IPEの果樹園2017

今週のReview

6/19-24

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コービンとメイ ・・・安倍首相の憲法改正 ・・・トランプと政治的再編 ・・・中国の大戦略 ・・・中国の住宅バブル ・・・北朝鮮は歌うか? ・・・アメリカ抜きの西側同盟 ・・・ユーロ圏は持続不可能だ

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


 コービンとメイ

The Guardian, Saturday 10 June 2017

Despite all the smears and distortions, this was a victory for hope

Gary Younge

希望は、励ましとその余地が与えられれば、絶望よりも強い力になる。それが要求する信念の飛躍は、まだ存在しない未来を想像するものであり、冷笑家の侮蔑にさらされる。信念により行動にはリスクがある。

余りにも長い間、イギリスの選挙政治には冷笑が支配してきた。意志ある者は常に敗北したのだ。たとえ群衆を観ても、政治階級やメディアの記者たちは彼らを無視した。彼らは民衆がすぐれた本性を持つとは考えなかったため、それに訴えることはなかった。

道義性をナイーブと誤解し、彼らは利己心でしか民衆は動かないと考えた。しかも、狭い、知覚できるような利己心だ。政治は可能性のアートであると言いながら、われわれが新しい可能性を創り出すことを、彼らは受け入れなかった。

木曜日の夜、さまざまな障害にもかかわらず、希望が勝利した。イギリス政治は、もはや多くの旧いルールが適用できなくなって、少なくとも今は、根本的な再編が起きている。

憂鬱な、懐古的ブレア主義は破棄された。

テリーザ・メイは、ハードBrexitのために政権を求め、さらに強い交渉力を求めた。それは間違いだった。

保守党は今や、それ自体がUKIPである。小さな島々で国旗を振るだけの、実行できる政策を持たない党だ。

ジェレミー・コービンは、好ましい考えによる政権を求めた。より公正な社会、よりバランスの取れた経済を実現するために、富とパワーを再分配する。

多くの若者たちが労働党に投票したことで、コービンを投手から追放しようとしてきた議員たちが身分を維持できた。議員たちはコービンに対する反対をやめるべきだろう。

政治とは何かを想像し、誰のための政治家を考える、希望が回復した。

最も重要な教訓の1つは、国境を超えて、この選挙結果が、外国人排斥、人種差別、過激なナショナリズム、など、グローバリゼーションが引き起こすさまざまな偏見に対する答だった。

労働党は若者だけでなく、支持層を拡大した。UKIPに投票して見捨てられた人々、外国人排斥に偏った人々も、学校や病院に対する公共投資を提案する労働党を支持した。

木曜日の勝利は、どの政党や指導者の勝利というより、政治的傲慢さの敗北だった。保守党の大勝を前提した人々の敗北だった。対立する政党との討論にも答えない指導者、国民を侮辱する指導者の敗北だった。

党員選挙で党首になったコービンを軽蔑し、その指導力を損なっていた労働党議員たちの敗北だった。

最後に、政治を勝手に都合よく解釈してきた政治評論家たちの敗北であった。しかし、皮肉なことに、彼らがあれほど労働党の力を軽蔑していたからこそ、選挙結果はこれほど破壊的であるのだ。

労働党は勝利しなかった。しかし、希望は勝利したのだ。

The Guardian, Monday 12 June 2017

Jeremy Corbyn has won the first battle in a long war against the ruling elite

Paul Mason

労働党のマニフェストがリークされ、その中身を批判されたが、すぐにコービンの支持率が高まった。イギリスはテロリストに攻撃されたが、保守党の支持率は下がった。労働党の現職候補者は、「コービンでは勝てない」と主張していたが、コービンが来ると支持は増えた。

これらはすべて「政治の常識」において起きないはずのことだった。グラムシはこの点を初めて理解した。労働者階級や左派にとって、その闘いのすべてがこうした常識を覆し、否定することである、と。エリートたちが権力を維持しているのは、情報機関や秘密警察、軍の力によるのではなく、受け入れられている常識の力なのだ。

それを知った上で、コービンが達成したものの大きさを測ることができる。彼は政権を執れなかったが、ネオリベラリズムの主張を公式に打ち破った。排外主義的な、ナショナリストの経済学を敗退させた。

グラムシはわれわれに教えた。支配階級は国家によって統治しているのではない。国家は最後の強制地点でしかない。エリートのパワーを奪うには、彼らの防衛線を11枚はがさねばならない。

多くの社会主義者は、労働者をハチの群れのように扱っている。歴史的な役割を演じるようにあらかじめプログラムされている。しかしグラムシは、すべての者がインテリである、と述べた。たとえ職場では、訓練されたゴリラのように思われている労働者でも、職場の外では、哲学者、芸術家、趣味の人、意識して道義に基づく行動を取る人物なのだ。

労働党が示したのは、このような長い文化戦争の一端である。

FT June 16, 2017

Austerity is dead. Long live austerity

Martin Wolf

労働党の昔の財政刺激策が人気を呼んだ。Brexitによってイギリス経済は損なわれるだろう。しかし、これに加えて財政悪化が困難を増すのは、賢明なことではない。

財政赤字が小さなときは、完全雇用の近辺まで財政支出を増やすことが望ましい。しかし、財政は将来のショックにも備えて債務の水準を下げねばならない。現在のような低金利であれば、質の要公共投資は好ましいだろう。経常収支の赤字が続き、ポンドの脆弱性は増している。

こうしたことを考慮すれば、財政赤字は少ない方がよい。

財政支出削減が必ず求められる、ということではない。スカンジナヴィア諸国、オランダ、ドイツも、イギリスより大きな財政支出を行っている。政府が支出を増やせば、増税しなければならない。それを正直に考えることだ。緊縮策が不要になるわけではない。


 安倍首相の憲法改正

FT June 10, 2017

Abe risks backlash in drive to revise Japan’s constitution

Robin Harding in Tokyo

安倍首相は憲法改正を政治的な遺産にしようとしている。日本の保守派にとって、戦争することや軍隊を否定した憲法は、第2次世界大戦の敗戦でアメリカに強いられたものである。

しかし、自民党内部でも、この問題を急ぐことには異論がある。安倍は、自衛隊を合憲にする条文を入れる、という部分修正で、将来の全面改正を可能にする道を示そうとしている。

来年、明治維新150周年、天皇の退位があれば、これに乗じて、安倍は議会を解散するのではないか、という見方もある。


 トランプと政治的再編

Project Syndicate JUN 13, 2017

Can US States Right Trump’s Wrongs?

BARRY EICHENGREEN

トランプ大統領は、共和党が支配する議会の協力を得て、アメリカ人が大切にしてきた基本的価値の多くを否定しつつある。医療保険を否定し、さまざまな社会給付を削減し、富裕層への税負担が大幅に削減されて、逆向きの再分配が行われる。

最近、トランプの間違った判断で、アメリカは気候変動抑制に関するパリ協定からも離脱すると表明した。それは地球の健康と福祉をリスクにさらし、アメリカのグローバルな地位を低下させる。

この機会に、アメリカが連邦制度を取っていることを思い出すべきだ。すべての権力を中央が握る(フランスのような)単一権力システムではない。アメリカ合衆国憲法修正第10条が示すように、連邦政府に明確に認めた権限を除いて、権力の一部が各州に留保されているのだ。

伝統的に、州の権限は、奴隷制度を擁護する南部州によって提唱された。より最近では、社会的に保守的な諸州が、進歩的な立法に反対し、連邦権力が拡大するのを阻止するために訴えた。しかし今は、この修正を逆向きに適用すべきときだ。社会的な給付の削減、進歩的な連邦法の廃止に対して、諸州の権限として、アメリカ国民はこの流れを阻むべきだろう。

たとえば環境政策を考える。カリフォルニアはすでに自動車の排出量に関する厳格な基準を示している。ほかにも14州がこの基準を採用しており、アメリカ国民の40%に及ぶ。自動車会社は、厳格な基準と寛容な基準の2つについて、別々の自動車を生産することはできない。その結果、カリフォルニアの基準が支配するだろう。

さらに、カリフォルニアが中国や他の諸国と、気候変動に関するパリ合意を維持する監視と責任の精神を自発的な条約に署名する、と考えてみる。実際、カリフォルニアの炭素削減に向けた市場化cap-and-tradeプログラムは、中国が検討中の炭素市場制度のモデルになっている。また、カリフォルニア州が世界第6位の経済規模を持つことも重要だ。

しかし、難しいケースもある。カリフォルニア州は、単一支払者制度a single-payer health planを通過させたところだが、支払うための財源は決めていない。消費税化、連邦財源かもしれない。また、カリフォルニア州は、教育、社会サービスの支出拡大に積極的だ。その問題は、すでに個人や企業にとって高い税率を理由に、産業や雇用が州外に流出するかもしれない点だ。

Emmanuel Saez and Gabriel Zucmanによれば、解決策は2つある。第1に、市場シェアで観たカリフォルニアの比率に従った、グローバルな利潤に対する課税だ。第2に、2000万ドル以上の所得に対する1%の富裕税だ。1%の増税によって、ブレイン・ドレインや、資本家がニュージーランドに大規模流出する、と考えるのは無理であろう。

2つのシナリオが考えられる。善意のシナリオと、悪意のシナリオだ。それを、「進歩的連邦主義」、とLaura Tysonは呼ぶ。

善意のシナリオの場合、人々は自分の好みに応じて州を選ぶ。大きい政府か小さい政府か、公的な給付か民間による供給か、国際協力か孤立主義か。

悪意のシナリオの場合、トランプ政権と共和党が、各州の権限を禁止し、奪うだろう。

アメリカ国民は、どちらのアメリカに生きているのか? すぐに知るはずだ。

FP JUNE 13, 2017

The Madness of King Donald

BY RICHARD EVANS

トランプ政権の統治スタイルは王室と宮殿による似ている。では、王様の統治能力にメンタルな欠陥があるとわかったとき、何が起こるだろうか? 歴史は何を教えているか?

近代においても、それ以上に歴史をさかのぼっても同様に、狂気は定義しにくい概念だ。しかし、多くの例がある。立憲的なシステムにおいては、政治的な争いが制度によって安定化される、というメリットがある。ただし、トランプはルールに従わない。既存の権力システムに対するポピュリスト的な侮蔑を示している。


 中国の大戦略

Project Syndicate JUN 12, 2017

Xi Jinping’s Marco Polo Strategy

JOSEPH S. NYE

先月、中国の習近平主席は、北京で「一帯一路」フォーラムを開催した。2日間の会議に、29人の国家元首と、100か国以上から、1200人の代表が集まった。習は中国の一帯一路イニシアチブ(BRI)を「世紀のプロジェクト」と呼ぶ。

この野心的な計画は、貧しい諸国に、切望されている高速道路、鉄道、パイプライン、港湾、発電所を建設する。また、中国企業は、ヨーロッパの港や鉄道に投資することを奨励される。ベルトは、中央アジアを通る高速道路と鉄道のネットワークであり、ロードは、アジアとヨーロッパを結ぶ一連の海洋航路や港湾を含む。

マルコ・ポーロなら誇りに思うだろう。もし中国が、その余剰の金融準備を貧困国の救済と国際貿易の拡大のためにインフラ建設で使うつもりなら、それはグローバルな公共財の供給とみなせる。

もちろん、中国の動機は純粋に他人を幸せにしたいというものではない。中国の巨額の外故高為替資産は、利回りの低いアメリカ財務省証券から、高利回りのインフラ投資に向けられる。それは中国製品にとっての市場を提供する。過剰生産力に苦しむセメントや鉄鋼の中国企業は、新投資から利益を得る。中国の製造業はますますアクセスに困難な地域に移動しており、国際市場とのインフラによる統合は中国の開発にとっても望ましい。

しかし、そこには問題がある。FTによれば、ドイツに向かう列車は毎週5便が貨車を満載しているが、帰りの便は1便しかすべて埋まっていない。中国とヨーロッパの輸送費用は、陸路の方が海路よりも、なお2倍も高価である。BRIは、現実的な投資計画というより、政治的な方針なのだ。そこにはさらに、債務の危険、記念碑的な建造物の不良債権化、多くの国境を超えるプロジェクトを破滅させる安全保障の問題がある。インドは、中国がインド洋に進出するのを好まないし、ロシア、トルコ、イランは、独自に中央アジアにおける計画を持っている。

習の考えは印象的であるが、それは大戦略として成功するだろうか? 中国は旧式の地政学に頼っている。100年前、イギリスの地政学者Halford Mackinderは、世界島であるユーラシアを支配する者が世界を支配する、と唱えた。対照的に、アメリカの戦略は、長く、19世紀のAlfred Mahan提督が示した地政学的洞察に依拠してきた。彼は、シー・パワーとリムランドとを強調したのだ。

2次世界大戦の終わりに、ケナンGeorge F. Kennanはマハンのアプローチを発展させ、ソ連封じ込めの冷戦戦略を主張した。アメリカが、ユーラシアの両端で、イギリスと日本の島々、そして西ヨーロッパ半島と同盟すれば、アメリカの利害に好ましいグローバルな勢力均衡を創り出せる、と。ペンタゴンと国務省は、今もこの考え方を継承しており、中央アジアを重視しない。

インターネットの時代でも、地理は重要だ。19世紀には、オスマン帝国が衰退するとき、その地域をだれが支配するか、という「東方問題」をめぐって地政学的対立が生じた。ベルリンからバクダッドへの鉄道計画は、大国間の緊張を高めたのだ。「ユーラシア問題」が、それに代わって地政学的対立の焦点になるのか?

中国のBRI(一帯一路)はマッキンダーとパルコ・ポーロの発想である。アメリカはマハンとケナンをもっと重視する。アジアには独自の勢力均衡が働き、インドも、日本も、ベトナムも、中国の支配を望まない。彼らはアメリカを解決策の一部とみている。アメリカの政策は、中国封じ込め、ではない。両国間で多くの貿易や留学が行われている。しかし、中国がその偉大さや海洋における領土紛争を誇示するほど、彼らはアメリカとの関係を重視するようになる。

中国にとって、真に問題であるのはそのナショナリズムを自己抑制“self-containment”することだ。かつて、アメリカ通商代表や世界銀行総裁であったRobert Zoellickが述べたように、中国の台頭がグローバルな公共財の供給に貢献するなら、アメリカは中国を「責任ある利害関係者」として称賛するだろう。アメリカ企業もBRIから利益を得る機会がある。

米中は、多くの超国家的課題について協力することから利益を得られる。しかし、BRIは中国に利益だけでなくコストももたらす。それが大戦略を変えるような要因にはならないだろう。むしろ、アメリカがその役割を果たせるかどうか、それが本当に難しい問題だ。


 中国の住宅バブル

NYT JUNE 15, 2017

China’s Real Estate Mirage

By HELEN GAO

1990年代に、中国政府が住宅を民営化し、都市住民の多くに富をもたらしたとき、それは経済改革の注目すべき成果として称賛された。それ以来、住宅産業が膨張して、住宅は神話的な目標となり、中国の家計の富の70%を占めるまでになった。

民間住宅は、住む場所である以上に、この20年間で、都市の中国人が持つ熱望の的になった。住宅所有は、都市における、信頼性の高い投資対象である。その価値は急上昇しており、国家の福祉システムが解体する中で、病気や老後の資金を得る手段であった。不動産がもたらす利益で、子供を留学させることができた。

しかし、住宅価格の高騰は新規購入者にとってますます大きな悩みをもたらす。中位の所得に対する中位の住宅価格の比率は、ほとんどの第1級都市において、ロンドンの比率を超えている。

住宅市場の過熱を抑えるため、地方政府はさまざまな取引規制を行った。しかし、規制が増え、購入できない不動産が増えて、それは経済的希望から挫折のシンボル、現代中国の都市における社会的移動性の低下を示すものになった。

新聞や人々の会話には、住宅購入規制を免れるための偽装離婚、夫婦のアパートをめぐる権利訴訟、手付金の増加に対する不満、があふれている。住宅問題は子供の数にも影響する。息子が将来、結婚する年齢になったとき、嫁を得るには親がその住宅を準備する必要があるからだ。

住宅購入の闘いをめぐる最も関心の高い問題は、「学区内のアパート」である。住宅所有者には公立学校への入学が認められる。そのため大都市の住宅価格が異常に高騰する犯人として、高い評価の学校に近いアパートを得ようとする親たちの競争が長い間指摘されてきた。不動産市場に関する不満は非常に強い。先週、上海ではめったにない抗議デモが中心部で行われた。

さまざまな規制は効果がない。裕福な人々は、アメリカの郊外都市やオーストラリアの高級マンションなど、海外の不動産に関心を向けるようになった。アメリカの不動産購入額で観て、中国は国別の第1位であり、20163月までの1年間で273億ドル、以下の4か国を合わせた購入額を超えている。

政府は、もっと長期的、構造的な解決策を必要としている。たとえば、住宅所有と学校などの公共サービスとの関係づけをやめる、市場の不均衡を解消するために住宅建設を補助する。最善の策は住宅への課税であろう。投機的な売買には高いコストがかかるようにする。しかし、この政策は政治や企業の既得権と対立し、また住宅バブルを破裂させる恐れがある。

住宅市場の猛威にさらされる人々は、伝統的な勤労倫理を損なわれるだろう。一生懸命に働いても、子供たちを幸せにしてやれるとは思えない。都市に住む、地方からの出稼ぎ労働者たちは特にそうだ。彼らは北京や上海の人口の3分の1を占めるが、住宅市場から排除されている。それは、国家から人民への富の移転を、彼らが享受できないことを意味する。


 北朝鮮は歌うか?

NYT JUNE 14, 2017

Solving the Korea Crisis by Teaching a Horse to Sing

Thomas L. Friedman

私は528日にソウルに着いた。翌朝、朝食の席で、私の携帯電話が警報音を発した。北朝鮮が短距離の弾道ミサイルを発射した、というのだ。

私は、ホテルのシェルターに避難するよう命じるサイレンが鳴るのを待った。ハマスのロケット攻撃があったイスラエルで経験したように。しかし、サイレンはならない。何も起きなかった。その雰囲気は、「・・・またミサイル発射実験? 私たちの狂った甥のことは気にしないでほしい。キムチを取ってくれないか? 」

アメリカの戦略爆撃機B-1B Lancerがグアムの米軍基地から北朝鮮の境界線まで飛来した。しかし、韓国の株価は動揺しなかった。韓国の若者に最も人気の住宅地は、非武装地帯DMZのすぐ南にあるMusanである。そこはソウルに通勤するのに近いし、もし北朝鮮がロケットや迫撃砲でソウルを攻撃するとしたら、境界線に近い方が自分たちの上を砲弾が飛び越える、というわけだ。

何と素晴らしい、人間は神様の傑作だ。

韓国の学生たちに話を聞いた。「私たちは北朝鮮が私たちを害し、あるいは、戦争を始めるとは思わない。私たちの方が経済的にも軍事的にも強いからだ。」「GDPの差は、北朝鮮の20倍もある。私たちは彼らの経済を再建するために増税されるのを望まない。」 そして、私はアメリカがこのドラマで奇妙な人物になっていることを理解した。

中国と韓国には1つの共通点がある。彼らが最も恐れるのは、北朝鮮の核ミサイルで自分たちが破滅することではない。経済制裁の圧力で自ら崩壊するか、アメリカの爆撃で破壊されるか、いずれであれ、北朝鮮が破滅することを恐れている。それは核汚染物質や難民の大規模な流入、その莫大な処理費用だけでなく、中国にとって、核武装した統一朝鮮が隣に出現するかもしれないのだ。

アメリカは、逆に、今や、北朝鮮がアメリカ本土、少なくともロサンゼルスを攻撃することを恐れている。アメリカは北朝鮮の攻撃を恐れ、中国と韓国はアメリカが一方的に北朝鮮を攻撃するのを恐れている。ソウルの不安とは、トランプが否応なく韓国を朝鮮戦争に巻き込むことだ。それは、かつて、ド・ゴールがキューバミサイル危機で示した警告と同じである。THAAD配備に関して、アメリカと韓国の異なる姿勢がそれを示す。

北朝鮮が大量破壊兵器の開発を始めたころ、アメリカは韓国や日本に、われわれが守ってやる、と約束した。アメリカの抑止力とその意志が問題であった。しかし、北朝鮮は長距離核ミサイルでアメリカを攻撃できるようになった。アメリカは何よりも、自国民を守らねばならない。韓国や日本に相談することなく、必要なことはすべてするだろう。韓国から見て、金正恩より、理解できないトランプを恐れる声が出てくる。

中国は北朝鮮の石油輸入の95%を支配する。北京は一晩で北朝鮮経済を打倒できる。しかし、それはしなかった。北朝鮮からの石炭購入を止めたが、ミサイルの発射実験を止めるほど厳しい制裁ではなかった。今や、中国はトランプを窮地に追いやったように見える。北朝鮮はアメリカに届く長距離核ミサイルを完成する寸前まで到達し、その体制の崩壊も、核開発の停止も実現していない。

外交はどうなっているのか?  北朝鮮は、核開発とアメリカによる体制転換の放棄とを取引するつもりはない。トランプ政権は、完全な非核化なしに、そのような保障は与えない。

要するに、中国も韓国も北朝鮮の崩壊を望まず、その反撃を恐れて攻撃しない。アメリカも含めて、彼らは北朝鮮の核保有を認めたくないから交渉せず、そもそも金正恩が約束を守るとは思わない。しかし、金正恩を無視することはできない。核とミサイルの能力は高まり続けている。

この状況は、中世の寓話を思い出させる。ある犯罪者が、王様に命乞いをして、1年間を与えてくれたら、あなたの愛馬が歌を歌えるように調教できる、と約束した。囚人仲間は彼をバカにした。馬が歌えるわけない、と。しかし、彼は言った。「何であれ、私は以前持たなかった1年を得たのだ。1年あれば多くのことが起きる。王様が死ぬかもしれない。馬も死ぬかもしれない。私もだ。だれにもわからない。もしかすると、馬が歌うことだってあるだろう。」

これがわれわれの北朝鮮政策だ。


 アメリカ抜きの西側同盟

FP JUNE 13, 2017

The West Will Have to Go It Alone, Without the United States

BY CHARLES KUPCHAN

トランプが同盟諸国に示した態度は、単に過渡的なものではなく、アメリカが第2次世界大戦後に築いた西側民主主義の同盟を完全に離脱するものだ。しかし、それは西側のない世界を意味するのではなく、アメリカを欠いた西側を意味する。

トランプは西側同盟に敵対することはないが、それを経済取引と考えるビジネスマンだ。防衛費の支出や貿易収支が、短期的に、アメリカにとって有利であることを求める。しかし、西側世界は、そのようなゼロサム的、自国だけのための世界を、離脱したことで成功したのだ。

多くの戦争を経て、大西洋民主諸国が理解したことは、流血を抜け出すには国際コミュニティを築く必要があり、それは信頼、合意によるルール、超国家機関、開放的な貿易体制に依拠しなければならない、ということだ。その中では、コミュニティのメンバーが長期的連帯のために、短期的な利益を犠牲にした。その結果、かつてない平和と繁栄の時代を得たのだ。


 ユーロ圏は持続不可能だ

Project Syndicate JUN 14, 2017

The Eurozone Must Reform or Die

KENNETH ROGOFF

マクロンが当選し、メルケルも再選されるだろう。ユーロ圏は改革できるのか? むしろ、低成長と債務危機が再燃する方が起こりそうだ。安定性と持続可能性を強化する政策がとれないなら、ユーロ圏は最終的に崩壊すると言えるだろう。

南欧諸国にとって、ユーロ圏は金の檻になっている。財政政策と金融政策の基準を強いておきながら、為替レートの変動によるショックの緩和もできない。

今や、ユーロはEU統合の必要な条件ではなく、その深刻な障害となった。それは大西洋のアメリカ側で多くのエコノミストが主張していたことだ。EU官僚たちは、統合を自転車の運転にたとえた。倒れないためには、前進しなければならない。もしそうなら、たとえ生乾きのセメントでも、条件を満たさない単一通貨の採用が必要だった、と。

南欧諸国でユーロが強く支持されたのは、ドイツのように安定した物価、信頼できる金融政策を求めたからだ。しかし、それには中央銀行の独立性の方が重要である。イタリアやスペインは、ユーロに参加せず、中央銀行に独立性を与えていたら、インフレ率は今のように低下しただろう。ギリシャでさえ、アフリカ諸国が成功したように、インフレ抑制に成功したかもしれない。そして、もし南欧諸国が自国の通貨を持っていたら、為替レートの変化がショックを緩和し、債務の罠に落ち込むより、インフレによって債務の一部をデフォルトできたはずだ。

すでに、ECBは周辺諸国の政府債券を購入し、暗黙の補助金を与えている。ユーロ債の発行もマクロンが強く主張するだろう。ユーロ圏の回復は続かない。マクロンとメルケルが決めるのは、楽観論の終わる時期だ。

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The Economist June 3rd 2017

Britain’s missing middle

Donald Trump and the world: Turning ugly

British politics: The summer of discontent

Banyan: The blind man’s elephant

Lexington: Like a wrecking ball

Europe and Trump: Don’t let him get to me

Charlemagne: Rebuilding the House of Euro

America’s foreign policy: Goodbye to values

(コメント) イギリスの選挙に関する記事では,保守党と労働党のマニフェストが示す政治思想の振り子を説明します.同時に,Brexitや労働党の党首選,解散・総選挙をめぐる政治的な策謀の詳細が解説されています.

他方,トランプの外遊をめぐって,オバマ外交との比較で,アメリカ外交の姿勢を再評価します.およそ9000人もの麻薬密売関係者を殺害したフィリピンのドゥテルテ,裁判官,クーデタ未遂事件後,ジャーナリスト,メディアを含む1万人以上を投獄したトルコのエルドアンをトランプは称賛し,サウジアラビアでは1100億ドルの武器を売って,雇用が増えたと自慢し,エジプトの軍事独裁者シシにも安全保障を祝福しました.

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IPEの想像力 6/19/2017

サッチャーの最後、ブレアの最後、あるいは、徹底した政府介入と能力主義,多民族の平等社会を築いたリー・クアンユーの晩年についても、権力者の自信過剰と妄執を聞いたことがあります。

メイ首相の傲慢さ、無能さが、保守党の後退につながりました。しかし,それは40年に及ぶネオリベラリズムの支配が終わったことを示す,とThe Economistも認めています.

それは,保守党であれ,労働党であれ,国家の役割を減らして,民営化,規制緩和,減税,特に,富裕層への減税(逆向きの再分配)が支配する時代でした.彼らはグローバリゼーション,特に金融のグローバリゼーションを支持し,インフレ抑制と均衡予算を重視し,創造的破壊を推進したのです.

金融市場のバブルに依存し,不平等の拡大を肯定(あるいは奨励)する,政治とイデオロギーのもたらす社会的害悪は,国家介入の増大と集産主義の理想化が残した害悪と,憎悪・恐怖の均衡に達したようです.

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14歳,藤井聡太の28連勝で国民的な興奮が静かに広がることを,私たちは歓迎するでしょう.卓球の伊藤美誠,16歳,平野美宇,17歳の大活躍にも,中国やヨーロッパの体の大きな選手に負けない彼女たちの気迫に感動します.心から喜び,声援を送りたくなります.

しかし,アメリカ大リーグや欧州のフットボール・リーグで活躍する日本人選手たち,アメリカのゴルフやイギリスのテニスで好成績をあげる選手たちを,その超人的プレーに酔うとはいえ,けた外れの報酬額にあきれ,納得できない気持ちが湧くのとは,少し違います.

超豪華列車「四季島」「瑞風」「ななつ星」の登場が,まるで国民的な祝祭のように報道されるのを,異質のニュースとして聞きました.富裕層の個人的な楽しみであることを,地域の復興や伝統文化の再発見のように称える映像の編集は,領土紛争やテロ事件,浜辺に打ち上げられた難民の遺体,と共通する,メディアの社会・政治姿勢が問われます.

皇族や貴族,国賓の来訪に子どもたちが並んで小さな旗を振る政治や外交のイメージ,戦争時代の社会意識(統制経済)が,金融危機,震災,原発事故後の「復興」「再生」に重なります.

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ユーロ危機に対する根本的な改革が,マクロンとメルケルによって進むかもしれません.

J.E.スティグリッツの『ユーロ』が訳されて,ようやく読み始めました.ユーロ圏の制度は持続可能ではない,とこれまでも多くの論者が主張しました.特に,アメリカ側で.その基本的な理由は,参加する諸国の経済条件が共通通貨に適合しないことです.あるいは,それにふさわしい政治・制度が整備されていないからです.

ギリシャはユーロ圏を離脱するおそれがあり,イギリスもEUを離脱することになりました.Brexitは,スティグリッツに言わせれば,機能しないユーロ圏の前提,自由貿易や移民・難民問題の延長なのです.

経済学は解決策を示せる,と彼は考えます.それは,全ヨーロッパの税制・累進課税,社会のセーフティー・ネット,遅れた地域・諸国のための産業政策,そして,金融を社会のために機能させる規制,です.

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