IPEの果樹園2017

今週のReview

6/5-10

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西側同盟の終わり ・・・アメリカの物語と統治モデル ・・・アメリカ首長国連邦 ・・・ブレジンスキーの時代 ・・・トランプの政策転換 ・・・北朝鮮危機と米中合意 ・・・人民の敵

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


 西側同盟の終わり

FT May 26, 2017

Europe pays its fair share whatever Donald Trump says

Andrew Moravcsik

政治家たちの記憶は非常に短い。ドナルド・トランプ大統領は、選挙戦中にNATOを「時代遅れ」と呼んだが、今ではアメリカの安全保障に欠かせない、と姿勢を改めた。

しかし、大西洋の両岸で対立は続いている。ヨーロッパ諸国は防衛費を十分に支払っていない、とトランプは批判したのだ。2014年に彼らが約束したGDP2%を防衛費として支出する約束を守っていない、と。その主張にはアメリカ議会の両党による支持がある。オバマも、ヨーロッパの「フリー・ライダー」に不満を示した。

しかし、アメリカの非難はまとはずれだ。ヨーロッパに防衛費の増額を求める主張は、パワーに関する時代遅れの概念を前提している。アメリカ人がグローバルな影響力を考えるとき、軍事力だけを計算しがちである。メルケルがまさに指摘したことだが、この見解は「視野が狭い」。貿易、援助、国際機関といった非軍事手段への投資は、しばしば、安全保障を得るうえで、コストに対する効果が高い。

それゆえ、大西洋同盟は2%の約束を広い視点で再解釈するべきだ。ヨーロッパ諸国は、そのような非軍事的分野で2%の防衛費を負担している。この点では、アメリカを超えている。

集団的には、ヨーロッパ人が負担する防衛費や軍隊の派遣は、アメリカを除く、いかなる国をも超えているのだ。しかし、ヨーロッパが比較優位を持つのは、世界の「市民的ソフトパワー」における最高位に示されている。それは経済的・外交的な特異なパワーであり、アメリカの軍事力が一方的にその利益を守れないところで、ヨーロッパ人が西側の利益を守っている。

GDP2%を負担する、という約束を、双方が軍事・非軍事の支出によって見直すべきだ。そしてアメリカは、ヨーロッパ諸国が非軍事の領域でアメリカの政策を補完していることに、深く感謝するべきだろう。

FT May 30, 2017

Donald Trump and the surrendering of US leadership

Martin Wolf

トランプは、アメリカが作った国際秩序を解体しつつある。それが意味する恐ろしい現実が次第に現れてきた。

それは、国内では共和党の目標に一致し、富裕層への減税と、貧困層への支出削減である。オバマケアに代えてトランプが導入したthe American Health Care Actの影響は、アメリカ議会予算局の推定で、医療保険への補助金などを1.1兆ドル削減し、保険に加入しない人口を2026年までに2300万人も増やす。

軍備拡大と減税は共和党の伝統であるが、トランプは支持者である白人貧困層の支援策を切り捨てるという狂気の手法で、さらに国民を分断する。富裕層のためのポピュリズムだ。

国内政治で新しいのは、トランプの個性である。現実との戦い、メディアや情報局との戦い、司法との戦いを永久に続ける。新聞や官僚制も干されたままだ。しかし、まだ始まりである。大統領には規則がなく、行政は混乱状態だ。トランプの下で、テロリストの憤怒が刺激となって、権威主義体制に向かうだろう。

西側同盟は、なお、世界最大の経済ブロックであり、科学とビジネスの知識を蓄えているが、それは崩壊し始めている。ヨーロッパはもはやアメリカに頼れない、というメルケルの発言は、賢明ではなかったかもしれないが、まったく真実である。

トランプは西ヨーロッパよりも、専制支配者を好む。ロシアのプーチンは言うまでもなく、トルコのエルドアン、フィリピンのドゥテルテを好む。民主主義や人権など気にしない。NATOの相互防衛を重視しない。

トランプを支持する「オルタ右翼」の集団は、民主主義と先生との間に対立を観ない。むしろ、社会進歩やグローバル化支持者と伝統主義やナショナリストとの間に対立を観る。彼らは後者を支持し、西ヨーロッパは間違った側にある。つまり、敵であって、友ではない。

西側、特にアメリカは、中国の台頭に直面して、その指導的な役割を失うだろう。間違った戦争、世界金融危機を経て、何より、トランプを選んだから。大統領に期待される美徳を欠き、能力を欠き、知識を欠く男が、民主主義システムの魅力をさらに大きく損なった。

西側は深く分裂し、中国に接近するべきか、と考えている。トランプは、中国の指導する世界に代わる、TPPを放棄し、ソフトパワーを破壊した。経済的繁栄、平和の実現、共有する財の保護を、トランプはどうするのか? 2国間交渉を重視し、中国との取引を好み、パリ協定を離脱する。

最初の4か月間で、トランプの異常さは封じ込められるように見えた。それは普通の共和党政権になるかもしれない、と考えることができた。しかし、そうではない。共和党が考えを変え、トランプの封じ込めは失敗する。アメリカの指導する世界秩序は終わる。

FP MAY 30, 2017

In Praise of a Transatlantic Divorce

BY STEPHEN M. WALT

トランプの行動や発言に対して、私は支持しないが、かと言って、メルケルの発言にあまりにも大きな悲観的評価をするのは間違いだ。

1に、メルケルが逆のことを発言していたら、それは愚かであろう。「アメリカは頼りになる。ヨーロッパは自分たちの運命を、自分の手は汚さず、アメリカに委ねておけばよい。」 むしろ、ヨーロッパは自分たちの安全保障により大きな責任を持つ方が賢明である。

2に、ドナルド・トランプは、冷戦終結後のNATOが抱える長期的な危機の兆候でしかない。NATOの主要な存在理由はソ連崩壊で失われた。さらに、シュレーダーやシラクが反対したように、アメリカが愚かにもイラクに侵攻し、アフガニスタンにNATO軍を派遣したことは、その存続理由をさらに疑わしいものにした。むしろ、ロシアの攻撃を刺激する結果となった、NATOの拡大を新しい使命にしたことで、ヨーロッパの安全は失われ、同盟はすでに緊張関係を続けていた。

しかし、トランプが外遊を「ホームラン」と呼ぶのも間違いだ。トランプは、大西洋同盟を新しい建設的な方向に前進させる機会を逃したのだ。

彼は、恣意的なGDP2%基準で、説教することなど必要なかった。むしろ、防衛努力を強調し、ヨーロッパが真の防衛力を持つべきだ、と主張すればよかった。また、相互防衛を確認しつつ、米欧の軍事力が徐々に比重を変え、米軍は必要な時期にヨーロッパの軍事拠点を利用できる形に修正すること。次のNATO軍最高司令官はヨーロッパ人から出し、テロなど、共通の脅威に関する情報協力を緊密に行うこと。さらに、トランプ自身が新しい問題で学ぶ能力を示し、気候変動の理解や、パリ協定を公に支持するチャンスであった。

そのためには、ホワイトハウスに有能な外交チームがあり、大統領は、刻々と変化する戦略的な環境と、グローバルなバランス・オブ・パワーの中でアメリカの位置を、理解していなければならない。


 アメリカの物語と統治モデル

NYT MAY 26, 2017

The Four American Narratives

David Brooks

アメリカは常に分断された、拡大する国であった。しかし、その歴史の大部分において、国民を統合する物語があった。それはかつて、旧世界の抑圧から脱出する物語であった。未開の土地で冒険し、新しい約束の土地を創り出す。ユダヤ・キリスト教的物語でもあった。

しかし、そのような市民的神話はもはや存在しない。アメリカ人の自信はボロボロになって、世俗的な文化に生きる。その結果、われわれはアイデンティティの危機に苦しんでいる。異なる集団が、異なる物語を生き、しばしば異なる国民として生きている。

New Americaの講演で、作家George Packer4つの対抗する物語を明らかにした。

1に、リバタリアンの物語。第2に、シリコンバレーで支配的な、グローバル化したアメリカの物語だ。第3に、多文化のアメリカ物語がある。第4に、アメリカ・ファーストの物語だ。

私は、これらの4つの物語が21世紀のガバナンスの基礎にはならないと思う。むしろMichael Lindの素晴らしいエッセー“The New Class War”に従い、アメリカ政治の未来は、これら4つの物語から生じる2つのシステム間の競争になる、と思う。

1つは、重商主義モデルだ。アメリカは歴史の頂点に立たず、他の諸大国、中国、ロシア、ヨーロッパ、と競争している。アメリカ自身が部族の保護に努める。政府と企業はそのために協力し、移民も貿易も管理される。共通の敵と戦うために、エリートたちは富を共有する。

もう1つは、タレントの集まるコミュニティだ。アメリカは人類の才能が最大限に発揮される実験室である。多様性、能力主義、移民、開放経済が、ダイナミズムのために歓迎される。このモデルは同時に、人的資本、特に若者に大規模に投資し、また、創造的破壊の負の側面に苦しむ人々にも投資する。

重商主義モデルは、アメリカをローマ帝国とみなす。それは危険な世界における強大な要塞だ。タレントの集まるコミュニティは、新しいアテネ人であり、文明の岐路で、開放的な、基本的に調和する世界へと指導する。それは情報化時代の脱出 Exodus物語なのだ。


 アメリカ首長国連邦

FP MAY 26, 2017

Trump’s Budget Is American Caesarism

BY ROBERT D. KAPLAN

軍部の台頭と、国家権力の市民的側面が衰退することが重なれば、それは精神的な退廃、シーザー主義へと向かうだろう。ジュリアス・シーザーはローマの共和政を独裁制に変えた人物で、シーザー主義とは、カリスマ指導者、大衆的な支持、軍隊の役割を強調した支配、を特徴とする。アメリカが変化しつつある。

アメリカ合衆国は、第2次世界大戦の終結以来、公式の帝国ではないが、ヨーロッパとアジアにリベラルな世界秩序を築く帝国的な状況にあった。ローマやヴェニス、イギリス、フランスがその頂点で示したように、世界秩序とは、軍事・知識・経済・文化のパワーであった。各要素が他の要素と同様に重要である。

冷戦時、アメリカは情報局と国際開発庁とがリベラルな、そして経済的な価値を推進すると自慢していた。ローマ帝国がラテン語を広め、道路を建設し、その価値を育てるために遠隔地のエリートにもローマ市民権を与えたように。ローマは衰退し始めると、文明化の使命を犠牲にして、軍事的な素人の支配に頼るようになった。

トランプは、アメリカ海軍の戦艦を275隻から350隻に増やすという。しかし、海軍の主要な役割は、アメリカ外交の影響力を高めることである。国務省が弱くなれば、それは強大な海軍の効果を損なうのだ。USIPthe Wilson Centerは、ローマ帝国が外国のエリートに市民権を与えたことに類似しており、文明化の機能を担う。

文化的な退廃、道徳的衰退は、物質的な耽溺をもたらす。大統領は読書をしない、しばしば真実でないことを吹聴し、家族を通じて支配する。それゆえ、利益相反にまみれ、官僚たちがそれに反することを許さない。きらびやかなマンハッタンやパームビーチを好み、キャンプ・デービッドのような落ち着いた環境を嫌う。そのような指導者が軍事力のカルトを育てる。それは民主主義ではなく、独裁者への支持を広めるものだ。

共和党は、保守的な国際主義者から成るレーガンの政党から、ポピュリスト的なナショナリストの集まるトランプの政党に変わった。前者は再興を意味し、後者は衰退を表す。国家の盛衰は、政治的、経済的な要素以上に、その普遍的な道徳的要素によって決まる。

NYT MAY 31, 2017

Trump’s United American Emirate

Thomas L. Friedman

彼はアメリカの同盟諸国に大きな不安を残したまま去った。ロシアの脅威に対する安全保障、そして、貿易、気候変動に対する約束を、アメリカは守るのか? メルケルに限らず、アメリカは頼りにならない、ヨーロッパは自分の手で運命を決めるべきだ、と思っただろう。

アメリカは新しい経営に変わったのだ。ニュージーランド、オーストラリア、韓国に着くたび、私は最初に質問された。「アメリカとは何者か?」 私の答えは、「われわれは、もはやUSAではない。UEAである。アメリカ首長国連邦the United American Emirateだ。」

トランプ・ドクトリンは非常に単純だ。世界には4つの脅威があるだけだ。われわれを殺すテロリスト、われわれを強姦し、職を奪う、移民たち。われわれの産業を奪う輸入業者と輸出業者。そして、北朝鮮だ。民主主義、自由貿易、環境、人権に対する脅威は、もはやわれわれの関心事ではない。

UAEの友人になるには、1.われわれの武器を買う。2NATOの負担を増やす。3.貿易を譲歩する。4.逮捕したアメリカ市民を解放する。5.オバマより良くなった、と世辞を言う。6.ロシアは何も支払わなくても友人だ。

こうした理解は行き過ぎだろうか? 韓国に来て、この国が過去50年間で貧困を克服し、われわれの価値観を採用したことを知る。大衆的な「キャンドル・デモ」によって、大統領の汚職を糾弾し、弾劾した。それらはアメリカの民主主義が示すソフトウェアである。しかし、トランプが韓国について言うことは、われわれの軍にただ乗りしている(真実ではない)、支払え、である。


 ブレジンスキーの時代

FT May 31, 2017

Zbigniew Brzezinski and the untimely death of American statecraft

Edward Luce

ブレジンスキーZbigniew Brzezinskiのビザは拒否された。彼はアメリカへ行き、その後、超大国の進路に影響を与えた。もし1940年代、彼がロンドンにわたっていたら、それは不可能であっただろう。

ブレジンスキーの死は、アメリカのある時代が終わったことを意味する。同じころ、ロシアに対するNATOの衰退を、トランプが予想させたことは皮肉である。現在、アメリカが直面する脅威は、冷戦時代に育てたような知性の実力主義を必要としている。

中国の台頭、ロシアの脅迫、中東の崩壊、大西洋関係の動揺。有名大学の卒業生でブレジンスキーのようなものが現れることは想像するのが難しい。ポーランド出身で、ロシアについての学識が深く、外交の技量に秀でていた。トランプのアメリカは、ブレジンスキーの尽くしたアメリカと全く異なる。

1928年にポーランドで生まれ、その外国なまりを直さなかった。アメリカで昇進しても、ナチスとソビエトに蹂躙された母国の悲劇的光景を忘れることはなかった。それは、他のソビエト研究者にはない鋭利な洞察を彼に与えた。

同じ明晰な思考で、イスラエルとエジプトとのキャンプ・デービッド合意を導き、しかもブレジンスキーは、それをアラブ世界全体に拡大すべきだと常に考えていた。中国に関しては、幸運にも、米中の国交正常化に成功し、ケ小平と乾杯する機会を得た。

若いブレジンスキーやキッシンジャーのような才能を、今、ワシントンの法律事務所やシンクタンクに見出すことはできないだろう。ブレジンスキーの活躍したアメリカは独立した思想家を重視した。今は政府に逆らう者に厳しい時代だ。2003年、彼はイラク侵攻に反対して公に非難され、反論したが、その影響力を失った。

ブレジンスキーの遺産とは、知識の価値を証明したことだ。世界をよく理解するほど、それを形成するチャンスも大きくなる。その意味で、アメリカは急速に影響力を消失しているのだ。


 北朝鮮危機と米中合意

NYT MAY 30, 2017

Thinking the Unthinkable With North Korea

By GRAHAM ALLISON

トランプ大統領は世界に約束した。金正恩が核兵器をサンフランシスコやロサンゼルスに届くミサイルに搭載する前に、北朝鮮の核危機を「解決」する、と。前任者たちはこの問題を先送りしただけだった、と彼が批判するのは正しい。しかし、トランプが問題を解決するために何をするのか、まだ語ったことはない。

歴史は、それに含まれるリスクを教えている。中国の習近平主席は、その方針として、4月、マーラ・ラーゴMar-a-Lagoの首脳会談で、アメリカが朝鮮半島での軍事演習を凍結し、それと交換に、北朝鮮は長距離ミサイルの実験を停止することを提案した。

アメリカが長く「受け入れられない」と主張してきたことを受け入れるように求めるアプローチは、無責任だ、と多くのアメリカ政府関係者は思った。敵を処刑し、警告を無視してきた、33歳の独裁者が、20発の核兵器とソウルや東京を攻撃できるミサイルを保有したままで、アメリカの安全保障は本当に強化できるのか? しかし、その錠剤を飲み下すのは困難だ。2か月前、ティラーソン国務長官は、そのような凍結案は何も解決しない、時期尚早だ、と述べた。

しかし、トランプとティラーソンは、1950年の毛沢東と、1962年のジョン・F・ケネディから学ぶべきだ。敵を追い詰めることには大きなリスクがある。

毛沢東の場合。朝鮮戦争で、アメリカの政策担当者たちは、アメリカが韓国を防衛するために軍を派遣しても、内戦に疲れた中国は対抗しないだろう、と考えていた。彼らは間違っていた。毛沢東は迷わず甚大な兵力を用いて反撃した。中国国境に近づいていた、核武装した超大国の軍隊を圧倒し、マッカーサー将軍の兵は撤退した。

それは再現するのか? その可能性はあるだろう。アメリカの諜報機関によれば、米軍が北朝鮮を攻撃すれば、確実に、報復によってソウル市民が百万人の規模で犠牲となるだろう。韓国軍が総力で反撃し、アメリカは韓国を支援するだろう。習近平は、アメリカと同盟する政府によって朝鮮半島が再統一されるのを、許すだろうか?

歴史はそれを否定する。私は、過去50年間で、新興の大国が支配国からその地位を奪おうとした16のケースを研究した。そのうち12のケースは戦争に至った。現在、とどまることを知らない新興の中国が、動こうとしないアメリカに対抗している。「ツキディデスの罠」と呼ぶ、このダイナミックな過程は多くのリスクを生む。

われわれが見ているのは、スローモーションのキューバ・ミサイル危機だ。その最も危険な瞬間において、ソ連が核搭載ミサイルをキューバに設置するのを防ぐために、ケネディ大統領は、3つに1つは、ソ連との核戦争が起きることを覚悟した。

最後の時間になって、ケネディとフルシチョフは、以前に考えられなかった選択肢を試し始めた。双方が譲歩したのだ。ケネディは、極秘に、トルコからアメリカのミサイルを撤去した。それはケネディとその顧問たちが、NATOを損ない、彼自身の弱さを示すことになるから、拒否していた選択肢であった。

ケネディの重要な教訓とは、「敵を、侮辱的な撤退か、核戦争か、という選択に向かわせてはならない」ということだ。

マーラ・ラーゴの会談で、習はトランプに「停止と停止との交換」を受け入れるように迫った。金はICBMの実験を停止し、アメリカは地域の軍事演習を延期もしくは修正する。習の側近は、米中が東アジアの安全保障アーキテクチャーを構想することまで提案していた。

もし中国が、金正恩の体制を除去し、半島を非核化して、北京に親しい韓国政府の下で再統一をする責任を持つなら、アメリカは南部からすべての基地を撤去し、軍事同盟を終了するのか?

核戦争を回避する、という圧力の下で、トランプが新しいことを提案するかもしれない。


 人民の敵

Project Syndicate MAY 31, 2017

The Divergence of US and British Populism

ANATOLE KALETSKY

アメリカでは、トランプ政権の間違った政策に反対する声が民主的に政府の決定を制約し、翻している。これと対照的に、イギリスでは、Brexitの国民投票から時間を経ても、それを見直す声は抹殺されている。

アメリカでもイギリスでも、「人民の意志」という宣伝が繰り返された。それは「人民の敵」という、恐るべきファシストの言動につながる。アメリカではそのような極端な主張は一部の過激な集団に限られているが、イギリスでは議会でBrexit反対派に向けて浴びせられ、主要メディアでさえ、まるで反対派を反民主的で、反愛国的であるかのように否定している。

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The Economist May 20th 2017

Why Israel needs a Palestinian state

Colombia: Winning the peace

Israel: Six days of war, 50 years of occupation

Charlemagne: Turning people Swedish

Election manifestos: The state is back

(コメント) 6日間戦争から50年間もイスラエルは占領を続け,その間,パレスチナ国家を成立させて中東秩序の一環として平和を実現するべきであったけれど,アラブ諸国に包囲された警戒感から,軍事的な優位しか信用できなかった.それは,パレスチナ人の難民キャンプと中東各国の戦争状態を維持する巨大な監獄の中で,安定した経済や裕福な暮らしを実現し続ける,という幻想を強めることでしか正当化できないような,不正義の常態化であったようです.

コロンビアの内戦が終結できるのか? スウェーデンは,難民受け入れ後の社会統合を回復できるのか? Brexit後のイギリスはどのような国家を目指すのか? グローバルな政治経済秩序の現在を考える材料があふれています.

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IPEの想像力 6/5/2017

リベラルで,民主的な政治経済秩序を,次の世代へ継承することはできるのか? 社会保障の在り方を変え,雇用と賃金,そして平和を実現する,投資政策を見いだすべきです.

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トランプ政権の異常さは,欧米の政治家やジャーナリスト,専門家たちを驚愕させ,すでに深刻な破壊と恐怖に対する準備を急ぐ気配です.トランプの愚劣な奇矯さは封じ込められ,反エリートの有権者を取り込むことに成功した,ふつうの共和党大統領になる,という期待は,いつか,一気に吹き飛ぶのです.

国務省や大統領補佐官たちの助言を聴くことなく,イランとの戦争に踏み込み,あるいは,北朝鮮との戦争を回避できないまま,朝鮮半島をめぐって中国との武力衝突を止められない.

温暖化防止の国際協定も,NAFTAWTOも,アメリカにとって有利な取引を妨げている,と主張し,その見直しを要求する.

EUNATOへの支持を撤回し,台湾や韓国,日本も,アメリカに頼らない独自の防衛体制と核武装を要請する.TPPに代わる中国の一帯一路やAIIBの呼びかけに,アメリカと友好関係にある諸国もますます深くかかわるようになる.

その変化は,数年ではなく,数か月で起きるでしょう.

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トランプの異常さはどこから来るのか?

トランプは,アメリカの新大陸にイギリスやヨーロッパの宗教的・政治的弾圧,旧秩序の恐怖や貧困を逃れた市民たちが築いた,民主主義の理想を体現する大統領ではない.むしろ,ルイ14世やヴェルサイユ宮殿の宮廷劇にたとえられる.

トランプは,人々がこの文明社会の富を築き,その成果を平等に享受できるとは考えない.民主的な社会としてよりも,部族社会の族長であり,絶え間ない闘争によって他の部族を駆逐し,肥沃な土地や戦利品を奪うことが,自分の天才によって可能になると吹聴する.

圧倒的な軍事力の優位を重視するが,国務省の専門家たちに投資しても意味はない.富を増やしたかったら,減税すればよい.海外に流出する工場を阻止すればよい.輸入する必要はなく,アメリカで何でも作れるが,外国企業が利益をもたらすなら,国内市場への参加を許してやってもよい.自分の支持者には,インフラ投資で報いてやればよい.道路も,橋も,学校も,トランプの名前を付けて建ててやる.

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The Economistの記事が示す,イスラエルの占領政策と異常な分断・格差に,私は目をみはりました.

圧倒的な軍事力によって,1967年,イスラエル軍はエジプトの地上軍,ヨルダン,イラク,シリアの空軍を撃破した.シナイ半島の防衛ラインも突き破った.エルサレムを征服した.スエズ運河,ゴラン高原を制覇し,ダマスカスを占領して,彼らは停戦を宣言した.・・・月曜日に始まり,金曜日に終わった,6日間戦争です.

しかし,50年を経ても,イスラエルは平和を築けなかったのです.もしイスラエルが,繁栄する民主的な国家として,地域の平和を享受できるとしたら,その帝国の内外における異常な分離政策は破棄するしかありません.パレスチナの人口が増加し続け,イスラエルは民主主義でもユダヤ人国家ではなくなるからです.

イスラエルの政治家たちは,そのような考えを受け入れません.右派と極右とが争う議会において,現在の秩序を強化することが議論されているだけです.戦争と占領政策を続けることは,アラブ諸国やパレスチナ人の怒りを強め,安全保障を絶対視する社会・経済システムの下でのみ,ユダヤ人社会の繁栄を実現できます.

異なる惑星のような,イスラエルのキブツ,自由貿易圏,ガザの貧困と混乱.

アメリカとイスラエルは,グローバルな市場と現代の技術水準に応じた国際政治秩序の一部です.

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