IPEの果樹園2017
今週のReview
8/7-12
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朝鮮半島の核危機 ・・・戦争 ・・・西側政治同盟の終わり ・・・トランプ政権と政治混乱 ・・・医療保険制度の改革 ・・・ドイツ自動車産業の危機 ・・・NAFTAから保護主義へ ・・・アメリカ経済と労働組合 ・・・非リベラルな民主主義 ・・・ASEAN50周年 ・・・日本モデル
[長いReview]
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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times,
The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate,
SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● 朝鮮半島の核危機
YaleGlobal,
Thursday, July 27, 2017
Can the
United States and a Rising China Avoid Thucydides’s Trap?
Börje Ljunggren
古代ギリシャの歴史家、ツキディデスは、27年に及ぶペロポネソス戦争の歴史を書いた。アテネの興隆とそれによって生じたスパルタの不安が、戦争を不可避にした、と。
ハーヴァード大学の政治学者Graham
Allisonは、大国間の対立について、過去500年間に起きた主要な16のケースを研究した。彼は、「構造的リアリティー」を決定する4つの重要な考え方を指摘する。1.死活的な利益を明確にすること。2.他国の目的を理解すること。3.戦略を明確にすること。4.国家に対する挑戦に対応すること。そして、軍事衝突と予測可能性との関係を重視する。北朝鮮から南シナ海、人民元、人権問題まで、予測不可能な性格の問題が多くある。
幸い、第2次世界大戦後の2つのケースは戦争に至らなかった。冷戦終結とドイツの再統合である。しかし、アリソンは、1962年のキューバ・ミサイル危機が現在の米中対立にとって最も学ぶ点が多い、と考える。
アリソンの主張は、米中が衝突に向かうコースを取らないためには、双方が苦痛のともなう、困難な行動を取るべきだ、ということである。しかし、中国人は、5000年の繁栄を回復することに何の問題もないと考え、他方、アメリカ人は、遅れた農業国から世界史的な役割を担うようになった中国の変化を受け入れない。
2人の指導者も全く異なったタイプである。アリソンは、「構造的リアリティー」を重視し、双方の予測可能性を高めるように求めている。
バラク・オバマは、この点を強く意識して行動した。対抗するパワーを管理する米中間の予測可能なメカニズムを築こうとしたのだ。また、両国がより良い世界のために貢献できることを示そうとした。パリ協定がそうだ。
経済パワーとしてのアジアが世界に影響を及ぼしてきたが、今や、アジアの安全保障が世界を震撼させる。
NYT JULY
29, 2017
We Need a
Radical New Approach on North Korea
By JAY P. LEFKOWITZ
NYT AUG.
1, 2017
Drop the
Bluster on North Korea
By
THE EDITORIAL BOARD
YaleGlobal,
Tuesday, August 1, 2017
The North
Korean Nuclear Threat Widens
Shim Jae Hoon
FT August
2, 2017
The N
Korea stand-off is worse than the Cuban missile crisis
Jongsoo Lee
1962年のキューバ・ミサイル危機よりも悪化した核ミサイル対立を回避するには、新しいアプローチが必要だ。
キューバ危機が破滅を回避したのは、ケネディと側近たち、そして、フルシチョフと政治局は、互いの意図を誤解することがなかったからだ。しかもワシントンは、効果的な行動を取った。海上封鎖である。現在の北朝鮮危機では、指導者たち(トランプと金正恩)が相手の意図を誤解する余地が大きい。また、北朝鮮はキューバと違って島ではないから、海上封鎖ができない(中国は封鎖に協力しない)。
今、アメリカ大統領は、むしろフルシチョフだ。フルシチョフは攻撃的で、大げさな表現を好み、誤解を生むような騒々しい演説をした。
打開策はあるか? ピョンヤンの核・ミサイル開発を凍結するのは、廃棄することまでは無理でも、非常に難しいだろう。もし可能であるなら、それはアメリカとのデタントの一部として、であろう。包括的なワシントンとの合意で、ピョンヤンは、核兵器保有の野心を後退させるというプライド喪失よりも、それを超える大きな経済的、安全保障上の利益を得る。そして、金は鋭敏な戦術家として尊敬される。
第1のステップは、両者のコミュニケーションと接触を改善することだ。それは「和平のアーキテクチャー」である。
想像的な、シンボルになるような和平の行事を推進して、ピョンヤンの関心を高め、相互和解への建設的なムードを創り出すことだ。もしピョンヤンが実験を一時的に停止し、和平交渉に講じるなら、ワシントンはソウルとの軍事演習を一時的に停止してもよいだろう。徐々にエスカレートを解除し、信頼を醸成する。
これをナイーブであると非難する声はある。しかし、こうした試みをしないなら、その結果は核・ミサイル危機の増大であり、ワシントン、ソウル、東京と、北京、モスクワとのグローバルな混乱である。
NYT AUG.
2, 2017
The North
Korea Travel Ban Will Do More Harm Than Good
By
CHRISTINE AHN
NYT AUG.
3, 2017
Let’s Face
It: North Korean Nuclear Weapons Can Hit the U.S.
By
JEFFREY LEWIS
● 戦争
NYT JULY
28, 2017
What If
Hitler Had Invaded Britain?
Timothy Egan
NYT JULY
30, 2017
The Next
War in Gaza Is Brewing. Here’s How to Stop It.
By
NATHAN THRALL and ROBERT BLECHER
NYT AUG.
2, 2017
Dunkirk,
the War and the Amnesia of the Empire
By YASMIN KHAN
南アジアにおけるイギリス帝国から250万人の兵士を使って、イギリスは第2次世界大戦を続けた。しかし、第2次世界大戦に関するイギリスの多くの記念や記録において、彼らのことは忘れられている。Nolanの新しい映画“Dunkirk”でも、そこにいたインド兵は映らない。
第2次世界大戦を記念する行事はイギリス中で観られる。気の利いた戦時スローガン“Keep
Calm and Carry On”は、挨拶状やマグカップ、ドアマットにもある。
しかし、イギリスは戦争の複雑さを正当に扱っていない。イギリスだけが残されても闘い続けた“standing
alone”という意識は、戦争が世界中の多くの場所で、どのような苦しみを与えたかということを、ときに軽視する危険を冒す。
イギリスは常に植民地に頼っていた。第2次世界大戦では、かつてないほど多く、インド、東南アジア、アフリカ、カリブ海域の植民地にイギリスは人、物、支援を頼った。イギリスが第2次世界大戦を戦ったのではなく、大英帝国が戦ったのだ。
イギリスが帝国から大量の食糧供給を得たことで、各地に戦時の食糧不足が起きた。インドでは大規模な飢饉が起きた。少なくとも300万人のベンガル人が1943年の飢饉で死んだ。それは決して議論されたことのない飢饉である。帝国の戦争は、一方で、勇敢さやヒロイズムであったが、同時に、搾取、不確実さ、分断政治でもあった。
ダンケルクの神話は、イギリスが単独で立っていたことを強調する。それはイギリスの歴史をヨーロッパの歴史から切り離し、Brexitの神話を強化したい者たちの政治手段なのだ。
FP AUGUST
2, 2017
How Long
Can China and India Avoid War in the Himalayas?
BY SAMEER LALWANI, YUN SUN, LIV DOWLING
ヒマラヤの高山地帯に展開する,ありえないような光景が,2大国,中国とインドの軍事衝突を導く舞台になっている.外交交渉を重ねて危機を回避できるのか,あるいは,究極の大戦争に至るのか.
ブータンの役割,また,中国が進めるインフラ建設は,ヒマラヤの障壁を変えるかもしれない.
● 西側政治同盟の終わり
The
Guardian, Friday 28 July 2017
After
Trump and Brexit, is this the end for the Anglo-Saxon west?
Timothy Garton Ash
ますます、Brexitそれ自体がイギリスの有権者を苦しめることが分かってきた。ほとんどすべての分野で、Brexitを支持したイギリスの取り残された労働者階級は、自分たちの生活状態が悪化するのを観るだろう。
Brexitを公に支持した有名な政治家としてはトランプが重要だが、アメリカ大統領の人間性がそもそも問題である、と人々は思い始めている。トランプはBrexitを助けることもなく、フランス大統領と歓談した。
トランプが選挙戦で示したすべての悪癖が、そのまま大統領としても流布され続けている。ナルシストで、女性に対する偏見を持ち、規律がなく、情緒的に他人を非難する。政府の主要なポストは指名されないままだ。
ワシントンとロンドン、2つの首都が、これまで一般に安定した効率的な政府を維持したにもかかわらず、きわめて混乱した状態にある。ドイツの首相が、大陸ヨーロッパは伝統的な、海峡や大西洋を超えた同盟国にもはや頼れない、と指摘したのは全く当然である。ロシアも中国も、ハンブルグG20で大笑いした。
西側は終わったのか? 少なくとも、アングロサクソンの西側は? 19世紀のイギリス、20世紀のアメリカ、ソ連崩壊から世界金融危機までの時期において、ネオコンは一種の、アングロサクソンが創った、世界イデオロギーであった。
特にフランスでは、人々がそう考えている。21世紀はアングロサクソンではなく、マクロンとトルドーのような開明的な政策が創るだろう。しかし、それは習近平、ウラジミール・プーチン、レセップ・タイイップ・エルドアンが重要な役割を担う過程だろう。
アメリカの著名なん政治学者と語り合った。アメリカの民主的政治システムは試されている。トランプはチェック・アンド・バランスによって政策を阻止されている。外交において抑制システムは弱いが、共和党が支配する議会が、北朝鮮との戦争を抑え、ロシア制裁を強化した。
アメリカはこの4年間で大きな損害を被るだろうが、修復可能である。イギリスの民主主義も、混乱した議会を通じて、事態の狂気から抜け出し、最も柔軟なBrexitへ、あるいは、BrexitからのExitへ向かうだろう。
だから、アングロサクソンは沈むが、それを頼りにすることはないと決めるのは早すぎる。
Project
Syndicate JUL 28, 2017 6
Trump’s
Middle East Stumbles
CHRISTOPHER R. HILL
NYT JULY
28, 2017
The
Desperation of Our Diplomats
Roger Cohen
FP JULY
28, 2017
The War
Over Who Controls U.S. Foreign Policy Has Begun
BY ELIZABETH ROSENBERG
FP JULY
31, 2017
HOW THE
TRUMP ADMINISTRATION BROKE THE STATE DEPARTMENT
BY ROBBIE GRAMER, DAN DE LUCE, AND COLUM
LYNCH
FP JULY
31, 2017
The Week
Donald Trump Lost the South China Sea
BY BILL HAYTON
FP AUGUST
1, 2017
Donald
Trump Is Pushing America’s Special Forces Past the Breaking Point
BY MICAH ZENKO
NYT AUG.
2, 2017
Climate
Shifts Aren’t Limited to the Weather
Thomas L. Friedman
● ベネズエラ
The
Guardian, Friday 28 July 2017
The
Guardian view on Venezuela: the brink of ruin
Editorial
Project
Syndicate JUL 31, 2017
Venezuela’s
Unprecedented Collapse
RICARDO HAUSMANN
FT August
2, 2017
Sending a
message to Venezuela’s dictatorship
The Guardian,
Thursday 3 August 2017
My fellow
Americans, it’s time to intervene in our failed state
Moustafa Bayoumi
● トランプ政権と政治混乱
Project
Syndicate JUL 28, 2017 6
Trump’s
Growth Charade
SIMON JOHNSON
FT July
29, 2017
Donald
Trump’s presidency is courting self-destruction
NYT JULY
31, 2017
Trump Goes
Rogue
By MATTHEW CONTINETTI
Mr. Priebus and Mr. Spicernの解雇、John Kelly
and Anthony Scaramucciの採用は、トランプ大統領のメッセージである。すなわち、トランプは最初の6か月間を共和党の大統領としてふるまったが、それは終わった。彼の敵は民主党員だけでなく、両党の政治エリートである。
トランプはワシントンとそのすべてを軽蔑している。政府職員、ロビイスト、コンサルタント、戦略家、弁護士、ジャーナリスト、ウォンクス、兵士、官僚、教育課、心理学者。トランプにとって、医療保険制度の改革、オバマケアを破棄できなかったことは、ワシントンが機能しないことの証拠であり、プリーバス、共和党、政治規範からの独立を宣言する理由である。「沼地の水を抜いてやる」というのは、まさに大統領との戦争になった。
われわれが目撃しているのは文化衝突である。トランプの原則は、ワシントンの悪夢である。彼は予定を嫌い、予測不能であることを好む。批判には応えず、誰でも激しく攻撃する。幹部スタッフには何よりも忠誠心を求める。家族とは血とビジネスの利益でつながっている。不確実さは彼の美ジュネス手法である、人々に確実なことを知らせないで不安をもたらし、自分の地位を強化する。
トランプとワシントン政治のスタイルは全く異なる。最近、アウトサイダーの大統領としては、ビル・クリントンやロナルド・レーガンであるが、彼らは政治に長く関わり、ワシントン政治の一部であった。その意味では、トランプに近いのはジミー・カーターである。彼らは閣僚経験がなかった。その所属政党から疑いをもたれていたため、家族に多くを依存した。そして、自分が制御できない事件に振り回された。
トランプはあらゆる戦争で負けるだろう。たとえワシントンの沼地を嫌うとしても、勝利のためには同盟が必要だ。
FP JULY
31, 2017
Donald
Trump Is Already a Lame Duck
BY MAX BOOT
FT August
1, 2017
Isolationism
is killing the American dream
Nitin Nohria
NYT AUG.
1, 2017
Before
Manliness Lost Its Virtue
David Brooks
● ヨーロッパの回復と対立
Project
Syndicate JUL 28, 2017 6
Europe’s
Rocky Recovery
Philippe Legrain
FT July
29, 2017
A clash of
values at the heart of Europe
James Shotter and Tony Barber
● グルジアの元大統領
Bloomberg 2017年7月28日
Why This
Ex-President Ended up Stateless
By Leonid Bershidsky
● 医療保険制度の改革
NYT JULY
28, 2017
Why Health
Care Policy Is So Hard
By N. GREGORY MANKIW
トランプ大統領は述べた。「医療保険制度がこんなに複雑とは、誰も知らなかった。」
なぜこんなに複雑なのか? 他の財やサービスと何が違うのか?
外部性があるからだ。ワクチン接種を考えてみる。その人が病気にならず、感染が広がらない。しかし、そのコストとベネフィットを個人に委ねると、スピルオーヴァー効果を考慮しないから、ワクチン摂取する人が少なくなる。そこで、政府がワクチン接種を促すために介入する必要がある。
医療の研究にも、同様の、プラス効果がある。
病気になった人は、医療サービスや薬が自分にとって良い者かどうか、判断することができない。医師の専門的判断に従うだけである。医療保険の消費者は、そのサービスや薬品に関する規制を必要とする。また、医療費の支払いには、ランダムな形で、個人の財政負担応力に比べて大きなものとなるから、個々のリスク負担を多くの人でプールして対応する。つまり、支払いの多くは本人ではなく、第三者の負担になる。
保健を利用できる消費者は過剰に医療サービスを消費する傾向がある。それゆえ、支払い方法や保険の対象を制限する。医療サービスの市場では、逆選択の問題が生じる。
左派は政府の役割を要求するが、右派は小さな政府を求める。
● Brexitの出口はどこか?
FT July
30, 2017
Britain
can use EEA as comfortable waiting room before Brexit
Stephen Kinnock
FT August
1, 2017
Brexit in
name only and the politics of transition
David Allen Green's blog
FT August
1, 2017
Shape the
contours of Brexit Britain’s final destination
Nick Clegg
Bloomberg 2017年8月2日
Brexit
Reversal? The EU Should Say 'No Way'
By Leonid Bershidsky
The
Guardian, Thursday 3 August 2017
A second
Brexit referendum? It’s looking more likely by the day
Vernon Bogdanor
FT August
3, 2017
Theresa
May’s moment to deliver Brexit with a soft landing
Sebastian Payne
NYT AUG.
3, 2017
As Brexit
Nears, ‘Discounters’ Gain Ground in U.K. Supermarket Wars
By AMIE TSANG
● ドイツ自動車産業の危機
FT July
30, 2017
German
carmakers deserve to be disrupted
Wolfgang Munchau
FT August
1, 2017
Carmakers’
troubles shake Germany’s national psyche
Guy Chazan
1955年8月5日、100万台目のVW Beetleが生産ラインから誕生した。自動車産業は、ドイツ経済の奇跡を表し、敗北と破局からの戦後の復活を示すものだ。多くのドイツ人にとって、Beetleは単なる自動車以上の意味がある。最近の世論調査では63%がドイツ自身のシンボルとしてBeetleを選んだ。大きく劣って、第2位はゲーテである。
2017年の新車発表が、かつてBeetleがそうであったように、大きな革新的衝撃を与えた。Tesla 3が最初の大衆的な電気自動車として現れたのだ。ドイツにおける反応は、魅了、羨望、パニックを等しく集めたものだった。
自動車は、ドイツの自我の中心にある。それは移動手段というより、ドイツの良い部分をすべて蒸留したもの、と見なされている。それは効率性、信頼性、正確性。至上のものを追求する姿勢である。
しかし、自動車産業は生存の危機に瀕している。VWのディーゼル・エンジンに関するデータ改ざんスキャンダルでは、自動車会社が数十年間も共謀していた。それは自動車の評価を損なっただけでなく、ドイツ製品そのもののブランドを損なった。
ドイツの自動車ブランドは、シリコンバレーのもたらす急激な技術革新に脅かされている。カー・シェアリング、電気自動車、自動運転システム。ドイツの自動車会社の重役たちは、その慢心、保守主義、不正行為そのものによって非難されている。
自動車産業、VW,
Mercedes-Benz and BMWは今もドイツの貿易黒字の半分を占めている。しかし、その支配的な役割が脅かされているのだ。Telsa
3が発表された同じ月に、イギリスがフランスの2040年までに化石燃料による自動車販売を禁止する方針に同調した。
自動車が過去の産物になることは、ドイツにとって悪夢である。
FT August
2, 2017
Germany’s
carmakers feel the Tesla shock
John Gapper
FT August
3, 2017
A change
of direction key for German automakers
FP AUGUST
3, 2017
Russian
Hackers Can’t Beat German Democracy
BY JOERG FORBRIG
(後半へ続く)