IPEの果樹園2017 

今週のReview

8/14-19

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トランポノミクス ・・・トランプ外交 ・・・安保理決議の後 ・・・中国共産党と市場 ・・・愚者たちの社会主義 ・・・アジアの安全保障 ・・・メキシコの二重経済

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 トランポノミクス

Project Syndicate AUG 4, 2017

A Dim Outlook for Trumponomics

NOURIEL ROUBINI

トランプの経済政策に関する最大の疑問は、金融市場と実体経済との乖離である。

株式市場の投資家たちは、今なお、成長を刺激し、企業の利潤を増やす政策を、トランプが追及することに期待している。さらに、賃金上昇が起きないことはインフレが連銀による金利引き上げを促さない、金利の正常化は遅れる、と考えている。

低い長期金利、ドル安、というのは株価にとってプラスであり、トランプのビジネスに好意的な姿勢は個々の株価に好材料だ。トランプ政権の機能不全も、恐れられたほどではない。

しかし、政府の経済政策は今後も実現しそうにない。オバマケアのやり直しは失敗し、今後の税制改革も容易でない。労働者たちを助け、景気を刺激するには、富裕層への増税と労働者や中産階級への救済策を考えるべきだが、トランプは逆である。減税の80-90%は上位10%の富裕層に与えられる。

労働者の消費が少ないから、企業の投資への意欲が弱い。1兆ドルのインフラ投資はまだ現れていない。

貿易に関して、良いニュースも悪いニュースもあるが、過激な保護政策や貿易戦争は選択しなかった。しかし、「アメリカ製品を買え、アメリカ人を雇え」という主張は変わっていない。TPPを破棄し、EUとの貿易投資協定も交渉を中止した。NAFTAや韓国とのFTAも再交渉を求める。北朝鮮との核危機で中国が協力しなければ、貿易戦争が始まるだろう。

トランプは移民を規制することでも潜在成長力を損なっている。金融規制の緩和が成長を高めるより、それを弱めるだろう。資産バブルの発生につながることもありうる。

パリ協定からの離脱は、環境規制の撤廃とともに、生態系の破壊をもたらすだけでなく、グリーン・エコノミーの産業における成長を抑える。労働者の権利を保護する姿勢が弱まれば、労働者の交渉力が低下し、賃金の停滞、消費の低迷が続くだろう。

金融市場と実物市場とのギャップは拡大しつつある。豊富な流動性と非合理的な楽観がもたらす株価の過大評価は、経済のファンダメンタルズを反映していない。市場の調整は避けられず、わからないのは、そうなったときにトランプがだれを攻撃するか、ということだけである。


 トランプ外交

FP AUGUST 4, 2017

The Top Five Foreign-Policy Blunders Trump Hasn’t Made Yet

(But still might.)

BY STEPHEN M. WALT

ドナルド・トランプは、彼自身にとって最悪のケースになりつつある。すなわち、弱い、無能な、笑い者だ。共和党の幹部が選挙戦中に指摘したように、彼が大統領執務室に向かないことは明白だった。それにふさわしい訓練も人格も欠いており、助言を聞く耳を持たない。

私はここでさらに批判するのではない。むしろ助けたい。トランプの最初の6か月間は、まだ起きていない、多くの外交の大失策をわれわれは免れた点で、幸運だった。彼は絶望的になるほど、自分の無能さから目をそらすために、外国で問題を起こすだろう。

それゆえ彼がまだ冒していない最悪の外交の失策を5つ指摘しておく。これらを避けることが公共の利益である。

1.北朝鮮との戦争。北朝鮮と戦争しても事態は悪化するだろう。抑止するべきだ。

2.イラン核合意の破棄。3.貿易戦争の開始。4.アフガニスタンへの増派。5.ウクライナへの武器援助。

FP AUGUST 8, 2017

Donald Trump Is Defining Successful Foreign Policy Down

BY STEPHEN M. WALT

国連安保理の決議がトランプ外交の成果であると称賛するのは早すぎる。この決議は、外交として、同盟諸国に歓迎されるだろう。しかし、アメリカの目標は何も達成されないだろう。


 安保理決議の後

The Guardian, Sunday 6 August 2017

The UN vote against North Korea shows the system working – for once

Mary Dejevsky

土曜日に国連安保理は決議2371を全会一致で承認した。こうしたことが安保理で常に起きているわけではない。石炭、鉄鉱、銅の販売禁止を含む、北朝鮮に対する厳しい制裁を求めるものだ。

アメリカは合意を得るために譲歩した。中国やロシアが賛成するかどうか、あらかじめわからなかった。ティラーソンは語った。(決議により)「われわれは体制転換を求めない。体制の崩壊を求めない。朝鮮半島の再統一を加速させない。われわれの軍隊を38度線より北に移動させる口実にしない。」

ティラーソンはまた、条件付きではあるが、直接対話や安全保障に関する提案も行った。ピョンヤンは今や核保有を破棄することなどないが、その保有に関する交渉なら関心を示す。

FP AUGUST 7, 2017

How to Learn to Live With a Nuclear North Korea

BY DAVID LAI, ALYSSA BLAIR

アメリカは北朝鮮が核兵器を開発するのを阻止するために25年間を費やしたが、それに失敗した。

北朝鮮が核開発に成功したのはずっと以前であった。今は、その技術を高め、長距離輸送システムを開発中だ。

北朝鮮の核兵器を取り除くことは永久にできないだろう。もしアメリカが軍事的にそれを実行すれば、非常に危険な、流血の事態につながる。

しかしアメリカはまだ北朝鮮の挑発に対する間接的な対処にとどまっている。北朝鮮の求める関係正常化や両国間の敵意を取り除くことは、長期的に追求されるが、当面は無視されている。

このシナリオにおいては、トランプ政権は2つの点を明確にするだろう。1.挑発は自殺行為だ。もしアメリカや同盟諸国、韓国、日本に核兵器を発射すれば、北朝鮮は消滅する。2.もし挑発を止めるなら、アメリカは朝鮮戦争の正式な和平条約と、たとえ北朝鮮が核兵器を保有したままでも、関係正常化をする。

現在、こうした提案は政治的に受け入れにくいものだ。それはまた、両国間の問題を解決する万能薬でもない。しかし、それによってアメリカは北朝鮮の核によるミサイル攻撃の主要な標的ではなくなる。その挑発に対応することもない。敵意を排し、両国政府と人民が直接の関係を持つことで、アメリカは北朝鮮だけでなく朝鮮半島全体を、持続的な平和に向けた道に前進させるだろう。

関係正常化により北朝鮮の核開発を阻止するチャンスはあった。最初のチャンスは、冷戦終結の劇的な転換期であった。ソ連崩壊後のロシアは、経済的な動機で、1991年に韓国との関係正常化を進めた。おそらく同じ理由で、中国も驚くほど即座にそれに従った。2つの大国は、また1992年、2つの朝鮮を国連の正式メンバーにすることを推進した(当時、どちらもオブザーバーであった)。しかしアメリカは関係正常化を進めることに失敗し、北東アジアの冷戦システムを維持したのだ。

対立する双方が2つの朝鮮国家を「相互承認」する、というアイデアを示したのはヘンリー・キッシンジャーであった。当時は誰もその考えを支持しなかったし、冷戦後の激変を予想しなかった。

もし関係正常化と和平が実現していたら、北朝鮮は核兵器を必要としなかっただろう。彼らはロシアと中国に見捨てられ、アメリカ、日本、韓国の敵意に引き続き直面していると感じた。そして国家の生存のためには、核兵器が絶対に必要だ、と考えた。

アメリカはこの10年間の6か国協議において、再び、そのチャンスを逃した。北朝鮮は関係正常化を求めていたが、アメリカは、北朝鮮が「完全な、検証可能な、不可逆的な武装解除」(CVID)を、しかも最初に踏み出すことを主張した。アメリカは、このCVIDを究極目的とみなす失敗を犯して、北朝鮮の安全保障に関する懸念を扱わなかったため、話し合いは行き詰まった。しかし、北朝鮮のような弱い国家が、最初に武装解除することなど、期待するのはどうかしていた。6か国協議は崩壊し、オバマ政権の「戦略的忍耐」に変わっても、アメリカの目標は達成できず、北朝鮮は軍備を強化し続けた。

北朝鮮を交渉の席に就かせるためには、アメリカは非核化を前提条件にすべきではない。ピョンヤンは決して受け入れないだろう。

ワシントンは正常化を冷静に考えるべきだ。それは敵を利することではなく、政府とその統治する国家を現実として認めることである。両国は互いの主権を認め、政府と人民が規則的な、直接の関係を結ぶ。フランスとエストニアを除いて、ヨーロッパはすでに北朝鮮と関係正常化した。アメリカも続くべきだ。

正常化は、北朝鮮の行動を容認するものではない。また、他国における体制転換や人権問題に関する特定の政策を意味するわけでもない。人権団体は北朝鮮で直接に活動するだろうし、アメリカの企業やブランドは北朝鮮に浸透する。アメリカと北朝鮮の直接的な経済相互交流が、アメリカの長年求めて実現しなかった変化を、もたらすだろう。

北朝鮮の核武装は、インド、パキスタン、イスラエルのケースと異なる。これらの国は核拡散防止条約(NPT)に違反しているが、アメリカに対する敵意を明確に示して、直接に格ミサイルでアメリカを狙っているのは北朝鮮だけだ。アメリカはその深刻さを解除できる。アメリカが北朝鮮と関係正常化すれば、日本や韓国も続くだろう。

核武装した北朝鮮は、アメリカではなく、なによりも中国の問題になる。そうなれば、朝鮮半島の非核化は中国の全面的な支持を得るだろう。

今すぐでも、遠い将来でも、戦争になると思えば国家は武装する。もはや脅威がないと思えば、武装を解除する。それが基本的な真実である。

FP AUGUST 9, 2017

The Game Is Over and North Korea Has Won

BY JEFFREY LEWIS

すでにゲームは終わった。北朝鮮の核攻撃がアメリカ本土やソウル、東京に届くことをわれわれは認める。

NYT AUG. 10, 2017

It’s Not Too Late on North Korea

By SUSAN E. RICE

北朝鮮の好戦的で派手な主張には驚かない。しかし、トランプ大統領の反応こそが予想外で、危険なものあった。その発言、“they will be met with fire and fury like the world has never seen.” を、もし金正恩が信じたら、先制攻撃を始めて、朝鮮半島は戦争状態になるだろう。

われわれは注意深く「予防的な戦争」に関して研究した。それは、たとえ数百万人ではないとしても、数十万人の犠牲者を出すだろう。ソウルの2600万人の市民は境界線からわずか35マイルでしかないところにいる。韓国や日本には数万人規模のアメリカ兵とその家族が住む。

しかし、戦争は予防のために必要ではない。歴史が示すように、われわれは北朝鮮の核に耐えられるし、耐えねばならない。冷戦においては、はるかに強大なソ連の核の脅威に耐えたのだ。

プラグマティックであることだ。第1に、われわれは北朝鮮を正当な核保有国として決して認めないが、北朝鮮がその核兵器を破棄することはないだろうと知っている。金正恩は、悪質で、衝動的だが、非合理的ではない。それゆえわれわれは伝統的な抑止論に従うべきだ。

2に、アメリカは無謀な主張を即座にやめる。第3に、われわれはミサイル防衛システムやその他の防衛力を高め、同盟を強化する。第4に、北朝鮮が核プログラムを維持するコストを高める。最後に、中国と対話し、追加的な努力と朝鮮半島非常時、さらに北朝鮮の核廃棄に向けた外交を復活させる。

核危機を回避し、北朝鮮の脅威に対抗するのは、合理的で着実なアメリカの指導力だ。

NYT AUG. 10, 2017

Be Strategic, Not Impulsive, on North Korea

Thomas L. Friedman

ドナルド・トランプと金正恩、彼らを止める顧問はいない、2人の指導者が核兵器の発射ボタンに指を措いて互いを脅迫しているとき、誰が眠ることなどできるだろうか?

まともな大統領なら、アメリカで最もアジア・中国問題に詳しい専門家Jeffrey Baderの賢明な報告書(“Why Deterring and Containing North Korea Is Our Least Bad Option.”)が示したような行動計画を立てるだろう。

彼は、アメリカの戦略家が核武装した敵に直面したときの、最善の問いから始める。ケナンGeorge Kennanならどうするだろうか? 「状況は受け入れがたいが、短期的な解決策はない。北朝鮮の問題とはその1つである。」

ケナンがソ連を理解したように、Baderは、体制転換を目的にした戦争を考えることはできない、また、彼らの生存はアメリカへの敵意に依存している、とすれば、唯一の合理的なアプローチは我慢強く封じ込め、抑止し、圧力をかけることだ、という。しかも、アメリカは北朝鮮よりもはるかに強力で、すべての意味で時間の経過はわれわれに味方する。

北朝鮮の体制はシンプルな選択肢に直面している。核兵器を保持するか、あるいは、無限に続く貧困状態により内部から崩壊するか。

アメリカの提案とは、核兵器とミサイル開発の完全な放棄と、それに応じた外交関係の樹立、経済制裁の解除、経済支援と投資、平和条約である。その提案は何らアメリカの安全保障を損なわず、北朝鮮に、彼らが核兵器開発の根拠とした安全保障を提供する。

北朝鮮がこうした提案を受け入れることはないだろう。金正恩は、核ミサイルによる体制の維持に執着しているからだ。しかし、アメリカの提案とそれを北朝鮮が拒否することは、始まりでしかない。韓国のムン・ジェイン大統領は北との和解を望み、アメリカが示す交渉の提案を歓迎するはずだ。ムンは北朝鮮が提案を受け入れるように強く説得するだろう。それでもピョンヤンが拒めば、ムンはさらに強い封じ込めと抑止を支持する。

提案は、中国に行動を促す姿勢よりも、アメリカが指導権を握り、世界に対する道義的な優位を占めることになる。

FT August 11, 2017

Creative diplomacy is vital to defuse Korean crisis

Kevin Rudd

中国の友人が最近私に注意したように、戦争には独自の論理がある。危機もそうだ。それらはいったん始まると、止めることはむつかしい。

朝鮮半島は、現在、世界で最も深刻な危機の発火点である。3つのシナリオがある。

1.中国が北朝鮮に政治と外交を通じて核を放棄させる。そのために金融・経済制裁を行う。2.アメリカが北朝鮮の核関連施設に一方的な軍事攻撃を行う。3.アメリカが、核と弾道ミサイルを持つ北朝鮮を、現実として受け入れる。

1のシナリオをトランプ政権はもはや無駄と考えている。中国はピョンヤンに敵対するという姿勢を示すだけで、アメリカが北朝鮮を核保有国として認めるまで、自ら動く気はない。

2のシナリオを排除するのは間違いだ。日本や韓国が反対しても、アメリカの決定を阻むことはできない。中国はそれを誤解している。北朝鮮を正常な国家としてアメリカが受け入れることはむつかしいし、トランプの強さを損なう。

しかし、アメリカが軍事的な行動を取るとき、中国がそれを容認するとは前提できない。実際、1950年も、建国間もない毛沢東の中華人民共和国が介入し、アメリカの勝利を阻んだ。北朝鮮のリスクは、米中衝突のさらに大きな問題を含む。

この新しい、危険な時代に、われわれがなすべきことは? 第1に、アメリカの一方的な攻撃を、中国が北朝鮮への外交における信頼できる圧力として認めること。第2に、アメリカは、これが中国にとってどれほど重要な意味を持つか、明確にすること。

もし中国が北朝鮮の非核化に成功すれば、それと交換に、アメリカは朝鮮半島に関するいわゆる「グランド・バーゲイン」を受け入れるだろう。すなわち、ピョンヤンとの和平条約、国家としての承認、体制の安全保障、韓国からの米軍撤退、制裁の解除。

米中が危機の創造的な解決策を見い出せるか、今、問われている。


 中国共産党と市場

FT August 8, 2017

Beijing’s chicanery leaves western business guessing

James Kynge

中国共産党の見えざる手は、市場諸力をしばらくの間は繁栄させるが、それらがより高い目標にふさわしくない場合には、唐突にその自由を奪う。

中国の海外投資には3つのリスクが伴う、と、the China Foresight Project at the London School of EconomicsYu Jie所長は言う。経済的リスク、政治的リスク、そして、峡湾等がどこにでも発言力を持つというリスクである。


 Brexit

Project Syndicate AUG 10, 2017

Revenge of the Experts

BARRY EICHENGREEN

専門家が多すぎる、とBrexitの影響をマイナス評価した研究や調査を軽蔑したMichael Goveは、エコノミストたちの予測が間違っていたことに満足したかもしれない。しかし、それはイングランド銀行の金利引き下げやポンドの大幅な減価があったからだ。

確かに、エコノミストたちは不確実性をうまく扱えない。しかし、時間が経過すれば、その影響はより明確になる。離脱派が主張したようなBrexitは存在しないし、金利や為替の助けも失われる。かつてメキシコ・ペソ危機について偉大な専門家、故Rudi Dornbuschが述べたように、危機はあなたが思うよりも時間をかけてやって来るが、あなたが思ったよりも急速に起きるだろう。


 愚者たちの社会主義

Project Syndicate AUG 7, 2017

The New Socialism of Fools

J. BRADFORD DELONG

主流の経済学によれば、グローバリゼーションはすべての船を浮き上がらせる。分配にはほとんど影響がない。しかし、Dani Rodrikがしばしば指摘するように、関税や非関税障壁の撤廃は、わずかな純利益と、それに比べて大幅な再分配を引き起こす。

経済理論によれば、再分配は、その国の輸出と輸入とで、必要な生産要素の比率が大きく異なるときだけ生じる。しかし、現在の世界経済では、そのような差は存在しない。階級よりもジェンダーの違いが、グローバリゼーションの進展に伴って再分配を生じている。しかし、21世紀の資本主義について、それを取り上げる声はない。なぜか?

1.政治家たちは、投票権を持たない外国や移民を非難する。21世代以上も不平等が拡大し、グローバルな北の諸国は予想外の低成長を経験した。それは政治的、心理的に、スケープゴートを強く求めている。3.中国の目覚ましい成長と、同時に、北側では完全雇用が実現できなくなった。ネオリベラリズムは、市場開放だけでなく、完全雇用や永久に続く高成長を必要とする。

4.積極的な社会政策と、経済的・地理的な再分配がもっと必要だった。現在、グローバルな北側の経験している問題は、1920年代、30年代のケインズが見ていた問題とそれほど違わない。当時、ケインズが注意したように、完全雇用を実現することだ。

またポランニーが論じたように、社会的経済的な権利を保護するのは政府の役割である。人々は、健全なコミュニティーで暮らし、安定した職場、人並みの所得を得る権利がある、と考えている。しかし、こうした権利は、ネオリベラルが認める所有権と希少資源への要求から自然に満たされるものではない。

世界金融危機はグローバルな北側の「大不況」をもたらした。政府は、まだ、そのダメージに対応した行動を取っていない。彼らがすぐに行動しなければ、今後、愚劣な主義主張が蔓延するだろう。


 アジアの安全保障

Project Syndicate AUG 7, 2017

Asia’s Evolving Security Order

LE HONG HIEP

日本とベトナムは戦略的パートナーになれる。アメリカのトランプ政権がアジアの安全保障に関する負担を嫌う中で、中国と対峙する両国が、開発援助から軍備の強化に至る本格的な関係の確立を望んでいる。

それは、ある意味で、オバマ大統領が望んだ「戦略的ネットワーク」を形成するものであるだろう。日本はベトナムだけでなく、同じ懸念を持つ他のアジア諸国、オーストラリア、フィリピン、シンガポール、インドとも協力関係を深めている。

もちろん、日本の第2次世界大戦で果たした役割は問題となる。例えば日本がベトナムを占領した時期に、200万人のベトナム人が餓死した。しかし、天皇の訪問後、両国は和解を進めてきた。


 メキシコの二重経済

Project Syndicate AUG 10, 2017

The Mexican Paradox

SANTIAGO LEVY and DANI RODRIK

メキシコは、1990年代半ばの通貨域の後、マクロ経済の改革に努め、NAFTAにも参加して、大きな前進を遂げた。しかし、その成長は平均で観ると非常に不満足な物であった。その原因は、極端な二重経済が存在することだ。

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The Economist July 29th 2016 

Venezuela’s agony

China’s navy: The new gunboat diplomacy

AI in China

South Korea hairstory: How wigs tell the story of South Korea

Six big ideas: The theory of the firm

(コメント) 中国海軍の増強と,バルチック海におけるロシア海軍との合同演習について,記事は恐れるより歓迎せよ,と述べています.そう,面白い.

中国は世界の経済大国であり,世界貿易に依存している,海洋の安全保障に責任を果たすことは望ましい,と.それは,かつてイギリスやアメリカが世界の海に海軍を送ったのと同じ理由です.そして中国は,アメリカ海軍がアジアとの貿易に大きく依存し,その安全保障を担うことにも理解を示すようになるだろうから.

アメリカは中国にRIMPACへの参加を呼びかけるべきだろう.

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IPEの想像力 8/14/17

雨の心配をしながら、北岳に登りました。台風はないけれど、東日本の多雨をもたらしている気圧配置が、天気図に現れていたからです。(夏山登山、初心者の方は、どうぞ読んでください。)

午前4時、まだ夜が明けない甲府駅前に、予定通りバスは停車しました。武田信玄の像の下、集まるような形で、ここにも整備された甲府駅のバス発着所がありました。その少し手前、大きな駅前通りで夜行バスを降り、ローソンでパンとジュースを買って、私は広河原行き登山バスの乗り場に並びました。

長距離バス・夜行バスとそのシステムが整備され、定刻で走る列車、短時間で移動できる飛行機、さまざまな早期割引・周遊チケット、メインルートのチケットを格安で転売するショップ、さらには高価な超高級列車、さまざまな形をとるフェリーの復活、など、市場メカニズムのダイナミズムが確かに移動・輸送の形態変化を生んでいる、と実感します。ちょっと、ヨーロッパの移動手段や旅行者のイメージと似ているな、と思いました。

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広河原に着いたのは、すでに明るくなった6時半前でした。女性も含めて多くの登山者たちが集まっています。なかなか立派なインフォメーションセンターで、どんな設備があるか、特にシャワーがあるか確認したかったのですが、登山届を出す人などでかなり混んでいました。私は中に入っただけで、すぐに登山道を目指しました。

ヤマレコの写真やYouTubeの動画で観たように、野呂川を渡る大きな吊橋を歩いて、さあ、いよいよ高低差1700メートルの登山だ、と気合を入れ直しました。後で考えると、これは400階か500階までビルの階段を上ることになります。100階建のビルを、エレベーターを使わず、階段を上ることはないでしょう。登山というのは、普通の観光旅行ではありえません。

途中、小さな花をいくつも見かけました。NHK衛星放送でよく観る「百名山」では、高山植物が紹介されます。写真を撮ってくるつもりでしたが、とてもその余裕はありませんでした。カメラを出すことも諦めて、休憩するまで登り続け、くたくたになって休憩するときだけ、ジュースを飲み、写真を撮りました。1度、ザックや服に小さな蝶が群れ集まってきたことがあり、何か不思議でした。まあ、歓迎してくれたのだ、と思います。

まいったな、と何度も弱音を吐きながら、水を飲み、塩分補給の飴や甘納豆を食べ、休憩をはさんで登り続けました。ようやく、小太郎尾根分岐、を示す標識が立っていました。厳しい登りが終わったのです。肩の小屋まで、あと少しです。

肩の小屋へは、その手前に生ビールの看板があり、もう少し歩いた先に、登山者たちがベンチで休み、話している姿を見つけました。しかし、ガスがますます濃くなって、山の姿は全く見えません。着いた、という実感よりも、ここがあの「北岳肩の小屋」なのか? という感じでした。初めて来た標高3000メートルの世界です。

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肩の小屋がどうしてできたのか、その歴史や個性を私は知りません。

13時ころに到着し、最初に感じたのは空腹です。受付を済ますと、カレーライスをたのみました。なかなか、おいしい。福伸漬けと水がついて、ご飯とルーもたっぷりです。私の到着は、早い方でした。寝る場所を指定されて、ザックを持って2階へ上がりました。だだっ広い部屋に、整然と布団・毛布がたたまれています。暖房が効いて、暗く、窓は小さなものだけで、ほとんどありません。

登るにつれて、ガスで視界が全くないことに加え、私はひどい頭痛を覚えていました。こめかみがズキズキして、頭が膨張するような感覚です。小屋で、何とか疲れを取ろうと思い、屋内で横になると、さらに痛みが激しくなりました。まさに、高山病です。それは、まるで深海にいるような気分でした。

小屋のスタッフに訊くと、原因は空気が薄くて酸素が足りないことに体が慣れていないからだ、ということでした。横になってはいけない。呼吸が浅くなるから。むしろ寒くないようにして、外で深呼吸しなさい、と言われました。なるほど。

濃いガスに包まれて、稜線や山容は何も見えず、外で談笑する人はだれもいません。岩や石垣を超えて動く、生き物のような霧の支配する世界です。

その中を、外国の観光旅行者たちが登ってきました。韓国語のようです。そろいの黄色いレインウェアを着て、黒の野球帽をかぶった若い女性たちでした。通訳が小屋のスタッフと話し合っています。すごいな、こんなところまで観光ツアーがあるのか、と感心しました。

ともかく、第1日の終わりは、苦痛の多い、(自分の経験不足、甘い見通しに対する)不安と不満を抱えたものとなりました。食事の後、1階の広間を片付けて歓談するようでしたが、私はそのまま2階で休みました。

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4時半に部屋の明かりがつきました。5時、朝食です。日の出を見たい人はすでに出たはずですが、気づきませんでした。外はまだ濃い霧のようです。

朝食は、塩鮭の切り身、卵焼き、味付けのり、みそ汁、ご飯、などです。よし、大丈夫。完食しました。何度か目覚めましたが、かなり睡眠をとれたし、体が慣れたのでしょう。これなら山頂を極めて、何とか無事に下山できそうです。

どんどん出発する人が続きます。うれしいことに、ガスの切れ目から稜線がのぞくようになりました。山頂は明るさを増しています。

ガスの中から現れる山頂からの登山者たちは、日の出が見えずに残念そうでした。これから山頂を目指す人々は元気です。寒気も心配したほどではなく、防寒用のレインウェアが暑いほどでした。

それは思った以上に長い、険しいルートでした。ロープを張った岩場も乗り越えて、次第に現れる山の姿と岩塊に、日本アルプスを実感します。何度か、登山者たちと言葉を交わしました。

いよいよ山頂です。ところどころ青空が見えました。標識のそばに立って記念写真を撮る人。稜線を指さして仲間に説明する人。地図とコンパスを置いて、山脈の山々を確認する人がいます。富士山を探して、雲の中に見えるとか、見えないとか、騒いでいました。

私が衝撃を受けたのは、北岳から間ノ岳につながる稜線と、そこに小さく見えた北岳山荘でした。小さな、赤い点のように見えるのが山荘です。計画時には、肩の小屋にするか、山荘にするか、と少し迷いましたが、とても行けたとは思えません。その高度は、遠くから見ることで、一層、強烈な印象となりした。地表に住む者の恐怖を刺激します。

稜線を歩く喜びは、一種の神仙思想ではないでしょうか。容易に近寄れないほど険しく、高い山は、仙人たちの世界なのだ、と私は思います。不老不死、自然との一体化、霞や草を食べて生きる人々です。すくなくとも、金正恩やトランプが好んで歩く危険な道ではないでしょう。

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登りも疲れましたが、下山の苦しみはさらにこたえました。山頂では青空も見えたのに、下山し始めるとすぐに雨粒が落ちてきました。これは山の天気というより、気圧の谷でしょう。本降りです。

雨に濡れた岩はとても滑りやすく、木も滑ります。下山の方が足に疲れがたまり、歩幅を狭くしてゆっくり進むべきなのに、つい急いで、大きな歩幅でスリップし、転倒しました。また、急な傾斜を下り続けるうちに、荷物の重さが次第に支えられなくなり、加速してバランスを崩しました。急な坂で足元が少し滑ると、重みに膝が折れました。

まいったな・・・ と、ストックを樹木や岩に立てかけ、ザックを下して長めの休憩を取りました。ザックのポケットで見つけたのは、マラソン用に買ったアミノバイタルです。そして、リンゴジュースをごくごく飲みました。

沢に大きな雪渓が見えました。雨はますます強く降り続いています。

広河原が近づいたころ、女子登山者の巨大な荷物を観て、私は驚きました。どこかの大学の山岳部? でしょうか。女子の体が小さいせいで、背丈にも近い、とりわけ大きな荷物を担いでいるように見えました。何キロあるの? と訊くと、20キロくらい、ということです。数名の部員が登っていましたが、末尾の2人が女子なのです。私は理不尽さを感じました。彼女たちが足を滑らせたり、荷物のバランスを失い重みに振られたら、誰が激しい転倒や転落を防ぐのでしょうか?

静かな広河原山荘を横に観ながら、最初の吊橋を再び越えて、ついに私は野呂川と別れました。

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両足がパンパンに腫れて、腕や指先も痛く、全身疲労です。目を閉じると、岩場や稜線から転落するイメージが浮かびました。壮大な南アルプスは、とても美しいけれど、むしろ畏怖するほど、未経験な領域でした。

アジアの統合化は、北朝鮮危機にも、外国人旅行者の北岳登山にも表れています。核ミサイルより、大陸規模の中産階級と消費文化の出現、ダイナミックな移動・輸送システムが、民主的な政治文化を運ぶ時代です。

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