IPEの果樹園2017

今週のReview

5/22-27

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保守党と労働党のマニフェスト ・・・ネット犯罪とセキュリティ ・・・トランプとエルドアン ・・・7歳児の大統領 ・・・新ヤルタ会談 ・・・アフリカの緑の革命 ・・・ポピュリズムの拡大 ・・・台湾の防衛政策

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


 保守党と労働党のマニフェスト

The Guardian, Thursday 18 May 2017

The Guardian view on Theresa May’s manifesto: a new Toryism

Editorial

テリーザ・メイのマニフェストは、この国を運営する計画というより、保守党を再編する彼女の計画だ。その内容は保守党員の多くに異様なものだろう。彼らにとって保守党とは、国家のスリム化と自分優先のサッチャリズムであったはずだ。しかしメイは、「利己的な個人主義の狂信」を拒否する、と言う。彼女の党は、「際限のない自由市場」を、今や、信じていない、と。これがどれほど大きな飛躍か、考えてみることだ。最近まで保守党は、物質的な個人主義のムードを広め、イギリスの状況を作り変えてきたのだ。

多くの点で、メイは政治的論調に逆らわず、それに同調しているだけだ。古典的な自由党はこの選挙に参加していない。労働党も自由民主党もより左に転換した。メイは、政権から「リベラリズム」の痕跡を消したがっているにすぎない。有権者には反市場のムード、経済的正義と社会的合意を求める文化的変化が満ちている。

しかし、40年間の市場自由化と手を切る試みは、Brexit、さらに自由貿易条約、シティへの優遇策によって簡単に葬られる。彼女の思想は、イギリスが単独でできることについての非現実的期待を高める、ナショナリスティックな反応に依拠するものだ。その最も強力な推進力は、イギリスは内外の敵から攻撃されている、という間違った認識である。

FT May 19, 2017

Theresa May delivers a manifesto for Middle England

メイのマニフェストは、中道派を取り込む恥じることのない計略だ。

それはBrexitを選んだ国民投票が示す社会的分断、政治家たちへの失望を受けた対応であるが、同時に、野党である労働党が強硬左派の党首に握られたことを、旧来の労働者層に支持を拡大するチャンスと見たのだ。

圧倒的な多数の議席を奪うことは、党内の離脱強硬派を抑え、現実的なBrexit交渉を進めるためにも重要だ。しかし、メイは実質的な白紙委任を求めている。自分で掲げた移民の制限目標は間違っており、それを達成するために、彼女が改善すると願う労働者の生活状態を悪化させるだろう。サッチャー時代に築いたグローバル・ハブとしての経済成果にも反する結果になる。


 ネット犯罪とセキュリティ

FT May 15, 2017

Silicon Valley has too much power

Rana Foroohar

先週、クレジットカードの請求が来て、私は驚いた。私が知らないApp storeから909ドルも請求されていたのだ。最初、これはハッキングと思った。しかし、その後、10歳の息子がヴァーチャル・フットボール選手とオンライン・ゲームをした料金だとわかった。

StanfordPersuasive Tech Labを卒業した、元グーグルのTristan Harrisは、Big Techの権力に反対する伝道師になっている。彼によれば、こうしたケースは珍しくない。われわれは最大級のハイテク企業、すなわちGoogleからFacebookまで, 彼らの利益が、消費者の利益と一致する、とは言えなくなる限界に達しているのだ。

「文化や政治が逆立ちして、エゴによって動かされるようになっていることには理由がある。」 と彼は言う。「これらの企業で働くエンジニアの軍団は、あなたたちがより多くのお金と時間をオンラインに費やすよう仕向けている。」

ヴェンチャー資本家のRoger McNameeは、FacebookAmazonGoogleの初期の投資にも参加したが、同様に、闘うことを宣言した。Big Techは個人にデータの追跡を許したり、拒んだりできるように、また、規制当局が「高度に操作される、高度に中毒となりやすい技術」に介入するように、求めている。

過去数十年間にいくつかの産業で集中が進んだが、特にハイテク企業がそうだった。検索エンジンの広告ではGoogleが市場シェアの88%を占め、モバイル端末のメディアではFacebook70%以上を支配し、e-bookの販売ではAmazon70%を支配している。

こうした支配的企業は、オンライン・ネットワークにより、新興企業よりもはるかに強力に利用者を取り込んでしまう。自動化が進めば、たとえば、自動運転の車や、NHS(国民保険システム)をGoogleが動かすようになれば、そのデータと支配力はさらに飛躍的に増大する。

1890年に、シャーマン反トラスト法が成立したとき、その原点は、政治的なパワーを制限する、ということだった。特に沿岸部の裕福な企業や人々がすべての者を、あらゆることを支配するパワーを制限したのだ。それは今でも、シリコン・ヴァレー、ウォール・ストリート、巨大製薬会社が最大の政治ロビー活動に対する資金提供者であることから、われわれになじみ深い問題である。


 トランプとエルドアン

FT May 15, 2017

Donald Trump, Recep Tayyip Erdogan and how democracies die

Gideon Rachman

火曜日に会談するアメリカとトルコの大統領、トランプとエルドアンは、互いに多くの性格を共有していることを知るだろう。自国の偉大さを取り戻すと唱え、政府をファミリー・ビジネスに変え、義理の息子に依存し、都市エリートの軽蔑を受け、大都市の外の住民から強い支持を受けている。官僚たちが彼らに対する謀反を企てている、と主張する。

特にアメリカ国民を不安にする類似性は、2人がメディアと司法を攻撃する姿勢だ。しかし、トルコを専制国家に導く長い過程を推進したエルドアンと、アメリカの大統領たちとの間には、決定的な違いもある。トルコの大統領がメディアと司法を弾圧したやり方は、アメリカでは不可能だ。

トランプは、彼を不快にしたテレビの司会者を非難しただけだが、エルドアンは、約120人のジャーナリストを投獄した。トランプがFBIのコニー長官を解任したとき、また以前、検事総長代理や、ニューヨークの検察官も解任したが、エルドアンは、昨年の夏以降、非常事態を宣言して、4000人以上の判事と検察官を解雇した。

これらの違いは、2つの結論を導く。第1に、アメリカ人は安心するだろうが、指導者の個性よりシステムの性格が重要である。トランプには専制君主の性格があるけれど、アメリカのチェック・アンド・バランスのシステムと民主主義の伝統は彼の最悪の性向が発揮させるのを許さない。しかし、トルコの歴史には軍事クーデタと民主主義の断絶が何度もあり、システムを弱めた。

2の結論は、アメリカ人を不安にするものだ。すなわち。十分な時間をかければ、どのような民主的システムも、それを破壊すると決意した専制支配者の攻撃に対して脆弱である。エルドアンは2003年に首相となり、その後、国家を完全に変質させた。あるトルコの知識人は、「かつて不可能と思ったことが、今では毎日起きている」と語った。

エルドアンは、トランプのアメリカに対する警鐘だ。トルコの政党政治は、常に、エルドアンを支持する固い政治基盤によって、彼の行動を正当化した。また、エルドアンは、テロの脅威を政敵の打倒に利用した。特に、クーデタが失敗した後、非常事態を宣言し、法の執行を停止した。そして、軍、メディア、司法、学会における国家の敵を追放する、と主張した。いずれもアメリカでは不可能だ。しかし、大規模なテロが起きた場合、トランプは同じことをするかもしれない。

よく似た性格の2人がワシントンで会談することは、親しい関係を築く機会であるが、地政学的な衝突を議論することにもなる。会談の前に、ペンタゴンは、シリアにおけるクルド人部隊への軍備供給を発表したからだ。トルコはクルド人部隊をテロリストとみなして戦っている。

トランプは強権的な指導者との政治取引を好む。習近平と北朝鮮を議論した。フィリピンのドゥテルテも招待した。トランプとエルドアンがどのような地政学的取引をするにせよ、2人が国内政治に関して相談しないことを、アメリカ国民は願う。


 7歳児の大統領

NYT MAY 15, 2017

When the World Is Led by a Child

David Brooks

トランプは,ホワイトハウスに入ってからいくつかのインタビューを通して,権威主義的支配者,腐ったニクソン,怒り狂うポピュリスト,大企業のコーポラティストではなく,彼が子供っぽい大人であることを示した.

未熟さがホワイトハウスを支配し,自制のある目標など示せない.

1に,トランプはじっと座っていることができない.7歳の子どもだ.

2に,トランプは,自分に対する評価ができない.彼は,医療保険制度も,航空力学も,すべてのことを理解した,という.あまりにも無能で,自分の無能さが理解できないのだ.

3に,トランプは,他人が何を考えているか,認識できない.


 新ヤルタ会談

NYT MAY 16, 2017

A New Yalta and the Revival of Europe

Roger Cohen

全てのEU支持者にとって、ル・ペンの暴言と失態は最高に楽しい瞬間だった。

ル・ペンの重大な誤算は、公共の建物にEUのブルーとゴールドの旗を掲げるフランスは、イギリスと異なる、という点を理解しなかったことだ。フランスはEU創設のメンバーであり、多くの意味で第2次世界大戦後の野心を表していた。EUとは「ドイツにとっては賠償であるが、フランスにとっては第2次大戦の屈辱と脱植民地化の後、他の手段で野心をかなえるものだった。」

冷戦終結後、そのバランスが崩れた。ドイツが東西再統一したからだ。しかし、両国にとってヨーロッパという理想は重要であるということを、最近、Brexitの出現と、「新しいヤルタ」という意識が示している。すなわち、アメリカとロシアがヨーロッパの統一や相互依存に対する敵意を隠そうとしない、という点だ。

マクロンとメルケルは、いくつかの領域で協力の機会をつかまねばならない。すなわち、安全保障、財政再建、成長と雇用、そして連帯である。ポーランドやハンガリーのような、表現の自由、司法の独立、といったヨーロッパの価値を否定する諸国が、EUによる莫大な財政移転を受け取るべきではない。

プーチンの脅威、トランプの外交的混乱、イギリスの狭量さ、こうしたことがヨーロッパ連邦主義の理想に再び活気を与える。

FT May 18, 2017

Crises, chaos and the world according to Donald Trump

Philip Stephens

トランプ政権の外交は、これまで官僚による大統領の「正常化」として理解されてきた。しかしその後、トランプがFBI長官を解任し、ロシアの外務大臣に重要な情報を提供した、という衝撃が起きた。ホワイトハウスがきりもみ上に落下する、と述べた共和党のRobert Corker上院議員の言葉は軽すぎる。

ロシアは別にして、大統領顧問たちは、国際的な現実を踏まえて意見を修正するようにトランプを説得してきた。NATOは時代遅れで、Brexitを称賛し、EUは、将来、崩壊するだろう、という彼の考えは間違っているということを、ドイツのメルケル首相は伝えた。

政府関係者たちは、トランプの他の方針転換も指摘する。台湾に関する長年の方針、「1つの中国」政策を観直す、と中国に告げることはなく、今や親友のように習近平主席に語りかけている。韓国や日本との同盟関係を損なうような問題発言はしなくなり、その結束を固めている。プーチンのロシアと関係修復する、という大統領の願いは、ロシア政府との関係をめぐる捜査によって阻まれている。

こうして最初の数か月は、選挙戦で約束したトランプの外交方針が翻されることが続いた。それは現実とも思えない展開だが、彼が最初に唱えた立場を実行するより、危険な性格の変化ではなかったのだ。彼が顧問たちに強く求めた通商政策の転換でさえ、中国やメキシコとの全面的な貿易戦争を開始することはなかった。

この「正常化」を実現した功績は、国防長官James Mattisと国家安全保障顧問HR McMaster、そして彼らには劣るが、Rex Tillerson国務長官にあるだろう。

外国の指導者たち、特に中東の指導者たちはクシュナーに相談することを好んだ。彼らはファミリー・ビジネスとしての政治や政府と民間との線引きがあいまいな話に慣れている。

ホワイトハウスは混乱状態にあり、何でも自分が正しいと確信していた大統領が、失敗とみなされることを恐れている。顧問たちの好みが次々に変わり、派閥の内紛が起き、公的文書は読まれず、会議には議題の整理もない。何よりも危険なほどの予測不能性があり、トランプが次に何を話すのか、Tweetするのか、誰にも分らないのだ。顧問たちは「大統領の無知の深刻さと闘っている。」

共和党員でも、民主党員でも、ホワイトハウスを訪れた者が示す気分は明白だ。事態がこんな風には続かない、ということだ。冷笑的な見方であるが、共和党議員たちはトランプを取り除きたいと思うのと同じくらい、大統領をクビにするより支持する方が政治的に安全だろう、と考えている。もし彼らの計算が変われば、そのときトランプは失脚する。そのときまで、トランプ政権の外交は正常にならないだろう。


 アフリカの緑の革命

FT May 17, 2017

A green revolution would unleash Africa’s potential

David Pilling

Beatrice Nkatha38歳の企業家でSorghum Pioneer Agenciesの創設者だ。彼女は、ナイロビにある醸造会社East African Breweriesにビールの原料となるソルガムを供給する地域で唯一の業者である。そして地域の農民たちに、小さな土地でもソルガムを耕作し、収穫量を増やす知識を提供し、種子や化学肥料を販売する。

Japhet Kibaaraは、そうした農民の1人である。61歳にして、彼の人生は始まったばかりだ。「私はかつて汚れて、貧しかった。」 しかし、今では小さな道具を持ち、1頭の牛と数頭のヤギを持っている。彼の妻は、夫が金を稼いでくれるから、「もっと良くなる」と思っている。彼の8人の生き延びた子供たちは、他の5人が死んだけれど、働き、あるいは、学んでいる。

アフリカは世界最速で都市化する大陸だが、まだ人口の6割が地方に住み、何世紀も変化しない農業技術を使用している。その収穫量はアジアに大きく遅れ、世界の主要な供給地になるはずだが、ネットで400億ドルも農産物を輸入している。

ソマリア、南スーダン、ナイジェリアの一部に飢饉が広がっているとき、商品作物や農産物の輸出を議論することは無神経だ、と思うだろう。しかし、アフリカの飢餓は干ばつや凶作ではなく、間違った政策に起因している。アフリカ農業はビジネスになるのだ。台湾や韓国も、農産物輸出から外貨準備を安定させ、資本蓄積と生産性上昇から奇跡を実現した。

そのために適切な政策は、国によって、地域によって、異なるだろう。しかし、ルワンダの元農業大臣でthe Alliance for a Green Revolution in Africaの会長をしているAgnes Kalibataは、いくつかを指摘する。すなわち、農民たちが自信をもって投資できる土地所有のルール、土壌の劣化を防ぐ科学的な肥料の利用、その土地の性質や気候に適した種の供給、農民と市場とを結ぶ地方の輸送手段改善、より多くの灌漑システム、である。

農業は遅れている、と考えるアフリカの指導者たちは間違っている。農民たちに耕作の動機を与え、民間投資を刺激する環境を整備するべきだ。もし西側がそれを支援したいなら、貧しい農民に山羊を買ったり、チョコレートに5セント多く支払ったりするのではなく、自分たちの市場をアフリカの農産物に開放することだ。


 ポピュリズムの拡大

Project Syndicate MAY 17, 2017

The Varieties of Populist Experience

ROBERT SKIDELSKY

ヨーロッパに広がる政治的デマゴギーの波に「ポピュリスト」という呼び方がなされる。しかし、ポピュリストとは、何なのか? 彼らに共通するものは何か?

スペインの Podemos、ギリシャの Syrizaは左派である。フランスの National Front, オランダの Party for Freedom, ドイツの Alternative für Deutschland (AfD) は右派である。Beppe Grillo, イタリアのFive Star Movementの指導者は、右派でも左派でもない、と言う

彼らに共通のテーマは、経済ナショナリズム、社会的保護、反ヨーロッパ統合、反グローバリゼーション、政治的エスタブリシュメントに対してだけでなく、政治そのものへの敵意である。

それをヨーロッパ政治の発展史から見るには、ファシズムの歴史を考えるべきだ。ムッソリーニBenito Mussoliniは、1919年にイタリア・ファシズムを創設したが、はじめは革命的な社会主義者であった。ドイツのNaziとは、National Socialist German Workers’ Partyの略語である。最初、ファシズムはナショナリスト、反資本主義の運動であった。その後、リベラルな資本主義を攻撃し、特に、「国際金融」を敵視した。それはすぐに反ユダヤ主義になった。ドイツの社会民主党員August Bebelが「愚者の社会主義」と呼んだことは有名だ。ヨーロッパのファシズムは1945年のドイツ敗戦で崩壊した。しかし、アルゼンチンのペロニズムなど、他の土地では、攻撃的でない形態で生き延びた。

戦間期のファシズムの社会的基盤から、それは右派の政党であった。当時、労働者階級は左派政党に深く信じていたからだ。ファシズムに残された政治基盤は、小ブルジョアジー、すなわち、商店主、零細企業、下層の公務員であった。しかし現在では、左派の政治を支えた社会基盤が失われた。古典的な労働者階級は消滅した。その結果、左派ポピュリストと右派ポピュリストは同じ社会階層の支持を奪い合っている。それは戦間期にファシズムを支持した、失業した若い男性、銀行家やグローバル・サプライ・チェーン、腐敗した政治家、遠くのヨーロッパ官僚、あらゆる種類の「ファット・キャット(不正蓄財者)」に脅されていると感じる「小さな者たち」である。

ポピュリストはどの程度まで拡大するのか? それは、社会主義的なものか、あるいは、ファシスト的なものか?

それを決めるのは、経済だ。EUは、2008年の金融危機後、他の主要経済圏に比べて最も回復が遅い。フランスの失業率は10%、若者では24%に達し、イタリアは34%である。マクロンはEUの「安定・成長協定」に従い、財政赤字を減らそうとするが、景気刺激策と福祉国家の拡大も求めている。それらを結びつけるのは、供給サイドの改革だ。法人税の引き下げ、金融投資の免税、そして、保護主義には反対するが、カナダやアメリカとの包括協定を推進する。労働者の解雇を容易にし、週35時間労働には反対、フランス労働市場の「弾力性」を高める、と言う。

マクロンの政策は概ねネオリベラルのものだ。彼はその政策がEU全体で行われ、フランス経済を上昇させるだけでなく、すべてのEU経済が回復する、と考える。

実際には、そのような改革がすべての船を沈めて、ポピュリストたちに拡大の機会となるだろう。その場合、どちらのポピュリストが支持を拡大するのか?

マクロンはグローバル・エリートであり、移民に対する穏健な政策を好む。彼の政治運動が議会で多数を占めることはないから、政府は既存の主要政党から支持を得なければならない。おそらく次の5年間に政策失敗が続き、それは2022年の大統領選挙に向けたル・ペンに、政治エリート批判の絶好の標的を与える。

もちろん、左派にも政策プログラムがある。左派ポピュリストのメランションJean-Luc Mélenchonは、第1回投票で20%の支持を得た。決選投票で、多くの有権者は、ネオリベラリズムとナショナリズムの選択に不満を感じた。左派の課題は、グローバルな経済統合の問題について、反動的な政治に堕落せず、直接に応えることだ。


 台湾の防衛政策

NYT MAY 18, 2017

Taiwan’s Failure to Face the Threat From China

By ENOCH Y. WU

中国のアジア太平洋における攻勢に対して、アメリカやその他の国からは何ら具体的な対応は観られない。中国の近隣諸国は、北京が設定した東シナ海の防空圏にも沈黙し、中国が南シナ海で進める長期の軍事化計画を傍観してきた。アジアにおける安全保障のバランスは、中国の台頭によって変化しつつある。

北京の好戦的態度は台湾にとって死活的な脅威である。中国の指導者たちは、長い間、彼らが必要と思えば、軍事力によって台湾を奪還する、と断言してきた。台湾の政治エリート層は、北京への対応をアメリカに委ねてしまっている。中国が軍備を強化し、その攻勢を誰もチェックできないなら、台湾人民は自国の運命を中国が望む条件に合わせるしかないのだろうか?

台湾は安全保障に関する新しいアプローチを必要としている。

台湾が北京に降伏すれば、2350万人の台湾人が自由と民主主義に依拠する生活を失うだけでなく、アメリカとその同盟諸国の利益も損なわれる。その支配圏の拡大は、アジア太平洋を不安定化するだろう。2万人の米兵が駐留する沖縄にも極度に接近する。

北京はミサイル技術の開発にばく大な投資を行い、アメリカ軍の行動を厳しく制約し始めている。他方、台湾は兵力を半減させ、予備役も名ばかりのものだ。兵站や弾薬の備蓄も無視してきた。兵士の訓練や教育も重視してこなかった。

台湾はまた、実質的に、徴兵制を廃止してしまった。若者には兵役以外の公的義務を選択できるようにしたのだ。われわれは、自分たちがその義務を逃れながら、アメリカ人の息子や娘に台湾を防衛するため命を危険にさらすと期待している。

台湾の防衛政策は、政治家と軍人との不信感の産物である。軍は多くのスキャンダルにより傷ついた。また、40年に及ぶ権威主義支配体制において、反体制派を監視してきた。その人々が今では政治家になっているのだ。民主化後、軍人たちは尊敬されなくなり、軍の規模も年金も削減された。「民主主義が軍隊を破壊した」と、軍人たちはいつも言う。

蔡英文総統と議員たちは、われわれの軍事力を再建するために、まず信頼関係を回復することだ。また、アメリカの支援がなければ、台湾は軍事的に中国と戦っても無駄だ、という間違った考えを払しょくすることだ。兵員や軍備に劣る国でも、正しい戦略と、軍事的に戦うことのできる、固い意志を持った住民がいれば、なお恐るべき防衛線を築くことができる。

台湾国民の決意は明白だ。選出された指導者たちはこれに従わねばならない。

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The Economist May 6th 2017

The world’s most valuable resource

The data economy: Fuel of the future

A cotton boll’s journey: From shrub to shirt to shelf

International Banking: Ten years on

(コメント) データを支配する企業が,ますますインターネット世界の独占傾向を強めています.それは旧来の独占の規制とは異質の問題を示しています.スタンダード・オイルを分割したような,強制的な措置が必要な時期が来ているのだ,と思いました.

そして,アフリカの製造業や農地が新しい市場を形成する話と,その厳しい条件を克服するインフラやガバナンスの整備について考えること.裕福な諸国が形成した富を管理するひとびと,国際銀行業や中央銀行の世界金融危機から10年を経た姿を検討すること.

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IPEの想像力 5/22/2017

古本屋で同じ本を2冊買ってしまい,ゼミの学生にあげました.司馬遼太郎の『街道をゆく 27 因幡・伯耆のみち,檮原街道』です.

冒頭に,作家の近所に住む安住先生の話があります.この先生が因幡の国境に近い,黒尾峠の向こう,早野の出身だ,と言うので,訪ねてみたいと思ったわけです.それほど,安住先生は作家を刺激する生き方であった,ということでしょう.

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地下鉄に乗って大学へ向かっていると,近くの席に座っている若者が小型のパソコンを開けて,しきりにゲームに興じていました.少女のキャラクターをいくつも確保してあるようで,それらを選んで闘って(?)います.ゲームの中身はさっぱりわかりませんが,私は彼の手指のせわしない動きと,彼自身のぼってりした体型に,不安な印象を持ちました.

FTThe Economistは,情報通信技術の発達がもたらした政治と社会の変容,市場や人間行動の変形を危惧し,公的な介入を行う議論が始まっている,と紹介しています.10歳の息子がオンラインのゲームに熱中して,両親の口座から多額の支払いが行われた,というのは各地ですでに起きていることでしょう.テレビやインターネット,スマートフォンで,さまざまな商品が宣伝され,小学生,老人,女性,病人,就職や転職,結婚,デート,その他,細かくターゲットを絞った販売がめざましい効果を上げているようです.

データは石油に代わる重要資源になった,と特集記事は述べています.かつて,Windowsが更新されるたびにお金を支払い,これは一種の封建地代だな,と思いました.GoogleAmazonFacebookAppleMicrosoftAlibaba,・・・ ネットの巨大企業体が市場や技術開発を独占し,同時に,英語圏に対する中国語圏の追い上げ,企業買収の新しい波,ネット犯罪の高度化が進む世界で,国家主権や市民権の作り変えが進むのです.

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安住先生のおかしみ,滑稽感について,作家は書いています.「清貧のひとでもある.学問が深い上に天成の臨床家で,人間についての洞察力をゆたかにもっている.うまれついての愛がある.どんな患者にも声を涸らして説明し,身ぶりまで入れる.」

「おそらく無私の人に多くみられるユーモラスな風韻かと思われるが,いまひとつは,浮世ばなれしたほどに親孝行であるであるということも,人柄の可笑味を生むもとであるかもしれない.」

安住先生は,山林を守った厳父の支援で医学部を出て,助手になりました.しかし,研究者にはなれなかった.「先生は,不運だった.」と,作家は,学者になるための「運」,特に人間関係の複雑さを嘆きます.他方で,臨床家となって,恩師に恵まれました.安住先生の恩師は,長田博之という,国立病院の外科部長でした.

「安住先生の診察室に,早野の写真とともに,この長田博之医師の写真もかかげられている.生涯,自ら奉ずるところ薄く,自分の義務のみを果たしたひとの写真を,先生はみずからの励ましとしてかかげているのである.」

安住先生はご両親と峠の上の村人に,大きな義務を負っている,と感じていました.しかし「下界」には患者たちがいます.先生はこの両方の義務を果たされた,と作家は感心します.

「義務は,それを感じる人によって存在するのだが,そういう倫理感情のつよいひとびとのおかげで,私どもの社会は保たれている.」

安住先生の「山仕事」は,厳父によって教えられ,毎週,78時間をかけて山に帰り,続けられました.「山村ぜんたいが,先生にとって,大きな義務だった.」

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アフリカにおける農業の革命や,いよいよ製造業の拡大が始まる可能性について,記事を読みました.もしアメリカの農業生産性が他の諸大陸でも実現するなら,世界の産業構造や社会の在り方は,今と全く異なったものになるでしょう.

中国の工業化の波が,軽工業から重工業を経て,ハイテク産業へと変わるとき,アフリカの機会が現れます.また,中国の人口の都市化,少子化,高学歴化が一気に進み,インフラ投資が国内から海外へ,また,高齢化に伴う財政負担が軍備の近代化や高度化よりも死活問題になるとき,国家と国際秩序のダイナミズムも大きく変化するはずです.

インターネットや労働市場にこそ,政府はもっと公共的な利益を実現するため,積極的に介入する時代が来ている,と思います.

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