By ANNA DUBENKO

FT September 22, 2017

Conflicts inside states demand a new global security regime

Michael von der Schulenburg


 ロボットと失業

FT September 19, 2017

Robot shock threatens the most vulnerable communities

Sarah O'Connor

AIによる職場の喪失はどれくらい深刻か? その数が論争になるが、重要なことは、どこで失われるか、である。中国のWTO加盟ショックは、アメリカの衣服産業に失業をもたらした。その数は全雇用者に対してわずかなものだが、地理的に集中していた。町によっては大きな影響を避けられなかった。

AIによる影響は、はるかに分散した形で現れる。


 国際秩序

PS Sep 19, 2017

The Risk of a New Economic Non-Order

MOHAMED A. EL-ERIAN

IMF・世銀総会は、循環的な景気回復を歓迎するより、ワシントン・コンセンサスの崩壊と戦後の交際システムが現実の変化に見合う改革を進める機会にしなければならない。

VOX 22 September 2017

Unfinished Business: The North Atlantic crisis and its aftermath

Tamim Bayoumi


 大国の外交政策

FP SEPTEMBER 19, 2017

The Worst 1st Year of Foreign Policy Ever

BY MELVYN P. LEFFLER

就任後の大統領が外交政策で躓くことは過去にもあった。ロナルド・レーガン大統領も戦略を持たないまま就任した。J.F.ケネディやビル・クリントンは戦略を損なった。最初の困難な時期にもかかわらず、彼らは足場を固め、外交の成果を上げていった。だからトランプも、まだ改善するかもしれない。ただし、彼の失敗は前例がないほど深刻だ。

1に、彼には戦略がなく、ナショナリスト的、ポピュリスト的な外交の見方を示しただけである。彼には同盟国や敵に関する主張がない、ということに注目すべきだ。多くの戦略的な矛盾を示している。ハリー・B・トルーマンもそうだった。しかし、George Marshall将軍を起用し、George F. Kennanを見出した。トルーマンとマーシャルは、外交と国内予算・目標とのつながりを重視した。

外交政策とは、戦略的に考えることだ。

FP SEPTEMBER 21, 2017

Great Powers Are Defined by Their Great Wars

BY STEPHEN M. WALT

国際政治の研究者にとって多年にわたる問題意識とは、大国の外交政策をどのように説明、そして可能ならば予測するか、である。諸国家から成るシステムに関して多くの本があるけれど、われわれは、なぜある国はある仕方で行動するとき、他の国は異なる仕方で行動するのか、という問いにも関心がある。

リアリストたちにとってそれは、相対的なパワーである。リアリストたちは、すべての大国が似たような行動を取る、と言う。それはアナーキーに制約されているからだ。大国の行動に生じる差は、相対的なパワーを反映している。台頭する国はその利害を拡大して定義し、バランス・オブ・パワーの変化をチャンスとみなす。予防的な戦争の動機にもなる。

他の者には、地理が重要である。John Mearsheimerは、オフショア・バランサー(英、米)とランド・パワー(独、露)とを区別した。地理は、境界線や影響圏としても重要である。また、政治体制のタイプを重視する者もいる。民主的国家は互いに戦争しない、という理論。ほかにも、政治体制と外交政策とを結びつける多くの理論がある。最後に、指導者の個人が挙げられる。ときには他の要因を圧倒して、指導者が政策を決めるだろう。

国家の行動を理解する、もう1つの方法がある。それは歴史的なアプローチである。特に大きな戦争の経験が重要だ。最近、2つの研究を読んで考えた。(Austin Long, The Soul of Armies ; Ariane Tabatabai and Annie Tracy Samuel “What the Iran-Iraq War Tells Us About the Future of the Iran Nuclear Deal,” International Security.

大規模な戦争は、ねじれた、巨額の出費をともなう、恐るべき出来事だ。社会のすべてのことに影響する。そのエピソードは将来に影を落とし、戦争を経験した人々を怯えさせ、勝利であれ、敗北であれ、その教訓は国民の集団的な記憶に深く刻まれる。過去の戦争の経験こそ国民的アイデンティティの中心をなし、安全保障こそ国家機関を強化する圧倒的な理由になる。「愛国者」であることが良き市民を意味し、その政治的な区分は将来まで続く。

ウィンストン・チャーチルは、第1次・第2次世界大戦を、20世紀の「30年戦争」と呼んだ。B.H. Liddell Hartの著述が示すように、第1次世界大戦の惨禍がイギリスを、大陸の戦争に至る状況において慎重にさせ、宥和策を取らせた。第2次世界大戦後に帝国を失ったことで、イギリスの指導者たちは、将来の影響力はアメリカとの「特別な関係」を育成することだと考えた。

2次世界大戦の敗者であるドイツと日本にとっても、その影響は重要だ。ドイツは分断され、日本は空襲で焼かれ、原子爆弾を浴びた。いずれの国も軍国主義・ファシズムをチェックしなかったことが破滅につながった、と学んだ。その後、両国は平和主義の国になった。

ロシアにとって、「大祖国戦争Great Patriotic War」は、2000万人以上の犠牲者を出した、まさに大惨禍であった。無数の都市、町、村が崩壊した。その経験がロシアの指導者たちの国境や「影響圏」に関する過敏な反応を強めたのは当然であった。他国の意図を最悪の可能性まで疑い、安全保障のためならなんでも犠牲にする。第2次世界大戦がソ連に与えた衝撃を理解しなければ、あなたはロシアの世界観を理解できず、モスクワの行動の多くを見失う。

中国の状況は複雑だ。第2次世界大戦は中国の現在の行動を決める中心的な出来事ではない、と思う。より重要な経験は、西側と、その後の日本により、中国が侮辱された2世紀に及ぶ歴史である。今、中国は主要国の中に「正当な」位置を回復した、という信念が、中国の指導層の正当性と、国民の動機の、強烈な源泉となっている。

アメリカはどうか? 第2次世界大戦は、今なおアメリカにとっての「良い戦争」である。英雄譚が多くあり、国民の考え方や1945年以降の世界における役割を導いてきた。宥和策の失敗、信認の重要さ、孤立主義、同盟国(都合よく、ナチスを倒すうえでソ連が果たした絶大な部分を無視している)、軍事的優位。アメリカは「欠かすことのできない」大国であり、すべての面で指導する。

冷戦も重要だが、その影響は限られるだろう。特に成功した軍事行動はないし、ベトナム戦争は大きな失敗であった。冷戦は、戦場ではなく、市場と交渉力で勝利したのだ。経済モデルの勝利であって、市民たちの暮らしはかなり良かった。

ベトナムの教訓は、自分たちが理解しない、貧しい、分断された社会において、国家建設を行うことの不毛さであったが、それは驚くほど急速に忘れ去られた。イラクやアフガニスタンも、アメリカ人の意識に残らないだろう。なぜなら、戦場に言ったアメリカ人は相対的に少なく、(徴兵ではなく)ボランティアであったし、そのコストは将来世代が負ったからだ。

戦争の記憶は消えてしまうだろう。どれほど多くの研究や小説、映画があっても。常に新しい出来事の方が影響する。

核の抑止、経済相互依存、政治家の優れた判断、幸運、外交努力によって、さらに70年間は大規模な戦争が回避できると思う。そのとき、他の集団的な出来事が、危機意識や、英雄、犠牲、国民のアイデンティティを決めるだろう。たとえば、ハリケーン・ハーベイと繰り返して襲う天災が。

戦争、不況、疫病、革命、その他、大規模な集団的経験の社会的記憶が、他の要素の影響を決めるような、強い、長期的な効果を及ぼす。作家フォークナーが書いたように、“The past is never dead. It’s not even past.”


 金融政策

FT September 21, 2017

Fed calls historic end to quantitative easing

Sam Fleming in Washington

FT September 21, 2017

The Bank of England should take the long view on interest rates

Andrew Sentance

FT September 22, 2017

There is no rush to raise rates in retreat from QE


 ウクライナ

PS Sep 20, 2017

The Last Hurdle for Ukraine’s Recovery

ANDERS ÅSLUND


 北京とハイテク大企業

FT September 22, 2017

Beijing’s battle to control its homegrown tech giants

Louise Lucas in Hong Kong

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The Economist September 9th 2016 

Germany’s election Angela’s unfinished business

China’s economy: Created destruction

Angela Merkel: The livin’ is easy

The Koreas: A bomb for a bomb

Technology and financial inclusion: Underserved and overlooked

Chinese industry: Great Leap Bachward

(コメント) 日本と比べて,ドイツの選挙は何が争点だったのか? メルケル,メルケル,そして,メルケル.その政治姿勢やドイツに及ぼした功罪を,記事は慎重に検討します.

中国政府の過剰生産力削減方針を,「大躍進」になぞらえ,後ろ向きの大躍進,と注目します.世界デフレの元凶とばかりに避難していた西側の生産者も,価格の回復によって利益を得ている,と.しかし,これで市場経済の調整力が高まった,とは言い難いようです.

朝鮮半島危機と沖縄米軍基地や核武装,ハイテク技術と金融市場に世界の貧困層を取り込む話,どちらも考える機会になります.

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IPEの想像力 9/25/17

日本郵政株の2回目の売り出しがある,という案内が証券会社から来ました.応募に対して抽選が行われる,ということです.

新規公開株に比べて,政府保有株を民間に売り出す際に2~4%を割り引く,ということで,すでに市場で決まっている価格が基準になり,大幅に値上がりするような期待はないのです.むしろ,郵便局が何か儲かるのだろうか? と考えてしまいます.通信業務は,年賀状も,暑中見舞いも,次第に減少していくように思います.若者はSNSで頻繁に連絡を取っているのです.長い文章を,たとえパソコンでも,印刷して郵送することなど,あるでしょうか?

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株式市場への投資,新規公開株,配当やキャピタルゲインへの期待,そういった言葉は,「富はどこから来るのか?」という疑問を生じます.

働くのは嫌だ.好きなことをして,裕福に暮らしたい.そんな理想を実現した若い投資家の話がテレビやインターネットで紹介されます.シンガポールに住んで投資する.ドバイに移住する.

ソーキン『リーマン・ショック・コンフィデンシャル』に載った話の中で,主要人物の生い立ちや経歴を読むとき,アメリカ金融ビジネスの実像が浮かびます.中産階級や下層労働者,移民,黒人であっても,ハーヴァード・ビジネス・スクール,軍隊,ゴールドマンサックス,デリバティブ取引,M&Aを介して,巨万の富を得ます.

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富は,社会的な分業によって生まれます.また,知識や技術を具体的に生産過程や製品に生かす資本設備によって,技能,熟練を蓄積し,広める,教育システムや労働現場の人々の関わり方において,増えるのではないでしょうか? 富とは,単なる,製品や消費ではなく,変貌する労働世界の一部として,私たちがこの社会に貢献し,この世界を楽しむ共通の基準を認め合う,そうした日常の過ごし方,楽しみ方にあると思います.

豊かな国と貧しい国とは何が違うのか? 投資家は,農夫や兵士と,どう違うのでしょうか?

ダイナミックに変化する条件を短時間で利益に結び付けるため,資金調達の方法として,投機や賭博のメカニズムが発達したのでしょう.株価や通貨,保険の権利証が売買されるシステムを築き,手数料を得る人々が莫大な報酬を実現しています.

世界金融危機の教訓とは,こうした利益が長期的にも,社会全体の利益をもたらしている,という責任ある仕組みに従わせることだったはずです.

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富者に国境はない,と言います.地理的に分割されたガバナンスと,グローバルに移動し,再配置される資本との関係は,戦争や移民・難民とともに,社会的な合意・規範を脅かします.

日本郵政の政府保有株式売却に関して,インターネット上に簡単な説明がありました.なるほど,それは巨大なガバナンスです.郵政民営化論争や小泉構造改革の時代を思い出します.その成果は,今,静かに実現しつつあります.株式会社化された郵便局,簡易保険,郵便貯金が,その株式を民間投資家に売り出すのです.

ソ連崩壊や東西ドイツ再統合後の市場自由化もそうでした.資本主義的な市場システムには,株式だけでなく,国民の声を反映する政治的なメカニズムが欠かせない,と思います.

日本郵政も,その保有資産,物流ネットワーク,地方における平等なサービス,高齢者からの信頼,など,富をもたらす可能性を秘めています.もし,グローバル資本のためではなく,クロネコヤマト+LawsonAmazonFacebookに劣らない革新と新興企業群のビッグバンを,多くの日本人や高齢者に納得できる形で実現するためなら,その株式を買うでしょう.

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