IPEの果樹園2017

今週のReview

5/15-20

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金融政策と賃金政策 ・・・安倍晋三の改憲宣言 ・・・マクロンの勝利 ・・・メイ首相vs労働党 ・・・ドイツの経常黒字 ・・・ベーシックインカム論争 ・・・バルカン諸国に必要な帝国 ・・・アメリカ経済の復活 ・・・地政学的危機の株高 ・・・人道外交と援助 ・・・韓国の新大統領 ・・・ロシアの戦勝記念日 ・・・コニー長官の解任

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


 金融政策と賃金政策

FT May 5, 2017

Private equity and Donald Trump’s quest for jobs

Gillian Tett

アメリカでもっとも多くの雇用をもたらしている民間部門は何か? もし有権者や政治家に尋ねたら,彼らはWalmart, say, General Electric, IBM or Citigroupのような有名な企業名を挙げるだろう.しかし,ミルケンMichael Milkenによれば,そうではない.彼は,かつてジャンクボンドの多さまであったが今では社会活動家であるという.民間部門の雇用数トップ10で,確かにウォルマートはトップである.しかし,続く8社は,プライベートエクイティ・グループである.

ミルケンはその名を特定していないが,想像はつく.たとえばCarlyleKKRだ.彼らがポートフォリオに入れた企業の総雇用者数は,それぞれ約70万人だ.Apolloの雇用者数は30万人であり,それと少ししか変わらない規模のWarburg Pincus, General Atlantic and TPGも同じだろう.プライベートエクイティ企業のロビー団体は,アメリカ国内で1100万人を雇用している,という.(しかし,データは明かされていない.)

この数字は驚異的なものだ.政治家や有権者が「資本主義」というとき,株式市場や収益の報告書,ふつうの人々が売り買いする企業のことをイメージしている.しかし,これは時代遅れなのだ.アメリカ資本主義というのは,ますます多くの上場企業がプライベートエクイティに買収されるところである.ファンドに人々の資金が流れ込み,彼らが株式市場を支配する.政治やメディアは,市場経済のイメージを変えなければならない.

そして重要な問題がある.有権者や政治家は,プライベートエクイティ・グループの活動を明るみに出し,公共政策の議論にしなければならないだろう,ということだ.これまで彼らはそれを拒んできた.その秘密主義の文化,効率性と利潤に焦点を当てる無慈悲さが,その理由であろう.彼らは社会的な結束を議論するより,雇用を削減することで名をはせてきた.

しかし,アメリカの論調は変化した.ホワイトハウスのトランプ大統領は雇用の創出を目標に掲げている.すでに多くの企業がやり玉に挙がった.今週も,インドのIT企業,Infosysがアメリカで1万人を雇用すると発表した.ウォルマート,IBM,ジーメンス,ダウ・ケミカル,といった企業が新しい雇用を促進している.

雇用の面でも巨人となっているプライベートエクイティがこの点では沈黙している.BlackstoneSchwarzmanは,大統領のビジネス会議に参加しているが,ウォルマートのように雇用増を宣伝することはない.しかし,もはや隠れることはできない.

雇用創出,不平等,社会的団結,こうした論争でも,プライベートエクイティの文化を俎上に上げるべきだ.ミルケンは,そのリストをトランプに送って,巨人たちが雇用に貢献するように,得意のTwitterで攻撃してはどうか.

Project Syndicate MAY 10, 2017

The Wages of Wage Fear

BILL EMMOTT

全てが失敗したのであれば、以前は考えられないことも試すべきだ。多くの西側諸国、明らかに、アメリカ、日本、ドイツ、そして、恐らくはイギリスも、さらにはもうすぐユーロ圏の諸国で、賃金交渉、特に、低収入の階層の賃金引き上げに政府が直接介入するべきだ。

日本は15年間も低成長に苦しみ、家計(特に低所得層)の需要が弱く、不平等や貧困が悪化している。同様の状況が、アメリカ、イギリスにも広がっている。それがトランプやBrexitに勝利をもたらした条件であった。

明確な賃金上昇がなければ、ポピュリズムの影響は広がり続け、ほとんどの西側経済が低成長に陥るだろう。所得や資産の不平等は政治的な発言力にも影響し、それを増幅する。国境封鎖や保護主義のような、近視眼的解決策への誘惑は避けられない。

政府が直接に低所得層の賃金を引き上げよ、などと主張すれば、お前は気が狂ったのか、というコメントがすぐに出る。・・・最低賃金の引き上げは失業を増やす。ロボットの普及がさらに雇用を減らす。市場による解決策を信頼しないのか? もちろん、そうした反対論は知っている。

しかし、正しい政策は状況に応じて変わる。競合する利益集団間の選択を反映する必要がある。それが政治だ。「取り残された者たち」の利益を反映しなければならない。

政府による賃金決定への介入を否定する意見は、1970年代に、賃金と物価を管理する政策がインフレを高めた経験に由来する。しかしまた、現代のビジネス界が行うロビー活動が、企業の競争力は低賃金に依存する、と主張することも影響している。政府も、多くの公務員を低賃金で雇用している。

現状を打開する勇気を出すときだ。財政政策は巨額の債務によって制約され、再分配政策にも問題が多い。金融政策は、量的緩和の末に中央銀行の公的債務保有額が膨張し、操作の余地を失った。それゆえ、賃金への介入は、事実上、残された唯一の手段である。最低賃金を引き上げても失業が増えるような条件はなく、完全雇用状態に近い。

日本、アメリカ、ドイツ、イギリスにとって、失業者が増えることより、賃金の低迷こそがリスクだ。それは家計の需要を停滞させ、それゆえ企業は投資を抑えている。アメリカの連邦最低賃金は時給7.25ドルであるが、1968年のピークに比べて、実質で3分の1も低い。日本の最低賃金、時給823円も、わずかに高いだけだ。

1960年代、日本は「所得倍増」計画を示して消費経済を発展させた。今、必要とされるのは、「最低賃金倍増」計画だ。数年をかけて実施し、企業に調整の時間を与える。もし富裕層からの支援と、「取り残された」有権者たちの支持を得るなら、その指導者は政治的な勝利を得るだろう。

トランプ大統領なら関心を持つはずだ。


 安倍晋三の改憲宣言

FT May 5, 2017

Shinzo Abe’s wager on weaning Japan off pacifism

Leo Lewis

1964年,日本が東京オリンピックを開催したとき,開会式でハトが空に舞った.それは戦争の灰燼から生まれ変わった平和国家としての日本を象徴するものだった.

しかし,そのわずか2分後,日本の戦闘機の編隊が同じ空を横切った.それは,日本国憲法の有名な第9条を知る者にとって,苦渋の時であった.陸・海・空軍は,これを持たない,という条文に反することであったからだ.

2020年の東京オリンピックを前に,安倍首相はこの矛盾を解決する決意である.安倍は明らかにその機会を観ている.突然,反対派は弱くなった.憲法は今も愛されているが,着実に,改正論は国民の多くに好意的に見られるようになった.それは国論を分断するかもしれないが,必要な議論となった.地域の安全が脅かされ,緊張が高まっている.中国は人工島を建設し,アメリカのトランプ大統領は気分が変わりやすい.日本の安全保障をアメリカに頼ることの強い懸念がある.

安倍は,憲法改正の目標を2020年と表明した.問題は,改正手続きがまだ多くの厳しい条件を求めていることと,他方で,安倍の達成していない多くの改革課題が推進力を失い始めることだろう.


 マクロンの勝利

The Guardian, Sunday 7 May 2017

The French presidency goes to Macron. But it’s only a reprieve

Timothy Garton Ash

心臓発作に襲われかけたけれどぎりぎりで助かった人のように、ヨーロッパはエマニュエル・マクロンの勝利を祝して乾杯しているだろう。しかし、そのグラスは半分も満たされておらず、もしヨーロッパがその進路を変えなければ、死の瞬間は延期されただけだろう。

次期大統領はフランスのエリート層から出た聡明な人物だ。フランスの深刻な構造問題の理解も、それに対する優れたアイデア、強力な政策チーム、EUへの強い関与もある。秋のドイツにおける選挙で、中道の親ヨーロッパ的政府がベルリンに誕生すれば、両国でEUを強化する改革に取り組めるだろう。

しかし、すでにシャンペンは飲み干し、エスプレッソで正気に戻るときだ。まず1杯。・・・大統領選挙の第2回投票で3分の1はル・ペンを支持した。

選挙制度の違いで、Brexitやトランプと異なる結果になったが、その現実はある意味でさらに悪い。トランプは海賊資本主義の産物であり、極右の伝統的な政党の代表ではない。Brexitを支持した53%の投票は、ナイジェル・ファラージを支持したわけではない。ル・ペンはテレビ討論で、誰も彼女が投票できる候補ではないと思うほど、あまりにもひどい中身であった。

1789年の革命を生んだ国で、われわれは世界的な規模の反リベラルの反革命を象徴する人物を得たのだ。ル・ペンは現代のナショナル・ポピュリストのモデルである。彼女がテレビ討論で自慢したのは、自分なら、プーチンとロシアについて、トランプとアメリカについて、メイとBrexitについて、うまく議論できる、ということだ。(メイは仲間にされたことに傷つくだろうが) グローバリゼーション、リベラリゼーション、ヨーロッパ化の流れに反対するポピュリストの潮流は、単に、潜伏したにすぎない。

2杯目は、マクロンの改革が成功することはない、ということだ。ル・ペンに投票した人々だけでなく、多くの反対派がいる。第2回投票を、コレラとペストの選択、と呼んだ左翼もそうだ。来月の議会選挙で、マクロンが多数を握る保証はない。

マクロンはすでに、「レンツィ2.0」と呼ばれている。イタリアの若い首相が唱えた改革は失敗した。フランスの反対派はさらに強力だ。労働組合、公共部門の労働者、トラクターで通りを封鎖する農民たち。マクロンの改革が失敗すれば、2022年にはル・ペン大統領が誕生する。

3杯目。マクロンはEU改革も唱えている。それは素晴らしいことだが、彼にはできないだろう。Brexitの交渉はすでに悪化し始めている。イギリスはEU改革の同盟者にならない。イタリアはフランス以上の公的債務を負い、脆弱な銀行部門と政治不安から、次のユーロ危機を生む恐れがある。難民危機の原因も解決されていない。ハンガリー、ポーランドでは反リベラルのポピュリスト政権が続く。

マクロンのユーロ圏改革も、ドイツの有権者には受け入れられないだろう。・・・共通の財政政策、共通の財務長官、公的債務の共有化、銀行同盟の完成。

守るべきヨーロッパはどこにあるのか? これは執行猶予でしかない。何もかもがまだなされていない。しかしヨーロッパは、まだ酔っぱらっている。


 メイ首相vs労働党

The Guardian, Thursday 11 May 2017

Never mind who leaked it, this Labour manifesto is a cornucopia of delights

Polly Toynbee

これは豊穣の実現を称える宣言だ。労働党の選挙公約がリークされた。なすべきでなかったものはすべて逆転させ、すべての者が生活を改善できるだろう、と約束する。

これは、1983年の選挙公約がもたらした「歴史的な長い自殺」を再現するものではない。当時、労働党を分断した約束が繰り返されているのではない。すなわち、ヨーロッパやNATOを一方的に離脱すること。軍縮、保護主義的な為替・輸入の管理、製薬産業、建築資材産業、その他の国有化、であった。明らかに不本意なものであるだろうが、ここにはトライデント核ミサイルを保持し続け、NATOの求めるGDP2%の防衛費を公約している。国防に弱いという労働党への多年にわたる非難を退けるためだ。

緊急に必要とすることのすべてが盛り込まれている。NHS国民保健サービス、社会介護、学校資金の再建である。労働者の権利の回復もそうだ。名ばかりの自営業、ゼロ時間契約労働者たちに団体交渉権を取り戻す。それなしには、1980年代以降、GDPのシェアを大幅に減少させてしまった賃金と、逆に膨張してきた利潤や経営幹部の報酬とを、是正することはできない。

郵便や鉄道を再公有化する。しかし、契約が終了すれば、エネルギー部門は国有化するのではなく、地域ごとに比較できるようにする。10年間で2500億ポンドの国債を発行し、インフラに投資することも大いに必要なことだ。授業料を無償化し、貧困家庭には教育のための支援を給付することも、無料の学校給食も、素晴らしい。

これらすべてのことに合意し、実現できたら、この国はより暮らしやすい、子育てにとって優れた、おそらく、繁栄する国に変わるだろう。労働党はBrexit交渉など求めず、単一市場。関税同盟を維持する。この国が無情にも削減してきた社会給付を回復し、開かれた、「公正な」移民システムに合意するなら、われわれは今あるような状態より、素敵な、親切な、楽観的な国民になれるだろう。今、Brexitに向かうイギリスはそうではない。

政治とは、可能性のアートである。また、政治は、説得のアートでもある。どの約束も好ましいものだが、それぞれが厳格な基礎を欠いている。労働党がどのように経済的な信頼を獲得し、人々の争いや個人主義、しばしば排外主義となる傾向を抑えるのか、すべては将来の課題である。

NYT MAY 11, 2017

Theresa May’s Vapid Vision for a One-Party State

By WILLIAM DAVIES

メイの政治戦略は,政治的なカオスの中で,唯一の確実な権力の中心を明確にすること,典型的なポピュリストの政治ゲームだ.


 ベーシックインカム論争

VOX 05 May 2017

Straw men in the debate on basic income versus targeting

Martin Ravallion

対象者を絞った給付プログラム(ターゲッティング)に比べて,ベーシックインカムは何が優れているのか? 多くの関心を集めているが,ベーシックインカムの論争には間違った攻撃が多い.代表的な5つを取り上げる.

1.ベーシックインカムは財源が不足する.税率を極端に上げる.・・・ すでに貧困対策として様々な給付プログラムがある.たとえば,インドのプログラムでは,必ずしも,本当に貧しい人々が給付を受けていない.そうした支出を削ってベーシックインカムに充てることは大きな改善となる.財源問題には,累進課税で応じることだろう.ミルトン・フリードマンのマイナスの所得税だ.

2.もっとコストを抑えて貧困はなくせる.・・・ すなわち,貧困ライン以下の人に所得を与える.この方法には問題がある.インセンティブを歪める.情報がない.政治的反対.

3.ターゲッティングで十分だ.地域,家族規模,住宅の(非)所有,など.データの不足.成果の不足.水平的な不平等.

4.働く意欲を損なう.・・・ すべての給付に伴う問題だ.ベーシックインカムは最も軽い.貧困層はさまざまな不利益を被っている.

5.医療や教育の予算を奪う.・・・ トレード・オフがある.限定されたベーシックインカムは,社会給付に似てくる.

貧困対策の一般的な変化は避けられない.


 バルカン諸国に必要な帝国

NYT MAY 5, 2017

The Necessary Empire

By ROBERT D. KAPLAN

オランダ、フランス、ドイツの選挙は、旧いカロリング朝の中枢地帯で起きた事件である。そこにはシャルルマーニュが9世紀に帝国を築いた。ここは最も豊かで、ヨーロッパの最も制度が発達した部分である。しかし、もしEUがこのまま弱体化し続ければ、その衝撃は、もっと遠く、東や南において発生するだろう。

それはオーストリア=ハプスブルク帝国と、オスマントルコ帝国との最前線、中枢ヨーロッパのような強固な中産階級の基礎を欠いた旧共産主義諸国、そして、サラエボの包囲から25年を経ても、なおエスニック紛争と境界線の合意を得られない地帯である。これらの地域は、今や、かつてないほど親EU諸政府に依存しているからだ。

スロヴェニアの首都Ljubljanaでは、国家が中欧とバルカンとの間で搾り取られ、今も人々の想像力を支配する、いわゆる幻想の境界線について、官僚や専門家たちが話している。1519年、法皇レオ10世は、オスマン帝国に抵抗する最前線として、ローマ・カトリックのスラブ諸族に言及したように、ここは「キリスト教信仰の防壁」であった。クロアチアは、イスラム教徒のスルタン国家化を防ぐ第1ラインであり、スロヴェニアは第2ラインであった。ある役人は述べた。「チトーのユーゴスラビア連邦が解体してから4半世紀を経て、われわれは中世後半から近代初期の歴史に戻っていることを知った。」

数百年間、オーストリア=ハンガリー帝国に統治されたスロヴェニア人は、2016年の1人当たり所得が32000ドルであった。オーストリア=ハンガリー帝国の伝統が一部、オスマン帝国やヴェネチアの伝統が一部、というクロアチア人は22400ドル。その他のユーゴスラビア諸国は、当時、すべてがオスマン帝国の統治下にはいった。モンテネグロは17000ドル、セルビアは14000ドルである。さらに、マケドニア、コソヴォ、そして、オスマン帝国の一部となったボスニアの地域が同じくらい低い所得水準にある。旧帝国の分割は、経済・社会的な分割を維持している。

これはエスニックな要因や民族による決定論ではない。南東欧のスラブ諸族は、その血統や言語以上に、外国帝国主義の支配によって、政治的、経済的に形作られたからだ。かつてビザンチン帝国やオスマン帝国の一部であったヨーロッパは、そして中東に最も近接する地域は、今も最も貧しく、最も安定性を欠く、EUの支援や指導を必要とする地域である。ヨーロッパが、安全な繁栄する大陸となるか、伝統的な東西の前線として、ロシアとトルコの権威主義的指導者たちが利益圏をはぎとることにより、不安定化し続けるのか、それが最も示されるのはバルカン半島であるだろう。それゆえ、パリ。ベルリン、ブリュッセルの政治変化は、これほど遠くにおいて反響を生じる。

プーチン大統領は、中東欧において、特にバルカン半島で活発に介入してきた。さまざまな政権転覆、組織犯罪者の利用、ナショナリスト・ポピュリスト運動への資金供与、ローカル・メディアへの影響力行使。モンテネグロはNATO加盟に最も近い位置にあるが、そこはしばしばロシアのオリガークや犯罪集団の事実上の植民地とも言われている。昨年、ロシアはクーデタを企てたという話もある。

トルコでは、エルドアン大統領が先月の国民投票に勝利して、独裁者に近い権力を得た。その翌日、彼が訪れたのは、近代トルコの創始者であるケマル・アタチュルクの墓地ではなく、コンスタンチノープルからボスニアまで、西方への進軍と征服を命じた15世紀のオスマン帝国のスルタン、メフメト2世の墓地であった。

バルカンの諸族を救済できるのは、唯一、EUだけである。もしセルビア、アルバニア、コソヴォがEUに加盟すれば、セルビア人とアルバニア人とのエスニック紛争は真に解決できるだろう。同様に、クロアチアとセルビアとの間のボスニア・ヘルツェゴビナ紛争でも、安定化のダイナミズムが働くだろう。EUという枠組みに中で、旧ユーゴスラビアのすべての者が平和を得られる。それなしには、紛争が続くだけだ。エスニックな諸国家ではなく、EUが提供するのは、法によって支配された世界であり、命令ではなく非人格的な法律が統治する、集団ではなく個人が護られる世界である。

EUは、言い換えれば、必要な帝国なのだ。


 韓国の新大統領

Project Syndicate MAY 9, 2017

Moon’s South Korean Ostpolitik

YOON YOUNG-KWAN

文在寅Moon Jae-inは北朝鮮との緊張が最高点に達した時期に政権を執った。彼の外交を理解するには、1998-2003年の金大中Kim Dae-jung政権以来、韓国のリベラルな外交政策がどのように考えているかを知る必要がある。

金は、ヨーロッパで冷戦が平和的に終結したのを観て、自国と北朝鮮との対立にも平和的な解決策をもたらしたい、と考えた。金の「太陽政策」はノムヒョンRoh Moo-hyunにも継承された。ドイツ再統一の前には、西ドイツによる直接的な関与政策、すなわち、東方外交があった。西ドイツの元首相ウィリー・ブラントが、1970年代から熱心に推進し、ヘルムート・コールが政権に着いた1982年以降も、その政策を引き継いだ。東方外交が東ドイツの体制を変えたわけではなかったが、東ドイツは西ドイツに大きく依存するようになった。それは再統合過程でコールに大きなテコを与えたのだ。

もちろん、北朝鮮は東ドイツではない。それにもかかわらず、文と彼の支持者たちは、保守派のイ・ミュンバク政権が「太陽政策」を継承しなかったことを悔しいことだと考えている。北朝鮮がもっと韓国に依存するようになっていたら、アメリカや中国ではなく、韓国が交渉のテコを得ていただろう。

また韓国のリベラル派は、核兵器を保有した北朝鮮が、以前よりも戦略的に困難な状況を創り出していることも知っている。それでも文は夢を実現したいと考えるだろう。アメリカとの同盟関係は欠かせないものであり、交渉にはアメリカの同意が必要である。他方、医療や環境問題などでは、国際的な制裁合意の外側で、朝鮮半島の南北協力を推進することができる、と考える。

文は、北朝鮮との交渉に柔軟な姿勢で臨むだろう。アメリカとの関係はTHAAD導入で紛糾した。中国との関係は、その決定に対する懲罰的な対応で最悪の状態にある。歴史的に、中国は朝鮮半島情勢に、日本と対抗するため、何度も介入した。しかし、再統一には中国との協力も欠かせない、と考えている。そこで文は、THAADが半島非核化までの一時的な措置である、と説明して中国を宥和するかもしれない。

革新派の文を恐れるべきではない。韓国がアメリカとのFTAに合意し、イラク戦争に派兵したのも、ノムヒョン政権のときであったのだ。文は、新しい形の「太陽政策」を追求するだろう。


 コニー長官の解任

FT May 10, 2017

Comey falls victim to Trump’s Tuesday night massacre

Edward Luce

リチャード・ニクソンは自分を捜査する人物を解雇するまで5か月かかった。トランプは4か月足らずだ。ニクソンは、その動機が大統領職を守るためだと隠さなかった。トランプは、コニー長官のヒラリー・クリントン捜査に間違いがあった、と言う。しかし、その信ぴょう性はない。

プーチンは、アメリカ民主主義を損なう意図を隠さなかった。これは彼の勝利である。アメリカ大統領が、民主主義的でない典型的な行動を取った。司法に介入したのだ。ニクソンでさえ、FBI長官を解雇しなかった。

FP MAY 10, 2017

Is America a Failing State?

BY DAVID ROTHKOPF

われわれは、とどまることのない虚栄心に満ちた、偽物の指導者を得た。法律の尊重や常識を欠いた、貪欲に身内の利益を守る政権を得た。内外の重要な価値を損ない、民主主義を損ない、自由なメディアを攻撃し、世界中の人殺しや強権的指導者を称賛する大統領を得た。

すべてがこの国をバナナ共和国にするものだ。さらに悪いことに、われわれは破たん国家の兆候を示している。

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The Economist April 29th 2017

How to have a better death

Central banks: The wars of independence

Banyan: THAAD vibes

End-of-life care: Mending mortality

The history of central banks: Battles of three centuries

Free exchange: Minor threat

(コメント) ほかにもいろいろあります.トランプの外交や通商政策は深刻です.サウジアラビア,イギリスの総選挙.あるいは,イギリスの国教会をめぐる宗教改革の歴史書.

しかし,300年にわたる中央銀行の歴史を整理した叙述は興味深いものです.以前,国際通貨制度に関する歴史もありましたが,非常に優れていました.それは国家の機能でありながら,通貨・金融市場を管理する点で,独立性を示すことが望ましいと認められた時から始まります.1694年,「名誉革命」によってイギリスとオランダの権力を得たウィリアム3世(オレンジ公ウィリアム)であったことは,特に,印象的です.

戦争とインフレ,インフレ抑制と権力者による圧力,政治介入とさまざまな目標を満たすことの困難が,時代の政治経済空間を鋭利に切り取って示しています.

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IPEの想像力 5/15/2017

高齢化する社会が、ますます労働力不足と財政赤字・公的債務によって活力を失っていくのは、何か、根本的な発想の転換が必要ではないか? そう思う人も多いはずです。

私が以前から検討してほしいと願うアイデアは、2つありました。

●老人医療・介護の負担 ・・・医療保険のムダ使い,保険によるモラル・ハザード.バケツ1杯の薬を出すことによって所得を増やすことができる.患者のためになるのか? 予防や完治のためのケア・支援・教育に力を入れない.早く,安く,患者の満足を高めて,治療した医師への報酬を高く,逆の医師は報酬を減らす.

●老人の生活保障、ベーシックインカムや資産の放棄 ・・・老人は所得を気にせずに暮らすことができる.公共住宅,公共食堂,公共交通・通信手段.老人は住宅や畑,資産を公共のプールに委ねる.医療や介護に適した拠点で,地方に分散しつつも,一括して対処できる.自由に移住し,家族や友人と通信できる.

最近、The Economist April 29th 2017において、終末医療の考え方が大きく変わることを指摘しています。日本(世界的に見て典型的な超高齢社会)のコロリと死ねるご利益のある寺を訪れる老人たちを描いて,記事は始まります.彼らの願いは2つだ.「1.元気に長生きする.2.苦しまずに,コロリと死ねる.」

「現代医薬のパラドックスは,人々をより長く生きるようにして,より多くの病気を生じることだ.死が速やかに,痛みなく,訪れることは珍しい.それはしばしば悪夢だ.死が近づいても,人々は死を免れる以上に多くの目標を持っている.しかし,彼らにとって何が重要かは,誰も聞いてくれないのだ.豊かな諸国では,多くの人が病院で死ぬ.その前に,しばしば的外れな,過激な治療を受けて死ぬ.多くは孤独な,混乱した,苦痛の中で死ぬ.」・・・ これでよいのか?

自分自身が病気になり、父や母の介護について考え、老化や退職をどのようにできたらよいか、人生後半から終盤の生活を考える時期が来たのです。

●退職,副職,転職 ・・・退職を複線化し,副職を奨励し,転職の機会を増やすために制度を活用する.社会も,それを必要とする時期が来たのです.職場での熱意やスキル,適応力は,組織や人によって異なります.50歳を過ぎたら,さまざまな退職のモデルが提示される.週3日間,あるいは,24時間や32時間の労働時間に減速することができる.そのようなコースを選択する者にとっての保険や年金,就労や一時雇用の機会や条件を整備する.ジョブ・カフェに加えて,企業は若年層から退職者まで含めて,社会的貢献を組織する義務を担う.安全保障,へき地の医療やインフラ整備,農業・学校支援,さまざまな民間・政府の試みを通じて,新しい連携と地方活性化,起業を促す.

●終末医療 ・・・死は避けられない.どのような死を望むのか? 積極的に要求する.医師や医薬品の開発・利用について,社会的な新しい合意を形成する.痛みを緩和する,できるだけ市民生活を楽しむことにケアの目標を定める.在宅で医療や介護を受ける.家族や友人の中で死を迎えられる.金銭的な負担を家族や社会にできるだけ残さない.栄養摂取や呼吸に関して,機械的な延命措置を受けない,など,いくつかのモデルを示す.モデルを選択する資格に関しては,専門家や社会的な代表からなる発言と検証のシステムを整備し,社会が合意する.

死についての人々の考え方は,歴史的に,大きく変化してきました.

1900年,世界の誕生時の期待される余命は32年であった,と指摘します.今や近親者の死を経験することもないまま,死を恐れるパニックだけが,終末期にまで高額医療を正当化します.

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