IPEの果樹園2017

今週のReview

3/6-11

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ヨーロッパ経済 ・・・トランプ政権の形成 ・・・トランプの雇用政策 ・・・アメリカ外交の原則 ・・・ロボット税 ・・・大西洋保守革命 ・・・オランダの選挙 ・・・移民政策の真実 ・・・ラテンアメリカ自由貿易圏 ・・・金正男暗殺 ・・・世界資本主義の危機 ・・・トルコの言論統制 ・・・北アイルランドとBrexit ・・・トランプのイメージ ・・・人民元と国際通貨

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


● トランプ政権の形成

NYT FEB. 24, 2017

The Islamophobic Huckster in the White House

By STEVEN SIMON and DANIEL BENJAMIN

ホワイトハウスは、聖戦主義者のテロリストと戦う司令塔にSebastian Gorkaを指名した。歴史的な文明の衝突を予言するStephen K. Bannon and Stephen Millerとともに、アメリカ大統領はイスラム教徒を適するハッカー集団に乗っ取られた。


● トランプの雇用政策

Project Syndicate FEB 25, 2017

How Imports Boost Employment

ANNE KRUEGER

ポピュリストたちは、製造業の「良い職場」が輸入や特恵的な貿易制度によって失われた、という。しかし、このような話は事実に反する。輸入も雇用を創るからだ。

まず、多くの職場は貿易に直接関係している。たとえば船荷を扱う仕事や、輸入材の卸売りや小売りで働く労働者のように。

2に、安価な投入財はアメリカの製造企業の競争力を改善し、その輸出を増やし、あるいは、国内市場を守る。第3に、外国からの直接投資は、アメリカ企業の投入財を安くし、研究開発費やその他の活動を助ける。

最後に、他国がアメリカに輸出することは彼らの所得を増やし、アメリカから輸入する資金を与える。輸出企業は一般に優れた熟練や給与をもたらす。

輸入がなければ、多くの職場が消滅する。海外の安価な未熟練労働者によって生産された輸入財に頼る企業は、それがなければ、それらを自分で生産するか、もっとコストのかかる国内企業から買うしかない。それは最終財の価格を引き上げ、あるいは、彼らの利潤を失わせる。ドイツや日本の製造業は、より安価な労働力のある国で投入財を生産させて、それを輸入することで世界市場での競争を可能にし、高度な熟練と高賃金の雇用を維持している。

低コストの輸入財は、アメリカ製造業の職場を「破壊」するのではなく、むしろ維持するのである。

こうしたダイナミクスを考えると、なぜ製造業の雇用が減少したのか? 1994年に成立したNAFTAのような特恵的通商条約が非難されている。しかし、製造業の雇用減少は1870年代後半から始まった傾向だ。それを部分的に説明するのは、企業が多くのサービスを外注したために、直接雇用が減少したように見えることだ。

しかし、多くのアナリストはこの問題を生産性上昇と結びつける。競争力を維持するため、アメリカ企業は絶えず新しい技術を採用するしかない。その需要が増え、生産量や付加価値が増えても、雇用は増えない。アメリカ製造業製品への需要がもっと急速に増えるか、あるいは、生産性上昇を抑制するしかない。後者の選択肢は、アメリカをもっと貧しくするものである。


● アメリカ外交の原則

NYT FEB. 25, 2017

What Does Steve Bannon Want?

By CHRISTOPHER CALDWELL

トランプ大統領は、政治をシステミックなイデオロギーで理解する人々にとって問題がある。彼はそのような形で方針を示すことを好まず、その能力もない。それゆえ、不可避的に、彼のストラテジストであるバノンがシステム的な思考を示すだろう。すなわち批判する者が言うように、「トランプ主義」というものは存在せず、この政権を理解する思考を探すとしたら「バノン主義」になるだろう。

バノンは63歳であるが、異端的なキャリアの各局面で研磨するような知性を高く評価された人物だ。すなわち、海軍士官、ゴールドマンサックスの企業合併専門家、娯楽産業の資金調達者、ドキュメンタリーの脚本家・監督、サイバー煽動放送Breitbart Newsの主催者、そして、トランプの大統領選挙運動幹部であった。彼が政治に全力でかかわるようになったのは911テロ攻撃の後であるが、その政治的な情念は、同時代の保守派がずっと前に失ってしまったものである。

バノンに対する多くの間違った立場が定義され、攻撃されている。彼は確かに、ある種の保守強硬派であるが、その批判は誤解や歪曲によるものだ。

バノンが主流派の共和党員たちと鋭く対立するのは、彼がナショナリズムを全面的に肯定することだ。彼は主権、経済ナショナリズム、反グローバリゼーションを主張し、その点で、Brexitの支持者や超国家的なEUへの敵意と共通する。彼は木曜日、保守派政治行動会議で、トランプ政権の哲学で中核になるのは、アメリカが、境界のない世界の中で、1つの経済単位以上のものである、という信念だ。それは「文化を持った国民」であり、「存在理由」である、と語った。

こうしたバノンのイデオロギーは、トランプの人気と同じく、そのルーツを世界経済への失望に持つ。しかしトランプと違って、バノンには、アメリカが主権をどのように失ったかについての説明、それについてなすべきことの詳しい考えがある。それはティー・パーティの活動家と同じだ。政府に入った規制者たちがアメリカ人民から民主的な権限を奪ったのだ。その規制階級は、今や、「行政管理国家」を形成し、クローニー資本家たちと同盟を組んで、権力と富を集めている。

バノンには歴史の循環理論がある。それは華麗なほどに簡明で、あるいは、危険なほど単純化されている。William Strauss and Neil Howe1990年代に2冊の本でモデル化した。その主張によれば、80年から100年の循環があり、概ね20年ごとの「高揚」、「覚醒」、「解体」、「危機」が存在する。アメリカ独立革命、南北戦争、ニュー・ディール。第2次世界大戦、そして、われわれは今、次の危機に入ろうとしている。2008年の金融崩壊に関して、the Strauss-Howe modelを使ったドキュメンタリー、“Generation Zero”を、バノンは2010年に発表した。その結論をHowe自身が述べている。「歴史には季節があり、冬が来ようとしている。」

バノンの見解は、過去10年ほどの保守主義の転換を反映している。彼の制作したドキュメンタリーにそれを観ることができる。レーガン大統領が共和党のヒーローだった。しかし、その5年ほど後、金融崩壊はハイブリッドを生んだ。バノンは“Generation Zero”で、サプライサイダー、自由市場派だけでなく、正統から外れた保護主義のニュースキャスター、Lou Dobbsや、投資マネージャーBarry Ritholtzの声を取り上げた。彼らは、自由市場が本当に自由なのか、と問う。金融危機の結果とは、「富裕層の社会主義、そして、他のすべての者には資本主義」であった、とRitholtzは言う。

2014年までに、バノンのイデオロギーは後者に集中するようになった。彼はAyn Rand派やリバタリアン的な資本主義を支持する客観主義者に警告する。彼らによれば、資本主義は人々を商品に変え、客体化する。しかし、バノンは言う。資本主義は、「ユダヤ=キリスト教的な」土台の上に据えねばならない。ビジネス界の方針に合った、政治資金を集めやすい自由市場の思想が、共和党の全体、そしてユダヤ=キリスト教の先入観、“a nation with a culture”を呑み込んだのだ。

しかし、有権者たちはこれ以上耐えられない。バノンはユダヤ=キリスト教文化をあまり語らないが、1つだけはっきりしていることがある。それはイスラムではない、ということだ。多くのアメリカ人と同じように、彼もイスラム主義を危険な敵とみなしている。オバマ大統領やジョージ・W・ブッシュ大統領はそれを宗教と区別したが、バノンは、イスラム圏の政治運動、宗教としてのイスラム教の拡大を、政府が阻むべきだと考える。

トランプ大統領は知識人の間で人気がない。閣僚には思索家がおらず、体制に迎合しない、革命派、あるいは、個人主義者と見られている。ワシントンの人々はバノンを敵視している。バノンが発する政策や混乱を、首都の多くの政策専門家たちは受け入れることが難しい。しかしバノンは決して妥協せず、原則を変えなかった。彼のボスは多数票を得たわけでもなかった。エスタブリシュメントはバノンを、社会的に受け入れられない、危険な存在とみなしている。彼は歴史家Ronald Radoshとの対話で、すべてを破壊する「レーニン主義者である」と語った(のちに否定したが)。

911テロ攻撃が彼を変えた。バノンと長く一緒に仕事をした脚本家Julia Jonesによれば、彼は軍人としての奉仕により世界観を得た。彼が最もよく使った言葉は「ダルマ」であった。それはヒンドゥー教の聖典の1つ、バガヴァッド・ギーターから得たものだ。Jonesは、政治的には左派・リベラルの知識人で、バノンがナショナリズムを受け入れたことを残念だという。しかし、バノンは無政府主義者ではないし、人種差別主義者でも決してない、と言う。

バノンが政治に関与したのは新しく、権威を無視する意志がある。信用を失った前世紀のイデオロギーを何も受け入れないが、歴史の循環理論は気に入った。しかし、それは控えめに言っても、まだ試されたことがない。彼はグランド・セオリーに魅了される政治的知識人であり、それは予測できない結果をもたらす組み合わせだ。

同様に、バラク・オバマも歴史の方向性、「円弧」(を描いて進む)を信じた。2つの歴史はともにナイーブで、非現実的と言えるだろう。進歩派は、歴史を多かれ少なかれ直線的とみなし、不正と闘うために政治に参加する。保守派は、歴史が循環することぉお信じ、次の20年、ないし80年を管理する役割を求めて闘う。そして、誰もがそうであるように、彼の仕事もやり直される。

FP FEBRUARY 28, 2017

Bannon’s Vision of the World Isn’t What Makes America Great

BY ANTONY J. BLINKEN

バノンが話した翌日、アメリカの外交官を最も長く務めた人物が国務省の引退セレモニーで、まったく異なる見解を示した。Dan Friedである。外交に40年間関わり、大使から国務次官補にまでなった。中東欧の自由化と西側への統合に重要な役割を果たした。

Friedは聴衆に、アメリカが例外的であるのは、19世紀末。閉じたヨーロッパ諸帝国の時代に、大国として登場して以来、開放型の、ルールによる支配を好み、その下で、共和制とビジネスの利益を重視するわれわれの民主的価値を実現しようとしたことだ、と語った。

われわれは、共有された血にアイデンティティのルーツを持つ、エスノ国家ではない。われわれの国家はアイデアに基づく。すなわち、すべての者が平等に創られた。そのアイデアを受け入れることでわれわれはアメリカ人になる。


● 大西洋保守革命

FT February 27, 2017

Le Pen, Trump and the Atlantic counter-revolution

Gideon Rachman

フランスとアメリカは、どちらも自分たちを例外的な国民だと考えている。しかし両国の歴史はしばしばよく似たパターンをたどった。1775-83年のアメリカ革命の後、速やかに1789年のフランス革命が続いた。歴史家たちの中には、18世紀後半を「大西洋諸革命」の時代と呼ぶ者もいる。

未来の歴史家たちは、21世紀初めについて「大西洋反革命」を叙述するのだろうか? 昨年11月にドナルド・トランプがアメリカ大統領に当選したことに続いて、今年の5月にフランスの極右政党National Front の指導者マリーヌ・ル・ペンが大統領に当選するかもしれない。

トランプとル・ペンの運動には多くのアイデアが共通する。イスラムへの敵意、ナショナリズム、ポピュリズム、保護主義、Brexitへの支持、ロシアに共感し、主要メディアを嫌う。どちらの指導者もグローバリゼーションや多文化主義以前の、より保守的な時代に時計を巻き戻す。そして憎まれている「リベラルなエスタブリシュメント」に対する反革命を提唱する。

フランスの経済・社会情勢は、トランプのケース以上に、ル・ペンにとって有利である。失業者はより多く、成長はより遅い。アメリカと違って、フランスにはEUによる財政規律が強いられる。だから主権を失ったという不満が強い。

フランスの政治エリートは腐敗し、国民の声を聴かない、というル・ペンの批判を証明するような行動を取る。中道・右派の統一候補François Fillonは汚職について正式に起訴され、カリスマ的な若い候補Emmanuel Macronは、エリートのさまざまな象徴を帯びている。ル・ペンはこうした弱点をテレビ演説で巧みに攻撃した。

従来、フランスの政治エリートの間には、戦後の大統領選挙で、極右候補に有権者の過半数は取れない、という前提があった。しかし、今、ル・ペンの高い支持率はそれを打ち破る可能性を示している。

フランスのエリートには目に見えて不安が高まっている。先週、パリで、2人の旧い友人が「移住するとしたらどこが良いか?」と話し合うのを聞いた。ル・ペンが当選するかもしれないからだ。トランプ大統領のいるアメリカ、EUを離脱するイギリス、彼らの選択肢は狭くなっていく。

NYT FEB. 28, 2017

The Enlightenment Project

David Brooks

グランド・ストラテジーのセミナーの最後に,Charles Hillはグラフを描いた.現在の出来事を歴史的な視点で見るために.

グラフの中心には,啓蒙思想を示す長い直線がある.それは,ジョン・ロックやイマニュエル・カントを含む,思想家たちだ.彼らは,人々が権力に盲目的に従って生きるのをやめるべきだ,と主張した.その代わりに,物事を基礎から考えること,事実を重視し,自分たちの前提や革新を疑って,再吟味することを求めた.

啓蒙思想家たちはその考え方を正二にも当てはめた.アメリカ憲法は,その著名な例だ.アメリカの建国者たちは,人民も,彼ら自身も信頼せず,それゆえ利益と利益とを対立させてチェック・アンド・バランスとする,支配システムを構築した.

20世紀に入って,啓蒙主義の指導者たちはそのプロジェクトをグローバル化した.EUNATOのようなルールに依拠した国際機関で,大国の脅威を抑え,バランス・オブ・パワーを維持したのだ.

啓蒙主義のプロジェクトは近代世界をわれわれに与えたが,弱点もあった.すなわち,1.その指導者たちが考えたほど,宗教や人種差別は消滅しなかった.2.人民を合理的なエゴイストと考え,政府は魂を持たない官僚が動かす,と考えたのは理解が浅かった.3.啓蒙主義のガバナンスは繰り返し崩壊した.

それゆえ反啓蒙主義の運動が強まった.かつてのマルクス主義者たち,ニーチェ主義者たちがそうだ.現在,金融危機,EUの緩やかな崩壊,イラクを経験したことで,再び反対思想が強まっている.ウラジミール・プーチン,習近平は,啓蒙主義の秩序から利益を得ているが,そのルールを破壊したがっている.ドナルド・トランプもそうだ.

彼らは人民の本能に美徳や知恵を観る.国家や民族の集団意識の神話的核心を重視する.歴史は協調に向かうのではなく,ゼロサムの紛争がもたらす破滅の循環である.ルールに依拠したシステムや国際組織,民主的な政治の妥協を敵視し,人民の意志を体現する強権的指導者の直接支配を求める.

リンカーンは,決して,魂のない官僚ではなかった.慈善,理性,忍耐という,啓蒙の方法を高めて熱狂主義と闘い,分断を超えて統一を求めた.彼は希望を持ったペシミストであり,闘いが長いことを認めたが,摂理と究極の正義を信じた.

多くの者が啓蒙主義の行動や制度を疑う今こそ,指導者たちは立ち上がって,そのプロジェクトを擁護しなければならない.


● オランダの選挙

NYT FEB. 27, 2017

Geert Wilders, Reclusive Provocateur, Rises Before Dutch Vote

By ALISSA J. RUBIN

イスラム諸国からの移民を禁止する、ヘッド・スカーフに課税する、コーランを禁止する。ソーシャル・メディアに頻繁に現れるが、現実には警察の警護に囲まれて生活している。選挙運動もめったに自分で行わず、毎晩、違う場所で眠る、と言われている。

極右のシンボルとなったGeert Wildersウィルダースは、ヨーロッパで最もリベラルな国、何世紀も宗教的な寛容や移民を歓迎してきた伝統のあるオランダに現れたという意味で、注目されるだけではない。彼とその政党が支持されることは、フランス、ドイツ、そしておそらくイタリアでも行われる重要な選挙で、極右がどこまで勢力を拡大し、それゆえ、EUの将来を決めるかを示す。ウィルダースは国民投票によるEU離脱Nexitを求めている。

53歳のウィルダースは、2004年に、彼を害する計画を警察が摘発した後、その警護を受けている。インターネットやソーシャル・メディアを通じて、ジャーナリストのフィルターを通さず、有権者に直接アピールしている。彼は非常に戦略的な政治家だ、と政治学者Sarah de Langeは見ている。巧妙で、論争がうまく、メディアを利用する。幻滅している市民たちに近づき、効果的に支持を集めている。彼らが言えないこと、言ってはならないとされていることを言う。

たとえ第1党になっても、ウィルダースは政権を得られないだろう。しかし、ウィルダースの政党は選挙で勝利すること、政権を得ることが主要な目標ではない。彼はすでにその政治的野心を実現した。オランダの政治を右派に傾け、少し前には考えられないことだ、移民流入を遮断し、EUを解体することを議論している。


● 移民政策の真実

Project Syndicate FEB 27, 2017

Refugees as Weapons of Mass Destruction

RICARDO HAUSMANN

カナダのハーパーStephen Harper首相は、2015年夏、4度目の政権を組織するように見えた。しかし、彼の保守党は338議席中の99議席しか取れなかった。代わって、トルドーJustin Trudeauが率いる自由党は184議席を取って、史上2番目の多数の議席を得た。

この急激な政治的転換は、何千マイルも離れた土地で起きた事件が起こしたものだ。トルコのBodrumで、シリアからのクルド人難民家族がギリシャに向かう船に乗ろうとしていた。その数分後、Rihanna Kurdiと彼女の2人の子供たちGhalib and Aylanは溺れていた。トルコの写真家が、海岸に横たわる3歳の少年Aylan Kurdiの死体を写して、その写真をTwitterに載せた。それは世界に衝撃を与え、ハーパーの政治経歴を終わらせたのだ。

バンクーバーに住むAylan Kurdiの叔母が彼とその家族をカナダに呼ぼうとしたとき、ハーパーの難民政策転換がそれを阻んだ。イスラム主義のテロから国民を守る政策転換が、突然、カナダ人の意識を問う政策に変わった。開放的な、同情心にあふれる社会を否定する政策転換として、ハーパーは高い代償を支払ったのだ。

物事は国境の南側で全く異なった。アメリカではトランプが勝利したのだ。彼は有権者にイスラム教徒の入国を阻み、メキシコ国境に壁を建設し、「国外追放のための部隊」を約束した。アメリカとカナダの国民が異なる反応を示した2つの理由が考えられる。

1に、不確実な状況における意思決定に関する考察だ。そこには2つの失敗の間でバランスを取る意識が働く。潜在的なテロリストが入国することと、罪もない外国人を阻止することだ。有権者たちは過去の記憶を基に、その適切なバランスを考える。パリやニースのテロを思い出すか、Aylan Kurdiの写真を思い出すか。記憶を操作することは、リスクの認識や政策の評価を変えることになる。

2の考察は、意識の問題である。多くの政策決定は、強い根拠を示すことで、無意識に行われている。たとえば、ジョージ・W・ブッシュがイラク侵攻を決めた理由は多くあっただろう。しかし、彼が主張したのは大量破壊兵器であった。それが最も容易に侵攻を正当化できたからだ。

イスラム教徒の入国を禁止すればアメリカを守れるのか? なぜテロリストが来る7か国を選んだのか? この政策は、あるいは、メキシコ国境の壁建設は、それ自体が重要ではない。こうした政策を決めたのは、トランプ政権の戦略家バノンであって、安全保障の専門家集団ではないからだ。

人々はそれを支持した。彼らは『われわれ』と異なっており、彼らが入ることで『われわれ』がもはや『われわれ』でなくなることを心配したからだ。


● ラテンアメリカ自由貿易圏

Project Syndicate FEB 28, 2017

Free Trade Without the US

ANDRÉS VELASCO

ラテンアメリカはトランプ大統領のアメリカ・ファーストに対して、どのように応えるべきか? 1つの可能な答えは、アメリカ合衆国抜きの自由貿易圏を創ること、である。

もちろん、このアイデアは全く新しくない。ラテンアメリカ諸国が2世紀も議論し続けてきた。しかし、1度も成功しなかった。1960年代には地域統合論が盛んだった。サミットが開かれ、条約も成立した。しかし、自由貿易は実現しなかった。1990年代初め、ジョージ・HW・ブッシュ大統領が、アラスカからティアラ・デル・フエゴまでの自由貿易圏を提唱した。アメリカは各国と条約を結んだが、実現しなかった。

良いニュースがある。地域的な自由貿易を阻んでいたこうした諸要因がすべて消滅した。

アメリカがいなくなれば、ラテンアメリカのビジネス界はついに自由貿易の時代に入る。私たちはトランプのナショナリズムと保護主義に感謝するだろう。


● 金正男暗殺

FT March 1, 2017

Kim Jong Nam killing spawns intriguing conspiracy theories

Jamil Anderlini

これまで金正男は北京やマカオで中国政府によって保護されていた。1つの説明は、最近、中国の国家治安当局で粛清が行われ、警護がおろそかになった、という説明だ。もう1つは、中国が北朝鮮に暗殺の機会を与えた、というものだ。

習近平は、ドナルド・トランプの行動が予測困難であることを懸念し、朝鮮半島から核を取り除くために金正恩の排除を決めた、という見方がある。最近、北朝鮮の核とミサイルの実験に対して、石炭輸入を禁止した。この措置に対して、北朝鮮の国営テレビは直ちに反発した。中国は金正恩が危険な人物であることを知っているから、彼の権力を奪うつもりはない、という善意を示そうとした。そのために、金正男暗殺の機会を示唆したのだ。

どのような事情が隠されているか、わからない。これは今の段階で、西側の外交官が考える陰謀説の1つである。


● 北アイルランドとBrexit

NYT FEB. 28, 2017

Northern Ireland and the Disunited Kingdom

By PETER GEOGHEGAN

衝撃的なほど、アイルランドと北アイルランドとの境界には何もない。310マイルにわたる境界のどこにも、標識や壁はないのだ。レーザーワイヤもなければ、検問所もない。

しかし、Brexit国民投票の後、アイルランド政治に境界が戻ってきた。2019年の夏までのどこかでイギリスがEUを離脱すれば、アイルランドはEUのフロンティアになる。分離の予想は、アイルランドに暴力と混乱をもたらす。そしてイギリスにも。

昨年6月の国民投票で、北アイルランドの空民の56%ほどがEU残留に投票した。しかし、連立政権の立場は分裂したのだ。IRAの政治組織であるSinn Feinは残留、連立相手のDemocratic Unionist Partyは離脱を支持した。北アイルランドの複雑な権力共有システムにおいて、2大政党が参加しなければ政府は機能しない。国民投票後、両党の関係は悪化した。

北アイルランドの住民の意思に反して、イギリスはEUを離脱しつつある。これは民主主義の赤字だけでなく、経済問題でもある。北アイルランドはイギリスで最も貧しい地域であり、経済的には、ますますアイルランド共和国に統合されている。特に農産物の取引がそうだ。

1998年のGood Friday Agreement以降、武力闘争は終わり、エネルギーの単一市場ができた。20年間で、静かに、北アイルランドのイギリス国民意識は衰退してきた。

メイが離脱後の境界をどうしたいのか、はっきりしない。北アイルランドの経済は、イギリス政府から毎年約100億ポンドの財政移転を得て、運営している。現在の枠組みでは、EUから2020年まで、毎年約6億ユーロの財政移転がある。離脱後がどうなるか、誰にも分らない。北アイルランドの人口バランスも不安定化する。1921年に分割されたとき、人口の3分の2はプロテスタントであった。今は、半数がローマ・カトリックである。

Brexitはイギリスに栄光を取り戻すチャンスであると宣伝されてきた。しかし、イギリス帝国の最後の残滓を急速に抹消しつつある。それは連合王国だ。

連合王国は常にプラグマティックな企画であった。それは通商的・軍事的な利益に関する参加意思の取引であった。帝国の領土として、ウェールズ、スコットランド、イングランド、北アイルランドは統合していた。その絆は急速に弱まっている。ウェストミンスター(イギリス議会)がますますナショナルなものになり、保守党はスコットランドでも北アイルランドでもわずか1議席しか持たない。

メイがその政治方針を根本的に改めない限り、彼女の国は2つのユニオンに分裂するだろう。


● トランプのイメージ

Project Syndicate MAR 1, 2017

The Three Trumps

JEFFREY D. SACHS

トランプのデマゴギーは、文明間の戦争が起きるという暗黒の世界観を持つ、トランプの首席ストラテジスト、スティーブ・バノンによって作られていると観る意見がある。暴力を最高水準に高めることで、トランプはアメリカ・ファーストの暴力的ナショナリズムを創り出そうとしている。それは第2次世界大戦後にニュルンベルグ拘置所からHermann Göringゲーリングが発した恐怖の公式に従うものだ。「民衆は常に指導者から提供された物を受け入れる。それは簡単なことだ。彼らが攻撃されている、と言うだけでよい。平和主義者には、愛国心がないと非難する。わが国が危険にさらされているのだ、と。それはいかなる国でも成功する。」

ウォーターゲートを経験した世代には、権力者の責任を追究することのむつかしさがわかる。秘密テープで暴露されなければ、ニクソンは弾劾を免れただろう。フリンの嘘がばれたとき、トランプの反応は、嘘ではなく、リークを非難することだった。ワシントンでは、そして多くの強権政治では、嘘は最後の手段ではなく、最初の手段なのだ。

権力を維持するため、デマゴーグが恐怖と暴力を駆使し、戦争さえ起こす意志を、決して過小評価してはならない。特にプーチンがトランプの支援者であり友人であるとしたら、その誘惑は強いだろう。


● 人民元と国際通貨

Project Syndicate MAR 2, 2017

Addicted to Dollars

CARMEN REINHART

世界GDPに占めるアメリカのシェアは、第2次世界大戦が終わったときから現在までに、ほぼ30%から18%にまで低下した。同じ時期に、中国のシェアは4倍に増えて16%に達し、新興市場経済は60%に達している。

グローバルな金融市場は、このバランス変化を反映していない。第2次世界大戦後のブレトンウッズ制度はUSドルを主要な準備通貨にした。1970年代まで、世界GDP3分の2がドルをアンカーにした。今もアメリカはその地位を維持している。世界の国の60%、世界GDP70%USドルをアンカーにしている。

生産と金融とのこの乖離傾向は顕著である。しかし、この問題は新しくない。国内目標(金とドルの均衡を守る)と、準備通貨を供給するアメリカの国際的役割との矛盾は、ベルギーのエコノミスト、トリフィンRobert Triffinがブレトンウッズのリスクとして予想したことだ。2度の切下げを経て、19733月、ブレトンウッズ・システムは崩壊する。ドルとその他の主要通貨との為替レートは変動し、ドルはさらに減価した。

今も、アメリカは他国からのドル需要に直面している。今はドルとのリンクはないが、それはアメリカの経常収支赤字、そして公的債務の増大と連動する。アメリカが債務の抑制をすることと、国際的な役割とが矛盾する。

中国は、この現代の「トリフィン・ジレンマ」を解決するように求めている。1つの可能性は、大幅なドルの減価でアメリカの経常収支赤字が消滅することだ。それは、中国など、主要なドル建て資産保有者が大きな損失を強いられる。それとは異なる可能性として、中国が新しい準備資産を供給する。このシナリオでは、準備資産の供給は世界で最も成長する地域のGDPに連動する。直接、人民元が準備通貨になるか、人民元を含むIMFSDRで、間接的に、準備資産の管理者になるか、IMFは後者を望んできた。

さらに、第3の可能性がある。US準備資産への需要が減少することだ。中国の資本逃避が起きるというのではなく、中国が変動為替レートや国内金融市場改革を進めるからだ。それは準備通貨をめぐる好戦的な姿勢を失わせる。

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The Economist February 18th 2017

The United Kingdom: Sliding towards Scoxit

Greece and the euro: Uphill task

China’s beleaguered liberals: The two faces of Mr Xi

Turmoil in the administration: Errant Flynn

Bello: A Peronist on the Potomac

Turkish-Russian relations: Getting into the bed with the bear

Charlemagne: French lessons in degagisme

Electric cars: Volts wagons

Free exchange: Not enough Europe

(コメント) グローバリゼーションの逆転ではないとしても、グローバルな危機の圧力に抗する集合的な試みが問われています。

イギリスがBrexitをすすめるほど、スコットランドの独立を求める声は高まるけれど、そのコストが増す。ギリシャの債務に対する危機と救済融資の再現が、IMFESMECB・欧州委員会との論争を深めてしまいます。中国の国際派・改革派と、リベラル派に対する弾圧、という2つの顔を持つ習近平をどう見るか。フリン辞任の政権混乱は、トランプの権力スタイルに根深く関係している。それは、ラテンアメリカの視点から、ありふれたペロニストである。

トルコとロシアとの関係緊密化をどう見るか。フランス大統領選挙で、にわかに注目を集めてきたル・ペンに対抗するマクロンは、アウトサイダーか。その転換コストに企業は苦しむが、電気自動車への移行は加速する。ヨーロッパは危機を通じて権力を集中し、必要な機関を整備する、と想定された危機の救済者ではなく、危機の犯人にされてしまった。

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IPEの想像力 3/6/2017

英米における反リベラルの「大西洋保守革命」に関するGeorge Rachmanのコラムを読んで、日本の憲法改正論と保守革命を連想しました。

退位を望む天皇の発言は、「人間宣言」(の再確認)として理解するべきだと私は思っていました。天皇の退位(法整備)について、日本の政治家たちが何を基準に議論しているのか、よくわかりません。ネット検索した中で、神保哲夫と宮台真司のマル激ライブ「なぜ天皇の生前退位がそれほど大問題なのか」を観ました。とても面白かったです。

天皇の政治性、あるいは、道具性について、彼らはむしろ肯定的に、(政治利用と区別した)純粋な形(日本の特異点)を彫琢しようとします。

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天皇の退位発言は政治的であり(だから許されない)、保守派から見て、アンチ・リベラルへの反対を意図したものではないか、と疑われました。2人は、そうではない(天皇の意図は保守派が恐れるようなものではない)と考えます。

神権政治の利用は、明治憲法でも、敗戦でも、支配エリートの側で了解され、現在まで続いていることだ。岩倉使節団以来、日本の政治エリートは(そして占領したアメリカも)唯一神の政治的な効用を知っていた。天皇は王Kingではなく、皇帝に近い神聖な存在である。その国に固有の特異点があり、人々が受け入れる神聖な意味を担う役割がある。近代の社会体制には存在しないはずのものを、現憲法は象徴天皇制として組み入れている。

小さなトライブ(血縁集団・部族)の狩猟社会から、大規模定住社会に変わったとき、秩序の装置を組み込む必要があった。それが一神教だ(神が見ている)。それを欠く大規模社会には、共同性、社会の意識、皆がそう思っている、という感覚がある。象徴天皇はこれを確実にする。しかし、その正しい意味で、天皇は日常の政治を超越していなければならない。

天皇は、個人として、戦後体制の矛盾を強いられた存在だ。「一般意思」の体現者として振る舞うことを受け入れている。あるいは、独裁者の志向性を持つ者が天皇であれば、それが大きく変わる。こうした、天皇の人柄によって支持されなければ続かないような現行制度の実効性・正統性・有効性は非常にもろく、危うい。

天皇には人権も自由もない。その人が天皇を辞めたい、というときはどうするのか? 歴史的には、普通に、譲位があった。しかし、現在の政治や制度は天皇に自由を認めない。日本国憲法そのものの矛盾になっている。天皇は憲法の一部でありながら、法の下の平等から外れている。

「事実性の車輪が回ること」(宮台は天皇制を維持する条件をそう呼ぶ)を維持できるか。天皇制は、心の内側から天皇への敬意を生み出すような、一人一人の国民を前提している。それが続くにはどうすればよいか? リベラルが合理性だけで判断すれば、敵味方の闘いに終わる。

また、「右翼」の考える天皇ではだめだ。天皇は、むしろ革命のシンボルである。天皇がいることで、新しい権力のもたらす秩序を(より平和的に)受け入れさせる。バークの保守主義とは異なる。

昭和天皇の崩御で覚醒したものの大きさは、それまで誰も予想できなかった。日本人はその奇妙な性格を持ち続けられるか。それは長所か、短所か、まだわからない。このエートス(に近いもの)はどのように心に宿るのか? 外国に行った日系人の2世や3世、日本に住む外国人にも生じるのか?

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私は神保・宮台ほど天皇の肯定的な意味を重視しません。天皇や皇室は、人として、生きることを否定されていると思います。

誰が皇室の男子と結婚するか? 皇族の信仰の自由や皇太子がLGBTである場合の皇位継承はどうなるのか? その政治的信条や人としての感情さえも抑制しなければならない生き方に、喜んで耐える人は、血縁だけで保証される個性・人格ではないでしょう。

David Brooksのコラム「啓蒙のプロジェクト」を読んで、日本の憲法改正論がその一部であってほしいと思いました。神であれ、王であれ、それは社会の歴史的な発明品であり、人々が従うかどうかは、十分に議論して決めるべきだ、と啓蒙主義者は考えます。

すべての人間は天皇である。ベルリンの壁や、ケインズ主義のように、こういう形で天皇制度の美点を国民的な合意に転換するには、神話の時代を政治的に利用することなく、近代社会にふさわしい柔軟な制度を明確に生み出すことでしょう。

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