IPEの果樹園2017 

今週のReview

7/10-15

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 劉暁波のために ・・・経常収支不均衡 ・・・グローバル指導者たちの対抗 ・・・トランプ政権の反革命 ・・・EU改革の方向 ・・・エチオピアの開発 ・・・ハンブルグG20とディストピア ・・・北朝鮮危機

[長いReview] 

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主要な出典Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, TheGuardian,NYT: New York Times,Project Syndicate, SPIEGEL,VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London) 

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


  劉暁波のために

The Guardian, Saturday 1 July 2017 

If you think the EU should stand up to Trump, then it must stand up to China 

Natalie Nougayrède 

来週、ドナルド・トランプと中国の習近平主席が、ハンブルグのG20に参加する。だれが最も多くの抗議デモを集めるだろうか? きっと、トランプだ。しかし、中国の指導者に対してはどうするのか? 中国政府は、ノーベル平和賞の受賞者である劉暁波Liu Xiaoboががんの治療を受けるために海外へ行くことも禁止している。 

劉の弾圧者は沈黙を求めている。ハンブルグは、この象徴的な反体制派を助けるだけでなく、専制支配を倒し、普遍的な価値を支持する、特別な機会になるだろう。 

ネルソン・マンデラやアンドレイ・サハロフがその時代にシンボルであったように、劉は中国だけでなく、世界中の尊厳と人権を求める人々のシンボルである。彼の勇気は疑う余地がなく、彼の大義は普遍的であり、その苦境は衝撃的だ。 

彼の病気は最近明らかになったが、彼は迫害の下で死につつある。友人たちは、彼が妻と国外に出たがっていると言うが、中国指導部はそれを許さない。彼は犯罪者であり、人々が彼のことを忘れるように意図している。それこそ独裁体制がすることだ。 

ハンブルグで、誰が劉の名を挙げるだろうか? アナーキストたちや、左翼活動家たち、強硬な武闘派たちが、デモの「地獄」にしてやる、と約束している。彼らの心には劉のことなどないだろう。より重要なのは、ヨーロッパの指導者たちだ。彼らはルールに依拠する世界秩序を支持して1つの声になるはずだ。国連人権規約もそれに含まれていないのか

メルケルは、生まれ故郷のハンブルグでサミットを主催するが、その最優先課題として、気候変動、貿易、多角主義において、トランプと対決する、という。孤立主義や保護主義を批判するが、劉の人権について、彼女は多くを語っていない。 

この点を、メルケルはドイツ企業の利益を考慮したのだ、と冷笑することは容易である。中国は、ドイツの最大の貿易相手国であり、その政治的影響力は、中国からの投資にも関わって、ヨーロッパ諸国で強まっている。たとえば6月には、国連における、人権問題で中国を非難するEUの決議に、ギリシャは拒否権を行使した。 

さらに大きな外交的配慮がある。中国は、気候変動や貿易に関してトランプと対抗するヨーロッパを助ける立場である。その協力を得るために、ヨーロッパは中国との関係を良好に保ちたいのだ。 

しかし、劉の悲劇は1人の人間の問題ではなく、ヨーロッパがなくそうとしてきたものだ。その投獄理由は、劉が中国で自由を求めた零八(2008)憲章を起草したことであった。それは、東ヨーロッパで共産主義体制の下にあった反体制派が示した憲章77に刺激されたものだ。チェコスロヴァキアで憲章77に関わったハヴェルVáclav Havelは、1990年、大統領となり、多くの点でヨーロッパの道義を代表する人物になった。 

東欧で民主主義の逆転が生じつつあるとき、誠意ある劉暁波への支持は、EUの価値に対する固い約束、政治において勇気とは何かを示すものとなるだろう。ハヴェルの言葉、「無力な者たちの力」を劉は象徴するからだ。 

悲しいことに、劉の運命はEUの公式声明として穏やかな支持が表明されることに応じるものとなるだろう。しかし劉の闘いは、弾圧に対する非暴力的な抵抗としてグローバルな称賛に値し、マーチン・ルーサー・キングやアウンサン・スー・チーに匹敵するものである。 

習はヨーロッパに来て、トランプ時代の最初のG20 に参加する。今こそ、ヨーロッパの人々は、同じこの世界に生きるうえで、気候変動や貿易だけでなく、人権について連帯を示すときだ。中国の指導者が劉の自由について何の圧力も受けないなら、その非リベラルな国家はさらに強化される。 

トランプはいつか、アメリカの民主主義システムによって、もっとましな人物に交代するだろう。しかし、香港の反体制派たちがよく知っているように、中国はそうではない。ハンブルグで抗議デモをする者たちは、劉暁波のことを想うことだ。 

1989年、天安門広場で戦車の隊列に対して1人で立ち向かった男性のことを忘れてはならない。 


  経常収支不均衡

FT JULY 3, 2017 

China was the real victor of Asia’s financial crisis 

James Kynge 

どちらが勝ったのか? ソロスGeorge Sorosか、マハティールMahathir Mohamad? アメリカのファンド・マネージャーと、マレーシアの政治指導者が、20年前、アジア金融危機の対立の焦点となったのだ。それは、新興市場が、数兆ドルものグローバルな投機資本に対して、どのような開放するべきか、という問題であった。 

マハティールは公然とソロスを非難した。「ばか者」が、マレーシアの通貨、リンギを標的に投機を行い、「不必要な、生産的でない、道義に反する」利益を得た、と。その隠された動機は、イスラム教徒の性向に対する不快感によって育てられた、ユダヤの陰謀だ、とも言った。 

ソロスは、ユダヤ人であるが、マハティールがその国にとっての脅威なのだ、と反論した。スケープゴートなど探しているより、自分の失敗を考えよ、と。 

短期的には、ソロスが勝った。世界的なファンド・マネージャーであり、アジア諸通貨にかけて大きな利益を得たのだ。アジア諸国はひどい目に遭った。特に、インドネシアは最悪で、GDP13.1%も減少し、その通貨ルピーはドルに対して83%も価値を失った。強大な権力を握っていたスハルト大統領が辞任し、投機家たちの資本が示す開放市場の処罰について、その威力を証明した。 

しかし、その後の心理的な傷は、自己強化に向かった。マハティールの資本規制は、今では地域に広がって、ソロスの開放市場による規律を拒んでいる。その主要な理由は、中国の台頭だ。 

東南アジア諸国は、慎重な経済運営で貿易黒字と準備金を蓄え、投機的な資本移動を抑えていた。ドル建債務に頼ることの危険性も忘れなかった。そして、2008-09年の金融危機において、彼らはまさに弾丸をよけることに成功した。 

しかし、アジア金融危機の最も熱心な学習者は、その直接の犠牲者ではなかったが、中国だった。危機において、中国は人民元のUSドルに対する固定制を厳格に維持し、変えなかった。それは危機の感染を止めたというワシントンからの称賛を得ることになった。 

危機の前には、北京は人民元の完全な交換性を実現する改革に取り組んでいた。それは世紀の変わり目に中国を国際資本移動に開放する計画であった。しかし、アジア金融危機が西側資本の破壊力を示したのだ。あれから20年を経たが、今も北京は厳格な資本勘定と人民元レートの規制を維持している。外国資本は、国内金融市場における小さな役割しか果たさない。 

世界第2の株式市場、第3位の債券市場が、グローバルな資本移動から切り離されている。その意味では、マハティールが勝ったのだ。 

Project Syndicate JUL 5, 2017 

The Art of the Surplus 

CHRISTOPH M. SCHMIDT 

ドイツの経常収支黒字について、誤解がある。特にアメリカは、GDP8.3%に等しい貿易赤字を出したため、トランプ大統領はドイツの黒字を強く非難している。 

もちろん、ドイツ経済は、そのような黒字を減らす政策変更によって利益を受けるだろう。しかし、調整過程は冷静な判断によって行われることが重要だ。すなわち、指導者たちは、国際貿易が相互に利益になり、調整には時間がかかり、経済が企業とは違うことを理解するべきだ。 

しかし、アメリカのトランプ大統領や(それほど醜悪ではないが)欧州委員会は、ドイツが大幅な黒字を出しているのは、供給に比べて総需要が少なすぎる、マクロ経済的な不均衡があるからだ、と主張し続けている。しかし、マクロ不均衡の不均衡がつづくことは物価水準を変える。過剰供給とは、生産能力の遊休化、物価やインフレ期待の大幅な低下をもたらす。現在のドイツに、こうしたことは全くない。 

逆に、ドイツの生産能力は過度に利用されている。雇用水準は高く、失業は減少している。物価は上昇し、インフレ率は数年にわたってプラスだ。この状況で需要を刺激するために介入するのは、明らかに意味がない。 

西側のパートナーたちはドイツの黒字を、意図的な政策、すなわち、通貨価値の過小評価、輸入障壁、ダンピング輸出のせいだとしばしば解釈する。しかし、ドイツの貿易障壁は低く、賃金交渉は政治から独立しており、金融政策はECBが決めている。 

ドイツの大幅な経常収支黒字の責任は、そのような持続的要因にあるのではなく、一時的な要因に求められる。最も重要なものは、ECBの金融緩和政策だ。ユーロ危機を回避するために欠かせないと主張して、ユーロ安を招いている。また、2014-2016年の石油価格の大幅下落もある。ドイツ企業は、2008年の金融危機やその後のユーロ危機により、税制やリスクを考慮してバッファーとしての資本比率を高めた。ドイツの財政再建が進み、家計は1990年代の不動産バブルが残した債務を減らすために返済した。これらはドイツの経常黒字をもたらしたが、時間とともに、すべて解消される。 

国民経済は大企業のように管理できない、ということをトランプは認めねばならない。マクロ経済分析の対象は、独立した主体による膨大な裁量的決定がもたらした結果である。政策決定者が、それを思い通りに変えることはできない。彼らにできるのは、個々の意思決定が行われる環境を変えることだけである。それによりマクロ変数を変え、意図しない副作用を押さえようとする。 

要するに、経常収支黒字はさまざまな変化の兆候であって政策目標ではない。ドイツの場合、目標は経常収支の均衡化それ自体ではなく、国内投資の収益を増やすことだ。経済原理に従ったエネルギー転換、法人税改革、サービス部門の規制緩和がその手段である。公共投資の増大も役立つだろう。 

そのような政策パッケージこそ、ドイツの潜在的な成長を高め、経常収支黒字を減らす。トランプが求めるとしたら、それこそが取引だ。 


  グローバル指導者たちの対抗

FT JULY 3, 2017 

Merkel, Trump, Xi and the contest for global leadership 

Gideon Rachman 

2008年後半、最初のG20サミットがワシントンであった。リーマン・ブラザーズの倒産、イラク戦争による打撃を受けたが、その部屋でだれが最も重要な指導者かについては疑う余地がなかった。それはジョージ・W・ブッシュ大統領だ。 

9年後のドイツで開催されるG20において、その問にはもはや明確な答えがない。「アメリカ・ファースト」を唱えるトランプ、彼が捨てた国際協力を支持する役割に名乗り出た習近平。かつて西側の指導者という「グロテスク」なアイデアを嫌ったメルケルも、次第にグローバルな課題に発言するようになった。 

もし世界市民が指導者を決めるとしたら、それはメルケルになるだろう。先週Pewが行った、37か国における調査によれば、メルケルがふさわしい、という意見が42%、習近平は28%、トランプは22%だった。 

しかし指導力は世論が決めるのではない。彼らはそれぞれに異なった有利と不利を持つ。すなわち。 

トランプ ・・・グローバルな同盟諸国のネットワーク。圧倒的な軍事力。G20に参加する多くの国が安全保障に関してアメリカに依存している。トランプの言動は混乱しているが、アメリカの諸制度はそれ以上に重要だろう。しかし、トランプのせいで、安全保障や貿易に関するアメリカの姿勢は疑いを生じた。中国、韓国、ドイツとの間に通商摩擦が生じている。国際的な不人気が、彼に近づく指導者の国内政治に影響する。 

習近平 ・・・たっぷり資金を持っている。そのせいで国際的な影響力を高めている。アジアの指導者たちは、ワシントンから北京に、姿勢を変えつつある。ヨーロッパでも、気候変動や貿易問題で、中国の支持を必要としている。しかし、習はトランプ以上に表現の自由を嫌っている。権威主義的権力は、サウジアラビア、ロシア、トルコを除いて、G20の民主主義諸国と異なっている。中国は同盟関係を持たず、国際関係を取引とみなす。 

メルケル ・・・正気を失わず、本能的に国際協調と法の支配を擁護する。ユーロ危機、ウクライナ危機、難民危機、Brexitショックで、その姿勢を貫き、支持を高めた。彼女の経験と、ドイツの経済力が結び付いて、事実上、EUの指導者になった。フランスマクロン、カナダのトルドーと、基本思想を共有する。しかし、ドイツは軍事力を持たない。敵が国境を越えたとき、ドイツに助けを求めることはできない。ドイツの歴史は、グローバルな指導力をメルケルが嫌う理由である。 

プーチンとトランプとの関係も注目を集めている。しかし、ロシア経済には弱点がある。外交的にも孤立している。 

競合する異なった指導力がぶつかる姿こそ、現在のG20サミットなのだ。オーストラリアのMalcolm Turnbull首相は、その困難な選択を示している。政治思想においてメルケルに近く、戦略的関係、安全保障ではトランプに頼り、経済問題で中国がどれほど重要であるかも理解している。 

グローバルな指導力に関して、戦後、もっとも競合する、不確実な時期に入った。 

Project Syndicate JUL 4, 2017 

What Future for Global Leadership? 

HAROLD JAMES 

英米が、第2次世界大戦後の国際秩序に関して、反対する姿勢を明確にしてした。実際には、その低所得者層も貿易自由化の最大の受益者である。しかし、失業や不平等の罪を貿易や移民に負わせて、輸入に的を絞った限定的な取引をするだろう。それは、保護主義と脱グローバリゼーションの悪循環を生じる。 

グローバリゼーションのメカニズムがすでに侵食されている。しかも、戦後のグローバリゼーションを支えた諸機関が削減され、愛国主義的に再編されつつある。 

他方、重要課題に関して、中国とドイツの協力が進みつつある。ドイツの規模は小さく、覇権国に慣れない。ユーロ圏内の地位も金融危機によって損なわれている。他方、中国の「一帯一路」によるインフラ整備も、さまざまな問題を生じる。西側のグローバリゼーション批判は、一層の民主化を要求しており、中国はその代表にふさわしくない。 


  トランプ政権の反革命

FP JULY 3, 2017 

We Didn’t Kick Britain’s Ass to Be This Kind of Country 

BY MAX BOOT 

177674日、フィラデルフィア中の教会の鐘が鳴った。大陸議会は独立宣言を採択し、世界に植民地反乱軍の目標を示したのだ。反乱は1年以上前に始まったが、単にイギリス帝国からの自立を求めるものではなかった。叛徒たちは、むしろ、世界がかつて見たこともない独立した共和国の建設を求めていた。 

彼らの要求は、当時の新しい言葉、自然権の思想に結び付いていた。「すべて人間は平等に創られている。」と彼らは書いた。創造者が彼らに奪うことのできないものして与えたのは、生命、自由、幸福を追求する権利である。この革命的文書の著者たちは、すべての政府にこの権利を尊重するように警告した。さもなければ、「これらの目標を否定するいかなる政府も、人民はこれを変更し、廃止し、新しい政府を制度化する権利がある、ということだ。」 

この革命的な立場が示されたのは、王たちが神の意志で支配すると主張していた世界であった。このことは、新しい共和国政府の外交政策に重大な意味を持った。彼らの同時代の、冷笑的な、旧世界の政治家たちと違って、アメリカは決してツキディデスが示したようなリアルポリティークに満足しなかった。すなわち、「強者は可能なことをなし、弱者は耐えねばならないことを耐えた。」 

しかし、現在、アメリカ外交の最も基礎となる部分を、ドナルド・トランプ大統領が侵食しつつある。彼はTPPとパリ協定を離脱し、NAFTANATOに疑問を示した。ロンドン市長Sadiq Khanからドイツのメルケル首相まで、民主的な同盟相手と喧嘩し、他方、エジプトのAbdel Fattah al-Sisi、北朝鮮の金正恩、中国の習近平を称賛した。トランプはフィリピンのRodrigo Duterte大統領に、かれが裁判を経ずに7000人を殺害したにもかかわらず、「麻薬問題で信じられないほど素晴らしい仕事をした」と述べた。トルコのRecep Tayyip Erdoganには、民主主義の終わりとみなされている憲法改正の国民投票で、彼が勝利したことを称えた。 

すべてのかつて覇権国であったかもしれない国は、すなわち、フェリペ2世のスペイン、ルイ14世やナポレオンのフランス、ヴィルヘルム皇帝やアドルフ・ヒトラーのドイツ、ヨシフ・スターリンとその後継者たちのソ連は、他の諸国から重大な反対論を生じた。しかし、アメリカは以前のいかなる大国とも違って、反対論が少なかった。それは、ほとんどの国はアメリカを恐れる理由がなかったからだ。彼らはアメリカが純粋に私的利益で行動するのではない、と知っていた。アメリカはいつも国益を追求したが、それは世界中で自由を擁護する、という広い意味で解釈された。 

トランプの「アメリカ・ファースト」はその理解を脅かす。彼はアメリカの利益を守っていると思っているが、そうではない。アメリカの偉大さの「秘密の源泉」を破壊しているのだ。もしアメリカが自国優先の政策を採れば、他国もすべてそれをまねて、ジャングルの法則だけが残るだろう。そのような展開は、アメリカが独立宣言の理想に根差す外交を200年以上も追求して達成した成果を,トランプは失う危険を冒す。 

NYT July 3, 2017 

The Hijacked American Presidency 

Charles M. Blow 

この異常な状態は何に拠って生じているのか? トランプが大統領制度をハイジャックしたのだ。 

Project Syndicate JUL 4, 2017 

Public Spheres for the Trump Age 

J. BRADFORD DELONG 

FT July 5, 2017 

Donald Trump leaves Angela Merkel to stand up for liberal values 

Edward Luce 

アメリカ、イギリス、フランスに比べて、ドイツがポピュリストの政治的影響を受けなかったのはなぜか? 1.大学に進学しない労働者たちに十分な訓練を与え、高い給与を得る中産階級にした。彼らはその地位を誇りにした。トランプは、教育のない人々を好んだが、ドイツでは、彼らは熟練を高く評価した。2.ドイツの諜報機関はロシアによる選挙への介入を常に監視し、対策を取ってきた。トランプ政権は、アメリカの諜報機関の調査結果を否定し、そのことが権力の喪失を意味するために、プーチンに弱みを握られている。 

メルケルは、トランプの事情も、プーチンという政治家もよく知っている。西側の将来、その価値は、彼女の肩にかかっている。 

NYT July 5, 2017 

Noam Chomsky: On Trump and the State of the Union 

George Yancy and Noam Chomsky 

FT July 6, 2017 

How Donald Trump has played Vladimir Putin’s game 

Philip Stephens 

誰もが疑わないことは、ホワイトハウスの助けで、プーチンはそのグランド・ストラテジーを達成しつつある、ということだ。アメリカはヨーロッパンのパートナーたちと疎遠になった。同盟諸国はいたるところでトランプへの信頼を失った。ワシントンは、かつて生得の権利とみなした国際的指導力を、今や嫌っている。プーチンにとって、これは大勝利だ。しかし、他のすべての者にとって、世界はより危険なものになった。 

SPIEGEL ONLINE 07/06/2017 

The G-20's Most Important Meeting 

Why We Need Trump and Putin To Get Along 

A Commentary by Dietmar Pieper 

Project Syndicate JUL 6, 2017 

Putin and Trump’s Tainted Love 

NINA L. KHRUSHCHEVA 

FP JULY 7, 2017 

Donald Trump Has Made America a Back-Row Kid 

BY DEREK CHOLLET, JULIE SMITH 


  医療保険改革

FT JULY 3, 2017 

President Trump’s destructive path on steel 

NYT July 3, 2017 

Oh! What a Lovely Trade War 

Paul Krugman 

トランプは、医療保険制度について自分がわかっていないことを認めた。共和党案は「おそろしく」簡単だった。数千万人から医療保険を奪い、富裕層には減税策を与える。 

しかし、国際貿易はもっと難しい。ここでは、トランプは、自分が何をわかっていないのかもわからない。何が通商政策を複雑にするのか? 1.中間投入財の多さ。2.間接的な効果。たとえば、金利引き上げが住宅建設を減らし、ドルを強くし、輸出を減らす。 

3.他国による報復。アメリカは世界貿易の圧倒的な大国ではない。EUもほぼ同じ規模を持つ。 

トランプの通商政策は、アメリカ産業の競争力を損ない、貿易に犠牲者に追加のコストを強いて、コミュニティーを破壊する。資本財の輸出を助けるような政策は、雇用の追加をほとんどもたらさない。 

FT JULY 5, 2017 

An EU-Japan pact shows how free trade strides on 


  EU改革の方向

FT JULY 4, 2017 

Germany has no need to seize control of the ECB top job 

David Marsh 

ドラギMario DraghiECB総裁を辞任した後、ドイツ人がその地位に就く必要はない。独仏関係の改善とメルケルの首相続投を前提すれば、むしろショイブレが次の財務大臣になることを優先するべきだ。その地位からヨーロッパ統合を再編する決定的な力を発揮できる。 

ドイツ連銀総裁Jens WeidmannECB総裁に就くことは、ドイツにとっての憲法問題を生じるだけである。むしろWeidmannは、メルケルの進めた改革の成果として、最初のユーロ圏財務大臣の地位に就くことを目指すべきであろう。 

Project Syndicate JUL 4, 2017 

The Macron Doctrine? 

ZAKI LAÏDI 

マクロン・ドクトリンはできるか

プーチンを招き、トランプとも会った。マクロンは、フランスがヨーロッパの中心であるとともに、国際政治で重要な役割を果たすことを明確に示した。マクロンにはカリスマがある。 

経済改革を進めることが重要だ。シリアではプーチンと巧みに交渉し、トランプを国際合意に復帰させる上でメルケルと協力している。トランプの批判を利用して、ヨーロッパの防衛力を高める条約も準備するだろう。 

Bloomberg 201774 

Hamilton, the EU and the Upside to Shared Debt 

By Komal Sri-Kumar 

もしマクロンが税制と労働市場の改革に成功すれば、フランスはドイツが2003年に行った構造改革と同じ局面に入るだろう。それは投資家のリスクを減らし、生産者に規模の経済を与え、2国にまたがる経済活動に好意的な政策を用意する。それ以降、ドイツ経済は低失業率を続けてきた。 

マクロンは選挙戦で、ヨーロッパ統合を支持し、フランスの弾力的な労働市場と、ユーロ圏の共通予算を管理する財務大臣を創るように提案した。後者には共通の債券発行を含み、620日に、メルケル首相が条件付きで賛成した。 

メルケルの同意は2つの理由で重要だ。第1に、メルケルは慎重な政治家で、かつて共通債券の発行や、共通予算に関しては反対していた。ユーロ圏で最大の債権国として、他国の債務を支払うことを嫌う。第2に、ドイツの有権者は他国の救済を嫌う。ユーロ債券の発行はそのリスクを高める。しかし、彼女が9月の選挙前にマクロンの提案を支持したのは、フランスの改革を促し、協力するときは今しかない、と考えたからだ。 

共通債のリスクはどれほどか? 歴史から推定できるだろう。 

1789年、アメリカの初代財務長官ハミルトンAlexander Hamiltonは、独立戦争によって各州が負った債務問題に直面していた。返済はほとんど考慮されず、1780年代末にはその再建が無価値になっていた。 

大胆にも、ハミルトンは連邦政府が州の債務を肩代わりし、その額面価値を支払う、と提案した。これは論争になった。ヴァージニアのような州は、現代のドイツのように、財政が健全で、すべての債務を支払っていた。他方、ニューイングランドの諸州は、イタリアやギリシャのように、多額の債務を残していた。ハミルトンは、大幅な安値で債券を市場で買った者たちに利益をもたらすことも批判された。 

短期的な問題はあったが、この変更には先見の明があった。第1に、独立した新国家は、13州よりもはるかに安価なコストで借り入れできた。それは新興国に強く求められる投資のコストを安くした。第2に、政府が発行した流動性が経済取引を活発にした。それはグローバルな交換手段となるドルに至る。 

独仏への教訓は明白だ。両国は、財政赤字を出した近隣諸国も含めた共通債券を発行するべきだ。そのリスクは、イタリアやギリシャなどの税と支出を決める共通の財務大臣を置き、また、新規の共通債を段階的に発行することで抑制できる。 

ユーロ圏は、ユーロのグローバルな利用拡大、輸出市場、資本市場の拡大で利益を受ける。 

FT July 5, 2017 

Eurozone’s strange low-wage employment boom 

Claire Jones in Frankfurt 

Project Syndicate JUL 6, 2017 

Trump’s Gift to Europe 

JOSEPH S. NYE 

ヨーロッパにとって、トランプの不人気は良いことだ。最近、ヨーロッパの会議参加者がそう発言してアメリカ人を驚かせた。 

ほとんどすべての点で、トランプ大統領の誕生はヨーロッパにとってひどいことだった。しかし、反米というより反トランプの感情は、ヨーロッパの価値を高めるうえで役に立っている。 

ポピュリストへの支持拡大は、Brexitやトランプ当選がピークであった。その後の選挙では否定されてきた。イギリスの選挙の結果、ソフトBrexitが目標になるだろう。EU離脱後のイギリスに関して、EUとイギリスの新しい妥協を合意することが考えられる。ヨーロッパの柔軟さがその条件だ。 

ヨーロッパのエリートたちは、厳格な連邦制ではない、未来に向けて柔軟な政治体を考えている。それにはすでに3つのレベルがある。関税同盟、ユーロ圏、そして、国境を廃するシェンゲン協定である。防衛政策は第4のレベルだろう。 

これまで共通の防衛体制はなかなか進まなかった。イギリスのほかには、フランスだけが軍事力に十分な財政支出を行ってきた。ドイツは歴史的にそれを抑えている。しかもイギリスは、いつも、NATOに競合するものを進めたがらなかった。 

しかし、情勢は変化している。ヨーロッパは、ロシアによるグルジア、ウクライナへの攻撃、北アフリカ、中東における脅威に直面している。かつては、NATO拡大がその答えであった。しかし、トランプはそれを支持しない。マリにおけるテロ対策にはドイツも軍を送った。 


(後半へ続く)