IPEの果樹園2017 

今週のReview

9/18-23

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独仏とユーロ圏改革 ・・・アメリカのラスプーチン ・・・北朝鮮対策 ・・・21世紀の難問 ・・・ハリケーンの教訓 ・・・世界の重心移動 ・・・ロボットとITの世界 ・・・徴兵制 ・・・911の再来 ・・・イランとの核合意 ・・・EMS危機からBrexitまで ・・・オーストラリアの同性婚論争

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 独仏とユーロ圏改革

Project Syndicate, Sep 8, 2017

Surmounting the German Surplus

FABRIZIO CORICELLI

ドイツの経常収支黒字については論争がある。しかし、トランプのように、これをドイツが重商主義政策で創り出したと非難するのは間違いだ。しかし、ヨーロッパの多くの国でも、ドイツの黒字をユーロ危機や不況の原因として憎んでいる。ドイツは財政黒字に執着し、他国に緊縮政策を強制する、というのだ。ドイツが第1次世界大戦後に強いられた賠償金問題と比べる論もある。

ドイツの黒字を、需要の不足やユーロ危機と結び付けて議論するのは間違いだ。ドイツの製品が高い競争力を持つ、というのは、不均衡を説明しない。国際貿易はゼロサムではない。ドイツの特殊な事情に結び付けるより、オランダ、スイス、スウェーデン、ノルウェイがドイツに劣らぬ大幅な黒字を出していることに注意すべきだ。東西再統一の財政支出が1回きりの拡大を示したことが影響した。ドイツが急速に高齢化する社会であり、貯蓄率をしばらく高める理由があるから、経常黒字を出し続けることは当然だと言える。

しかし、ドイツ政府には不均衡を是正する政策が採用できるし、たとえば民間投資を刺激する正しい政策や、教育、エネルギー、インフラなどに政府支出を増やすこと、そして不平等を抑えるために貧困層の所得を増やすことは、ドイツの経常黒字を減らすだろう。サービス部門の規制を緩和し、競争を刺激することは、ドイツ国民にも好ましい。経常黒字が増えても、ドイツの経済パフォーマンスは決して他国より良好ではない。

そもそも、赤字諸国にポピュリストの政治家が増えているように、ドイツの黒字がユーロ圏の将来を悲観させるものとなっている。ドイツが黒字を減らす政策を採用することは、政治的に観て、ドイツに必要なのだ。

Project Syndicate, Sep 11, 2017

The Euro’s Narrow Path

BARRY EICHENGREEN

マクロンとメルケルは、ユーロ圏の最悪の弱点を改善できるかもしれない。しかし、2人の考え方は大きく分裂したままだ。マクロンは、フランスの伝統に従い、通貨同盟の権限集中が少なすぎる、と考える。ユーロ圏は独自の財務大臣と議会を持つべきである。何千億ユーロの規模の予算を立て、投資計画を推進し、高い失業率の国には支出を増加する。

メルケルは、ユーロ圏の問題が行き過ぎた権限集中であり、各国の責任が小さすぎることだ、と考える。彼女は、巨額のユーロ圏予算が責任ある支出にならないことを心配する。ユーロ圏の財務大臣に反対しないが、それが巨大な権力を持つとは考えない。


 アメリカのラスプーチン

NYT SEPT. 8, 2017

The Cold Warrior Who Never Apologized

JONATHAN STEVENSON

反政府活動や非伝統的な戦闘など、ベトナム戦争は、第2次世界大戦や朝鮮戦争を経験してきたアメリカ軍の指導者たちにとって、何か異なるものであった。その結果、この戦争について楽観的な予想を示す非軍人の戦略家たちに対して、通常と違って反論しなかった。その中でもロストウWalt Whitman Rostowがもっとも楽観的だった。

ロストウはMITの研究者からケネディー政権の国務省に入った。その後、リンドン・ジョンソンの国家安全保障顧問になり、ベトナム戦争にアメリカが関与を深めた時期を担った。彼は他の戦略家と同様、戦争経験のないエコノミストであり、テクノクラートであった。

1960年の著書(“The Stages of Economic Growth: A Non-Communist Manifesto”)で、確かな経済成長が共産主義の政治運動を抑える最良の保証である、と説いた。成長は段階を追って生じ、その決定的な段階は、経済の基幹部門が急速に拡大する「離陸take off」であった。この本は、西側に偏った思考と批判されたが、ケネディーの関心を惹き、数か月後に、ロストウはベトナムでの戦略を計画していた。

ロストウは、ベトコンが南ベトナムの「離陸」を妨げており、それゆえアメリカはベトコンのゲリラを阻止するために必要な軍事的、外交的な手段を駆使するべきだ、と考えた。それは軍事行動の拡大を推進しつつも、政治と経済とを結びつける思考であった。

マクナマラRobert McNamara国防長官など、他の戦略家たちがベトナム戦争の拡大を批判した後も、ロストウは最後まで大統領を批判から守り、戦争を支持し続けた。歴史家David Milneは、ロストウを「アメリカのラスプーチン」と呼んだ。ロストウは2003年に死去したが、戦争について謝罪せず、反省することはなかった。戦争はする価値があり、アメリカが敗北したのは議会が予算を削ったからだ、と主張していた。


 北朝鮮対策

NYT SEPT. 13, 2017

North Korea’s Nuclear Weapons, Japan’s Bind

By YOICHI FUNABASHI

日本政府は北朝鮮の脅威に対して有効な選択肢がない。

ミサイル防衛システムを強化することを進めている。北朝鮮のミサイル基地に報復攻撃する能力を持つことも防衛大臣は指摘したが、それを実現するにはさまざまな問題がある。アメリカとの安全保障条約を改正しなければならない。アメリカでは韓国と日本が独自に核武装することも考える者がいる。しかし、韓国と違って、日本の世論は支持しない。

日本政府は、外交的な協力によって圧力を強める、としか答えられない。しかし、これまでは関係諸国間の対立が目立っている。南シナ海の対立、日韓の従軍慰安婦問題、中国とアメリカの貿易問題、など。

北朝鮮があまりにも脅威を強めたせいで、関係諸国には対立を克服する動きが見え始めた。安倍首相はトランプ大統領と緊密に話し合っている。プーチン大統領との関係も長い。中国や韓国との関係も、北朝鮮をめぐって変化がみられる。


 21世紀の難問

FP SEPTEMBER 12, 2017

THIS LAND IS THEIR LAND

BY SUKETU MEHTA

難民は,Zygmunt BaumanNYTのインタビューで述べたように,カオスと無法状態の亡霊である.秩序ある豊かな諸国が,余剰人口を植民地に放出し,その後,撤退して,不出来な「国民国家」が残された.経済的・政治的な無秩序はそうして生まれたのだ.難民は「無国家」に苦しみ続ける.

われわれは難民を拒む.なぜなら彼はわれわれの最悪の不安を集約しているから.21世紀のかなたに浮かぶ恐怖が,人の姿で国境に現れた.彼はわれわれに教える.同じことはわれわれにも起こるだろう,と.すべてが,根本的に,逆転しえない形で,突然変化する.

西側の豊かな諸国は,移民によって破壊されるのではなく,移民への恐怖心によって滅ぶのだ.

もしあなたが自分は世界市民だと思うなら,どこの市民でもない.イギリスのメイ首相は201610月にそう語った.

なぜメキシコ人,グアテマラ人,ホンジュラス人,サルバドル人は北に行くことを切望し,アメリカへ来て,洗車やクリーニングのような,都市の下層労働に就くのか? それはアメリカ人が彼ら二十を売り,麻薬を買うからだ.彼らの国の殺人の多さは,内戦状態を意味している.

1968年,パウエルEnoch Powellは,私の家族のような人たちを念頭に,演説した.イギリスが彼らを受け入れることはあまりにも愚かである,として,イギリスの将来を予告したのだ.「それは火葬の準備を急ぐようなものだ.・・・ローマ帝国がそうなったように,私には見えるのだ.ティベル河に大量の血が流れている.」

半世紀を経て,テムズ川には血が流れていない.現実は,その逆だ.東アフリカのアジア系難民コミュニティーは,キリスト教徒,ヒンドゥー教徒,イスラム教徒,パーシ教徒,シーク教徒のコミュニティーがあり,イギリスで最も裕福なコミュニティーだ.教育水準もイギリス生まれの水準を超えている.

カナダのように,移民を受け入れる諸国は,日本のように,受け入れない諸国よりも成長している.移民たちは職場を作り,料理や,ダンス,著作を豊かにする.移民たちの船があなたの国の岸に就くのは,あなたを助けるためなのだ.


 ハリケーンの教訓

Project Syndicate, Sep 8, 2017

Learning from Harvey

JOSEPH E. STIGLITZ

ハリケーン・ハーベイが去って、生活が再開し、被害が明らかになっている。不動産の被害額は推定1500-1800億ドルだ。ハリケーンは、アメリカの経済システムと政治に関する深刻な疑問を生じた。

ハリケーンは気候変動と関連しているが、多くの住民が気候変動を否定し、その経済が地球の温暖化を進める化石燃料に大きく依存している土地を襲ったことは皮肉である。科学者たちは、長い間、温暖化ガスが増加することで気温が上昇するだけでなく、ハリケーン・ハーベイのような異常気象が増えると予測していた。「温暖化は大気中の水分を増やし、より激しい降雨をもたらす。」

ヒューストンとテキサスは、温暖化ガスの増加について自分たちにできることはあまりないが、強力な気候対策をできただろう。かつて災害が多く発生していた地方政府や州政府は予防策をもっと採れただろう。

ハリケーンに遭えば、人々は修復費用の支援を政府に求める。それは2008年の経済危機の後にも求められた。ここは政府や集団的行為に対する非難が頻繁に行われる地域であるが、それも皮肉なことである。銀行業界の巨人たちが政府の縮小、規制の撤廃を唱えて、ねーリベラルの福音を説き、その先には非常に危険な、反社会的行為がもたらされ、破たんすれば政府による救済が必要になる。それは皮肉どころではない。

金融危機と同様、気候変動の衝撃を緩和するには予防的な集団行動が必要である。災害に耐える建物の基準を守らせ、危険な地域には建てない。嵐の衝撃を吸収する湿原地帯を守る。危険な化学物質の流出が起きないように、また、退避命令など、緊急時の対応を計画しておくことだ。

テキサスなど、それに反対する政治文化が支配的でも、効果的な政府投資や強力な規制が必要だ。もし規制が不十分で、個人や企業の対応に頼るなら、彼らは災害の費用が他者によって(税金で)支払われると知っているから、対策を取らない。公的な計画や規制がなければ、洪水は悪化する。その場合、ヒューストンが経験したように、避難を命じなければ多くの者が死に、避難を命じても、混乱で交通は渋滞し、多くの人が死ぬ。

アメリカと世界は、トランプ大統領と共和党の極端な反政府イデオロギーによって高い代償を支払わされている。

アメリカには、ハリケーンや気候変動のような複雑な現象とその結果を分析する技能と、対処する資源がある。アメリカにないのは、正しいことを主張する人々の政府に関する一貫した見解であり、双方で、極端な政策により特殊な利益を得る人々が論争している。危機の前には規制や政府の行動、計画に反対し、危機の後には、簡単に予防できたことでも、自分たちが被った損失の補償を要求し、それを得るのだ。

NYT SEPT. 12, 2017

Harvey, Irma, Jose … and Noah

David Brooks

ハリケーン、嵐、洪水から、われわれは何を学ぶのか?

現代も、自然の、そして人工の、多くの災厄が起きる。人々は個々に問題を解決しようとする。ヒューストンの人々は隣人を心配した。しかし、問題は集団行動がとれないことだ。新しい制度を築き、旧い制度を再活性化する。自分は関係ない、という気分が広がり、社会的な不信感がかつてなく強い。

洪水は世界を再生する招待だ。強い個性が人々を集団的な制度に結び付けるときだけ、それは成功する。


 徴兵制

FT SEPTEMBER 10, 2017

The benefits of conscription are economic as well as military

Elizabeth Braw

来月、スウェーデンは、7年前の停止以来、初めての18歳徴兵クラスを始める。4000人の男女がスウェーデン軍によって選ばれる。

徴兵制は、侵略軍に兵士として対抗する以上の利益をもたらす。防衛大臣Peter Hultqvistは、徴兵制はスウェーデンの危機管理能力を高め、防衛に関する一層の取り組みと参加を促すだろう、と述べた。

スウェーデンへの軍事的な脅威は高まっており、月曜日には、23年ぶりの大規模な演習を行う予定だ。フィンランドの起業家Peter Vesterbackaは、兵役の経験を、他では決して一緒に暮らすことがない人々と働き、多くのことを学べた、と肯定する、フィンランドの若者の80%は軍務を経験している。それは冷戦のもっとも深刻な時期に並ぶ規模だ。

イスラエル防衛軍を経験した2人の研究者は、新しいスキルを得て、新しい社会ネットワーク、新しい社会規範行動基準を学んだ、と言う。彼らはそれを「ミリタリー資本」と呼ぶ。その経験とネットワークがイスラエルのハイテク部門で多くの起業を刺激している、と言う。

また、もしギリシャが徴兵制を実施していたら、若者の47%が失業しているが、軍務でスキルを得た多くの若者たちを企業が雇用できるだろう。ヨーロッパの安全保障は大きく変化している。徴兵制を実施するには大きなコストがかかるだろう。そのためにも、徴兵制が社会に通用するスキルを得て、軍務の経歴が積極的に評価されなければならない。


 イエメン内戦

FT September 11, 2017

Yemen’s misery calls out for global intervention

イエメンの内戦は、20153月にサウジアラビア空軍がフーシ派の反政府勢力を攻撃してから、新しい破壊の循環に向かった。それはアラブ諸民族で最も古いこの国を急速に破滅に向かわせる。イラクとシリアにおける表向きは大きな地政学的殺戮の影に隠れて、この古代国家は世界から無視されており、国民は破局を経験している。残された時間はない。

アメリカ、イギリス、フランスは、サウジアラビアとUAEの主要な武器供給国であり、安保理常任理事国である。停戦を求め、人道的な支援を行うべきだ。ロシアは、同盟を組むイランとともに、停戦を仲介するべきだ。国際的な平和維持軍が必要になるだろう。イエメンのためのグローバルな開発支援が必要だ。


 911の再来

NYT SEPT. 11, 2017

The Day Nothing Changed

Paul Krugman

それは911の再来である。ほとんどだれも記念日であることを指摘しない。私は、911の後、起こるはずであったこと、それが起こらなかったことについて考えた。

悲劇の後、数週間、数か月は、ニュースが1つの物語を伝えた。基本的にそれは、真珠湾攻撃のとき、アメリカは真剣に、強い決意で、団結した、ということだ。それは、快い、安心感を伝えた。同時にそれは、全くのでたらめ、最初の数分で間違いとわかった。

真実は、今や我々が知っているように、ブッシュ政権は、まだビルが燃えているときから、彼らが常に望んでいた無関係な戦争を始める機会が来たことを喜んでいた。しかし、それがすべてではなかった。議会の共和党員たちは、最初から、この悲劇に党派的な利益の機会を見ていた。2日の内に、議会スタッフが私に、惨禍を利用して、キャピタルゲイン税の削減を共和党が企てている、と語った。

しかし、人々はこうした現実を聞きたくない。私が議会で起きていることをコラムに書いたとき、読者から怒りのメールが殺到した。読者たちは、共和党が事件を利用したことではなく、私がそれを伝えたことに憤慨した。「どうやって子供にそれを言えるのか?

なぜ911は何も変えなかったのか? ある意味、真珠湾攻撃と違って、テロは生存を脅かす危機ではなかったし、今もそうではない。だれも、イスラム派のテロリストが西側を乗っ取るとは思わない。つまり、政治的な黒幕は悪事を続けながら、そのためにテロを利用できた。

それ以上に、2001年までに共和党の過激化が進み、政治の分極化がすでに深まっていた。もし1941年の共和党が2001年のような状態であったら、真珠湾攻撃にどのような反応をしたか、と考えてみる必要がある。共和党員たちは、それがF.D.ルーズベルトの失策だ、と宣言し、第2次世界大戦の戦費を支払う政府債の発行に反対し、ましてや価格統制や割り当てなどしなかったはずだ、と私は思う。

アメリカ史において、911の物語は、真珠湾攻撃の対極にある。最初の汚名は国を団結させ、われわれの基本的な強さを示した物語であったが、第2は、われわれをさらに分裂させ、政治の腐敗を強調した物語だ。


 イランとの核合意

FP SEPTEMBER 11, 2017

The Case Against the Iranian Nuclear Deal Is One Big Lie

BY STEPHEN M. WALT

1948年にもどったと想像してみよう。ヨシフ・スターリンが、ソ連の核兵器開発を15年間停止すると提案する。その取引には、国連による査察を認めること、ソ連のすべての核施設を監視することが含まれる。さらに彼は、国連職員が十分な理由を示せば、ソ連の他の施設で核開発が行われていないか、査察することを認める、とさえ言う。取引に応じやすくするため、スターリンはソ連がすでに備蓄している濃縮ウランの多くを放棄する、とまで言う。核兵器を作るのには足りない量だけ残せばよい、と。その代わりに彼が求めるものは何か? 戦争で破壊されたソ連経済を建て直すため、経済的な譲歩を求めるだけだ。

もちろん、偏執的なソ連の独裁者がそのような提案をするとは考えられない。しかし、もし彼がそうしたら、トルーマンたちHarry Truman, George C. Marshall, and Dean Achesonは受け入れると思うか? もちろんだ。そして1953年に合意が成立したら、Dwight D. Eisenhower and John Foster Dullesはなんとしてもそれを維持しただろう。その理由は明らかだ。合意はソ連が核武装するのを(少なくとも)1960年代初めまで遅らせたし、モスクワが(1949年に行った)核実験でわれわれを驚かすことはなくなるからだ。最低でも、その合意はソ連との核軍拡競争を遅らせただろう。

イラク、シリア、イエメン、アメリカは中東で多くの戦争を続けながら、さらに新しい戦争を起こすのか? JCPOAの決定は、トランプ政権ではなく、議会の権限である。


 EMS危機からBrexitまで

FT SEPTEMBER 12, 2017

The long journey from Black Wednesday to Brexit

Helmut SchlesingerBundesbank president 1991-93

1992916日、イギリスはヨーロッパ通貨システムEMSの為替レートメカニズムから離脱したが、それは重要な結果をもたらした。その日は「ブラック・ウェンズデイ」と呼ばれるようになった。ある意味では、昨年のBrexit投票で頂点に達した、イギリスとEUの緩やかな離反はこのとき始まったのだ。

為替レートをめぐる政治的衝突は新しいものではない。イギリスは切下げを拒み、ERMを離脱して、それによる国家の自律性喪失を逆転させた。当時はECとして、加盟諸国の行動の自由は、協力によって制約されていた。1999年の経済通貨同盟は、こうした制限をさらに深刻なものにした。

単一通貨の成立が経済的緊張を終わらせることはなかった。世界金融危機の後、拡散傾向が強まった。為替レートの調整は存在せず、財政・金融政策による内的調整が促された。それは関係する諸国内で、また、加盟諸国間で、激しい緊張を生んだ。


 民主主義の危機

NYT SEPT. 13, 2017

How Strongmen Co-opted Democracy

By KISHORE MAHBUBANI

民主主義が世界に広がれば,リベラルで,西側に親近感を持つ指導者たちが,選挙によって登場する,と期待された.しかし,結果は多くの,明らかに非西側のアイデンティティを持つ指導者たちが選出されたのだ.そのリストは,日本の安倍晋三, Recep Tayyip Erdogan of Turkey, Narendra Modi of India and, looking back further, Vladimir V. Putin of Russiaを含む.中国の習近平をここに加えるのもよいだろう.

トルコとインドには西側に対する激しい怨嗟がある.また,日本の安倍とインドのモディは,中国の州もそうだが,自国の国民的アイデンティティに強くこだわっている.3国は,かつて,西側の模倣を推進した.今は,全く違う.

NYT SEPT. 14, 2017

South Koreans Worked a Democratic Miracle. Can They Do It Again?

By HA-JOON CHANG

韓国の民衆は植民地支配,独裁,軍政と戦った.民主主義を機能させるのは,国民の強い関与である.それにソーシャル・メディアのような通信技術の発達があったことで,平和的に政権を倒すような,民主主義の奇跡は起きた.

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The Economist September 2nd 2016 

How to cope with floods

North Korea’s nuclear provocations: Stand by Japan

Japan and North Korea: Shooting over Japan’s head

Turks in Europe: Home and away

Indentured labour: 100 years since servitude

India’s economy: Drifting apart

Mikhail Gorbachev: The story of a good Soviet man

(コメント) 気候変動に対処しないだけでなく,洪水の危険を予測されながら政府が適切な対応をしていなかったことを批判します.貧しい国には天災と連動する債券(保険になる)を発行するように求めます.

興味深いのは,ドイツにおけるトルコ系住民と,ドイツとエスドアン政権との関係です.ドイツ社会の2極化や経済的分断を懸念するより,エルドアンの扱いやトルコとの対立より関係正常化を模索します.ある意味で,イギリスが帝国の植民地にインド系移民労働者を送ったことも,現代のインド・アイデンティティ高揚とともに,関係しています.

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IPEの想像力 9/18/17

安倍晋三首相が衆議院を解散したとき,さあ,これで日本の政府が新しい挑戦にふさわしい姿に変わるぞ,と期待できるためには,何が必要でしょうか?

民進党が党首・指導部の交代で政権獲得を目指そうとしたとき,スキャンダル報道で幹事長候補の離党騒ぎになり,森友・加計問題(そして豊田議員の暴言ショック)で支持率を落としていた安倍政権には「絶好の機会」と見えたようです.北朝鮮の核の脅威は,安倍首相にとって,明らかに「追い風」でした.

しかし,これでいいのか,と多くの国民は戸惑うでしょう.選挙で生きるしかない政治家の計算としは,確かに,そうかもしれませんが,国民にとっての重要な選択の機会であるはずの選挙が,こうした理由で行われることは間違っています.何を選べと言うのでしょうか?

私は,こんな風に考えました.

1に,野党の弱さを嘆くのは無駄でしょう.むしろ,もっと自分たちのビジョンを示し,国民が納得する理念を掲げて,一人一人の政治家が何度でも党派を結成することです.しかし,政党を基本とした選挙になっている現在のシステムでは,自民党が政権を維持する上で有利な状況は変わりません.対抗できる野党がないのです.

逆に,自民党には政権にかかわるため多様な政治家が寄り集まっています.だから自民党と野党の垣根を外して,勝手に野党を作ってしまう,というのはどうでしょうか? 主要な政策への支持・不支持,これまでの発言や行動を整理し,その人物の基本的な考え方,代表する利益を軸に,政治集団を描きます.さまざまなバーチャル「野党」の誕生です.選挙は,バーチャル野党を通じて「政治配置」を変えるでしょう.

2に,私たちが知りたい争点を示して,回答を求めることです.選挙は,しばしば,間違った争点で勝敗を決め,多数を得た政党にさまざまな問題で方針を具体化する権限を与えてしまいます.本当は,弁舌の巧みな,深い思想を示す,戦略にもたけた政治家が一国の指導者になってほしいですが,1年をかけたアメリカ大統領選挙がトランプを大統領に決めたことは,日本の選挙でも,大きな不安が生じます.

まず,有権者が知りたい問題,政治家として考えておくべき問題を,私たちから提示して,政治家の姿勢を明確にします.私は「日本病」として,貧困や高齢化を含む,ABCDフィッピーへの対応策を求めました.また,日本の政治が閉塞し,現代のグローバルな論争から切り離されていることを心配します.画期的な,未来の争点を示して,自民党や民進党,という枠が消えた政治の世界を展望してはどうでしょうか? すなわち,同性婚,徴兵制,移民・難民,天皇制,香港や台湾の民主主義,グローバリゼーションなど,政治家としての見識を問いたいです.

3に,民主主義と選挙の危機をどう見るかです.日本の政治にも,安倍晋三より強硬なナショナリスト,強権指導者,軍備拡大論者,戦争や内乱を叫ぶ煽動家が現れるでしょう.フェイクニュースや暴言を組織的に流布し,国民の政治意識を歪曲する,激しい人種差別や暴力事件を引き起こす集団や,警察や自衛隊に潜入する集団が現れるでしょう.民主的な選挙が実施できないような暴力行為の蔓延,それを奨励する政治家が出るかもしれません.

どうすれば民主的な制度を活性化し,集団的な意思決定を通じた政治の革新,この国のかたちと戦略を,内外で平和的に実現することができるのか? 政治家たちにネット上で回答してもらいます.これは,憲法改正と外交・安全保障との関係を問う選挙です.

だれが,いつ,どのような思惑で解散したとしても,選挙は有権者の意思を問います.権力者は選挙を恐れよ,と思います.

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