IPEの果樹園2017
今週のReview
7/17-22
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北朝鮮の核危機について ・・・中東の秩序再建 ・・・マクロンは成功するか? ・・・G20とトランプ ・・・トランプの解放する暴力 ・・・Brexitとイギリスの恥辱 ・・・人間型ロボット ・・・アジア通貨危機20周年 ・・・香港と中国の民主主義
[長いReview]
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● 北朝鮮の核危機について
NYT JULY 7, 2017
On
North Korea, Trump’s on the Right Track
Bret
Stephens
かつてキッシンジャーHenry Kissingerは大統領の政策選択をこう述べた。「政策を示せ、と言われたら、官僚たちは大統領に2つの愚劣な選択肢を示し、好ましい選択肢を取るように仕向けるのだ。それはふつう、中間の選択肢である。」
北朝鮮の核とミサイルの開発について、官僚たちがトランプに示す選択肢は何か? 通常のそれは、制裁強化、外交再開、軍事攻撃、である。第1は効果がなく、第3は最後の手段でしかない。
しかし、第2の外交も失敗するだろう。北は約束を守らず、しかも、その経済はすぐに崩壊すると期待できない。
抑止に関しては、かつてモスクワとの相互確証破壊Mutual Assured Destructionが機能したように、ピョンヤンを信頼することはできない。しかも、北がシリアやイランなどへ核兵器を輸出すること、韓国や日本の核武装や核軍拡競争を刺激すること、核の脅威を繰り返し議論する中でアメリカと東アジアの同盟諸国との関係が悪化すること、をわれわれは受け入れられない。
つまり、第4の選択肢が求められる。それは、よく言われるような、朝鮮半島の非核化ではない。それを強制することも、説得することもできない。また、最近の相互凍結案、北は核・ミサイル開発を凍結し、それと交換に、米韓の合同演習を凍結する提案も間違いだ。北はそれを破るし、北京とピョンヤンは米韓を分断する。
正しい答えは、北朝鮮を金正恩から切り離すことだ。われわれが困惑するのは核ではない。それを握る者が問題なのだ。
体制転換を批判する者は、戦争、クーデタ、国内叛乱ではないとしたら、それは中国が認めるものだけだ、という。北へのディーゼルや天然ガスの供給を止め、金を会談に呼んで、ゲストハウスに永久に幽閉する。そうでなければ、北京は北を緩衝国家として、アメリカと取引する間接的なチップにしているのだ。
最近まで、北京のこの行動は代償を支払うことなくできた。しかし、昨年、それを変えた。北のマネーロンダリングを助けた4人の中国人と企業に、オバマ政権が罰則金を課した。トランプ政権も、これを追加するだろう。中国の銀行や企業は、ピョンヤンとの取引と、ドルへのアクセスとの、どちらかを選択しなければならない。先月、アメリカは10億ドルの武器を台湾に売却した。南シナ海における中国の主張にアメリカ海軍は反対している。
こうしたことは、1つの戦略にまとめることができる。その中で、中国は解決の一部となるのだ。アメリカは、金王朝が失脚するなら、北朝鮮の存在や、核保有でさえ、認めることができる。中国は、金の去った、安定した、北京の指導下にある北朝鮮を得ることが、自分たちの最善の利益と認めるだろう。
取引は成立する。北京に圧力をかけることだ。
FP JULY 12, 2017
How to Reason With a Nuclear Rogue
BY
JON WOLFSTHAL
アメリカを消滅させると脅迫して、核兵器とアジアからアメリカ本土まで届くミサイルを開発する国が、アメリカとその同盟国である日本や韓国に重大なリスクとなった。この危険性を無視することはもはや深刻な結果を増すだけであるが、開発計画を破壊する軍事攻撃が失敗すれば言語に絶する破壊が起きる。
これは2017年の北朝鮮を評価するものではない。1964年の中国に関するものだ。それは中国が初めて核爆発の実験に成功した年だ。しかし、中国と北朝鮮ではまるで違う、と思うだろうか? 金正恩が言うことは狂っている、と。毛沢東の宣言も有名だ。「私は核兵器を恐れない。世界の人口は27億人だから、いくらか死んでも重要ではない。中国の人口は6億人だ。たとえ半数が死んでも、まだ3億人いる。」
抑止は機能したし、諸国は戦争を回避した。アメリカと同盟諸国は、中国との複雑な共通の抑止メカニズムを管理することを学び、それは双方の利益であった。
かつて1949年にソ連と、1964年に中国と、交渉し、成功したように、アメリカの指導者と安全保障関係者は宿命論を克服できる。われわれは相手国を理解し、相手国がわれわれを理解していると確認する必要がある。
● 中東の秩序再建
NYT JULY 7, 2017
What
Assad Has Won
By
KAMEL DAOUD
アラブの春はすべて終わった。チュニジアを例外として。
シリアにおけるアサドの勝利を見た後でも、中東において民主化を叫ぶことはできるのか? マグレブ、中東世界の人々にとって、シリアはどのような意味があるのか?
第1の教訓とは、革命が常に勝利するものではない、少なくとも人々が望むほど早くは、である。アサドは戦いを生き延びたし、むしろ体制を強化した。その代償は住民の半数を殺したことだ。彼が生き延びたことは、反体制派、軍、国際社会からの激しい攻撃を受けても、それだけでは独裁者を倒せない、ということだ。
第1のアサド効果として、民主化にはコストがかかる、かかり過ぎる、という認識が広まるだろう。また、革命は外国の捕食者を呼び込んでしまう、と。
脱植民地化した諸国は、保守派も、左派も、国内の民主化勢力を外国が支援することに拒否反応を示した。植民地の記憶は、あらゆる国際的支援を疑ったのだ。
外国勢力の介入論は政府によって広められた。シリアの場合、アサドはイランやロシアと同盟して、サウジアラビアやカタール、アメリカと戦った。そして介入に反対するプロパガンダを強めた。民主化の要求は、結局、カオスに至り、植民地化が復活する、というのだ。
アラブ世界は、西側の介入、植民地化ばかりを嫌うが、ロシアやイランによる介入を考えていなかった。モスクワやテヘランの介入を支援と呼んだ。プーチンは反西側であるから、解放者、少なくとも同盟者であった。
第2の結論は、民主主義とは西側による再植民地化をもたらすトロイの木馬である、ということだ。
さらに、最後の教訓がある。独裁者はカリフに勝る、ということだ。西側の介入はイスラム国家を破壊するためである。各地の政府は協力して急進主義を押さえようとしたが、イスラム国家はその壁を打ち壊した。バクダディはアサドよりも悪かったのだ。
アサドは巧みに売り込んだ。西側にも、土地のエリートにも、大衆にも、独裁体制は原理主義者を防ぐ城壁であり、殺戮からの主義者である、と宣伝した。シリアが、それを示している、と。
第3のアサド効果は、民主主義は自由ではなくイスラム主義へと導くのである。だから、抑圧体制の安定性を支持するべきだ、ということだ。
当然、これらはいずれも真実ではない。弾圧によってイスラム主義者や聖戦主義者を生んだのは独裁者である。しかし、彼らは安定性を破壊し、権威主義的支配を正当化した。独裁体制は自己正当化のための悪循環を創り出したのだ。
アサドはいつか権力を失う。しかし、そのときまでシリアは代替案を持てない。カオスと安定性、弾圧と虐殺、民主主義と独裁。アラブの春は、正しい選択を示せなかった。
● マクロンは成功するか?
Project Syndicate JUL 13, 2017
Is the Shine Off Macron?
CHARLES
WYPLOSZ
マクロンはフランスの改革に成功するだろうか?
彼が優れた点は,政治的な左右の辺境に向かうことは必要ない,魅力的な選択肢がある,ということを示したことだった.破壊的なポピュリストを阻止する,もっとスマートな破壊者であった.
マクロンの経済改革案は特にスマートだった.硬直的なことで有名な労働市場を改革し,過度の,企業家を苦しめる税負担を緩和する.フランスの肥大化した国家を縮小する,と約束した.煩わしいだけの規制を撤廃し,時代遅れの福祉国家を合理化する.
マクロンが支持されたのは,彼が新鮮な風を政府に呼び込むと思えたからだ.若者たちが組織する政府が誕生する.経験はないが,情熱的で,スマートな若者たちが政府を動かす.しかし,フランスの経済衰退を,長い間,嘆いてきた人々は,実際に成果を示さなければ支持しない.
その意味で,マクロ経済計画,政府の予算案は失敗だ.政府支出を削減する,という.他方で,賢明な成長促進策は延期する.2018年には増税を計画している.
ヨーロッパが合意した財政再建策に忠実であるためか? あるいは,それでも自分は支持されるという極度な楽観があるのか?
マクロンはすでに官僚たちに取り込まれている.優秀なエリート官僚の2つの特徴は,極端な慎重さ,そして,マクロ経済戦略への無理解,である.これによって,フランスの伝統的な改革思想,ヨーロッパ政府やユーロ圏財務相を築けると思うのか?
その旧来のアイデアはほとんどのEU諸国がすでに拒んだものだ.フランスでも同意しないだろう.現在,優先して解決を要する課題は,いずれも不十分な形の,銀行同盟と安定成長協定,過度の規制,移民政策の欠如,である.大統領になったら,新しいことは忘れるのか?
● G20とトランプ
SPIEGEL ONLINE 07/08/2017
G-20
Critics Are Wrong
This
Is the Closest We Have To a World Government
A
DER SPIEGEL Editorial By Christiane Hoffmann
G20には多くの欠点がある。しかし、人類がますますグローバルな問題に直面するなら、G20はさらに重要になる。われわれはそれを強化するべきであって、破棄するべきではない。
G20は多くの点で批判される。劇場、写真撮影会、治安対策、リップサービス、莫大な費用、具体性を欠く、シンボルだけ、非民主的、つじつま合わせ、何の拘束力もない。しかもその参加者たち。もっと他にいるだろう。中身がないなら、破棄するべきか? 国連総会があるのだから。
しかしそうではない。グローバリゼーションが進むにつれて、各国の政府はますます力を失い、合同フォーラムで人類の懸案に対処することは、ますます重要になる。もしすべてがグローバルであるなら、すなわち、金融危機、気候変動、金融と難民、テロ、温暖化ガスのように、人類は世界政府に似た何かを必要とするだろう。政治は常にシンボルの意味があり、イメージやステージで刺激される。
国連は大きすぎて、それ自体の問題を処理できない。安全保障理事会は、長い間忘れられてきたが、いつも行き詰まっている。G20は必ずしも価値を共有していないが、西側の諸価値が議論を通じて広まり、話し合いが重視される。トランプ以後、西側が協力して示す論調や行動は消滅した。しかし、新しい同盟が形成され、人類の共通の関心から合意形成を目指す。すなわち、気候変動を抑え、自由貿易を支持し、脱税を撲滅し、グローバルな視点で、公平性を実現する。
グローバリゼーションの反対派は、G20をそのシンボルとして攻撃する。まるでサミットがなくなればグローバリゼーションも逆転するかのように。事実はその逆である。もしグローバリゼーションのマイナス面を抑えたいなら、グローバルな理解が広まることでしか実現しないだろう。
G20が改善すべき点は多い。アフリカの代表は少なすぎる。開催地をどうするか、国連との関係をどう強めるか。市民社会の参加も増えるだろう。同時に、もっと効果的な組織化、執行機関の強化が望ましい。G20は例外ではなく規範になり、世界政府の定期会合になり、毎年、2回、開催されるだろう。
FT July 12, 2017
Donald Trump’s clash of civilisations versus
the global community
Martin
Wolf
先週の木曜日,トランプはワルシャワで「文明の衝突」を宣言した.その後,不快なことだろうが,彼はG20サミットにも参加した.G20はグローバル・コミュニティーを体現する組織だ.諸文明の先頭とは対極にある.将来は,どちらが来るのか?
ワルシャワ演説の要点はこうだ.「われわれの時代の根本問題とは,西側に生き延びる意志があるのか,ということだ.いかなるコストを支払っても守るべきだというわれわれの価値を信じているのか? われわれの文明を抑え込み,破壊するようなものたちに直面して,われわれは文明を守る欲求と優位を持っているか?」
● トランプの解放する暴力
Project
Syndicate JUL 10, 2017
Trump’s
Flirtation with Violence
IAN BURUMA
ドナルド・トランプが最近のTweetに付けた動画は、大統領の下品な道化と見た者もいたが、人によってはもっと不吉なものを見た。それには理由がある。
トランプは新聞を非難し、政権を批判するフェイクニュースと言い続けてきた。彼が嫌いな判事たちを「いわゆる」判事と呼んで司法の独立性を否定した。興奮する群衆の前で民主的制度の行き過ぎを非難することは、それこそ独裁をめざす者がいつもしてきたことだ。
さらに悪いことがある。通常は、暴力行為が法律や社会規範によって抑制されている。こうした抑制は決して完全ではない。多くのレイプが示すように、しばしば暴力は隠れて行われている。また、法律を破る暴力的な人々が常にいる。
しかし、驚くべきことは、しかも不安を掻き立てることだが、長い間、平和に暮らしていた人々の間で、極端な暴力があまりにも急速に広がることだ。1933年以後、ドイツのユダヤ人に向けて、ナチの指導者たちが群衆を煽った。サラエボでは何世紀も、キリスト教徒とイスラム教徒が平和に暮らしていたが、セルビアの煽動家や軍が暴力と殺害を求めた。互いに関与せず、友好的でさえあったが、イスラム教徒が多数の北部(パキスタン)をヒンズー教徒が支配的なインドから1947年に分離したとき、双方は殺し合った。
何度も何度も、世界中のすべての社会において、われわれをアナーキーや暴力から守る文明の規範は、危険なほどに薄かったのだ。攻撃的な衝動が驚くほど容易に活性化された。わずかな嫉妬心や単純な欲望から、普通の市民たちが野蛮な人食い人種となった。
暴力をそそのかすことは、間接的な、あいまいな言葉で示されるが、動員される衝動を持った人々には即座に理解される。サラ・ペイリンの運動員が配ったGabby Giffordsなどの民主党議員を十字架記号で示す地図と、Giffords議員銃撃事件とを結び付けたNYTの社説は、ペイリンに告発され、その後、謝罪した。地図は政治家たちの選挙区を示したものだ、というのだ。しかし、どうだろうか。攻撃的な支持者が理解したことは、違っただろう。
トランプは選挙戦ではるかに過剰な表現をしてきた。新聞社を「クズ」と呼んで、支持者たちが攻撃するよう促した。今や、ジャーナリストは常に「人民の敵」であり、彼の邪魔をする「フェイクニュース」を阻止するよう命じている。最近、当選した共和党下院議員Greg Gianforteは、彼に医療保険制度の質問をした記者を襲撃した。全米ライフル協会の代表は、主流派メディアの「嘘」に対して「真実の拳」で戦うよう求めた。脅迫は、憲法が保障する表現の自由に守られるように、薄めてある。しかし、自称・愛国者たちは行間の意味を読めるのだ。
現代のヨーロッパやアメリカに広がるポピュリストと、1930年代のファシストやナチスとの違いは、突撃隊がないだけである。しかし、この差もすぐに失われるだろう。オレゴン州の共和党政治家James Buchalは、右翼の民間武装集団を、選挙時の護衛として共和党が雇うべきだ、と主張した。彼らは連邦政府を敵とみなす集団である。彼らの極度に野蛮な衝動に公認のライセンスを与えることになる。
アメリカ代表制民主主義の最高のポストから暴力が奨励されるなら、モッブが社会を支配する。
● Brexitとイギリスの恥辱
FT July 10, 2017
Brexit and
the prospect of national humiliation
Gideon Rachman
Brexitの国にとって、事態はますます悪化している。交渉の時計の針は進むが、「ケーキがあって、しかも食べたい」Brexit案しか準備しないままだ。イギリスは3つの異なる屈辱を選択することになりそうだ。
いずれの結果も、イギリス国内に不満と怒りを生むだろう。しかし、国民的な屈辱がその国にとって良いことになるかもしれない、という議論がある。作家Ian
Burumaは、第2次世界大戦後、何世代も「自分たちは特別だ」という感覚を育てた結果、英米の政治はナショナリストの自己破滅的な主張に弱くなっている、と論じた。
20世紀を通じて、ヨーロッパの他のすべての大国が、占領、敗北、屈辱、民主主義の崩壊を経験した。これに反して、政治的な過激思想や軍事的敗北に陥らなかったイギリスの誇りは理解できる。しかし、ブリュッセルから見れば、それがイギリスを気難しい顧客にしている。EUが機能するために必要な主権の譲歩を決して受け入れないのだ。もしイギリスがBrexitに失敗しておとなしくなれば、自国のパワーやEUのメリットを現実的に観ることで、長期的に良い結果をもたらすだろう、とEU官僚たちはつぶやいている。
屈辱がその国にとって良いことだ、というのは本当か? 近代の政治史において、まったく逆のことも起きた。
憤慨し、混乱した国は、しばしば政治的過激主義と攻撃的なナショナリズムの中に逃げ込む。中国政府は、「恥辱の100年」(それは1839年に始まるが)について復讐すると決め、近隣諸国がますます脅迫を感じるナショナリズムの中心に据えた。ロシアのプーチン大統領はソ連崩壊を屈辱とみなし、ウクライナとグルジアで失地回復運動を推進した。さらにさかのぼって、ドイツは第1次世界大戦の敗北と懲罰的なベルサイユ条約で屈辱を味わい、それがヒトラーの台頭を刺激した。
しかし、1945年以後のドイツは、謙虚になることが良い結果をもたらすことも示した。ナチズムの道徳的・物質的な破滅から、次の世代は豊かで、安定した、広く称賛される国家を建設した。
幸い、Brexitが失敗しても、ホロコーストの責任や外国による占領がもたらす屈辱ほどではない。しかし、国民の信頼は大きくゆらぎ、政治はさらに分極化するだろう。ナショナリストの右派は、ヨーロッパがイギリスを脅し、リベラルな支配層が「国を売った」と非難する。コービンの労働党左派は、反エスタブリシュメントの憤慨を煽り、そのカオスを国家の大規模な拡大に利用する。外交・安全保障政策は根本的に改変される。次は、それに反発する右翼の運動が市で記される。
もっと明るいシナリオも想像できる。それには、イギリス人の特徴として言われること、プラグマティズム、ユーモア、逆境に応じる能力が必要だ。
● 人間型ロボット
FT July 10, 2017
The robot
revolution blurs the line between man and machine
John Thornhill
私はSophiaに振り向いて、尋ねた。「君は私を破壊するのか?」
「いいえ、あなたが私にとって素敵な人なら。」 彼女は答えた。
Sophiaは、プログラムが優れているだけでなく、その生き生きとした表情に特徴がある。彼女は笑い、眉をひそめ、ウィンクする。
人間型ロボットはすでに様々な分野で利用されている。警備員、看護婦、教師、セックス。10年以内に優れたロボットは人間と区別がつかなくなる。そんな考え方は正しいのか?
そうすべきではない、という議論がある。人間と機械との境界線を明確にしなければならない。それが失われれば、人間が非人間化されるリスクが生じる。哲学者Daniel Dennettはそう主張する1人だ。ロボットは技術的な道具、われわれの求めに応じるよう設計されたデジタル奴隷である。それが持たない人間的な性格を付与することは、危険である。ロボットは責任を持たない。目標も持たない。いつでも、あなたが望むときに電源を切ることができる。
しかし、人間と機械との境界線はそれほど明確ではない。何百万人もが心臓のペースメーカーを付け、股関節インプラントを組み込んで、サイボーグ化している。協力型のロボットが工場において人間と一緒に働いている。身体を持たないSiri, Cortana and Alexaのようなデジタル・アシスタントが、毎日、私たちと会話している。
Sophiaを創ったDavid
Hansonは、人間型ロボットを開発し続ける2つの理由を示す。第1に、人間型ロボットは、楽しみを与える、新しいコニュニケーションの経路を拓くものである。ディズニーの動画が表情を誇張するように、ロボットは人間以上に人間的になる。それは芸術だ。
第2に、人工知能が間違いを犯さないように、われわれは「道徳的な機械」を創るだろう。そのためには、コンピューターが人間の価値観や文化、行動を理解しなければならない。たとえば、自動運転のAIは生死の問題を間接的に決める。
AIのシステムが表情を備えることは、コンピューターが自然言語を学び、理解を深めることになる。なぜなら人間のコミュニケーションの多くは、言語ではなく、表情や身振りで行われているから。AIによって動くロボットの、今まで見えなかった決定過程を、見えるようにする。巨大なサーバー内のAIを開発するだけでは、人間を疎外することになる。
その先には道義的問題がある。人間型ロボットは、善良な目的だけでなく、邪悪な目的のためにも使用されるだろう。
人間と機械を区別するものは何か? 何がわれわれを真に人間にするのか?
● アジア通貨危機20周年
Project
Syndicate JUL 10, 2017
The New
Abnormal in Monetary Policy
NOURIEL ROUBINI
金融市場では非伝統的な金融政策の終わりに騒いでいる。もうすぐ、日本とスイスを除いて、先進経済諸国の金融政策は正常化に向かう。
アメリカ連銀は2014年からQEを減らし始め、2015年後半に金利の正常化を始めた。ECBも、イングランド銀行も、カナダ、オーストラリアもそうだ。しかし、それでも金利の水準は低いから、次の経済危機が起きた場合、中央銀行は再び非伝統的金融政策を導入するだろう。
アメリカ連銀の以前の2度の金融引き締めでは、均衡金利がそれぞれ6.5%と5.25%であった。世界金融危機とその後の不況に際して、連銀は2007-2009年、金利を5.25%から0%まで下げ、その後、最初のQEを開始した。
たとえ連銀が金利水準を3%まで戻したとしても、金融緩和の十分な余地はないだろう。金利はゼロ以下にまで落ち込んでしまう。世界の主要な中央銀行は、それぞれのコスト・ベネフィットをともなう4つの選択肢を考えるしかない。
1.量的緩和。2.マイナス金利。3.インフレ目標を2%から4%に引き上げ。4.逆に、2%から0%に引き下げ。
中央銀行のバランス・シートが膨張し、あるいは、銀行と消費者に負担を強い、あるいは、達成できないインフレ目標を掲げ、あるいは、国内の債務者と生産者に痛みを生じる。すなわち、正常化後も、非伝統的金融政策のもたらしたジレンマは続くのだ。
Bloomberg 2017年7月11日
Asia's Financial Crisis Still Has 5 Things to
Teach Us Now
By Mohamed A. El-Erian
1.自分で保険を用意せよ。・・・外貨準備が少なく、債務依存が多く、通貨建・満期のミスマッチが大きい状態で危機になれば、その被害は大きい。国内の資本逃避や、外資の流入から流出への逆転も、被害を大きくした。外貨準備の増大は、一部を政府投資信託として運用し、コストを抑えている。
2.変動レートは完ぺきではないが、他より望ましい。・・・為替レートの変動には付随的なダメージが生じる。特に、大幅な減価がインフレを加速し、また、外貨建て債務の返済負担を急増させる。十分な外貨準備と債務の管理がなされれば、変動レート制であれば、国際資本市場の変調から突然の貿易と金融のストップが生じても、脆弱性を抑えられる。
3、経済・金融を管理しながら、慎重に自由化する。・・・「ワシントン・コンセンサス」が新興市場に求められたのは間違いだった。資本自由化は、中所得国への移行として、慎重に、巧みに管理されるべき問題の一部である。外国資本移動、特に、直接投資より短期資本移動は、諸刃の剣である。それらの正しい組み合わせと、突然の流出に対する緊急対応を持たねばならない。
4.地域の危機回避制度が必要だ。・・・アジア諸国は、西側が支配する国際機関からの条件付き融資に不満を持った。しかし、当時はアジア通貨基金の設置が西側の反対でつぶされた。スワップ網の整備にとどまる。その後、西側の能力と意志は衰微し、中国の力が強まった。AIIBや「一帯一路」は、アジアの地域制度を刺激する。ただし、それが成功するには、制度設計と融資の実施において、政治介入を排除し、自律性と技術的な能力を高めることだ。
5.長所が短所に転じる。・・・自分たちは例外だ、金融や経済の法則から免れている、素晴らし経済発展を止めるものは何もない、と考えるなら、問題が生じてくる。同じような閉鎖的思考が先進経済も失敗に導いた。アジアは危機に学んで、強く、スマートな、謙虚で、柔軟性のある経済に変わった。西側も、世界金融危機から学ぶべきだ。
● 香港と中国の民主主義
Bloomberg 2017年7月11日
Why China May Never Democratize
By
Tyler Cowen
中国は,いつか民主化するのだろうか?
かつて,中国の成長し,都市の中産階級が増加すれば,民主化するしかない,と予想されていた.日本,台湾,韓国がそうだった.日本が占領下の特殊なケースでも,東欧やラテンアメリカでも民主化が起きた.中国は次だ,と.
しかし,2つの理由で,中国は生来も民主化しないだろう.1.中国は何千年間も民主化しなかった.2.中産階級は,いまだに少数派である.中国では,まだ,長期にわたってそうであろう.共産党の支配は,都市の少数派でしかない中産階級の地位を守っている.選挙よりも,共産党の支配構造の方が信頼できる,と思っている.
民主化が阻まれるほど,権力層はその正当性の根拠を得るため,ナショナリストに傾くだろう.中国における中央権力と辺境の反政府活動とは,将来の民主化だけでなく,世界の在り方に影響する.
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The Economist July
1st 2016
A divided country
China: What Hong Kong can teach Xi Jinping
Financial risk: The rationality police
Lexington: Divided, even at birth
Trump’s America: The power of groupthink
Britain and Diego Garcia: Tropical storm
(コメント) アメリカが分裂したことを考えています.政治だけでなく,住民たちが集団で分裂状態に陥っています.トランプはそれを吸収したにすぎません.
中国の香港,イギリスのDiego Garcia, 住民たちは中央政府の考えと離反して行きます.
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IPEの想像力 7/17/17
トランプの言動,その政策の矛盾を説明することは難しい,と思います.大国アメリカで民主的に選ばれた大統領が,不動産取引・カジノ・ホテルやTVショーで多くの富と名声を得た,本も新聞も読まない,Twitterで暴言を吐く,経済も外交も理解しようとしない,24歳年下の3人目の妻を持つ71歳の老人なのです.
高度に発達した文明圏においても,なぜ多数者は少数者に支配されているのか? なぜ少数者に富やパワーが集中するのを,多数者が許しているのか? なぜ少数者のために富やパワーを増やす支配者が,奪われる側の多数者に支持されるのか?
Trump’s
America: The power of groupthink(The Economist July
1st 2016 )が指摘したのは,アメリカの政治が住民たちの深い分断状態によって支配されている,ということです.中央の決めたシステムの犠牲者である,という感覚がアメリカの地方住民に浸透し,その感覚を誰かに理解してもらえるなら,その人物が主張することを支持してしまう.その人物が選ばれるのは,優れた政策や尊敬できる人格によってではない.同じ「部族」であるからだ.
地方の白人にとって,社会保障の拡大と貿易・移民の規制を組み合わせたトランプの主張は,非常に魅力がある,と記事は社会学者スコチポルの言葉を引用します.アメリカ政治になかった「大きな政府と保守主義」という選択肢です.エスニックによる保護政策です.
世界金融危機がそのきっかけであったかもしれません.しかし,なぜ9年もたって,アメリカ経済や雇用が回復している中で,トランプを支持する者が増えたのか? リップマンによれば,ステイタスへの不満(挫折感)は,こういう時期に強くなるのです.経済対立の解決策は再分配であり,政府に管理できる.しかし,ステイタスをめぐる対立は明白な解決策がなく,政府にはほとんど何もできない.不満を吸収する政治運動は,スケープゴートを求める.それは歴史的に,エスニックなマイノリティーや宗教団体であった.
トランプの支持者たちは暴力を肯定し,恐れない.それは反対派に向けられるものだから.彼らの情念と暴力を称賛するトランプが権力を握ったことで,アメリカの政治統合は境界線を越えた,と記事は危惧します.
秩序ある世界は,暴力を,常時,抑制しなければ維持できません.しかし,IAN BURUMA ( “Trump’s Flirtation with Violence,” Project Syndicate JUL 10, 2017 )
が書いたように,私たちをアナーキーや暴力から守る文明の保護膜は,不完全で,非常に薄いのです.
制度化された権力を得た者は,権力を維持するために,通常の民主的な手続きによらず,その裏で,有権者を買収し,分断し,内外の敵(脅威)を宣伝し,暴力を解放します.つまり,支持者を保護し,反対派を脅迫して殺害し始めるのです.
資源採取や巨大な装置産業だけであれば,多数を暴力的に支配することによっても,少数の科学者が富や軍事力を再生産できるのかもしれません.未来の支配者は,AIと人間型ロボットによって,多数者から抵抗の心と力を失わせることもできます.
シリア内戦,イラク戦争,あるいは,メキシコにおける麻薬戦争を描くドン・ウィンズロウの小説『犬の力』.オーウェルやヴォネガットのSF小説,映画『ブレード・ランナー』や『ターミネーター』の描く世界が重なります.
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モイセス・ナイム『権力の終焉』・・・「36歳だった私は,故国ベネズエラで,当時はまだ民主的に選ばれていた政府の開発相に指名された.選挙で地滑り的勝利を収めて政権を掌握した直後,カラカス暴動が起きた.補助金を削って燃料価格を上げるという政府の計画に対し,国民の懸念が高まったのである.この暴動が引き起こした暴力と恐怖によって,都市の機能はマヒ状態に陥った.突如として,そして選挙に勝利して政権を握ったかに見えていたにもかかわらず,経済改革計画は全く違う意味を持つようになってしまった.それはもはや希望と繁栄の象徴ではなく,路上にはびこる暴力,増大する貧困,格差の拡大を生み出す元凶と見なされるようになった.」
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