IPEの果樹園2017
今週のReview
6/26-7/1
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富裕層のためのポピュリズム ・・・ソフトBrexitと国家回復 ・・・マクロン議会 ・・・カタール断行 ・・・トランプ政権の政策構想 ・・・ヘルムート・コールとドイツ統一 ・・・北朝鮮の核危機と市場改革 ・・・世界の農産物供給圏 ・・・中国の見る世界秩序
[長いReview]
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● 富裕層のためのポピュリズム
NYT JUNE 17, 2017
Trump Is Offering Populism, Minus
the Free Candy
Neil Irwin
トランプをポピュリズムとみなす批判がある。ヨーロッパのナショナリストやラテンアメリカの強権指導者がトランプと比較される。彼らは権力を握ると、たとえ長期的な国家の財政基盤を損なっても、自分の支持者たちに具体的な利益をもたらす。
かつてドーンブッシュとエドワードRudiger Dornbusch and Sebastian Edwardsは、“The
Macroeconomics of Populism in Latin America” を書いて、ポピュリズムを批判した。「政策担当者たちは、成長を加速し、再分配をするために、拡大的な財政政策、融資、通貨の増価に大きく頼る。」 「それは短期の成長の後、ボトルネックが生じ、持続不可能なマクロ経済的圧力に至る。それは最終的に、実質賃金の急落、国際収支の極度の困難に終わる。こうした実験の結果は、一般に、ギャロッピング・インフレーション、恐慌、経済システムの崩壊である。」
トランプの選択は非常に異なっている。彼は、支持者の多くが苦しむような医療保険の削減を行った。他方、富裕層への減税によって大幅な富を与える。1兆ドルのインフラ投資は提案されていない。減税によって民間投資を促すだけだ。地域振興の財源も削減する。
トランプは、ポピュリスト的な演説を多用する指導者であるが、その国内政策は、緊縮的な議会共和党員に委ねてしまう。彼がこのような政策を採るのだから、支持率が40%を切るのも当然だ。
● ソフトBrexitと国家回復
Project Syndicate JUN 19, 2017
Britain’s Deepening Confusion
ROBERT
SKIDELSKY
ロンドン・ブリッジのテロ事件の後、メイ首相は“Enough is enough”と語った。しかし、総選挙で示されたのは、メイにももう十分だ、という拒否だった。保守党は絶対多数を失った。
選挙はイギリスを分裂状態のまま残した。昨年のBrexit国民投票が、離脱派と残留派に分断し、今年の総選挙は、より伝統的な左派と右派の分断が争われた。労働党は、保守党の緊縮予算に対する不満を吸収して議席を増やした。
イギリス政治は2つの軸と4象限に分けて考えることができる。EU離脱と残留の軸、予算削減と経済拡大の軸。4つの方向性はまとまった過半数を形成せず、有権者が何を求めて投票したのかわからない。
しかし、有権者が拒否したものは明確だ。第1に、緊縮策だ。保守党政権の予算削減は、間違った理論と間違った実践であった。ジョージ・オズボーンは2010-2016年の蔵相であったが、その予算目標を達成できなかった。赤字は2015年、2017年、2020-2021年に解消するとしていた。現政権では目標年を示していない。
目標年は、「信頼できる」赤字削減計画がビジネスの自信を回復し、削減の効果を打ち消すほど民間投資の増加をもたらす、という間違った考えに依拠していた。真実はそうではない。経済成長なしには赤字は減少しないのだ。予算の削減は成長を妨げる。
第2に拒否されたのは、EUからの無制約な移民流入だ。離脱派は、東欧からの無制限な経済移民を拒否した。EUが西欧に限定されていたころ、ヨーロッパ内部の移民は少なかった。脱共産体制の低賃金労働者が加わったとき、これが変化したのだ。
移民は、イギリスやドイツの労働力不足を解消し、移民労働者の所得も増えた。しかし、制限のない移民流入には、そのような利益を期待できない。George J. Borjasによれば、キューバからの大規模な移民流入は、1980年、マイアミの競合する国内労働者の賃金を下げた。こうした不安から、主権国家は移民規制の権利を主張する。
正統な政治権力とは、近代的な国家と国民市場の登場で変化した。財、資本、労働力が、複数の主権国家内で、制限なしに移動するためには、2つの条件が必要だ。国民のアイデンティティと社会・安全保障が強化されることだ。
EUはどちらの条件もみたさなかった。市民たちはそれぞれの国民国家の市民であると考えている。市民と国家の関係で。ヨーロッパ規模の国家は存在しないからだ。EU市民であるという条件で異動の自由を主張することは間違いだった。それはBrexitに限らず、全EU加盟国で制限すべきだ。
選挙結果を受けて、イギリス政府はどうなるか? メイ首相は短命で終わるだろう。その結果、保守党と労働党の大連立が求められる。たとえば、Boris Johnson首相とJeremy
Corbyn副首相だ。ソフトBrexitを実現し、住宅、インフラ、グリーン・エネルギーに大規模な公共投資を行う。景気が回復すれば移民への反発は弱まり、EUとの交渉で正しい移民規制を要求できる。
しかし、選挙が示すこうした連立政権の政治的可能性は全くない。
The Guardian, Thursday 22 June 2017
A year after voting for Brexit,
Britain’s divided, and in uncharted waters
Timothy
Garton Ash
スイスの新聞the Neue Zürcher Zeitungは書いた.「イギリス人は何をしたいのかわかっていないのだ.」 全くその通り.
イギリス人は,何を求めているのか,合意できず,どうやってそれを得るのか,知らないのだ.国民投票から1年経って,イギリスがこれほど破滅的な混乱状態にあるのを見るのは悲しいことだ.
対照的に,EUは団結している.マクロンは仏独関係によるEU統合の推進に自信を深めており,ユーロ圏経済もイギリスより成長している.Brexitとトランプを受けて,メルケルはヨーロッパの自立を求めた.彼らから見れば,Brexitは不快な余興である.マクロンとメルケルの最初の会談で,イギリスについて話し合ったのは約60秒だけだった,という.
EUの交渉姿勢は明白だ.「ケーキを持ったままで,ケーキを食べたい,というのは許されない.」
イギリス総選挙の結果は,ソフトBrexitを求めるものだった.残留を支持した保守党員が気勢を上げ,経済と雇用を重視するソフトBrexitを優先するだろう.その1人であったPhilip Hammond蔵相は,解任されるどころか,選挙後も留任し,経済問題の重視を唱えた.
しかし,この姿勢は奇妙である.もし経済問題を重視するなら,その明白な選択肢はEUにとどまることだ.David
Cameronは国民投票で残留を訴えた.誇張されたとはいえ,Brexitが経済的にマイナスであることは明らかであった.
しかしキャメロンは敗北し,国民は離脱を選んだ.移民を規制し,国民の主権を回復する,“take back control”を,経済問題よりも優先したからだ.国民は間違った論争によって投票を決めたのだ.保守党も,労働党も,議員たちは私的な会話でそれを認めている.しかし,自分の党が分裂するのを恐れて沈黙している.
欧米の政治が昨年教えたことは,選挙では何が起きるかわからない,ということだ.イギリスは移行期を経て,ノルウェー型のEEAを新しく合意するだろう.EUやトルコを含む関税同盟.ユニオンジャックに飾られた,共同市場における二流の参加国.EU財政に分担金を支払い,移民はほとんど減らず,重要な領域でEU法廷に縛られる.イギリス議会は,得意のマドリング・スルーを経て,そのすべてを承認する.これがBrexitに関してコンセンサスを示せないイギリスの,離脱と残留の中間点なのだ.
スイス人の学生と話した.スイスが大幅にEUに依存していると知ったが,それでもEUには加盟したくない,という.なぜなら,「自分たちを統治するという感覚」を持ちたいから.イギリス人の願いもそうだろう.たとえ合理的に考えて,形式的な主権と実質的な権力とは違うものだ,と知っても.
議会には離脱交渉の結果が示される.そのとき,イギリスのヨーロッパ人である私たちは力いっぱい叫ぶだろう.「これは2つの世界の最悪のものだ.われわれはケーキを持たず,食べることもない.」
● マクロン議会
The Guardian, Sunday 18 June 2017
Macron has led a brilliant coup –
could the British now do the same?
Will
Hutton
マクロンEmmanuel Macronは、新しい政党を立ち上げ、大統領に選出されるという、驚異的な成果を上げた。フランスが革命の歴史を持っている。フランスが機能するには、疲弊し、腐敗した、保守党と社会党の政治家たちから成る旧体制を廃するまで、右でも左でもない、知的、思想的な運動に向かう揺籃期が1世代を費やした。
デジタル化、AI、ナノ、など、技術革新の波が経済変化を加速し、新企業の勃興、旧企業の没落、流動的「フリーランス」経済を生んだ。新生資本主義は、右派の思想によれば、多数者のために富を生む道徳的規範を支持し、さまざまな機会を資本化する。他方、変化のスピードが顕著な格差をもたらし、新しい不確実性や環境悪化の圧力を生じている。この面では、左派の思想を借りて、知的な介入、道義に基づく是正策が必要だ。
グローバルな相互依存が増す中で、EUのような多角的な機関が効果的に機能しなければならない。この点で、アメリカがパリ協定を去ったことで、マクロンにとってEU支持こそ、「我らの地球社会を再び偉大にする」というアピールなのだ。39歳の新大統領は、こうした左右の錬金術を唱えて、新しい政治を指導してきた。
その目標は、北欧型の社会・経済モデルをフランスに実現することだ。スウェーデン、フィンランド、デンマークは、経済のダイナミズムを維持し、しかも、GDPの半分を公共部門に向けている。マクロンは労働規制の改革と開放型の貿易システムを採用する北欧モデルに従い、最も必要な分野には社会投資を集中することを目指す。
フランスの革命はドーバー海峡を超えるだろうか? フランスは労働規制の緩和を、イギリスは逆に再強化を目指している。しかし、北欧モデルから学ぶ点は、同じ力が作用している両国にあるだろう。
● カタール断行
FT June 19, 2017
The Qatar crisis has global
implications
Gideon
Rachman
過去6年間、2つのアラブ世界があった。一方は、暴力と悲劇の世界。他方は、輝くグローバリゼーションの世界。前者は、シリア、イラク、リビア、そして、いくらかましなエジプトだ。後者は、カタール、アブダビ、ドバイの、旅行、ビジネス、金融のグローバル・ハブがもたらす繁栄に示されていた。湾岸のメトロポイリスは他の中東世界の暴力から切り離されているように見えた。
しかし、この2つの世界を分離する壁が倒れた。サウジアラビア、バーレーン、エジプト、アラブ首長国連邦UAEが、カタールを封鎖したのだ。
シリアやリビアが分裂しても、世界経済に影響を及ぼさなかった。しかし、湾岸諸国は違う。カタールとUAEの人口は、220万、910万人しかいないが、カタールは世界最大規模の天然ガス輸出国である。The Qatar Investment Authorityは西側の主要企業、フォルクスワーゲンやバークレイの大株主である。2022年のワールドカップ開催もカタールで予定されている。
湾岸諸国は、世界経済に大きな影響を及ぼす。ドバイは、ヨーロッパ、南アジア、アフリカ、ロシアに近く、中東の拠点となっている。世界最大の建築物the Burj Khalifaがあり、その政府系投資信託The Abu Dhabi Investment Authorityは8000億ドルの資産規模を持つ。世界最大の不動産所有者である。
サウジアラビアは、地域で最大かつ最強の国であり、世界最大規模の石油供給者として世界経済に長期にわたって影響力を行使してきた。サウジ王室は、カタールが国際舞台で独自行動を取るのを嫌っていた。それはAl Jazeeraへの出資、ムスリム同胞団の活動拠点となること、また、余りにもイランに接近したことである。
アメリカ外交が正常な時期には、最大の軍事拠点を提供するカタールの安定を守るために、サウジとの紛争を鎮静化するための仲裁を行ったはずだ。しかし、トランプ大統領はサウジアラビアを訪問し、公式にサウジの姿勢を支持した。
カタール危機は、中東地域で紛争が続く中でも湾岸諸国の繁栄は維持できる、という時代が終わったことを示す。
● トランプ政権の政策構想
Project Syndicate JUN 22, 2017
Trump’s Sugar Swamp
JEFFREY
FRANKEL
メキシコ,カナダとの,NAFTA再交渉がトランプ政権の強い要求であった.そこで注目されるのは1つの品目だ.砂糖である.再交渉は,おそらく,アメリカの砂糖産業に甘い(利益を大きく増やす)取引をもたらすだろう.それはトランプの約束,「沼を干上がらせる」(ワシントン政治の既得権による支配を破壊する)という言葉がどれほど無意味であるか,示すだろう.
FP JUNE 22, 2017
The Trump Tower Peace Theory
BY
PHILLIP Y. LIPSCY
推定35億ドルの個人資産を持つ不動産業者,ドナルド・トランプが大統領になったことで,アメリカ外交は影響を受けるだろう.彼は世界規模の不動産帝国を管理している.
民主主義的平和論the democratic peace theoryをまねて,1999年,ジャーナリストのThomas
Friedmanは,平和のマクドナルド理論,を提唱した.マクドナルドが店舗を拓いた国同士は,戦争の起きる可能性が低くなる,というものだ.同じことを,トランプが不動産を所有する国同士で言えるかもしれない.
● ヘルムート・コールとドイツ統一
FP JUNE 19, 2017
Could German Unification Have
Happened Today?
BY
M.E. SAROTTE
1990年2月10日の夜、西ドイツ首相、故ヘルムート・コールは、彼の部下たちとともに、当時のソ連の首都で、長い、寒い散策をしていた。なぜか? その日の早い時刻、ソ連の指導者、ミハイル・ゴルバチョフが、訪問中のコールに、ドイツ統一の「グリーン・ライト」を示したからだ。コールはその夕方の記者会見で、そのニュースを告げ、出席したすべての者が驚いた。その後の事態を夢中で考えていると、眠れなくなった。
30年近くたつと、ドイツ統一は避けられない、予想されたことのように見られがちだ。しかし、まったくそうではなかった。コールはいなければ、決して起きなかっただろう。1989年11月9日にベルリンの壁は、事実上、崩壊していた。しかし、統一には多くのハードルがあった。ドイツのナショナリズムが復活することへの不安。繁栄する国家を難民や再統一の費用が押しつぶすことへの西ドイツ国民の不満、1945年にナチス・ドイツが無条件降伏した後、分断されたドイツを法的に圧倒する4大国の特権。1990年に、アメリカ、イギリス、フランス、ソ連は、ドイツの領土に対する法的権威を保持し、数万人の軍隊を置いていた。
今日とは対照的に、1990年、ドイツとアメリカの指導者は協力を優先した。このときアメリカがNATOの東方への拡大をしないと約束したかについては論争がある。しかし、重要な点は、突然の壁崩壊で、ドイツが統一のためにNATOを離脱するつもりではないか、ということだった。コールがモスクワで何を言ったのか、アメリカは知ろうとした。アメリカの参加しない、ドイツとソ連との会談を懸念し、必ず電話した。
2月10日の会談で、コールはゴルバチョフに妥協を示唆した。統一ドイツは大西洋同盟に属するが、「当然、NATOは現在の東ドイツの領土に拡大しない」、と。コールとゴルバチョフは、この問題は他の諸問題と一緒に「ヨーロッパ共通の家の下で」解決するべきだ、とあいまいに議論した。
この後、ゴルバチョフはコールに統一への「グリーン・ライト」を出したとコールは言うが、公式の文書は残されなかった。コールは即座に、記者会見で、ゴルバチョフの譲歩をより明確な表現で示し、文書を残そうと決意した。首相の補佐官たちはショックを受けた。そして彼らは、ソ連のメディアがこのニュースをどのように伝えるかを待ったのだ。ドイツの代表団が、その夜、眠れなかったのも不思議ではない。しかしその後も、ゴルバチョフの態度に変化はなく、ドイツは安堵した。
しかし、問題はアメリカ大統領、ジョージ・H・W・ブッシュから起きた。コールにできだけ早くアメリカに来るよう求めたのだ。キャンプ・デービッドの会談で、ブッシュは、ドイツの半分だけがNATOに帰属し、半分は帰属しない状態を受け入れるつもりはない、と確認した。ドイツとNATOの将来は我々が決めるのであり、モスクワではない、と。統一にはスピードが絶対に必要であると考えたコールは、ブッシュの指導に従うことを決断した。そして、モスクワとの交渉は「金の問題」として解決すると示唆した。ブッシュは同意し、西ドイツには幸い「大きなポケットがある」とした。ソ連を排除するため買収したのだ。しかし、それはロシアを冷戦後のヨーロッパの辺境に置き、彼らの怨嗟を残したのだ。
今では、新しい危険な要素はワシントンにある。コールがブッシュの要求を受け入れたのは、ブッシュとの強い人間関係があったこと、また、マーシャル・プラン以降、大西洋同盟を通じて、アメリカが信頼できるパートナーであると確信していたからだ。
アメリカの孤立化と不安定な行動が前提になるとき、ベルリンが同じ結論を出すとは思えない。
● 北朝鮮の核危機と市場改革
Project Syndicate JUN 20, 2017
North Korea’s Real Strategy
CHRISTOPHER
R. HILL
北朝鮮のような小国が、孤立し、敵対的な国に包囲されれば、核兵器を開発する司会に残れない。核兵器は、プラグマティックな理由から論理的に導かれたものだ、と誤って議論される。
実際、北朝鮮の核兵器は、もっと攻撃的な手段である。北朝鮮は、アメリカと韓国を分断することを狙っている。そして、アメリカが本土への核ミサイル攻撃を恐れて、韓国の防衛に消極的になれば、金正恩は自分の条件で統一を交渉する、すなわち、韓国を征服できる、と考えているのだ。
もちろん、これは彼らの幻想である。たとえアメリカとの集団防衛体制が弱まっても、韓国の通常兵器は北朝鮮の軍隊を十分に圧倒できるだろう。しかし、北朝鮮のような国では、独裁者や国民が自分たちのプロパガンダを本気で信じるかもしれない。
いずれにせよ、北朝鮮は攻撃のための特殊部隊や現代戦争の非対称な技術に大きな投資をしている。北朝鮮を交渉のテーブルに就かせることはできないだろう。米韓軍事合同演習を停止して、それと交換に、北朝鮮のミサイルと核の実験を停止する、という「フリーズ・フォー・フリーズ」の提案は事実に反する。戦争を準備しているのは北朝鮮だ。米韓合同軍事演習は、その防衛的な性格が明白だ。
このような提案は、むしろ北朝鮮の核武装を容認することにつながる。北朝鮮はすべての核開発計画を破棄し、核不拡散体制に復帰することだ。いかなる譲歩も、北朝鮮の体制を強化する。
FT June 21, 2017
North Korea begins journey from
feudalism to crony capitalism
Bryan
Harris in Seoul
金正恩は5年前に権力の座に就いた。金の目標は、経済成長と核開発であった。複線型政策、と呼んだ。
その結果、漸進的な市場経済化が進んだ。「北朝鮮は、非常に厳格な社会主義統制経済から、基本的に市場化された経済に移行した」という。国家管理経済に戻ることはむつかしいだろう。
アメリカでは、北朝鮮が解放し、帰国した学生が死亡したことで、制裁を主張する声は強いが、北朝鮮経済は活気に満ち、制裁にも耐えるだろう。賃金の上昇、高層ビルの建設、そして、首都の交通量が増えている。ソーラー・パネルやエアコンの利用も増えている。
金は、祖父や父のイデオロギーを引き継がず、自由市場を否定しなかった。彼はビジネスを容認し、政治的な自由化を否定した。中国やベトナムの初期の市場自由化と同じモデルを採用したのだ。
「北朝鮮は、封建主義から、クローニー資本主義へ、移行しつつある。」 農業や工業における自由化も認め、経営者たちにより大きな責任と自律性を求めている。企業のコングロマリット化も進んでいる。
北朝鮮の経済を破壊するのは制裁ではない。それは北朝鮮政府だ、という。西側の制裁は、ますます中国への依存を高めており、北朝鮮は中国以外からの投資を強く求めている。
● 世界の農産物供給圏
FT June 21, 2017
Why soyabeans are the crop of the
century
Gregory
Meyer, Andres Schipani and Tom Hancock
ノースダコタMohall, North Dakotaの外の農場では、最近まで、黄色のヒマワリ、琥珀色の小麦が広がっていた。しかし今では、その多くが、夏の生育期には緑色だ。この景観は、Eric Mobergのような農民たちが創り出した。この春、何千エーカーも、彼は空中から種を撒いたのだ。
新興のアジアが、鶏肉や豚肉を食べることで、その飼料になる大豆が世界中で急速に需要を伸ばしている。この10年で、作付面積は28%も増大した。
大豆耕作は、ブラジルの内陸サバンナ、アルゼンチンのパンパ、アメリカ中部の農場にまで拡大している。大豆の勝利をもたらしているのは、中国人の所得上昇である。中国の輸入量は過去10年で3倍になった。今年の推定輸入量は9300万トン、一人当たり66キログラム、あるいは、毎日、貨物輸送船が5隻である。鉄鉱石や銅のような工業製品の原料に対する需要は減少しても、大豆輸入は衰えない。
● 中国の見る世界秩序
FT June 21, 2017
The dark side of China’s national
renewal
Jamil
Anderlini
西側の指導力が次々に失われていくとき、それに変わるものとして、多くの人が中国に注目するのは当然だろう。しかし、中国はどのようなグローバルな指導者になりたいと願っているのか? われわれはよく知らない。
2012年に、中国共産党の最高指導者になった習近平主席の唱える「チャイニーズ・ドリーム」、「中国人の復活」の意味を考えることだ。公式の英訳で、the “great rejuvenation
of the Chinese nation”となっている。新しいシルクロードの建設、人民解放軍の急速な拡大、南シナ海の人工島、さまざまなことがこの「復活」の輝かしい一部である、と主張される。
英語でrejuvenation、復活、若返り、とは、良い意味である。すべての国民が平和的に努力する限り。
しかし、この翻訳は誤解を含む。中国語の“Zhonghua minzu”は、“Chinese
nation”というより、正確には“Chinese race”である。中国は56のエスニック集団からなると認めているが、その人口の90%以上を占める漢民族を、それは意味している。特に興味深いのは、世界中のどこであれ、どれほど過去にさかのぼっても、祖先が中国本土を離れた者も、ここに含まれる。
香港では、最近の移民でも、当局が「中国人」と認める者には市民権を与える。しかしインド人や白人の子孫であれば、たとえ100年その領域に住んでいても、完全な市民権を認めない。主権国家という近代的概念は西側の不当な発明であって、中国の伝統的な考えと矛盾する、という理論家も北京にはいる。それによれば、中国皇帝を中心として、紫禁城から発する権力は全地球に及ぶ。
民族に依拠した国民的復活、明白な使命とは、20世紀の不快な歴史、初期のヨーロッパ帝国主義と共通している。
李克強は、そのために投資、技術革新、貿易を推進し、中国の伝統文化を世界で促進し、台湾独立に反対する、と述べた。中国民族は「大きな家族」であり、その目的に反することは「民族の裏切り者」である。近隣諸国にとっての深刻な意味は、過去の王朝、皇帝の下で拡大した領域のすべてにおいて、現政権が主権を主張することだろう。
これは中国の失地回復運動であり、彼らが正当とみなす支配、影響、そして領土をも獲得する、長い過程の途中にある、ということだ。中国は、どこを頂点とみなし、誰を家族に含めるのか?
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The Economist June 10th 2017
Soil pollution in China: Buried poison
Pollution in China: The bad earth
Press freedom in Japan: Bristling with indignation
Haiti: A time to sow
Qatar and Saudi Arabia: A futile family feud
(コメント) 中国の経済成長があまりにも急速で,その副産物としての大気汚染や土壌汚染を無視してきたことは以前から指摘されていました.工業からサービスへ産業が転換し,工場が内陸や国外に移転し,次第に都市化が進むと,汚染された土地に学校やマンションが建つわけです.都市住民の抗議が強まり,汚染の処理を求められます.それは莫大な費用を意味します.地方政府の主要な財源である土地開発を脅かすことで,初めて深刻な政治問題が生じます.
ハイチの政府が弱いことが,開発のインフラを準備できない根本問題です.日本政府・安倍政権は,国際機関からの批判に対しても,国内と同じ,隠ぺい,拒否,一方的非難,という姿勢です.
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IPEの想像力 6/26/2017
NHKドキュメンタリーを観ました.日本の「黒幕・バノン」は誰でしょうか?
大阪独立に失敗した維新は,日本のUKIPか,あるいは,2度目の国民投票を模索するSNPなのでしょうか?
安倍晋三という政治家を通して,日本のバノンが日銀,財務省,外交・防衛政策を押さえたことは当然です.アベノミクスで富裕層への逆向きの再分配を優先し,消費税引き上げの論争で財政再建派を掌握し,領土紛争では中国・韓国と対決し,ロシアを重視しました.何より,国家機密法,安保法制,テロ準備罪,を国会で通過させ,防衛・警察関係者の描く,安全保障国家の強化に成功しました.
しかし,これは序章です.憲法改正こそ,日本のBrexitになるでしょう.
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何が争点か? 小さな改正によって問われることは,むしろ大きなテーマ,時代精神になるでしょう.
安倍政権の夢,日本の保守主義の理想像とは,何か? 何から離脱するのか?
保守派は日本の憲法を,アメリカを中心とした占領軍が強制した憲法である,と主張します.歴史家や憲法学者は,憲法の成立(歴史)過程をどのように評価しているのでしょうか? NATOがそうであったように,憲法の平和主義も,日米安保条約,沖縄の米軍基地とセットで「アメリカを(アジアに)残し,ソ連(共産主義)を排除し,日本(再軍備)を抑える」ものでした.
しかし今,その条件は大きく変化しました.トランプ政権は,日本やアジアへの安全保障を取引材料にして,貿易にもっと有利な条件を求めます,ソ連は崩壊し,プーチンのロシアは共産主義ではなく,大国主義,外交・軍事の失地回復・介入主義として現れています.また,中国は一国共産主義体制を放棄して,急速な市場化,資本主義化を遂げ,共産党の政治支配と資本家との不安定な共棲関係を続けています.
何より,日本の変貌,保守革命です.戦後秩序(占領によって強いられた諸制度)を解体し,対韓・対中謝罪外交を終わらせ,日本固有の価値・権威・能力を高めるために,再びナショナリズムが積極的な政治意識となりました.金融バブルの反省や国民の福祉を改善する政策より,日本の衰退や戦後の罪悪感をすっぱり切り捨てること,「再び日本を偉大な国にする」ことが主張されます.
Brexitやトランプ,日米安保(NATO)の解体,北方領土,尖閣諸島,竹島をめぐって,その答えはもはやパックス・アメリカーナになく,日本が防衛力の増強に取り組むしかない,と安倍政権は訴えます.しかしそれは,トランプやプーチンと意気投合したと自慢する分裂症的な外交であり,彼らを危惧するメルケル首相との決定的な違いを含んでいます.
国内体制においても,安倍政権は,メディアや軍事を独占し,自民党を含めて,改憲のための挙国一致体制を目指します.並行して,政府は,専門家たちによる政府諮問会議方式を利用し,国民を救済するメッセージをプラグマティックに取り込むのです.国会では議論するより一方的な解説と虚言に終始し,自分が選んだ著名人や関係者を集めて議論した内容を報道させます.
「政府は改革のために邁進している.」・・・ それは合意形成型のポピュリズムです.かつてモイゼス・ナイムは「権力の調理法」(Review 10/8/2009)を示して警告しました.
2014年1月20日のReviewに,私は書きました.「石原や安倍,橋下の政治表現は,威嚇,優越,謀略を追求し,積極的に肯定します.それは恐竜時代の政治にもどる流れであり,アジアの混沌を共有します.言い換えれば,日本も,中国も,アジア乱流圏に呑み込まれて,政治の地形や方位を何度も書き直す作業を始めたのです.」
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バノンには,アメリカの権力構造を脅かすイスラム過激派とワシントンのエリート層に対する多年に蓄積された憎悪を感じます.
安倍政権の崩壊後,日本政治が,憲法改正後の安全保障と社会保障に関する,具体的な議論を深めます.そのために民進党と公明党は協力し,自民党のリベラル派を加えた絶対多数の連立政権を,解散・総選挙によって実現する,と国民に訴えてはどうでしょうか?
こうして,日本のBrexitとして,憲法改正が始まります.
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