IPEの果樹園2017 

今週のReview

7/10-15

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 劉暁波のために ・・・経常収支不均衡 ・・・グローバル指導者たちの対抗 ・・・トランプ政権の反革命 ・・・EU改革の方向 ・・・ハンブルグG20とディストピア ・・・北朝鮮危機

[長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


  劉暁波のために

The Guardian, Saturday 1 July 2017 

If you think the EU should stand up to Trump, then it must stand up to China 

Natalie Nougayrède 

来週、ドナルド・トランプと中国の習近平主席が、ハンブルグのG20に参加する。だれが最も多くの抗議デモを集めるだろうか? きっと、トランプだ。しかし、中国の指導者に対してはどうするのか? 中国政府は、ノーベル平和賞の受賞者である劉暁波Liu Xiaoboががんの治療を受けるために海外へ行くことも禁止している。 

劉の弾圧者は沈黙を求めている。ハンブルグは、この象徴的な反体制派を助けるだけでなく、専制支配を倒し、普遍的な価値を支持する、特別な機会になるだろう。 

ネルソン・マンデラやアンドレイ・サハロフがその時代にシンボルであったように、劉は中国だけでなく、世界中の尊厳と人権を求める人々のシンボルである。彼の勇気は疑う余地がなく、彼の大義は普遍的であり、その苦境は衝撃的だ。 

メルケルは、生まれ故郷のハンブルグでサミットを主催するが、その最優先課題として、気候変動、貿易、多角主義において、トランプと対決する、という。孤立主義や保護主義を批判するが、劉の人権について、彼女は多くを語っていない。 

この点を、メルケルはドイツ企業の利益を考慮したのだ、と冷笑することは容易である。中国は、ドイツの最大の貿易相手国であり、その政治的影響力は、中国からの投資にも関わって、ヨーロッパ諸国で強まっている。たとえば6月には、国連における、人権問題で中国を非難するEUの決議に、ギリシャは拒否権を行使した。 

さらに大きな外交的配慮がある。中国は、気候変動や貿易に関してトランプと対抗するヨーロッパを助ける立場である。その協力を得るために、ヨーロッパは中国との関係を良好に保ちたいのだ。 

しかし、劉の悲劇は1人の人間の問題ではなく、ヨーロッパがなくそうとしてきたものだ。その投獄理由は、劉が中国で自由を求めた零八(2008)憲章を起草したことであった。それは、東ヨーロッパで共産主義体制の下にあった反体制派が示した憲章77に刺激されたものだ。チェコスロヴァキアで憲章77に関わったハヴェルVáclav Havelは、1990年、大統領となり、多くの点でヨーロッパの道義を代表する人物になった。 

東欧で民主主義の逆転が生じつつあるとき、誠意ある劉暁波への支持は、EUの価値に対する固い約束、政治において勇気とは何かを示すものとなるだろう。ハヴェルの言葉、「無力な者たちの力」を劉は象徴するからだ。 

悲しいことに、劉の運命はEUの公式声明として穏やかな支持が表明されることに応じるものとなるだろう。しかし劉の闘いは、弾圧に対する非暴力的な抵抗としてグローバルな称賛に値し、マーチン・ルーサー・キングやアウンサン・スー・チーに匹敵するものである。 

習はヨーロッパに来て、トランプ時代の最初のG20 に参加する。今こそ、ヨーロッパの人々は、同じこの世界に生きるうえで、気候変動や貿易だけでなく、人権について連帯を示すときだ。中国の指導者が劉の自由について何の圧力も受けないなら、その非リベラルな国家はさらに強化される。 

トランプはいつか、アメリカの民主主義システムによって、もっとましな人物に交代するだろう。しかし、香港の反体制派たちがよく知っているように、中国はそうではない。ハンブルグで抗議デモをする者たちは、劉暁波のことを想うことだ。 

1989年、天安門広場で戦車の隊列に対して1人で立ち向かった男性のことを忘れてはならない。 


  経常収支不均衡

Project Syndicate JUL 5, 2017 

The Art of the Surplus 

CHRISTOPH M. SCHMIDT 

ドイツの経常収支黒字について、誤解がある。特にアメリカは、GDP8.3%に等しい貿易赤字を出したため、トランプ大統領はドイツの黒字を強く非難している。 

もちろん、ドイツ経済は、そのような黒字を減らす政策変更によって利益を受けるだろう。しかし、調整過程は冷静な判断によって行われることが重要だ。すなわち、指導者たちは、国際貿易が相互に利益になり、調整には時間がかかり、経済が企業とは違うことを理解するべきだ。 

しかし、アメリカのトランプ大統領や(それほど醜悪ではないが)欧州委員会は、ドイツが大幅な黒字を出しているのは、供給に比べて総需要が少なすぎる、マクロ経済的な不均衡があるからだ、と主張し続けている。しかし、マクロ不均衡の不均衡がつづくことは物価水準を変える。過剰供給とは、生産能力の遊休化、物価やインフレ期待の大幅な低下をもたらす。現在のドイツに、こうしたことは全くない。 

逆に、ドイツの生産能力は過度に利用されている。雇用水準は高く、失業は減少している。物価は上昇し、インフレ率は数年にわたってプラスだ。この状況で需要を刺激するために介入するのは、明らかに意味がない。 

西側のパートナーたちはドイツの黒字を、意図的な政策、すなわち、通貨価値の過小評価、輸入障壁、ダンピング輸出のせいだとしばしば解釈する。しかし、ドイツの貿易障壁は低く、賃金交渉は政治から独立しており、金融政策はECBが決めている。 

ドイツの大幅な経常収支黒字の責任は、そのような持続的要因にあるのではなく、一時的な要因に求められる。最も重要なものは、ECBの金融緩和政策だ。ユーロ危機を回避するために欠かせないと主張して、ユーロ安を招いている。また、2014-2016年の石油価格の大幅下落もある。ドイツ企業は、2008年の金融危機やその後のユーロ危機により、税制やリスクを考慮してバッファーとしての資本比率を高めた。ドイツの財政再建が進み、家計は1990年代の不動産バブルが残した債務を減らすために返済した。これらはドイツの経常黒字をもたらしたが、時間とともに、すべて解消される。 

国民経済は大企業のように管理できない、ということをトランプは認めねばならない。マクロ経済分析の対象は、独立した主体による膨大な裁量的決定がもたらした結果である。政策決定者が、それを思い通りに変えることはできない。彼らにできるのは、個々の意思決定が行われる環境を変えることだけである。それによりマクロ変数を変え、意図しない副作用を押さえようとする。 

要するに、経常収支黒字はさまざまな変化の兆候であって政策目標ではない。ドイツの場合、目標は経常収支の均衡化それ自体ではなく、国内投資の収益を増やすことだ。経済原理に従ったエネルギー転換、法人税改革、サービス部門の規制緩和がその手段である。公共投資の増大も役立つだろう。 

そのような政策パッケージこそ、ドイツの潜在的な成長を高め、経常収支黒字を減らす。トランプが求めるとしたら、それこそが取引だ。 


  グローバル指導者たちの対抗

FT JULY 3, 2017 

Merkel, Trump, Xi and the contest for global leadership 

Gideon Rachman 

2008年後半、最初のG20サミットがワシントンであった。リーマン・ブラザーズの倒産、イラク戦争による打撃を受けたが、その部屋でだれが最も重要な指導者かについては疑う余地がなかった。それはジョージ・W・ブッシュ大統領だ。 

9年後のドイツで開催されるG20において、その問にはもはや明確な答えがない。「アメリカ・ファースト」を唱えるトランプ、彼が捨てた国際協力を支持する役割に名乗り出た習近平。かつて西側の指導者という「グロテスク」なアイデアを嫌ったメルケルも、次第にグローバルな課題に発言するようになった。 

もし世界市民が指導者を決めるとしたら、それはメルケルになるだろう。先週Pewが行った、37か国における調査によれば、メルケルがふさわしい、という意見が42%、習近平は28%、トランプは22%だった。 

しかし指導力は世論が決めるのではない。彼らはそれぞれに異なった有利と不利を持つ。すなわち。 

トランプ ・・・グローバルな同盟諸国のネットワーク。圧倒的な軍事力。G20に参加する多くの国が安全保障に関してアメリカに依存している。トランプの言動は混乱しているが、アメリカの諸制度はそれ以上に重要だろう。しかし、トランプのせいで、安全保障や貿易に関するアメリカの姿勢は疑いを生じた。中国、韓国、ドイツとの間に通商摩擦が生じている。国際的な不人気が、彼に近づく指導者の国内政治に影響する。 

習近平 ・・・たっぷり資金を持っている。そのせいで国際的な影響力を高めている。アジアの指導者たちは、ワシントンから北京に、姿勢を変えつつある。ヨーロッパでも、気候変動や貿易問題で、中国の支持を必要としている。しかし、習はトランプ以上に表現の自由を嫌っている。権威主義的権力は、サウジアラビア、ロシア、トルコを除いて、G20の民主主義諸国と異なっている。中国は同盟関係を持たず、国際関係を取引とみなす。 

メルケル ・・・正気を失わず、本能的に国際協調と法の支配を擁護する。ユーロ危機、ウクライナ危機、難民危機、Brexitショックで、その姿勢を貫き、支持を高めた。彼女の経験と、ドイツの経済力が結び付いて、事実上、EUの指導者になった。フランスマクロン、カナダのトルドーと、基本思想を共有する。しかし、ドイツは軍事力を持たない。敵が国境を越えたとき、ドイツに助けを求めることはできない。ドイツの歴史は、グローバルな指導力をメルケルが嫌う理由である。 

プーチンとトランプとの関係も注目を集めている。しかし、ロシア経済には弱点がある。外交的にも孤立している。 

競合する異なった指導力がぶつかる姿こそ、現在のG20サミットなのだ。オーストラリアのMalcolm Turnbull首相は、その困難な選択を示している。政治思想においてメルケルに近く、戦略的関係、安全保障ではトランプに頼り、経済問題で中国がどれほど重要であるかも理解している。 

グローバルな指導力に関して、戦後、もっとも競合する、不確実な時期に入った。 


  トランプ政権の反革命

FP JULY 3, 2017 

We Didn’t Kick Britain’s Ass to Be This Kind of Country 

BY MAX BOOT 

177674日、フィラデルフィア中の教会の鐘が鳴った。大陸議会は独立宣言を採択し、世界に植民地反乱軍の目標を示したのだ。反乱は1年以上前に始まったが、単にイギリス帝国からの自立を求めるものではなかった。叛徒たちは、むしろ、世界がかつて見たこともない独立した共和国の建設を求めていた。 

彼らの要求は、当時の新しい言葉、自然権の思想に結び付いていた。「すべて人間は平等に創られている。」と彼らは書いた。創造者が彼らに奪うことのできないものして与えたのは、生命、自由、幸福を追求する権利である。この革命的文書の著者たちは、すべての政府にこの権利を尊重するように警告した。さもなければ、「これらの目標を否定するいかなる政府も、人民はこれを変更し、廃止し、新しい政府を制度化する権利がある、ということだ。」 

この革命的な立場が示されたのは、王たちが神の意志で支配すると主張していた世界であった。このことは、新しい共和国政府の外交政策に重大な意味を持った。彼らの同時代の、冷笑的な、旧世界の政治家たちと違って、アメリカは決してツキディデスが示したようなリアルポリティークに満足しなかった。すなわち、「強者は可能なことをなし、弱者は耐えねばならないことを耐えた。」 

すべてのかつて覇権国であったかもしれない国は、すなわち、フェリペ2世のスペイン、ルイ14世やナポレオンのフランス、ヴィルヘルム皇帝やアドルフ・ヒトラーのドイツ、ヨシフ・スターリンとその後継者たちのソ連は、他の諸国から重大な反対論を生じた。しかし、アメリカは以前のいかなる大国とも違って、反対論が少なかった。それは、ほとんどの国はアメリカを恐れる理由がなかったからだ。彼らはアメリカが純粋に私的利益で行動するのではない、と知っていた。アメリカはいつも国益を追求したが、それは世界中で自由を擁護する、という広い意味で解釈された。 

トランプの「アメリカ・ファースト」はその理解を脅かす。彼はアメリカの利益を守っていると思っているが、そうではない。アメリカの偉大さの「秘密の源泉」を破壊しているのだ。もしアメリカが自国優先の政策を採れば、他国もすべてそれをまねて、ジャングルの法則だけが残るだろう。そのような展開は、アメリカが独立宣言の理想に根差す外交を200年以上も追求して達成した成果を,トランプは失う危険を冒す。 


  EU改革の方向

Bloomberg 201774 

Hamilton, the EU and the Upside to Shared Debt 

By Komal Sri-Kumar 

もしマクロンが税制と労働市場の改革に成功すれば、フランスはドイツが2003年に行った構造改革と同じ局面に入るだろう。それは投資家のリスクを減らし、生産者に規模の経済を与え、2国にまたがる経済活動に好意的な政策を用意する。それ以降、ドイツ経済は低失業率を続けてきた。 

マクロンは選挙戦で、ヨーロッパ統合を支持し、フランスの弾力的な労働市場と、ユーロ圏の共通予算を管理する財務大臣を創るように提案した。後者には共通の債券発行を含み、620日に、メルケル首相が条件付きで賛成した。 

メルケルの同意は2つの理由で重要だ。第1に、メルケルは慎重な政治家で、かつて共通債券の発行や、共通予算に関しては反対していた。ユーロ圏で最大の債権国として、他国の債務を支払うことを嫌う。第2に、ドイツの有権者は他国の救済を嫌う。ユーロ債券の発行はそのリスクを高める。しかし、彼女が9月の選挙前にマクロンの提案を支持したのは、フランスの改革を促し、協力するときは今しかない、と考えたからだ。 

共通債のリスクはどれほどか? 歴史から推定できるだろう。 

1789年、アメリカの初代財務長官ハミルトンAlexander Hamiltonは、独立戦争によって各州が負った債務問題に直面していた。返済はほとんど考慮されず、1780年代末にはその再建が無価値になっていた。 

大胆にも、ハミルトンは連邦政府が州の債務を肩代わりし、その額面価値を支払う、と提案した。これは論争になった。ヴァージニアのような州は、現代のドイツのように、財政が健全で、すべての債務を支払っていた。他方、ニューイングランドの諸州は、イタリアやギリシャのように、多額の債務を残していた。ハミルトンは、大幅な安値で債券を市場で買った者たちに利益をもたらすことも批判された。 

短期的な問題はあったが、この変更には先見の明があった。第1に、独立した新国家は、13州よりもはるかに安価なコストで借り入れできた。それは新興国に強く求められる投資のコストを安くした。第2に、政府が発行した流動性が経済取引を活発にした。それはグローバルな交換手段となるドルに至る。 

独仏への教訓は明白だ。両国は、財政赤字を出した近隣諸国も含めた共通債券を発行するべきだ。そのリスクは、イタリアやギリシャなどの税と支出を決める共通の財務大臣を置き、また、新規の共通債を段階的に発行することで抑制できる。 

ユーロ圏は、ユーロのグローバルな利用拡大、輸出市場、資本市場の拡大で利益を受ける。 


  ハンブルグG20とディストピア

SPIEGEL ONLINE 07/05/2017 

The G-20 in an Unjust World 

Only Radical Thinking and Action Can Tame Globalization 

By Alexander Jung 

ハンブルグでは今週、数千人がデモの準備をしている。労働の搾取に反対し、環境の破壊に反対し、資本主義の暴走に反対するためだ。世界の問題を解くには、ラディカルな発想が必要になる。 

すでに驚きもしないことだが、著しい不正義が存在する。世界には食料があるけれど、10秒ごとに子供が飢えて死ぬ。約8億人が極度な貧困状態にある。エネルギーの84%は化石燃料によって供給される。 

G20に集まる人々には、少なくとも問題を緩和する機会がある。彼らには、こうした矛盾に、誰よりも責任がある。G20は、世界人口の3分の2、世界生産の4分の3、温暖化ガス排出量の5分の4が集まるのだから、反グローバリゼーションの活動家たちが標的にしている。 

2016年のOxfamが推定したことだが、Microsoft創設者Bill Gates, 衣料品販売Zara所有者 Amancio Ortega、投資家Warren Buffetなど、わずか8人が支配する資産は4260億ドルに達し、それは人類の貧しい半分が保有する資産を超えている。 

2週間前、ドイツのメルケル首相がNGOthe Civil20 SummitC20)に飛び入り参加していた。パネル・ディスカッションで彼女は「経済政策が成長だけを目的とせず、持続可能な、包括的な成長を目的にするべきだ」と認めた。 

ミュンヘンの社会学者Stephan Lessenichはラディカルな診断を下す。北の人々は南の人々を犠牲にして暮らしている。われわれは「資源を略奪し、汚染物質を廃棄し、田畑を破壊し、コミュニティーを解体し、人々を殺害している。」 「われわれの豊かさは、他者の生存の基礎を奪い取ることで実現されている。」 

ウガンダ生まれの女性Winnie Byanyimaは、イギリス帝国の保護領から、アミンの独裁政治を生き、イングランドに逃れて航空工学のエンジニアになった。彼女はウガンダに帰国し、反政府運動に加わり、隠れて生活したが、その後、ウガンダのフランス大使にもなった。現在は、Oxfamの最初のアフリカ人幹部である。 

C20サミットで、メルケルとともに舞台に上がり、ビルマの女性たちのことを報告した。女性たちは1日に14時間も働くが、その手当は4ドルでしかない、と。女性たちは、ソーシャルネットを利用できず、妊娠すれば直ちに解雇される。 

Byanyimaはメルケルに言った。「こうした女性たちが、あなたや私が着ている服を作るのです。」 メルケルは熱心に耳を傾け、うなづいた。聴衆もまた、Byanyimaのコメントに拍手した。 

ほとんどのドイツ人は、シャツや靴、チョコレートがどこから来たのか、気にしていない。その生産過程についても知らない。NGOがわれわれに教えて、知るようになった。しかし、環境に配慮した商品を買う人は少ない。もし地球上のすべての人が、ドイツ人と同じ消費水準を実現すれば、地球が2.6個必要になる。 

OxfamWinnie Byanyimaは、国際分業に問題がある、と考える。販売店は多くの利潤をかき集めているのに、生産者はわずかな利益しか得ていない。衣服でも、チョコレート(ココア豆)でも、靴でもそうだ。靴の生産には、環境汚染や健康義骸をもたらす皮革加工の作業がある。靴の縫製はしばしば労働者が家庭で行い、1足の完成までに約1時間、360の作業を要する。インドネシアにおけるSüdwindの調査では、女性労働者が得るのは1足あたり22ユーロ・セントである。 

株式が市場で取引されている企業は金融資本主義のルールに従う。経済はこの30年間、株主価値の視点で運営されてきた。金融部門が企業の最高経営責任者を決め、その方針を決める。経済は金融化し、銀行のように行動する企業が最大・最優秀の企業になった。人々に好まれる良い製品を作り、ほどほどの利益を上げて、雇用する者たちに十分な賃金を支払う、という創業期の動機から離れてしまった。 

もっと違うやり方がある、とChristian Felberは主張する。利潤を増やすためではなく、人々の生活を改善する公共財(善)the common goodを増やすために経済を運営する、新しい経済秩序を彼は要求する。その考え方は、13世紀の思想家Thomas Von Aquinにあったものだ。現代的な意味で、公共財のための経済は金融的利潤ではなく、公平性、人間としての尊厳、連帯、民主主義、環境の持続可能性、を実現することを目指す。そして、公共財バランスシートを開発している。 

今年、オレゴン州のPortlandでは、労働者より100倍以上の所得を経営者に支払う企業に、10%の追加的法人税を課した。もしそれが平均的な賃金の250倍なら、25%の追加である。北京市は、住民が(内燃式)自動車を購入するライセンスをくじで決めている。より多くの人が電気自動車を購入するように。こうして、ローカルなレベルで、政治家たちは転換を推進している。彼らに必要な物は、勇気、想像力、そして幾分かのラディカルな要素だ。 

ハンブルグのG20サミットは違うだろう。ここでは民主派と独裁者が席を並べ、環境保護派と気候変動を否定する者、人権の支持者と抑圧者が集まる。コロンビア大学のサックスJeffrey Sachs教授は、その準備状況に関して悲観的であった。われわれの制度は機能していない。自分本位の政府ばかりだ。アメリカは、南北戦争以来、最大の政治危機にある、とT20サミットで演説した。彼は聴衆に問いかけた。もし590万人もの5歳以下の子供たちが今年中に死ぬとしたら、われわれはどうやってそれを防げるだろうか? G20がそれに答えないとしたら、誰にできるのか

「もしG20の指導者たちが聴かないとしたら、有権者は彼らを交代させるべきだ。この問題を20人に委ねるのは重大過ぎる。それは75億人の問題、その子供たちと、孫たちの問題である。」 

The Guardian, Thursday 6 July 2017 

We came to Hamburg to protest about G20 – and found a dystopian nightmare 

Srećko Horvat 

今週,ハンブルグに着く者は,ディストピアの悪夢に入ったと思うだろう.

多くの道路は封鎖され,高度な安全ゾーンが指定されている.20000人以上の警察官が,重装備で,町を巡回する.それをドローンや最新鋭の監視技術で支援している.ヘリコプターが,常時,雲の中に「停止」しており,そのローター音はバックグランドミュージックとなって,すぐに気にもしなくなる.常駐する警察,緊急車両のサイレン,非常ライト,放水車が,権力のオーケストラを奏でている.

道路封鎖のブロックと検問所の横で,私はドイツ・コーラ社の人気の広告につまづいた.それは,静かに眠るトランプ,エルドアン,プーチンを描いている.その但し書きは,「目覚めよ!」“Mensch, wach auf!” (“Man, wake up!”)

そのメッセージは,グローバルな諸戦争,テロ,難民危機,気候変動に目を閉ざす政治家たちを刺激することだ.他方で,ハンブルグとそれを超えてすべての市民に向けて,ポストモダンな1930年代に夢遊病者として入り込むのを阻止するため,覚醒を促すものだ.

問題は,権威主義的世界の指導者たちが眠っていることではない.彼らは何をしているのかよく知っているし,やめるつもりはない.

本当の問題は,自由世界の指導者たちが教条主義の睡眠薬に頼っていることだ.ハンブルグ以後,G20は存続するのか?

Project Syndicate JUL 6, 2017 

The G20’s Misguided Globalism 

DANI RODRIK 

G20には2つの起源がある.1つは重要で,もう1つは間違っている.

最初の,意味のある方のアイデアは,発展途上諸国や新興経済をグローバル・ガバナンスの意思決定に参加させる,ということだ.

2の,無益な考えは,世界経済の諸問題を解決するために,グローバルなレベルの協力がさらに必要だ,ということだ.

しかし,G20が,各国に金融安定化やマクロ経済管理,通商政策,構造改革を支持するのは間違っている.「グローバル・コモンズ」の議論を,こうした経済問題に拡大することはできない.

たとえば,ハンブルグG20で保護主義に反対することを考えてみる.問題は,国際協調が足りないから保護主義が強まっている,ということなのか? そうではない,保護主義は国内政治の問題である.

貿易が増えることで,敗者と勝者が増えており,労働者や地域コミュニティーなど,敗者に対する補償が求められる.これに対して,大企業や金融ビジネスなどの勝者は,その規模を抑えようとするだろう.これは国内の政策決定過程の問題である.


  北朝鮮危機

The Guardian, Wednesday 5 July 2017 

China is giving Trump a lesson in how to handle Kim Jong-un 

Simon Jenkins 

アメリカと北朝鮮の対立関係は,トランプと金正恩との間で,こういう話になっている.

Is my missile as big as yours? I bet it goes farther and makes a bigger bang. Anything you can do I can do better. Don’t push me too far. I could lose my temper.

しかし,それでどうなるのか?

北朝鮮軍がベアリング海峡を渡って,サラ・ペイリンを人質にしてホワイトハウスの鍵を要求するのか? イスラム国が示したように,外国に対する殺戮や暴行は,戦略的な関係を変えなかった.あるいは,アメリカが小国の苛立たしい言動に我慢できず,北朝鮮を爆撃して粉々にするのか? どちらも無意味なことに変わりない.アメリカはベトナム戦争を再現しないだろうし,韓国はその場合,ソウルが壊滅するのは避けられない,と知っている.

つまり,西側は国連を通じて制裁強化を求めるだけである.しかしその結果は,逆に,北朝鮮の独裁体制を強化し,延命することになるだろう.反政府勢力は弾圧され,亡命する.Cuba, Serbia, Iraq, Libya, Iran, Myanmar and Korea すべてが示すことだ.中国やロシアが協力するとは思えない.西側もパキスタンやイスラエルの核武装を容認してきた.中国は南シナ海に死活的利益を観る.そこは中国の舞台であって,アメリカのものではない.ピョンヤンは北京にとっての「肩こり」ではあるが,激しい痛みではない.

中国は,ソウルのクローニー資本主義を親しく利用することに関心を持つはずだ.緊張緩和と交渉によって,韓国は北朝鮮に支援する.金正恩の将軍たちは欲望を満たすことに殺到する.

最も効果的な制裁とは,北朝鮮への経済支援である,ということだ.繁栄という制裁なのだ.この外交の転換は西側政府にとってあまりにも大きいが,中国なら動くだろう.

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The Economist June 24th 2016 

Modi’s India

Divided Britain: The tower and the anger

Succession in Saudi Arabia: A shake-up in Riyadh

Banyan: Pride on the march

Politics in Hong Kong: Still on borrowed time

Hungary’s young liberals: Magyars en marche!

(コメント) モディ首相は経済改革によって成長を加速させる政治家か,あるいは,ヒンズー至上主義による政権掌握のために宗教を利用するナショナリストか? インドは豊富な成長の条件を持ちながら,政治がそれを阻んでいる,と指摘します.

高層住宅の火災は,公共サービスの民営化や緊縮策など,既存の政治論争を刺激します.サウジアラビアの皇太子による経済改革や外交・戦争も,アジアにおける同性婚の承認国も,ハンガリーの若い政治運動も,時代を変えるダイナミズムを感じます.

しかし,香港はどうなるのか? 返還20周年の特集記事は,それほど明確な洞察を含んでいないように思います.大陸でもどこでも,成長は減速するのであり,市民の声によって制度的な保障を築く必要があるはずです.移行はまだ続きます.

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IPEの想像力 7/10/17

講義のテキストとして,斎藤純一『不平等を考える』ちくま新書を読んでいます.

その授業では,グローバルな政治経済変化を,国家を超える秩序の問題として,どのように理解できるか? というテーマを考えています.政治秩序の根本には,不平等,不公正,の問題があると思います.しかも,それが偶然に生じるのではなく,政治的な秩序の一部として,特定の集団や地域に層をなして再生される,といった状況を,政治社会は問題視するのです.

私たちは社会的な生き物であり,家族や市場だけでなく,政治社会を生きています.本書は,われわれが政治的社会統合体をなし,その優位性を,法や制度を作ることで集団的に実現している,と考えます.市民として,この政治統合体を活発に維持するにはどうすればよいのでしょうか?

政治統合体に生きることの優位に関しては,このReviewがもはや強調するまでもないと思います.それはトマス・ホッブスが強調し,破たん国家,アフリカの貧困,ユーロ危機,難民危機,Brexit,香港返還など,現代の多くの政治経済問題が示していることです.

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今日は,第Ⅱ部を読みました.

著者は,既存の社会保障論を,長期・安定的な就労とその機会があることを前提とした,そこから滑り落ちた人のための生活保障,とみなして批判し,「広義の社会保障」論を展開します.これは市場経済のロジックを「平等な市民」としての関係にとって十分ではない,と考えるからです.

本書は,後期高齢者,重度障碍者,難病者など,他者に依存して生きる人々を例に挙げますが,彼らが特別なわけではない,と考えます.文明の水準を生きている以上,私たちは広範な依存状態を前提して生きています.それは,貨幣がない時代でも,相互性,互恵性として維持されたように思います.しかし,貨幣を媒介にして,今やグローバルに展開されるようになりました.

もし大幅な所得の差があれば,さまざまな貴重な資源や機会を利用することが一部の人々に限られているとしたら,政治的な統合体はダイナミズムを失うでしょう.社会保障とは,「貧困」ではなく,むしろ「支配に抗する保障」の制度化です.

「他者に依存しながらも,その意思に服することを強いられない自律が可能となるのは,依存とそれへの対応が人々の間に支配―被支配を生み出さないようにする制度化された保障が確立されているときである.」

この意味で,公共機関や公務員の重要性を実感します.

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参加した学生たちに分担して読んでもらっている間,私はホワイトボードに図を描きました.ロドリクのトリレンマとは違う,グローバリゼーションの解剖図を示す試みです.頂点は「帝国」です.イギリスはその近代版として,議会制と植民地を築きました.その下には,「リベラルな国際秩序」(IMF/WTO,ケインズ主義的福祉国家)と書き,中央の垂直線上を下がった底辺に,「デモクラシー」と書きました.

冷戦終結と金融自由化の「グローバリゼーション」(移民労働者,工場移転,アウトソーシング)は,このリベラルな秩序を解体する圧力となりました.もし政治社会が市民たちのダイナミズムを失わないとしたら,独自の仕方で,それを再建するのではないでしょうか?

わたしは中央から左端に「安全保障」,右端に「社会保障」と書きました.戦争や暴力から自由であり,貧困やはく奪から自由である.生活条件の実現と再分配を平等な市民の関係として制度化します.グローバルな市場のもたらす機会は,制度の陥穽を利用した超過利潤や金融市場のパニックを生じて,資産家たちを不当に有利にしている条件である,と思います.

こうした条件を,政治経済秩序は法と制度によって解決しなければなりません.市場経済が社会的分業の利益を説くように,政治社会もホッブス以来の秩序の確立に関する優位を考えているのです.

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安全保障と社会保障はグローバリゼーションを超えて生き残るでしょう.いかなる独裁者とでも,外交関係を結ばなければならない,というのも,国際社会の無政府性を示す前提であり,将来の可能性として,国際的な政治統合の展望を含んだ考え方です.

インドのカーストや宗教対立,中国の反政府・人権活動家への弾圧,香港の自律性,・・・本当に安定的な政治経済秩序は,帝国を滅ぼしても,社会的なダイナミズムを実現できるはずです.

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