IPEの果樹園2017

今週のReview

5/8-13

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トランプの就任100日 ・・・マクロンとル・ペン ・・・中国式統治 ・・・AIと雇用問題 ・・・メイの解散・総選挙 ・・・トランプ減税 ・・・NAFTA再交渉 ・・・トランプの外交政策 ・・・ヴェネズエラの崩壊

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


 トランプの就任100

FT Magazine, APRIL 27, 2017

100 days in the court of King Donald

Demetri Sevastopulo. Additional reporting by Courtney Weaver

「トランプは王様のようだ。彼は宮廷が好きである。彼の宮廷では、すべての役者が集まる。廷臣たちもいる。」

もしジョージ・W・ブッシュが民間企業の、フォーマルなCEOスタイルの大統領なら、オバマはプロの司令官であった。トランプは、リアリティーTVショーの王様だ。

カオスが現れると、宮廷に陰謀はつきものだ。トランプは直ちに、中世の宮廷劇から、ソーシャル・メディア時代のクレムリン支配にスタイルを変えた。

NYT APRIL 28, 2017

America, From Exceptionalism to Nihilism

By PANKAJ MISHRA

2008年、ザカリアFareed Zakariaは書いた。「世界はアメリカの道を進む。」「より開放的で、市場を受け入れた、民主的な国になる。」 世界は最善の姿になる、とアメリカの政治、ビジネス界、ジャーナリズムの指導者たちは伝え続けている。911でさえ、イラクとアフガニスタンの血みどろの失敗でさえ、大恐慌以来、最悪の経済危機でさえ、アメリカ化する世界への信念を消せなかった。

こうした楽観的なご都合主義者たちをついに粉砕したのは、昨年、大統領選挙で「アメリカの大虐殺」を演じたデマゴーグであった。激しく分極化したアメリカ社会におけるトランプの誕生こそ、アメリカは悲劇的な社会紛争や衝突に対して免疫がある、という信仰を打ちのめした。

エリートたちは、検証されることのない多くの仮定に基づいて、この世界最強の国家における道徳的な衰退を非難する。「われわれは21世紀もアメリカの世紀であると信じている。」 オバマはそう断定した。黒人たちが銃殺され、ラストベルトには白人のプロレタリアートが苦しんでいるにもかかわらず、この上昇志向の物語には彼らの絶望は関係ない。

かつてこの西側文明の批判者たちは、Erich Fromm, Herbert Marcuse, Hannah Arendt, Dwight MacDonald and Richard Hofstadterなど、根本的な変革、伝統的な信念、その他の倫理規範から切り離された諸個人が、プロパガンダや娯楽を提供することで操作される傾向を懸念していた。高度に合理化された社会、利潤と消費に没頭した、人間的な自由を追求する社会とは、新しい脅威なのだ。

20世紀半ばの多くの思想家たちにとって、国民のイデオロギーや制度への信頼が失われたヨーロッパに起こった、ニヒリズムは、アメリカにも現れる可能性があった。

1980年代になって、レーガンとレーガン崇拝者たちは、「国民的な衰退」という考えを一掃した。共産主義の崩壊がアメリカ・モデルを輝かせたようだった。共産主義後のロシアは、アメリカ人のエコノミスト、テクノクラート、ジャーナリストの軍団を受け入れた。彼らはロシアをアメリカ型の民主主義と自由市場に改造する気だった。

こうした「市場ボルシェビキたち」、とスティグリッツは呼んだ、がどれほど破壊的であったか、余りにも容易に忘れられてしまった。彼らが現代の最初の重要なデマゴーグを生み出したのだ。ウラジミール・V・プーチンだ。彼が1990年代後半に権力を握ったのは、民営化と規制緩和の実験が所得や健康状態を破滅させ、失業率と死亡率を上昇させた後だった。プーチンは、それらを一掃してやる、と約束したのだ。

エリートたちのネットワークが、すなわち、ネオリベラルのグローバリゼーション礼賛者、リベラルな国際主義者、新保守主義のインテリたちが、いかに重大な影響を政治家たちに及ぼしていたか、すでに明らかになっている。その後の大失敗、アルカイダ、イスラム国、規制されない金融資本主義、銀行救済、これらが示すのは、彼らがあまりにも浸透しているから排除できないか、余りにも傲慢であるために間違いから学ばないか、である。

プーチンの辛辣なロシア的ナショナリズムは、われわれの時代の憤懣を早期に示すものだった。デマゴーグが有効であるのは、取り残された者、だまされた者、民営化のグローバルな体制によって方向を見失い、侮辱された者たちに対してである。

継続的な、後戻りしえない進歩、という考えに対する信仰が、分散したアメリカ社会を紛争から救い、他国に見られるような大衆操作からも免れた、と言われる。しかし、それも人々がその信仰を持つ間だけである。彼らは政治家に騙され、専門家たち、テクノクラートたち、ジャーナリストたちの示す真実や主張を嫌うようになった。グローバリゼーションですべての船が浮揚する。市場は自由で公平である。ショックセラピーがロシアに資本主義をもたらす。衝撃と恐怖によりイラクで民主主義が生まれる。これらは、全て、嘘であった。

嘘にまみれた近代化の歴史を再開するなら、アメリカは最悪の狡猾な思想に向かう。ニヒリズムだ。

FT May 3, 2017

Donald Trump’s pluto-populism laid bare

Martin Wolf

トランプ大統領の就任後100日が過ぎて、その良い面と悪い面がはっきりしてきた。どちらの意味でも、多くが予想した以上に、トランプはレーガン後の共和党正統派として統治する、ということだ。

アメリカのインフラを再建するという考えは色あせ、保護貿易主義も中途半端、しかし、規制緩和と税制改革は今も目指している。ただし、財源を示さない大盤振る舞いと赤字を消滅させる魔術的な発想だ。それはレーガンによく似ているようだが、スタート地点がはるかに悪い。

スケッチとしか言いようのない1ページの文書で過激な税制改革を提案する政権など、トランプの他にはないだろう。アメリカの政策実行能力に対する評価を著しく損なわないとしたら、これは笑い話であろう。そこには大統領候補であったトランプの発想と似たものが並ぶ。

提案された減税によって、2020年代に構造的な財政赤字はGDP8%を超えるだろう。それは債務が爆発的に増えることを意味する。これは許してはならないことだ。今、アメリカの公的債務はGDP80%以上ある。それは金融危機前に45%であったし、レーガン就任時にはもっと低かった。それにもかかわらず、失業率が45%に低下しているとき、この財政刺激策は一時的な措置でもないという。間違った時期の、間違った減税だ。

減税で経済活動を刺激するから財源は得られる、という擁護論者の願いは、まずかないそうにない。マヌーチン財務長官は、他の政策と合わせて、長期の経済成長率を現在の2%足らずから3%に上げる、とさえ言う。それはさらに起きないだろう。大幅な生産性の上昇を、単に、仮定しているだけである。

唯一の解決策は支出削減だろう。しかし、連邦政府の支出の90%が、防衛、医療、所得保障、退役軍人年金、など、削れない支出ばかりだ。もし他の項目で減税額と同じだけ削れば、それらは消滅してしまう。

減税案は驚くほど逆進的である。最上位の所得層0.1%が、減税によって、課税後所得の14.2%を得る。他方、中産階級の減税率は平均で1.8%でしかない。これがトランプ・ドクトリンだ。旧式の共和党型トリクル・ダウンである。

レーガン後の共和党は、文化的な論争を煽って支持層を広げ、上位1%のための政策を実現している。「大富豪のためのポピュリズム」“pluto-populism” これは政治的には非常に効果的であるが、支持者をますます憤慨させ、絶望させることで機能する。これは政治的に危険なゲームである。トランプの後、どうなるのか?


 マクロンとル・ペン

NYT APRIL 29, 2017

Is There a Case for Le Pen?

Ross Douthat

フランスの有権者たちは、ル・ペンではなく、マクロンを選ぶだろう。しかし、マクロンは失敗したコンセンサスの若造だ。その選択は理解できるが、こうした試みは何度やっても失敗する。

ル・ペンは、反ユダヤ主義を、反イスラムに置き換えただけだ、と言われる。しかし、その主張は正統派の政治家にも広がっている。

ユーロ圏のエリート官僚たちは、共通通貨や大量移民を受け入れ、統合化が進むよりも早く、フランス社会を破壊した。同じような問題がトランプを大統領にしたが、フランスではさらに深刻だ。アメリカにはユーロ危機も、ドイツ帝国主義も、移民の同化問題も、存在しない。

トランプは問題への過剰藩王であったが、ル・ペンはその通りである。移民を止めるほうがフランスは豊かになれる。EUの権力は庶民より金融界の利益を実現する。確かにル・ペンの経済政策は中途半端だが、ユーロがない方が、フランスもヨーロッパも暮らしやすいだろう。

Project Syndicate MAY 1, 2017

Lessons from the Anti-Globalists

JOSEPH E. STIGLITZ

ポピュリストの政策が失敗するとしても、職場を失った労働者たちが阻害され続けるなら、ポピュリストの政治への影響はなくならない。ポピュリストたちの保護主義や市場介入が成功しなくても、リベラルな市場経済が有権者たちに支持されるわけではない。

社会保障プログラムの強化、職業訓練、その他の、グローバリゼーションに取り残された個人やコミュニティーに対する支援、といった進歩的政策がなければ、トランプのような政治家は現れ続ける。しかし、われわれは忘れてはならない。啓蒙主義の時代に、われわれが科学や自由を受け入れる以前は、何世紀も所得と生活水準が停滞していたのだ。

スカンジナヴィア諸国は、ずっと前に、その教訓を学んでいた。北欧の小国にとって、市場の開放性は急速な成長と繁栄に欠かせないものだ。しかし、もし彼らが開放性と民主主義とを守ろうと思えば、市民たちの大きな部分が取り残されるようなことがあってはならない。

福祉国家は、スカンジナヴィア諸国の成功の一部になっている。持続的な繁栄とは、繁栄を共有することである。それがアメリカやヨーロッパが学ぶべき教訓だ。


 中国式統治

Project Syndicate APR 28, 2017

Learning from China’s Industrial Strategy

RICHARD KOZUL-WRIGHT and DANIEL POON

中国政府は、ダニ・ロドリクの指摘する「早期脱工業化」を回避するために、2015年、李克強首相が“China Manufacturing 2025” (CM2025)を提唱した。それは生産サービス、サービス指向の製造業、グリーン技術と、その補完分野に注目する産業育成策である。

CM2025は、旧式のトップダウン型重商主義に回帰するように見える。しかし、それは革新的な産業政策と金融政策を通じて実現される。特に、政府資金による誘導government guidance funds (GGFs)は重要である。新しい分野の、先進的な戦略投資を担っている。

FT May 4, 2017

China wields power with boycott diplomacy

Ben Bland, Tom Hancock and Bryan Harris

韓国政府のミサイル防衛システム導入に対して、中国は団体旅行者の行き先として韓国を禁止した。韓国のショッピング街などは、一夜にして中国人旅行客を失った。2010年、ノーベル平和賞をLiu Xiaoboに与えたことを処罰するため、中国政府はノルウェーの輸出額を78000万ドルから13億ドルも減少させた。2012年に、日本製品のボイコットを経験した日本企業はそれを忘れていない。中国の生産拠点や市場は気まぐれであり、より多くの東南アジアなど、友好的な諸国との取引を増やすようになった。

中国市場へのアクセスを政府が管理して、こうした措置が中国の重商主義的な外交手段となっている。


 AIと雇用問題

NYT APRIL 28, 2017

Meet the People Who Train the Robots (to Do Their Own Jobs)

By DAISUKE WAKABAYASHI

もしあなたの仕事が、仕事について知っているすべてのことをコンピューターに教えることであるとしたら、どう思うか? 今、いくつかの会社ではAIを職場に導入し、そのAIを人間以上にするために、訓練するよう従業員に求めている。

われわれは5人の人と話した。旅行代理店や、ロボット・エンジニア、カスタマー・サービス、脚本家、など。

旅行代理店では、AIのシステムを導入し、その「Harrison」がホテルを推薦したり、予約したりするようになるだろう。「彼」に仕事を教える女性は、自分の仕事を失うことになる。あるいは、企業は何がAIではなく人間だけにできる仕事か、議論している。彼女は、これが「競争」であると意識している。

FT May 2, 2017

Gap between gig economy’s winners and losers fuels populists

Rana Foroohar

テクノロジーは人間にパワーを与えるが、同時に、人間を奴隷にする。

ニューヨークのタクシー運転手は、Uber, Lyftなど、他にも無許可のタクシー会社と契約しているだろう。彼らは本質的に自営業者だが、コンピューター化されたアルゴリズムによって顧客と金を集める「価格破壊」の革新技術に負荷を課せられている。医療保険も、年金も、何もない。

他方には、フリーランスのコンサルタント業者がいる。彼もしくは彼女は、クライアント毎に、1日で1万ドルを請求する。クラウド・コンピューター、スマートフォン、ソーシャルネットワーク、ビデオ会議を利用し、いつでも、どこでも、働くことができる。6桁や7桁の給与を得て、年間数か月の休暇をリゾートや休暇用の別荘で過ごす。

運転手たちには新農奴制であるシステムが、フリーランスの高度専門職にとっては、少ない時間、フレキシブルな働き方で、ますます高額の報酬を得る仕組みになる。その差は技術との関係だ。

社会は分断化され、所得格差が拡大する。「勝者によるすべての収奪」が強められる。都市間でも、デジタル・アクセスの格差は拡大する。この分断を橋渡しし、緩和するための、政策や制度を整備しなければならない。それは持続的成長にも、政治的安定性にも、欠かせないものだ。

デジタル・エコノミーの利益は、広く共有されねばならない。


 メイの解散・総選挙

FT May 1, 2017

Brexit and the slide into nationalism

Gideon Rachman

先週、ヒースローの急行電車の中で、私はメイ首相のための演説原稿を書いた。それはBrexit交渉が回復不可能な形で決裂した後の演説だ。

首相官邸には、ユニオンジャックが見える。メイは国民にこう告げるだろう。我が国政府の顕著な努力にもかかわらず、UKEUとは合意に達することができなかった、と。彼女は、この国がこれから直面する困難な事態を警告する。長期にわたって、貿易や渡航が難しくなるだろう。深刻な不況も起きるだろう。イギリスはEU離脱を民主的に決めた。しかし、EUはその決定を進んで受け入れることなく、公平な取引にも応じない。それどころか、彼らはイギリスを処罰すると決めたのだ。

そしてここでチャーチルの名演説が再現される。彼女は声を落とし、真正面からカメラを見つめて言うだろう。ヨーロッパの政治家たちはイギリスをへこませ、自分たちの意思に従わせることができる、と信じているのだ。彼らはこの国の歴史も、このイギリス人民の性格も知らないのだ。イギリスは、ヒトラーも、ドイツ皇帝も、ナポレオンも、スペイン無敵艦隊も、敗退させた国である。ブリュッセルの官僚など恐れないし、マルタやスロヴァキアの政府も怖くない。シェイクスピアから短く引用して、国民の団結を訴え、演説を終える。

私は、こうした演説を、電車の中の短い時間で書けたことにショックを受けた。これは単なる暇つぶしの幻想である。しかし、交渉がナショナリズムと対立に向かう危険は本物だ。


 NAFTA再交渉

FP MAY 4, 2017

Trump’s Steel Tariffs Are a Surefire Way to Hurt the Rust Belt

BY JESSICA HOLZER

トランプ大統領は、ブルーカラーの雇用を取り戻すと約束して、選挙に勝利した。しかし、彼の鉄鋼産業に対する保護措置は、その雇用を破壊するだろう。

アメリカには、鉄鋼労働者1人に対して、60人の鉄鋼を利用する産業の労働者がいる。

鉄鋼製品に関税を課すと、その国内価格が上昇し、鉄鋼価格の上昇は、たとえば、パイプライン建設プロジェクトの遅れや、計画見直しにつながるだろう。自動車産業や設備機械生産など、鉄鋼を利用する産業は縮小する。


 トランプの外交政策

FP MAY 2, 2017

Trump Needs to Get Schooled on Commander-in-Chief Skills

BY JANINE DAVIDSON, LOREN DEJONGE

全ての大統領が任期の最初に、指揮官としての役割、その重圧と規模に驚く。ジョン・F・ケネディ大統領は、「アメリカに負わされた責任は、私が想像した以上であった。良い結果をもたらすためにわれわれの能力には限界があることも想像した以上であった。」 だから学習曲線の傾斜は急である。大統領の優劣は、このことを学ぶ速さ、自分と政府が破滅的に圧倒されないよう、修正する手際にかかっている。

トランプは、大統領の負担を減らそうとしてきた。しかし彼は、重要な、直観に反するが、有益な摩擦から、自分を孤立させてしまう。James Mattis国防長官の常套句では「では、どうしましょうか?」である。戦略に関する議論もせずに、軍事的オプションを使うことになる。トランプは、シチュエーション・ルームでの長い議論より、感情や逸話により見解を修正することが好きだ。そして、軍人を信頼している。

以前の多くの政権が、安全保障政策を、ますます戦略的ではなく、事態に即応するものとして決めるようになった。世界中の危機に軍隊は素早く対応し、速やかに勝利することが指導者を喜ばせた。ほとんどの大統領たちは国内の政策課題によって選出されるのであり、安全保障の立場は重要でない。しかし彼らはすぐに理解する。議会での論争や妥協を要する国内政策決定に比べて、指揮官として、大統領は大きな自由を行使できる。その自由には大きな政治的、道義的責任が求められ、世界におけるアメリカの役割に関する大統領の明確な考えが必要なのだ、ということを。

たとえば、化学兵器で子供を殺したシリアのアサド大統領に対するトランプの感情的な反応は、以前の非介入姿勢を完全に逆転するもので、公式声明も一貫性を欠いた。59発のトマホーク・ミサイルは、シリアにおける目標にどのような形で貢献するのか? また、トランプの好戦的な発言と軍事的エスカレーションは、イランでも、アフガニスタン、イラク、北朝鮮でも、顕著である。そのマイナスの影響について、彼は説明する責任を感じていない。同盟諸国にも、議会にも、アメリカ国民にも、説明しない。

こうしたアプローチは転換しなければならない。戦略を示し、アメリカの役割に関する彼の哲学と、スタッフたちとの信頼関係を築くことだ。そうすれば、大統領は権限を委譲し、部下たちの行動について明確な説明や、さまざまな事態に対する修正を行える。指揮官としての役割を楽しめるだろう。

FP MAY 3, 2017

This Isn’t Realpolitik. This Is Amateur Hour.

BY STEPHEN M. WALT

観る人によっては、ドナルド・トランプがフィリピンのドゥアルテ大統領をホワイトハウスに招待したことは、古典的な硬派のリアルポリティクスだろう。ドゥアルテが麻薬撲滅キャンペーンで殺人を奨励し、容疑者を個人的に殺害したことを自慢しても、他の疑わしい主張を表明しても、そんなことは気にせず、人権活動家ではないのだから、重要なアジアの同盟国として、その指導者を扱うわけだ。

しかし、こんなものは真実からほど遠い。

リアリストにとって、アメリカの安全保障に基軸となるのは、西半球の支配を維持し、かつ、いかなる競争相手にも、ヨーロッパやアジアの死活的な権力中枢を押さえないよう、あるいは、ペルシャ湾の重要エネルギー資源の支配権を握らないように、そのような事態を阻むということだ。現代世界でアメリカになりうる唯一の国は、中国である。

アジアにおけるリアリストのアプローチとは、中国を詳しく監視し、アジアのパートナー諸国とバランスを取るようにしておくことだ。アメリカは、一貫性、慎重な判断、スマートな外交を駆使し、それとともに、(アジアにおいて)信頼できる軍事力を維持しなければならない。その点で、トランプのやり方は、いずれもお粗末な失敗であった。

台湾、オーストラリア、韓国、北朝鮮、そして、中国との首脳会談。トランプの外交とは、ドタバタ喜劇、笑い話、そんな程度であるが、アメリカにとって破滅的である。


 ヴェネズエラの崩壊

FP MAY 2, 2017

Venezuela Is Heading for a Soviet-Style Collapse

BY ANDERS ASLUND

ヴェネズエラは破滅的な経済危機に陥った最初の国ではない。しかし、莫大な石油資源を持つ点で、ソ連の崩壊と似ている。

エネルギー価格は、ほぼ四半世紀ごとに上昇と下落を繰り返す。まだ10年は低価格が続きそうだ。同じような経済的打撃がソ連を襲ったのは1980年代だった。改革を推進したガイダルYegor Gaidarによれば、ソ連の政策担当者たちは、水の上を歩けると思っていた。経済の重力は自分たちに適用できないと信じていたのだ。

同じことが、現在のヴェネズエラの指導者、マドゥロNicolás Maduroにも言える。大規模に価格を管理し、肉やパンのような食糧の価格を下げておくために、多額の補助金を与えた。彼らには、ソ連の支配者と同様に、石油収入があったので、これが可能だと考えた。

しかし2014年半ばから、石油価格は半分を少し超えるところまで下落した。ソ連でも、財政赤字が急激に増大していた。1986年にはGDP6%を超えたが、1991年にGDP3分の1に達した。ヴェネズエラもそれを追っている。輸入するために外貨準備が枯渇すると、政府は貨幣を印刷して財政赤字を支払った。それは必然的に、ハイパーインフレーションになった。

すでにマドゥロの財政・金融政策は失敗を重ね、インフレ率が700%に達したようだ。月50%のハイパーインフレーションに向かっている。Steve Hankeによれば、世界でこの定義に当てはまるケースは56しかないが、その半分が共産主義崩壊のときに起きた(ソ連が分裂してできた15の共和国がすべて含まれる)。

ハイパーインフレーションは深刻な道徳的退廃を生じる。突然、働くことが無意味になるのだ。火星で得たお金を持って食料の列に並ぶより、働くことをやめる。そして投機によって儲けることを考え、商品や不動産という安全な資産を買う。その結果、生産量が急減し、金融が安定するまで、悪循環に沈む。

公式の為替レートを過大評価して、政府は国民が豊かであるような錯覚を与えた。ソ連ではルーブルが闇市場の5倍の価値で示された。その意味は、外貨を買うために政府が補助金を与えた、ということだ。199112月にソ連が崩壊したとき、ロシアの平均的な給与は、月にわずか6ドルであった。ヴェネズエラもそうなるだろう。

同じく、ソ連は対外債務が膨張した。ヴェネズエラの債務は多くを中国に負うものだ。貧困を否定する政府は、ソ連でもヴェネズエラでも、可能な限り債務を増やして、それが得られないとき、デフォルトになった。金融危機は悪化し続ける。経済改革は、マドゥロがこれまでの政策の間違いを認めることを意味し、人々が政権を倒すことに向かうからだ。

それを回避するには、大衆的な不満の高まりがマドゥロの体制を先制的に破棄し、あるいは、マドゥロが亡命することだろう。あるいは、外貨準備を失い、デフォルトになったとき、輸入の途絶と通貨ボリバルの価値が急落するだろう。体制の崩壊は避けられない。

必要な経済の調整には、国民生活の窮乏化が避けられない。新政権は、深刻な経済危機の中で、可能な選択肢が限られる。財政赤字をなくすために補助金を廃止するしかない。為替レートも、市場が均衡する水準において単一化する。マクロ経済の改革に合意することで、IMFが外貨準備と市場の信認回復に協力できる。

かつて、ソ連の崩壊後、ロシアは予算の均衡化に、あまりにも長い期間、7年もかかった。国際社会はその負担を緩和する支援策に失敗し、彼らの政治を西側に敵対するものへ向かわせた。ヴェネズエラが改革を進めるときは、その初期に、劇的かつ迅速な金融支援を行うべきだろう。

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The Economist April 22nd 2017

Handle with extreme care

Islam in Indonesia: The rise of intolerance

Britain’s election: Game change

The French election: La lute

North Korea: Strategic confusion

Asian Geopolitics: Disorder under heaven

McJobs: The tempest

A snap election: Back into battle

Bagehot: Theresa May, Tory of Tories

(コメント) 北朝鮮危機も,米中合作(G2秩序)も,フランスの選挙も,興味深い内容です.しかし,私が強い関心を持った記事は,イギリスの政治でした.Brexitを生んだEUとの関係,イギリス政治自体の分裂状態,孤立を美化する強硬派に手を焼き,左派強硬派に振り回される労働党から離反する支持者を奪い取って,何よりメイにはナショナリズムを利用する条件があります.

もう1つの重要な記事は,マック・ジョブに苦しむ南欧諸国の若者たちです.

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IPEの想像力 5/8/2017

フランスの大統領選挙より,イギリスの解散・総選挙に,日本との類似性を感じます.しかし,いつの時代もそうなのでしょうか? 政治は怪異に満ちています.

コニーFBI長官が解任された,というニュースに驚きました.トランプ政権というのは何だ? という不気味な感覚がよみがえります.中国と協力して,北朝鮮の核兵器を,そして,朝鮮半島を解決に導くかもしれない,という希望が一瞬で悪夢に変わりました.ヒラリー・クリントンのメール問題,フリンやクシュナー,トランプとロシアとの関係,どちらも政治からの独立性を,捜査当局は明確にしなければならないときです.

日本でも,共謀罪に関する事前の捜査や情報収集とは何か,国会が紛糾しています.だれのメールや電話も盗聴されるということか? それは誰が,どのようにして,認めたり,検証したり,するのか? 諜報機関による政治への介入,無関係な市民への嫌疑と告発,政治的意見の表明や集会の妨害,あるいは,それを恐れた野党や反政府活動,政治・公共政策に関する研究への影響.・・・

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2012年末に,安倍首相が2度目の権力掌握に成功したのは,中国の脅威があったからだ,と言ってもいいでしょう.北朝鮮の核実験やミサイル発射,韓国の慰安婦像,尖閣諸島,竹島,北方領土問題,これらは戦後日本の政治的な負債でしたが,安倍政権にとっては権力の長期安定化に貢献した最重要な資産でした.

安倍首相が,国会の答弁で過度の余裕を示し,答えるとか,質問をかわすというより,不満なら聞かなくてもいい,自分たちで正しいことをやるから,と,あしらう姿勢を示すようになったのは,エルドアンやプーチンに似た権力者のイメージに染まりつつあると思います.Brexitやトランプの登場が,こうした形で,日本にも影響しているのです.

イギリスとの類似性に興味を持ちました.メイは,EU離脱のための交渉において,多数の議席を,自分の指導下における選挙で獲得することが,交渉に柔軟性と決断力をもたらす,と考えたようです.それは,何よりも,野党である労働党のコービン党首が不人気であるからです.

保守党の切り札は,一方で,EUとの対立をあおるナショナリズムと「国民の団結」,さまざまな神話であり,他方では,野党の党首に対する攻撃,その時代錯誤の左派思想,極端な経歴,愚劣な政治気質に関する豊富な資料です.選挙がなければ,労働党の分裂や議会におけるコービンの混乱した姿勢は,攻撃するより,むしろ放置し,温存して弱らせたわけです.

同様に,中国の指導部は,極右の安倍政権が短期で失敗する,と考えたかもしれません.The Economist April 22nd 2017の特集記事は,アジアの地政学,です.中国が周辺地域の紛争を自国の軍事力や貿易・投資の影響圏によって解決し,一定の秩序において統一しようとするのは,アメリカと何も変わりません.国際政治,というものが生み出す,合理的でも,民主的でもない,暴力的な側面です.

FTのコラムニストGideon Rachmanが,EU離脱交渉決裂後の,メイ首相の演説を作文しました.それを少し変えるだけで,安倍首相の演説ができます.憲法改正に向けて,彼の政治的な基盤を強化する,すなわち,中国や韓国との領土・安全保障・経済交渉を非難し,ナショナリズムを刺激するものです.

・・・安倍は、日本がこれから直面する困難な事態を警告する。「長期にわたって、貿易や渡航が難しくなるだろう。深刻な不況も起きるだろう。日本国民は私を民主的に首相と決めた。しかし、中国や韓国は,その決定を進んで受け入れることなく、公平な合意にも従わない。それどころか、彼らは日本を処罰すると決めたのだ。」

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衝撃に応じて,制度は怪異を呼び,政治を歪めます.

この社会を,共通して担う人々が,市民として発言し,その社会的統合がもたらす成果,地位の変化,パワーの配分の,何が正しく,何は不正であるかを決める,それが政治です.民主的な政治の文化,が損なわれていると思います.社会制度を通じて,人々の満足できる合意をもたらす集団的な能力が,各地で問われています.

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