(前半から続く)
● ヘルムート・コールとドイツ統一
FP JUNE 19, 2017
Could German Unification Have
Happened Today?
BY
M.E. SAROTTE
1990年2月10日の夜、西ドイツ首相、故ヘルムート・コールは、彼の部下たちとともに、当時のソ連の首都で、長い、寒い散策をしていた。なぜか? その日の早い時刻、ソ連の指導者、ミハイル・ゴルバチョフが、訪問中のコールに、ドイツ統一の「グリーン・ライト」を示したからだ。コールはその夕方の記者会見で、そのニュースを告げ、出席したすべての者が驚いた。その後の事態を夢中で考えていると、眠れなくなった。
30年近くたつと、ドイツ統一は避けられない、予想されたことのように見られがちだ。しかし、まったくそうではなかった。コールはいなければ、決して起きなかっただろう。1989年11月9日にベルリンの壁は、事実上、崩壊していた。しかし、統一には多くのハードルがあった。ドイツのナショナリズムが復活することへの不安。繁栄する国家を難民や再統一の費用が押しつぶすことへの西ドイツ国民の不満、1945年にナチス・ドイツが無条件降伏した後、分断されたドイツを法的に圧倒する4大国の特権。1990年に、アメリカ、イギリス、フランス、ソ連は、ドイツの領土に対する法的権威を保持し、数万人の軍隊を置いていた。
ドイツ統一過程は国内問題であるとともに外交問題であった。第1級の政治家としてコールは、反対派が彼を阻止する前に、数か月で、それを引き出した。しかし、そのやり方は、あいまいさのある、拙速で、問題の多い遺産であった。しかし、迅速さは必要であった。当時のアメリカ国務長官、ジェームズ・ベイカーは「その成功のすべての成果には、将来の問題の種が含まれていた」と書いた。
コールは3つの原則で統一を進めた。1.ベルリンの壁崩壊を肯定し、統一を支持した。2.ヨーロッパ統合、そして、経済通貨同盟(EMU)を支持した。3.大西洋間のパートナーシップを優先した。
ベルリンの壁が開放されたのは、驚くべき、歴史の偶然であった。反政府・抵抗運動家たちの示した勇気、改革の見せかけを記者会見で示すため、記者会見で愚かな助言をした体制側の無能さ、境界線を越える犯罪行為に対して秘密警察職員たちが示した驚くべき許容度。これらが11月9日の夜に起きた。本当に、壁は開いたのだ。
しかし、不安は強く、統一への障害はますます明らかになった。それでもコールは、壁の解放を祝福し、ドイツ国民の統一を求めた。コールは、ドイツ内部で速やかに協力することで、東ドイツ国民が西ドイツの生活水準を求めるときに生じる巨大な諸問題を解決できると考えた。彼は正しかったが、その解決には非常に時間がかかることを理解していなかった。東ドイツ国民の期待を高め、全ドイツに及ぶ「繁栄した国土」を約束したことは間違いだった。今も、旧東ドイツの失業率は西側の2倍である。
コールは、生涯を通じて、ヨーロッパ統一の一貫した推進者であった。ドイツ統一とヨーロッパ統合とは同じコインの両面である、というアデナウアーの言葉を、コールも確信していた。彼は、20世紀前半のドイツのナショナリズムがいかに破壊的であったか、決して忘れなかった。だから、ヨーロッパの協力に努力し、フランス大統領、ミッテランともEMUに合意したのだ。
しかし、それが必要とする政治同盟に関して、2人は合意できなかった。ヨーロッパは共通通貨を得たが、共通の財政は得られず、近年の経験が示すように、経済危機に対処する能力は損なわれた。
今日とは対照的に、1990年、ドイツとアメリカの指導者は協力を優先した。このときアメリカがNATOの東方への拡大をしないと約束したかについては論争がある。しかし、重要な点は、突然の壁崩壊で、ドイツが統一のためにNATOを離脱するつもりではないか、ということだった。コールがモスクワで何を言ったのか、アメリカは知ろうとした。アメリカの参加しない、ドイツとソ連との会談を懸念し、必ず電話した。
2月10日の会談で、コールはゴルバチョフに妥協を示唆した。統一ドイツは大西洋同盟に属するが、「当然、NATOは現在の東ドイツの領土に拡大しない」、と。コールとゴルバチョフは、この問題は他の諸問題と一緒に「ヨーロッパ共通の家の下で」解決するべきだ、とあいまいに議論した。
この後、ゴルバチョフはコールに統一への「グリーン・ライト」を出したとコールは言うが、公式の文書は残されなかった。コールは即座に、記者会見で、ゴルバチョフの譲歩をより明確な表現で示し、文書を残そうと決意した。首相の補佐官たちはショックを受けた。そして彼らは、ソ連のメディアがこのニュースをどのように伝えるかを待ったのだ。ドイツの代表団が、その夜、眠れなかったのも不思議ではない。しかしその後も、ゴルバチョフの態度に変化はなく、ドイツは安堵した。
しかし、問題はアメリカ大統領、ジョージ・H・W・ブッシュから起きた。コールにできだけ早くアメリカに来るよう求めたのだ。キャンプ・デービッドの会談で、ブッシュは、ドイツの半分だけがNATOに帰属し、半分は帰属しない状態を受け入れるつもりはない、と確認した。ドイツとNATOの将来は我々が決めるのであり、モスクワではない、と。統一にはスピードが絶対に必要であると考えたコールは、ブッシュの指導に従うことを決断した。そして、モスクワとの交渉は「金の問題」として解決すると示唆した。ブッシュは同意し、西ドイツには幸い「大きなポケットがある」とした。ソ連を排除するため買収したのだ。しかし、それはロシアを冷戦後のヨーロッパの辺境に置き、彼らの怨嗟を残したのだ。
今では、新しい危険な要素はワシントンにある。コールがブッシュの要求を受け入れたのは、ブッシュとの強い人間関係があったこと、また、マーシャル・プラン以降、大西洋同盟を通じて、アメリカが信頼できるパートナーであると確信していたからだ。
アメリカの孤立化と不安定な行動が前提になるとき、ベルリンが同じ結論を出すとは思えない。
FT June 20, 2017
How Germany got Helmut Kohl wrong
Frederick
Studemann
Project Syndicate JUN 20, 2017
Helmut Kohl’s Vision and Legacy
CHRISTOPH
BERTRAM
その前任者たちWilly
Brandt and Helmut Schmidtに比べて、コールにカリスマや言葉の才能はなかった。コールが持っていたのは、ドイツの将来に関する明確なビジョンであった。すなわち、統一ヨーロッパの内にあるドイツ再統一だ。
外交における幸運な結果というのは、単なる運の問題ではない。それはつかみ取らねばならない。ベルリンの壁崩壊は、誰にとっても驚きであった。コールもそのスピードに驚いたが、1982年に首相になったときから、歴史的な転換を待っていた。
コールは、ビスマルク以来、いかなる首相よりも長く、政党内でも国内政治においても支配的な政治家であった。コールが失策を回避する主要な手法は、信頼を築くことだった。ドイツの福祉にかかわる、大小にかかわらず、すべての関係者との間に信頼を築いた。シュミットが明晰な計算によって戦略を組み立てたのに対して、コールは信頼を強化した。
ドイツの主要な、欠くべからざる同盟者であるアメリカについて、コールは任期の最初から最も緊密な関係を望んだ。それは、1982年、シュミット政権が、アメリカの中距離弾道ミサイル配備に反対する大規模なデモにより、倒れたことから学んだのだ。コールは大衆抗議に対する対決姿勢を堅持した。圧力に屈して約束を守れないとき、ドイツの信用はアメリカに対して、またモスクワに対しても、損なわれた。
ジョージ・H・W・ブッシュ、ミハイル・ゴルバチョフ、フランソワ・ミッテラン、ジャック・ドロールとの親しい個人的な関係を、コールは築いていた。また、ドイツの周辺諸国ともネットワークを形成した。ドイツがヨーロッパ最大の経済規模を持つことで、彼らの態度を友好的なものにした。
● カザフスタン
FT June 20, 2017
Investors welcome push to prise open
Kazakhstan
Henry
Foy
● 中国金融市場改革
NYT JUNE 20, 2017
China Will Be Part of a Stock Index
Provider, Opening the Door to Foreign Money
By
KEITH BRADSHER and ALEXANDRA STEVENSON
FT June 21, 2017
China gains entry to MSCI’s $1.6tn
global index
Jennifer
Hughes in Hong Kong and Nicole Bullock in New York
中国の株式が、直接、MSCIのグローバル・ベンチマーク株価インデックスに、初めて加わった。これは、北京が国際ファンドを世界第2位の規模を持つ自国市場に導入する、1つの里程標である。中国本土の株式が、A-sharesとして、来年、MSCIの基幹インデックスである、新興市場インデックスに入る。
投資家たちは、中国のコーポレート・ガバナンス、株価の変動に対する政府の対応、利益を本国に送るときの人民元の管理体制、などに懸念を持っている。
Bloomberg 2017年6月22日
MSCI Forgets Its Doubts About China
By
Christopher Balding
Project Syndicate JUN 22, 2017
The Retreat of the Renminbi
BENN
STEIL and EMMA SMITH
人民元のグローバル通貨に向けた前進は逆転した.ドルに対する価値は減少し,投機的な人民元投資は減り,外貨準備減少を抑えるために資本取引規制を強化し,中国の輸出成長は限界に達して,今では,グローバリゼーションの逆転が始まった.
● 気候変動
FT June 20, 2017
Climate progress is not dependent on
Paris accord
Ted
Halstead
● 政治の構造変化
SPIEGEL ONLINE 06/20/2017
'Welcome To Hell'
Hamburg Girds for 100,000 G-20
Protestors
By
Laura Backes, Maik Baumgärtner, Hubert Gude and Gunther Latsch
Project Syndicate JUN 20, 2017
The Death of the Party
NINA
L. KHRUSHCHEVA
NYT JUNE 20, 2017
As Government Retrenches,
Philanthropy Booms
By DAVID CALLAHAN
FT June 22, 2017
The Democratic journey to the
populist left
Edward
Luce
ヒラリー・クリントンの敗北後、民主党は選挙に勝てない。トランプを嫌う以外に、民主党の指導方針は見失われたままだ。マクロン型の民主党員、コービン型の民主党員が現れている。
もはや、アメリカにも左派ポピュリストが現れるかどうかが問題ではない。彼らをだれが始動するのか、だけが問題だ。
NYT JUNE 22, 2017
The End of the Left and the Right as
We Knew Them
Thomas
B. Edsall
● 移民・難民
Project Syndicate JUN 20, 2017
What We Owe Refugee Children
ELIAS
BOU SAAB
VOX 20 June 2017
Public attitudes to immigration:
Salience matters
Timothy
Hatton
● 北朝鮮の核危機と市場改革
Project Syndicate JUN 20, 2017
North Korea’s Real Strategy
CHRISTOPHER
R. HILL
北朝鮮のような小国が、孤立し、敵対的な国に包囲されれば、核兵器を開発する司会に残れない。核兵器は、プラグマティックな理由から論理的に導かれたものだ、と誤って議論される。
実際、北朝鮮の核兵器は、もっと攻撃的な手段である。北朝鮮は、アメリカと韓国を分断することを狙っている。そして、アメリカが本土への核ミサイル攻撃を恐れて、韓国の防衛に消極的になれば、金正恩は自分の条件で統一を交渉する、すなわち、韓国を征服できる、と考えているのだ。
もちろん、これは彼らの幻想である。たとえアメリカとの集団防衛体制が弱まっても、韓国の通常兵器は北朝鮮の軍隊を十分に圧倒できるだろう。しかし、北朝鮮のような国では、独裁者や国民が自分たちのプロパガンダを本気で信じるかもしれない。
いずれにせよ、北朝鮮は攻撃のための特殊部隊や現代戦争の非対称な技術に大きな投資をしている。北朝鮮を交渉のテーブルに就かせることはできないだろう。米韓軍事合同演習を停止して、それと交換に、北朝鮮のミサイルと核の実験を停止する、という「フリーズ・フォー・フリーズ」の提案は事実に反する。戦争を準備しているのは北朝鮮だ。米韓合同軍事演習は、その防衛的な性格が明白だ。
このような提案は、むしろ北朝鮮の核武装を容認することにつながる。北朝鮮はすべての核開発計画を破棄し、核不拡散体制に復帰することだ。いかなる譲歩も、北朝鮮の体制を強化する。
FT June 21, 2017
North Korea begins journey from
feudalism to crony capitalism
Bryan
Harris in Seoul
金正恩は5年前に権力の座に就いた。金の目標は、経済成長と核開発であった。複線型政策、と呼んだ。
その結果、漸進的な市場経済化が進んだ。「北朝鮮は、非常に厳格な社会主義統制経済から、基本的に市場化された経済に移行した」という。国家管理経済に戻ることはむつかしいだろう。
アメリカでは、北朝鮮が解放し、帰国した学生が死亡したことで、制裁を主張する声は強いが、北朝鮮経済は活気に満ち、制裁にも耐えるだろう。賃金の上昇、高層ビルの建設、そして、首都の交通量が増えている。ソーラー・パネルやエアコンの利用も増えている。
金は、祖父や父のイデオロギーを引き継がず、自由市場を否定しなかった。彼はビジネスを容認し、政治的な自由化を否定した。中国やベトナムの初期の市場自由化と同じモデルを採用したのだ。
「北朝鮮は、封建主義から、クローニー資本主義へ、移行しつつある。」 農業や工業における自由化も認め、経営者たちにより大きな責任と自律性を求めている。企業のコングロマリット化も進んでいる。
北朝鮮の経済を破壊するのは制裁ではない。それは北朝鮮政府だ、という。西側の制裁は、ますます中国への依存を高めており、北朝鮮は中国以外からの投資を強く求めている。
NYT JUNE 21, 2017
How to Respond to North Korea’s
Treatment of Otto Warmbier
By CHRISTOPHER R. HILL
NYT JUNE 21, 2017
U.S. Pressed to Pursue Deal to
Freeze North Korea Missile Tests
By
DAVID E. SANGER and GARDINER HARRIS
FP JUNE 21, 2017
Mattis, Tillerson Slam North Korea
After Warmbier Death
BY
ROBBIE GRAMER, PAUL MCLEARY
Project Syndicate JUN 22, 2017
Trump’s Unraveling Korea Policy
KENT
HARRINGTON
● イスラム国
NYT JUNE 20, 2017
Can You Kill the Islamic State?
By ALI H. SOUFAN
● ウクライナ戦争
NYT JUNE 20, 2017
The War No One Notices in Ukraine
By ADRIAN BONENBERGER
● EU改革・反改革
FP JUNE 20, 2017
The EU Is Alive and Well, But the
Referendums Are Coming
BY
BRUCE STOKES
Project Syndicate JUN 21, 2017
The EU’s Mafia State
BÁLINT
MAGYAR
VOX 22 June 2017
The EU Macroeconomic Imbalance
Procedure: Some impact and no sanctions
Jean-Charles
Bricongne, Alessandro Turrini
● アメリカ連銀
FT June 21, 2017
Janet Yellen, and the Fed’s
inflation target, should both stay
Martin
Wolf
アメリカ連銀は、西側の重要な中央銀行の中で先頭を切って、金融政策の正常化に進みつつある。論争は3つだ。連銀は金融を引き締めるべきか? インフレ目標を変更するべきか? イエレン議長を交代させるべきか? その答えは、すべてNoである。
連銀は金融引き締めを急ぐべきではない。確かに雇用は回復したが、引き締めに反対する重要な理由がある。インフレ率が低いことだ。景気が過熱することを示すデータはない。インフレ率が上がるリスクは非対称的かもしれない。しかし、インフレ期待は起きていない。
金利を低く抑えるために、インフレ目標を引き上げることも議論されている。マイナス金利が必要になるかもしれないからだ。しかし、現金への移転は起きていない。
トランプが言及したことで、イエレンの留任は、共和党の一部が唱える金本位制より、優れている。これまでの大統領たちは、連銀の非政治的、超党派的な立場を尊重してきた。
● 世界の農産物供給圏
FT June 21, 2017
Why soyabeans are the crop of the
century
Gregory
Meyer, Andres Schipani and Tom Hancock
ノースダコタMohall, North Dakotaの外の農場では、最近まで、黄色のヒマワリ、琥珀色の小麦が広がっていた。しかし今では、その多くが、夏の生育期には緑色だ。この景観は、Eric Mobergのような農民たちが創り出した。この春、何千エーカーも、彼は空中から種を撒いたのだ。
新興のアジアが、鶏肉や豚肉を食べることで、その飼料になる大豆が世界中で急速に需要を伸ばしている。この10年で、作付面積は28%も増大した。
大豆耕作は、ブラジルの内陸サバンナ、アルゼンチンのパンパ、アメリカ中部の農場にまで拡大している。大豆の勝利をもたらしているのは、中国人の所得上昇である。中国の輸入量は過去10年で3倍になった。今年の推定輸入量は9300万トン、一人当たり66キログラム、あるいは、毎日、貨物輸送船が5隻である。鉄鉱石や銅のような工業製品の原料に対する需要は減少しても、大豆輸入は衰えない。
大豆には多くの植物性たんぱく質が含まれており、大豆を食べて、鶏、豚、魚はより早く太る。
1989年、上海に最初のケンタッキー・フライド・チキンKFCの店が元イギリス人紳士のクラブにできた。当時、中国人の年間食肉消費量は20キログラムだった。30年間で、所得が増大し、その食肉消費量は50キログラムを超えている。KFCは中国に5000店を営業し、今年も数百店を加える。
トランプ政権は中国との貿易戦争を予告し、中国側も大豆やメイズの輸入禁止を示唆したが、アメリカ農家はその可能性を認めない。しかし、アメリカ農家はラテンアメリカに市場シェアを奪われている。昨年、中国の大豆輸入は、ブラジルが半分を占め、アメリカは35%、アルゼンチンが10%であった。
● 女王の演説
The Guardian, Wednesday 21 June 2017
Here’s what the Queen’s speech
needed to say – but didn’t
Jonathan
Freedland
FT June 22, 2017
A Queen’s Speech to reflect a sombre
Britain
● 中国の見る世界秩序
FT June 21, 2017
The dark side of China’s national
renewal
Jamil
Anderlini
西側の指導力が次々に失われていくとき、それに変わるものとして、多くの人が中国に注目するのは当然だろう。しかし、中国はどのようなグローバルな指導者になりたいと願っているのか? われわれはよく知らない。
2012年に、中国共産党の最高指導者になった習近平主席の唱える「チャイニーズ・ドリーム」、「中国人の復活」の意味を考えることだ。公式の英訳で、the “great rejuvenation
of the Chinese nation”となっている。新しいシルクロードの建設、人民解放軍の急速な拡大、南シナ海の人工島、さまざまなことがこの「復活」の輝かしい一部である、と主張される。
英語でrejuvenation、復活、若返り、とは、良い意味である。すべての国民が平和的に努力する限り。
しかし、この翻訳は誤解を含む。中国語の“Zhonghua minzu”は、“Chinese
nation”というより、正確には“Chinese race”である。中国は56のエスニック集団からなると認めているが、その人口の90%以上を占める漢民族を、それは意味している。特に興味深いのは、世界中のどこであれ、どれほど過去にさかのぼっても、祖先が中国本土を離れた者も、ここに含まれる。
香港では、最近の移民でも、当局が「中国人」と認める者には市民権を与える。しかしインド人や白人の子孫であれば、たとえ100年その領域に住んでいても、完全な市民権を認めない。主権国家という近代的概念は西側の不当な発明であって、中国の伝統的な考えと矛盾する、という理論家も北京にはいる。それによれば、中国皇帝を中心として、紫禁城から発する権力は全地球に及ぶ。
民族に依拠した国民的復活、明白な使命とは、20世紀の不快な歴史、初期のヨーロッパ帝国主義と共通している。
李克強は、そのために投資、技術革新、貿易を推進し、中国の伝統文化を世界で促進し、台湾独立に反対する、と述べた。中国民族は「大きな家族」であり、その目的に反することは「民族の裏切り者」である。近隣諸国にとっての深刻な意味は、過去の王朝、皇帝の下で拡大した領域のすべてにおいて、現政権が主権を主張することだろう。
これは中国の失地回復運動であり、彼らが正当とみなす支配、影響、そして領土をも獲得する、長い過程の途中にある、ということだ。中国は、どこを頂点とみなし、誰を家族に含めるのか?
● ギリシャ債務危機
Project Syndicate JUN 21, 2017
An IMF Bridge to Somewhere for
Greece?
MOHAMED
A. EL-ERIAN
IMFは,1980年代にラテンアメリカの債務危機で用いた古い手を使ってきた.ギリシャが支払い不能,債務不履行にならないため,ヨーロッパと組んで,ギリシャの予算や成長率を決めたのだ.しかし,ギリシャは莫大な債務の重圧の下におかれたままであった.経済ロジックや必要性が示す行動は,ヨーロッパの国内政治によって阻まれてきた.
● 地域秩序再編の時代
Project Syndicate JUN 21, 2017
Who Will Fill America’s Shoes?
RICHARD
N. HAASS
トランプ大統領の言動はアメリカがもはやこれまでのような国際的役割を引き受けないことを明確にした.これは孤立主義ではない.トランプ政権は,中東に軍事介入し,北朝鮮に圧力をかけ,NAFTA再交渉を推進し,TPPやパリ協定を離脱した.それがもたらす世界秩序が何であるのか,わからないままである.
われわれに分かるのは,アメリカに代わる国はない,ということだ.中国はしばしば言及されるが,その権力は国内秩序の維持に向いている.国民の支持を得るために高い成長率を維持することを優先するだろう.より広い国際的ルールに向かうより,経済成長と外交的影響絵欲を高めることを目指している.
ロシアの経済基盤は小さく,国内権力の回復とヨーロッパや中東における影響力の拡大を求めている.インドの歓心は経済発展と,隣国パキスタンとの関係に集中する.日本は人口減少と,国内の政治・経済的制約,近隣諸国の不信によって進めない.ヨーロッパはEU加盟諸国間の関係に多くの問題がある.
それはアメリカを引き継ぐ単独の国がないことを意味するが,直ちに,カオスをもたらすわけではない.主要な大国が協力すれば,その役割を果たせるからだ.しかし,それには諸国が能力と経験,何より,なすべきことと,だれが行うかの分担でコンセンサスを形成しなければならない.
地域のレベルでも,グローバルなレベルでも,秩序と無突如とが併存する,混合世界が現れる.それは皮肉なことに,長い間,多くの国がアメリカの外交を批判したにもかかわらず,アメリカの指導力が重要ではない世界を経験するということだ.
Project Syndicate JUN 21, 2017
The Global Economy in 2067
KAUSHIK
BASU
● サウジアラビアの政変
FP JUNE 21, 2017
Mohammed bin Salman Will Rule Saudi
Arabia for Another 50 Years
BY
ELIZABETH DICKINSON
Bloomberg 2017年6月22日
The New Saudi Heir Is a Dangerous
Man
By
Leonid Bershidsky
Mohammed
bin Salman(MbS)は正式にサウジアラビアの皇太子,権力継承者になった.すでに,サルマン国王のお気に入りとして防衛と石油産業を指導してきたが,西側の首都ではなく,リヤドで弁護士の経験しかない.Vision 2030は脱石油依存経済を唱え,イエメンでフーシ派の政権を排除する軍事行動を実行した.アメリカのシェール・オイルを市場から押し出す価格下落も選択した.アラブ世界におけるイランとの対決姿勢を強め,ロシアやアメリカを引き込もうとしている.
しかし,ロシアはイランとの関係に重心を置いており,トランプ政権との同盟も疑わしい.経験不足のMbSがサウジアラビアの権力を握ったことは,この地域の安定性を損なうだろう.
FT June 23, 2017
A Saudi prince comes close to
absolute power
FT June 23, 2017
Trump’s love-fest with Saudi Arabia
carries risks for the US
Roula
Khalaf
● トランプ大統領
Bloomberg 2017年6月21日
Forget Caesar. Shakespeare Has
Another Role for Trump.
By
Tyler Cowen
Project Syndicate JUN 21, 2017
The Russian-Roulette Presidency
ELIZABETH
DREW
● インドと中国
YaleGlobal, Thursday, June 22, 2017
India Challenges China’s Intentions
on One Belt, One Road Initiative
Harsh
V Pant
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The Economist June 10th 2017
Soil pollution in China: Buried poison
Pollution in China: The bad earth
Press freedom in Japan: Bristling with indignation
Haiti: A time to sow
Qatar and Saudi Arabia: A futile family feud
(コメント) 中国の経済成長があまりにも急速で,その副産物としての大気汚染や土壌汚染を無視してきたことは以前から指摘されていました.工業からサービスへ産業が転換し,工場が内陸や国外に移転し,次第に都市化が進むと,汚染された土地に学校やマンションが建つわけです.都市住民の抗議が強まり,汚染の処理を求められます.それは莫大な費用を意味します.地方政府の主要な財源である土地開発を脅かすことで,初めて深刻な政治問題が生じます.
ハイチの政府が弱いことが,開発のインフラを準備できない根本問題です.日本政府・安倍政権は,国際機関からの批判に対しても,国内と同じ,隠ぺい,拒否,一方的非難,という姿勢です.
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IPEの想像力 6/26/2017
NHKドキュメンタリーを観ました.日本の「黒幕・バノン」は誰でしょうか?
大阪独立に失敗した維新は,日本のUKIPか,あるいは,2度目の国民投票を模索するSNPなのでしょうか?
安倍晋三という政治家を通して,日本のバノンが日銀,財務省,外交・防衛政策を押さえたことは当然です.アベノミクスで富裕層への逆向きの再分配を優先し,消費税引き上げの論争で財政再建派を掌握し,領土紛争では中国・韓国と対決し,ロシアを重視しました.何より,国家機密法,安保法制,テロ準備罪,を国会で通過させ,防衛・警察関係者の描く,安全保障国家の強化に成功しました.
しかし,これは序章です.憲法改正こそ,日本のBrexitになるでしょう.
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何が争点か? 小さな改正によって問われることは,むしろ大きなテーマ,時代精神になるでしょう.
安倍政権の夢,日本の保守主義の理想像とは,何か? 何から離脱するのか?
保守派は日本の憲法を,アメリカを中心とした占領軍が強制した憲法である,と主張します.歴史家や憲法学者は,憲法の成立(歴史)過程をどのように評価しているのでしょうか? NATOがそうであったように,憲法の平和主義も,日米安保条約,沖縄の米軍基地とセットで「アメリカを(アジアに)残し,ソ連(共産主義)を排除し,日本(再軍備)を抑える」ものでした.
しかし今,その条件は大きく変化しました.トランプ政権は,日本やアジアへの安全保障を取引材料にして,貿易にもっと有利な条件を求めます,ソ連は崩壊し,プーチンのロシアは共産主義ではなく,大国主義,外交・軍事の失地回復・介入主義として現れています.また,中国は一国共産主義体制を放棄して,急速な市場化,資本主義化を遂げ,共産党の政治支配と資本家との不安定な共棲関係を続けています.
何より,日本の変貌,保守革命です.戦後秩序(占領によって強いられた諸制度)を解体し,対韓・対中謝罪外交を終わらせ,日本固有の価値・権威・能力を高めるために,再びナショナリズムが積極的な政治意識となりました.金融バブルの反省や国民の福祉を改善する政策より,日本の衰退や戦後の罪悪感をすっぱり切り捨てること,「再び日本を偉大な国にする」ことが主張されます.
Brexitやトランプ,日米安保(NATO)の解体,北方領土,尖閣諸島,竹島をめぐって,その答えはもはやパックス・アメリカーナになく,日本が防衛力の増強に取り組むしかない,と安倍政権は訴えます.しかしそれは,トランプやプーチンと意気投合したと自慢する分裂症的な外交であり,彼らを危惧するメルケル首相との決定的な違いを含んでいます.
国内体制においても,安倍政権は,メディアや軍事を独占し,自民党を含めて,改憲のための挙国一致体制を目指します.並行して,政府は,専門家たちによる政府諮問会議方式を利用し,国民を救済するメッセージをプラグマティックに取り込むのです.国会では議論するより一方的な解説と虚言に終始し,自分が選んだ著名人や関係者を集めて議論した内容を報道させます.
「政府は改革のために邁進している.」・・・ それは合意形成型のポピュリズムです.かつてモイゼス・ナイムは「権力の調理法」(Review 10/8/2009)を示して警告しました.
2014年1月20日のReviewに,私は書きました.「石原や安倍,橋下の政治表現は,威嚇,優越,謀略を追求し,積極的に肯定します.それは恐竜時代の政治にもどる流れであり,アジアの混沌を共有します.言い換えれば,日本も,中国も,アジア乱流圏に呑み込まれて,政治の地形や方位を何度も書き直す作業を始めたのです.」
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バノンには,アメリカの権力構造を脅かすイスラム過激派とワシントンのエリート層に対する多年に蓄積された憎悪を感じます.
安倍政権の崩壊後,日本政治が,憲法改正後の安全保障と社会保障に関する,具体的な議論を深めます.そのために民進党と公明党は協力し,自民党のリベラル派を加えた絶対多数の連立政権を,解散・総選挙によって実現する,と国民に訴えてはどうでしょうか?
こうして,日本のBrexitとして,憲法改正が始まります.
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