IPEの果樹園2017

今週のReview

3/20-4/1

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トランプの経済政策 ・・・フランス大統領選挙 ・・・ドイツの指導力 ・・・バノンという人物 ・・・多元化ずるヨーロッパ ・・・ロボットへの課税 ・・・中国の自由化と米中関係 ・・・北朝鮮危機 ・・・ベーシック・インカムの実現

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


 トランプの経済政策

NYT MARCH 10, 2017

A Bill So Bad It’s Awesome

Paul Krugman

共和党案は、規制をなくし、補助金をなくし、自由市場の魔法で答えを出すものになるはずだった。オバマケアによって医療保険を得た2000万人のアメリカ人にとっては破滅的だが、少なくともイデオロギーとしては一貫していた。

しかし、共和党指導部は困難な仕事に立ち向かう意志がなかった。彼らの提案はめちゃくちゃで、保守派はオバマケア2.0と呼んだ。より正しくはオバマケア0.5であるが。なぜなら中途半端で不完全な形にオバマケアの原理を受け入れ、その基本的な条件を損なっているからだ。

オバマケアthe Affordable Care Actには3つの柱がある。1.加入を制限したり、価格を引き上げたりできないように、事前に決められた加入条件で保険者会社を規制する。2.所得と賞与に結び付けて家族は補助金を受け取り、保険契約を購入できる。3.たとえ現在は健康でも人々が保険契約を購入するように、非加入者に対する罰金がある。

共和党は、政策の専門家としての質を落としたのだ。保守派の優れた専門家たちは、イデオロギー的な忠誠心を疑われて排除された。また、共和党は医療保険からロビンフッド的な性格を奪い去った。オバマケアのような、低所得の家族にも医療保険が利用できるように支援するということをやめたのだ。

彼らの主張は嘘であったし、今もそうだ。そして、この点に関して、少なくとも、共和党の団結力には驚くばかりである。

Project Syndicate MAR 22, 2017

Mnuchin’s Mission

JEFFREY FRANKEL

マヌーチンSteven Mnuchin財務長官は困難な予算編成を求められている。

これまでの政権と違い、トランプ大統領はグローバルな指導力を重視しない。しかし、政府の閣僚を経験したことのないマヌーチンが、他の諸国を説得して、共通のルールや規範をどのように実現するか、難しい課題である。

就任最初の日に中国を通貨操作国に指名してやる、というトランプの公約を実行しなかったことは正しかった。

他方、政権の閣僚であるナヴァロPeter Navarroがドイツを大幅な通貨の過小評価と非難するのは見慣れない愚かな主張である。

もしトランプが、なぜこれほど多くの通貨がドルに対して減価するのか、と不満に思うなら、過去5か月間の自分の行動を考えるべきだ。彼はメキシコと中国、その他の貿易相手国に高い関税を課すと脅迫した。国境調整税を主張した。減税を主張し、財務の累積を加速させ、金利が上昇することを予想させ、ドル高になった。

「オルターナティブ・ファクト」は選挙戦で大いにトランプを有利にしたが、5月のG7、7月のG20では、トランプを苦しませるだろう。マヌーチンの課題は、トランプに現実を教えることだ。


 フランス大統領選挙

FT March 10, 2017

An ailing French Republic totters towards meltdown

Tony Barber

ボルドー市長、元首相のアラン・ジュペAlain Juppéは、フィヨンFrançois Fillonに代わって中道右派の大統領候補になることを断った。フランスは彼に感謝する理由がある。

ジュペは、11月の党候補者争いでフィヨンに負けたのであり、中道右派の勝利を呼び戻す候補者にもなれない。それだけでなく、ボルドーにおける彼の拒否演説は、今年の大統領・議会選挙が、1958年のド・ゴールCharles de Gaulleによる第5共和制の誕生以来、フランスにとって最も重要な選挙であることを明確にした。

「われわれの国は病にある。改革が必要であると知っていながら、政治エリートへの憤慨、デマゴーグ的な公約への疑念により、改革は抵抗を受け、今、恐るべき信認の危機にある。」 ジュペの経歴がそれをよく示す。

199511月、ジュペが首相として財源不足の福祉国家を改革しようとしたとき、1968年のパリ5月革命以来、最大規模のストライキが起きた。それが、多かれ少なかれフランス政府が真剣な経済改革を試みた最後のものであった。多くの人が改革の必要を認めているのに、政治階級は分裂し、街頭デモが起きるのを恐れている。動けない、という冷たい確信が第5共和政を抑え込むのだ。

2に、ジュペは2006年の非合法な政党資金に関して有罪となり、執行猶予付の14か月禁固刑を受けた。このような選挙資金スキャンダルは現代フランスの抜きがたい一部である。週刊誌がフィヨンの妻と子供たちに関する公金の支出疑惑を示したが、有権者たちは政治エリートの恥知らずな行動に、はるか以前から不満を強めていた。司法とメディアによる「政治的な暗殺」である、とベルルスコーニのように語るフィヨンを観て、側近や支持者は嫌になった。

このジェットコースターのような大統領選挙で、独立候補のマクロンEmmanuel Macronが、極右の国民戦線を率いるル・ペンと最終投票に残る、そして、勝者になる、と考えるのは時期尚早である。しかし、マクロン大統領とその政治運動En Marche!が議会の多数を占めるとき、旧秩序の崩壊から、彼らはどのような新しい秩序を築くだろうか?


 ドイツの指導力

FP MARCH 13, 2017

Trump and Merkel Need to Find a Way to Work Together

BY CHARLES KUPCHAN

トランプ政権の開始から日が浅い時期において,メルケル首相のワシントン訪問は最も重要な階段の1つである.

現在,トランプとメルケルは衝突が避けられない.EUNATO,移民,貿易,ロシア,イランの核開発,気候変動で,全く意見が異なる.トランプは既存秩序を破壊し,中枢の支配を廃止する,と支持者に約束している.メルケルはポピュリストを抑えるために秩序を安定化する.

それでも各国の指導者として,彼らは共通点を探す必要がある.まず,トランプはEUを敵視しないことだ.これに対して,メルケルは貿易費の負担を増やすと約束する.移民移管しては立場が大きく異なるが,国境の管理体制を強化し,情報交換することには合意できる.

経済問題で,ドイツは長く緊縮策にこだわったが,安全保障やインフラに支出を増やすことだ.それはドイツの需要を増やし,対外不均衡を抑えるだけでなく,ヨーロッパのポピュリズムに対抗する勢力を支援する.他方,トランプは保護主義の魔法を吹聴してはならない.メルケルはG20の議長として,アメリカが保護主義を振り回すことで,会議を失敗に終わらせたくない.トランプは少なくともWTOのルールに従うべきだ.

ヨーロッパに関して,ウクライナやプーチンの問題で2人が対立するべきではない.トランプはイランの核や気候変動で,これまでの合意を無視し,ヨーロッパの不振を高めることを避けるべきだ.

2人は水と油であるが,指導者として,協力するための妥協の機会はある.


 バノンという人物

NYT MARCH 10, 2017

The Bombs of Steve Bannon

Timothy Egan

世界情勢の多くに関してもそうだが、私はバノンStephen K. Bannonを理解しようとした。彼はチーフ・ストラテジストとしてトランプ政権の怪奇な大統領職とカオスの背後で権力を駆使し、このカオスをデザインする。

バノンはアメリカで最も危険な政治運営者であり、世界第2の権力者、偉大な陰謀化であるとみなされてきた。自らを、ソ連の流血の創設者、ウラジミール・レーニンにたとえたが、それはその政治についてではなく、国家を爆破するというその目標についてであった。

「暗黒を賛美する。」

トランプは本読まないことで有名だ。Fox Newsを観て、不正確なTweetをする。しかし、バノンは哲学、理論、歴史の貪欲な読書家だ。

「私はチューダー朝の司法官Thomas Cromwellクロムウェルだ。」 この人物はアイルランドを征服したOliver Cromwellクロムウェルではない。

トマス・クロムウェルはヘンリー8世の聡明な側近であった(1532-1540年)。現実のクロムウェルは、自分中心で、妻を処刑する国王が、離婚するために宗教を分割するのを助けた、抜け目ない陰謀家であった。

クロムウェルのように、バノンも大統領執務室でトランプ大統領にささやく。聡明で、ずるがしこく、矛盾に満ちている。自己嫌悪するベビーブーマー、自己嫌悪するハーヴァードビジネススクールとゴールドマンサックスのエリート、自己嫌悪するハリウッドのディレクター、そして自己嫌悪するジャーナリスト。そして、優れたプロパガンダの手法を学んでホワイトハウスに入った。

ヘンリー国王はトランプ的な人物であった。不器用で、内気で、感情を爆発させる、若い頃はハンサムな、魅力的人物であったが、400ポンドの憤慨する怠け者になった。ヘンリーは6度も結婚し、2人の妻を処刑した。バノンとトランプも、合わせて6人の妻がいた。

クロムウェルは2つの点で有名だ。第1に、愛人と乾坤するため、国王が離婚するのを助けた。ローマ・カトリック教会が離婚を認めなかったので、ヘンリーはイギリス国教会の最高指導者になった。

2に、クロムウェルは旧秩序を破壊するために大量殺人を行った。彼は修道院や大聖堂を破壊し、その富を王室に移した。ヘンリーへの宣誓を拒む修道士や修道女は殺害された。

バノンは、開明的なローマ法王フランシスより、保守派に近い。彼らは法王の心を開くアプローチを嫌い、文明の衝突を好む。バノンは既存秩序の破壊に忙しい。自由な新聞、独立した司法、市民社会は、すべてバノンの計画を邪魔するものだ。

バノンは1950年代の上院による魔女狩りを指導したマッカーシーJoseph McCarthyを称賛する。

チーフ・ストラテジストとして、バノンは毎日、「管理国家の破壊」に従事している。それは単に連邦政府だけでなく、国際条約、貿易協定、第2次世界大戦後の相対的な平和を維持した同盟を破壊することでもある。

バノンは、その歴史上の自分の姿を観て思い出すべきだろう。1540年、裁判することもなく、ヘンリー国王はクロムウェルを処刑した。彼の切断された頭はロンドン・ブリッジにさらされた。


 多元化ずるヨーロッパ

FT March 13, 2017

A multi-speed formula will shape Europe’s future

Wolfgang Münchau

1990年代に、私は同僚や友人たちと、ヨーロッパの将来に関してよく議論した。私を含む、ある者たちは、中央政府と議会を持つヨーロッパ連邦を考えた。他の者たちは、もっと分権的なヨーロッパを考えた。第3のグループは、「変化する幾何学」、すなわち、マルチ・スピードのヨーロッパを考えた。

その論争は公式に再現されている。しかも、必要に迫られている。EUは困難な状況だ。次々に危機が襲ってくる。移民政策は混乱し、1国、イギリスが離脱した。他の国、ポーランドは外交的に孤立している。ポーランドのBeata Szydlo首相は、まったく国内政治を理由として、EUの決定を阻もうとした。フランスとイタリアでは、指導的な野党がユーロからの離脱を主張する。

加盟27カ国が連邦に同意することはあり得ない。その条約改正は複雑だ。しかし、何もしないことも許されない。だから、変化する幾何学が残る。しかし、その意味は何か?

1に、協力を高めて法制化する。第2に、コア諸国の構造と、より柔軟な外縁の構造とを区別する。

全ての加盟諸国は、関税同盟と単一市場に同意するが、単一通貨や内政・外交、安全保障政策で合意する必要はない。異動の自由もコア諸国に求められるだけだ。外縁諸国には、コア政策に参加する権利はあるが、義務ではない。が異変諸国の性格も単一ではない。そのように柔軟なEUであれば、イギリスの再加盟も許されるだろう。

FT March 23, 2017

A Franco-German bargain to save Europe

Philip Stephens

独仏の合意でEUは実現した,という神話が,とくにイギリスでは強い.しかし,それは間違いだ.最初から,独仏は異なる目標を掲げ,その妥協によって合意を積み重ねてきた.

ローマ条約で,ドイツは共同市場を求め,フランスは核開発を強く求めた.ボンは工業製品の関税撤廃を求め,パリは農民の所得を守ろうとした.フランスにとって,単一通貨はドイツの経済支配を抑え込む手段であった.ドイツはマルクを放棄することを嫌ったが,ユーロは政治同盟に向けた過程であった.

イギリスの政治家たちは,独仏の違いを利用して,その関係にくさびを打つために時間を費やし,それに失敗しただけであった.

今もそうだ.


 ロボットへの課税

Project Syndicate MAR 22, 2017

Robotization Without Taxation?

ROBERT J. SHILLER

ロボット税に反対する声が強い.ロボットの定義は難しいし,生産性の上昇を妨げることになるからだ.

しかし,人々の職場が大幅に失われる場合,これを維持するために政府が介入することはコミュニティーが健全に維持されるために必要だ.ロボット化の外部性は課税の根拠となる.

あらゆる税には市場を歪める面がある.すべての人に,その支払い能力を無視して課税することはないからだ.ロボット税を否定するとき,所得分配の不平等化があらわれるだろう.累進性を高めるか,ベーシック・インカムを導入すれば,それは緩和できるが,政治的な支持を得るのは難しい.富裕層は増税を嫌うし,貧困層も政府支給で暮らすことを望まない.

ロボット化による不平等の拡大を是正するために,労働者の雇用に代わってロボットを導入することで得られる高所得に課税することは,その税収を失業手当や他の職場への移動を助けるために使うなら,政治的に支持される.


 中国の自由化と米中関係

FT March 13, 2017

China’s fixation on stability creates economic risks

Eswar Prasad

中国では習近平指導部の移行期にあって、経済に関するすべての面で安定性が最優先される。市場自由化から生じる浮動性を最小化することが政治的な要請なのだ。改革派の人々でさえリスクを取らず、敵を作らないようにしている。

矛盾するようだが、政府が管理を強化し、自由化を制限することは、長期的な経済の安定性を損なうのである。

市場自由化や浮動性を恐れるべきではない。効果的な規制や監督、信頼できる情報の流れ、規律ある財政・金融政策によって、市場を支えるべきだ。習主席は、市場の管理を廃止しながら、中国経済に対する支配力を高めることができる。

FT March 22, 2017

China and the US: an odd couple doomed to co-operation

Martin Wolf

米中関係の在り方によって世界の将来は変わる.アメリカは若く,現役の超大国である.中国は古代の帝国であるとともに,新興の超大国である.

今年の中国開発フォーラムで,中国人参加者から,アメリカを資本主義,民主主義,開放経済の成功モデルとして称賛していたが,世界金融危機,トランプの当選,保護主義はそれらを破壊した,と言われた.もちろん,西側の参加者は,中国の開放性は現実と矛盾しており,国家によるチャンピオン企業の育成やサイバー攻撃による技術の略奪を指摘するだろう.また,中国は開放性を支持するが,より大きな民主主義を許さないことに失望する.

しかし,明らかに,この不似合いなカップルは,グローバルな公共財の供給で協力するしかない,ということだ.グローバル・コモンズ,国際安全保障,安定した繁栄.それらがなければ,トランプの「アメリカ・ファースト」も,中国指導部の国民の福祉に焦点を当てることも,不可能である.そして驚くべきは,この点を中国政府の方が,アメリカ政府よりもよく理解していることだ.

来月の初会談を前に,彼らの議論を準備しよう.

1.米中が争えば,いずれの目標も達成できないことを確認する.それは軍事的な戦争だけでなく,貿易戦争でも言えることだ.

2.習は,トランプの中国理解が全くの時代遅れであることを理解させる.中国は人民元を安くしているのではなく,その価値を維持するために介入している.

3.トランプは,中国の産業政策が他国に対する破壊的な影響をおよぼし,他国政府の正当な関心事である,と確認する.相互依存した世界では,中国も他国の利益を配慮しなければならない.経常収支黒字もそうだ.同じことは,トランプにも言える.

4.中国は,トランプが求めるものを与えることができる.インフラを再生するための大規模な投資だ.

5.トランプはインフラ・ブームを求めているが,中国には最速のインフラ建設業者がいる.双方の利益は一致する.

対照的な2国ではあるが,その利益は共有される.開放型の世界経済を維持することもそうだ.しかし,リベラルな世界貿易のメリットをアメリカ大統領に説得するのは,中国の共産党指導者である.これほど破滅的な時代であれば,破滅的な手段も必要だ.


 北朝鮮危機

Project Syndicate MAR 13, 2017

China’s Road to Peace on the Korean Peninsula

MINGHAO ZHAO

米韓軍事演習に合わせて、北朝鮮は中距離弾道弾ミサイルを発射した。また、ロシアと中国が反対している、ミサイル防衛システムTerminal High Altitude Area Defense (THAAD)の韓国における配備をアメリカは加速している。

アメリカのドナルド・トランプ大統領が、選挙戦中には金正恩との直接対話を支持したにもかかわらず、北朝鮮への軍事的圧力を強めているのは明らかだ。トランプが対話する意志を持つとしても、基本政策や信頼できる政策協力を欠く政権には、その用意がない。

米韓の情報部は、北朝鮮が1016発の核兵器と1000基以上のミサイルを保有していると推測する。その軍事的脅威を取り除くには、アメリカと同盟諸国に深刻なダメージを与えるだろう。しかも、韓国の大統領は辞任した。

中国の役割は複雑だ。一方では、北朝鮮に石炭輸入を禁止する制裁を科した。他方では、韓国のTHAAD配備を自国への深刻な脅威とみなしている。まさに日本政府も、THAAD配備を急いでいる。

北東アジアにおいて冷戦思考が高まる中で、中国の外務大臣Wang Yiは、米朝の列車が衝突事故に向かっている、と警告した。中国外務省は、北朝鮮の外務副大臣と面会し、アメリカのティラーソン国務長官とも会談する。

中国は、北朝鮮の核廃棄とTHAADシステムの撤去とを結び付けた韓国外務大臣Yoon Young-kwanの提案に注目する。

NYT MARCH 15, 2017

Donald, Have I Got a Deal for You

Thomas L. Friedman

すべての大統領は,就任してすぐに,外交の試練を受ける.トランプも例外ではない.それは若いケネディ大統領が直面したものと似ている.その危機は「スローモーションのキューバ・ミサイル危機」と呼ばれてきた.主役は,フィデル・カストロではなく,残酷な専制君主である金正恩だ.

もしこの危機であなたが眠れなくなっていないのであれば,注意が足りない.

アメリカには,外交を知らない,筋肉を誇示し,Twitterで大ぼらを吹く大統領がおり,他方の,王朝的な,北朝鮮の政治カルト集団を率いる指導者,金正恩と対峙している.金正恩は,ロサンゼルスにも届く長距離核ミサイルを開発し,最近,血のつながる兄,金正男をマレーシア空港で2人の女性に毒殺させた.

この朝鮮ミサイル危機は「13日」よりも長く続いている.しかし,だからと言って,危機が屈曲点に達したことを無視してはいけない,とRobert Litwakは語った.「北朝鮮の金は,もうすぐ,アメリカを大陸間弾道ミサイルで核攻撃できる指導者になるだろう.」

われわれは知っておくべきだが,このヤドカリ王国の経済規模は,オハイオ州のデイトンほどしかない.それでも2020年までに,イギリスの核保有規模の半分で,アメリカ本土を攻撃することになるだろう.100発の核弾頭を保有し,日本,韓国,(そして中国)さらに太平洋を越えてアメリカも攻撃できる国になろうとしている.

この危機はトランプが創ったわけではない.クリントン,ブッシュ,オバマから引き継いだ.しかし,彼が解決するしかない.その方法は3つだ.「爆撃するか,沈黙するか,交渉する.」

北朝鮮の核施設やミサイル基地を爆撃すれば,第2次朝鮮戦争,そして核戦争になり,その結果,数百万人が犠牲になるリスクを冒すだろう.破壊された核施設からの放射能汚染も空前の規模であるだろう.爆撃するのでなければ,北朝鮮が世界的な核攻撃能力を持つのを黙認することになる.「交渉するしか選択肢はない.」

それはオバマがイランと合意したような内容になるはずだ.トランプはそれを「かつてない最悪の取引だ」と非難したが.

オバマは,基本的に,イランが核能力を高める実験などを15年間凍結することと,制裁の解除などを取引した.なぜなら,彼はこの15年間で,イランの政治体制が変化することを期待し,それに賭けたからだ.

北朝鮮に対しても,その核能力を抑え,イランと同様に,体制転換のための時間を稼ぐ,という取引になる,とLitwakは言う.金のカルトはこれを受け入れる.なぜならアメリカの侵攻を抑える最小限の核を保持したまま,権力の地位にとどまれるからだ.中国も歓迎する.なぜなら敵対する日本や韓国が核武装するのを抑えられるからだ.しかし,トランプは中国の協力を必要とするから,北京と貿易戦争を始めるのは考え直すしかない.

オバマケアと同じように,トランプは外交を学ぶことになるだろう.非難するのは簡単だが,取引は難しい.自慢できるような純粋な勝利は何もない.それはテレビのショーで起きるだけだ.


 ベーシック・インカムの実現

Project Syndicate MAR 21, 2017

Getting Basic Income Right

KEMAL DERVIŞ

ベーシック・インカムUniversal basic income (UBI)への関心が高まっている。その考えは新しいものではない。16世紀の思想家トマス・モアのほか、多くの者、右派のミルトン・フリードマン、左派ではジョン・ケネス・ガルブレイスがその変種を唱えた。現在、技術変化が雇用を破壊する中で、その解決策としてUBIは機能するだろうか?

UBIの魅力は3つある。1.すべての市民に社会的な基本「最低水準」を与える。2.人々は支援金を自由に使える。3.多くの社会支援プログラムが必要とする公務員を減らせる。さらに、UBIは職場を変わってもよいから、職場を頻繁に変わる者や短期雇用、自営業にも利用できる。

左派において、UBIは貧困を解消する手段とみなされている。リベラル派は、その支出が自由なことを支持する。UBIは、貧困国で支援策として実行されている。ラテンアメリカのさまざまな支援策は部分的にUBIを含む。

しかし、完全なUBIを実施することはむつかしい。多くの難しい問題があるが、最も顕著な問題は、市民にいくら支払うかだ。たとえば、アメリカで市民に年間2000ドルを支払っても、あまり効果はないだろう。しかし、1万ドルを支払うには、どれくらい多くの人に支払うかにもよるが、GDP1015%を要する。

失業手当、教育、医療、輸送、住宅への、既存の社会支援プログラムを削減することでバランスを取ることになるだろう。

デジタル技術により変貌した現代の労働市場では、UBIが職場間の移動性を高める点が注目されている。労働市場はますます流動化し、労働者は常に雇用を破壊され、新しい技術に適応しなければならない。それにはソーシャル・セーフティー・ネットが必要だ。

よほど極端なリベラル派でなければ、何の政策も示さずに支援金を渡すことを支持しないだろう。フランスの提案はこの意味で正しい方針を示している。各市民が社会的な勘定を持ち、ある意味で、償還できる「ポイント」を貯める。その口座により、各人は労働や研究、ある種の国民的なサービスに従事することで、実質的な公共的貢献を認められる。社会的な必要、特に、職業訓練や技量の習得のために、口座から支援金を引き出し、その額はあらかじめ決められた「価格」によって誘導され、一定の期間に一定額として制限される。

この方法は、一方における職場の移動、個人の選択と、他方における、社会政策の方針とを、適切に妥協させる試みである。それは、また、アメリカの社会保障制度と個人年金感情との両方の性格を含む。他方で、職業訓練を促すものだ。より柔軟な定年制と組み合わせるなら、これは現代の柔軟な社会的連帯のシステムに発展するだろう。

発展した経済には、より強固で洗練された社会的連帯のシステムが必要であり、その利用は個人の選択と職場移動が容易になることが望ましい。適切な妥協点が求められる。

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The Economist March 4th 2017

France’s next revolution

French politics: Fractured

Red tape in America: Doing deregulation right

Deportation: Oiling the machine

Los Angeles: Dense as in smart

Lexington: Leading v cheerleading

German defence: Eine deutsche Atombombe?

Free exchange: An impossible mind

(コメント) フランス大統領選挙が、ル・ペンとマクロンの対決になる情勢を、そのポピュリズム政治の構造的な要因にさかのぼって考察します。あるいは、アメリカとドイツの難民に対する国外退去に見られる違いは何を意味するか?

トランプ政権の主要なテーマは、移民排斥や貿易戦争だけでなく、規制国家の解体です。その正しい進め方が重要です。ロサンゼルスの反成長住民運動、トランプの指導力、ドイツの核武装、そして、ケネス・アローに関する記事が面白いです。

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IPEの想像力 3/20/2017

LAマラソンの朝,415分に呼んでもらったタクシーは来ず,私と息子は慌ててメトロの駅に向かいました.しかし,駅では早速,ゼッケンと荷物のビニールパックを手にする,同じようにマラソンの格好をしたランナーたちがいたのです.

まだ真っ暗でしたが、彼らはなかなか元気です。半分ほどしか聞き取れませんが、早速マラソンの話を楽しみ、トレーニングの予定など、情報交換しています。

「目標タイムは?」とPaulaは私に訊きました。「5時間」と,私が答えると、「え! あなたトレーニングしてる?」と言われました。・・・まったく。面目ないです。後で彼女のタイムを訊きました。3時間47分! ・・・まいったなあ。

ユニオンステーションに着くと、さらに何人ものランナーが歩いており、すぐ近くにシャトルバスが数台待機していました。大会のホームページでは、確か、事前にネットで予約して、受付会場でもらった黄色のリストバンドをつけておく、ということでしたが.大丈夫でした。胸に付けたゼッケンを示して、どんどん乗っています。

ドジャースタジアムに着くと、まだ暗い敷地に舞台があって、ロックバンドが演奏していました。カントリーやロックの名曲みたいです。入り口では、もちろん、セキュリティが荷物をチェックします。早朝の寒さもあって、防寒のために着ていたポンチョ代わりのごみ袋を捨て、走った後に着替える服を詰めた透明のビニールバッグを、ゼッケン番号に従って分類されたトラックに預ければ,ゴールまで運んでくれます.私と息子は,荷台の前に立つ女性にバッグを手渡しました。

さあ,準備完了です。

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なぜLAマラソンに参加したのか?

春休みに、読みたい本は山積みでしたが、1つでも読もうとしたら休みをすべて使い果たしても読み終わらないように思いました。何か論文を書くべきですが、その材料は乱雑なまま机の周りに集積し,事務的な書類と一緒に埋没しています。

それは,学ぶことや,教えることへの魂の問題です.

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Hollywoodにも行きました。メトロを乗り継いで、と思ったら、途中でメトロが停まり、全員にバスへ乗り換えるよう案内がありました。バスにも乗って、着いたハリウッドでは、映画スターたちの名前と星印を観ていると、・・・突然、バットマンか、スパイダーマンか、よくわからない真っ赤な扮装の男女に息子が巻き込まれ、驚きながらも、それはダイナミックなサービス産業の一部でした。面白い写真を撮っていいから、チップをはずんでよ、というビジネスです。

なるほど、周りを観ると、ほかにも、ちっとも似ていないマリリン・モンローや、「自由の女神」も歩いていました。トランプに先立つ「オルターナティブ・ファクト」かもしれません。あるいは “snake oil” ・・・日本なら、「ガマの油」売り?

メトロの駅を出たあたりで、キリスト教関係の布教パンフレットをもらいました。交差点には、20人ほど人が集まって、信仰を誇示する?プラカードを掲げ、スローガンを叫んでいます。ここは白人の町。トランプを支持する貧しい白人少数派が自己主張できる、親しい空間なのかもしれません。

ダウンタウンの中心部、The Last Bookstoreのあたりは、そうではないな、と思いました。有名な古本屋がある、と知ったら、行ってみないわけにいきません。メトロのPershing Squareから少し歩くだけで、前の歩道には汚れた荷物を置いてたたずむ人もいます。この書店は名物となりましたが、その周辺地域は、南や東に行くほど、「治安」の問題を抱える地域、Skid Rowなのです。

帰国後、The Economistの記事を読みました。都市の過剰開発を嫌う住民たちの運動が、ゾーニング規制や厳しい高さ規制をもたらし、結果的に、この町の人口密度を抑えたまま、広域的な開発とますます自動車に頼る社会を築いたのです。郊外都市のような近隣コミュニティーを守るため、と称して政治家たちが実際に求めていることは、「出ていけ “Keep out”」である、と紹介します。

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 “The Simpsons” “Snoopy”の漫画みたいに、まだ幼い少年たちが、テーブルを中央分離帯の芝生に出していました。テーブルには “Fresh Lemonade” とへたくそな文字で大きく書かれています。これはおいしそうだ、と私が立ち停まって、1杯ほしい、と手を出すと、彼らは大慌てで紙コップに入れてくれました。これが、アメリカで古典的な、子供たちの社会参加なのです。私は素敵な元気をもらい、きっと彼らも大いに盛り上がってくれたでしょう。

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