IPEの果樹園2017 

今週のReview

8/21-26

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米朝核危機の現在 ・・・核廃絶への道 ・・・トランプ外交と狂人 ・・・世界金融危機の回顧 ・・・経常収支不均衡の神話 ・・・インド独立70周年 ・・・米中経済摩擦 ・・・Brexitとノルウェー ・・・第3共和制に向けて ・・・南シナ海とアメリカ

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 米朝核危機の現在

Bloomberg 2017812

The Alternative to Nuclear War Is a Revolution

By Eli Lake

トランプ政権の北朝鮮に対する姿勢は、オバマ政権と基本的に同じである。軍事的な選択肢はあまりに大きな損害を生じるから採用できない。トランプは、本気で、独裁者である金正恩と取引したいのかもしれない。しかし、トランプは戦争を予告し、ティラーソンは体制転換を否定する。「これはオバマ・プラスである」とMichael Auslinは述べた。ヤドカリ王国を、脅迫し、丸め込み、取引する。

しかし、北朝鮮の通常兵力でもソウルは人質になっており、わずかな核兵器でも米軍に大きなダメージを与えることができる。金正恩は約束を守らない。北朝鮮に米軍が侵攻することは、中国との戦争というリスクがある。今、アメリカ政府が選択できる答えはないのだ。

オバマ政権で、民主主義、人権、労働問題の次官補であったTom Malinowskiは、アメリカが北朝鮮に情報を流し込むべきだ、と主張した。北朝鮮の情報管理体制は以前に比べて弱まっている。アメリカは、「体制転換」を軽い気持ちで言及してはならない。しかし、冷戦がそうであったように、唯一、持続可能な解決策とは、北朝鮮の国民が自分たちで事態を変えることであろう。その国の内部で起き始めた意識の変化を加速することで、われわれはその過程を促進できる。

The Guardian, Sunday 13 August 2017

Americans once carpet-bombed North Korea. It's time to remember that past

Bruce Cumings

トランプの脅しは中身がない。北朝鮮は明確だ。アメリカ空軍は3年間も爆弾の雨を降らせて、北朝鮮の都市を消滅させた。それはドイツや日本に対する空襲を超える規模であった。広島と長崎に原子爆弾を使用したトルーマンによる「死滅」を観た者が表現した同じ言葉を、朝鮮戦争後の北を訪問した者は残した。

トランプとその愚かな助言者たちは、威嚇の言葉を無意味に吐く。アメリカの軍事力は、北朝鮮だけでなく、世界に比肩する者がない圧倒的なパワーを誇示している。しかし、それはアメリカが1945年以来、5つの戦争に敗北し続けたことを説明できない。北朝鮮はアメリカ軍が侵攻する瞬間をずっと待っている。

アメリカ人の多くはトランプの言葉の愚かさを理解できない。それは、われわれと同じように暮らす2500万人の国民を死滅させるという警告だ。アメリカ人は北朝鮮に対する「じゅうたん爆撃」が何であったかを知らないからだ。しかし、彼らは知っている。

Bloomberg 2017815

The Sane Way to Live With North Korea's Nukes

By Hal Brands And Francis J. Gavin

トランプほど外交を知らない人物でなくても、アメリカ大統領にこの危機を解決する選択肢はないだろう。

問題の核心は、ワシントンがこの数十年間追求してきた、非常に困難な課題である。それは、他の主権国家にその安全保障を得るための武器を持たせない、ということだ。しかし、核弾頭や弾道ミサイルの技術は特に高度なものではない。1940年代、そして1950年代―60年代に完成している。十分な投資と時間があれば、そしてアメリカへの敵意があれば、核兵器を開発することは可能だ。

アメリカはそれを阻むために、1960年代から、核不拡散条約を結んできた。アメリカは敵国だけでなく、日本、韓国、台湾のような同盟国も含めて、他国が核武装するのを、制裁その他の圧力によって抑えた。冷戦時代には、ソ連と協力して、西ドイツが核武装するのを抑えた。

なぜアメリカは同盟国への核の傘を保証する核武装にまで投資し続けるのか? アメリカの防衛関係者は、核兵器が拡散して核戦争が起きることを恐れてきた。また敵国の核武装がアメリカ軍や同盟関係を弱めることを心配した。アメリカ政府は、核拡散が進む世界では、その外交的影響力や行動の軍事的自由を損なう、と懸念した。

核武装した諸国は、いずれもその時代の典型的な無頼国家rogue statesであった。アメリカは常に、軍事的な選択肢を、無制限に共存する選択肢と比較、検討した。それゆえ、アメリカは常に「抑止プラス」を選択した。しかし、北朝鮮の核ミサイルはアメリカに戦略的なジレンマを生じる。アメリカに達する核ミサイルが本土に報復するリスクを知りながら、アメリカは日本や韓国を守るのか?  シアトルを犠牲にしてソウル、ポートランドを犠牲にしてプサンを守るだろうか?

それは信じがたいだろう。そして、韓国や日本が核武装する圧力は高まる。このジレンマを抑えるには、アメリカと同盟諸国は、北朝鮮との交渉を通じた不満足な取引に応じるしかない。すなわち、北朝鮮がミサイル開発と核実験を凍結する代わりに、経済的、外交的な譲歩を与えること、あるいは、米韓軍事演習を一時的に中止することだ。

そのような取引は過去に試みられたが、すべて失敗に終わった。長期的に観て、アメリカは北朝鮮の核ミサイルと共存するしかない。1940年代にソ連、1960年代に中国を、ワシントンは核保有国として受け入れた。同時に、核による報復で抑止し続けたのだ。金正恩も同じである。

北朝鮮の脅威を緩和するために、ミサイル防衛システムへの投資。特殊部隊から精密誘導爆弾、低レベル核爆弾など、報復能力の改善、といった他の努力が続けられる。核を使用するケースについて、日本や韓国との話し合いが行われる。地域全体での通常兵器による軍事力拡大も、冷戦期に行われた。

いずれも好ましい解決策ではない。しかし、問題を解決することではなく、管理することだ。最悪の問題は、トランプがこの不完全なアプローチに対する忍耐と平静を持たず、非現実的な期待を高めて、勝利できる、と主張することだ。それは核時代の歴史に反している。


 核廃絶への道

Project Syndicate AUG 16, 2017

The Wrong Way to Prevent Nuclear War

CARL BILDT

世界から核兵器を廃絶することは,言うほど簡単ではない.冷戦終結後,アメリカとロシアは保有する大量の核兵器を80%削減した.しかし,その後は一層の削減が進まない.1968年の核拡散防止条約は重要な役割を果たしてきた.

他方,NPTの欠陥に対する不満から,7月,核兵器を禁止する条約が提案された.これには,深刻な欠陥がある.1.核保有国が支持していない.2NPT体制を弱体化させる.3.拡大された核抑止を非合法化する.

当初の提案には,核兵器による抑止を禁止するとはしていなかった.これは重大な変更である.拡大された抑止が失われたら,各国は核武装するしかない,と思うだろう.日本は,そのような核の傘なしに,中国の核兵器や北朝鮮のミサイルから,どうやって安全でありうるのか? 抑止を否定することで,世界は一層安全でなくなるだろう.

国際世論を高めることで,核廃絶が進むと期待したのかもしれない.しかし,それは政治的な空論である.中国,イスラエル,パキスタン,ロシアなど,彼らが国際世論の批判に応じて,核兵器を破棄することはない.むしろ,そうした国の世論は核武装を強く支持している.核兵器は,彼らの安全を保障し,彼らの世界的な構想を支持する前提であるからだ.

実際には,各地域の紛争解決と,より使いやすい核兵器の開発や保有を禁止する条約が,個々に積み重なって,核廃絶に向かうのだ.


 トランプ外交と狂人

FT August 14, 2017

America is now a dangerous nation

Gideon Rachman

アメリカは「世界平和に対する脅威だ」というのは、長年、ロシアやイランのプロパガンダであった。しかし今や、西側同盟を支持する人々も、その言葉にいくらか真実が含まれていることを認めなければならない。ドナルド・トランプの下のアメリカは、危険な国家になった。

この1週間で、北朝鮮、ヴェネズエラ、国内の白人至上主義運動について。トランプ大統領の示した反応は危険なものだった。アメリカの同盟諸国がワシントンに期待する、着実で、予測可能な、冷静な指導力とは逆のものだ。さらにホワイトハウスの大統領顧問、Sebastian Gorkaは、戦争の脅威が国民を大統領の下に集めるだろう、という考えを示した。

トランプの出現は、アメリカ社会の抱える危機の兆候であった。それは消滅するどころか、ますます深刻化し、国際システムを破壊しつつある。

FP AUGUST 16, 2017

Things Don’t End Well for Madmen

BY STEPHEN M. WALT

トランプ大統領は,「予測できない」ことを重視する.気に入らない者は解雇する.こうして同盟者や顧問たちを恐れさせる.非合理的で,激情に駆られる人物は,何をするかわからない,と.

言い換えれば,これはいわゆる「狂人外交論madman theory of diplomacy」である.それは,かつてリチャード・ニクソンがベトナム戦争を有利に終わらせるために,ベトナム人たちが自分のことを狂人だと信じ,核のボタンを押すかもしれない,と恐れて和平会談に参加するよう望んだ,という話に由来する.

しかし,大声を上げる酔っ払いがいても,人は彼と目を合わせるのを避けるだけで,何も彼に自分の車のキーを差し出すことはないだろう.そもそも,こんなアプローチが国際外交において成果を上げたという証拠があるのか? 狂人の指導者について,考えてみるべきだ.

カダフィ,毛沢東(多くの歴史的成果を上げた指導者で,必ずしも狂人というわけではないが),イディ・アミン,サダム・フセイン,ポルポト,ヒトラー,キム一族,・・・

つまり,狂人外交論が成功した証拠はない,ということだ.他国は,予測できない,強力な指導者を,注意深く扱うが,大幅な譲歩などしない.狂人は今強いとしても,それがさらに強くなるようなことはすべきでない.宥和策は必要かもしれないが,それは窮状を抜け出し,疑念を取り除き,より無害にするために,双方にとって有益な関係をもたらすからである.

予測できない指導者が外交で成功しないのは,信頼できる同盟相手が得られないからだ.また,狂人は長期的な戦略を立てず,近代的な国家に必要な巨大組織を管理できない.狂人が栄えるのはカオスの中,内紛や王位継承争いの中だけである.

予測不可能であることはスポーツやポーカー,あるいは,戦場でも意味があるかもしれないが,大国の外交方針としては失敗する.


 世界金融危機の回顧

FT August 15, 2017

From Lenin to Lehman — the big lies

Martin Sandbu

今年は2つの歴史的事件の記念の年である。ロシア革命から100年。世界金融危機から10年だ。これらは一見した以上に共通点がある。

20世紀の最も長期に及んだ論争とは、集権的な計画と分散的な市場と、どちらがより効率的に資源配分できるか? というものだ。

ロシアの共産主義体制は、2つの虚言に依拠していた。1つは、平等な社会、連帯と自己実現の社会、という理想を裏切ったこと。もう1つは、欺瞞と自己破壊に基づく経済システムであったことだ。彼らは豊かさを実現できなかった.「彼らは給与を支払うふりをして、われわれは働くふりをした。」

論争においてハイエクは正しかったが、世界金融危機はその不十分な点も明らかにした。それは、金融資産について、その価格メカニズムが同じことを実現しないことだ。ソ連の体制の大きな嘘に匹敵する、資本主義の嘘だった。金融資産が代表するのは、われわれの社会が必要とする価値ではない。

市場リベラリズムは信用を失った。左右のポピュリストたちが求めているのは、混合経済mixed economyの黄金時代に向けるノスタルジアである。

Project Syndicate AUG 17, 2017

The Lost Lesson of the Financial Crisis

MOHAMED A. EL-ERIAN

世界金融危機によって,先進諸国の政策担当者たちも,新興経済が通貨・金融危機から学んだことと同じことを学ぶべきだった.それは,成長モデルが偏っている,ということだ.一部の者に富が集中し,成長の潜在力を発揮できない.しかし,その後の回復は,彼らが危機を一時的なものとして,正しい教訓を学ばないまま,将来の成長を損なうモデルに復帰してしまった.極端な不平等を是正し,包括的な成長モデルを築く,歴史的なチャンスが失われたのだ.


 経常収支不均衡の神話

Project Syndicate AUG 11, 2017 6

The Deficit Tango

Charles Wyplosz

経常収支不均衡に関する神話に振り回されてはいけない.

現在,黒字国は需要を奪うとして赤字国に非難され,赤字国は浪費を黒字国に非難されている.2000年を過ぎて,対外不均衡が危機に至る,と警告されていた.しかし,世界金融危機の原因は金融機関が過度にリスクを取ったからであり,それ以前の金融自由化と金融規制・監督の失敗が危機を生んだのだ.経常収支均衡は危機に関して連動していない.

確かに,ユーロ圏内では,大幅な持続的赤字国が激しい危機に苦しみ,黒字国は危機を回避した.しかし,オーストラリアは,1975年以来,ずっとGDPの平均4%という赤字国であった.しかし,その後の危機や不況を回避している.

反対に,スイスの経常黒字は,1981年以来,GDPの平均7.8%もあった.2010年には14.9%というピークに達した.しかし,危機はスイス経済に深刻なダメージを与えた.苗ならスイスの2大銀行が大きく傷ついたからだ.

19世紀のアメリカは,巨額の,持続的な赤字を出した.アメリカの人口増加と広大な面積を満たす巨額の投資には,外国からの借り入れが不可欠だった.その大部分について,投資は非常に生産的であったし,外国の貸手を豊かにした.逆に,2000年代のギリシャは非生産的な消費を続けるために借り入れた.

たとえ良い投資でも対外借り入れの増加は脆弱性を増す.しかし,政策担当者たちは,兆候ではなく,その脆弱さの原因に注目すべきだ.民間債務を適切に規制し,監視するべきだ.政府債務は,IMFが提案しているような,国際的な債務処理メカニズムを実施するべきだ.


 Brexitとノルウェー

Project Syndicate AUG 15, 2017

Britain’s Road to Perdition

ANATOLE KALETSKY

完全な離脱は遠のいた.2019年ではなく2021年までEUに従う.投票権は持たないが.

しかし,それでも新しい条約を結ぶ時間が足りない.2021年に向けた「断崖」が近づくだろう.

1994年,ノルウェーがEU加盟の国民投票で否決したため,一時的な措置としてEEAができた.その後24年間,それが維持されている.イギリスもこの枠組みに参加できるだろう.幸い,EUはすでに,ゆっくり,2重構造に向かっている.それは,連邦主義者の考える「2スピード」アプローチではない.デンマーク,ポーランド,スウェーデンのような国がユーロ圏の外に作る経済協力圏だ.将来もユーロ圏や政治統合に参加しない.

しかし,問題もある.こうした意向に関して,EU加盟諸国やイギリス国内で反対が強まることだ.たとえイギリスが再加盟を求めても,その条件は悪くなり,ユーロの採用を求められるかもしれない.残留を支持した人々にも不満が生じるだろう.イギリスは,石油資源も,社会的な結束もない,ノルウェーになってしまう.

すでにBrexitによる経済の悪化が現れ始めている.最終的にBrexitが実現するまで,事態が一層悪化しなければ,前進できないのかもしれない.


 第3共和制に向けて

FP AUGUST 15, 2017

It’s Time to Found a New Republic

BY DARON ACEMOGLU, SIMON JOHNSON

アメリカは,18世紀から同じ政治形態のまま維持されてきたのではない.19世紀の末,厳しい挑戦を受けて,「第2共和制」とも呼べるほど根本的な転換を果たしたのだ.現在,われわれが直面する政治・経済的な機能不全は,再び根本的な制度の核心を求めている.すなわち,第3共和制である.

1900年までにアメリカが問題に陥ったのは,成長を加速する技術革新が広まったからである.その直接の利益は少数者に集まり,多くの国民は将来に不安を感じた.アメリカの共和制は,奴隷制や南北戦争だけでなく,20世紀の初めに機能しなくなっていただろう.改革の主要な推進力は,進歩的な社会運動であった.それは技術変化や寡占体制に応じて現れた.

当初,アメリカ独立革命を実現した社会は,東海岸に小さな商業活動があるだけで,ほとんど農業が支配する社会であった.南北戦争の直前,アメリカの横断には少なくとも3週間かかった.しかし,それからの時代に15万マイルを追加した世界最大の鉄道ネットワークにより,わずか4日間で移動できるようになった.穀物,工業製品,人間の移動可能性が一気に拡大したのだ.統一された国民市場の出現で,巨大企業は可能になっただけでなく,さまざまな産業で避けられないものになった.零細企業は,潤沢な金融を受ける大企業によって吹き飛ばされた.

生産性の上昇は多くの機会を生み出したが,市場の支配や略奪的な価格設定も行われた.1860年代半ば,クリーブランドの精製業者として競争していたロックフェラーは,1890年代初めに,スタンダードオイルの会社組織を通じて,全国の石油精製とパイプラインのおよそ90%を支配した.さまざまな分野で「トラスト」を介した独占状態が現れた.その企業家たちはアメリカの政治も支配するようになった.

市民や労働者たちは,衝突や闘争によって支配に抵抗し,公平な分配,より高い賃金や労働時間の短縮を求めた.たとえば,the Great Railroad Strike of 1877, the Great Southwest railroad strike of 1886, the Carnegie Steel strike of 1892, the 1894 Pullman Strike, and the anthracite coal strike of 1902

進歩派は,都市の改善(汚職・貧困の減少)を目指す市民たちと,大企業の横暴を批判する政治家たちとの,緩やかな連合体であった.運動には混乱や間違った考えも入っていたが,それが達成したものは偉大であった.1890年のシャーマン反トラスト法がそのよい例であった.1914年までに,20年前に起きつつあったアメリカの姿とは全く異なる方向へ,道が選択されていた.連邦税制は,富裕層から貧困層への再分配を行う手段となった.法廷で,議会で,選挙で,闘いは続いた.

1945年以後,アメリカは成長を加速し,所得分配の底辺においても,その恩恵をもたらした.アメリカ経済はグローバル化し,アメリカ市場は開かれて,さまざまな分野で世界がアメリカ製品を理想とした.しかし,1980年代までに世界は大きく変化していた.人々は雇用が失われて,遠くの土地で生産された商品が輸入され,半導体やコンピューターが自動化するのを恐れるようになった.良い職場を追われた労働者たちは,同じような条件で仕事を見つけるのがますます難しくなった.

技術革新がすべてのアメリカ人を豊かにする時代は終わった.生産性の上昇は,企業の所有者,すでに高所得の高度な教育を受けた労働者に利益をもたらした.グローバリゼーションに参加した企業は所得に対して税を支払わなくなった.19世紀末のように,機能しない経済,現状維持に対する政治的不満が,トランプの選出につながった.

われわれは繁栄を分かち合うことに向けて集まる必要がある.生産性の上昇が,高賃金の雇用を増やし,技術革新やグローバリゼーションによって失われる職場に対する再分配のよりよい方法を見いだすべきだ.

ビッグデータに依拠した産業支配に対抗して,反トラスト法を見直すべきだ.教育やソーシャル・ネットを改善するべきだ.ベーシックインカムは助けになるが,十分でも適切でもない.むしろ高度教育を無料にする方がよい.ロボットやグローバリゼーションに対しても税制によって制御する余地がある.政治システムを富裕層の影響から切り離すべきだ.そのためにはデータ処理のテクノロジーが効果的である.大企業や公人は,データに関する公開を強く求められるだろう.そして,司法が強化される.

アメリカの諸制度は大規模かつ根本的な変化を遂げてきたし,再び遂げるだろう.アメリカの第3共和制が,産業に影響を及ぼし,民主主義を強化する.


 南シナ海とアメリカ

FP AUGUST 17, 2017

Stop the South China Sea Charade

BY ROBERT A. MANNING, JAMES PRZYSTUP

南シナ海を,まるでアメリカの東海岸のすぐそばにあるかのように思うことはない.それはアメリカの死活的な利益を意味しない,そのことを中国は知っている.確かにシーレーンは重要だが,アメリカと中国はその平和に対して利益を共有している.アメリカにとって南シナ海の領有権問題は,複雑な米中関係を管理する問題の,ごく一部でしかない.

中国は,アメリカに新しい現実を受け入れさせるように行動するはずだ.さまざまな方法を駆使して.アメリカも,中国がこの地域で重要な役割を引き受けることを求めている.それが21世紀の新しいバランスだ.

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The Economist August 5th 2016 

It could happen

North Korea’s missiles: Testing, testing…

War in Korea: Red lines and bad choices

Phoenix economies: When the news gets better

(コメント) 北朝鮮の核危機に関する分析は変わりません.しかし,双方の警告と制裁がエスカレートして,金正恩が譲歩する前に一定の軍事攻撃を行った場合,それが核を含む全面戦争に向かう危機であるとアメリカ側は誤解し,全面的な制圧を命令する.短期間で報復のための軍事力を奪われると確信した金正恩が,核ミサイルを発射する機会を失う前に,ソウルや日本,アメリカに及ぶ標的に向けて発射する命令を下し,アメリカの防衛システムを抜けていくつかが到達する.これに応じて米軍も核を使用する.・・・というフィクションが描かれています.

パキスタンについて,改革を進める場合は,経済が崩壊する状態からよみがえる「フェニックス経済」が適応できる,という話です.

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IPEの想像力 8/21/17

「国際政治経済学は死なない」という研究ノートを書きたいです。ざっくり、こんなことを考えています。

貿易摩擦というのは、保護主義によって国内産業を保護することにもなれば、為替レートの変更や貿易パターンを介した相互の調整過程を受け入れることもあるし、あるいは、融資によって調整を延期し、不均衡の拡大を持続する場合もあるのです。それはなぜか? いずれの対応が正しいのか? なぜ激しく対立する場合もあれば、まったく問題にならない場合もあるのか?

IPEが誕生したのは、貿易と投資・融資をめぐる摩擦や対立が各国の政治過程において死活的な重要性を示すときでした。研究者たちは、国際収支不均衡の調整過程が、帝国の拡大や戦争とパラレルな関係にある、と気づいたのです。

それは意識されずに形成されていた、国家を超える政治経済過程が、市場を介する機能的な、円滑な統合化から、政治摩擦や一方的なルールの強制に変質したからです。国境を超えて、社会的な広がりのある問題、不況や金融危機、紛争の事例について、共同で最終的解決策を示し、強制を試みるからです。

私は通貨・債務危機と移民危機に注目してきました。危機が示すのは、日常の政治化です。発達した市場が示す諸問題は、身分制の社会から解放された、平等な市民の間にも、深刻な社会対立、秩序の問題が生じていることを意味します。資本主義システムが、しばしば莫大な富をもたらす生産技術や情報、組織化の拡大でありながら、その分配や権力・権限のありかたには大きな格差が生じていることを、人々は問題にしました。特に、極度な貧困状態が集中的に現れる地域、階層、不満の蓄積する時期に、それが政治権力と秩序の正当性を揺るがせたのです。

社会制度や国家による調整・介入のシステムを、政治的に再編する社会運動の誕生は、市場システムとパラレルなものです。紛争・対立は、既得権や政治エリートから、ダイナミックな政治を市民たちが取り戻すうえで欠かせないものであったと思います。少なくとも、国境の内側では、秩序が直ちに内乱や戦争状態に陥らないよう、制度や規範が重視されていたからです。

いつか国境を超えて世界でも、そのような市民的ネットワークによる戦争状態の回避が、人々の政治に対する信頼を得るのに不可欠なものとなるでしょう。今は、違います。むき出しの暴力や不正義が日常的に社会を圧倒する地域が、まだまだ存在するのです。

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IPEというのは、帝国主義論(軍事的な拡大や植民地化)であり、国際通貨制度、国際金融市場の政治的な利用・受容に関する合意なのです。ロシアの社会主義革命が、それ自体、失敗で終わるまでの過程で、資本主義システムは進歩的な改革を取り入れてきたと思います。グローバリゼーションとIT革命後の社会でも、資本主義システムの危機を抑える諸制度が、各地の政治システムを介して再編されるでしょう。

帝国主義は、かつて軍事的な侵略によって政治的秩序を改変しました。しかし今、それは多国籍企業の直接投資やサプライ・チェーンの構築であり、金融・情報ビジネスのネットワークが円滑に機能する領域、それゆえ、共通通貨や安全保障共同体に関する制度や思想が共有されるダイナミックな政治経済圏の構築なのです。

金融ビジネスが主導したグローバルな資本主義は、まだ、その寿命を終えていません。しかし、ユーロ危機やBrexit、トランプのアメリカは、その終わりの始まりであったと思います。それと同時に、北朝鮮の核危機が、アジアの成長の時代の終わり、中国とアメリカの第2次世界大戦後の関係を見直す事件となりそうです。

つまり、市場統合と政治統合が、深い意味で、連動して危機と社会システムの再編を模索する歴史が続く限り、IPEは死なない、と思うのです。

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