IPEの果樹園2017
今週のReview
2/27-3/4
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国際機関と世界秩序 ・・・移民政策の転換 ・・・EUとグローバリゼーション ・・・トランプとプーチン ・・・トランプの経済政策 ・・・中国共産党の経済運営 ・・・トランプ・ドクトリン
[長いReview]
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● 国際機関と世界秩序
FT February 20, 2017
As big powers focus on home, they
need IMF and UN more than ever
Ian
Bremmer
世界の指導力に見られる危機はますます深まっている。グローバルな秩序を形成し、維持するアメリカの積極的な役割は、何にもわたって低下してきた。それはヒラリー・クリントンが大統領になっても継続しただろう。しかし、ドナルド・トランプはそれを加速した。
ヨーロッパは自分たちの問題を数え上げるばかりで、中国も、まだ、急激な経済変化の時期にあり、国内の政治的支配力を維持することに関心が向いている。アメリカ、ヨーロッパ、中国の間で価値観や利害が分散していることは、協力して行動する能力や意志を制限するだろう。
唯一の超大国も含めて、主要諸国が自国の利益を最優先する世界では、国連やIMFのような、多国間の制度が以前にもまして重要になる。諸国の政策担当者たちは、自分で対処したくないような非常事態が頻発する世界を生きるために、こうした国際機関の能力にもっと投資しなければならない。
確かに多くの限界があり、公平な批判も受けているが、国際機関の仕事は非常に重要だ。WHOや世界銀行を含む、国連の諸機関は、伝染病Ebola, malaria, the Zika virus and HIVと闘い、多数の子供たちに食料や医療、教育のサービスを届けている。貧しい諸国が融資を得て、道路や橋、港、学校、病院を建設している。それらは、予測できない、暴力的な世界において、不可欠のサービスであり、世界経済全体に貢献している。
IMFは1つの重大な問題を解決するために設立された。すなわち、金融危機の防止と拡大阻止である。それは世界経済や第3国を損なうからだ。IMFは、一時的に国際収支で問題が生じた国に融資し、その国を助ける。その代わりに、その国は、長期の経済パフォーマンスを改善するであろう改革を含むIMF融資プログラムに合意する。こうすることで、その国は世界経済に参加でき、貢献することを許される。それゆえ金融危機と闘い、経済を安定化する責任は、1国やいくつかの諸国にではなく、国際機関の加盟諸国に分担されるのだ。
しかしIMFは、マクロ経済政策に関する論争にもかかわっている。融資する改革の研究と分析を行い、所得分配の不平等化、緊縮策の効果、などを重視した。女性の役割、テロと金融、マネー・ロンダリングなどの問題も扱っている。その考察は、しばしば政治的な論争になるが、豊かな国にも発展途上諸国にも重要である。世界経済や個々人の役に立つ。他の誰がこのような仕事を引き受けるのか?
国際機関は転換点にある。新興諸国がその内部で十分な発言力を得ていない、と不満を強めている。彼らは改革を要求している。しかし、同時に、そのような改革は組織の決定にかかわる価値観が分散し、コンセンサスを弱めるだろう。このトレード・オフには容易な答えがない。それでも、協調行動が決定的な時期に、国際機関が協力のための最も重要なフォーラムであるのは間違いない。
トランプ大統領が国際機関を狭い目的に利用することは、アメリカが支配する、外交の道具であるという、国際機関に対する多くの批判を証明することになる。彼の行動は、国際機関の正当性を大幅に損なうだろう。
Bloomberg FEB 21, 2017
Tragedy of the Public Good: Why the
U.S. Shouldn't Quit NATO
Megan
McArdle
マティスJames Mattis国防長官がNATOの同盟諸国に、彼らが負担しないなら、アメリカはこの地域への関与を「弱める」と述べた。5か国しか目標に達していない。しかも、その防衛費は、大幅削減した諸国の分を補うには大きく足りない。それでも彼らは、アメリカの提供する安全保障を享受している。
ただ乗りの諸国は、アメリカに代金を支払うどころか、お礼も言わない。それどころか、彼らはアメリカの膨大な軍事予算を非難するのだ。
マティスの発言はその通りだと思う。しかし、逆に、アメリカしか安全保障を提供できないのは、イラク侵攻のような、愚行にもつながる。もちろん、アメリカほどの軍事的優位があれば、もっとひどいことをする大国を想像することも可能だ。ここはユートピアではない。
より公平な分担で、多極化した世界を想像するとしたら、それは第1次世界大戦に少し似ている、と歴史家は言うだろう。しかし、その結果は、毒ガスや、都市を消滅させるほどの爆弾であった。
残念ながら、軍事費は、エコノミストたちが言う「公共財」の原初的な例である。すべての者が利益を得るが、誰も排除できない。公衆衛生を考えればよい。HIVを地球上から撲滅する公衆衛生に投資することは、世界にとって非常に有益である。しかし、誰がそれに支払うのか? その投資から回収できる利益は何もない。
公衆衛生、防衛、犯罪対策、これらは公共財の古典的なケースである。しかし、合理的に考えるなら、利益だけ受けて、その費用は他人に支払わせるのが正しい戦略だ。あなたがフリーライドできる間は。すべての者が最適な戦略を採用するなら、その結果は誰も利益を得られないことになる。ここに政府が介入し、公共財を供給して、すべての者に支払わせる。
アメリカには連邦政府がある。しかし、NATOには問題が解決できない。その負担を引き上げる5か国を観れば、2国(米英)は厳密な自己利益による合理化の範囲を超えている。他の3国(ギリシャ、ポーランド、エストニア)は、NATO非加盟国と国境を接しており、彼らの軍事力を超える衝突が起きることを心配している。ポーランドやエストニアがロシアの侵攻を退けることは全く望めない。
軍事力の整備には時間がかかる。アメリカだけが十分な投資をしてきた。なぜならアメリカは世界に公共財を提供すると決意したからだ。もしアメリカが孤立主義になれば、各国は軍事役割を引き受けるだろう。しかし、それが間に合うには長期間を要する。
国際機関が介入するだろうが、彼らは支払いを強制できない。領土的な国家だけが課税できる。アメリカがNATO加盟諸国の負担を求めて脅すとき、彼らだけでなく、自分の利益も損なう。
Project Syndicate FEB 22, 2017
The WTO Reborn?
ARVIND
SUBRAMANIAN
これからWTOが再び重視される理由が3つある.1.他の貿易協定が衰退すること.TTPもTTIPも進展しない.2.有権者が統合の深化を支持しない.NAFTAもEUも,さまざまな規制を共有したが,有権者の反発を招いた.イギリスのようにEUを離脱すれば,WTOが重視される.3.トランプ政権が保護主義を強めている.アメリカとの紛争が増えれば,WTOによる処理メカニズムが活用されるだろう.
私はかつて本で,新興諸国が登場する上で多角的な国際機関が重要になる,と書いた.それは旧大国の衰退についても言えることだ.国際機関があれば,バランスが変化する過程で,紛争を抑制できる.
WTOの復活は,自動的に起きるのではない.中規模諸国が積極的に支持することで実現する.すなわち,Australia, Brazil, India, Indonesia,
Mexico, New Zealand, South Africa, the United Kingdom, and possibly China and
Japanである.これらの諸国は(中国を例外として)市場規模が大きくない.集団的にのみ,開放市場を守ることができる.
世界は,ハイパー・グローバリゼーションから,多角的な国際主義に移行する.
● 移民政策の転換
Bloomberg FEB 23, 2017
Why the Dutch Turned Against
Immigrants
Leonid
Bershidsky
アムステルダムの東の端、IJburgに引っ越したXandra Lammersはブログを始めた。IJburgは、湖の中に築かれた、埋立地と水上にある興味深い土地だった。しかし、ブログは興味から挫折感に変わっていく。イスラム教徒の移民たちと暮らすことへの不満である。
「以前は労働党に投票した」と、Lammersは言う。しかし、「それが政治的に正しいと思ったが、今では違う。」 彼女は、反移民、反イスラムを唱えるGeert Wildersウィルダースの政党PVVを強く支持している。彼女は、ナショナリストの作家Joost Niemoellerの新著"Angry"にも登場する。ウィルダースの選挙戦を支えたthe Angry憤慨する者たちは本当に存在し、アメリカでトランプに投票した人々と同じく、社会の分断した現実に根差している。そこでは社会的、文化的な統合化が重大な障害に直面している。
通訳者の事務所を運営していた彼女は、アムステルダムの激しい地価高騰で、都市中心部を追い出された。彼女が夫とIJburgの住宅を買ったとき、不動産業者は、近隣地区が「社会実験」をしているとは言わなかった、と。市当局は、中産階級の住宅保有者や社会住宅の経営者に革新的な都市計画を促していた。最初、そこは村に住むような、よく似た社会背景を持つ人々で、すぐに互いを知るようになった。しかし、その後、移民たちが引っ越してきた。彼らの安価な住宅が破壊され、郊外から移ってきたのだ。
「われわれは、ガーデンやエレベーターを共有する必要がある。」 そして嫌なことが起き始めた。自動車に傷がつけられ、エレベーターにおしっこをする、といったことだ。「私の通りには、イスラム過激派のモスクがある。」 移民の隣人たちは彼女のブログを知って、モロッコの若者たちから彼女は通りで罵声を浴びた、という。アムステルダム市役所によれば、IJburgは若者の犯罪率が高い地区の1つである。
アムステルダムの中産階級はもはや都市中心部に住まない。ジェントリフィケーション(再開発による高級化)と旅行者の流入が増えたためだ。また、比較的安価な居住区には、トルコ、モロッコ、スリナム、オランダ領アンティル諸島からの移民家族が移ってきた。「街の雰囲気は変わった。もはや人々はこの地区に愛着を感じない。」
ウィルダースは同じような社会変化を経験して、反移民の政治家になった。1980年代、90年代に、彼はユトレヒトの近隣地区Kanaleneilandに住んだが、そこは完全に白人だけの住民から、国際的な地区になり、その後、イスラム教徒が支配的になった。イスラエルの極右を長く称賛していた彼は、こうした変化をイスラム教徒のせいにした。彼や支持者たちにとって、モスクは「憎悪の宮殿」、北アフリカ出身の泥棒は「テロリスト」である。
ウィルダースの支持者たちは、町がイスラム教徒に占拠されている、と言うが、彼らはそう感じていない。30年前にトルコから移住してきたMuratは、1980年以来、アムステルダムの東に灌漑してできたAlmere市に住むが、そこは多くのエスニックが暮らし、住民の約30%は移民である。ウィルダースのPVVが市議会の最大政党になっている。「もし自分が書いたら、いやな思いをしたことは分厚い本になるだろう。法を犯してないのに、髪の毛が黒いだけで、何度も通りで止められ、自動車から引き出された。」 「貯蓄ができたらトルコに帰りたいが、職場でも差別されて低賃金であるから、貯まる見込みはない。」
さらに、第3の観方もある。「左派のエリートたち」である。ウィルダースは強く非難するが、その支持者にも共通の基礎を求めている。イスラム教徒のことは、「要するに隣人だ」と答える。その世界観も事実に依拠したものだ。オランダは安全な国家なのだ。アメリカに比べてレイプは3分の1、殺人は5分の1である。ヨーロッパの水準で観ても安全である。
問題は、これら3つの観方が、一定の正当性をともない、混じり合っていることだ。オランダの歴史は支柱化された社会a pillared societyを創ってきた。カソリックとプロテスタントが一緒になった国で、現実には、互いに干渉せずに生きてきた。「無気力としてのリベラリズム」である。この伝統の上に、第2次世界大戦後の再建に、移民労働者も入ってきた。彼らは仕事が終われば帰国するはずだった。しかし、もちろんそうはならず、統合化もされなかった。
「オランダは分断された社会だ。」と、ウィルダースは言う。教会も、学校も、パブも、分断されている。互いが出会うのはサッカーチームだけだ。異なる新聞を読み、異なるテレビ番組を観る。ウィルダースの支持者たちは、移民たちが受け入れ社会の文化に適応するように求める。それは、オランダの場合、ゲイの結婚、堕胎、安楽死、を受け入れることだ。移民たちは何も言わないが、街角のパブを閉めて、ハラルの肉屋が開く。左派は、異なる教会を受け入れているように、もっと異文化に寛容になるよう求める。
ウィルダースが政権を執ることはないだろう。しかし、「われわれの変化は神秘的なものだ」と彼は言う。「われわれは60年代にリベラルになった。安楽死を受け入れた。だれにもそれがなぜ起きたかはわからない。同じように、イスラムが深刻な問題だ、と思うかもしれない。」
振り子はすでに動きつつある。
● EUとグローバリゼーション
VOX 22 February 2017
European integration and populism:
Addressing Dahrendorf's quandary
Marco
Buti, Karl Pichelmann
EUは、グローバリゼーションの破壊的な効果から市民を守る制度ではなく、むしろグローバリゼーションの推進機関とみなされて攻撃されている。
各国はグローバリゼーションに参加することで経済成長や機会を得ようとしている。しかし、グローバリゼーションの過程で生じる分配の不平等を緩和する政策を、各国政府はますます失いつつある。ポピュリストたちはEUを非難して、国家の自立や国民の文化を守る、主権を取り戻せ、と主張する。かつてダーレンドルフRalf Dahrendorfが警告した問題、グローバリゼーションと社会的結束、政治的自由、これらが対立することが深刻な政治問題になっている。
金融危機とその後の混乱は、潜在的にあった人々の不満を爆発させ、民主的な制度への信頼を破壊した。ポピュリストたちは「エリート」が不当に利益を手に入れ、社会への負担を無視している、と批判する。この意味で、EUの政策は市場に偏っている、社会的な諸劇を軽視し国家や地方、住民にとっての結束、連帯感、自律性を破壊している、と言われた。
異なるエスニック、文化、宗教を持つ移民が増えることで、「ネイティブ・アイデンティティ」に関する不安が高まっている。それは容易にポピュリストに利用される。ポピュリストたちは政策の違いを議論しない。それは民主主義において非常に重要なポイントであるが、彼らが主張するのはむしろ、「エスタブリシュメント」に反対し、彼らだけが「本物の民衆」の声を代表する、ということだ。「われわれ」、正直な(この国に生まれた)普通の人々が、腐敗した「エリート」に対比される。こうしたアイデンティティによる政治は、バウマンZygmunt Baumanが「流動化」と呼んだ現代社会において、社会の構成物を脅かすさまざまな危険に置き去りにされた人々に対して、強いアピールになる。
EUはありふれた「パンチ・バッグ」になった。EUは、反対意見を生かして、統合に向けた影響力を強めようとしている、しかし、EUは両方から攻撃されるのだ。一方は、純粋に経済的な視点で、他方は、文化的な「ネイティブ・アイデンティティ」の視点で。EUによる再分配は十分に行えず、むしろグローバリゼーションを推進した、不平等拡大の犯人にされてしまう。同様に、多様な社会の対立緩和を透明な意思決定で行うことは、実際にはむつかしい。金融危機でも、難民危機でも、躊躇と不完全さに満ちた対応策について激しい論争が続く。
FP FEBRUARY 23, 2017
It’s Time for Europe’s Militaries to
Grow Up
BY
STEPHEN M. WALT
ヨーロッパ諸国の多くがGDP2%の防衛費を予算化しないとき,アメリカがGDP3.5%mo防衛費に支出することは間違っている.ヨーロッパに覇権国が現れる可能性はない.それゆえ,アメリカは撤退しても,それによってヨーロッパの安全保障は悪化しないだろう.
ユーロ危機も,ポピュリストの台頭も,アメリカの軍事的な関与が解決できる問題ではない.ヨーロッパ諸国を説得できない時は,アメリカが積極的に撤退して,ヨーロッパに委ねればよい.ヨーロッパ諸国の指導者たちは,自ら解決する方法を学ぶ時期である.
● トランプとプーチン
NYT FEB. 18, 2017
Our Putin
By
SUSAN B. GLASSER
2001年6月18日、私はウラジミール・プーチン大統領のアメリカ・ニュース・メディアとの最初の会見に出席した。われわれはクレムリン図書館の巨大な円卓に座っていた。何時間とも感じるほど待ってから、プーチンは午後8時を少し過ぎて現れた。そして深夜まで質問を受けた。
私の番が来て、チェチェン南部の分離主義者との野蛮な戦争について私は質問した。彼の長い答えは、その後の年月において衝撃的な内容となった。それは、メディアを攻撃し、反イスラム感情を示し、ロシアの他の地域を安全に保つためにチェチェンを攻撃している、というものだった。夜も遅くなるにつれて、彼はアメリカに世界の真の脅威、イスラム・テロリストに対するアメリカ・ロシアの共同作戦を提案し、また、これまでの数十年に起きた経済破壊を逆転する愛国的な計画を主張した。
よく知っている話ではないか? プーチンの2001年にさかのぼるスローガンは、ロシアを再び偉大にする、であった。
さまざまな陰謀論や心理分析が議論された。しかし、就任式から、われわれは多くの事実を観てきた。大統領となったトランプの主張や行動は、プーチンが権力を確立する数年間と、見過ごせない多くの類似を示している。外国特派員として過ごした数年間、そして私はそれ以前の4人の大統領の政権とワシントンでジャーナリストとして取材したが、両社の類似性は決して看過できない、と言いたい。
メディア攻撃、憤慨した声明。司法であれ、企業であれ、自分に従わない権力を攻撃。パニックを呼ぶような警告。この国は安全ではない。われわれはイスラム過激派と戦争しなければならない。彼らはわれわれの生活に脅威となっている。これらはプーチンが書記の権力確立に使った方法であった。
証拠があるにもかかわらず、2000年に入ってもクレムリン・ウォッチャーたちは、プーチンが独裁的な権力者になるとは思っていなかった。当時は、ソ連崩壊後の混乱を過ごして、ようやく安定に向かうと思う人が多かったからだ。強硬派の、元KGBスパイが強権的な国家を復活させるということはあったが、西側のスタイルによる改革派であろうという者もいた。
今、思い出せば、プーチンの声明こそが、その後の行動をすべて示していたのだ。クレムリンの権威を確立すること、それが目標であった。この点こそ、トランプがプーチンを称賛する理由でもある。
多くのロシア人は、まだ、自国がもっと西側諸国に似てくると期待し、西側に訪問することも禁止されるような事態を考えていなかった。
17年経ってロシアの民主主義が存在するか、という問題は考えなかった。アメリカはどうか?
● トランプの経済政策
Project Syndicate FEB 21, 2017
Making Crises Great Again
JEFFREY
FRANKEL
トランプ大統領がドッド=フランク金融改革法の全面的な見直しを求める大統領令を出した.政府の目標は,規制システムを大幅に縮小することだ.これは危険な行為である.
ドッド=フランク法の主要な中身は,銀行に高い自己資本比率を求め,金融消費者保護局を設け,金融システムに重要な影響を及ぼす金融機関を特定し,銀行に厳しいストレス・テストを要求し,デリバティブに高い透明性を求めるものだ.これらを取り除き,あるいは,弱めることは,2007-2008年の金融危機が再発するリスクを高める.
規制を改善することはできるだろうが,金融業界が思うほど,トランプ政権がそれをうまく実行する保証はない.逆に,すでにトランプは規制を改悪している.それは,いわゆる信託ルールの見直しだ.投資顧問が,金融機関の利潤ではなく,消費者の最善の利益を実現するように行動することを求める.規制は4月から発効する予定である.
この規制にもマイナス面はある.たとえば,あまりにも頻繁な取引は取引コストを増やし,望ましくない.この点でエコノミストが推奨するのは,インデックス・ファンドなどを使って,貯蓄を分散投資することだ.専門的な投資顧問も必要ない.
優れた投資顧問もいるが,中古車市場のように,それを見分けることは難しい.信託ルールは予定通り実施されるべきだ.
● 中国共産党の経済運営
NYT FEB. 22, 2017
How the Communist Party Guided China
to Success
By
IAN JOHNSON
ベルリンのthe Mercator Institute of Chinese
Studies (Merics)所長である中国研究者のSebastian Heilmannによれば、非常に分散した、遠隔地のシステムを支配する共産党の、革命を組織した歴史が、現在のような組織と行動に反映している。
Heilmannは、共産党による問題解決の興味深い具体例を多く挙げている。それは、公共財の供給、と呼ばれる問題だ。医療システムや食料を確保することは、イデオロギーの違いに関わらず、世界中の政府が取り組む問題である。
中国の特徴は、共産党の組織を利用することだ。西側では、政策を決め、法律を通して、公務員が実行する。しかし中国では、政策の実施は党員に依存している。彼らは達成するべき明確な指標や目標を与えられ、実現を求められる。政策はトップ・ダウンで決められ、法律ではなく、共産党組織を管理する。
中国の成功を、どの程度、共産党の政治システムによって説明できるか?
いくつかの重要な要素がある。1つは、共産党が長期的な政治目標を決めることに成功したことだ。産業や技術の近代化、インフラの建設、など。1980年代にケ小平が明らかにしたように、共産党は資源を優先目標に集中することができた。それは初期の、すなわち1980年代から2000年に入って数年間の、発展の強さであった。
もう1つの重要な要素は、(政策)実験である。中国の深く組織化された官僚システムは、予想以上に弾力的である。この弾力性(柔軟性)は、経済特区におけるパイロット・プロジェクトの実施能力に示される。地方のレベルで、住宅改革や国営企業の破産処理が実験された。全国で法律になる前に、数年にわたって、特に困難な手法はパイロット・プロジェクトにおいて、規則的なテストを課される。
重要なことは、社会主義的な官僚システムがこうした適応能力を示すのは東欧に見られなかった、ということだ。この特徴は中国共産党が権力を掌握するまでの歴史的な経験によって生じた。共産党は、非常に分散した、連続していない地方を支配していた。だから土地改革でも、実験的に、地方に分散して実施した。この点がソ連とは全く異なる。
実験に対する姿勢は、ケ小平から江沢民の時期と、習近平指導部との違いでもある。
習近平は、「トップ・レベルの設計」ということで、地方の実験を終わらせた。それが汚職の蔓延と規律の欠如をもたらした、というわけだ。今や、すべての政策を中央で承認される必要がある。しかし、そのことは政治システムから多くのエネルギーを奪うだろう。
中国の成功により、権威主義体制の、非リベラルな国家による解決策を正当化するのは間違っている。他の諸国には、中国の歴史的な経験を経た共産党がないからだ。また、今後の中国共産党が、弾力性を失った階層秩序を強める中で、ショックに対して脆弱になることが懸念される。
経済の拡大に失敗しても、西側の人々は政府を交代させればよい。しかし、中国ではそれができない。軍事衝突やナショナリズムの高まりは、人々の思う以上に政治的混乱を生じる。
● トランプ・ドクトリン
NYT FEB. 21, 2017
This Century Is Broken
David
Brooks
20世紀後半は,世界戦争も,大恐慌もなく,内戦や疫病の蔓延も少なかった.しかし,21世紀は違うようだ.エスニックなナショナリズムが高まり,民主主義は信頼されず,世界秩序が解体しつつある.
トランプの抵抗することより,アメリカ人はもっと深刻な問題を解決しなければならない.アメリカの成長が減速しているのだ.Nicholas Eberstadtが示したように,1948年から2000年まで,1人当たり所得は年平均2.3%で成長した.21世紀になって,それは1%に落ちた.2009年以降でも1.1%でしかない.
低成長はすべての緊張につながる.機会が失われ,楽観が消え,ゼロサム的な,奪い合う姿勢が強くなる.ドナルド・トランプが顕著に示している.多くの者が仕事に就けない.麻薬への依存や長期の禁固刑に服しているものが増えた.白人労働者の57%が,政府の就労不能な分類いずれかに属している.
アメリカは,よりダイナミックになり,同時に,より弱者を保護しなければならない.しかし,減速する中では,保護する力も失われる.Tyler Cowenが示すように,アメリカの庶民はかつての生気を失いつつある.
アメリカ人は冒険を好まず,より静的になっている.かつて機会をつかむために,移住し,生活スタイルを変えたアメリカ人が,ますます州を超えて移動しなくなり,起業することも少なくなった.アメリカの技術革新も衰えている.
2人は,異なる仕方で,アメリカの衰退,分裂,失望,悲哀を描いている.経済は減速し,社会は不満を強め,リスクを回避するようになる.
だれが,成長を再生する刺激的な計画を持っているのか? もしトランプの計画ではないとしたら,それは何か?
● トニー・ブレアの反Brexit演説
Project Syndicate FEB 24, 2017
The Battle for Britain
TONY
BLAIR
(2月17日,トニー・ブレアはBrexit論争を再開することを求める演説を行った.その重要性に鑑み,ここに演説テキストの全文を載せる.)[ただし,以下は概略の紹介.]
イギリスの人々はEU離脱を投票で決めた.その意志は実行されねばならない.しかし,人々はBrexitの条件を知らなかった.それが明らかになれば,その決定を変える権利も持っている.
われわれの前にあるのは,残念ながら,国民投票が示した単純なものではない.イギリスが進んでいる道は「ハードBrexit」ではない.「いかなる犠牲を払ってもBrexit」である.
メイ首相やハモンド財務大臣の説明は,9か月前と大きく異なっている.メイは,国民投票に向けて,離脱がこの国にとっていかに悪いことか,経済,安全保障,世界に占める役割を損なうと指摘した.今,彼女は,イギリスが偉大さを発揮する「今の世代に1度きりの機械」であるという.
矛盾のがらくたが示すのは,メイとその政権が事態をコントロールしているのではない,ということである.彼らはバスを運転しているのではなく,操縦されている.ここには重大な論争が欠けたままである.なぜこれを続けることがよいのか,ということが問題だ.Brexitのキャンペーンで医療保険に使うといった毎週3億5000万ポンドの支出はどうなったのか?
確かに,イギリスの中にはヨーロッパからの移民流入や,公共サービス,賃金への影響を懸念する声がある.しかし,メイは最近,イギリスが必要としている移民について認めた.残りの8万人のうち,3分の1がロンドンに来て,食品加工や医療・介護の職に就く.彼らがロンドに外でイギリス生まれの人々から職を奪うこともありそうにない.
移民は,この国の安定性を脅かす,恐ろしい人々なのか? そうではない.全体としてみれば,彼らは勤勉で,税金を支払い,経済的な利益をもたらす.
ヨーロッパ以外からの移民がBrexitに影響したことは確かである.異なる文化圏から来た,同化しにくい人々だ.かつて,さまざまな問題についてバランスを取る議論が行われたが,今やBrexitとは移民の流入を管理することだけである.
しかし,国民投票が権限を与えたのは,「いかなる犠牲を払ってもBrexit」ではない.
もしわれわれが真に議会制民主主義を信じ,1度の国民投票で政府を決めたのではないなら,それに至ることだけが問題ではない.と指摘するべきだろう.なぜするのか? そのコストはどうか? それに伴う痛みに値するのか?
単一市場を失い,EUにおける影響力を失う.かつてない複雑な交渉を行う.ポンドの価値は下落し,われわれの経済は貧しくなる.
これらは看過できない.しかし,Brexitは政治が人々の不満を無視したから起きた.中欧の政治が問題に答えを示さない時,過激な主張がそれを利用する.しかし,政治の役割は,不満に応えることであって,それに同調することではない.
メイ政権が乗るバスを動かしているのは,Brexitのイデオローグたちだ.ヨーロッパの外でイギリスが経済を動かすとしたら,税率の低い,規制の少ない,オフショア・ハブとしての機能である.メイがヨーロッパの隣国を脅し,イデオローグが主張している.それはビジネス界が政府に求めるものだ.しかし,イギリス経済,税制,福祉のこのような再編成を,Brexitに投票した人々は望んだのか? 多くの有権者は,それとは逆に,もっと公平な資本主義,労働者に良い報酬をもたらす約束だ,と思っただろう.
右翼のメディアを含むBrexitの政治同盟は,プロパガンダを駆使して,さまざまな勢力を効果的に集めた.他方,労働党の弱さが,反対する声を彼らが無視するのを許している.
彼らは,人民の意志を変わらないという.それは変わる.EU離脱は避けられないという.それは回避できる.反対派は多数の国民の声を表しているし,国家を分断しているのはBrexit派である.
われわれは真の国益に従って行動するべきだ.
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The Economist February 11th 2017
Courting Russia
Financial regulation in America: The litter of the law
Russia and America: Champions of the world
Lobour mobility in Asia: Waiting to make their move
Israel and Palestinians: The ultimate fantasy
The Dutch election: Act “normal” or get out
Free exchange: It’s been a privilege
(コメント) アメリカとロシアの関係が改善するには,さまざまな問題が関係しています.金融規制に関するトランプ政権の姿勢も,中東和平やイスラエルとの関係も,疑わしいものです.
しかし,特に興味深いのは,アジアにおける労働力供給の大きな差異を地域間で移動させることで調整する,そのための政策が必要であること.オランダの総選挙がヨーロッパ移民政策に関する論争や政治的バランスの全体的移行を予告すること.トランプが語らない最も重要な「アメリカ・ファースト」の要素が,ドルの世界的な特権的地位をどうするのか,ということです.
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IPEの想像力 2/27/2017
2004年3月15日のReviewに書いたことが問われます。
「私の孫たちは多言語を話し,諸外国に散って,多くの隣人が不思議な音楽や食事を楽しみ,中には同性のカップルや,集団で養育を分担する集合家族が,緑の豊かな公園で談笑する.街のあちこちで,さまざまな宗教的儀礼による祝祭と葬礼が催されている.」(『グローバリゼーションを生きる』)
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オランダ人は非常に合理的で,講演会など,話が面白くなければ,さっさと退室してしまう,と読んだことがあります.Brexitに続いて,オランダが離脱するか,と注目されています.自由党PVVのウィルダース党首が,反ユーロ(反緊縮政策),反移民,反イスラムを掲げて,支持率トップになっている,と伝えられているからです.
オランダと言えば,運河のある,小さな国です.チューリップや風車の国,低地帯という国名のように,湿地や沿岸部を埋め立てて国土を作った.オランダの領有権をめぐってスペインとフランスの絶対王政が戦った.オランダ国王がイギリスを征服して国王になった.イギリスに先立って,近代的な中央銀行や、株式会社としての東インド会社を設立した.チューリップの球根が投機的な金融危機を引き起こした.北海油田によって富を得たゆえに,「石油の呪い」もしくは「オランダ病」で脱工業化を経験した.初代ノーベル経済学賞をヤン・ティンバーゲンが受賞した。労働者の組織化や団体交渉による富のより公平な分配を実現し,フルタイムとパートタイムの差別的扱いをなくし,雇用の弾力化,労働力の移動を促した.売買春やドラッグを合法化し,安楽死も合法化した.同性婚や性転換についても先進的な国.英語とドイツ語が混じったようなオランダ語を話す.そして,私は初めてオランダに行ったとき,小さなケーキ屋さんでも3か国語以上を話し,飛び切り美味しいケーキを売っていることに驚きました.
オランダは変化の起点,「台風の目」であり,オランダがウィルダースの影響を受けて大きく転換することは,ヨーロッパの政治・経済秩序が変わる予兆である,と考えられています.『グローバリゼーションを生きる』で、私はグローバル社会の1つの未来、多文化主義の理想を表しました。しかし、イギリス、オランダ、ヨーロッパは、それを拒みつつあります。
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アジアでも国際的な労働力移動の時代が始まるでしょう。The Economistは書いています。「アジアには世界人口の半分以上が住む。しかし国際移出民に占める割合は34%でしかなく、国際移入民に占める割合はたったの17%である。」
急速に豊かになる地域(特に、シンガポール、香港、台湾、韓国)もあれば、貧しく、仕事のない若者たちがますます増大する地域(フィリピンなど、東南アジア)もあるのです。これらの地域が労働力移動によって結びつけば、互いに多くの問題を解決し、事態を改善できます。
ヨーロッパとは違い、アジアの受入れ諸国は移民の管理を強め、定住化を回避するとともに自国の労働需要に合わせるため法律や制度を強化しました(職場や賃金の規制:帰国を促すために、予め帰国費用を支払わせ、賃金の一部を集めて、帰国してから受け取る:移民労働者の雇用に対して雇用主は税金を支払う)。日本は、そもそも移民を受け入れるより、企業が海外に工場を移転しました。中国も、移民労働者の獲得競争に参加します。
もし成功すれば、高齢化する社会は3つの利益を受ける、とThe
Economistは指摘します。移民は労働供給を増やし、女性の労働市場参加を促す安価な家事労働を提供し、出産や養育のコストを下げて子供、すなわち、未来の労働者を増やす。
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政治の主要な争点(成長、雇用、分配、社会的な機会、公共財)が、次第に、移民や安全保障に関心を奪われ、政党の分割や連立政権の条件も決まるようになっています。エスニック政治や、極右の宣伝カーによって、選挙や議会の論争が支配される結果、重要な改革は無視されます。あるいは、まったく違う論争で勝利した後、その勢力が強い権力を得て、社会を変える介入を強めます。
分断ではなく、地域の統合化を目指す、厚い・深い政治的コミュニティーを築くために、重要な政策領域の知識・情報・論争を組織することが、現代の政治国家の新しい役割だと思います。
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