IPEの果樹園2017 

今週のReview

9/4-9

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BrexitEU解体 ・・・ウクライナへの武器援助 ・・・金正恩のミサイル発射 ・・・アフガニスタンの新戦略 ・・・日本の外交・防衛政策 ・・・ブラジルの変遷 ・・・中国の転換と国際秩序 ・・・世界金融危機の回顧 ・・・インドと中国の外交 ・・・ハリケーン・ハーヴェイ

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 BrexitEU解体

FT August 27, 2017

Brexit’s threat to long-term European unity

Wolfgang Munchau

イギリスが離脱を決めた投票の後、それに続く国は現れていない。しかしその影響は、すぐにではなく、時間とともに効いてくるだろう。

Brexitは、イギリスとEUとの長期に及ぶ政治的離反の結果であった。同じことは他のヨーロッパ諸国にも起きている。ギリシャの不満は、ユーロ危機の処理過程で不況を強いられたことで高まっている。イタリアでも、中道左派のMatteo Renzi元首相はユーロ圏の財政ルールを変えることを望み、右派のSilvio Berlusconi元首相はパラレル・カレンシーを主張する。ほかにも、ユーロ圏に関する国民投票を求める者や、EU離脱を主張する者がいる。

極右の政権が成立しているポーランドとハンガリーは、EUの主流から距離を措いている。EUは、政府が司法に対する支配を拡大するポーランドの改革に関して、制裁を考えている。ポーランドもハンガリーも、EUによる難民の受け入れ分担を拒んでいる。ハンガリーのViktor Orban首相の話を聴いていると、この国がいつまでEUにとどまるのか、心配になるだろう。ハンガリーがEU財政による利益を受けている間は、そのEU嫌いも抑えることができた。しかし、イギリスが離脱してEU財政が縮小すれば、EU加盟諸国、特に非ユーロ圏諸国の反対論が強まるだろう。

イギリス、イタリア、ギリシャ、ポーランド、ハンガリーは、それぞれ別の理由でEUに失望している。EUを、異なるスピードで統合を進める1つのクラブである、という考えに、彼らは従わない。時とともに、多くの領域で関心が一致しなくなっている。ユーロ圏内では、労働者の自由移動が経済的な不均衡を部分的に相殺するために必要かもしれない。しかし、イギリスにとっては移入民である。ユーロ圏の支配と、それを嫌う、弱い統合にとどまる周辺部とは、対立が激しくなるだろう。

Brexit後に他国の離脱が続かない理由は、ある程度、その離脱過程が明確でないことである。もっともありそうなシナリオとして、それが包括的な通商協定に至れば、コストは最小化する。もし離脱が経済危機を意味せず、Brexitがリスボン条約の50条によって離脱できることを示せば、不安は減少する。逆に、Brexitが経済混乱であるとなれば、その評価は全く異なるだろう。

EUは、マクロンの唱える制度改革によって、自信を強めた独仏がESMの強化、ユーロ圏の金融救済基金、各国財政への厳しい監視、というドイツの意見を概ね実現するだろう。それは独仏を政治的に接近させるが、イタリアを離反させる。

EUが分裂するしかない、とは思わないが、Brexitによって強化されたとも思わない。


 ウクライナへの武器援助

NYT AUG. 25, 2017

For the U.S., Arming Ukraine Could Be a Deadly Mistake

By MICHAEL KOFMAN

マティス国防長官のウクライナ訪問は、この旧ソ連の共和国に対する「防衛的武器」供与の約束をもたらした。しかし、それはアメリカがロシアと戦うウクライナ側に立つことを意味するが、それでよいのか? 政治的に支持されるかもしれないが、お粗末な政策だ。

ウクライナとロシアの軍事力の差は非常に大きく、アメリカのこの程度の武器供与で変わることはない。なぜ勝つ見込みのない戦争に加担するのか? これでは、シリアの反政府派を支援したオバマ政権の失敗から、何も学んでいないことになる。

この提案は時期的にも間違っている。ウクライナとロシアの大規模な戦闘は沈静化しており、領土を失ってすでに2年経った。死者は小火器による交戦で生じており、対戦車ミサイルなど、ほとんど役に立たない。ウクライナに必要な支援の対象は経済改革であって、地政学的な駆け引きではない。

この武器支援は代理戦争を意味しており、アメリカがロシアとの間で新冷戦を始める気なら、それに見合った勝利のための十分な考察と説明がなされねばならない。ウクライナの重武装を支援するのは、モスクワとの戦略的な交渉の一部としてだけ意味がある。たとえばアフガニスタンで、ロシアがアメリカの重要な軍事拠点に侵攻するのを抑えるような意味だ。

ミサイルの供与はウクライナを助ける方法としても間違っている。


 金正恩のミサイル発射

The Guardian, Tuesday 29 August 2017

North Korea’s missiles can be stopped – but not by ‘fire and fury’

John Nilsson-Wright

日本には軍事的な対抗策がないし、経済制裁も効果がない。安倍政権は外交に戻り、国際社会における金政権と北朝鮮の正当性、主権を奪うことに集中するべきだろう。

FT August 31, 2017

Asia faces a common threat from North Korea

「対話は解決策ではない」とドナルド・トランプ大統領はTweetした。アメリカは北朝鮮の体制を解体する先制攻撃を考えているのではないか、という不安が再燃した。

しかし、トランプと金正恩とのやり取りがエスカレートすることで軍事衝突になるのではなく、それが回避され、鎮静化するとしたら、地域の主要諸国が重要になるだろう。何より、韓国、日本、中国である。彼らは共通の危機に対して、互いの対立を超えて、協力しなければならない。

しかし、各国は他の優先目標によって対立している。韓国では、国内政治危機を経て成立した新政権が、日本の戦時における行動に謝罪を求める激しい国内論争に制約されている。日本政府は、最近まで、金正恩より中国の台頭に大きな脅威を感じてきた。また中国は、韓国が北朝鮮危機を理由に(米軍の)THAAD配備を進めたことに反発している。日本のミサイル防衛力向上にも同様の不満を持つ。

こうした懸念は、北朝鮮との戦争が始まるのを阻止できなければ、まったく近視眼的な論点でしかない。

3か国は朝鮮半島の非核化という目的で一致している。それを協力して達成するために、個々の懸念は妥協するべきだ。たとえば、韓国のTHAAD配備は北朝鮮危機が鎮静化すれば撤去する、と約束する。他方、アジア諸国にとって、トランプ大統領の衝動的な反応は解決できない。それゆえ、3か国の協力が一層重要なのだ。

NYT AUG 31, 2017

America’s Risky Nuclear Buildup

By STUART ROLLO

火曜日の朝,北海道の住民は警報によって目が覚めた.北朝鮮がミサイルを上空に飛ばしたからだ.ピョンヤンが核兵器やミサイルの技術を示して脅すのは問題だが,アメリカの新しい核兵器やミサイル技術も,グローバルな不安定化を刺激している.なぜならそれは核保有諸国の相互確証破壊を脅かし,新しい軍拡競争を促すものだから.

特に潜水艦から発射される核ミサイルを正確に誘導する技術は,地上発射の大陸間弾道ミサイルをレーダーに映らなくする技術とともに,他国の大きな脅威である.


 アフガニスタンの新戦略

NYT AUG. 25, 2017

Bush and Obama Fought a Failed ‘War on Terror.’ It’s Trump’s Turn.

By MICAH ZENKO

月曜日、トランプ大統領はアフガニスタンの「新」戦略を発表した。しかし、過去の大統領たちと違う点は、アメリカ人の犠牲者を理由にしたことだけで、ほかに何もない。

共和党も民主党も、政策を説明する上で「テロとの戦い」をいい加減に使ってきた。そして、自分たちの失敗から学び、方針転換することを拒んだのだ。アメリカは誰と戦っているのか、その点の明確な説明もない。単純化された概念が、「テロリスト」、「暴力的な原理主義者」、「敵」が、さまざまな武装集団を一緒にしてしまった。アメリカ人の安全保障にとって何が脅威なのか、何の証拠もない。国務省のデータでも、2002年の28から、2009年の44へ、テロリスト集団の数は増えている。

トランプが示した、テロリストたちが「安全な避難所」から来る、という確信は間違っている。また、過去の大統領たちと同様に、達成できない目標を掲げる。

トランプは自慢たっぷりに主張した。「われわれはテロリストを殺し続けている」と。もちろん彼は試みるだろう。しかし、アメリカが空爆している諸国では、就任式の後、爆弾の投下数が増えている。彼はまた、空爆で死亡した市民の数も、受け入れがたい水準に高めた。国連は、アメリカの空爆で犠牲となる者の数が70%も増えた。

その状況は市民だけでなく、アメリカにとっても有害である。なぜならアメリカはますます嫌われ、武装集団がアメリカと戦うための人の補給がしやすくなっている。

FP AUGUST 29, 2017

There Is No War in Afghanistan

BY EMILE SIMPSON

アフガニスタンの戦争は、アメリカ人が思っているような戦争ではない。軍を増派しても勝利できない。アフガニスタンとは、戦争ではなく、武装した法執行・治安活動である。

この違いを無視し続けることが問題だ。治安活動は継続しなければならないし、勝利によって終わるわけではない。国家機構と秩序の相対的な安定化が進むのだ。


 日本の外交・防衛政策

FP AUGUST 29, 2017

Japan’s Empty Menu of Options to Stop North Korea

BY MICHAEL PENN

北朝鮮のミサイル発射に対して,タカ派の安倍首相にも,言葉で非難する以外,対抗する選択肢は何もない.新しい発言として,タカ派の政権に入ったハト派の河野外相が,北朝鮮は,もし韓国に攻撃すれば,アメリカが反撃することを考えるから,慎重であるはずだ,と語った.つまり河野は,北の挑発に対して,日本として,より一層の深刻なシナリオを示したのだ.

北朝鮮の脅威は,日本をますますアメリカの安全保障に頼らせるだろう.そのアメリカは,最悪の場合,北朝鮮を軍事的に消滅させることを考える.自民党の二階幹事長は,安倍首相がトランプ大統領と緊密に意見交換して,日米同盟を強化して人々の命を守る,と述べた.

安倍は認めないが,唯一の選択肢は金正恩と交渉することである,とJeff Kingstonは指摘する.それを拒む通常の理由は,金正恩が約束を守らない,という経験だ.しかし,さらにもう1つの理由は,北朝鮮のミサイルは安倍のタカ派としての目標,日本を正常な国家にする,その推進にとって利益があることだろう.日本の安全保障体制を正常化し,平和主義の憲法から離脱する.

日本国民は,キムが東京の数百万人を抹殺する現実の可能性,攻撃的な行動の脅しにより,考えたくない問題に目を向けざるを得ない.もはや日本の安全保障や防衛政策に関する安倍の主張に,強く反対する声は弱くなっている.

市民への警報システムや強硬な発言は,日本国民を守り,キムのつぎの挑発を抑える何の役にも立たないだろう.しかし,もしそれが安倍の防衛予算増額を支持し,さらに憲法改正を推進するのであれば,国民の不安とは別に,安倍はぐっすり眠るだろう.

FT August 30, 2017

Abe’s troubles with Trump could lead to his downfall

Yoichi Funabashi

安倍首相はトランプ大統領との関係を外交に生かしてきた.しかし,それは致命的な失敗に変わるかもしれない.

北朝鮮は,トランプが報復するのはアメリカ本土を直接攻撃したときだけである,と示唆して分断を図っている.他方,トランプ政権は中国に制裁強化を求め,中国との貿易不均衡を結び付けて交渉している.

日本は,アメリカに代わって,ルールに依拠した自由貿易,リベラルな国際秩序を推進する指導力を発揮したいと願っている.しかし,アメリカの姿勢は,1TPP合意を破棄した末に,中国との貿易戦争をもたらす.2.日本に対しても2国間交渉で地域協定を無視させる.3.日本がアジアに占める外交的な地位を失わせる.

日米関係は,過去においても,長期政権を担った日本の指導者たちを失脚させた.


 ブラジルの変遷

FT August 28, 2017

Brazil and the crisis of the liberal world order

Gideon Rachman

カルドーソFernando Henrique Cardosoは,悪い時代,良い時代,そして現在の危機を観てきた.1995-2002年の大統領として,彼はブラジルの民主主義と経済改革の基礎を与えた.ブラジルの成長は世界の注目を集め,ワールドカップとオリンピックを開催した.

しかし,86歳となったカルドーソは,この国が「道徳的,経済的な危機」にあると認める.経済は2015-16年に約8%も縮小した.ルセフ大統領は弾劾され,失職した.現在のMichel Temer大統領を含めて40%の国会議員が汚職に関する捜査対象である.

ブラジル危機にはグローバルな意味がある.良い時代には,ブラジルがリベラルな政治と経済のシンボルであった.悪い時代には,ブラジルの失墜がリベラルな秩序のグローバルな兆候になった.

ルーラLuiz Inácio da Silvaの失脚は,多くの貧困層にとって希望を失わせた.経済危機,不平等,汚職の蔓延,ブラジルの政治階層は広く嫌われている.有権者はますますシニカルになり,分極化している.それはBrexitやトランプの大統領選挙が示した景色と同じだ.

2018年の大統領選挙に向けて,極右のナショナリストJair Bolsonaroがルーラに続く2位の高い支持を受けた.フィリピンのドゥテルテと同じ,犯罪撲滅への強硬策で人気を得ている.左派の多くは,ルセフやルーラの失脚を保守派の陰謀と考えている.他方,右派は,労働者党が汚職や補助金を広め,経済を衰退させた,と考える.

ブラジル危機は,国内の原因やロジックを持つが,グローバルなパターンを示す危機でもある.カルドーソの任期は,ベルリンの壁崩壊と,10年に及ぶブラジル軍政の後,6年間であった.他の発展途上国や中所得国も,中国,インド,メキシコ,ポーランドが,同様にリベラルな経済改革を推進した.しかし,2008年の金融危機で,「ネオリベラリズム」への反動が生じた.

ブラジルのリベラル派は,まだ敗北を認めるつもりはない.改革を進めて,より公正で効率的なブラジルを実現することを望んでいる.カルドーソは,政治経済改革の成果は失われない,と述べた.


 中国の転換と国際秩序

Project Syndicate AUG 29, 2017

The Global Economy’s New Rule-Maker

MICHAEL SPENCE

中国の成長モデルは急速に転換しつつある.ネットで商品を購入する新しい中産階級が育っている.中国の国内市場は国際ルールを決定する交渉力を大幅に高めてきた.第2次世界大戦後の欧米に代わって,中国が国際ルールを決めるだろう,

そのカギは,投資と,国内市場へのアクセスだ.アメリカが包括的な成長モデルを見失って,トランプ政権の混乱を招いたのと対照的に,中国は開放的な国際秩序を指導できる.それは欧米が示したように,特に発展途上諸国から支持を得て,国際的な政治的地位を高めることを意味する.


 世界金融危機の回顧

VOX 28 August 2017

The financial crisis, ten years on

Stephen Cecchetti, Kim Schoenholtz

2007-2009年の金融危機が正確にいつ始まったのか、なお合意がないことは注目すべきだ。黒澤明の『羅生門』のように、危機の説明は異なった性格を示している。アメリカで住宅バブルが始まった2006年半ばか? シャドーバンキングで流動性危機が起きた2007年後半か? リーマンブラザーズが破たんし、MMFなど、リザーブファンドの「背骨が打ち砕かれた」20089月か?

われわれの見解では、200789日であった。その日、BNP Paribas3つのミューニュアル・ファンドを、資産評価ができないという理由で、償還停止にした。

まず、金融危機とは何か? それは、納得のいくほど健全な均衡状態から、すなわち、高度に流動的な金融市場、低いリスクプレミアムで、容易に信用が得られる、資産価格の浮動性が低い状態から、まさにそれらと反対の性格を持つ、非常に不健全な均衡状態へと、突然、予想外にシフトすることを意味する。良い状態が悪化するのは容易だが、それを逆転することは非常に難しい。資産価格は連動し、企業、市場、異なる司法を超えて感染が広がる。金融システムと実物経済とのマイナスのフィードバックが作用する。

USドル建3か月物LIBORの金利スプレッドは、200789日に急上昇し、200957日に連銀が最初のストレステストの結果を公表するまで、この高い水準が元に戻らなかった。各国の中央銀行が銀行(そしてシャドーバンク)の短期の資金調達コストを減らすために活発な操作を行ったが、スプレッドが解消しなかったのは、取引相手の支払い不能リスクを恐れた、ということだ。

金融資産を担保としたコマーシャルペーパーasset-backed commercial paper (ABCP)の発行残高を観れば、MBSCDOsを含むモーゲージ関連証券のようなビジネスモデルが、89日に崩壊したことがわかる。それまで何年も、銀行はオフバランスシートでSIVsを利用してこうした資金調達で利益を得てきた。レバレッジとリスクの増大を管理できると考えていた。SIVsがファイナンスしたモーゲージ関連資産は4000億ドルを超えた。それが突然消えたのだ。ABCPの購入者たちは、SIVが破たんするリスクは十分に補償されていない、と考えたからだ。取引できる市場が蒸発した。

担保融資やABCP発行に関する問題とは、それがリスクの高いサブプライム債務をリパッケージするやり方、その複雑さである。モーゲージを担保とした証券発行が、良い者と悪い者とを、迅速かつ安価に、投資家は判断できなかった。言い換えれば、それは情報に敏感な証券であった。パリバ・ショックの後、市場の逆選択が始まった。

なぜ89日なのか? US住宅価格の信用ブームはその1年以上前に終わっていた。BNP Paribasの示したことは、システムが極度に脆弱である、ということだった。金融システムは複数均衡状態にあり、小さな火花でも、健全な均衡状態から悪い状態へとシフトする恐れがあった。

本当の問題は、小さなかく乱が拡大するのを止めることだった。橋の建設工事と違い、現代の金融システムを止めることはできない。システム設計者は、そのためにショック・アブソーバーを必要とする。アメリカでも、ヨーロッパでも、金融システムにそれが欠けていた。資産価値の下落や破たんに対応できる十分な資本、一時的な流動性不足に応じる高品質な流動的資産保有のことだ。もし金融機関にそれらがあれば、中央銀行の画期的な信用供与は効果を発揮しただろうし、さらに、それが債権者たちに、有害な資産を判別する時間を与えただろう。

FT August 29, 2017

Three radical ideas to transform the post-crisis economy

Martin Sandbu

金融危機は、歴史的に、深刻な社会政治危機を介して、金融システムや政策の根本的な改革を実現した。

F.D.ルーズベルトのニューディールは、危機を機会に変えた典型であった。1933年に政権に就いてから数家月内に、ドルは金本位制を離脱し、リフレのために切り下げられた。銀行システムを閉鎖し、預金保険制度を導入してから再開した。大規模な公共工事、ウォール街の規制、最低賃金を導入した。社会保障、自由貿易、住宅政策改革が続く。

2次世界大戦後、すべての西側諸国で、社会民主主義的な混合経済に関するコンセンサスが成立した。

それに比べれば、過去10年の改革は弱腰であった。豊かな世界は数十年に1度の危機を経験したが、それに見合う政策を実現する努力は現れていない。確かに政府な金融市場に介入し、財政刺激策も協調して採用した。しかし、金融システムは大きく変化しなかった。ヨーロッパの銀行同盟は重要な改革であったが、時期尚早と反対する声も大きい。

「前例のない」金融緩和を中央銀行は行った。しかしその手法は既存のものだ。革命とは言えない。

ニューディールに匹敵する根本的な改革アイデアは、3つある。

貨幣供給を民間の銀行システムに頼る限り、その過剰とひっ迫との繰り返しから逃れられない。それに代わる方法は、貨幣供給の国有化である。現代の技術で、中央銀行の口座を通じて、すべてのものに貨幣を供給することができる。銀行の既存の預金を効率的に投資に仲介する機能に限定される。

経済安全保障に関しては、さまざまな社会保障制度ができたが、それでも多くの者が貧困状態で暮らしている。ユニバーサル・ベーシック・インカムの提案が再発見されている。

最後に、アメリカの反トラスト法だ。かつて石油、産業、鉄道の市場支配に反対する声が高まり、指導者たちを動かした。現在は、インターネットの巨大企業だ。彼らは市場や政治を動かす力を持つ。インターネット・サービスは公共サービスに似ており、規制されるべきだ。

しかし、多くの人々は躊躇している。こうしたラディカルなアイデアを拒み、現状維持を望むなら、その結果は、非リベラルな政治運動がそれを強制するだろう。


 インドと中国の外交

Bloomberg 2017829

India and China Turn Down the Heat

By Mihir Sharma

小さなDoklam高原で、インド・中国国境が小さな王国ブータンに出会う。世界最大規模の2つの軍隊がここで対峙している。中国の兵士たちはここが中国領だと確信し、建設機械を持ち込んで道路を作った。インドの兵士たちは,ここを係争中の土地とみなし,領土を動かすものを阻止した.3か月間,両軍は数メートル離れて駐屯した.インド軍は高台,中国軍は小さな谷であった.どちらの政府も後戻りしそうになかった.

それが変化した.どのように,なぜ起きたのか,わからない.月曜日,中国外務省は,インド側が「撤退」した,と述べた.中国側は引き続き高原で主権を行使している,と.インド政府高官は,匿名で,中国側も撤退した,と述べた.道路の建設機械を撤去した,と.

おそらく,双方が妥協したのだ.インド側が先に撤退し,インド側は道路建設を,永久ではないが,当面見合わせた.テロ対策,一帯一路構想,関係ない分野でも,他に取引が行われたのかもしれない.われわれにはわからないが,すばらしい.重要なことは,核武装した2大国が,しかも,大きな野心を持つ,高度にナショナリスト的な政治指導部,「力」を誇示する指導者を持つ両国が,その困難な状況から脱したことだから.

これは成熟した関係を示す兆候である.国際政治的には相手を非難することが有利である.しかし,それはどちらの国の利益にもならない.双方は緊張を緩和した.それは,モディ首相がBRICSサミットのために訪中する,数日前のことだ.

中国は,その台頭にふさわしい地位を世界で占めると決意しており,インドの台頭に場所を残す気はまるでない.北京の戦略家たちは,経済規模が中国の5分の1しかないインドを無視している.しかし,インド人は状況をそのようには見ていない.たとえ今は中国と同じでないとしても,数十年で同じになる.そうであれば,今から対等に扱うべきだ.こうした見方は具体的な緊張において必然的に現れる.

世論が重要だ.対立をエスカレートさせるメディアがインド側にあるが,今回はそれを抑えた.中国側の報道は,終始,抑制されたものだった.外交官たちが緊張緩和に成功した.両国の衝突は今後も避けられないだろう.高原の湖畔で両軍兵士は乱闘したが,インドとパキスタンの境界と異なり,だれも銃を撃たなかった.


 ハリケーン・ハーヴェイ

NYT AUG 31, 2017

Hurricanes, Climate and the Capitalist Offset

Bret Stephens

ハリケーン・ハーヴェイの犠牲者は,今の時点で,38人である.その破壊力に比べて驚くほど少ない.世界はどこでもこのようにハリケーンを過ごせなかった.1998年,中央アメリカを襲ったハリケーン・ミッチは11000人から19000人を犠牲にした.そのほぼ10年後,サイクロン・ナジスはミャンマーを破壊し,138000人という驚くべき犠牲者を出した.

自然の猛威は予測できないが,その効果はランダムに生じていない.豊かな国ほど犠牲者は少ないのだ.その場合,死者の数ではなく,経済的コストが示される.

しかも,ハーヴェイの何十億ドルもの経済的損失よりも,アメリカ経済がその衝撃を速やかに吸収する力に注意するべきだ.ヒューストンの被害額5030億ドルは,アメリカ経済を成長から2か月ほど離脱させる,とMoodyのアナリストは予測した.

資本主義は災害を大きくしている,と批判する者がいるけれど,豊かになるほど災害のダメージは抑えられる.その被害からの回復も可能なのだ.

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The Economist August 19th 2016 

Dual citizenship: Double happiness

Italian politics: Return of the crooner

Chinese monetary policy: Dynastic equilibrium

(コメント) 二重国籍問題では民主党代表が辞任する結果になりました.これはオーストラリアの問題です.記事は,現代における世界の変化を反映して,二重国籍を称賛しています.

イタリアでベルルスコーニが復活する,という記事に驚きました.選挙法が小党の乱立状態を広め,ファイブ・スター運動が既存政党との連立を拒否して,「がんばれイタリア」のベルルスコーニが新しい連立政権を陰で動かす役割を担うかもしれないのです.

中国が世界経済を指導する地位に就く前に,金融と企業の国有比率を引き下げ,不良資産の整理や金融政策の市場型アプローチが必要になる,という指摘です.

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IPEの想像力 9/4/17

報道特集を観ました.高島市サポートセンターの話です.

47歳の男性は,知的障害があります.18歳の時に母が亡くなり,父とは音信不通です.仕事がなく,食べ物を盗んだりして,刑務所に入りました.

彼には誰も頼る人がおらず,孤独で,人とのつながりがありません.サポートセンターのスタッフ,保健師や精神科医が,彼の生活を支えています.どこかの施設に入るより,自分で暮らしたい,という本人の希望を実現することが,彼にとっても,社会にとっても,望ましいのではないか,と伴走型支援を担うスタッフは考えています.

彼のために生活保護を申請し,その給付額から1日当たり1000円を渡して,何に使うのか相談に乗ります.部屋を借りますが,男性は部屋の片づけや掃除が十分にできないため,スタッフが定期的に訪問して手伝います.ゴミだらけになったり,虫が入ったりしているのを彼に注意して,少しでも自分で生活できるように支援します.

刑務所は良かった.食事も3度,食べれた・・・.男性は,少し残念そうに言います.しかし,支援スタッフが一緒にスーパーマーケットへ出向き,彼の行動を観察します.お店に入って,値段を考えずにほしいものをかごに入れる,その様子を観て,スタッフは彼に買い物の仕方を助言するのです.

さらにスタッフは,男性に電車の乗り方を教えました.彼の家からサポートセンターまで,自分で通うことができるように.そして,実際に一人で通うことで,自信を持って話すようになります.彼に勧めて,共同作業所に連れて行きます.たえ少しでも,仕事の報酬を得られることに彼は意欲を示します.

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NHK日曜討論で河野太郎外務大臣が語っていました.北朝鮮の核危機,拉致問題,中国,韓国,ロシアとの関係について,慎重に,説得的に,日本の外交姿勢を説明しました.

その語り口を聴きながら,タカ派の政権に入ったハト派の,リベラルな国際秩序を重視する政治家が,どのような外交政策を展開するのか,私は期待したいと思いました.

日本がアメリカ(そして韓国)との安全保障共同体を形成しているのであれば,ヨーロッパの共通通貨にも似た,政治統合の問題が常に重要になります.安倍首相が,トランプ大統領やプーチン大統領との関係を重視する一方で,河野外相は中国との関係改善に重要な役割を担います.

それは,確かに,ありえないような組み合わせですが,内閣を組織した以上,彼らは話し合っているはずです.今,強大な圧力の下で,権力の容器が飛躍するしかないのだ,と思いました.

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9月の始業式を,深い悩みや不安とともに迎えた若者が,各地で自殺しました.自殺しない者も,多くが今も苦しんでいるのでしょう.

帝国ホテルのラウンドリーで働く男性は,高校卒業後にホテルに勤め,その後,このラウンドリー部門を希望して配属され,そこで技を磨きました.彼はその仕事に誇りを持ち,精一杯,満足できる状態で衣類を仕上げ,宿泊客に返します.

いい仕事がしたい,とだれもが心から望むはずです.それを実現できる社会や国際秩序であってほしい,と思います.

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