IPEの果樹園2017
今週のReview
9/4-9
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BrexitとEU解体 ・・・米中の貿易戦争 ・・・ウクライナへの武器援助 ・・・金正恩のミサイル発射 ・・・アフガニスタンの新戦略 ・・・日本の外交・防衛政策 ・・・ブラジルの変遷 ・・・中国の転換と国際秩序 ・・・世界金融危機の回顧 ・・・トランプ外交 ・・・イランとの核合意 ・・・インドと中国の外交 ・・・ロボット・AIの普及 ・・・ハリケーン・ハーヴェイ
[長いReview]
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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times,
The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate,
SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● BrexitとEU解体
FT August
25, 2017
A Brexit
masterclass in saying little, emphatically
Henry Mance
FT August
27, 2017
Brexit’s
threat to long-term European unity
Wolfgang Munchau
イギリスが離脱を決めた投票の後、それに続く国は現れていない。しかしその影響は、すぐにではなく、時間とともに効いてくるだろう。
Brexitは、イギリスとEUとの長期に及ぶ政治的離反の結果であった。同じことは他のヨーロッパ諸国にも起きている。ギリシャの不満は、ユーロ危機の処理過程で不況を強いられたことで高まっている。イタリアでも、中道左派のMatteo
Renzi元首相はユーロ圏の財政ルールを変えることを望み、右派のSilvio
Berlusconi元首相はパラレル・カレンシーを主張する。ほかにも、ユーロ圏に関する国民投票を求める者や、EU離脱を主張する者がいる。
極右の政権が成立しているポーランドとハンガリーは、EUの主流から距離を措いている。EUは、政府が司法に対する支配を拡大するポーランドの改革に関して、制裁を考えている。ポーランドもハンガリーも、EUによる難民の受け入れ分担を拒んでいる。ハンガリーのViktor
Orban首相の話を聴いていると、この国がいつまでEUにとどまるのか、心配になるだろう。ハンガリーがEU財政による利益を受けている間は、そのEU嫌いも抑えることができた。しかし、イギリスが離脱してEU財政が縮小すれば、EU加盟諸国、特に非ユーロ圏諸国の反対論が強まるだろう。
イギリス、イタリア、ギリシャ、ポーランド、ハンガリーは、それぞれ別の理由でEUに失望している。EUを、異なるスピードで統合を進める1つのクラブである、という考えに、彼らは従わない。時とともに、多くの領域で関心が一致しなくなっている。ユーロ圏内では、労働者の自由移動が経済的な不均衡を部分的に相殺するために必要かもしれない。しかし、イギリスにとっては移入民である。ユーロ圏の支配と、それを嫌う、弱い統合にとどまる周辺部とは、対立が激しくなるだろう。
Brexit後に他国の離脱が続かない理由は、ある程度、その離脱過程が明確でないことである。もっともありそうなシナリオとして、それが包括的な通商協定に至れば、コストは最小化する。もし離脱が経済危機を意味せず、Brexitがリスボン条約の50条によって離脱できることを示せば、不安は減少する。逆に、Brexitが経済混乱であるとなれば、その評価は全く異なるだろう。
EUは、マクロンの唱える制度改革によって、自信を強めた独仏がESMの強化、ユーロ圏の金融救済基金、各国財政への厳しい監視、というドイツの意見を概ね実現するだろう。それは独仏を政治的に接近させるが、イタリアを離反させる。
EUが分裂するしかない、とは思わないが、Brexitによって強化されたとも思わない。
FT August
28, 2017
Labour
exposes the false promises of Britain’s exit
Peter Mandelson
労働党は単一市場に残ることを主張する。しかし問題は、現在の貿易・投資を維持する形でEU離脱を交渉するなら、生来の条件に関する発言力を失うことだ。
離脱の経済コストを無視するBrexit支持者にとって、それは問題ではない。彼らには「主権を取り戻す」ことが重要なのだから。将来は自分たちが決める。しかし、少ししか保護されない人々がどうなるのか、心配する労働党やその他の人々は、このジレンマを痛感する。経済を優先するが、他方で、EUの法規制において副次的なメンバーになることを懸念するからだ。
FT August
28, 2017
Labour
pushes Brexit politics towards realism
The
Guardian, Monday 28 August 2017
The real
problem with Brexit talks is there are hardliners on both sides
Charles Grant
Brexitの合意にはイギリスから財政負担を支払う必要がある。その額は、およそ現在の負担額になるだろう。しかし、双方に強硬派がいる。合意なしの破滅的な離脱はEUにとっても不利であるから、妥協が成立するはずだ。
Bloomberg
2017年8月29日
Brexit Is
Beginning to Look Like No Brexit
By Leonid Bershidsky
Brexitの交渉は困難で,保守党政権も労働党も,合意までの期間を伸ばすことでは一致している.EU27ヵ国とそれ以外は何も決まらず,メイ首相の呪文も意味が失われている.
● 米中の貿易戦争
FT August
25, 2017
Trump,
Bannon and the lure of zero-sum thinking
Tim Harford
ゼロサム思考は、アメリカと中国の経済戦争を主張する。しかし、アメリカは、中国が負けなければ勝利できない、というわけではない。世界経済はフットボールのゲームではないのだ。少なくとも原理的には、誰もが勝利できる(豊かになれる)。あるいは、誰もが敗北することもある。バノンの経済戦争論は、悪い結果をもたらすものだ。
多くの危険な思考には、部分的に真実を含んでいる。中国で反経済ブームが続くが、アメリカの中産階級は苦しんできた。世界の分配に関するBranko
Milanovicの研究によれば、1980年代以来、富裕層は豊かになった。アジアの中産階級もそうだ。しかし、グローバルな所得分配の上部で、生活水準は停滞した。それは中国との経済戦争ではなく、ソ連崩壊や、日本経済の停滞である。
しかし、バノンの「経済戦争」は、病気よりもさらに悪い。それは世界経済の働きを誤解している。アメリカはアジアとの貿易で利益を得ているし、中国を攻撃してもアメリカの中産介入は何も得られない。ゲーム論が広めた「ゼロサム」状態は、現実世界に多くはない。
しかし、ゼロサム思考は政治にとって有利な条件だが、良い政策はもたらさない。イギリス政府がEUとの交渉を戦争にたとえたように。ポピュリストたちがゼロサム状態の議論を好むのは、説明が簡単で、感情にアピールするからだ。そして、もっとセット攻的な良い解決策を排除してしまう。
人々の経済状態を改善するには、教育、公的インフラ、市場の競争を促す反トラスト法の適用、そして、怠惰を非難するより、人々の労働を刺激し、励ますような建設的社会福祉、が有効である。他方、ゼロサム思考の最悪のリスクは、それが自己実現することだ。彼らは中国との経済戦争を引き起こすことができる。
Project
Syndicate AUG 28, 2017
America
and China’s Codependency Trap
STEPHEN S. ROACH
トランプ大統領は中国との貿易不均衡を重視する姿勢をさらに進めた。通商代表部に中国の知的所有権侵害を調査させることにしたのだ。1974年の通商法301を使って、中国に制裁を課そうとしている。
しかし、そのような処罰を行えば、アメリカの企業や消費者に深刻な結果をもたらす。知的所有権の侵害については、それが好ましくないとしても、世界の2大経済国家が共生関係を深めた結果として避けられない部分がある。
アメリカの制裁措置に対する中国の報復がどのような結果をもたらすか、3つの点で考えてみる。
第1に、アメリカが輸入する中国の財・サービスの価格が上昇する。それは消費者に増税するのと同じだ。中国から他国の生産者に変える場合、そのコストは顕著に上昇するからだ。30年間、実質賃金が停滞しているアメリカ労働者たち、中産階級にとって、このインフレは特に厳しいものになる。
第2に、アメリカの金利に上昇圧力となるだろう。外国人は、現在、アメリカ財務省証券の約30%を保有している。最新のデータでは、中国人が1兆1500億ドル(外国人保有の19%)で第1位、日本はそれより少し少ない1兆900億ドルだ。中国はそれ以前から進めている海外資産の分散化を加速するだろう。他方、トランプ政権は減税と支出増で赤字を増やす。
第3に、アメリカの国内需要が低迷したままであるから、アメリカ企業はますます外国市場に頼る。しかし、トランプ政権はそのことを全く理解していない。中国やNAFTAのパートナーであるカナダ、メキシコを敵視している。もし制裁を科せば、その報復措置により、トランプが約束したアメリカ製造業の復活は損なわれるだろう。
結局、中国がアメリカ経済に対して強い姿勢を取れるのは、アメリカの国内貯蓄が異常に低いからだ。貯蓄不足の中で消費と成長を求めるアメリカは、そのギャップを海外から埋めるために、巨額の経常収支赤字、貿易赤字を出さねばならなくなっている。黒字国を挙げて非難するのは政治的なごまかしである。
The
Guardian, Wednesday 30 August 2017
Liberals
can’t hope to beat Trump until they truly understand him
John Harris
FT August
30, 2017
Winter is
coming in Donald Trump’s Washington
Edward Luce
FT August
31, 2017
Leaders
must find the words to heal America’s wounds
Howard Schultz
FT August
31, 2017
Corbyn and
Trump join hands against the liberal world order
Philip Stephens
コービン主義は,トランプ主義と共通する姿勢として,民主主義を危険なほど批判し,強権的な国家を称賛する.
● アメリカの対外債務
VOX 25
August 2017
The
external debt of the US is no cause for concern, yet
Wim Boonstra
● ウクライナへの武器援助
NYT AUG.
25, 2017
For the
U.S., Arming Ukraine Could Be a Deadly Mistake
By MICHAEL KOFMAN
マティス国防長官のウクライナ訪問は、この旧ソ連の共和国に対する「防衛的武器」供与の約束をもたらした。しかし、それはアメリカがロシアと戦うウクライナ側に立つことを意味するが、それでよいのか? 政治的に支持されるかもしれないが、お粗末な政策だ。
ウクライナとロシアの軍事力の差は非常に大きく、アメリカのこの程度の武器供与で変わることはない。なぜ勝つ見込みのない戦争に加担するのか? これでは、シリアの反政府派を支援したオバマ政権の失敗から、何も学んでいないことになる。
この提案は時期的にも間違っている。ウクライナとロシアの大規模な戦闘は沈静化しており、領土を失ってすでに2年経った。死者は小火器による交戦で生じており、対戦車ミサイルなど、ほとんど役に立たない。ウクライナに必要な支援の対象は経済改革であって、地政学的な駆け引きではない。
この武器支援は代理戦争を意味しており、アメリカがロシアとの間で新冷戦を始める気なら、それに見合った勝利のための十分な考察と説明がなされねばならない。ウクライナの重武装を支援するのは、モスクワとの戦略的な交渉の一部としてだけ意味がある。たとえばアフガニスタンで、ロシアがアメリカの重要な軍事拠点に侵攻するのを抑えるような意味だ。
ミサイルの供与はウクライナを助ける方法としても間違っている。
● 金正恩のミサイル発射
NYT AUG. 25,
2017
Making Kim
Jong-un Sweat
Roger Cohen
イランとの合意に対して憤慨するトランプ政権は、北朝鮮に対して、イランとの合意をまねることも、すでに夢となっている。
NYT AUG.
26, 2017
Brit-Pop
for a Nuclear Standoff
By MAYA WEST
The
Guardian, Tuesday 29 August 2017
North
Korea’s missiles can be stopped – but not by ‘fire and fury’
John Nilsson-Wright
日本には軍事的な対抗策がないし、経済制裁も効果がない。安倍政権は外交に戻り、国際社会における金政権と北朝鮮の正当性、主権を奪うことに集中するべきだろう。
FT August
31, 2017
Asia faces
a common threat from North Korea
「対話は解決策ではない」とドナルド・トランプ大統領はTweetした。アメリカは北朝鮮の体制を解体する先制攻撃を考えているのではないか、という不安が再燃した。
しかし、トランプと金正恩とのやり取りがエスカレートすることで軍事衝突になるのではなく、それが回避され、鎮静化するとしたら、地域の主要諸国が重要になるだろう。何より、韓国、日本、中国である。彼らは共通の危機に対して、互いの対立を超えて、協力しなければならない。
しかし、各国は他の優先目標によって対立している。韓国では、国内政治危機を経て成立した新政権が、日本の戦時における行動に謝罪を求める激しい国内論争に制約されている。日本政府は、最近まで、金正恩より中国の台頭に大きな脅威を感じてきた。また中国は、韓国が北朝鮮危機を理由に(米軍の)THAAD配備を進めたことに反発している。日本のミサイル防衛力向上にも同様の不満を持つ。
こうした懸念は、北朝鮮との戦争が始まるのを阻止できなければ、まったく近視眼的な論点でしかない。
3か国は朝鮮半島の非核化という目的で一致している。それを協力して達成するために、個々の懸念は妥協するべきだ。たとえば、韓国のTHAAD配備は北朝鮮危機が鎮静化すれば撤去する、と約束する。他方、アジア諸国にとって、トランプ大統領の衝動的な反応は解決できない。それゆえ、3か国の協力が一層重要なのだ。
NYT AUG
31, 2017
America’s
Risky Nuclear Buildup
By STUART ROLLO
火曜日の朝,北海道の住民は警報によって目が覚めた.北朝鮮がミサイルを上空に飛ばしたからだ.ピョンヤンが核兵器やミサイルの技術を示して脅すのは問題だが,アメリカの新しい核兵器やミサイル技術も,グローバルな不安定化を刺激している.なぜならそれは核保有諸国の相互確証破壊を脅かし,新しい軍拡競争を促すものだから.
特に潜水艦から発射される核ミサイルを正確に誘導する技術は,地上発射の大陸間弾道ミサイルをレーダーに映らなくする技術とともに,他国の大きな脅威である.
Bloomberg 2017年8月31日
Trump Is
Right. Nuclear Talks With North Korea Are Pointless.
By Eli Lake
● アフガニスタンの新戦略
NYT AUG.
25, 2017
Bush and
Obama Fought a Failed ‘War on Terror.’ It’s Trump’s Turn.
By MICAH ZENKO
月曜日、トランプ大統領はアフガニスタンの「新」戦略を発表した。しかし、過去の大統領たちと違う点は、アメリカ人の犠牲者を理由にしたことだけで、ほかに何もない。
共和党も民主党も、政策を説明する上で「テロとの戦い」をいい加減に使ってきた。そして、自分たちの失敗から学び、方針転換することを拒んだのだ。アメリカは誰と戦っているのか、その点の明確な説明もない。単純化された概念が、「テロリスト」、「暴力的な原理主義者」、「敵」が、さまざまな武装集団を一緒にしてしまった。アメリカ人の安全保障にとって何が脅威なのか、何の証拠もない。国務省のデータでも、2002年の28から、2009年の44へ、テロリスト集団の数は増えている。
トランプが示した、テロリストたちが「安全な避難所」から来る、という確信は間違っている。また、過去の大統領たちと同様に、達成できない目標を掲げる。
トランプは自慢たっぷりに主張した。「われわれはテロリストを殺し続けている」と。もちろん彼は試みるだろう。しかし、アメリカが空爆している諸国では、就任式の後、爆弾の投下数が増えている。彼はまた、空爆で死亡した市民の数も、受け入れがたい水準に高めた。国連は、アメリカの空爆で犠牲となる者の数が70%も増えた。
その状況は市民だけでなく、アメリカにとっても有害である。なぜならアメリカはますます嫌われ、武装集団がアメリカと戦うための人の補給がしやすくなっている。
Project
Syndicate AUG 28, 2017
Trump’s
Doomed Afghan Strategy
SHAHID JAVED BURKI
FP AUGUST
29, 2017
There Is
No War in Afghanistan
BY EMILE SIMPSON
アフガニスタンの戦争は、アメリカ人が思っているような戦争ではない。軍を増派しても勝利できない。アフガニスタンとは、戦争ではなく、武装した法執行・治安活動である。
この違いを無視し続けることが問題だ。治安活動は継続しなければならないし、勝利によって終わるわけではない。国家機構と秩序の相対的な安定化が進むのだ。
NYT AUG.
30, 2017
Erik
Prince: Contractors, Not Troops, Will Save Afghanistan
By ERIK PRINCE
アメリカは完全な方針転換と撤退か,このままの方針で増派するか,2者択一ではなく,第3の道を進むべきだ.それは,少数の特殊部隊と,現地の社会が必要とする多くのアフガニスタン契約労働者である.
NYT AUG.
30, 2017
Many
Shades of the U.S. at War
Thomas L. Friedman
戦争に従事するアメリカ兵たちの謙虚さと,アメリカを分裂させるトランプの愚かさ.その対照に圧倒される.
YaleGlobal,
Thursday, August 31, 2017
Trump
Unveils Afghanistan Strategy, But Uncertainties Remain
Marc Grossman and Tom West
● アンゴラ
FP AUGUST
25, 2017
Angola’s
Transition to Technocracy Won’t Be Victimless
BY ALEX VINES
30年間の内戦、38年近い独裁、石油輸出によるブーム、石油価格の暴落と経済危機、大統領の交代、しかし、支配体制を改革することはむつかしい。通貨価値の切下げとIMFによる改革の介入を、新大統領は新しい経済に向けた転換にできるか。
● ポンド・スターリング
FT August
26, 2017
Sterling
wobble will hit Britons in their pocket
● ジャクソン・ホール
FT August
26, 2017
Issues
under discussion at Jackson Hole
Larry Summers' blog
FT August
28, 2017
What would
a Gary Cohn-led Federal Reserve look like?
Jason Cummins
もし次の連銀議長がGary
Cohnであれば、どのようなFed、どのような金融政策、が示されるか? 税制改革と金融規制緩和を目指すうえで、議会との協力関係を重視するだろう。さらに、もう1つの要素が加わる。それは、低金利、ドル安、強気相場、である。
しかし、連銀議長としては、それでよいのだろうか? たとえば、景気が過熱したらどうするのか?
● 日本の外交・防衛政策
Bloomberg
2017年8月26日
Japan's
Power Players Are Multiplying
By Nathaniel Bullard and Miho Kurosaki
FP AUGUST
29, 2017
Japan’s
Empty Menu of Options to Stop North Korea
BY MICHAEL PENN
北朝鮮のミサイル発射に対して,タカ派の安倍首相にも,言葉で非難する以外,対抗する選択肢は何もない.新しい発言として,タカ派の政権に入ったハト派の河野外相が,北朝鮮は,もし韓国に攻撃すれば,アメリカが反撃することを考えるから,慎重であるはずだ,と語った.つまり河野は,北の挑発に対して,日本として,より一層の深刻なシナリオを示したのだ.
北朝鮮の脅威は,日本をますますアメリカの安全保障に頼らせるだろう.そのアメリカは,最悪の場合,北朝鮮を軍事的に消滅させることを考える.自民党の二階幹事長は,安倍首相がトランプ大統領と緊密に意見交換して,日米同盟を強化して人々の命を守る,と述べた.
安倍は認めないが,唯一の選択肢は金正恩と交渉することである,とJeff
Kingstonは指摘する.それを拒む通常の理由は,金正恩が約束を守らない,という経験だ.しかし,さらにもう1つの理由は,北朝鮮のミサイルは安倍のタカ派としての目標,日本を正常な国家にする,その推進にとって利益があることだろう.日本の安全保障体制を正常化し,平和主義の憲法から離脱する.
日本国民は,キムが東京の数百万人を抹殺する現実の可能性,攻撃的な行動の脅しにより,考えたくない問題に目を向けざるを得ない.もはや日本の安全保障や防衛政策に関する安倍の主張に,強く反対する声は弱くなっている.
市民への警報システムや強硬な発言は,日本国民を守り,キムのつぎの挑発を抑える何の役にも立たないだろう.しかし,もしそれが安倍の防衛予算増額を支持し,さらに憲法改正を推進するのであれば,国民の不安とは別に,安倍はぐっすり眠るだろう.
Bloomberg
2017年8月30日
Should
Japan Rearm? Discuss.
By The Editors
北朝鮮はミサイル発射をやめないだろう.既存のミサイル防衛システムが有効化,疑わしい.安倍首相は対抗策を持たねばならない.
しかし,日本が十分な軍事的報復能力,たとえば日本がトマホーク巡航ミサイルを持つことは,現在の水準から飛躍的に高まることを意味し,それを保持することや,どのような状況で使用するか,国民的議論が必要だ.
安倍は,憲法改正に関して,どのような改正案を示すのか,右派からは不十分だという批判がある.韓国や中国の反対もあるだろう.しかし,日韓はアメリカと協力して北朝鮮の脅威を抑えるべきだ.また,中国が日本の再軍備を嫌うなら,北朝鮮への圧力を強めるべきだ.
The
Guardian, Wednesday 30 August 2017
Japan is
as curious as everyone else: what is Theresa May’s Brexit plan?
Henry Newman
FT August
30, 2017
Abe’s troubles
with Trump could lead to his downfall
Yoichi Funabashi
安倍首相はトランプ大統領との関係を外交に生かしてきた.しかし,それは致命的な失敗に変わるかもしれない.
北朝鮮は,トランプが報復するのはアメリカ本土を直接攻撃したときだけである,と示唆して分断を図っている.他方,トランプ政権は中国に制裁強化を求め,中国との貿易不均衡を結び付けて交渉している.
日本は,アメリカに代わって,ルールに依拠した自由貿易,リベラルな国際秩序を推進する指導力を発揮したいと願っている.しかし,アメリカの姿勢は,1.TPP合意を破棄した末に,中国との貿易戦争をもたらす.2.日本に対しても2国間交渉で地域協定を無視させる.3.日本がアジアに占める外交的な地位を失わせる.
日米関係は,過去においても,長期政権を担った日本の指導者たちを失脚させた.
● ブラジルの変遷
Bloomberg
2017年8月26日
Brazilian
Politicians Dance Around Reform
By Mac Margolis
FT August
28, 2017
Brazil and
the crisis of the liberal world order
Gideon Rachman
カルドーソFernando
Henrique Cardosoは,悪い時代,良い時代,そして現在の危機を観てきた.1995-2002年の大統領として,彼はブラジルの民主主義と経済改革の基礎を与えた.ブラジルの成長は世界の注目を集め,ワールドカップとオリンピックを開催した.
しかし,86歳となったカルドーソは,この国が「道徳的,経済的な危機」にあると認める.経済は2015-16年に約8%も縮小した.ルセフ大統領は弾劾され,失職した.現在のMichel
Temer大統領を含めて40%の国会議員が汚職に関する捜査対象である.
ブラジル危機にはグローバルな意味がある.良い時代には,ブラジルがリベラルな政治と経済のシンボルであった.悪い時代には,ブラジルの失墜がリベラルな秩序のグローバルな兆候になった.
ルーラLuiz
Inácio da Silvaの失脚は,多くの貧困層にとって希望を失わせた.経済危機,不平等,汚職の蔓延,ブラジルの政治階層は広く嫌われている.有権者はますますシニカルになり,分極化している.それはBrexitやトランプの大統領選挙が示した景色と同じだ.
2018年の大統領選挙に向けて,極右のナショナリストJair Bolsonaroがルーラに続く2位の高い支持を受けた.フィリピンのドゥテルテと同じ,犯罪撲滅への強硬策で人気を得ている.左派の多くは,ルセフやルーラの失脚を保守派の陰謀と考えている.他方,右派は,労働者党が汚職や補助金を広め,経済を衰退させた,と考える.
ブラジル危機は,国内の原因やロジックを持つが,グローバルなパターンを示す危機でもある.カルドーソの任期は,ベルリンの壁崩壊と,10年に及ぶブラジル軍政の後,6年間であった.他の発展途上国や中所得国も,中国,インド,メキシコ,ポーランドが,同様にリベラルな経済改革を推進した.しかし,2008年の金融危機で,「ネオリベラリズム」への反動が生じた.
ブラジルのリベラル派は,まだ敗北を認めるつもりはない.改革を進めて,より公正で効率的なブラジルを実現することを望んでいる.カルドーソは,政治経済改革の成果は失われない,と述べた.
(後半へ続く)