(前半から続く)
● 国際通貨制度の模索
VOX, 23 April 2017
The operation and demise of the
Bretton Woods system: 1958 to 1971
Michael Bordo
ブレトンウッズ体制は、1950年代、60年代の世界に模範的で安定した経済成果をもたらした人為的な国際システムとして、常に参照されている。その短命であった理由は、基本的な構造的欠陥と、主要諸国が進んでルールに従わなかったことであった。
第2次世界大戦が続く中、1944年にニューハンプシャー州、ブレトンウッズで、財務省が組織した国際会議は、戦後の新しい国際通貨秩序をデザインした。その目的は、戦間期の諸問題を回避することであった。すなわち、保護主義、近隣窮乏化をもたらす切下げ、投機的資本移動、不安定な為替レート。また、世界経済の成長と国際貿易の拡大を促す通貨・金融の安定性を維持する枠組みも目指された。
金本位制の固定為替レートと、1930年代に各国が確立した国内の通貨・金融の安定性に対して柔軟な制度との間で、妥協が図られた。それは、1ドルを金35オンスとして断関することを基礎に、調整可能な釘づけと資本管理を許すものだった。IMFは、信用組合の原理に基づき、加盟国が金の分担金以上に引き出すことを可能にして、一時的な経常収支の不足を補うものだった。
この制度が完全に機能したのは15年ほどで、次第に金・ドル本位制に変わった。戦間期の金為替本位制がそうであったように、そこには3つの問題があった。すなわち、調整、信認、流動性の問題である。
調整の問題は、賃金と物価の下方硬直性があるため、金本位制の物価正貨流出入メカニズムが機能しなかった。その結果、赤字国は失業の増大と不況を強いられた。UKは、「ストップ・ゴー政策」と呼ばれた、刺激策と通貨危機、緊縮策を繰り返した。黒字国にはインフレア知力が生じ、不胎化と資本規制を試みた。
また、調整問題は非対称性をともなった。アメリカは準備通貨として、赤字でも調整を強いられることはなかった。このことがヨーロッパ諸国から強い不満を生じた。
しかし、アメリカの通貨当局も次第に信認の問題を心配するようになった。外国政府がドル建の債権を増やすにつれて、ドルから金への交換は、アメリカの金保有額を減少させ、ついには金の取り付けになる懸念があったのだ。1959年には、アメリカの金保有額と対外ドル債務が等しくなった。1964年には、外国通貨当局の保有する公的債務額がアメリカの金保有額を超えた。
第2の懸念は、世界の流動性供給に果たすドルの役割である。もしアメリカが(独仏が強く求めたように)対外赤字を減らせば、グローバルな流動性が不足するだろう。これはRobert Triffin (1960)が示したジレンマ論である。金の供給は増大する世界貿易に対して不足していた。そのためアメリカからの資本流出がこれを補い、アメリカは対外赤字を示した。トリフィンは、このアメリカの赤字が増え続けると、古典的な銀行取付けが生じる、という。その場合、アメリカは金融を引き締め、グローバルなデフレ圧力をもたらすだろう。トリフィンはその解決策として、バンコールのような、グローバルな通貨供給を求めた。
これらの問題は、IMFやG10とスイス、そしてアメリカ通貨当局によって対処された。それが本当にシステムの脅威となったのは、1965年以降、アメリカ連銀がインフレを生じる政策に転換したからである。アメリカはさまざまな対策を試みた。特に、主要諸国間のスワップ・ネットワークを拡大したことが重要だった。
アメリカのインフレ率が1965年から上昇したのは、連銀議長William McChesney Martinが、ケネディ政権下で、従来の正統的な金融政策から、ケインズ主義的な金融政策に転換したからであった。連銀は、雇用を重視し、インフレと失業とのトレードオフを示すフィリップス曲線を管理できると考えた。
1971年8月15日、ニクソン大統領は金兌換を停止したが、それはフランスとイギリスが8月前半にドルを金に交換したことが引き金であった。ブレトンウッズ制度のもう1つの基礎である調整可能な釘付けは1973年に失われた。
しかし、この結末は不可避のものではなかった。Despres et al. (1966)が示したように、トリフィンの主張に反して、アメリカの対外赤字は、問題というより、ドル需要に応じて生じる有益なサービスのフローであった。その公定価格を失っても、われわれはいまだにドル本位制とともに生きている。
このドル本位制を、フランスは「途方もない特権“the exorbitant privilege”」と非難し、2010年には中国の中央銀行総裁も同じことを批判した。しかし、ドルはまだしばらく国際的に支配的な地位にとどまるだろう。それに代わる国際通貨は現れていない。
Project Syndicate APR 24, 2017
New Life for the SDR?
MOHAMED A. EL-ERIAN
反グローバリゼーションと保護主義の高まりは、IMFを築いた人々が第2次世界大戦後に回避したいと強く願った、「近隣窮乏化」に向かう各国の政策である。
約50年前、同様の考察がIMFのSDR導入をもたらした。国際通貨制度の安定性に関する関心が再び高まる中で、多角的な国際協調を刺激する効果的な手段としてSDRを活用できないだろうか?
SDRの起源は、1国の通貨が、世界の準備通貨としての信認を維持し、グローバルな流動性を供給するというジレンマを、IMFが管理する国際通貨を発行することで解消する、ということだった。しかし、国によっては国際機関に対する政治的反感があり、また法的な、また、実際的な障害から、SDRの利用が妨げられている。真にグローバルな通貨として、世界経済の成長に向けた国際政策協調を促すアンカーになる、というのは遠い理想である。
そのことが意味するのは、世界経済の潜在的な成長力と実際の成長とのかい離である。資産・負債の管理、流動性の調達、赤字国と黒字国の調整問題、において、SDRは国際通貨制度の強力な接着剤になっただろう。通貨保有を分散し、リスクに対する保険のコストは減少し、流動性供給が景気循環と一致する傾向は抑えられる。
SDRの役割を拡大するには、何ができるだろうか?
SDR利用の生態系を改善できる。人民元、ポンド、ユーロ、円、ドルの合成通貨として、SDRは好循環を利用できる。公的な準備資産、金融取引、計算単位として、SDRのグローバルな利用は有益である。しかし、先進諸国にも内向きの、ポピュリストやナショナリストが増えているから、ビッグバン的な拡大はむつかしい。IMF協定の見直しを含まない、漸進的な改革を目指すことだ。
すなわち、債券発行や取引にSDRを利用する。債券市場のインフラを整備する。評価方法を改善する。SDR建ローンと債券のイールド・カーブを開発する。
私は1980年代前半にIMFに参加したが、当時に比べて、IMFは民間組織との協力を重視するようになった。NGOs、ローカル・メディアや政治家の参加を歓迎している。それはIMFが効果的な助言を行い、融資計画が実行され、IMFの「サーベイランス」が成功するために不可欠である、と認められている。
それはIMFが超国家的な問題を解決する上でも必要な転換である。SDRの発行、市場整備、流動性において、政府・国際機関と民間とのパートナーシップが重要だ。開発政策と民間の商業活動とを結びつけることも容易ではない。IMFは、他の国際機関・地域機関、政府系信託、多国籍金融機関などと、小規模の協力から始めるべきだろう。
理想の世界では、SDRが、貿易と金融のグローバル化にともない、ますます準備通貨となる。現実の世界では、国際通貨制度に2つの選択肢がある。1つは、リスクと機会費用を含む分断状態。もう1つは、世界経済の生命力と潜在成長力を高めるため、システムの前進を促す漸進的アプローチである。
VOX, 24 April 2017
An asset management company for the
Eurozone: Time to revive an old idea
Thorsten
Beck
● トランプ政権と民衆の声
FT April 23, 2017
Donald Trump’s ‘Buy American’
message shines in the rust belt
Patti
Waldmeir
FT April 24, 2017
Investment in women unleashes global
gains
Ivanka
Trump and Jim Yong Kim
● アメリカ金融政策
FT April 23, 2017
Why shrinking the Fed balance sheet
may have an easing effect
Manmohan
Singh
● リベラリズムとポピュリズム
Project Syndicate APR 24, 2017
Liberalism in the Trenches
ANA
PALACIO
NYT APRIL 25, 2017
The Urgency of Ethnic Nationalism
David
Leonhardt
NYT APRIL 25, 2017
Western Populism May Be Entering an
Awkward Adolescence
By
MAX FISHER and AMANDA TAUB
ポピュリスト政党の拡大は数十年の傾向である。その支持票は、政権を組むには不十分であるが、まったく無視するには大きすぎる。ポピュリストを排除するために、諸政党は連携するようになり、ポピュリスト政党の支持者たちはエリートたちの陰謀を感じる。
彼らの支持率は低くても、Brexitを推進したUKIPのように、政治システムを変える可能性がある。
● 技術政策
Project Syndicate APR 24, 2017
The Coming Technology Policy Debate
MICHAEL
J. BOSKIN
● NAFTAと貿易赤字
Project Syndicate APR 24, 2017
How to Renegotiate NAFTA
JEFFREY FRANKEL
トランプ大統領はNAFTAを再交渉すると約束した。その約束を破棄することもある。他のやり方でメキシコを苦しめるかもしれない。しかし、メキシコにも報復手段がある。アメリカが関税を上げれば、メキシコはアメリカではなく、ブラジルやアルゼンチンから農産物を買うだろう。他の分野で、報復することも可能だ。中米からアメリカへの移民を、メキシコはそのまま通過させるかもしれない。麻薬捜査への協力もやめるだろう。何より、メキシコ自身が次の大統領に強いナショナリストを選ぶだろう。
しかし、成立後、23年を経た今なら、NAFTAを改善するために再交渉するべきだろう。1つは、適用範囲の拡大だ。労働者の権利保護も強化する。環境保護。特に、違法な伐採や絶滅危惧種の保護を紛争処理メカニズムに従わせる。他方、利潤を損なう恐れに対する企業の訴えには、その濫用を阻むべきだ。
最後に、NAFTAの加盟国を拡大する。南米の諸国や、アジア、太平洋にも加盟を希望する国はあるだろう。カナダは、アメリカよりも、さらに強く日本の市場自由化を豚肉・牛肉・木材について求めている。多くの国が参加することで、こうした問題が各国の輸出を伸ばす形で解決できる。
こうした再交渉が容易であるとは言わないが、可能である。実際、NAFTAを改善する最善の方法は、トランプが破棄したTPPの交渉で合意した内容に戻ることであろう。
Project Syndicate APR 25, 2017
Inconvenient Truths About the US
Trade Deficit
MARTIN FELDSTEIN
アメリカは4500億ドル、GDPの2.5%に及ぶ貿易赤字を出している。毎年生じる巨額の貿易赤字は何によって説明できるのか? それを減らすとしたら、われわれの生活水準はどうなるのか
貿易赤字を外国政府のせいにするのは簡単だが、それはアメリカ企業やその労働者を苦しめる。また、アメリカに輸出する外国企業に補助金を与える政府を責めるのも簡単だが、その企業に供給するアメリカ企業とその労働者を苦しめる。実際、外国政府の補助金は、全体としてアメリカ消費者の利益である。
外国の輸入障壁や輸出への補助金は、アメリカが巨額の貿易赤字を出す理由ではないのだ。その本当の理由は、アメリカが生産した以上に支出することである。貿易赤字は、アメリカの家計と企業が貯蓄と投資を決定した結果として生じている。外国政府の政策は、単にその赤字を貿易相手国の間で分割することに影響するだけだ。
だから、貿易赤字を減らすには、貯蓄を増やし、投資を減らせばよい。外国市場の開放や、アメリカ市場の閉鎖は、関係ない。
アメリカが30年以上も巨額の貿易赤字を続けているのは、それに見合う外国からの融資、アメリカの債券に対する購入、不動産、その他の資産に対する投資があったからだ。それがこのまま続く保証はないが、終わるという理由もない。
もし外国からのアメリカ資産に対する需要が減れば、資産の価格は下落し、金利が上昇するだろう。それは国内投資を減らし、貯蓄を増やす。こうして貿易赤字も減るのだ。貿易赤字は減るが、それはアメリカの消費を減らし、また、将来の消費のための投資を減らす。
アメリカの財・サービスが外国のものより魅力的であるために、ドルの価値も下落する。専門家たちの推定では、アメリカの貿易赤字の対GDP比率が1%減少するために、輸出価格が10%下落する、あるいは、輸入価格が10%上昇する必要がある。両方が合わせてGDP2%の貿易赤字を減らせば均衡に向かうが、それは平均実質所得を1.5%と1.2%も減少させる。
貿易赤字を解消するため、GDPの2.5%をその他の世界に移し、輸出入の価格変化で2.7%のGDPを失うから、アメリカの実質所得は約5%減少するだろう。長期的にも、アメリカの工場や設備に対する投資が減ることで、成長率が低下し、将来の実質所得水準も低下する。
もし貿易赤字が、家計の貯蓄増や政府の財政赤字削減によって減少するなら、投資の水準はより高く、長期の所得水準も高くなる。
だからアメリカは貯蓄を増やすべきだ。他国を非難することは、それを変えるものではない。
NYT APRIL 26, 2017
Donald Trump’s Trade Policy Is in
Disarray
By THE EDITORIAL BOARD
NYT APRIL 27, 2017
Revisiting Nafta: The Stakes for Key
Industries
By THE NEW YORK TIMES
● アメリカ政権の異常さ
FP APRIL 25, 2017
America Is Getting Used to Trump’s
Insanity
BY
MAX BOOT
FT April 27, 2017
The creeping influence of nepotism
in Trump’s America
Edward
Luce
FT April 28, 2017
Distressed-debt players rule the
roost in Trump’s White House
Gillian
Tett
● 日本はTPP復活を願う
FP APRIL 24, 2017
Japan Wants to Revive the Trans
Pacific Partnership Even Without the U.S.
BY
ROBBIE GRAMER
● 中国指導部の目標
Bloomberg APRIL 24, 2017
Why China's New Aircraft Carrier
Should Worry India
Mihir
Sharma
FT April 26, 2017
Xi’s grandiose urban ambitions hit
the wall
Jamil
Anderlini
Project Syndicate APR 26, 2017
The Sino-American Employment
Challenge
ANDREW SHENG and XIAO
GENG
フロリダにおける習近平・トランプ会談の成果は、互いに安定した関係の継続を確認し、両国がともに雇用の創出を強く望む点で一致したことだ。
オバマ政権の下で出たレポートや、最近のMcKinseyによる調査が示すように、自動化は多くの職場を消滅させるだろう。トランプ、習、など、世界の指導者たちは、雇用を創出するという課題に直面する。オバマ政権の3つの対策(AI投資とその利益、再教育・再訓練、労働者の移動を促す補助金)は重要な政策を描いている。それは、新規雇用の創出政策だ。
政府雇用を増やすことは、財源が維持できないし、民間の生産的な雇用を妨げる。e-コマースの利用など、新しいビジネスの拡大に、大企業は迅速な対応が難しい。むしろ、技術革新でも雇用でも、中小企業SMEsの可能性に政府は積極的な対策を向けるべきだ。
米中はこの点で市場開放を保証し、双方の得意分野を生かしつつ、SMEsの拡大を促すことだ。
Bloomberg APRIL 26, 2017
Why China's Drones Are Taking Off
Michael
Schuman
China Daily 2017-04-26
US welcome to join Belt and Road
Initiative
NYT APRIL 27, 2017
Xi Jinping’s Dilemma
By RICHARD MCGREGOR
● 顧みれば
NYT APRIL 24, 2017
Ayn Rand’s Counter-Revolution
Jennifer
Burns
NYT APRIL 25, 2017
Five Decades Ago in Vietnam, a
Different Great, Great Wall
SHARON WEINBERGER
● Brexit交渉の行方
Project Syndicate APR 25, 2017
Will London Survive Brexit?
HOWARD
DAVIES
FT April 25, 2017
Brexit by timetable: the evolution
of the EU’s position Part 1
David Allen Green
FT April 26, 2017
Brexit by timetable: the evolution
of the EU’s position Part 2
David
Allen Green
Bloomberg APRIL 26, 2017
Europe Sticks With Socialism
Leonid
Bershidsky
FT April 27, 2017
Brexit by timetable: the evolution
of the EU’s position Part 3
David
Allen Green
YaleGlobal, Thursday, April 27, 2017
Five Scenarios for Brexit – With
Only One Good Outcome
Joergen
Oerstroem Moeller
テリーザ・メイ首相がリスボン条約50条に基づく離脱交渉を申請したことで、欧州委員会は離脱の条件の交渉を準備することになった。5つのシナリオが考えられる。その4つは、交渉は完全に決裂し、イギリスとEUとの間の経済・貿易関係を明確に断つものだ。
第1に、多くの辛辣な会議、非難の応酬、マラソン会合と瀬戸際の駆け引きがあるけれど、最後は賢者が支配し、交渉が妥結する。こんなことはほとんど起こらないだろう。
そのためには優れた政治手腕を必要とするが、イギリス側にも、EU側にも欠けている。高度な専門家の能力が役立つのも、国家が安定した指導者の手に握られているときだけである。地政学、戦略的利益、安全保障、国内政治、そして、経済学、貿易関係が難問となる。冷静さとコモン・センスが合意をもたらすとしても、双方に反対派がいて反感を煽る。
私自身の経験から、大きな交渉が成功したのは、それらの諸国が互いを友人やパートナーとみなし、ウィン・ウィンの結果を探したから、また、加盟諸国の問題に共感したからである。ところが、Brexitに関するイギリスの姿勢は最初から「われわれと奴ら」という敵対的なものだった。
第2に、完全なハードBrexit。双方が、満足な合意は得られない、と結論する。突然の、準備を欠いた、日常生活と規制・経済条件の断絶が生じる。WTOの条件に依拠するとしても、それには交渉と時間を要する。
政治的には、彼らが運命を共有しないこと、社会モデルが異なっている、と結論するからだ。イギリスはアメリカ型の自由市場モデルに向かい、大陸ヨーロッパは社会福祉システムを重視する。技術的にも、サービス取引の規制をめぐり、ロンドンの将来がどうなるか、また、人の移動に関する問題も解決できない。交渉を困難にするのは、政治的影響力を持つ、少数の反対派がいることである。たとえば、EUの漁業規制のように。
第3に、最終案がイギリス議会で否決される。明確な離脱でなければ、保守党の強硬派が反対する。労働党や自民党、SNPも成立を望むより、その機会を利用するだけである。
第4に、ヨーロッパ議会が承認しない。
最後に、27か国の国民議会、13の地方議会の、どれかが承認しない。多くの加盟諸国にとって、Brexitは最重要課題ではない。各国はイギリスからの譲歩を求める機会にする。
恐らく、成立には地政学的な激変が必要だ。たとえば、アメリカが唐突かつ強引なやり方でヨーロッパへの関与を否定し、北朝鮮との対立に備えて軍を移動する。さらに、ロシアが中・東欧圏で紛争を刺激し、北アフリカや中東では深刻な事件が起き、新しい世界金融危機が起きる、というような。そしてイギリスを含むEUとして、共通の利益を守るためには緊密な協力が必要だ、と国内が確信する。
しかし、たとえ地政学的な危機が起きても、十分ではないだろう。
● トランプ政権の100日
NYT APRIL 26, 2017
It Could Be Worse
Ross Douthat
最初の100日は決して成功と呼べるものではなかった。重要な法案は何も議会を通過しなかった。ホワイトハウスは議会で法律を通すことがわかっていない。政治的ハネムーンはなかった。この段階まで、トランプは最低の支持しかない大統領だ。行政の重要ポストは埋まっていない。ホワイトハウスは軽度の内戦状態にある。混乱、失態、利益相反、下手なプロパガンダ、真っ赤な嘘、それらのすべてが異常であり、彼らがそう言いたいのなら、「レジスタンス」というものなのだ。
NYT APRIL 26, 2017
Donald Trump’s First 100 Days: The
Worst on Record
David
Leonhardt
NYT APRIL 26, 2017
The Cost of Trump’s Retreat From
Rights
By
JORGE G. CASTAÑEDA
FP APRIL 26, 2017
The Worst Mistake of Trump’s First
100 Days
BY STEPHEN M. WALT
外交におけるトランプの最大の失敗は何か? 多くの候補があるだろう。マイケル・フリンのような人物を安全保障担当補佐官に指名した。ロシアとの混乱した関係を正常化できていない。それは地政学な観点で残念なことだ。アメリカはロシアと多くの問題で協力できる。重大な見解の相違を認めたうえで、規律ある、冷徹な判断が必要だ。
アメリカの価値観に反する権威主義体制と親しい関係を求めている。トルコ、エジプト、サウジアラビア、イスラエル。シリア政府の化学兵器使用にミサイルで応じたが、外交政策は示せないままだ。「愚か者の話は、騒々しいだけで、何の意味もない。」
イランとの核合意を破棄する決心をしないまま、イランを悪者にしている。それは危険な火遊びだ。イランの核武装と中東における新しい戦争に参加することを望むのか?
トランプは重要な同盟諸国との関係を悪化させている。メキシコ、オーストラリア、ドイツの指導者に不快な態度を示した。他方で、大統領候補となったル・ペンを称賛する。
しかし、トランプによる最悪の外交はアジアにある。ヨーロッパは重要だが、その問題はもっぱら内的なもので、アメリカに対処できることはあまりない。中東の混乱状態も、アメリカは介入する必要がないし、解決策もわからず、時間と財源、兵士の命を無駄にしてはならない。
これに対して、アジアは違う。経済的な重要性は着実に増しており、その傾向が続く。また、中国は、長期的に、アメリカに挑戦する可能性がある唯一の国、潜在的な「地域的覇権国」である。もしこのまま中国の台頭が続き、アメリカをアジアから追い出すなら、アメリカが現在しているように、そのパワーを世界中で行使する自由を得るだろう。その人口規模、アメリカに並び、あるいは、それを超える経済規模を中国が持てば、西半球にも同盟関係を築き、アメリカの安全保障は脅かされる。
中国がアジアで支配的な勢力になるのを妨げるために、アメリカはアジア旋回を行った。オバマ政権のこの決断をアジアの同盟諸国は歓迎した。南シナ海における決意を示し、TPPを推進したのだ。しかし、アジアや東南アジアの中国との経済取引は増大しており、その意味で、強い軍事的プレゼンスだけで同盟関係を維持することは困難だ。アメリカはスマートな、高度に洗練された、十分な知識と情報に依拠する外交政策を必要としている。
ところが、トランプは無思慮な行動を取った。TPPを破棄し、「1つの中国」政策を否定するそぶりを示したが、何の準備もしない揺さぶりでしかなかった。米中首脳会談は成果がなく、北朝鮮問題の複雑さを理解するよう求められた。韓国はかつて中国の一部だった、という失言で、韓国外相から強い抗議を受けた。
その後、トランプは、予防的な先制攻撃を示唆して、北朝鮮危機をエスカレートさせた。正確さを欠く情報で、朝鮮半島海域に「無敵艦隊」を派遣した、と告げた。しかし実際は、艦隊が南に向かったことを訂正した。さらに、ペンス副大統領は南北分断線まで行って、自分の顔を観ればアメリカの決意がわかる、とばかりに挑発した。スーパーヒーローを気取った愚行である。
ここには2つの問題がある。第1に、トランプ政権が、就任第1日から、アジア外交については無知で無能である、ということを示していたことだ。多くの失策は同盟諸国に疑念を生んだはずだ。アメリカの関与は疑わしく、この政権には正しく判断する能力がない、と。
第2に、アジアの同盟関係を維持することはむつかしい。なセなら彼らは、アメリカから放棄されることも、巻き込まれるリスクも、ともに恐れているからだ。アジア諸国は衝突を望まない。まして、戦争を望まない。地域の緊張を高める者には否定的に反応する。アメリカ外交は、やり過ぎてもいけないし、抑え過ぎてもいけない。十分な知識、規律、感受性が求められる。
国家安全保障顧問H.R. McMasterは、トランプ大統領に今こそ助言しなければならない。大統領と同じく、簡潔に。
FP APRIL 26, 2017
Donald Trump’s Great Patriotic Purge
BY
WHITNEY KASSEL, LOREN DEJONGE SCHULMAN
● トランプ外交と世界
FT April 26, 2017
Beyond the bluster, Donald Trump’s
foreign policy takes shape
Roula
Khalaf
ペンスの行動は外交として説明ができない。トランプは理解できないようだが、政治における言葉とシンボルは重要である。彼らの間違ったシグナルや行動は北朝鮮との戦争につながる。
Project Syndicate APR 26, 2017
Trump’s Diplomatic Deficit
CHRISTOPHER
R. HILL
NYT APRIL 26, 2017
On a Par 5 in Dubai, Good Humor and
a Respite From All Things Trump
Thomas L. Friedman
Project Syndicate APR 27, 2017
Where to Build Trump’s Wall?
RICARDO
HAUSMANN
Project Syndicate APR 27, 2017
A Grand Strategy for Donald Trump?
KOICHI HAMADA
なぜ競争ではなく協力することを選ばないのか? 「協力」は、平和を実現し、成長を刺激し、自由貿易によって繁栄を広める。「競争」は、安全保障のリスクを高め、経済の妨害、戦争や環境破壊をもたらす。
それは、囚人のジレンマ、を解決できないからだ。各国は相手国が、その方が大きな利益を得られるなら、裏切るかもしれないと疑っている。その疑いは、相手国(そして相手国にとっては自国)の裏切りをもたらすことを意識するから、先に裏切る誘惑を強める。
ゲーム理論は、合理的なアクターの対立と協力に関する数理的モデルを提供するが、ジレンマを克服する望ましい戦略を示せなかった。Robert Axelrodが開いたトーナメントで優勝したのは「しっぺ返し(TFT)」戦略だった。
最初は協力から始めて、相手が裏切ると必ず処罰する。そうすることでTFTはプラスの相互利益をもたらす行動を奨励するのだ。
貿易でも、中国の通貨でも、北朝鮮でも、ISISでも、トランプはTFTを採用したように見える。ただし、トランプの相互利益を無視したような交渉術はリスクが高い。裏切る者が、残された選択肢は協力しかない、と確信するとき、ジレンマは解ける。TFTを成功させるためには、まずトランプの現実認識を改善する必要がある。
NYT APRIL 27, 2017
Art of the Bluff: The Limits of
Trump’s Negotiation Strategy
Neil Irwin
● ジェイン・アダムズ
NYT APRIL 25, 2017
The Jane Addams Model
David
Brooks
● インドネシアの民主主義
FP APRIL 25, 2017
The Improbable Rise and Blasphemous
Fall of a Christian Politician in Indonesia
BY
KRITHIKA VARAGUR
NYT APRIL 27, 2017
Election Tests Indonesian Democracy
By THE EDITORIAL BOARD
● ロシア
YaleGlobal, Tuesday, April 25, 2017
Russia and Trump Must Be Partners to
Assure Nuclear Security
Richard
Weitz
Bloomberg APRIL 25, 2017
Why the Russian Suicide Game Went
Global
Leonid
Bershidsky
Project Syndicate APR 27, 2017
Russia’s Neo-Feudal Capitalism
ANDERS
ÅSLUND
プーチンはますますソ連の硬化症と停滞に苦しんだブレジネフ時代に似てきた。唯一、新しい点は、その汚職のやり方だ。主要産業を再国有化して、新しいクローニー資本主義を築きつつある。
そのシステムは、ロシア皇帝に支配された古代封建制のモデルである。皇帝には最大の自由を与え、封土を臣下が守る。
● 中央ヨーロッパの革命
NYT APRIL 26, 2017
The Movie That Explains Central
Europe’s Protesters
Ivan
Krastev
● ドゥテルテの暴挙
NYT APRIL 25, 2017
Let the World Condemn Duterte
By THE EDITORIAL BOARD
● 苦汗工場の真実
NYT APRIL 27, 2017
Everything We Knew About Sweatshops
Was Wrong
By CHRISTOPHER BLATTMAN
and STEFAN DERCON
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The Economist April 15th 2017
The slide into dictatorship
Rural education in China: Separate and unequal
Startups: Silicon pally
Turkey’s referendum: On the razor’s edge
Bullying in Japan: All against one
Banyan: trouble at the top
Education in the countryside: A class apart
Donald Trump’s foreign policy: On a whim and a prayer
Immigration: A portrait of Migrantland
Depopulation in Germany: Fading echoes
(コメント) イギリスで最も急速に移民が増えた町を集めて “Migrantland” と呼びます。その特徴や政治変化は何を意味するのか? また、ドイツでは、特に旧東ドイツで急速に人口減少し、若い労働者たちの流出が続いています。2つの記事を読んで、日本の政治家たちの考えを聴いてみたいです。
トルコの憲法改正、トランプのシリア爆撃、日本の天皇退位、それらが共有する世界を考えます。
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IPEの想像力 5/1/2017
NHK・BS1「雇用は守れるか アメリカ ラストベルトの労働者たち」を観ました。
トランプは就任最初の日にTPPを離脱する大統領令に署名しました。製造業の労働者たちに、彼が約束した「雇用を守る」わけです。クリントン政権が1992年に締結(1994年に発足)したNAFTAが、アメリカの多くの工場をメキシコに移転させた、と非難されています。
ドーハ・ラウンドにも、TPP協定にも、アメリカの労働組合は強く反対しました。工場の海外移転だけでなく、ロボットやAIの普及、さまざまな技術革新にも反対します。しかし、ある国が規制や課税を行えば、企業は海外へ流出し、そこでロボットやAIを導入するでしょう。むしろ、外国で補助金を得て、開発を加速します。
その意味では、すでに対策が試みられてきました。1.技術革新やグローバリゼーションを逆転、もしくは、一時的に制限し、変化を抑制する。2.その利益をプールし、労働者にも享受できる形で社会的に制御する。3.労働者たちの再訓練と新規雇用、移住を促す。4.雇用の喪失のスピードや規模に見合う失業保険など、福祉国家を充実させる。
問題は、その規模が拡大するほど、財政的な負担を説得できるような基準と成果、政治家による説得が難しくなることです。
失業が労働者の尊厳を奪うことを重視すれば、そもそも失業者をなくすことはできないか、と思いました。選択肢の5です。職場を失った労働者は、ただちに、公的な労働力のプールに帰属できるようにします。彼らへの給付は、新しい労働市場の条件を反映し、さまざまな評価や教育を受けながら、職場からの呼び出しを待ちます。
あるいは、選択肢の6として、小さな町工場や商店、さまざまなサービス業が独立自営で行われている活発なコミュニティーであれば、事実上、職場を失うということは起きないのではないか、と思いました。柔軟な労働市場が、パートタイムから不定期の雇用を幅広く受け入れ、労働者たちの移動や適応を促し、助けます。さまざまな公共機関の投資支援課やエンジェル投資家が定期的に集まって、彼らの起業を助けます。
大規模な工場、孤立した立地、海外との競争・移転が、アメリカ製造業の産業転換を困難にしたのではないでしょうか。そして、経営に関する合理性、企業利益の評価基準、日本社会や日本型経営を愛したドーアの本を思い出します。
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連休なので、町中を散策しました。
堺市の南、北信太駅から歩いて、信太森葛葉稲荷神社、聖神社などがあり、陸上自衛隊、信太森演習場、黄金塚古墳がありました。神社のだんじり(地車)が試し曳行していました。高台からは大阪湾が見え、埋立地に巨大なクレーンが立つ臨海工業地が広がっていました。
翌日は、瀬田の漕艇場に行きました。ボート部のゼミ生がいるからです。京滋バイパスを降りて、石山寺の前を通り過ぎ、瀬田の唐橋を渡るあたりは、緑、川面、青空が素晴らしく、感銘を受けました。朝日レガッタは大いに盛り上がって、大学や高校、社会人も参加し、ボートに情熱を注ぐ人たちの充実感が伝わってきます。
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The
Economistで、中国と日本の教育事情を読みました。
中国では、地方における学校の整理・統合が、僻地の子供たちに過酷な通学を強いていること、また、成長を実現するのに貢献した都市への出稼ぎ(移民)労働者たちが、自分たちの子供の教育にも全く不十分な条件しか提供されていないこと、が指摘されています。
地方の少数民族が、どれほど険しい通学へ幼い子供たちを送り出すか、ウェイボーが伝えています。http://peoplechina.xyz/climbing-up-and-down-a-cliff-to-go-to-school/
日本の学校における「いじめ問題」も、日本の豊かさや近代社会に比べて、奇異と同情・憐憫の感覚に近い現象かもしれません。なぜ執拗な暴力に子供たちは耐えるのか? 親や教師は子供を守ってやれないのか? 記事がたどる問題の源は、日本の学校教育や社会が国民に求める「同調性」や「画一主義」です。
森友学園の異常な政治・戦時教育の再現。首相夫人ではなく、安倍首相自身の右翼思想。テロ関連で審議される共謀罪。教育勅語を復活する政府見解。靖国神社。万世一系という「信仰」。稲田防衛大臣。日本会議。彼らの教科書問題。左翼教師に「洗脳」された若者の考えを是正する。国歌斉唱。・・・しかし、彼らの意向を阻むような天皇の退位。
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ダンスのグローブを、動きに合わせてLEDで光る製品として開発し、テキサスの大会に参加した若者たちのドキュメントを観ました。並行して、ドイツのハンブルグから参加した、自転車や電気自動車で配送する荷台を開発するグループの話も少し紹介しています。
ある意味では、平凡な、ちょっとしたアイデアを、IT技術や、既存のグローバルな巨大市場と結びつけることで、ひょっとしたら莫大な利益を生み出すかもしれません。無尽蔵に近い資産が市場にプールされており、こうした若い起業家たちのアイデアに資金提供する機会を探しています。なるほど、これが現代のゴールド・ラッシュなのだ、と思いました。
失業問題、教育問題と、技術革新の実現・普及に関わる問題。これらを結びつける1つの倫理的な規範体系を見出し、さまざまなコミュニティーの住民とその労働、充足した生活に転換する<未来>を拓くことを、私たちは求めています。
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