IPEの果樹園2017

今週のReview

5/1-6

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北朝鮮危機とアジア外交 ・・・アメリカ予算案と財政政策 ・・・世界景気回復は続くか? ・・・フランス大統領選挙が示すもの ・・・ドイツの政治文化 ・・・イギリス総選挙に向けて ・・・国際通貨制度の模索 ・・・NAFTAと貿易赤字 ・・・トランプ外交と世界

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


 北朝鮮危機とアジア外交

FP APRIL 24, 2017

Could Playing Chicken With North Korea Pay Off?

BY JON WOLFSTHAL

アメリカ政府からますます強い声明が発表される中で、朝鮮半島における戦争の懸念が世界中で高まっている。しかし、それは他方で、外交的な解決の種もまかれている、ということである。もしトランプ政権が、その機会をつかむほど思慮深く、規律を持った姿勢を示すとしたら。また、ホワイトハウスの暴言が計算されたものであるなら。

北朝鮮も、中国も、このゲームを計算して進めてきた。北朝鮮は核兵器を開発し続けたし、中国の制裁はそれほど強化されなかった。軍事行動と体制崩壊のもたらす被害は大きすぎるからだ。何が変わったのか? 金正恩は、その父より開発を進めてしまった。そこへトランプの好戦的なTweetが流布され、ティラーソンの混乱した声明が出ている。北京やソウル、そして、ピョンヤンの人々は、アメリカ政府が先制攻撃を行うほど理性を失った者たちだ、と思うかもしれない。

この非理性的な言動は、成果をもたらすかもしれない。典型的なチキン・ゲームである。金正恩は、トランプがどこまで行くのか不安を感じているだろう。トランプがもたらす体制崩壊の危機は、外交的な解決への道である。

チキン・ゲームで、非合理的なプレーヤーが勝つには、合理的でなければならない。トランプ・チームは国内政治で成果を上げられず、外交においても十分なスタッフがいないかもしれない。政策を動かすには多くの分野の協力が必要になる。

もしまだ決めていないのであれば、今こそ政府は決断しなければならない。北朝鮮と交渉するのか? その場合、その最終目標は何か? 非核化に向けた一時的凍結を受け入れるのか? 凍結する場合、どのように検証するのか? 何を許すのか? どの程度まで核能力を残すのか? その場合、韓国の不安と核保有の主張をどうするのか? 南北が核武装するのか? 朝鮮半島はどうなるのか?

オバマ政権も、同じように、これらの非常に困難な問題を検討し続けた。アメリカが失敗した場合はどうなるのか? また、成功した場合はどうなるのか? トランプ政権も同じ位置に着くのだろう。

SPIEGEL ONLINE 04/26/2017

Deadly Game

Donald Trump and Kim Jong Un Risk Nuclear War

By Mathieu von Rohr, Christoph Scheuermann, Wieland Wagner and Bernhard Zand

金正恩とトランプの間のエスカレーションが軍事的な衝突の末に、数百万人の死傷者をもたらす核戦争、シリアを超える国際紛争と難民危機も、起こりかねない。

トランプには3つの軍事的選択肢がある。1.核ミサイル基地への攻撃。しかし、すべての発射台を確認できない。2.核施設に対する予防的な攻撃。しかし、報復のリスクがある。3.韓国から軍事侵攻する。核や化学兵器による報復のリスクがある。

そのため前任者たちは軍事的解決策を排除した。オバマはサイバー攻撃の準備を命じた。しかし、北朝鮮の軍はまだそれほどネットワークに依存していない。トランプは軍事力行使への誘惑を隠さないが、就任後は外交のむつかしさを認めるようになった。習近平との会談では、選挙中の約束に反して、中国を非難せず、むしろ北朝鮮問題での協力を求めた。

ただし、北朝鮮が中国からの経済制裁で態度を変えることはないだろう。国内の深刻な飢饉でも、軍事力強化・核開発の最優先順位は変えなかった。金正恩は国内権力を強化するために、前例のないほど残酷な処刑を側近・親族に対して行ってきた。他方で、経済の開放政策は慎重に進めて外貨を得ている。

日本政府は安倍首相の下で、この危機に、特別な機会を観ているだろう。安倍はすでにトランプと2度会っており、信頼を得ている。ナショナリストとして、憲法改正の強い願いを持っており、この危機は自衛隊の活動範囲や防衛費の上限を変更する機会になる。

20年前なら軍事攻撃は可能であったかもしれない。1994年、最初の核危機の際に、米韓の司令部が詳しくシミュレーションした結果、最初の数か月間で、韓国側49万人、アメリカ側52000人の戦死者を出す、と予想された。その結果、軍事的選択肢は排除されたのだ。

すでに北朝鮮は20の核弾頭を持っていると推定される。東アジアの軍事バランスは変わったのだ。軍事的な解決策は存在しない。

トランプの可能な選択は交渉を指導することだ。トランプは、常に、自分が交渉の天才であると自慢している。クシュナーをピョンヤンに派遣し、交渉について真剣な姿勢を示すだろう。金正恩も交渉に関心があるはずだ。中国を仲介として、核開発計画の凍結を約束するだろう。その結果、金正恩はいくつかの核を保有し続けるかもしれない。

ただし、それは軍事衝突が抑えられ、トランプと金正恩が過剰な反応を示さず、交渉が成功する、と仮定した場合だ。世界中の政治家が懸念する、不安定で、衝動的で、予測不可能なトランプの性格が、有利に働くかもしれない。


 アメリカ予算案と財政政策

NYT APRIL 21, 2017

How Best to Tax Business

By N. GREGORY MANKIW

議会では、共和党も改革案を示すだろう。改革案はどのような問題に答えるべきか?

1.世界と領土。ほとんどの国は、その国境内の経済活動に課税する。そのようなシステムを領土的と呼ぶ。他方、アメリカは、アメリカに本社を置く企業に対して、世界全体の経済活動に課税する。その企業が海外で生産し、海外で販売しても、財務省はその企業がアメリカに送った利潤の一部を税として徴収する。

議会の改革案は、アメリカの税制を国際的な基準に変えるだろう。その方がアメリカ企業は平坦な競争場で外国企業と闘える。

2.所得と消費。エコノミストの多くは、所得よりも消費に課税すべきだ、と考える。消費税は貯蓄や投資を損なうことが少ない。それゆえ成長に好ましい。生産する者の価値より、人々が享受する生活水準に課税する方が公平だ。

3.源泉と行き先。法人税は、その財がどこに向かうとしても、その財の源泉企業に生じた利潤に課税する。改革案は、どこで生産されたかに関係なく、アメリカで消費された財に対して課税する。行き先に対する課税は、輸入に課税し、輸出は税を返還される。それは国境調整ともいわれる。こうした税制はヨーロッパの付加価値税に似ている。

それが貿易に及ぼす効果を主張する者もいるが、為替レートに影響することで、貿易収支は変化しないだろう。むしろ、行き先で課税する方が、源泉国を決めるより、消費国を決めるほうが容易である、という利点がある。世界各地の部品を利用する多国籍企業の世界では、移転価格のような問題が生じる。行き先で、消費国が課税する方が、そのような問題を生じにくい。

4.債務と株式。企業は債券保有者への支払いに対して税を返還されないが、株式保有者への配当については税を返還される。このため企業は株式発行よりも債務を増やすことを好む。それは企業を金融的に観て脆弱にする。

改革案は、この非対照的な扱いをなくすため、キャッシュフローに対して課税する。収入から、賃金支払いと投資支出を引いた額が、課税対象になる。正しい改革であるが、さまざまな反対意見もある。

大規模な税制改革には、勝者と敗者が出る。しかし重要なことは、アメリカ全体にとって良いかどうかであり、特殊利益集団のために反対してはならない。

FT April 27, 2017

Donald Trump is undermining his Treasury secretary

Larry Summers blog

トランプ大統領の税制改革案をマヌーチンSteven Mnuchin財務長官とコーンGary Cohn国家経済会議委員長が示した。予算の長期的健全さ、公平さ、経済的影響の観点から、私は非常に間違った内容であると思う。

私はマヌーチンに同情する。閣僚たちにとって最悪の瞬間は、大統領がその官庁の真剣な取り組みに敬意を示さないとき、政治情勢によって自分の以前の主張を否定しなければならないとき、忠誠心を示すために愚劣な提案を支持する必要があるとき、である。

大統領が、先週の金曜日、財務省から木曜日に改革案を示す、と述べたとき、財務省職員たちは衝撃を受けただろう。提案を具体化する時間がない。そのメリットを検討するにも、歳入への影響をシミュレーションするにも、経済的効果を推定するにも、それどころではないのだ。細部を飛ばして、マヌーチンは1枚の要旨を示すことにした。

それは選挙キャンペーンで約束したことに反している。金持ちのためではない、というのは逆転する。減税それ自体が成長に好ましい、というのも、有名なラッファー・カーブの再現だ。共和党政権が繰り返し述べてきた愚論である。

財務省の信頼を損なうことは、最も重要な国家資産を失うことである。


 世界景気回復は続くか?

Project Syndicate APR 26, 2017

A World Turned Inside Out

STEPHEN S. ROACH

世界経済は回復し、正常に戻ったのか? 「ニュー・ノーマル」という言葉がはやっているが、世界経済に起きた驚くべき構造転換を見逃してはならない。

最近の回復は先進経済に集中している。対照的に、発展途上世界ではもっと高い成長率を実現している。以前に比べて半減したとはいえ、2017-18年で平均4.6%の成長率である。その中で強い経済China (6.4%) and India (7.5%)と弱い経済Latin America (1.5%) and Russia (1.4%)には差が生じている。

開発地域と発展途上地域との成長率の乖離は決定的な水準に至った。1980年から2007年までに、先進経済が世界GDPに占める割合は59%から41%に減少したのだ。2018年、IMFの最新の予測で、この逆転は明らかだ。先進経済が41%、途上諸国が59%である。

これはマクロ経済に3つの重要な問題を提起する。

1.金融政策の役割をどう見るか? 先進経済の異常な金融緩和は、その効果が弱く、弊害が顕著である。

2.発展途上世界が先進経済に依存してきた長期の傾向は失われたか? 先進経済の成長も、世界貿易の拡大も弱まった。

3.世界経済における中国の重要な役割は弱まるか? グローバル・サプライ。チェーンの構築を通じた中国の輸出志向型成長は弱まり、急速に内需型に転換しつつある。

金融政策についても、開発戦略についても、中国の役割についても、世界は逆転したのだ。新しいダイナミズムは発展途上世界にある。


 フランス大統領選挙が示すもの

Project Syndicate APR 24, 2017

Macron’s Mission

HAROLD JAMES

ル・ペンは、「野蛮なグローバリゼーション」に抵抗する国民の繭a national cocoonでフランスを守る、という。マクロンは、ノスタルジアと孤立を求める有権者たちにアピールしなければならない。

反ドイツ感情、反メルケルが刺激される。ユーロ危機が、奴隷にされた債務国にも、貯蓄を人質に取られた債権国にも、罠に落ちた、という感覚を生じている。

ヨーロッパを魅力的なアピールにするものは何か? 1950年代、統合を支持したドイツのKonrad Adenauer首相、フランスのCharles de Gaulle大統領、2人の老政治家たちは、自国の栄光を取り戻すためにヨーロッパを唱えた。ドイツはナチズムによって破滅し、フランスは軍事的敗北の後、共和制を放棄した。彼らは自国を破滅させたエリートたちに反対し、その支配から逃れる道を、ヨーロッパ統合に見たのだ。「フランスとドイツの和解、それのみがドイツをデカダンスから救済する」と、ド・ゴールは述べた。

独仏は、ヨーロッパの社会市場モデルによって、新しい雇用を生み出さねばならない。そして、安全保障においても統合することだ。

NYT APRIL 27, 2017

How Macron Would Fix the French Economy

Ruchir Sharma

ル・ペンはEU離脱と移民排斥を唱えた。しかしマクロンは、フランスの困難を外部(EU官僚や移民)のせいにしなかった。それはフランスの「動脈硬化症」であり、持続不可能な福祉国家のせいである。最も注目すべきは、ル・ペンが福祉国家の拡大を求めたことに対して、マクロンはこの世界最速で拡大する福祉国家の規模削減を主張していることだ。

債務危機の後、スペイン、ポルトガル、イタリアは債務の削減を目指し、競争力の改善、労働コスト引き下げを勧めた。しかし、フランスは逆方向を向いている。マクロンは改革派官僚や都市若者層の強い支持を受けている。彼が批判するのは、ルールによって保護された公務員・組合員、システムの「インサイダーたち」である。


 ドイツの政治文化

FT April 23, 2017

German surplus hands eurozone dilemma to France

Wolfgang Münchau

この23か月以内に、トランプ大統領とフランスの新大統領は、経済外交における1つの重要問題に直面するだろう。それは、ドイツの経常収支黒字をどうするか、という問題だ。昨年は、GDP8.6%に達した。その規模と持続性は、世界経済にとっても、ユーロ圏にとっても、不均衡の最大の原因となっている。

フランスの次期大統領は、ドイツにユーロ圏が人々の支持を失っていること、特に、フランス国民が支持しなくなっていることを警告するべきだ。ユーロ危機はドイツにとっても重大な影響を及ぼす。それでもドイツ首相が黒字を解消しないなら、アメリカとの戦略的な連携によって、ドイツに行動を求めるのが良い。

トランプは、一方的な貿易制裁で脅すより、フランスと連携してドイツを動かすべきだろう。


 イギリス総選挙に向けて

The Guardian, Monday 24 April 2017

The way to fight the Tories in June’s election is to turn Brexit against them

Tony Blair

Brexitがこの選挙を特別なものにしている。保守党はそれが有利に働くと考えているが、彼らに不利なことを示せるだろう。

私は戦術的な投票を呼び掛けたことはない。私は人々が十分に情報を得たうえで投票するべきだと主張する。有権者は、候補者がBrexitに関してどのような立場をとっているか、明確に、知っておくべきだ。保守党か、自民党か、労働党か、ということより、「いかなる犠牲を払ってもBrexit」という立場に、政党を超えて反対する選挙運動が必要だ。

Brexitだけが争点ではない、国民医療保険や学校の削減に関して、労働党への支持を求めるべきだ、と従来の考え方なら主張するだろう。しかし、それは失敗する。

本質において、保守党は、この選挙を「Brexit交渉に向かう首相により強い権力を与えてほしい」という形で示し、保守党を支持することが国益である、と主張している。

労働党がその戦略を打破するに、保守党の求める強い権力は、国益ではなく、保守党の右派が信奉するイデオロギーのために、「いかなる犠牲を払ってもBrexit」へと導くものだ、と示すことだ。しかも、これは労働党の狭い利益としてではない。人々は、合理的で、広範な、政党による分断を超えた立場を求めている。


 国際通貨制度の模索

Project Syndicate APR 24, 2017

New Life for the SDR?

MOHAMED A. EL-ERIAN

反グローバリゼーションと保護主義の高まりは、IMFを築いた人々が第2次世界大戦後に回避したいと強く願った、「近隣窮乏化」に向かう各国の政策である。

50年前、同様の考察がIMFSDR導入をもたらした。国際通貨制度の安定性に関する関心が再び高まる中で、多角的な国際協調を刺激する効果的な手段としてSDRを活用できないだろうか?

SDRの起源は、1国の通貨が、世界の準備通貨としての信認を維持し、グローバルな流動性を供給するというジレンマを、IMFが管理する国際通貨を発行することで解消する、ということだった。しかし、国によっては国際機関に対する政治的反感があり、また法的な、また、実際的な障害から、SDRの利用が妨げられている。真にグローバルな通貨として、世界経済の成長に向けた国際政策協調を促すアンカーになる、というのは遠い理想である。

そのことが意味するのは、世界経済の潜在的な成長力と実際の成長とのかい離である。資産・負債の管理、流動性の調達、赤字国と黒字国の調整問題、において、SDRは国際通貨制度の強力な接着剤になっただろう。通貨保有を分散し、リスクに対する保険のコストは減少し、流動性供給が景気循環と一致する傾向は抑えられる。

SDRの役割を拡大するには、何ができるだろうか?

SDR利用の生態系を改善できる。人民元、ポンド、ユーロ、円、ドルの合成通貨として、SDRは好循環を利用できる。公的な準備資産、金融取引、計算単位として、SDRのグローバルな利用は有益である。しかし、先進諸国にも内向きの、ポピュリストやナショナリストが増えているから、ビッグバン的な拡大はむつかしい。IMF協定の見直しを含まない、漸進的な改革を目指すことだ。

すなわち、債券発行や取引にSDRを利用する。債券市場のインフラを整備する。評価方法を改善する。SDR建ローンと債券のイールド・カーブを開発する。

私は1980年代前半にIMFに参加したが、当時に比べて、IMFは民間組織との協力を重視するようになった。NGOs、ローカル・メディアや政治家の参加を歓迎している。それはIMFが効果的な助言を行い、融資計画が実行され、IMFの「サーベイランス」が成功するために不可欠である、と認められている。

それはIMFが超国家的な問題を解決する上でも必要な転換である。SDRの発行、市場整備、流動性において、政府・国際機関と民間とのパートナーシップが重要だ。開発政策と民間の商業活動とを結びつけることも容易ではない。IMFは、他の国際機関・地域機関、政府系信託、多国籍金融機関などと、小規模の協力から始めるべきだろう。


 NAFTAと貿易赤字

Project Syndicate APR 24, 2017

How to Renegotiate NAFTA

JEFFREY FRANKEL

成立後、23年を経た今なら、NAFTAを改善するために再交渉するべきだろう。1つは、適用範囲の拡大だ。労働者の権利保護も強化する。環境保護。特に、違法な伐採や絶滅危惧種の保護を紛争処理メカニズムに従わせる。他方、利潤を損なう恐れに対する企業の訴えには、その濫用を阻むべきだ。

最後に、NAFTAの加盟国を拡大する。南米の諸国や、アジア、太平洋にも加盟を希望する国はあるだろう。カナダは、アメリカよりも、さらに強く日本の市場自由化を豚肉・牛肉・木材について求めている。多くの国が参加することで、こうした問題が各国の輸出を伸ばす形で解決できる。

こうした再交渉が容易であるとは言わないが、可能である。実際、NAFTAを改善する最善の方法は、トランプが破棄したTPPの交渉で合意した内容に戻ることであろう。

Project Syndicate APR 25, 2017

Inconvenient Truths About the US Trade Deficit

MARTIN FELDSTEIN

アメリカは4500億ドル、GDP2.5%に及ぶ貿易赤字を出している。毎年生じる巨額の貿易赤字は何によって説明できるのか? それを減らすとしたら、われわれの生活水準はどうなるのか

貿易赤字を外国政府のせいにするのは簡単だが、それはアメリカ企業やその労働者を苦しめる。また、アメリカに輸出する外国企業に補助金を与える政府を責めるのも簡単だが、その企業に供給するアメリカ企業とその労働者を苦しめる。実際、外国政府の補助金は、全体としてアメリカ消費者の利益である。

外国の輸入障壁や輸出への補助金は、アメリカが巨額の貿易赤字を出す理由ではないのだ。その本当の理由は、アメリカが生産した以上に支出することである。貿易赤字は、アメリカの家計と企業が貯蓄と投資を決定した結果として生じている。外国政府の政策は、単にその赤字を貿易相手国の間で分割することに影響するだけだ。

だから、貿易赤字を減らすには、貯蓄を増やし、投資を減らせばよい。外国市場の開放や、アメリカ市場の閉鎖は、関係ない。

アメリカが30年以上も巨額の貿易赤字を続けているのは、それに見合う外国からの融資、アメリカの債券に対する購入、不動産、その他の資産に対する投資があったからだ。それがこのまま続く保証はないが、終わるという理由もない。

もし外国からのアメリカ資産に対する需要が減れば、資産の価格は下落し、金利が上昇するだろう。それは国内投資を減らし、貯蓄を増やす。こうして貿易赤字も減るのだ。貿易赤字は減るが、それはアメリカの消費を減らし、また、将来の消費のための投資を減らす。

アメリカの財・サービスが外国のものより魅力的であるために、ドルの価値も下落する。専門家たちの推定では、アメリカの貿易赤字の対GDP比率が1%減少するために、輸出価格が10%下落する、あるいは、輸入価格が10%上昇する必要がある。両方が合わせてGDP2%の貿易赤字を減らせば均衡に向かうが、それは平均実質所得を1.5%1.2%も減少させる。

貿易赤字を解消するため、GDP2.5%をその他の世界に移し、輸出入の価格変化で2.7%GDPを失うから、アメリカの実質所得は約5%減少するだろう。長期的にも、アメリカの工場や設備に対する投資が減ることで、成長率が低下し、将来の実質所得水準も低下する。

もし貿易赤字が、家計の貯蓄増や政府の財政赤字削減によって減少するなら、投資の水準はより高く、長期の所得水準も高くなる。

だからアメリカは貯蓄を増やすべきだ。他国を非難することは、それを変えるものではない。


 トランプ外交と世界

FP APRIL 26, 2017

The Worst Mistake of Trump’s First 100 Days

BY STEPHEN M. WALT

外交におけるトランプの最大の失敗は何か? 多くの候補があるだろう。マイケル・フリンのような人物を安全保障担当補佐官に指名した。ロシアとの混乱した関係を正常化できていない。それは地政学な観点で残念なことだ。アメリカはロシアと多くの問題で協力できる。重大な見解の相違を認めたうえで、規律ある、冷徹な判断が必要だ。

トランプによる最悪の外交はアジアにある。ヨーロッパは重要だが、その問題はもっぱら内的なもので、アメリカに対処できることはあまりない。中東の混乱状態も、アメリカは介入する必要がないし、解決策もわからず、時間と財源、兵士の命を無駄にしてはならない。

これに対して、アジアは違う。経済的な重要性は着実に増しており、その傾向が続く。また、中国は、長期的に、アメリカに挑戦する可能性がある唯一の国、潜在的な「地域的覇権国」である。もしこのまま中国の台頭が続き、アメリカをアジアから追い出すなら、アメリカが現在しているように、そのパワーを世界中で行使する自由を得るだろう。その人口規模、アメリカに並び、あるいは、それを超える経済規模を中国が持てば、西半球にも同盟関係を築き、アメリカの安全保障は脅かされる。

中国がアジアで支配的な勢力になるのを妨げるために、アメリカはアジア旋回を行った。オバマ政権のこの決断をアジアの同盟諸国は歓迎した。南シナ海における決意を示し、TPPを推進したのだ。しかし、アジアや東南アジアの中国との経済取引は増大しており、その意味で、強い軍事的プレゼンスだけで同盟関係を維持することは困難だ。アメリカはスマートな、高度に洗練された、十分な知識と情報に依拠する外交政策を必要としている。

ところが、トランプは無思慮な行動を取った。TPPを破棄し、「1つの中国」政策を否定するそぶりを示したが、何の準備もしない揺さぶりでしかなかった。米中首脳会談は成果がなく、北朝鮮問題の複雑さを理解するよう求められた。韓国はかつて中国の一部だった、という失言で、韓国外相から強い抗議を受けた。

その後、トランプは、予防的な先制攻撃を示唆して、北朝鮮危機をエスカレートさせた。正確さを欠く情報で、朝鮮半島海域に「無敵艦隊」を派遣した、と告げた。しかし実際は、艦隊が南に向かったことを訂正した。さらに、ペンス副大統領は南北分断線まで行って、自分の顔を観ればアメリカの決意がわかる、とばかりに挑発した。スーパーヒーローを気取った愚行である。

ここには2つの問題がある。第1に、トランプ政権が、就任第1日から、アジア外交については無知で無能である、ということを示していたことだ。多くの失策は同盟諸国に疑念を生んだはずだ。アメリカの関与は疑わしく、この政権には正しく判断する能力がない、と。

2に、アジアの同盟関係を維持することはむつかしい。なセなら彼らは、アメリカから放棄されることも、巻き込まれるリスクも、ともに恐れているからだ。アジア諸国は衝突を望まない。まして、戦争を望まない。地域の緊張を高める者には否定的に反応する。アメリカ外交は、やり過ぎてもいけないし、抑え過ぎてもいけない。十分な知識、規律、感受性が求められる。

国家安全保障顧問H.R. McMasterは、トランプ大統領に今こそ助言しなければならない。大統領と同じく、簡潔に。

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The Economist April 15th 2017

The slide into dictatorship

Rural education in China: Separate and unequal

Startups: Silicon pally

Turkey’s referendum: On the razor’s edge

Bullying in Japan: All against one

Banyan: trouble at the top

Education in the countryside: A class apart

Donald Trump’s foreign policy: On a whim and a prayer

Immigration: A portrait of Migrantland

Depopulation in Germany: Fading echoes

(コメント) イギリスで最も急速に移民が増えた町を集めて “Migrantland” と呼びます。その特徴や政治変化は何を意味するのか? また、ドイツでは、特に旧東ドイツで急速に人口減少し、若い労働者たちの流出が続いています。2つの記事を読んで、日本の政治家たちの考えを聴いてみたいです。

トルコの憲法改正、トランプのシリア爆撃、日本の天皇退位、それらが共有する世界を考えます。

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IPEの想像力 5/1/2017

NHKBS1「雇用は守れるか アメリカ ラストベルトの労働者たち」を観ました。

トランプは就任最初の日にTPPを離脱する大統領令に署名しました。製造業の労働者たちに、彼が約束した「雇用を守る」わけです。クリントン政権が1992年に締結(1994年に発足)したNAFTAが、アメリカの多くの工場をメキシコに移転させた、と非難されています。

ドーハ・ラウンドにも、TPP協定にも、アメリカの労働組合は強く反対しました。工場の海外移転だけでなく、ロボットやAIの普及、さまざまな技術革新にも反対します。しかし、ある国が規制や課税を行えば、企業は海外へ流出し、そこでロボットやAIを導入するでしょう。むしろ、外国で補助金を得て、開発を加速します。

その意味では、すでに対策が試みられてきました。1.技術革新やグローバリゼーションを逆転、もしくは、一時的に制限し、変化を抑制する。2.その利益をプールし、労働者にも享受できる形で社会的に制御する。3.労働者たちの再訓練と新規雇用、移住を促す。4.雇用の喪失のスピードや規模に見合う失業保険など、福祉国家を充実させる。

問題は、その規模が拡大するほど、財政的な負担を説得できるような基準と成果、政治家による説得が難しくなることです。

失業が労働者の尊厳を奪うことを重視すれば、そもそも失業者をなくすことはできないか、と思いました。選択肢の5です。職場を失った労働者は、ただちに、公的な労働力のプールに帰属できるようにします。彼らへの給付は、新しい労働市場の条件を反映し、さまざまな評価や教育を受けながら、職場からの呼び出しを待ちます。

あるいは、選択肢の6として、小さな町工場や商店、さまざまなサービス業が独立自営で行われている活発なコミュニティーであれば、事実上、職場を失うということは起きないのではないか、と思いました。柔軟な労働市場が、パートタイムから不定期の雇用を幅広く受け入れ、労働者たちの移動や適応を促し、助けます。さまざまな公共機関の投資支援課やエンジェル投資家が定期的に集まって、彼らの起業を助けます。

大規模な工場、孤立した立地、海外との競争・移転が、アメリカ製造業の産業転換を困難にしたのではないでしょうか。そして、経営に関する合理性、企業利益の評価基準、日本社会や日本型経営を愛したドーアの本を思い出します。

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The Economistで、中国と日本の教育事情を読みました。

中国では、地方における学校の整理・統合が、僻地の子供たちに過酷な通学を強いていること、また、成長を実現するのに貢献した都市への出稼ぎ(移民)労働者たちが、自分たちの子供の教育にも全く不十分な条件しか提供されていないこと、が指摘されています。

地方の少数民族が、どれほど険しい通学へ幼い子供たちを送り出すか、ウェイボーが伝えています。http://peoplechina.xyz/climbing-up-and-down-a-cliff-to-go-to-school/

日本の学校における「いじめ問題」も、日本の豊かさや近代社会に比べて、奇異と同情・憐憫の感覚に近い現象かもしれません。なぜ執拗な暴力に子供たちは耐えるのか? 親や教師は子供を守ってやれないのか? 記事がたどる問題の源は、日本の学校教育や社会が国民に求める「同調性」や「画一主義」です。

森友学園の異常な政治・戦時教育の再現。首相夫人ではなく、安倍首相自身の右翼思想。テロ関連で審議される共謀罪。教育勅語を復活する政府見解。靖国神社。万世一系という「信仰」。稲田防衛大臣。日本会議。彼らの教科書問題。左翼教師に「洗脳」された若者の考えを是正する。国歌斉唱。・・・しかし、彼らの意向を阻むような天皇の退位。

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ダンスのグローブを、動きに合わせてLEDで光る製品として開発し、テキサスの大会に参加した若者たちのドキュメントを観ました。並行して、ドイツのハンブルグから参加した、自転車や電気自動車で配送する荷台を開発するグループの話も少し紹介しています。

ある意味では、平凡な、ちょっとしたアイデアを、IT技術や、既存のグローバルな巨大市場と結びつけることで、ひょっとしたら莫大な利益を生み出すかもしれません。無尽蔵に近い資産が市場にプールされており、こうした若い起業家たちのアイデアに資金提供する機会を探しています。なるほど、これが現代のゴールド・ラッシュなのだ、と思いました。

失業問題、教育問題と、技術革新の実現・普及に関わる問題。これらを結びつける1つの倫理的な規範体系を見出し、さまざまなコミュニティーの住民とその労働、充足した生活に転換する<未来>を拓くことを、私たちは求めています。

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