IPEの果樹園2017
今週のReview
7/31-8/5
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収入の公開 ・・・NAFTA再交渉 ・・・トランプ政権の影響 ・・・中国とアフガニスタンの和平 ・・・ドイツの黒字 ・・・ヨーロッパ銀行同盟 ・・・中国経済崩壊論 ・・・国家から都市コミュニティーへ ・・・北朝鮮の核開発 ・・・グローバリゼーションと政治構造 ・・・減税策
[長いReview]
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● 収入の公開
FT July
28, 2017
Sweden
shows that pay transparency works
Katrine Marçal
それは最後のタブーである。公の場で授乳することはできるが、いくら稼いでいるかを話すことはない。少なくとも、イギリスではそうだ。北欧諸国から見れば、イギリス政府がBBCに、トップ・プレゼンターのサラリーを公表するよう強制することが、論争となっているのは理解し難い。
毎年、スウェーデン、フィンランド、ノルウェーのすべての人の所得税申告書は公表される。スウェーデンでは、誰でも、誰の給与に関する質問でも、税務署に電話で質問し、直ちに回答を得ることができる。給与を調べた人が、調べた人はだれかを知ることはあるが、それだけである。
スウェーデンの同じ職業で、給与の男女差は、平均で6%である。
あなたは隣人の給与や納税額を知ることができる。それは18世紀から続く習慣だ。文化が違えば、プライヴァシーに関する考えも違う。イギリス人は、何百万台も監視カメラで観られていることを気にしないようだが、自分の給与が公表されることは嫌がる。スウェーデンでは逆である。
多くの情報を得ることは、人々により良い決定をもたらす傾向があり、経済を改善するだろう。なぜ給与を例外にすべきなのか?
「個人的な問題とは政治が決めることだ」と、第2次フェミニズム運動は唱えた。女性にとって、多くの政治的な前進は、私的領域と公的領域との境界線を、交渉することで達成されたのだ。
BBCのプレゼンターが得る給与の格差は、イギリス全体の男女の給与格差が示す大きなパターンの一部である。それは平均で18%の差を示す。スウェーデンでは、25人以上雇用する企業は平等化行動計画を設けなければならない。大きな格差を残す企業は罰金を支払う。それでも、男女間の格差は平均で15%である。ジェンダーによる労働市場の分断が平等化を妨げている。
北欧諸国の人々がお金の問題を話すとき、彼らがリラックスしているのは、それがさほど重要ではないからだ。しかし、もっと不平等な社会では、たとえばイギリスのように、人生の平等さは所得に緊密に結び付いており、給与をめぐる会話ははるかに深刻なものになる。
かつてジョン・メイナード・ケインズは、経済学が重要でなくなる世界を夢想した。経済問題は解決されてしまい、われわれはもっと他の問題に関心を向ける。エコノミストというのは、控えめな、歯科医と同じように、有能な人々とみなされるだろう。あなたがどれくらい稼ぐかというのも、お天気と同じような話題になる。
● NAFTA再交渉
NYT JULY
21, 2017
Don’t
Tinker With Nafta. Fix It.
By
JERRY DIAS and DENNIS WILLIAMS
トランプ大統領は北米自由貿易協定NAFTAの再交渉を開始した。その目的は、アメリカの貿易赤字を減らし、アメリカ人労働者の賃金を引き上げることだ、という。われわれは、北米の自動車組み立て・部品供給産業における2つの労働組合、24万5000人の労働者を代表するが、NAFTA再交渉の考えを支持する。
しかし、今週、トランプ政権が発表した目標はあいまいで、アメリカとカナダの労働者が望むものに全く不十分だ。すなわち、貿易の均衡、職場の維持、公正な賃金、である。
1993年、アメリカの自動車のメキシコに対する貿易赤字は35億ドルであったが、2016年にまでにそれは451億ドルに増えた。自動車部品に関しては、メキシコに対するアメリカの赤字が1993年の1億ドルから、2016年には200倍以上の、238億ドルになった。
しかし、メキシコの労働者たちは利益を受けなかった。メキシコの賃金は、1994年にNAFTAが発効してから、実質的な水準が停滞してきた。メキシコの平均的な自動車労働者は、企業が健全な利潤を上げているにもかかわらず、時給が3ドルかそれ以下である。労働基準はなかなか守られず、労働者たちはより良い賃金や労働条件を求めて、その権利や交渉力を行使できないように妨げられる。たとえばEl
Salto, Jaliscoのホンダ工場は、労働組合の指導者たちを解雇し、組合員を工場から締め出した。
多くの例が示す労働者の権利に対する侵害は、カナダやアメリカからメキシコに工場を移転することが基本的権利を欠く労働者とその低賃金を利用したことの、持続的な影響である。メキシコにはまだ、自由で民主的な労働組合運動が発展していない。それこそが問題の核心である。
NAFTAは、平たんでない運動場を作った。
再交渉が意味のあるものなら、アメリカ人、カナダ人、特にメキシコ人労働者に実質的な賃金上昇をもたらすよう、貿易均衡に包括的な焦点を当てねばならない。メキシコ人労働者たちの抑圧された賃金は3か国にとって有害である。
本来の通商協定は、労働者や環境を保護する政府を企業が秘密法廷に訴える企業優遇策を撤廃し、通貨操作のような不公正な貿易支援策をやめさせ、持続的なインフラ投資や、税制・移民法の悪用を阻むものでなければならない。
● トランプ政権の影響
FP JULY 27,
2017
Top 10
Signs of Creeping Authoritarianism, Revisited
BY STEPHEN M. WALT
ドナルド・トランプが当選してすぐに、私は彼が民主体制を崩壊させる警告サインを列挙した。6か月を過ぎて、そのリストを検討するべきだろう。
その評価は、まだ決定的ではない。明確になったサインもあれば、注意に過ぎない、あるいは、まだ否定できるものもある。
今は3つの結論を示せると思う。1.トランプ大統領は憲法を重視しない.その姿勢はアメリカの民主的な諸制度と衝突するだろう.その結果がどうなるか,私は彼が敗北すると前提しできない.2.もしトランプがもっと明敏で,規律ある,有能な政治家であったら,現状ははるかに危険なものであっただろう.彼の無能さは世界におけるアメリカの地位にとって良くなかったが,アメリカの秩序が生き延びることを助けている.
しかし,トランプの任期はまだ3年以上ある.3.真の危険は,急激な全体主義化ではない.むしろ,トランプのおびただしい虚言や愚行,顕著な利益相反,公務員の忠誠を損なう言説によって,こうした人物がホワイトハウスに居座ることが次の世代のアメリカ人をどう変えるか,という点だ.そして,これがアメリカも民主主義の死をもたらす.
● 中国とアフガニスタンの和平
FT July
21, 2017
The stakes
are high for China in Pakistan and Afghanistan
Ahmed Rashid
世界は中国を必要としている。北朝鮮に核兵器開発をやめるよう説得できるのは中国だけだ。また、アフガニスタンとパキスタンの関係が悪化するのを抑え、タリバンを和平交渉のテーブルに就くよう求めることができるのも、中国だけだ。
中国は西アジアに多くの利害関係を保持している。北京は、地域の安定化と自国の利益の両方を追求している。パキスタンには550億ドルを投資して、道路、鉄道、発電所のようなインフラ整備を「一帯一路」として推進し、同様の投資を中央アジア全域で行っている。もしアフガニスタンに平和が戻れば、中国はこの国を同じインフラ網に結び付けることを望んでいる。
しかし、パキスタン西部ではテロ集団によって計画を阻まれ、犠牲者を出した。中国人教師が誘拐され、カブールの中国大使館は自爆攻撃を受けた。北京は、東トルクメニスタン、ウイグル、新疆のイスラム主義運動が協力し、アフガニスタンのタリバンや中央アジア諸グループとともに訓練や攻撃に参加することを恐れている。ロシアと中国は、この地域における諸政府への武器供給と訓練を増やしている。
アメリカはおよそ8400人の兵士をアフガニスタンに駐留させ、さらに数千名の増派を約束しているが、政権が成立して6か月を過ぎても、トランプはカブールに具体的な戦略を示すことができない。そして、中国が行っているような、地域への外交努力も欠いている。
北京はアメリカと同じことを望んでいる。すなわち、タリバンの聖域を消滅させることだ。しかし、その場合も、パキスタンを不安定化することは望まない。
アフガニスタンとパキスタンの関係を修復し、タリバンとカブール政権との和平に合意をもたらすことができるとしたら、それはアメリカではなく、中国である。中国は地域全体に反テロ・ネットワークの構築も試みつつある。
しかし、中国はアメリカのようにアフガニスタンに軍を派遣しないだろうし、アフガニスタンの政府や軍隊を維持する費用を支払うこともないだろう。アメリカはこの地域の安定化に欠かせない存在である。その責任を正しく理解できれば。
NYT JULY 23,
2017
A Peace
‘Surge’ to End War in Afghanistan
By
LAUREL MILLER
アメリカに依存するカブール政府を見捨てて撤退するか、勝利する見込みのない米軍の規模を拡大するか? トランプ大統領は難しい選択に直面している。
アメリカは和平交渉を推進するべきだ。大統領は交渉を指導し、同時に、タリバンが軍事的に勝利できないよう、カブール政府への支援を強化する。それはオバマ政権が失敗した試みであるが、オバマは和平交渉を強く指導しなかった。
各勢力が優位を得てから交渉することを望み、互いに相手の姿勢を疑っている。パキスタンはタリバンに聖域を与え、アフガニスタンの政治制度が自国に友好的な、そして、インドに敵対する性格を望んでいる。タリバンは、米軍がアフガニスタンに残ることに強く反対する。
和平交渉は、イラン、ロシア、パキスタン、何より中国が、安全を担う合意形成を促す場である。
● ドイツの黒字
Project
Syndicate JUL 21, 2017
How to
Reduce Germany’s Surplus
HANS-WERNER SINN
The
Economistは、最近、ドイツの経常収支黒字は大きすぎる、と書いた。それは正しい。しかし、なぜ大きいのか? ドイツの製品が優れているからか? ドイツ人の賃金が低く、十分に消費しないからか? あるいは、ドイツは資本輸出をしており、もっと貯蓄を減らすか、国内投資を増やすべきなのか?
当然、ドイツが経常黒字を示すとき、他国が経常赤字を示している。アメリカは世界の経常収支赤字の3分の1を占めている。赤字国は、競争力を高め、賃金を抑え、国内投資を減らすべきだ、と言うべきだろう。
南欧の重債務諸国を考えてみることだ。彼らは経常収支の均衡化に努めてきたが、さらに債務への金利を下げて、債務負担を減らせるだろう。必要な調整をだれが行うかを決めるには、なぜドイツから世界に過剰な資本移動が起きたか、考えるべきだ。
私の意見では、アメリカ連邦政府は債務依存が過剰で、予算が放漫であることから問題を生じている。しかし、ドルは世界の主要な準備通貨であるから、アメリカ連銀は消費者金融や住宅ローンを増やすような政策を採用して、経済活動を人為的に高い水準にできた。このようなアプローチが消費に依存した経済、国内製造業の衰退をもたらしている。
ユーロ圏では、南欧諸国がユーロ導入によって信用力を高め、破産に直面してもユーロ債を発行できた。この人為的な債務保証が、2008年までは、過剰な民間資本を南欧に向けたのだ。それは信用の膨張とインフレ、競争力の低下をもたらした。
危機が起きても、彼らはユーロ・システムから融資を受けたし、ECBは無償の保護を提供した。マーストリヒト条約で各国はGDPの60%の水準に債務を抑えると合意したにもかかわらず、南欧諸国の比率は高まり続けている。
ユーロ圏の債務諸国を正当化する過剰なケインズ主義も、ドイツから資本を搾り取っている。彼らは輸入を続け、ドイツの黒字が増える。こうした黒字から、ドイツは利益を得ていない。なぜなら赤字国から得るのは債券ばかりで、ほとんど利回りはなく、返済も確かではない。TARGETによるドイツ連銀の資産は8610億ユーロに達する。
従って、ドイツの経常黒字を減らすには2つのアプローチが適当だ。1.ドイツは民間資本の海外流出を抑える。2.南欧諸国とアメリカは債務の規律ある管理を回復する。
ドイツが黒字を減らすだけで問題は解決しない、と政治家たちは理解すべきだ。
● ヨーロッパ銀行同盟
FT July
25, 2017
Banking
union will transform Europe’s politics
Martin Sandbu
2012年に銀行同盟が導入されたことは、ユーロ圏だけでなく、非ユーロ圏諸国にも強い関心を呼んだ。それは金融危機がもたらした最も重要な変化であり、ヨーロッパの経済構造だけでなく、その政治経済を作り変えるだろう。
銀行同盟は2ルの合意に基づく。第1に、「ベイル・イン」、すなわち、銀行の債権者が損失を受け入れることで、経営者の取ったリスクから納税者を守る。第2に、規制当局の権限を加盟国からヨーロッパ水準に引き上げる。
この権限集中はスペインの銀行とイタリアの2つの小さな銀行で示された。スペインではヨーロッパのルールが適用されたが、イタリアでは多額の公的資金が利用された。銀行同盟により、時間とともに権限は集中する。それがヨーロッパの経済・政治関係を革命的に変える規模は、想像を超える。
経済的に、ベイル・インは諸国によるリスク・シェアリングである。それは北欧諸国が強く拒んでいたものであるが、財政リスクの共有を意味し、財政同盟は必要なくなる。しかし、ヨーロッパの銀行システムは次第にヨーロッパ全体を統一し、黒字国の投資家に支配されるだろう。
各国における政治エリートと銀行との緊密な関係、政治的な保護策・補助金、民間ビジネスへの公的資金利用、非効率な資源配分は、終わるだろう。
こうした銀行と政治との癒着は、金融危機からの回復の遅さをもたらす原因であったが、銀行同盟がそれを解体することで、ヨーロッパ並びに各国の、より健全な政治経済が出現するだろう。イタリアの指導者たちはそれを後悔しているかもしれないが、市民たちはもろ手を挙げて歓迎する。
● 中国経済崩壊論
Project
Syndicate JUL 25, 2017
Deciphering
China’s Economic Resilience
STEPHEN S. ROACH
再び、中国経済の崩壊論が高まっている。実質GDPの成長率は、今年6.5%に低下し、2018年は6%になると予測される。しかし、中国経済は重大な構造転換を経験している。投資や輸出から国内消費に成長モデルを転換することは、成長を減速させる。
この論争には長い歴史がある。最初に議論されたのはアジア金融危機だった。タイに始まって、韓国、台湾に及び、中国も避けられないと予測された。1998年10月のThe
Economistは、その特集記事で、中国のごみが巨大な渦巻きに吸い込まれる絵を掲げていた。
しかし、それは全くの間違いだった。2008-09年の世界金融危機もそうだ。1930年代以来の深刻な世界不況にもかかわらず、中国経済は9.4%で成長した。もし中国の成長がなければ世界経済は一層深刻な原則を経験したはずだ。
最近の悲観論では、債務のズ台と不動産市場のバブルが注目を集めている。しかし、日本のようなバブル崩壊と経済停滞に向かうという予測は間違っている。中国は日本よりも貯蓄率が高く、GDPに対する債務の比率はまだ低い。中国の都市化率はまだ低く、今後も都市の住宅は増大する中産階級に需要される。
もちろん、債務を累積する国有企業は整理しなければならないが、資産バブルを避けて不動産市場を安定化することは可能である。他国の歴史的な経験から中国の成長を予測することは、しばしば間違っていた。
● 国家から都市コミュニティーへ
FT July
24, 2017
Shifts in
responsibility show how power resides in cities
Bruce Katz
「行政国家」の解体を進めるトランプは、逆に、都市への権力分散を加速するだろう。
パワーはグローバルに移動している。国民国家の政府が攻撃することに応じた諸都市は、住民たちのための行政を実現するために連携し、対抗するだろう。経済的、物質的、市民文化的な能力は、ますます都市に集中している。都市こそが、技術革新と新産業の源である。それは現代の都市国家を出現させるのだ。
NYT JULY
26, 2017
Self-Driving
People, Enabled by Airbnb
Thomas L. Friedman
10年前、カリフォルニアから2つの企業が生まれた。1つは、ウーバーUber。もう1つは、エアーBアンドBであるAirbnb。
ウーバーは、電話で自動車を呼び出し、運転手に料金を支払うことで、すべての人を空いた時間にタクシー・ドライバーに変えた。しかし、ウーバーの究極の目標は、自動運転車である。
Airbnbは、世界中の人々が空いたベッドルームと見知らぬ人とを結びつけるプラットフォームを提供した。すでにその規模は、ヒルトン・ホテルの全部屋数に匹敵する。しかし、その究極の目的は、すべての人を「自動運転」に変えることだろう。
Airbnbは、単なる世界最大のホーム・レンタル業者ではない。世界最大のジョブ・プラットフォームなのだ。それは人々の仕事に向けた情熱を解放する。これは最も困難な社会問題の答えを示すものでもある。すなわち、ロボットとAIによって人間の仕事がなくなっていくことだ。
Airbnbの “home” ではなく “experiences” を訪ねてみることだ。人々は旅するとき、美術館やレストランを訪ねる。しかし、地元の人と同じ経験をすることはむつかしい。Airbnbなら、部屋を貸す人たちが、同時にさまざまなサービスや楽しみ方を提案している。イタリア料理を創る、すばらしい夜の町を見物する、帽子を創る、地元のバスケットボールの試合を観る、アフリカ移民の眼でリスボンを観光する。
こうして、無数の人々が起業家になる。
フォードが工場を建てることで、2万5000人を雇用してくれると期待してはいけない。今の工場は2500台のロボットを装備し、1000人を雇用するだけだ。未来は、人々の才能を発揮させるコミュニティーが担っている。
● 北朝鮮の核開発
Project
Syndicate JUL 24, 2017
Ten
Lessons from North Korea’s Nuclear Program
RICHARD N. HAASS
北朝鮮の核保有を阻止するにはもう遅い。しかし、北朝鮮がどのように核とミサイルの技術を獲得したか、理解することが重要である。
1.基本的な製造方法に関する知識と工業力を持つ国が、核兵器を開発すると決めたら、それを阻むことはむつかしい。2.外部からの支援を制限することはできるが、遮断はできない。3.経済制裁の効果には限界がある。そして、インドのように、いったん開発に成功した国は制裁を解除された。4.政府は世界的見地よりも自国の戦略を重視する。5.冷戦終結により、安全保障における核兵器の価値は高まった。6.核不拡散条約には欠陥が多い。7.国連総会決議による核の違法化は実効性がなく、かつてのケロッグ=ブリアン条約と同じである。8.国際システムには大きな意見の相違がある。核武装した国に対する対応にも合意がない。9.対応策には被害の予想と成功の不確実性が増している。10.すべての問題が解決されない以上、事態をどうにか管理し続けるしかない。
● グローバリゼーションと政治構造
VOX 26
July 2017
Changing
political structures in the two waves of globalisation: Lessons for the EU
Gino Gancia, Giacomo and Ponzetto, Jaume
Ventura
グローバリゼーションの第1期に、世界の国家の数は半分になった。しかし、その後、グローバリゼーション第2期では大幅に増えた。第2期において、国境の変更はもっと平和的に行われ、それは政治構造と貿易機会との関係を示す理論に一致する。
グローバリゼーションは、国境をコストのかかるものにする。初期の段階では、国家の規模を大きくすることで国境線が減った。しかし、後期には、国境のコストが平和的な経済同盟を創ることで取り除かれ、それゆえ、国家の規模は小さくなった。
1820年、世界には125の主権国家があった。第1期グローバリゼーションが終わった1914年に、その数は54に減少した。戦間期にはこの傾向が逆転し、世界貿易が崩壊し、1949年までに、国家の数は76に増えた。そのときまで、政治統合と経済統合は一緒に進んだ。しかし、第2次世界大戦が終わって、新しい時代が始まった。
第2期グローバリゼーションは、1950年以後、貿易をかつてないほど繁栄させた。しかし、経済統合は、世界政治統合の異なる変化をともなったのだ。一方で、国家の数は190を超え、記録的に増えている。他方、WTOやEUが示すような、経済統合を促す国際条約が増えた。
なぜ第1期グローバリゼーションは政治的集中と紛争を生じたのか? なぜ第2期グローバリゼーションは政治的分割と、より平和的な解決に導いたのか?
これらの疑問に答えるには、国境が貿易を妨げ、グローバリゼーションは国境をコストの高いものにする、という前提である。初期には、国境線を拡大することで、この問題を解決した。しかし、のちには、経済同盟を創り出すことで問題を解決し、それゆえ、国家の規模は小さくなった。グローバリゼーションは、攻撃的な市場征服の誘因となるが、国際的な経済同盟はその誘因を取り除き、外交による支配をもたらした。
● 減税策
Project
Syndicate JUL 27, 2017
Why Tax
Cuts for the Rich Solve Nothing
JOSEPH E. STIGLITZ
アメリカの右派・資産家層は、不平等、低成長、オピオイド依存症(麻薬)、学校やインフラの劣化、などに対する政策について合意できない。彼らの答えはいつも同じだ。減税と規制緩和、投資家に「動機づけ」を与え、経済を「解放する」、と。
しかし、それは機能しなかった。1980年代にレーガン大統領が試みたとき、彼は税収が増える、と言った。実際は、成長が減速し、税収は減って、労働者が苦しんだ。相対的な意味で、勝者は企業と富裕層だった。
税制改革は税収に対して中立であるべきだ。企業は巨額の利益を上げている。他方で、庶民は苦しんでいる。ましてや、2008年の金融危機を招いた金融業界が経済的損害を支払わないどころか、減税されることは、倫理的に受け入れがたい。
現在のアメリカの税制は非効率で不公平である。重要な問題の1つは、アメリカ企業の外国における所得に課税することだ。民主党員は、企業がアメリカの法の支配やパワーから得ている優位を考えれば、もっと税金を支払うべきだ、と主張する。しかし、これに対して企業は、本社を海外に移転する、と脅迫する。
共和党員は、この脅迫に応える意味でも、ほとんどの国が採用しているような、領土的な税制を提案している。すなわち、ある国で行われた経済活動に対してのみ課税する、ということだ。その際、アメリカ企業が海外で保有する、課税されていなかった利潤に対しては、1回限りの課税を行う。
ただし、領土的税制による税収の減少について、下院議長のPaul
Ryanは、純輸入税を提案している。その問題は、誰がそれを支払うか、である。中国からの安価な衣服の消費者がそれを支払うだろう。
政治的に明敏な大統領なら、法人税改革の経済学と政治学をよく理解して、意味のある税制改革に向けて議会を押し出すだろう。しかし、税制改革はすべて秘密裏に取引される。むしろ、幅広い減税が実現し、敗者は将来の世代である。
減税は成長を刺激する、という口当たりの良い宣伝は、何の根拠もない。特に、アメリカでは投資が債務で行われ、金利には税額控除が行われているから、そのようなことは起きない。
多くの問題、特に不平等に苦しむ国で、裕福な企業に対する減税が問題を解決することはない。
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The Economist July 8th 2016
The German problem
North Korea: Containing
Mr Kim
Longevity: Over 65 shades
of grey
The war against Islamic
State: After the califhate
The German economy:
Vorsprung durch Angst
Housing in Singapore: The
high life
The new old: The
economics of longevity
Germany’s reluctant
leadership: The Merkel doctrine
(コメント) (The Economist の紹介ですが,前回と順番を間違えました.)
本号では2つのテーマに関心が向くでしょう.1つは,ドイツ.もう1つは,「高齢化」を再編する特集記事です.
ドイツの経常黒字問題は,ドイツ経済の強さと,それを創り出した経済モデルの弱さに関する再考を求めます.国際収支不均衡をグローバル・ガバナンスの端緒と見るなら,同時に,ドイツがアメリカに代わって国際システムを担うことはない,という記事にも注目します.
「高齢化」という重苦しいテーマを,全く違う概念に再編する試みは,ある程度,成功しています.
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IPEの想像力 7/31/17
かつて,「子ども」や「ティーンエイジ」が発見されたように,人は職場を引退して老人になる前に,1つの異なる世代を形成する,と見るのが正しいだろう.The
Economistは,そう主張しています.
新しい人生の局面を定義することは,労働,年金,教育,消費,保険,医療,などの在り方と政策思想.社会制度を転換することを意味します.特集記事は,新しい人々,すなわち,65歳を超えても,元気な老人たちのことを “Nyppies”
(Not Yet Past It) “Owls” (Older, Working
Less, Still earning) と呼びます.
人類の平均寿命が延びたのは,医学の進歩で出生や幼年期に関する死亡率が低下したからでした.しかし,その後,豊かな諸国で老人たちの健康状態が改善し,病気に関する医薬品や治療が大いに発達したことで,元気な高齢者たちが増えたのです.
かつてのような一律の引退制度と年金の支給,医療保険制度は,さまざまな老人たちの状況に一致しなくなりました.彼・彼女らにふさわしい働き方,稼ぎ方があれば,Owlsたちは働き続けるでしょう.ただし,より少ない時間,柔軟な雇用形態であれば.彼らが活躍するには,企業の雇用形態だけでなく,年金や医療保険制度の扱いにも,それにふさわしい扱い方が求められます.
社会の急速な高齢化を,何か宿命的な,若年層に対する負担の増大,成長に対する制約と見なすことは間違っています.Owlsは収入を得ている限り,楽しく消費し続けます.彼らは食事や音楽,海外旅行を楽しみ,健康にも,美容にも,支出し続けます.Owlsにふさわしい産業が勃興し,経済成長を支えるでしょう.
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ドイツの経常収支黒字が問題視されています.それは,ドイツの人口が急速に高齢化することに備えて貯蓄率を高く維持していたから,ということでは説明できません.
貿易収支そして経常収支は,ドイツの工業製品が優秀であるから,というのではなく,国内貯蓄が国内投資を超えているときに発生します.しかし,これは変数間の恒等式を示すだけで,原因の説明ではありません.
なぜドイツは過剰貯蓄もしくは国内投資が過小になり,また,なぜアメリカやユーロ圏内の赤字国,例えばギリシャは,その逆になるのか?
内外の不均衡について説明を求めるなら,それは各国の経験した歴史的なショックや社会変動に求めるしかないのです.記事が指摘するのは,輸出産業の競争力に配慮した労使交渉による賃金決定,中小企業の製造業地域が及ぼす社会的合意,シュレーダー政権が唱えたアジェンダ2010,ユーロ圏の成立と金融・財政政策の不適応,など.ドイツの優れた輸出力が,今や,賃金抑制によるデフレの輸出としてユーロ圏や世界経済を苦しめます.
トランプ政権が貿易赤字と雇用の流出についてメキシコを非難し,中国やドイツや日本を非難し,NAFTAもTPPも否定するのは,レーガン政権が同じような不満をプラザ合意や協調的なドル価値の切下げに,すなわち,多角的な外交交渉によって解決しようとした姿勢と対照的です.トランプは赤字や黒字の理由を十分に考慮する能力を欠いていることで,国際政治システムを劣化させています.
もちろん,変動レート制で完璧であれば,すなわち,国際資本移動と価格変動に応じる弾力的な消費と供給体制があれば,トランプのような政治家に翻弄されることはなかったはずです.
ドイツでもOwlsが育てば,高い貯蓄率を維持するより,もっと消費が伸び,ユーロ圏内の不均衡を調整する過程にも積極的な投資が刺激されるでしょう.73歳のサー・ミック・ジャガーのような元気な老人たちが,豊かな諸国の政治や思想を動かすのです.
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